キョン「かまいたちの夜?」 part1
キョン「かまいたちの夜?」 part2
キョン「かまいたちの夜?」 part3
266 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 16:54:26.25 ID:sDHzCwEM0
「もうこんな真似はしないと誓う。本当に迷惑をかけた」
俺は再度皆に向かって頭を下げる。
それで、ようやく皆は俺が冷静になったと認めてくれたようだった。
ただ、俺は一度も朝倉の方を見ようとはしなかった。
本来もっとも謝罪すべき対象であるはずの朝倉に頭を下げることを、俺は拒絶した。
確信があったからだ。
ペンションで起こった出来事が現実世界にフィードバックするこのくそったれなシステム。
その管理者は間違いなく朝倉涼子、お前なんだ。
長門はこの世界に介入し、同時に最初から『長門有希』という高校生がいたのだと全員の認識を改竄した。
そしてこの世界から長門を退場させた『何者か』は、喜緑さんや国木田の時とは異なり、『長門有希』という存在そのものを消去した。
それは言わば『世界そのものの改竄』にほかならない。
そんな真似が出来る『何者か』なんて、このメンツの中ではお前しかいないんだ。
見ていろ、くそったれ。
お前が何の目的でこんなシステムを立ち上げたのかは知らないが、俺がお前の目論見を台無しにしてやる。
長門の――いや、長門だけじゃない。喜緑さんと、そして国木田の仇は、俺が必ずとって――――
―――待てよ?
そこで俺は、奇妙な引っかかりのようなものを感じた。
なにか、なにかおかしくないか?
何だこの―――違和感は。
何かがおかしい。この事件には、どうしようもない矛盾が存在している。
おかしいのは……一体何だ?
1.国木田の死
2.喜緑の死
3.長門の死
268 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 17:00:11.22 ID:n1SNaOT20
1じゃね?
269 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:00:57.72 ID:sDHzCwEM0
おかしいのは、国木田の死だ。
―――そうか。
違和感の正体にはっきり気付いた時、俺にはこの殺人事件の真相が全てわかった。
だが、これはとても推理なんて呼べたシロモノじゃない。
これは長門によって元の世界と繋げられた俺だからわかったこと。
全ての登場人物が俺の知り合いだったということが推理の土台になってるっていうんだから、これはとんでもない裏技だ。
恐らく、本来の「かまいたちの夜」の主人公(確か透君だったか)はきちんとしたロジックの積み重ねの末にこの結論に至るのだろう。
それを思うと若干後ろめたい気持ちにならなくもないが……いや、ならないか。
この世界から脱出するのに、手段なんて選んでいる余裕はない。
「どうしたの?」
ハルヒが俺の顔を覗き込んでくる。
「いや……」
俺はハルヒに曖昧な笑みを返した。
「何よ。何かあったならはっきり言いなさいよ」
ハルヒの顔がにわかに曇る。
さっきの俺の暴走を思い出しているんだろう。
271 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:05:17.37 ID:sDHzCwEM0
「大丈夫だ。俺は平静だよ」
俺は努めて声を押さえ、言った。
「そう? でも、そうは見えないわ」
「まあ、正直に言えば少し戸惑ってはいる」
「戸惑う? どうして?」
「……わかったんだよ。全ての事件の真相が」
ぎょっ、と全員の目が再び俺に集中した。
そんな中で、ハルヒが疑わしげに口を開く。
「ほんとに? じゃあ、田中さんを殺した犯人もわかったっていうの?」
「田中さん……田中さん、ね」
俺はハルヒの問いには答えず、皆の顔をぐるりと見回した。
犯人である可能性がある人物は……ただ一人。
俺は言った。
1.「犯人は俺だ」
2.「犯人は……お前だよ、ハルヒ」
3.「犯人は当然俺でもなければハルヒでもなく……」
272 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:07:54.82 ID:sDHzCwEM0
「……お前が、犯人だったんだな」
俺にそう言われたソイツは、しばらく自分のことを言われているとは思わなかったようだった。
「……もしや、僕のことを言っているのですか?」
たっぷり3秒ほどの沈黙の後にソイツは――――
古泉一樹は、ようやく口を開いた。
274 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:12:59.07 ID:sDHzCwEM0
「ああ、そうだ。一連の事件の犯人はお前だよ、古泉」
俺はもう一度、はっきりと宣言する。
「冗談で言っているわけではないようですね」
「俺は全く持って真剣さ。加えて言っておくが頭は全くの正常だぜ」
「正常というわりにはあまりにひどい物言いじゃありませんか? 僕は被害者なんですよ?」
「ああ、頭の怪我のことか。そりゃ自分でやったんだろ?」
「これはこれは。随分と身も蓋もないことを言いますね」
「そう考えるのが一番自然なんだよ。死体をバラバラにするほどの手間をかける犯人だぜ?
自分が疑われるかもしれない状況で、中途半端に殴るような真似をすると思うか?
まあ、お前が必死で抵抗したって言うんならまだわかるが、お前は犯人を見ていない。つまり不意打ちされたって言ってたよな」
はっきり言ってしまえば古泉が生きていることそれ自体が理に合わないのだ。
犯人は、喜緑さんを悲鳴ひとつ上げさせずに殴り殺すほどの力を持っているというのに。
古泉は笑みを浮かべた。
「それだけはっきりと断言する以上、明確な根拠があると思っていいのでしょうか?」
「もちろんだ」
俺は頷いた。
275 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:19:21.09 ID:sDHzCwEM0
「ならば聞かせていただきましょう。ペンションに到着して以降、ずっとあなた達と行動を共にしていた僕がどうやって田中さんという人を殺害したのか。
僕はいかにしてそんな不可能犯罪を成し遂げたというのか。実に興味深いですね。ああ、先に言っておきますが」
古泉は笑みを浮かべたまま、俺を見据えて言った。
「僕に離れた人間を殺せるようなトンデモ超能力なんて備わってはいませんよ」
ああ、もちろんそんなことは言わないさ。さあ、解決編を始めよう。
「順序良くいこうか。まずは俺たちの知らない第三者が犯人だという線を消しておこう。
二階のバラバラ死体が発見された後、俺たちはペンションの中を隅から隅までチェックして、犯人が侵入していないことを確認している。
にもかかわらず、喜緑さんは二階で殺されてしまった。つまり犯人は何かしらの方法でこのペンションの中に再び舞い戻ったということになる。
もし犯人が俺たちの知らない第三者だとしたら、そいつはどうやってまたこのペンションへ入ってきたんだろうか?」
「そんなもの、二階の割れた窓からに決まってるだろう」
そう答える生徒会長の顔は、何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりだ。
「その通りですよ会長。しかし見てください。ご存知の通り、俺はついさっき田中さんの部屋に入ってきた。
わかります? 足が濡れてるんですよ。窓際は随分雪が積もっていましたからね。
水滴が床に染みを作ってしまっているのがわかるでしょう? この染みは、暖房が特に効いたこの談話室でも未だ乾いてはいない。
少し部屋に入っただけの俺でさえこうなんだ。外から舞い戻った犯人が廊下に出れば、もっと分かりやすい足跡が残ったろう。誰か、喜緑さんが殺された前後で、こんな染みを二階で見かけた人がいますか?」
少し間をおいて返事を待つが、誰も何も答えようとはしない。
「つまり、犯人が二階の窓から出入りしているなんてことはありえない。第三者の出入り口が二階の窓に限られる以上、これで犯人が俺たち以外の誰かだという線は消える」
「ちょっと待てよ。じゃああのガラスが割れた音はなんだったんだ? 犯人はあの時に中に入ってきたんじゃねえのかよ」
谷口が疑問を口にする。
276 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:24:55.48 ID:sDHzCwEM0
「そう思わせることがまさしく犯人の狙いだったわけだ。その目論見は、喜緑さんを殺してしまったことでこうしてご破算になっちまったがな。
まあしかし、そもそも考えてみれば、あの時に犯人が侵入してきたっていうのも考えづらいことなんだ。
ガラスの割れる音が聞こえてから、俺たちが田中さんの部屋に入るまで15分程度しかかかっていない。
そんな短時間で田中さんを殺し、バラバラにすることなんて出来っこないだろう?」
「そういえば、そんな話もしたな」
谷口の言葉に俺は頷く。
「犯人は中に入るためにガラスを割ったんじゃない。かといって外に出る時にガラスを割る必要はないだろう? だから、ガラスは犯人が意図的に割ったとしか思えないんだ。
それがつまり、俺たちに『あの時犯人はペンションに入ってきたんだ』と思い込ませることで、実際の犯行時刻を誤認させてアリバイを作るためだったわけだ」
言いながら、俺は古泉の様子を確認する。
古泉はやれやれ、と肩をすくめた。
「話がちっとも前に進みませんね。実際の犯行時刻がいつだろうが、僕には関係ありません。
15分程度では人を殺し、あまつさえバラバラにすることなどできない。あなた自身が今言ったことです。
僕がペンションに到着してから、荷物を置きに二階に上がったのはほんの数分のことですよ?
それに、音が聞こえたときに談話室にいた僕が、どうやって二階のガラスを割ることが出来たというんです?」
「そうだな。どう考えても、お前に田中さんは殺せないよ」
俺はあっさりと古泉の言葉を肯定した。
「おいおい」
会長が鼻白む。俺はそれを無視して続けた。
「俺は死体を発見したときと、さっき部屋を調べに行ったときと二回田中さんの部屋に入っている。
窓ガラスが割れていることと、窓際に死体があること以外、俺たちの部屋とそう変わらない部屋だ。でも、それっておかしくないか?」
277 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:29:46.69 ID:sDHzCwEM0
「何がよ?」
ハルヒが首を傾げた。
「血の跡が無さ過ぎるんだよ。人一人バラバラにしてるんだぜ? 綺麗に拭い去ろうったって床にはカーペットが敷き詰めてあるんだ。
いくら犯人が染み抜きの達人だっていっても、もっとわかりやすい跡が残るはずだろうさ」
「それは……確かにそうね」
「だから俺は、犯人はバスルームで死体を切断して窓際に運んだのだと思っていた。
だが、バスルームは血液どころか水滴さえついていなかった。犯人はバスルームで切断したんじゃなかったんだ」
「なら……一体どこでやったというんだい?」
鶴屋さんが顎に手を当て、ふうむとうなりながら聞いてきた。
あんな醜態を晒した俺の言葉を皆がどれだけ真剣に聞いてくれるかが気がかりだったが、どうやらそれは杞憂ですんだらしい。
「わかったわ!」
ハルヒが声を上げた。
「外で殺したのね? 外で殺して切断した後、窓の外から死体を放り込んだのよ!」
「……いや、割れたガラスはほとんど中に落ちていなかったから、それはないだろう」
俺は少し考えてから、その可能性を否定した。
「バスルームでもなければ外でもない。じゃあ犯人はどこで死体をバラバラに出来たというんだ」
会長がいらいらしたように言う。
278 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:34:35.71 ID:sDHzCwEM0
「出来なかった、と言ってるんです」
「なに…?」
俺の言葉に会長を始め、皆ぽかんと口を開けた。
まさに鳩が豆鉄砲を食らったような、という顔だった。
「バスルームじゃない。部屋の中でも外でもない。つまり、田中さんをバラバラに出来た場所など存在しない。
その事実は、俺たちの中の誰も田中さんを殺してないし、死体をバラバラにもできなかったということを意味している」
しばらく沈黙が続いた。
やがて谷口がはん、と鼻を鳴らす。
「おいおい……まさかキョン。お前結局『かまいたち』みたいなのが田中さんを殺したんだとか言い出すんじゃないだろうな」
「もちろん違う。俺が言いたいのは、田中という人物は殺されもしなかったしバラバラにもされなかったということさ」
そこまで言って、俺は再び古泉に目を向ける。
「なあ、そうだろう? ―――――『田中さん』よ」
279 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:39:38.47 ID:sDHzCwEM0
全員が絶句して古泉を見る。
「どうやら……本当に真実にたどり着いているようですね」
「あまり褒められたやり方じゃなかったがな」
古泉はふっ、とその顔に笑みを浮かべた。
そんな古泉に、俺も笑みを返してみせる。
「こいつが田中だと…? なら、上で死んでいるのは誰なんだ」
会長が口にする当然の疑問。
『上で死んでるのは俺のクラスメイトの国木田というんですよ』なんて答えるわけにはもちろんいかない。
それはこの世界の俺には知りえるはずのないことなのだから。
――――田中さんの身長、どれくらいでした?
――――結構高かったように思います。175cm以上はあったでしょう。
反則過ぎるよな。
バラバラになった被害者のことをよく知っていた、なんて。
ありえないんだよ。
国木田が『田中さん』だ、なんてことは。
国木田の身長は、170cmにやっと届くくらいの俺や谷口よりさらに低いんだぜ?
280 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 17:43:58.17 ID:sDHzCwEM0
国木田が『田中さん』なんてことはありえない。
ならば『田中さん』は誰なのか。
消去法。
古泉以外の人間は『田中さん』がいた時からこのペンションにいた。
しかし古泉が来てから『田中さん』は一度も確認されていない。
身長も―――合致する。
論理(ロジック)の積み重ねで答えに至るのではなく、答えありきで論理(ロジック)を積み重ねる。
は。
まったく、邪道極まりないぜ。
「誰かは知りませんが、田中さんでないことは確かです」
俺は会長にぬけぬけとそう答える。
「あの死体は田中さん、つまり古泉が殺してバラバラにしたんですよ。思えば、死体のそばにサングラスが落ちていたことなんて、いかにもわざとらしい」
「田中だと思わせるためにわざと置いたってことか」
谷口がなるほどというように頷く。
「でも、その殺された人は一体いつペンションの中に入ってきたのよ。誰も侵入しなかったってさっき言ったばかりじゃない」
ハルヒが重要な点をついた。
281 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 17:57:19.88 ID:55nr9R0zP
つ④
282 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:01:03.17 ID:sDHzCwEM0
「もちろん、正面玄関からさ。きちんと戸締りがされていた以上、そこしかない」
そう答えた俺に、新川さんは首を横に振る。
「それはありえません。正面玄関から入れば絶対に誰かに、少なくとも私たち従業員の誰かにわかるようになっています」
「誰かと一緒に入れば別でしょう? バラバラにされた国……彼は、『田中』に扮していた古泉と一緒に入ってきたんです」
「いえ、田中さんが来たとき、彼は間違いなく一人でしたよ」
新川さんは断言する。俺は言った。
「スキーバッグの中は調べましたか? ……被害者はそこにいたんですよ。既に殺され、バラバラにされた姿でね」
ごくり、と誰かが息を呑む音が聞こえた。
「そう。『田中』のバッグが空になっていたのは盗まれたからじゃない。そこに入っていたのはもう既にバラバラになったあの死体だったんだ。そもそも死体をバラバラにしたのは、運びやすくするためだったのさ」
「窓は? 窓が割れた音がしたとき、古泉君は私たちと一緒に談話室にいたわ。彼は一体どうやって二階の窓を割ることが出来たの?」
ハルヒが最後の謎に触れた。
「それに答える前に、少し古泉の行動を整理しておこう。『田中』に扮していた古泉は、夕食後、自分の部屋に戻ってから死体を窓際に置き、ある仕掛けをした後窓から外へ飛び降りた。
そして、離れたところ隠しておいた車に乗って少し走り、駅にいると偽ってどこかの公衆電話から電話をかけた」
「ある仕掛け?」
「それが、さっきの疑問の答え……窓ガラスが自動的に割れるような仕掛けさ」
286 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:07:28.98 ID:sDHzCwEM0
「そんなこと……出来るの?」
顎に指を当て、首を傾げるハルヒ。
「あるものを使えばわりと簡単に出来ると思う」
「あるものって?」
「古泉は雪を使ったのさ」
どさり、と屋根から雪が滑り落ちる音を思い出しながら俺は言う。
「雪? 雪をどうやって使うのよ」
「正確にはわからんが、おそらくこういうことだったんじゃないかと思う。
『シュプール』の客室の窓は外開きするタイプの物だ。犯人はその窓の片側から出るとする。
そして、もう片側は風で煽られても動かない程度に固定しておく。それからその取っ手に1mか2mくらいのロープを軽く引っ掛ける。
そのロープの、取っ手に引っ掛けた方の反対側には何か平べったい板のような物……バッグの底板のようなものをつないでおくんだ」
「窓と板をロープでつなぐわけ? それをどうするの?」
「外へ飛び降りる前に、その板は屋根に積もった雪の中に突っ込んでおくのさ。
そうすれば、ある程度時間が経った段階で雪は滑り落ち、当然一緒に板も落ちる。
窓は勢いよく引っ張られ、外壁に叩きつけられて……ガシャン、というわけだ。
板とロープは窓から外れて雪の下に埋もれてしまう。
その時間を古泉は12時頃と予想していたんだろうな。だから脅迫状にはあんな風に書いていた。
結果的に時間はズレてしまったが、アリバイを作るのには間に合ったんでそれは大した問題にはならなかった。
外で襲われたふりをしてみせたのは、あの部屋の下あたりをあまり調べてほしくなかったんでやむをえずやったってところだろう。
ガラスが割れたときにアリバイが無かった会長を犯人に仕立て上げるつもりもあったかもしれないが」
289 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:14:32.78 ID:sDHzCwEM0
古泉はしばらくじっと俺を見据えていたが、やがて降参したように両手を上げた。
「参りました。概ねあなたの言うとおりですよ」
遂に古泉は自らの犯行を認めた。
「ひっ」と声を漏らす朝比奈さんをはじめ、全員がソファに座る古泉から距離を取った。
「確かに僕は最初、田中を名乗ってチェックインしました。それから死体をあの場所に置き、古泉一樹として再びこのペンションに舞い戻った」
「どうしてそんな回りくどい真似をする必要があったの?」
眉をひそめるハルヒに対し、古泉はくすくすと笑った。
「もちろん、その問いに僕から答えてあげても良いのですが……もしかすると、あなたの白馬の王子様はそこまで見抜いてらっしゃるかもしれませんよ?」
ハルヒが驚いて俺を見る。
いくらなんでもそこまでは……。きっとここにいる全員がそう思っていることだろう。
俺はふん、と鼻をならした。
「ニュースに出ていた銀行強盗。あの犯人がお前なんだろ?」
「ご名答です。いやはや、半分冗談だったのですが、まさか本当に把握してらっしゃったとは」
「当たりかよ。半分冗談だったんだけどな」
もちろん半分は本気だった。
あの時テレビを見たいと言い出したのは他の誰でもない、長門有希だ。
あいつが無意味なことを俺にやらせるはずがない。
あいつの行動には、一挙手一投足に意味がある。
290 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:20:27.60 ID:sDHzCwEM0
「上でバラバラになっているのは仕事の相方で、国木田さんと言いましてね。事件の時目撃されていたのは彼なんですよ。
僕が計画を練る役で、彼が実行役ですね。ご存知の通り仕事は上手くいったのですが、分け前のことで彼と揉めてしまいまして。
それで、まあ、その、殺してしまったわけなんですが、死体をどう処理したものかと頭を悩ませましてね。
ここはひとつ、隠すのをやめてしまおうと、今回の殺人事件騒動を演じることを思いつきまして」
警察はバラバラになった銀行強盗犯を見て、仲間割れをして殺されたのだと判断するだろう。
その仲間はまだ近くにいるはずだということで、警察は躍起になって捜査を進めるに違いない。
ここら一帯の山狩りまでやるなんてことも十分考えられる。
だが、警察は果たしてペンションに泊まっていた俺たちにまでその疑いを向けるだろうか?
喜緑さんの死さえ無ければ、皆口を揃えて古泉のアリバイを証言していたはずだ。
あえて死体を隠さないことで、その死体を処理してしまう。
そのために古泉はこんな大掛かりな真似をしでかした。
それが、この殺人劇のシナリオ。
「だが、お前のそんな目論見は喜緑さんを殺してしまったことで台無しになってしまった。喜緑さんを殺したのは彼女に正体を見抜かれてしまったからか?」
「まさしくその通りです。廊下で会った時にはっきりと『あなたが田中さんですね』と言われてしまいまして。
反射的にガツン、とやってしまいました。全く、こんな辺境のペンションに名探偵が二人もいるなんて反則ですよ」
古泉は「やってられません」とでも言うように肩をすくめた。
「何をぬけぬけと余裕綽々にくっちゃべっている。貴様、自分が無事で済むとでも思っているのか?」
生徒会長が鋭い目で古泉を睨む。
睨むだけで人を殺せそうな目つきだった。
いつ古泉に飛び掛っていってもおかしくない。
俄かにその場の雰囲気が緊張していく。
291 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:26:02.97 ID:sDHzCwEM0
「正直ね、決めかねているんですよ」
古泉はふう、と息をつくと背中の方に手を回した。
「これからどう振舞ったらいいものか」
前に戻したその手には、オートマチック式の拳銃が握られていた。
「なっ…!?」
ドン! と耳をつんざくような破裂音。
会長の足元に焼け焦げた穴が空いていた。
ぶわ、と背中に汗が噴き出るのを感じる。
拳銃。
トリックの入る余地など無い、ミステリーにあるまじき、身も蓋も無い殺人道具。
お前、ちょっとそれは、反則過ぎやしないか?
「こういうものが僕の手にある以上、いくらでもこの状況から逆転することは可能なんですよね」
言いながら、古泉は俺たちの間で銃口をふらふらと動かしている。
「どうしましょうかねえ? 全員を身動きが取れないように縛り上げてしまうのが理想的なんですが」
誰も動くことが出来ない。
古泉がかちゃかちゃと拳銃を手の上で弄び始めた。
「もう一人くらい見せしめに死んでいただいた方が物事はスムーズに進むのでしょうか」
292 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:31:21.25 ID:sDHzCwEM0
あっさりと、何でもないことのように、背筋が凍りつくようなことを口にする古泉。
くそ。どうする?
どうすれば、この状況を打破できる?
周りを見回し、俺がめまぐるしく頭を回転させていると―――
「なんてね」
どさり、と音をたて、古泉の手のひらに弾倉が落ちた。
「……え?」
虚をつかれた皆が固まる中で、弾倉が抜け、空になった拳銃を、古泉は俺に放り投げてきた。
「お、わ…!」
おっかなびっくり俺はそれをキャッチする。
その鉄の塊はずっしりと重かった。
「そんな醜い悪あがきはしませんよ」
古泉は取り出した弾丸を、まるでオセロの駒を扱うようにいじりながら微笑んだ。
「潔いのだけが取り柄でして」
両手を上げて降参のポーズをとる古泉。
それから古泉はまるで抵抗する素振りを見せなかった。
その不気味な態度に、俺たちは皆唖然としてしばらく動けずにいた。
その時、ふと、俺はオートマチック拳銃についてのおぼろげな知識を思い出していた。
294 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:36:26.74 ID:sDHzCwEM0
古泉はさっき会長の足元に向けて一発撃った。
つまり弾倉からはまた新たな弾が『本体』の中に送り込まれているはずなのだ。
その弾は、撃つか、遊底と呼ばれる部分をスライドさせない限り『本体』の中に残ったままだ。
つまり―――!
「ええ。お察しの通り、その銃にはもう一発弾丸が残っています」
声に、顔を上げる。
古泉が、人差し指で己の額の真ん中をトントンと叩いていた。
さっきまでとはうって変わって、その目は真剣そのもので。
撃て――と。
罪を裁け――と。
まるで、俺にそう語りかけているかのようだった。
「ばーか」
そう口にしながら、俺は銃を構える。
違うだろ、古泉。
お前はあくまで『犯人役』であって犯人じゃあない。
犯人と呼ばれるべき黒幕は他にいる。
「なあ――そうだろう?」
俺は引き金に指をかける。
俺が銃口を向けた先にいた人物はもちろん―――
「犯人は罪を自白した。物語はもう転回しない。……結びの時間だぜ、朝倉涼子」
295 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:41:01.51 ID:sDHzCwEM0
ざわ…! と俄かに場の雰囲気が一変する。
俺に銃口を向けられた朝倉は、微動だにせずじっと俺を見据えている。
「キョン、あんたまた……!」
ハルヒが泣きそうな顔で俺を見ている。
その後ろで、鶴屋さんも動き出そうとしていた。
「全員動くなぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
腹の底から声を振り絞る。
「俺を変に刺激してくれるなよ! かっこつけて構えちゃいるが、正直足はガクガクで、指先はプルプルだ! 何がきっかけで暴発しちまうかわからんぜ!」
俺に駆け寄ろうとしていたハルヒも、おそらくは俺の背後に回ろうとしていた鶴屋さんも、びくりとその動きを止めた。
そして、悲しみと怯えと哀れみがない交ぜになったような目を俺に向ける。
まるで、狂ってしまった人間を見るような。
二人だけじゃない、皆がそんな目で俺を見ている。
くそ、何度経験しても慣れないな。正直堪えるぜ。
だが、耐えろ。いいじゃないか。
皆がこれで助かるのなら―――主人公発狂END、大いに結構だ!
296 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:44:12.54 ID:sDHzCwEM0
「5秒だけ待ってやる。ことここに及んで余計な問答をするつもりはない。俺たちをさっさと解放しろ!」
朝倉は何も答えない。
ただじっと俺を見つめている。
どうせ撃てやしないとたかをくくっているのか?
―――舐めやがって!
お前は国木田を、喜緑さんを、長門を死に追いやった。
容赦など、一切するつもりはない!
「5、4、3、2、1―――――!」
誰かが俺の名を叫んだ。
誰かが俺の体に手を伸ばした。
カウント、ゼロ。
俺は引き金にかけた指先に力を込め―――瞬間、白い閃光が俺の視界を覆った。
297 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 18:49:43.34 ID:sDHzCwEM0
ツクツクボーシ――……… ツクツクボーシ――………
みんみんとやかましかったアブラゼミの大合唱も鳴りを潜め、ツクツクボウシの声が目立つようになった。
いつの間にか、夏も終わりか。
しかし太陽は一向にその威力を衰えさせる気配を見せず、今年は残暑の厳しい秋になることを予感させた。
……そんな陽射しの中、こんなハイキングコースとしか思えないような通学路をエッチラオッチラ登らなきゃならんとは、もはや修行を通り越して苦行ですらある。
「あっづう……」
あとからあとから噴き出す汗を、首にかけたタオルで拭う。
くそ、着替えを持ってくるべきだった。
黒塗りのタクシーが俺の横をスウ――と通り抜ける。
運転席から新川さんが、助手席から森さんが軽く会釈してきた。
森さんの花のような笑顔に涼やかな気持ちになったのもつかの間、後部座席まで目を通してその気持ちは180度反転した。
「くそ…ずりいぞ……。後でオセロでコテンパンにしてやっからな」
道理であの野郎は朝から汗ひとつかかない爽やかイケメンを気取ってられるはずだぜ、ちくしょうめ。
298 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 18:52:36.56 ID:khXaVdc/O
おもしろい
299 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:00:24.37 ID:sDHzCwEM0
教室に入ると谷口と阪中が何やら顔を合わせて話していた。
「よっす」
「うぃ~す。今日もだるそうな顔してるなキョン」
「おはようなのね、キョン君」
何の変哲も無い挨拶を交わしてから、俺は自分の席につく。
盗み聞きするつもりなど毛頭なかったが、二人の会話が自然と耳に入ってきた。
話の内容は進路のことだったり、教師への愚痴だったり、この時期の高校生としては実に一般的なものだった。
ふ~ん、それにしても……
こいつらって、こうして二人で話したりすることあるんだな。
しかも結構気が合ってるみたいで、正直意外だ。
「なあお前ら、付き合ってみたらどうだ?」
阪中と谷口は同時にこちらをぐりんと振り向き、
「バ、バカ言「 冗 談 じ ゃ な い の ね ! ! ! !」
阪中、顔真っ赤で大否定。びっくりした。
阪中さんけっこう大声出せる人だったんですね。
あと、谷口。
なんかゴメン。
300 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:03:36.96 ID:sDHzCwEM0
「やっほーキョン君!」
三年生の校舎に足を伸ばしたら、廊下で鶴屋さんに会った。
思わずびくりと身構えてしまう俺。
俺の不審な態度に首を傾げる鶴屋さん。
「どしたんだい?」
「いえ、迂闊に近づけば右腕を極められてしまう気がして」
鶴屋さんはにはは、と屈託なく笑う。
「鶴屋流護身術は敵にしか使わないよ!」
「敵ですか」
「そう、敵! エネミー! もちろんキョン君は味方だよ! ラヴァー!」
「ラヴァーは違います」
味方は英語でなんて言うんだろう? フレンド?
「にゃはは! ならそれでいいにょろ! そんじゃ、またねキョン君!」
俺の背中をバンバン叩いて鶴屋さんは去っていく。
途中、ふと何かに気付いたように足を止め、こちらを振り返った。
302 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:05:46.33 ID:sDHzCwEM0
「ん? 私キョン君の前で護身術使ったことあったっけ?」
「ええ、俺の夢の中で二回ほど」
夢ってか、本当は二回とも異世界なんだけど。
「にょろ?」
当然、意味が通じるわけもなく、鶴屋さんはしばらく首を傾げていたが、
「まいっか!」
最後にはいつものように快活に笑って、今度こそ足音高く歩き去っていった。
303 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:09:28.61 ID:sDHzCwEM0
生徒会室の前を横切る。
キィ、とドアの開く音が聞こえた。
足を止めて振り返る。
「ん? お前は……」
相も変わらずの仏頂面を引っさげて、生徒会長が姿を現し、
「お久しぶりです」
その隣りで、喜緑さんが微笑んでいた。
「あんまり久しぶりって感じはしないんですがね、俺としては」
「あら、奇遇ですね。実は私もそうなんです」
「お元気ですか?」
「ええ、とっても」
「それはよかった」
本当に―――よかった。
305 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:13:34.16 ID:sDHzCwEM0
「貴様、何をこんな所でウロチョロしている。貴様の学年は現在夏課外の真っ最中のはずだろう」
会長が、いかにも生徒会長らしいことを言ってくる。
おかしいな。この人は元々嫌々生徒会長をやっていたのだと思っていたが、中々どうして板についている。
環境は人を変えるとよく言うが、あれは案外マジなのかもしれない。
「まったくお気楽でうらやましいことだ。こっちは貴様等のトコの馬鹿女のためにいらぬ気苦労を背負っているというのに。
あの女の手綱を握るべき肝心の貴様がそんなことではたまったものではないぞ」
「すいません」
白々しく頭を下げる俺。
「会長も喜緑さんの手綱をしっかり握っておくことをオススメします。意外とあの人、あっさりとどこかに消えてしまうかもしれませんよ?」
「なっ!?」
「失ってからじゃ、遅いんです」
顔を紅潮させて口をパクパクさせる会長。
少し離れた所で喜緑さんがきょとんとこちらを振り返っている。
「き、貴様……!」
「深い意味はないですよ。それじゃ」
会長の怒りが爆発する前にさっさと退散することにしよう。
他人の恋路を邪魔する奴は云々というのはよく聞く話だし。
俺は馬に蹴られて死ぬ気は無いんでな。
306 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:17:55.40 ID:sDHzCwEM0
バチン、と暑さを振り払うかのように盤面に駒を叩きつける。
8×8のマスで構成される盤上は、既に俺の黒が圧倒的な勢力を築き上げていた。
「今日は何だかいつにも増して容赦がなくないですか?」
若干引きつった笑顔を浮かべる古泉。いやいやそんなことはないぞとそ知らぬ顔でゲームを続ける俺。
勝負は俺が4つの角を独占し、盤面の半分以上が隙間なく俺の黒になった所で古泉が駒を投げ出して終わった。
「おつかれさまでしたぁ」
朝比奈さんがメイド姿で熱いお茶を差し出してくれる。
ズズズ…とすすって…うん、うまい。
「私、変な夢を見たのよね」
パソコンを覗き込んでいたハルヒが突然そんなことを言い出した。
「ほう、どんな夢だ」
「よくは覚えていないんだけど、何だか金田一少年だとか、名探偵コナンの世界に迷い込んじゃったような気分だったわ」
「もう一度見たいか?」
探るような俺の問いに、ハルヒは苦虫を噛み潰したような顔をして、
「冗談じゃないわ。二度とごめんよ」
と、吐き捨てた。
「知り合いが死ぬのなんか……一度で十分」
307 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 19:19:59.02 ID:IV/MA7xZO
国木田はしんだまま?
308 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:21:38.89 ID:sDHzCwEM0
パタン、と本を閉じる音がする。
いつものように窓辺で本を読んでいた長門が出した、活動終了の合図だった。
「あら、もうそんな時間?」
皆がいそいそと帰り支度を始める中で、じっとイスに座ったままの長門。
長門有希。
俺は長門の顔をマジマジと観察する。
傷ひとつない、綺麗な顔だ。
思わず右手を伸ばし、その左ほほをそっと撫でる。
まるで透き通るように美しいその肌は、すべすべと心地よい感触をしていた。
「あ、あ、あんた、なな、なにしてんのよ」
「これはこれは」
「はわわ~~」
声に振り返ると、ハルヒは顔を引きつらせていて、古泉は肩をすくめていて、朝比奈さんは顔を真っ赤にしていた。
何だ? 変な奴等だな。
俺は首をかしげて前を向き直る。
目の前に長門の顔。その距離わずかに5ミリ。
「ち、近ッ! 長門ちっか!!」
我に返った。あぶねえ。俺はいつの間にかこんなに長門に近づいていたのか。
310 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:25:16.63 ID:sDHzCwEM0
「有希から離れなさいこのエロガッパ!」
慌てて飛びのいた俺の背中にハルヒのドロップキックが炸裂した。
こ、この大馬鹿野郎が。
当然長門に覆いかぶさるように吹っ飛ぶ俺。いかん。このままでは長門を巻き込んで転倒してしまう。
俺は必死で体を動かし、長門が怪我をせぬよう最善を尽くす。どしーん、と受身も取れず盛大に転倒した。
自分の体をクッションにした結果、胸の上辺りに長門の頭が来る格好になる。
その体勢は俺が長門を下から優しく抱きしめているように見えなくもない。ここがキングサイズのダブルベッドであったならば、さぞやムーディスティックな体勢であることだろう。
「あああんたたたたななななにしてててて」
「これはこれはこれはこれは」
「ひゃわわわわわわわわわわ」
やかましい外野は放っておいて、俺は俺の胸あたりに頭を預ける格好になっている長門に目を落とす。
目が合った。
「ありがとな」
小さな声で、呟くように俺は礼を言う。
「かまわない」
それはいつも通りの、無感情で平坦な声だった。
「かまうわよぉーーーーーーーー!!!!」
長門の言葉をどう解釈したのか、ハルヒが絶叫した。
311 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:28:12.20 ID:sDHzCwEM0
「なによ、帰んないの?」
揃って正面玄関へ向かう途中、廊下を折れ、方向を変えた俺にハルヒは怪訝な顔をする。
「ちょっと野暮用でな」
向かう先は二年校舎、というか俺の教室だ。
俺のズボンのポケットの中では、一枚のメモ用紙がくしゃくしゃになっている。
それは、朝、俺の下駄箱に入っていた物で、どこかで見たような字で、
『放課後、あなたの教室で』
と、書かれていた。
教室のドアを開ける。
夕日で赤く染まった教室の中で、いつかのようにソイツは佇んでいた。
「何しに来たんだ?」
「もちろん、今回の件のネタばらしに」
そう言って、朝倉涼子は笑った。
312 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 19:32:07.23 ID:sDHzCwEM0
「ネタばらしも何も、どうせ例のごとくハルヒを観察するためなんだろうが」
「あのね、誤解してほしくないんだけど」
疲れたように言う俺に、朝倉は困ったような顔を見せた。
「キョン君は私のことを黒幕だとか、諸悪の根源みたいに言っていたけど、今回の件は別に私が仕組んだってわけじゃないのよね」
「じゃあ誰が仕組んだっていうんだよ」
「誰がって言われると返答に困っちゃうな。ほら、情報統合思念体ってそういう風に個人に特定できる存在じゃないからさ」
つまり私はただの使いっ走りに過ぎないのよね、と嘆息する朝倉。
「私は涼宮ハルヒを観察するためのゲームプログラム、『かまいたちの夜』を正常に運行するための管理人に過ぎない。
イレギュラーを排除するためにのみある程度の情報操作が認められていただけで、それ以外は普通のOLとしてあの場に存在していた。
だから最後、キョン君が私に銃を向けたときは本当に焦ったのよ。銃弾を止める力なんて、あの時の私には無かったんだから」
「でも、それで俺たちはあの世界から脱出することが出来たじゃないか」
「違うのよ。あの時キョン君が何も行動を起こさなかったとしても、ゲームから脱出は出来ていたの。
ゲームの脱出条件は『探偵役が犯人を確信し、犯人役がそれを認めること』。
だから、古泉君が自白した時点でプログラムの終了は始まっていたのよ。もう少し終わるのが遅かったら、私普通に死んじゃってたわ」
せっかく復活したのに、と朝倉は頬を膨らませる。
何かわいこぶってんだ、と腹が立ったがナイフを取り出されたらたまらんので黙っておく。
317 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:11:36.14 ID:axpZyYoG0
もうそろそろ終わりかしえん
318 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 20:12:17.42 ID:sDHzCwEM0
「それとね、もうひとつ」
「まだ言いたいことがあんのか?」
「うん、こっちが本題」
朝倉はあるひとつの机に目を落とす。
それは、この夏休みから持ち主を失ってしまった机だった。
「国木田くんの死は、私たちが仕組んだことではないわ」
あのペンションで死んだ人間は現実の世界でも死んでしまう。
それがあの世界のルールであるというならば。
確かに、おかしいとは思っていた。
国木田は全くの逆だ。現実で先に死を迎え、ペンションで死体となって登場した。
ルールに則っていない。つまり。
国木田の死は、『かまいたちの夜』とはまったくの無関係であるということになる……らしい。
「プログラムを発動させるために国木田くんが死んだのではなく、国木田くんが偶然に亡くなったことがプログラム発動のきっかけになったのね。
……一応重ねて言っておくけど、プログラムの発動のために私たちが国木田くんを故意に殺したってわけじゃないからね。
そもそも、国木田くんの死があって初めて情報統合思念体はこの『かまいたちの夜』に興味を持ったんだから」
「そうかい」
ま、どっちでもいいよ。
どちらにせよ――長門や喜緑さんとは違い――国木田が帰ってこないことに変わりはない。
人の死だけはどうにもならないのだ。ヒューマノイド・インターフェースとは違ってな。
319 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:15:38.99 ID:awOF1Ot00
なんと
国木田は「ペンション」の世界ではキョンがペンションに行くよりずっと前に死んでたから
それに伴って現実世界でも早めに死んだものと思ってた
320 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 20:17:04.94 ID:sDHzCwEM0
「話はこれでおしまい……なんだけど、ねえキョン君」
朝倉は微笑み、俺との距離を詰めてきた。
「私、こうやって復活したことだし、明日からまたクラスメイトをやらせてもらうから、よろしくね。
もうキョン君の命を狙ったりすることはない普通の女の子だから、仲良くしてほしいな。
今日こうやって誤解を解きたかったのは、実はそのためってこともあるんだよね」
「何かわいこぶってんだ」
げ。言っちゃった。
しかし朝倉はむ、と一瞬眉をしかめたものの、ナイフを取り出したりすることはなかった。
普通の女の子になったってのはマジなのだろうか。
朝倉は、それこそ普通の女の子のように悪戯っぽく笑って言った。
「それじゃあキョン君、一緒に帰ろっか」
「いいぞ」
「え?」
俺の予想外の答えに朝倉は目をぱちくりさせている。
「て、てっきり断られると思ってたんだけど」
「か、勘違いするなよ」
ツンデレのテンプレのようなセリフを吐きながら、俺は朝倉の手を取った。
「国木田の墓に連れてってやる。仮想世界とはいえ、国木田の死体を弄んだこと、土下座させてやっからな」
321 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 20:18:41.40 ID:sDHzCwEM0
こうして俺たちは悪夢のような、悪夢そのものであった冬のペンションを脱出した。
そして俺たちがいつもの日常に帰ってから、三日の時が経ち―――――
古泉一樹が自殺した。
<終>
322 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:19:23.05 ID:p40kwHp8P
おい
おい
323 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:19:45.11 ID:VyJb5doS0
な・・・えっ?
324 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 20:20:22.51 ID:sDHzCwEM0
return to >>266
325 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 20:21:07.82 ID:sDHzCwEM0
―――待てよ?
そこで俺は、奇妙な引っかかりのようなものを感じた。
なにか、なにかおかしくないか?
何だこの―――違和感は。
何かがおかしい。この事件には、どうしようもない矛盾が存在している。
おかしいのは……一体何だ?
1.国木田の死
2.喜緑の死
3.長門の死
330 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:22:29.53 ID:awOF1Ot00
なんと
true end ではなかったということか
331 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:23:53.08 ID:ZrpvHNIRP
なんで古泉死んだんだろう
334 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:24:43.88 ID:2tb5u6N7O
この選択肢は真のENDじゃないってことか
336 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:27:00.13 ID:OGKMzH8mO
やりなおしってこと?
337 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 20:27:01.93 ID:n1SNaOT20
やばい、かまいたちやりたくなってきた
こんなにオモロいのか
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