1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 00:25:19.96 ID:sDHzCwEM0
「って何だ?」
「ホラーゲームだよ。一言で言えばね」
「あー、バイオハザードとか、そんな感じの?」
「いや、ああいうアクション系とはまた別種のホラー。好みが激しく分かれるゲームなんだけどね。キョンは小説とかあんまり読まないんだっけ?」
「自ら好んでは手を出さないな。ああ、つまり、そういうゲームなのか」
「そう。基本的には小説と変わらない。プレイヤーは物語を読み進めるだけさ。ただ、時々選択肢が出て、主人公の行動を決めることが出来る。それによって物語の結末は大きく様変わりしていく」
「いわゆるADV(アドベンチャー)ゲームってジャンルになるわけか」
「サウンドノベルっていうらしいけどね。中々面白かったから今度貸してあげるよ。小説、嫌いってわけじゃないんだろ?」
「まあな。お前が薦めるってんなら、そりゃプレイしてみるのもやぶさかじゃないが、ところでそれ、どんな話なんだ?」
「『吹雪によって閉じ込められたペンションで起きる連続殺人。果たして主人公とヒロインは無事生還することが出来るのか』、とまあこんな感じ」
「殺人事件か。それはホラーというか、ミステリー小説みたいだな」
「立派なホラーだよ。選択を誤ればバンバン人が死ぬ」
「そりゃあ成程、ホラーだな」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 00:29:54.92 ID:sDHzCwEM0
国木田と交わしたそんな会話を思い出す。
俺の手元にはその国木田から借り受けた「かまいたちの夜」というタイトルのゲームがある。
まさかこれが国木田の形見になるとは思いもしなかった。
つい一週間前のことである。
交通事故だった。
信号無視してきたトラックにはねられたのだという。
その知らせを受けた時は我ながら取り乱したものだ。
それこそ、長門有希に、あの寡黙なヒューマノイドインターフェースに何とかしてくれとすがりつく程に。
そんな醜態を晒す俺を諫めたのは古泉だった。
曰く、長門さんだって神様ではない。
人の死だけは、どうにもならないのだと。
あの常に胡散臭い笑みを絶やさぬ男がとても真剣に。
俺に語って聞かせたのだ。
俺はすまないと謝った。
いえいえ、と古泉は笑った。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 00:32:38.45 ID:sDHzCwEM0
それが、一週間前。
ようやく心の整理もついた俺は、ふと思い出して国木田から借りたまま放置していたそのゲームを引っ張り出したわけなのだが……
「借りた以上は、一度はプレイしておくべきなんだよな……」
感想を聞かせてくれ、と国木田は言っていた。
俺はパッケージからソフトを取り出し、ゲーム機にセットする。
遅くなってしまったが、遅くなりすぎてしまったが。
それでも、感想を報告させてもらうことにしよう。
約束はきちんと守らなくてはならない。
それが故人とのものならば、なおさら。
そして俺はゲーム機のスイッチに手を触れ、スイッチをONに切り替えた。
――瞬間。
俺の意識は断絶した。
5 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:34:54.78 ID:sDHzCwEM0
涼宮ハルヒの憂鬱×PS or SFCソフト「かまいたちの夜」 クロスSS
7 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:36:19.43 ID:sDHzCwEM0
気付けば、俺は真っ白な下り坂を猛烈なスピードで滑り落ちていた。
「は!? あ!? うおお!?」
訳も分からぬままバランスを崩し、俺は盛大に転倒する。
そして雪面にしたたか頭を打ちつけた。
雪面。
雪。雪だ。
そして俺はスキー板を履いていた。
待て。
待て待て。
状況を整理しよう。
一体全体何がどうなって俺はこんな目に――ダメだ、頭がくわんくわんして回らない。
そんな俺の目の前で、雪を蹴立てて鮮やかに止まる人影。
「全く情けないわねぇ、キョン」
呆れたように声をかけてくる。
その声に俺は、
「うるせえよ、ハルヒ」
と、ぞんざいに答えたのだった。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 00:37:14.04 ID:9PDWdeWv0
4円
10 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:39:54.34 ID:sDHzCwEM0
ようやく痛みも引いて頭が回転してきた。
何をボケていたんだ俺は。
そうだ、俺は今――ハルヒとスキー場に来ているのだ。
「どうせ俺は滑るより転がる方が似合ってるよ」
「何言ってんのよ。アンタね、ただでさえ滑りっぱなし転がりっぱなしの人生送ってんだから、せめてスキーの時くらいしゃんと立ちなさいよ」
「お前ね…ちょっとは『大丈夫?』とかそういう労わりってものを……」
「ほらほら、さっさと立つ! もう一回滑るわよ!!」
ハルヒは快活にそう言った。
が、ちょっと待ってくれハルヒ。
俺はもう朝からのお前のスパルタ特訓のせいで、立っているのがやっとという状態なのだ。
「もう、男の癖に情けないわね! 私を見習いなさいよ! 今から富士山登頂をやってみせろと言われたって私はやり遂げてみせるわよ!?」
やかましい規格外。
どこどこまでも常識から外れているお前と、平々凡々極まる俺を一緒にするんじゃない。
「もう帰ろうぜ。見ろよ、雲行きだって怪しくなってきた」
13 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:42:48.02 ID:sDHzCwEM0
俺は半ば適当にそう言ったのだが、事実、先程までちらほら見えていた太陽はもうすっかり雲に隠れてしまっていた。
というより、空全体が黒く重い雲に覆われてしまっている。
「あら、ホントね。今夜は吹雪くかも」
ハルヒは空を見上げてそう言った。
「ついてるじゃない!! 吹雪の中のサバイバルなんて、滅多に出来る経験じゃないわよ!!」
「出来るなら一度もしたくない経験だそれは!! そもそも吹雪けばリフトが止まるわ!!」
とんでもない女だった。とんでもない馬鹿だった。
まあ、知っていたけどさ。
俺はハルヒのスキーウェアの後ろ首を引っ掴み、ハルヒを無理やり引きずる形で、スキー場を後にした。
15 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:46:26.52 ID:sDHzCwEM0
ハルヒの叔父から借りた4WDのワゴン車に乗り込み、ペンションまでの道のりを走らせる。
涼宮ハルヒ。
傍若無人、自由奔放、天上天下唯我独尊なこの女と知り合ったのは――
あれ? いつだっけ?
ああ、そうだ。今年の四月だ。
今年の四月に、俺とハルヒは大学で知り合ったのだ。
……なんでこんな簡単な記憶が曖昧になってしまっているんだろう。
ゲレンデで何回も盛大に後頭部を強打したことがまだ尾を引いているのかもしれない。ぞっとする話だ。
しかし、実際コイツとはもっと昔から知り合いだったような気もしてるんだよな。もちろんそれは気のせいでしかないわけだが。
ま、とにかく。
珍妙奇天烈摩訶不思議、奇想天外四捨五入、出前迅速落書無用なこの女と出会って、何となく気があって、一緒に飯を食いに行ったり何回か一緒に飲んだりもして。
そこそこ仲良くやれてきたんではないかと思う今日この頃。
この冬。
ハルヒから一緒にスキーに行かないかと誘われた。
ハルヒの叔父がペンションを経営していて、格安で泊まれるから――ということらしい。
もちろん、有意義なキャンパスライフを送らんと努力を怠らぬ暇な大学生である俺にとって、その誘いを断る理由は無く、俺は二つ返事でOKした。
そういうわけで俺たちは昨日、つまり12月21日、ここ信州へとやって来たのだった。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 00:48:56.66 ID:2tb5u6N7O
ふむ期待
17 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:49:48.78 ID:sDHzCwEM0
ペンションに帰り着く頃にはもう日はとっぷりと暮れ、雪が降り始めていた。
ハルヒの叔父が経営するペンション『シュプール』は、外観はログキャビン風で、内装は白を基調にしたおしゃれな造りだった。
料理のメニューも多彩で、味も文句のつけようがないレベル。
シーズンだということもあり、けっこう繁盛していて、親族という事で割安で泊めてもらえることにちょっと罪悪感を感じるほどだった。
正面玄関のドアを開ける。
からんからん、とドアについた鈴の音が鳴った。
俺とハルヒの部屋は別々にとってある。
当然だ。ハルヒの叔父が経営しているんだからな。
いや、例えそうじゃなくても、俺もハルヒももう立派な大人である以上、その辺の線引きはキッチリしないといけないだろう。
……俺は一体誰に言い訳しているんだろうね。
ふむ、夕食までけっこう時間があるな。
どうするか……。
1.一旦部屋に戻って着替え、玄関脇の談話室で落ち合う
2.一旦部屋に戻って着替え、夕食までどちらかの部屋で話でもする。
3.疲れがひどいので、夕食まで仮眠をとる。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 00:51:46.33 ID:J4WyHnPC0
めっちゃ3選びたい
19 :
選択肢は出るけど安価とかはない めんご :2010/10/03(日) 00:53:11.68 ID:sDHzCwEM0
俺たちは一旦部屋に戻って着替えてから、夕食まで俺の部屋で話をすることにした。
俺は服を着替えた後、何となくそわそわしながらハルヒを待つ。
しかしまあ、今更ながら、ハルヒは俺を全く男として意識してないんだろうなあ、とつくづく思う。
そうじゃなきゃ、二人きりで泊りがけの旅行になんて誘ってこないだろうけどさ。
男としてそこはかとなく切なくなったりもするが、まあそっちの方が気楽でいい。
俺もハルヒを女として見たことなどほとんど無いしな。
こんこん、とノックの音がした。
「開いてるよ」
軽く返事を返すと、がちゃりとドアが開いてハルヒが入ってきた。
「ふうん、私の部屋と変わんないのね」
「当たり前だ」
「壁が回転して隣の部屋と繋がってるとか期待したのに」
「観光地のペンションに何を求めてるんだお前は」
21 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 00:56:38.66 ID:sDHzCwEM0
ハルヒは相変わらずなことを言いながらベッドに腰を下ろす。
ペンション『シュプール』の客室は全てツインルームになっているらしく、俺が一人で使っているこの部屋にもベッドは二つある。
俺はもうひとつのベッドに腰を下ろした。
途端、足腰の疲れを自覚する。
「さすがに疲れたな。足腰ががたがただ」
「あの程度で? なっさけないわねえ。私は全然疲れてないわよ」
だろうな。同意を求めた俺が馬鹿だったよ。
「マッサージしてあげようか?」
「あん?」
「ほらほら、ちょっとうつ伏せになって」
「お、おい」
「いいから」
全く強引なやつである。
まあ逆らう理由も無いので俺は素直にベッドに横になった。
22 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:00:30.59 ID:sDHzCwEM0
ハルヒが俺のふくらはぎの辺りを両手で揉みほぐし始める。
お、おお…これは……。
「き、きもちいい……」
「私、こういうの得意なのよね~。意外と」
ほう、自分で『意外と』と口にするか。どうやら自分のキャラを少しは把握しているようだな。
なんて感心していると、ハルヒのしなやかな手がふくらはぎから太ももへと昇ってきた。
待て待ておいおい。
止めなければどこまででも上に昇ってきそうな様子だぞ。
どうする?
1.「わあ! もういいよ!」
俺は慌てて起き上がった。
2.「もっと……もっと上まで……おういぇー…」
俺は何も言わずにハルヒの手の感触を楽しんだ。
23 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:04:00.13 ID:sDHzCwEM0
「よーしもうオーケイだ!! すっかり疲れが取れたよサンキュー!!」
もちろん俺の性格で2番を選択するなど有り得ないのである。
「なによ、もういいの?」
若干不満げなハルヒ。
その表情を前に、あれ? もしや勿体無いことをしたかなと後悔しなくも無いが、事実疲れはどこかへ吹っ飛んでしまっていたのであった。
「そ、そろそろ下に降りようぜ」
狼狽してしまった自分を誤魔化す様に提案する俺。
少し口をへの字に曲げて頷くハルヒ。
まるでもう少し俺と二人っきりで話したかったと言いたげな表情だった。
なんて。
んなわけあるか。あほらしい。
一瞬でもそんな勘違いをした自分を恥じながら俺は階下の談話室へと足を向けた。
24 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:08:24.49 ID:sDHzCwEM0
階段を下りた所にあるリビングルームが、ペンション『シュプール』の談話室だ。
談話室には大きな茶色のテーブルを囲んでソファが置かれていて、俺たちは夕食が始まるまでの間そこに腰掛けて待つことにした。
ちょうど俺たちが腰をかけた時、二階からがやがやと女の子の声がした。
目を向けると、三人の女の子達が喋りながら階段を下りてくる所だった。
何となくの見た目で判断すれば、多分俺たちと同じか、ひとつふたつ上の年齢だろう。
「こんなにゲレンデから遠いなんて思わなかったっさ!」
そう言ったのは緑がかった髪を伸ばした明朗快活な女の子。
何だか独特な喋り方をしているが、それが気にならないくらいかなり魅力的な容貌をしている。
「でもでも、お料理がおいしいって、ここにほら、書いてありますし……」
弁解するように丸めて持った情報誌を指差す女の子。髪は亜麻色で、これまた長い。
服の上からでもわかるほど胸がでかい。
少し気弱そうなのがまた高ポイントだ。
全くの私見だが彼女にはメイド服が非常によく似合うはずだ。
何故か確信できる。
ほんとに何でだろう?
26 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:12:29.16 ID:sDHzCwEM0
「いやいや、みくるを責めてるわけじゃないんだよ!」
申し訳なさそうにしていたおっぱいがすごい女の子に、快活そうな女の子が慌てたようにフォローを入れる。
「そうね。それにこのペンションの雰囲気、私は好きだな。サービスも今の所凄くいいし……」
会話に入ってきた三人目の女の子。
伸ばした髪は一見すると黒だが、光に照らされた部分は少し蒼く輝いている。
今時の女の子には珍しい太眉は、しかし彼女にとてもよく似合っていた。
文句なしに美人だ。ランクをつけるなんて下世話な真似をさせてもらえば、AAランクは間違いないだろう。
しかし、なんだろう。
彼女を見た瞬間芽生えたこの思いは。
心臓の高鳴りを感じる。
もしやこれが一目惚れというやつか?
しかしこれはそんな甘酸っぱいものではなく、もっとおぞましい、もやもやとした、得体の知れない……不安というか。
よくわからんな。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 01:14:11.56 ID:J4WyHnPC0
おっぱいがすごい女の子wwww
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 01:14:39.81 ID:4NSbNmHc0
谷口かコンピ研部長が第1の犠牲者と見た
29 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:15:08.26 ID:sDHzCwEM0
「こぉら。なにジロジロ見てんのよ。ああいう女が好みなわけ?」
ハルヒに耳を引っ張られた。いてえ。
ハルヒはそのままジト目で俺を睨みつけている。
ぬう。一刻も早くこの耳を離してもらうためには、さて、どうしたものか。
1.「何言ってんだ。そんなんじゃねえよ」
俺はクールにそう答えた。
2.「馬鹿言うな。俺の好みはベイベー、君だけさ」
俺はチッチッチッと指を振った。
3.「待ってろ。じっくり吟味するから」
質問には誠実に答えねばならない。俺は三人に舐めるような視線を向けた。
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 01:15:25.87 ID:VkYjZCpOO
キャラが入れ替わっただけじゃね?
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 01:16:45.23 ID:2tb5u6N7O
懐かしさにニヤニヤしてしまう
33 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:19:45.33 ID:sDHzCwEM0
「待ってろ。じっくり吟味するから」
どうせ無難な1番だろ、とでも思ったか?
甘いな。俺はやる時はやる男なんだぜ。
やる時を激しく間違っているような気がしないでもないが。
まあいい。質問に対し誠実に答えるのは常識である。俺は常識が大好きなのだ。
「ふむ」
俺は三人を上から下まで舐めるように観察する。
「うーん……」
なかなか決まらない。
ホンマに三人とも別嬪さんやでえ。
しかしその中でもやはりおっぱいの大きな女の子には特に目を引かれる。
ホントにメイド服着てお茶とか差し出してくれないかなあ。
つまんだままだった耳を思いっきり引っ張られた。
「いってえ!!」
「ふんッ!」
そっぽを向くハルヒ。
くそう、俺はお前の質問に誠実に答えようとしただけじゃないか……。
この理不尽大王め。
36 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:23:16.72 ID:sDHzCwEM0
「すいません、シャッター押してもらえますか?」
三人組の一人、眉毛の女の子がカメラを差し出しながら俺たちに話しかけてきた。
視線を見るに、どうやらハルヒではなく俺に頼んでいるらしい。
「ええ、いいですよ」
俺は軽く引き受けた。
「じゃあ、いきますよ~」
俺がカメラを構えると、三人は寄り添って笑みを浮かべる。
さてさて、笑顔を作るための定番の掛け声をかけさせて頂こう。
「1+1+1は~?」
「……さん?」
パシャア!!
俺は問答無用でシャッターを切った。
うむ、見事にみんな素の顔である。
まさしく飾らない顔というやつだ。
自らの仕事に惚れ惚れである。
ハルヒに蹴り飛ばされた。
39 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:26:32.79 ID:sDHzCwEM0
その後、ハルヒが写真を撮りなおし、カメラを女の子たちに返す。
そのままの流れで自己紹介が始まった。
緑がかった髪の、明朗快活な女の子が鶴屋さん。
おっぱい大盛りな女の子が朝比奈みくるさん。
眉毛が朝倉涼子。
というらしい。
ん? いかんな、何故か朝倉さんだけごくナチュラルに呼び捨てにしてしまったぞ?
「別にいいわよ。どうやら年も一緒みたいだし」
朝倉さん、いや朝倉はそう言って許してくれた。寛大なことだ。
ちなみに俺と年齢が一緒なのは朝倉だけで、鶴屋さんと朝比奈さんはひとつ上らしい。
三人ともOLをやっているそうだ。
43 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:30:23.76 ID:sDHzCwEM0
「私たちはさっき着いたばっかりなんだけど、ゲレンデの様子はどんな感じだい?」
鶴屋さんが気さくに聞いてくる。
といってもスキー初心者たる俺にゲレンデの良し悪しがわかるわけもない。
わかるのは痛かったってことぐらいだ。
「結構いい感じよ。リフトもそんなに混んでなかったし」
代わりにハルヒが答えた。
しかしコイツは一旦気安くなるとほんとに年上だろうがなんだろうが敬語を使わんな。
鶴屋さんは特に気を悪くした風もなく、ハルヒと雪について話を続けている。
どうやらこの二人、けっこう気が合うようだ。
ブゥーン……
その時、エンジン音が近づいてきて、ペンションの表で止まった。
誰か新しい客が到着したらしい。
しばらくすると、玄関ドアに取り付けられたベルがからんからんと音を立てた。
「WAWAWA! やっと着いたか!! 死ぬかと思ったぜ~!!」
新しい客は、入ってくるなり随分と騒々しかった。
46 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:34:23.92 ID:sDHzCwEM0
新しい客は二人連れだった。
一人は髪の毛をオールバック風に纏めた騒々しい男。
もう一人は見るからに大人しそうな女の子。
女の子の方は小型犬を猫っ可愛がりしているようなイメージだ。
これまた見た目は俺たちと同年代に見える。
「ああ谷口さん、いらっしゃい。遅かったですね。心配しましたよ」
ハルヒの叔父である新川さんが奥から出てきて二人を迎える。
ちなみに新川さんは白髪のよく似合うダンディな御方だ。
年を取ったらこうなりたいと思わざるをえない。
「いきなりすげえ吹雪き始めたから、迷う所だったぜ」
谷口と呼ばれた男が新川さんに答える。
窓の外に目を向けると、確かに雪の勢いが随分と増していた。
ぽっぽ、ぽっぽ、ぽっぽ、ぽっぽ……
突然鳩の鳴き声が聞こえて、俺は壁に目を向ける。
古臭い鳩時計が七時を告げたところだった。
俺は反射的に自分の腕時計に目を向ける。
その表示は18:55となっている。
遅れてしまったのだろうか?
47 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:37:55.94 ID:sDHzCwEM0
「食事の用意が出来ましたので、食堂の方へどうぞ」
食堂からアルバイトの喜緑江美里さんが出て来た。
「では、荷物と上着は運んでおきますから、谷口さん達も食堂へ」
フロントでは新川さんが記帳を済ませた二人に食事をすすめている。
何となくそちらを見ていたら、大人しそうな女の子と目が合った。
女の子はにこりと微笑むと軽く頭を下げた。
俺も慌ててそれにならう。
気付くと、ハルヒも彼女を見ていた。
やばい、と思って咄嗟に耳をかばったが、ハルヒはそんな俺に頓着せず呟いた。
「大人しそうで、可愛い子ね」
私と違って。
ぼそりと。小さな声でハルヒがそう付け足した気がした。
「まあな」
俺は特に何も考えず肯定する。
49 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:42:39.06 ID:sDHzCwEM0
「やっぱり男ってああいう女の子女の子したような子が好きなわけ?」
「確かにそういう奴も多いだろうな」
「あんたは?」
「俺か? どうだろうな。やっぱり一緒にいて楽しいってのが一番大事だと思うけどな」
「ふーん」
「ま、そんなもんどうでもいいじゃねーか。楽しい旅行を続けようぜ。ハルヒ」
そう言って俺はソファーから立ち上がる。
まずはおいしいと評判の夕食だ。温かいうちに、十分に堪能させていただこう。
「……? おい、ハルヒ。早く行こうぜ。折角の料理が冷めちまう」
こういう旅行は最大限楽しむ努力をするのが俺のモットーだ。
俺は心なしか少し赤い顔をしているハルヒを急かすのだった。
50 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:46:40.36 ID:sDHzCwEM0
食堂のテーブルにはすでにナイフやフォークがセットされていた。
女の子三人組やさっき着いた二人組も、もう先に椅子に座っている。
俺達も指定されたテーブルに着いた。
テーブルの真ん中には、クリスマスツリーの形をしたキャンドルが立っている。
その揺らめく小さな炎が、窓の外を見つめるハルヒの横顔を、ほの赤く照らしている。
こうして黙っているとこいつもそれなりに可愛いんだけどな。
「何見てんのよ」
「別に」
「エッチなこと考えてるんじゃないでしょうね」
「ねーよ」
「勘違いしないでよね。こんなお手軽な旅行で雰囲気に流されて処女を捧げてしまうほど安い女じゃないわよ私は」
「黙れ。死ね」
黙ってないとホントにダメだこいつは。
ってか処女かよ。
びっくりだよ。
素面でそんなカミングアウトしてんじゃないよお前。
51 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:50:27.92 ID:sDHzCwEM0
そんな下品な会話をしていると料理がやってきた。
料理を運んできたのはメイドだった。
バイトの喜緑さんではない。喜緑さんは普通にエプロンをつけているだけである。
「ごゆっくりどうぞ」
メイドさんはたおやかな笑みを浮かべ、去っていく。
「何アレ」
「森さん。説明しなかったっけ? 新川さんの、うーん、何ていうか、押しかけ女房というか」
ちなみにハルヒの叔父さん、新川さんはどう見たって六十歳近く、森さんはどう見ても三十歳に届いてはいない。
えー、何それ。新川さん超勝ち組じゃねえ?
「森さんは籍を入れるのを強く望んでるらしいんだけど、新川さんが受け入れないのよ。他にいい人がいるだろうってずっと説得してるらしくって」
それでも俺は新川さんが憎い。
男子たるもの一生で一度は自分にベタ惚れのメイドを侍らせてみたいと夢見るものだ。
彼はそれを叶えたというのか。
素直に妬ましいものである。
52 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:54:07.59 ID:sDHzCwEM0
花のような笑顔で配膳を続ける森さんをつい目で追ってしまう。
「あれ?」
そこで気付いた。
泊り客は、俺たち、三人娘、遅れてきた二人組……だけかと思っていたが違った。
もう一人、こんなペンションには似つかわしくない客がいた。
食堂の隅、壁に溶け込むようにして座っているコートの男。
食事中だというのに上着も帽子も脱がず、あまつさえ黒いサングラスをかけている。
スキー客にはもちろん、仕事で来ている営業マンにすら見えない。
……ヤクザ?
それが俺の第一印象だった。
1.「しかしヤクザがこんな所に…?」
俺は思わず口にしていた。
2.「あの人ヤクザかな?」
俺はハルヒに聞いてみた。
3.「あなた、ヤクザですか?」
本人に尋ねてみた。
53 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 01:58:27.92 ID:sDHzCwEM0
3番なんざありえるかぼけーい。
「あの人ヤクザっぽいよな」
俺はハルヒに意見を求めてみた。
「そんなわけないでしょ。ヤクザがこんな所に一人で来て何しようってのよ」
「ま、そりゃ確かにな」
「気になるなら私が直接聞いてきてあげようか」
「毛ほども微塵もこれっぽっちも気になってないから座ってろ」
なぜお前はそんなにあっさりと3番を選択してしまえるのだ。恐ろしいやつめ。
改めて男を横目で見る。
大人しくスープをすすっているその様子を見ていると、見かけと違って気のいい人なんじゃないかとも思えてきた。
サングラスを外さないのも、単に眼病を患っているのかもしれないし、恥ずかしがっているんだと考えれば萌えるではないか。
彼のことは意識から追いやって、俺たちも運ばれてきたスープに口をつける。
54 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:03:06.55 ID:sDHzCwEM0
「うお…!」
思わず声を漏らしてしまった。
おいしい。なんだこれは。
スープだけではなく、その後次々に運ばれてきた料理はどれも素晴らしく、俺は感嘆の念を禁じえなかった。
てっきり料理は森さんの作品かと思ったら、ハルヒ曰く、新川さんが作っているらしい。
なんだちくしょうと唸る俺。
どこまでパーフェクトなんだ新川さん。
男として完全敗北してしまった気分である。
食事を終えた人々が、三々五々、食堂を出て行く。
俺の腕時計は19:55を示していた。
「さて、じゃあナイターに行きましょ」
ハルヒは信じられないことを言って立ち上がる。
「ば、馬鹿いうな。どう考えても腹いっぱいになってまったりモードだろここは」
「何言ってんのよ。折角スキー場に来てんのよ? 滑りたおさなきゃ損じゃないの」
「待て待てハルヒ、時に落ち着け。こんな吹雪じゃそもそもナイター自体やってないだろう」
とにかく行きたくない俺だった。
「ほら! さっさと立つ!!」
とにかく聞き分けないハルヒだった。
55 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:07:00.26 ID:sDHzCwEM0
「天気予報を聞くかぎりじゃ、ナイターどころじゃなさそうですよ」
エプロン姿の喜緑さんが横から口を挟んできた。
「当分ここから出ない方が安全みたい」
アルバイトの喜緑さんはちょっと年齢がよくわからない。
ぱっと見は年下のようにも見えるし、ふとした時にとても大人びて見えたりもする。
どこかふわふわした、つかみ所の無い女の人だ。
「そんなに激しいんですか?」
俺はほっとした反面、喜緑さんの言葉に不安を感じる。
「予報じゃあ近年にない大雪になるかもしれないなんて言ってるぜ」
今度はもう一人のアルバイト、生徒会長がやってきた。
……うん、彼の名に疑問を抱かれた方は多いと思う。
キャラ名生徒会長て。
しかし彼、何度名前を聞いてもそうとしか答えないのだ。
ならばこちらもそう呼ぶしかないだろう。
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 02:08:30.79 ID:eiZsgy8j0
おもしろいな、これ
何より懐かしい
許可もらえるなら製作にかかれるかどうかは分からんが本当にかまいたちの夜風のサウンドノベルゲームにしてもいいだろうか?
一応、テキストは全部保存していってる
まあ、なんにせよラストまで製作頑張ってくれ
57 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:10:46.44 ID:sDHzCwEM0
生徒会長(高校の時にでもそんな役職をやってたんだろうか?)はその名の示す通りの風体をしていた。
さすがに学生服でこそないが、仕事中は常にパリッとしたカッターシャツに身を包み、いかにも秀才ですと言わんばかりの眼鏡をかけている。
またそれがニヒルな雰囲気によく似合うのだ。
まるでわざと『生徒会長』という、いかにもなキャラを演出しているのではないかと疑ってしまうほどに。
身長も高く、運動にも長けているのは疑いない。
男としては間違いなく格好いい部類に入るだろう。
なんとなくハルヒを見る。
ハルヒは敵意を込めた眼差しで会長を睨みつけていた。
ああ、うん、お前はこういうタイプとは相性悪いだろうなあ。
「閉じ込められて飢え死に、なんてことにならないでしょうね?」
早速ハルヒが噛み付いた。
「ふん、ずいぶん幼稚な発想をするな。オーナーの姪とは思えん」
こっちもはなっから喧嘩腰だ。なんでだよ。
喜緑さんは笑ってる。他人事かよ。
58 :
>>56 わお、びっくり まあとりあえず最後まで見てみてくれ :2010/10/03(日) 02:15:37.78 ID:sDHzCwEM0
「仮にお前の言うとおりになったとしても十分な備えはある。この人数なら三週間はもつだろうさ」
「雇い主の姪に向かって『お前』とは随分ね」
「こいつは失礼しましたオジョウサマ」
そう言って口をゆがめて笑う会長。
「まあ三週間は大げさだか、一日二日は滞在が延びることになるかもしれんな」
「ふうん、ま、それくらいは仕方ないか。ね、キョン」
なに? それは困る。明後日にはバイトが入ってるのだ。
が、ここでそんなことを言うほど俺はKYではないので、ここは言うべきことだけを言うことにする。
1.「ああ、もちろん。かまわないさ」
俺は笑顔を返した。
2.「もちろん宿泊代はタダなんだろうな?」
俺は念を押した。
59 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:18:53.95 ID:sDHzCwEM0
「もちろん宿泊代はタダなんだろうな?」
俺は念を押した。
お金に関することはきっちりしておかなくては、後々トラブルの種になってしまう。
ただでさえ割安で泊めてもらっているくせに言うことは立派な俺だった。
誰も言葉を返してこない。
ハルヒは顔を赤くしている。
会長は俺を蔑んだ目で見下している。
喜緑さんの顔から笑みが消えた。
え、なにこの空気。
1.「もちろん、今のは冗談だ」
俺は慌てて取り繕った。
2.「どうなんだ!」
俺は畳み掛けた。
60 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:22:10.89 ID:sDHzCwEM0
「どうなんですか会長!」
俺は畳み掛けた。
俺は間違っていないはずだ。
俺はKYなんかじゃないぞ。
「…まあ、オーナーの姪とその連れだからな。融通はきかせてくれるだろうよ」
「よし! 言質とった!!」
ガッツポーズの俺。
俺のすねを蹴り飛ばすハルヒ。
悶絶する俺。
さっさと席を立つハルヒ。
片足けんけんで追いかける俺。
くっ、お金に厳しいしっかりした男を演出したかっただけのはずが、なぜこんな結果に。
とりあえず食堂を出るまでの短い時間でハルヒに十回以上謝った俺だった。
61 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:24:47.20 ID:sDHzCwEM0
食堂を出た所で、何だか雰囲気がざわついているのに気が付いた。
フロントのあたりで、三人の女の子たちが新川さんに向かって何かを喚いている。
「落ち着いて話してください。一体何があったんです?」
女の子たちを落ち着かせるように、ゆっくりと言葉をかける新川さん。
「だから! 今部屋に戻ったら、床にこんな……こんな物が……!」
女の子達が震えながら、新川さんに小さな紙切れを差し出した。
俺は横からその紙切れを覗き込む。
赤いマジックのような物で、字が書きなぐってある。
62 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:25:46.18 ID:sDHzCwEM0
こんや、12じ、だれかが
63 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:26:35.92 ID:sDHzCwEM0
しぬ
64 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:30:32.77 ID:sDHzCwEM0
「今夜、12時、誰かが……死ぬ!?」
俺が読み上げると、皆一様に息を呑んだ。
数秒たって、新川さんがようやく口を開く。
「誰かのいたずらでしょう」
「……悪趣味ね」
ハルヒが眉をひそめる。
確かに、悪趣味ないたずらだった。
それが、本当にいたずらであったならば。
「でも、それにしたって誰かが私達の部屋に入ってこれを置いていったってことにならないかい? 気持ち悪くてあそこじゃ眠れないっさ」
鶴屋さんが横で涙目になっている朝比奈さんを見やりながら言う。
その様子から見るに、眠れないのは鶴屋さんではなく朝比奈さんなのだろう。
「床に落ちていたのなら、ドアの隙間から差し込んだのではないでしょうか。鍵はかけていらしたのでしょう?」
新川さんがそう言うと、女の子達はぽかんとした表情を浮かべた。
「そっかー。中に入らなくてもいいんだ」
どうやらそんなことにも気付いていなかったらしい。
65 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:35:21.45 ID:sDHzCwEM0
「……でもやっぱり気持ち悪いです」
朝比奈さんはそれでも不満を示す。
「何ならお部屋を替えましょうか? 幸い空き部屋もありますから」
「その部屋にはテレビついてます?」
朝倉の問いに、新川さんは申し訳なさそうに首を振った。
「申し訳ありません。うちは客室には基本的にテレビは置いていないんです。ふた部屋だけ置いてある部屋があるんですが、それが今お泊りの部屋なんですよ」
「もうひと部屋は?」
「あいにくふさがっております。ですから、テレビを御覧になるのでしたら、今のお部屋で我慢していただくしか……」
「どうする?」
「やっぱり怖いです~」
「テレビは我慢しよっか?」
「でも、見たいテレビがあるのよね」
「ん~、テレビくらい我慢できないかい?」
「『101匹猫ちゃんにゃんにゃん大行進』があるのよね~…」
何だかとてつもなく癒されそうな番組名を口にする朝倉だった。
66 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:39:14.80 ID:sDHzCwEM0
結局、つまらないいたずらだし、部屋を替えることにもあまり意味がなさそうだということで、三人は引き下がって部屋に戻っていった。
「でも、誰がこんな悪趣味ないたずらするのかしらね。子供は泊まってないし」
ハルヒが俺をいたずらっぽい目で見つめる。
「アンタがやったんじゃないの? こういうの好きそうだもんね、アンタ」
「OKハルヒ。今の俺の正直な気持ちを伝えよう」
「なによ」
「お前が言うな」
ジリリリリン! ジリリリリン! と、フロントの電話が鳴り始めた。
「はい、『シュプール』です」
新川さんが電話に出るのを聞くともなしに聞きながら、俺たちは誰もいない談話室のソファに腰掛けた。
新川さんの低く通った声は、俺たちの座った所までよく聞こえてくる。
67 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:43:44.63 ID:sDHzCwEM0
「ああ、古泉様でございますか。夕食はあいにく終わってしまいましたが、お部屋は取ってございます。……はい……はい……駅の辺りですか。そこからですと、車で3、40分はかかると思いますが」
どうやら今頃来る客がいるらしい。
雪はもう相当強くなっている。
迷って遭難、なんてことにならなければいいが。
「……かしこまりました。では、お待ちしております」
がちゃん、と新川さんが受話器を置いたところで、二階からあの騒がしい男と大人しそうな女の子が階段を降りてきた。
「テレビつけていいか?」
馴れ馴れしく声をかけてくる。
恐らくは同年代なんだろうが、初対面の人間にいきなりタメ口とは感心できることではない。
「ええ、どうぞ」
とはいえ、進んで波風を立てることもあるまい。
俺が頷くと男はテーブルの上のリモコンを操作し、テレビをつけた。
そのまま次々とチャンネルを変えていく。
68 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:48:39.74 ID:sDHzCwEM0
「駄目だ。どこもやってねえや。もうちょっと待たなきゃしょうがねえか」
男は苛立たしげにリモコンをテーブルに置くと、俺達の方を向く。
「なあ、今日の終わり値知らねえ?」
「は? おわりね?」
「株価だよ株価。ここど田舎だからな、夕刊がねえんだよ。ああ、ちくしょう、まさかケータイが圏外になるとは思わなかったなぁ」
「お忙しそうですね谷口さん。しかし、こういう時くらい仕事のことは忘れてはいかがです?」
新川さんが男に声をかけてきた。
「ああ、悪い悪い。別に仕事って訳じゃなくてさ、毎日見てるもんだから、見ないと気持ち悪いってだけなんだよ」
「全く、今日は恋人さんとの初めての旅行なんでしょう? 忙しくて中々彼女と会えなくて、ようやく時間が取れたんだと仰ってたじゃないですか」
そこまで喋って、新川さんは俺たちが見ていることに気付いて言葉を切った。
「ああ、一応紹介しておきましょうか。谷口さん、この子は私の姪で、ハルヒといいます。こっちは義理の甥になるかもしれないキョン君」
何てこった。新川さん、あなたも俺をその名で呼ぶのか。
義理の甥なんていう囃し立てに何にも感じないくらいショックだ。
「ちょ、ちょっと! 勝手に決めないでよ!! だ、誰がこんなやつ!!」
「全くです。俺にも選ぶ権利という物があります」
ハルヒに蹴り飛ばされた。いてえ。
69 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:53:39.66 ID:sDHzCwEM0
「へえー、新川さんの姪か。可愛いじゃん」
そう言って、いやらしい目つきでハルヒを舐めるように観察する谷口とやら。
いや、そう感じるのは俺の思い過ごしか?
しかしこの男はそういう下世話な目で女の子を見ることに躊躇をしないタイプのような気がする。
いや、これはもう確信だ。
初対面の人間にかなり失礼な評価を下す俺。
うーむ、俺はこんなに決め付けるタイプの男では無かったはずなのだが。
「谷口さんは私がペンションを始める前にお世話になった方の息子さんでね。若くして会社を継いで経営なさっている、大変立派なお方なのですよ」
なに、そんな凄い奴なのか。
こいつが?
キャラ設定を間違ってるんじゃないのか?
「そんなわけだけど、なに、敬語とか使わなくていいからな。そういう堅苦しいのは苦手だからよ。どうやら同年代みたいだし」
言われるまでもねえ。
お前に敬語を使うなど、俺の魂がNOと言っている。
71 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 02:57:14.28 ID:sDHzCwEM0
「しかしあれだな。新川さんは大したもんだ。脱サラして店始めて、こんなにしっかりやれてる奴なんてそうはいないもんだぜ。お前らはまだ学生なのか?」
「まあな」
よくしゃべる奴だなと思いつつ、俺は頷く。
「新川さんは見習うべき人だぜ。この人は立派な人だよ」
言われるまでも無い。
俺はもう心の中で新川さんを師と仰がせていただいているのだ。勝手に。
「ところでお前、もう就職は決まったか?」
「まだだけど……」
「まだか。まだだったらウチに来ねえか? ウチはいいぞー、実力主義だからな、二年目の人間が十年目の人間より給料高いなんて平気でやってる」
「はぁ…」
なんかいきなり勧誘が始まってしまった。
初対面の人間をいきなり自社に雇おうとするとは、何ともリスキーな野郎である。
「そのかわり力のない奴はいつまで経っても給料は上がらねえ……お前はなんか見所がある。どうだ。ウチに来ねえか?」
1.「遠慮しとくよ」
2.「願ってもない話だ。是非お願いするよ」
73 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:01:05.55 ID:sDHzCwEM0
「遠慮しとくよ」
就職先は自分でしっかり考えて決めたい俺は、谷口の誘いを丁寧に断った。
「今不況だ不況だ言って騒いでるけどな、ウチにはそんなもん関係ねえ。実力のある奴しか雇ってないからだ。ウチは実力主義だからな。どうだ? ウチ来ねえか」
自分が話すことに夢中で俺の答えを聞いていなかったらしく、話をやめようとしない谷口。
こんなんで本当に商談とか纏められるのかよ、と疑問を抱かなくもない。
しょうがないので俺は……
1.「謹んで辞退させてもらおう」
2.「その熱意に負けたよ。これから世話になるぜ」
74 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:04:45.16 ID:sDHzCwEM0
「謹んで辞退させてもらう」
と、重ねて辞意を示した。
「そもそもウチの会社がなんで不況に強いか、それはだな」
「聞けよ!!」
新川さんの恩人の息子の若社長の頭を躊躇なく叩く俺。
いやでもさ、今のはさ、俺悪くなくね?
くすくすくす、と笑い声が聞こえた。
振り向くと、谷口の恋人らしい、あの可愛らしい女の子が階段の下に立っている。
「あなた、とっても面白いのね」
声を聞いてみると、どこかおっとりとした、いわゆるお嬢様という印象をうけた。
75 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:09:01.44 ID:sDHzCwEM0
「谷口くんにそんな風に接してる人を見るのは初めてなのね」
「恋人の阪中だ」
谷口が彼女、阪中さんを紹介する。
いや、同年代らしいからここは気さくに阪中と呼ばせてもらうことにしよう。
「阪中。こっちは新川さんの姪の涼宮ハルヒ、そのフィアンセのキョンだ」
「勝手に」
「決めるな!」
声を揃えて文句を言う俺とハルヒに、阪中はまたくすくすと笑った。
阪中はそのまま谷口の隣りに腰掛けた。
「おいしいお食事だったのね」
「ありがとうございます」
恭しく頭を下げる新川さん。
そういった仕草が本当に様になるオジサマだ。
「本当に素敵なお料理でした」
「阪中さんにそう言っていただけると、自信がつきます」
にこりと笑う阪中に微笑みを返す新川さん。
何だか穏やかな、心地よい雰囲気が場を満たし始める。
76 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:12:24.49 ID:sDHzCwEM0
「なんか喉渇いちまったぜ! ビールもらえるかな!」
馬鹿が空気をぶち壊した。
「ええ、すぐにお持ちします。君たちはどうする?」
新川さんが俺とハルヒに目を向ける。
「いただくわ」
ハルヒはそう答えた。
俺は……。
1.「そうですね、いただきます」
遠慮なくいただくことにした。
2.「いや、俺はウーロン茶で」
アルコールは控えておくことにした。
3.「タダですか?」
念を押した。
78 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:15:27.27 ID:sDHzCwEM0
「タダでうぐぅッ!?」
ハルヒに足を踏んづけられた。
超いってえ。
「キョンにもビールね」
勝手に決められてしまった。
新川さんは微笑みながら頷いて、食堂へと向かっていく。
79 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:20:25.04 ID:sDHzCwEM0
どさどさッ! と、突然窓の外で何か重たい物が落ちる音がした。
「うおっ。何か…落ちたぞ」
俺がびくりと体を震わせると、ハルヒは呆れたようにため息をついた。
「屋根の雪が落ちただけよ」
「なんだ雪かよ」
拍子抜けした。
しかし本当に雪だったのか?
疑いながら窓の外の闇を見つめていると、遠くでぼんやりと明かりがちらつくのに気付いた。
車のヘッドライトだ。
急速に近づいてきて、エンジン音も聞き取れるようになる。
この辺りには他に家もないし、おそらく遅れてきた客だろう。
案の定、エンジン音はペンションの裏手に回り、そこで消えた。
からんからん、と玄関の鈴の音が響く。
「すいません! 古泉ですが! どなたかいらっしゃいますか!」
よく通る声がこちらまで響いてくる。
「古泉さんですね? ようこそいらっしゃいました」
新川さんが食堂から姿を現した。
80 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:24:00.53 ID:sDHzCwEM0
古泉と名乗った新しい客が靴を脱いで上がってきた。
新川さんはビールを談話室のテーブルに置くと、急いでフロントへと向かう。
「いやあ、一時はどうなることかと思いました。ワイパーはまるで役に立たないし、車はスタックするし……」
フロントで記帳しながら喋り続けるそいつは、これまた俺たちと同年代のようだった。
爽やかなイケメンという感じで、常に笑みを絶やさない。
しかし、何故か俺はその笑顔に胡散臭さを感じた。
「夕食は終わってしまったのですが、おにぎり程度のものならばご用意できます。お作りしましょうか?」
「いえ、途中で色々食べてきましたので、お腹は空いていません。何か温かい飲み物をいただけるとうれしいのですが……」
「コーヒーや紅茶のような物がよろしいでしょうか? スープもご用意できますが」
「それじゃあ、紅茶をお願いします」
「お部屋にお持ちしましょうか。それともそこの談話室で…?」
「そうですね…そこで結構です」
古泉さんとやらはちらりとこちらを見て頷いた。
81 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:28:06.53 ID:sDHzCwEM0
「かしこまりました。ではこちらが鍵になります。荷物を置いたらまた降りてきてください」
新川さんから鍵を受け取り、古泉さんとやらは荷物を担いで二階へと昇っていった。
ぽっぽ、と鳩時計が一回だけなる。
八時半だ。
「ああ、申し訳ありません。どうぞ、お召し上がりになっていてください」
俺たちにそう声をかけて、新川さんはまた食堂に戻っていった。
「んじゃ、お言葉に甘えて」
俺とハルヒと谷口はビール、阪中はオレンジジュースの入ったグラスを手に取った。
「乾杯!」
軽くグラスを合わせてから口をつける。
「ぷはー!」
「いやあ、こういう寒い時に部屋ん中を暖かくして、冷たいビールを飲むってのは最高の贅沢だよなぁ」
谷口はニコニコしている。
1.「そうだな」
俺はあいづちを打った。
2.「そうは思わんな」
俺は逆らった。
82 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:31:39.80 ID:sDHzCwEM0
「そうは思わんな」
俺は逆らった。
「最高の贅沢ってのはやっぱりなんといっても、真夏にクーラーをがんがんにかけて鍋を食べることだよ」
「違うぜキョン。そんなん言うなら南極でストーブ思いっきり焚いて、ガリガリ君を食うことこそ至高の贅沢というもんだ」
「戯けた事を。いいか。究極の贅沢というのは赤道直下で冷凍庫に入ってその中で」
「黙んなさい」
ハルヒに怒られた。
「何をさっきから低次元な言い争いしてんのよ」
「なにおう。ならばハルヒ、お前の考える最高の贅沢ってのを言ってみろ」
「地球最後の日に一人宇宙へ脱出する私。宇宙船の中で優雅にグラスを傾けながら、大爆発する地球を見て私はこう言うの。た~まや~」
「こ、この悪魔め!!」
その時はせめて俺だけでも連れていけ。
83 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 03:35:30.74 ID:sDHzCwEM0
「どうもこんばんは」
そんな馬鹿なことを言っていたら、古泉さんが降りてきた。
「はは、皆さんはビールですか。参りましたね。ここに凍えかけた人間がいるというのに」
随分親しげに話しかけてきて、そのままハルヒの隣りに腰掛ける。
「えーと、古泉さん…でよかったですよね?」
「呼び捨てにしてもらって構いませんよ。どうやら年もそう離れてないようですし」
俺の問いに気さくに答える古泉さん。
試しに年齢を聞いてみたらずばり同じ年だった。
ならば気兼ねなく古泉と呼ばせてもらおう。
「ああ古泉さん。もう降りてこられたのですか。紅茶は今入れていますから……」
新川さんが追加のビールを持って戻ってきた。
その言葉通り、直後にメイド姿の森さんと喜緑さんがティーポットとカップをのせたお盆を持ってやってきた。
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 03:51:13.35 ID:J4WyHnPC0
紫煙
86 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:06:07.02 ID:sDHzCwEM0
「ああ、これは生き返りますね……」
古泉は熱々の紅茶をありがたそうに口に運ぶ。
ティーカップのよく似合う男だ。
「泊まり客はこれで全員ですか?」
一息ついた古泉が俺たちを見回して聞く。
「いえ、あと四名いらっしゃいます」
新川さんが答えた。
「そうだ。喜緑さん。あの女の子達にも声をかけてみてくれませんか? お茶を欲しがっているかもしれません」
「はい」
新川さんの言葉を受けて、喜緑さんはパタパタとフロントに向かった。
「あの男の方はどうします? ちょっと怖い感じの……」
怖い感じ……あのコートにサングラスの、ヤクザの様な男のことだろう。
87 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:11:04.06 ID:sDHzCwEM0
「ああ…彼はいいでしょう。あまり人付き合いを好まれる方ではないようでしたし」
「わかりました」
頷いて、喜緑さんは内線電話を手に取った。
「オーナー。彼女たち、降りてくるそうです」
「じゃあ私はもう三人分用意してきますね」
森さんがお盆を持って立ち上がる。
「森さん、くれぐれも砂糖と塩を間違えないようにお願いします」
「もう、新川さんったら馬鹿にして」
ぷくっ、と頬を膨らませて森さんは台所に消えていった。
なんだ今のやり取り。
あまずっぺえ。
「くれぐれも…お願いしますよ森さん……」
なんて思ってたら新川さんはマジだった。
マジなのか……。
森さん、砂糖と塩を間違えるのか……。
萌える、かなあ?
88 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:15:09.19 ID:sDHzCwEM0
三人組はすぐに降りてきた。
「こんばんはー!」
「わあ~、紅茶のいい香り。どんな葉っぱ使ってるんでしょう?」
「まだテレビ見たかったのに…猫ちゃん……」
「まあまあ、いずれシリーズまとめてDVDで出るっさ!」
あっという間に談話室が騒がしくなる。
人が増えてきたので俺たちはソファを立ち、階段に腰掛けることにした。
それでもソファはぎゅうぎゅうだ。
森さんが飲み物を持ってやってきた。
砂糖と塩は間違えずにすんだのだろうか。
「会長くんにも声をかけたんですけどね。テレビを見てるらしくて今はいらないそうです」
「いただきまーす」
女の子達は声を揃えて飲み物に口をつけた。
89 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:21:56.64 ID:sDHzCwEM0
鳩時計が鳴る。
皆が一斉にそちらを見た。
鳴き声は、9回。
9時だ。
鳩が鳴きやむと、吹きすさぶ風の音がそれまで以上に大きく聞こえた。
窓枠ががたがた音を立て、分厚いガラスが割れそうに思える。
「雪崩なんか、起きないわよね」
心配そうに朝倉は言う。
「縁起でもないこと言わないでくださいよぅ。それでなくてもあんなことがあって気持ち悪いのに……」
朝比奈さんは言いかけて、はっとしたように口を押さえた。
「あんなこと? 何かあったんですか?」
古泉がのんびりと尋ねてくる。
まずいな。
今夜誰かが死ぬなんて書かれた紙切れのことなんて、伝えても気分が悪くなるだけだろう。
誤魔化すか。
「いやな。大雪で閉じ込められて飢え死にするんじゃないか、なんて話があったんだよ」
92 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:27:55.92 ID:sDHzCwEM0
「はは、まさか。それは大袈裟でしょう」
古泉は笑って言った。
「ペンションの方ですか?」
すかさず鶴屋さんが古泉に質問を重ねる。
「僕は泊まり客ですよ。古泉一樹と申します」
うまく誤魔化せたようだ。
古泉はそのまま自己紹介を続けた。
「フリーのカメラマンをやってます。風景写真を主に細々とやらせてもらってますが、要望があれば女性のヌードなどもお撮りしますよ」
冗談のつもりか、そう言ってにやりと笑ってみせる。
「ぬ、ヌードですかぁ?」
朝比奈さんが真っ赤になった。
「恥ずかしがることはありませんよ。確かに今は皆さん、肌に張りがあってお綺麗でいらっしゃいます。
ですが、いずれお年を召した時に、あの時の写真を撮っておけばよかったと、きっと思うことになりますよ」
それにここにいる皆さんは全員素晴らしい体をしていらっしゃるようですし、とセクハラすれすれの発言をかます古泉カメラマン。
こういう発言が許されるのは、やっぱりイケメンゆえなんだろう。
いや、僻みや妬みで言ってるんじゃないんだ。
もしそのセリフを谷口が言ったとしたら、全員から袋叩きに会う画が鮮明に頭に浮かぶ。
93 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 04:30:33.02 ID:72NGqGbIO
もしや国木田を殺したのは
94 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:31:48.32 ID:sDHzCwEM0
「みくる、撮ってもらえばー?」
「ひえぇ! む、無理です無理です! 無理ですよぅ!」
「あらあら、男に見せるためとしか思えないえっちな体してるくせに」
「や、やめてくださぁい! そ、それに、えっちっていうなら朝倉さんだってすっごくえっちじゃないですかぁ!」
「やめてよ。そんな言い方されたらなんだか私、とっても淫乱な女の子みたいじゃないの」
「あ、朝倉さんはえっちですぅ! えっちじゃなきゃあんな水着は着れませぇん!」
「や、やめてよ! 私淫乱じゃないわよ!!」
「二人とも全く私に触れてくれないから自分で言っちゃうけど、私もプロポーションにはちょぉっと自信があるっさ!!」
きゃいきゃいはしゃぐ三人娘。
神よ。何故だ。何故今回の舞台を海に設定してくれなかった……!
「お前はいらないのか? ヌード写真」
ハルヒに話を振ってみた。
「いらないわ」
「何故だ」
「私はこのプロポーションを還暦まで保つもの」
マジか。おい結婚してくれ。
95 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:35:49.36 ID:sDHzCwEM0
ガシャン!! と、何か大きな音が響いた。
「……何だ、今の。何かガラスが割れたみたいな音だったけど」
音に大きく反応した谷口は訝しげに二階を見上げている。
「少し見てきます」
新川さんはすぐに立ち上がると、廊下の奥に消えていった。
さっきまでの楽しげな雰囲気は雲散霧消してしまった。
新川さんが戻ってくる。隣に会長を引き連れていた。
「一階には異常は見当たりませんでした。申し訳ありませんが皆さん、ご自分の部屋を確認していただけないでしょうか。放っておいたら冷凍庫になってしまいますので」
そりゃ大変、と俺たちは慌てて二階へと上がった。
96 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:42:00.10 ID:sDHzCwEM0
がちゃり、とドアを開けて自分の部屋をチェックする。
一見して何も異常が無いのはわかる。
念のため窓に歩み寄り、ガタガタと揺らしてみたりしたが問題なし。
ふむ、と一息ついて俺は廊下に出た。
ハルヒ、谷口、阪中、古泉、鶴屋さん、朝比奈さん、朝倉。全員が廊下に出てきている。
その様子を見れば、何も無かったことは読心術の心得が無くたってわかる。
やがて空き部屋を調べていたらしい新川さんも廊下に出てきた。
「皆さん、異常はありませんでしたか?」
頷く俺たち。
「……なら、あとは一部屋しかありませんね」
そう言って新川さんはある扉を見つめる。
あの、ヤクザのような男の部屋なのだろう。
俺たちは自然と新川さんを取り巻くようにして立っていた。
「そういえば、あの脅迫状、もしかしたらあの人が書いたのかもね」
ハルヒがぽつりと口にする。
「どういう意味だ?」
「誰かをその部屋で殺したのかも」
物騒なことを言い出しやがった。
98 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:45:49.39 ID:sDHzCwEM0
「馬鹿言うなよ。それに、まだ9時過ぎだぜ? あの脅迫状が真実だとしても、予告の時間は12時だったろうが」
「そうだけど。だいたい犯行予告なんてのは、捜査陣を惑わすために出すものでしょ?」
「まあ、確かにそうかもしれんが」
新川さんが扉をノックした。
「お客様! 田中様!」
そうか、あの客は田中というのか。
新川さんはノックしてしばらく待つが、田中さんから返事はない。
耳をすましていると、中から何かが風であおられているような音がする。
「お客様!」
ドン、ドン、と強く扉を叩く新川さん。
が、やはり返事は無い。
ドアノブを捻るも、鍵がかかっていて開かない。
新川さんは少しだけためらったが、持っていた鍵を鍵穴にさし込んだ。
かちり、とロックの外れる音がする。
「失礼いたします」
新川さんはそう言ってドアを開いた。
99 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 04:50:08.99 ID:sDHzCwEM0
新川さんがドアを開けた瞬間、その部屋がおかしいことはわかった。
ドアの隙間からひどい冷気と共に一陣の風が俺たちの間を吹きぬけたのだ。
室内からは、ばたばたとカーテンが揺れる音と、がたんがたんと何かが叩きつけられるような音が聞こえてくる。
「お客様!」
新川さんが手を離すと、ドアは風に吹かれて勢いよく開き、壁にぶち当たった。
部屋の中が見える。
俺の部屋と同じツインの部屋だ。
開け放たれた窓から吹き込む雪が、狂ったように乱舞していた。
重いカーテンが、カーテンレールから引きちぎられそうなほどばたついている。
窓側のベッドに雪とガラスの破片が少し散らばっているだけで、人の姿はなかった。
「お客様! 田中様!」
新川さんは叫びながら、入り口脇にあるバスルームの扉を開ける。
がたん、と窓のほうから音がした。
見ると、ほとんど枠だけになった窓が外側の壁に叩きつけられている。
おかしい。
田中さんはどこに消えたんだ?
窓から出て行ったのか?
まさか。この吹雪の中外に出て一体何をしようってんだ。
100 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 04:53:59.23 ID:ZAv9JQLlP
もういいよ古泉と上みにいって殺されれば
101 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:01:47.17 ID:sDHzCwEM0
新川さんはバスルームの扉を閉じると、部屋の奥へと歩を進める。
俺とハルヒもそのあとについて部屋の中に入り、残りの皆は廊下から部屋を覗き込んでいた。
吹き込む雪と風から顔を守るように右手をかざし、新川さんは窓に辿り着いた。
てっきり窓の外を覗き込むのかと思ったが、新川さんはそこでぎょっとしたように立ちすくんだ。
「……何だこれは」
何気なく近寄って、俺は彼の視線の先を辿った。
窓とベッドの間は数十センチあいている。
その床の上に、マネキン人形の部品のようなものが落ちていた。
黒い布から突き出た手首。
その上に無造作に置かれた土気色をした足首。
そして青黒い顔の近くにはサングラスが落ちている。
バラバラになった人間の体が、無造作に積まれていた。
「なんてことだ…これは……死体だ。人間の、死体だ……!」
新川さんは声を震わせる。
ハルヒは呆然として雪の積もり始めたその死体の山を見ながら立ち尽くしている。
そして俺は。
俺は。
俺は。
「国木田――――――?」
俺は、絶対に知るはずの無いその死体の名を、呼んでいた。
102 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:03:58.13 ID:sDHzCwEM0
「『吹雪によって閉じ込められたペンションで起きる連続殺人。果たして主人公とヒロインは無事生還することが出来るのか』、とまあこんな感じ」
「殺人事件か。それはホラーというか、ミステリー小説みたいだな」
「立派なホラーだよ。選択を誤ればバンバン人が死ぬ」
「そりゃあ成程、ホラーだな」
104 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:08:16.86 ID:sDHzCwEM0
「どうされました? あなたの番ですよ?」
古泉のその声で、俺は我に返った。
「は? へ?」
くるりと部屋の中を見渡す。
そこはSOS団の部室だった。
えーと。あれ?
バラバラ死体はどうなった?
今の季節はいつだっけ?
「おや、このセミの大合唱が聞こえませんか? 今はもう夏休みに突入していて、僕等は進学校らしく夏課外ということで学校に登校し、放課後をこうしてSOS団で過ごしているところですよ」
オセロ盤を挟んで対面に座っている古泉が、指でオセロの駒を弄びながら言う。
夢…だったのか?
105 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:12:51.72 ID:sDHzCwEM0
改めてゆっくりと部屋の中を観察する。
SOS団団長であるところの涼宮ハルヒは何だかボケッとしながらパソコンの画面を見つめていて。
部屋の隅では長門有希がいつもどおり本を読んでいて。
そして俺が熱望するまでもなく、朝比奈さんはメイド服に身を包み、俺に熱いお茶を差し出してくれる。
それはまるっきり日常の風景。
古泉はフリーのカメラマンではなく、朝比奈さんはOLではなく、俺とハルヒは大学生なんかではなく、皆仲良く高校生をやっている。
つまり、どう考えても、あれは夢だったという結論にしか辿り着かない。
「あー…俺疲れてんのかな」
「かもしれませんね。色々ありましたし」
古泉が頷く。
俺がこういう弱音を吐けば、いつもなら、ハルヒが鬼の首を取ったかのごとく突っ込んでくるのだが今日は大人しい。
……国木田のことがあるからだろう。
さすがのハルヒも、国木田が亡くなってから、なんというか、俺に色々気を使うようになった。
相当凹んでたしな、俺。
まあその凹みは、まだ完全に修繕されたとはとても言えないんだが、な。
国木田。
国木田、ね。
107 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:16:30.89 ID:sDHzCwEM0
「なあ古泉」
「なんでしょう?」
国木田は。
トラックに正面衝突したあいつは。
「……なんでもない」
まったく、一体何を聞こうとしているんだか。
寝ぼけていたとしても最悪だ。
国木田は、どんな風に死んだのか―――なんて。
もしかして、死体はバラバラになってしまったりしていなかったかなんて。
どうかしてるぜ。
俺は苦笑しながらオセロ盤に駒を置く。
古泉の白はもう盤面に数えるほどしか残っていない。
「参りました」
「お前…オセロで参ったはないだろう」
「潔いのだけが取り柄でして」
そう言って微笑む古泉。
まあいい。ちょうどよかった。
やっぱりどうも調子が悪いんで、今日のところはこれで退散させてもらうとしよう。
ハルヒはやっぱり俺に何も言ってこなかった。
108 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:20:53.86 ID:sDHzCwEM0
そして。俺は帰宅して。
そして。俺は自分の部屋に辿り着き。
俺は思い出す。
俺は思い至る。
夢なんかではない、悪夢のような、現実に。
俺の目の前で、ゲーム機が勝手に動き出す。
俺はゲーム機に一切触れてなどいないのに。
ペンション『シュプール』へようこそ。
お客様のお名前は キョン 様。
おつれ様は ハルヒ 様ですね。
そして。
俺の意識は、闇の底へ落ちる。
―――それでは、どうぞごゆっくりかまいたちの夜の世界をお楽しみください。
109 :
◆QKyDtVSKJoDf :2010/10/03(日) 05:25:27.40 ID:sDHzCwEM0
ちょっと休憩
原作知らない人でもわかるようにと思ってかなり原作なぞってるけど
やっぱ原作知ってる人からしたら冗長だよなあ
それに原作知らねえ人はそもそもこれ読まねえか?
まあいいや
しばらくはまた原作の流れ辿っていくけど
原作知ってる人は懐かしいなあとかちょっとしたセリフの違いとかを生ぬるく楽しんでくれたらありがたいっす
110 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 05:26:57.63 ID:8l2McM/h0
>>109
おつかれ。
結構楽しんでるよ。
113 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 05:52:51.28 ID:IdGYf8geO
原作知らんけど面白いっす
114 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/10/03(日) 06:29:58.72 ID:Ac88qWPs0
かまいたちは10年くらい前にやったきりなので懐かしいです
がんばってください
チュンソフト (1998-12-03)
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これは長丁場になりそうだ、続きをブックマークして今日は寝るとしよう。
それにしても、こういった一人語りを読んだあとだと
俺の感想まで語りに似てしまう気がするのは、気のせいだろうか?