1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/12(土) 21:42:07.86 ID:QJB6yykZ0
私の恋人はやけに生真面目で、堅物で、女性だ。
メタルなんて全然好きじゃなくて、むつかしい本を読んでいて、あんまり私がふざけると嫌そうな顔をする。
そんなわけだから、正直どうして恋人同士でいるのか不思議なくらいだ。
「和ちゃん、和ちゃん」
「なんですか」
「えっと、変なこと言うから、聞いてくれるかしら」
「どうぞ」
「……付き合ってくれる?」
馴れ初めからして、彼女はこんな風に素っ気なかった。
放課後の生徒会室、なんてところで打ち明けたのも悪かったかも知れないが。
ちなみに、この時の彼女の返事は、お好きにどうぞ、だった。
けれど、私は彼女が好きだ。
年下なのに私よりしっかりしていて、女性なのにそこらの男よりさっぱりした性格の彼女が好きだ。
そんな彼女と付き合い始めてそろそろ一ヶ月が経つ。
彼女は今でも、私のことを山中先生と呼ぶ。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/12(土) 21:44:14.80 ID:QJB6yykZ0
「先生、今週は遊びに誘ってくださらないんですね」
ある日、突然こんなことを言われた。
そもそも彼女のほうから週末のことを言ってくるのが珍しいし、
それも授業が終わったあと、まだ周りに生徒もいるときのことだったから、尚更だ。
私は小声で返した。
「あとでね」
彼女はいたずらっぽく微笑んで、私から離れていき、また平生通り大人びた振る舞いでクラスメイトたちと談笑をしながら、音楽室を出て行った。
たまらなく胸が脈打つ。
恐怖と、あと何かがごちゃまぜになったような感じだ。
私が誘ったときは用事があるだの勉強するだの言うくせに、急にこんな風に誘ってくるなんて、一体何を考えているんだろう。
不思議に思いながらも、私の胸は高鳴った。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/12(土) 21:47:15.22 ID:QJB6yykZ0
私が彼女と自由にお喋りできるのは、いつも放課後の生徒会室で、
私は何か大層な用事でもあるかのように、少し胸を張って入っていく。
いつも、彼女は短い髪の毛を弄って、頬杖を突いて私を待っている。
「こんにちは」
「こんにちは」
お互いに挨拶をした後は、あまり彼女のほうから話しかけてくることはない。
むつかしそうな顔をして、物理の教科書なんかを読んでいる。
私がじっと見つめていても表情一つ変えない。
じれったくなって、私は彼女に話しかけた。
「ねえ、和ちゃん、今度の日曜日、本屋にでも行こうか」
彼女は顔を上げて、目にかかった前髪を払い、私を見つめた。
「本屋じゃなくてもいいよ?」
私が付け加えると、彼女はくつくつと笑った。
「遠慮しておきます。家で勉強をしておきます」
そうして立ち上がって、振り向かずに生徒会室を後にした。
私は一つ大きくため息をして、それがすっかり秋の夕陽に溶かされてしまった後で、あー、と声を上げた。
「あー……もう、なんなのよ」
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/02/12(土) 21:50:15.95 ID:QJB6yykZ0
いつもこんな感じで、実を言えば彼女と私が一緒に出かけたことなんてない。
精精、生徒会の会議で帰りが遅くなったときに、家に送って行くくらいだ。
それも、付き合い始めて数日後に、一度あったきり。
私は勢い良く立ち上がって、生徒会室から大股で離れていった。
その日は仕事が割合早く終わった。
苛々した気分もこれでどっこいどっこい、と言ったところだろうか、私は自分で思ったより柔らかい表情をしていた。
車に乗り込みサイドミラーで見るまで気づかなかった。
キーを回すとエンジンが怒声を上げて、車が揺れ出す。
アクセルを踏んで、学校を後にした。
曲がり角をあっちにこっちに曲がって、非効率極まりない道順で家を目指す。
和ちゃんの帰路を辿っているのだが、さんざ彼女が冷たくあしらうのだから、このくらいはしてもいいのではないか、と思う。
とはいえ、流石に彼女の帰宅時間と私の帰宅時間は大きくずれているので、こうして追っていっても鉢合わせをすることなど無かった。
しかし、どうしたことか、その日私はふと目を遣った歩道に彼女を見つけた。
いつもは起こりえないことが、その日に限って起こった理由は直ぐに分かった。
彼女の隣には、彼女の幼馴染がクレープをもって立っていたからだ。
【続きを読む】