1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:20:13.18 ID:6tGkjGdu0
魔王「……」
隠されるようにして森の奥に建てられた、小さなお城。
しかしそれはもはや城とは言えず、ただの朽ち果てた廃墟でした。
魔王「……」
そこに人はひとりもおらず。
角の生えた人外が、ひとり。
魔王「……」
ひとりぼっちで生きている。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:21:03.67 ID:6tGkjGdu0
1000年前。
魔王は勇者と出会いました。
ありきたりな世界でした。
人間を滅ぼそうとした魔王を、勇者が止めるようなそんな世界。
勇者「なぜ人を襲う!」
魔王「相容れぬ存在だからだ!」
本当は、嫉妬でした。
人が羨ましかったのです。
あたたかく、ひだまりのようなぬくもりが。
魔王には、ぬくもりがありませんでした。
生まれたころから戦いだけに生き、孤独でした。
だから本当に、羨ましかったのです。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:22:42.56 ID:6tGkjGdu0
勇者の剣が、魔王を討とうとしていました。
魔王はその時、恐怖よりも安心したのです。
もう、寂しい思いをすることはありません。
魔王「ようやく、死ねるのだな……」
魔王は笑みを浮かべ、幸せに死のうと思い。
しかし、勇者の剣が魔王の首をはねることはありませんでした。
勇者「魔王、君は……」
魔王「何をためらう、勇者よ。はやく私を殺してくれ」
もう、疲れた。
そう言って魔王は瞳を閉じて。
ぎゅっと、抱きしめられたのです。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:24:44.46 ID:6tGkjGdu0
はじめてのぬくもりでした。
魔王「な、何をする勇者。血迷ったか!」
勇者「魔王は、寂しかったんだな」
勇者は気が狂ってしまったのか。
倒すべき存在を慰めるなど、そう魔王は困惑しました。
ようやく死ねる。死にたい。死にたい。だから早く殺してくれ。
そう懇願する魔王に、勇者は言いました。
勇者「魔王、君はひとりぼっちじゃない」
そんな、はじめてのぬくもりに。
魔王は。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:27:40.20 ID:6tGkjGdu0
夢を見ていた魔王は、静かに顔をあげました。
魔王「……寝ていたのか」
魔王(あれから何年たったのだろう…。勇者よ、私はやっぱり)
ひとりぼっちじゃないか。
と、魔王はひとりごちました。
魔王「うそつき」
魔王「うそつき」
魔王「うそつき、め……」
幸せな日々でした。
はじめてのぬくもりに怯え、震え、揺らぎ。
それを受け入れると、今度はあまりのあたたかさに火傷しそうで。
喧嘩をし、仲直りをし、怒り、泣いて、笑って。
他愛もない話を、何より愛おしく感じ。
幸せだったのです。
12 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:29:37.78 ID:6tGkjGdu0
勇者は死にました。
老いて死にました。
魔王は、老いることはありませんでした。
いつまでも若いままです。
世界は平和でした。
勇者が救った世界は、勇者がいなくても平和なままだったのです。
耐えられませんでした。
だから、魔王は人のいない場所まで逃げて。
いつか勇者が戻って来た時のために、小さなお城を。
魔王「……そんなわけないじゃないか」
勇者は死にました。
勇者は、もう戻ってこないのです。
だからきっと幻聴なのです。
こんこんと、小さく扉を叩く音は。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:32:08.59 ID:6tGkjGdu0
魔王は、死にたかったのです。
ぬくもりを知らなかったあの頃も。
ぬくもりを知ってしまった今も。
ぬくもりがないのならば、意味がないのです。
自ら命を絶つことはできませんでした。
なぜかはわかりません。
たぶん、臆病ものだったからです。
だから勇者を失って、ずっと、ずっと、何も食べずに。
いつの間にか死ねばいいと、生きてきました。
扉を叩く音が聞こえます。
こんこん、こんこん。
誰かいませんか。
少女の声でした。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:35:03.97 ID:6tGkjGdu0
落胆と絶望が生まれました。
勇者じゃない。
大切な人がいなくても何も変わらない。
そんな忌むべき存在が、扉の前にいる。
けれど同時に、喜びと希望も感じたのです。
1000年近く、誰とも接しなかった魔王。
自分の気持ちがわからず、扉を開けるのが怖かったのです。
小さなお城の、小さな扉を、一生懸命開いて。
少女が、やってきました。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:37:57.65 ID:6tGkjGdu0
その少女が愛しかった。
嫌いだったはずだった。
大切な人がいなくても回る世界なんて、嫌いで。
でも、少女の、小さなぬくもりの姿を見たら。
あの人が、守ったおかげで今あるぬくもりなんだと思うと。
たまらなく、愛おしかったのです。
少女「こ、こんにちは」
魔王「……」
少女「王様なんですか?」
魔王「……」
少女「わたしは、探険してて、ここにきました」
魔王「……」
少女「王様は、なんで泣いてるんですか?」
まぶしくて。
そのひだまりがまぶしくて泣いているんだよ、と魔王は言いました。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:39:35.56 ID:6tGkjGdu0
少女は魔王の眼前までやってくると、つま先で立ち、手を伸ばしました。
少女「泣かないでください」
そう言って、魔王の頭を撫でました。
魔王「怖くないの」
少女「何がですか?」
魔王「こんなに大きな角があるのに」
少女「立派な角だと思います」
魔王「こんなにみすぼらしい格好なのに」
少女「全然そんなことありません」
魔王「そう…」
そうか。
そう言って魔王は瞳を閉じました。
溢れる涙は止まりませんでした。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:41:16.83 ID:6tGkjGdu0
このぬくもりを、自分はいつかまた失うのだろうか。
自分を見て驚かなかったということは、今でも人と魔族は共存しているのかもしれない。
そうか、彼の守った世界は。
彼がいなくても、ちゃんと平和なんだ。
勇者が守ったから。守ったから平和なんだ。
……あたたかい。
少女「寂しかったんですね」
ぎゅっと、いつか感じたぬくもりが確かにあった。
少女「もう、ひとりぼっちじゃないですよ」
あまりにもあたたかくて、眠くなってきた。
さきほど目を覚ましたばかりだというのに、おかしいな。
眠い。
あたたかい。
目が覚めたら、彼の守った世界を見に行こう。
きっとひだまりが待っている。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:42:27.54 ID:6tGkjGdu0
おしまい
短くてすまん
むしゃくしゃして書いた、反省はしてない
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:43:12.95 ID:6fPjZOmm0
乙 短編いいね
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:44:51.61 ID:z5hPK4sf0
乙 ほんわかした。
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:48:01.71 ID:00kZHlyWO
乙 鬱を期待した俺を許してくれ
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:49:26.80 ID:9HXSwkcq0
乙乙
なんともいえない気分になった
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 09:53:13.34 ID:c1jNQ2LL0
乙
土曜の朝から泣かせるなよ
魔王おやすみ
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 10:15:58.73 ID:qsQ/58lK0
乙
よかったぞ
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 10:20:12.16 ID:/P4vgSW40
泣いた
30 :
忍法帖【Lv=11,xxxPT】 :2011/11/05(土) 10:25:41.21 ID:j9C3nbq40
乙
ちょっと外に出たくなった
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2011/11/05(土) 10:27:02.40 ID:Ci3CcncGO
魔王はこれ永眠したのか
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ひらがなが優しい雰囲気出してる
切なくてあったかい