1 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:19:55 ID:UXsy/MQ6
ここに記すのは、
私が勇者を辞めるキッカケとなった、とある村での出来事。
救えなかった、少年の話だ。
個人名が一つだけある。
気にしないでくれると助かる。
2 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:21:09 ID:UXsy/MQ6
十年前。
冬。
雪が降っていた。
村の隅で、小さな人影は小さな雪だるまを作っていた。
勇者「可愛い雪だるまだな」
少年「……………」
勇者(……よく見れば、雪だるまにしては丸々としていない。背中には突起物があるし、)
勇者「--カッコイい雪だるまだな」
少年「……ありがとう。でもこれ、雪だるまじゃない」
少年「竜だよ」
勇者「…………りゅ、竜かぁ……」
少年「…………もう、雪だるまでいい」シュン
勇者「あ、いや、えっと……見えなくもないよ。竜に。か、カッコイいなぁ」
少年「ほんと?」
勇者「うん、ほんと」
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:22:02 ID:UXsy/MQ6
少年「えへへ、ありがとう。おじさん」ニコッ
勇者「………………」
勇者(おじさん、か……これぐらいの子からみたら、俺はもうおじさんなのか、)
少年「どうしたの?」
勇者「……………なんでもないよ。気にしないでくれ」
少年「…………、」クスッ
少年「変なおにいさん」クスクスッ
十年前。
冬の終わり。
一面の雪景色は終わりを迎え、
白以外の色は各段に増えていた。
勇者「……ここにいたのか、」
少年「ぼくを探していたの?」
勇者「ああ」
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:23:09 ID:UXsy/MQ6
勇者「もう出発するから、挨拶でもって」
少年「……まだ冬は終わってないのに」
勇者「元々、本格的な冬が来る前に村から出る予定だったんだ。ほらここ、雪凄かったし」
勇者「それが、この村で冬を越すことになったから、急いで戻るってさ」
少年「そっか……おにいさん、商人さん達の護衛だもんね」
少年「……さよなら、おにいさん。話し相手になってくれて、ありがとう」
勇者「さよならじゃないよ」
勇者「また来る。早くて夏の終わり、遅くても秋には。今回からの長期契約だからな、この商人達とは」
少年「…………」
勇者「だから、またね、だ」
少年「うん」
勇者「--あ、そうだ。名前、聞いてなかった」
少年「…………、」
勇者「教えてくれるか?君の名前」
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:25:00 ID:UXsy/MQ6
少年「…………」プイッ タタタッ
勇者(……打ち解けたと思ったんだけど、そっぽ向かれた上に逃げられるなんてなぁ……)
少年「…………、」クルッ
勇者(ん?足を止めて、振り返った?)
少年「シキ」
勇者「え?」
少年「名前」
勇者「シキ?」
少年「うん」クスッ
少年「またね。おにいさん!」
九年前。
秋。
紅く色付く山。
その奥深くに、その村はある。
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:27:24 ID:UXsy/MQ6
勇者(また、一人でいる)
勇者「シキ!」
シキ「…………?」
勇者「久しぶり。元気だったか?」
シキ「…………あ、」
勇者「あ、っと……去年の冬、話した事あるんだけど……俺のこと、もう覚えてない?」
シキ「…………ごめんなさい」タタタッ
勇者「え、」
勇者(逃げられてしまった……)
勇者(仕方ないか、ほぼ一年会ってないんだし、忘れられてしまうのも)
勇者(それにしても、あの子……雰囲気変わったなぁ)
九年前。
秋。
久しぶりの再会は苦い物だった。
姿を見かけても、また声をかける勇気は無い。
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:29:22 ID:UXsy/MQ6
シキ「おじさん」
勇者「へ?」
シキ「じゃなかった、おにいさん。久しぶり。また来てくれたんだ」
勇者「あ……うん、」
シキ「ごめんね、忙しそうだったからなかなか声かけられなくて」
勇者「……シキ?」
シキ「なに?」
勇者「俺のこと、覚えてるのか?」
シキ「覚えてなかったら声なんてかけないよ」クスッ
勇者「…………、もしかして」
シキ「?」
勇者「君は、兄弟とか、いたりする?」
シキ「……シキに会ったの?」
勇者「え?シキ?」
シキ「シキとぼくはそっくりなんだ。ぼくより少し、怖がりだけど」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:31:07 ID:UXsy/MQ6
勇者「兄弟?」
シキ「みたいなものだよ。ずっと一緒だから」
勇者「同じ名前なんだ」
シキ「うん」
勇者(兄弟で同じ名前、か。……そういう名付けもあるんだな……)
勇者(にしても、)
勇者「……悪いことしたなぁ」
勇者「知らない人から突然名前を呼ばれてやけに親しげに近付かれたんじゃ、怖くて逃げるのも当然か」
シキ「シキはおにいさんのこと知ってるよ。ぼくが話したから」
シキ「多分、どうすれば良いかわからなくなっちゃたから、逃げたんだと思う」
勇者「……なんせ、村では見ない顔だし、不審者だと思われてないなら良いか」
シキ「ごめんね、」
勇者「いや、いいよ」
勇者「でもな……、兄弟がいたか。困ったな」
シキ「?どうしたの?」
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:32:52 ID:UXsy/MQ6
勇者「ちょっと待ってて。すぐ戻るから」タタタタッ
数分後。
勇者「はい、これ」
シキ「……小さな、袋?何か入ってる、……中から甘い匂いがするね」クンクン
勇者「お土産。っても、そんな期待するようなもんじゃないからな」
勇者「一応、ここでは珍しい部類のお菓子、だと思うけど。……それ、一つしか持って来てなくてさ」
勇者「今回は二人で分けてくれ、な」
シキ「…………、」
勇者「ご、ごめん!俺、気がきかなくて。そうだよな、もし兄弟がいたらって考えてたら」
シキ「ありがとう!」ニコッ
シキ「ふふっ。お土産貰ったの、初めてだ。ぼくら二人になら、シキもきっと喜ぶ」
シキ「ありがとう、おにいさん!」ニコニコ
勇者「そこまで喜んでくれるなら、俺も嬉しいよ」
シキ「----、」
シキ「--シキも、喜んでるよ。今度、逃げないでちゃんとお礼言うって言ってるから」
シキ「シキをよろしくね、おにいさん」ニコニコ
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:34:07 ID:UXsy/MQ6
九年前。
秋。
出会った少年には、そっくりな兄弟がいた。
シキとシキ。同じ姿、同じ名前の。
シキ「…………」ジー
勇者「うおっ!?」
勇者(後ろにいたのか、全く気配を感じなかった)
シキ「……あ、のっ……」
勇者「……………、」
勇者(シキと瓜二つ、だが、雰囲気が違う。--あの時の子か。シキが言っていた、もう一人のシキ)
シキ「………………ました」ボソボソ
勇者「え?」
シキ「っ、」カァァア
勇者「あ、ごめん!聞き取れなかったから、今度はちゃんと聞くから」
勇者「もう一度、言ってくれると、助かる、んだけど……」
シキ「……お菓子、ありがとう、ございました……」ペコッ
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:35:19 ID:UXsy/MQ6
勇者「どういたしまして」ニコッ
シキ「………………えっと、その……おれ、……ごめんなさい、」
シキ「要件は、それだけ、です……もう行きますね」クルッ
勇者「あ、待って」
シキ「は、はい……」ピタッ
勇者(……雰囲気どころじゃない、同じ姿で同じ名前だけど、内面はまるっきり違うようだ)
勇者「あのさ、」
勇者「……正直な話、村にいる間は簡単な雑用ばかりで暇なんだ。道中の護衛が商談に混ざるわけにもいかないし」
勇者「だから、君の都合が良い時、時々で良いから俺の話し相手になってくれると助かるかな、」
シキ「……おれ、は、シキと違って、話すのは、得意じゃなくて」
勇者「得意じゃなくても助かるよ」
シキ「……あの、じゃあ……おれ、」
シキ「また、来ます……!」タタタタッ
勇者「うん、待ってるよ」
12 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:36:11 ID:UXsy/MQ6
九年前。
秋の終わり。
冷たい風が吹くようになった頃。
護衛対象の商団は、拠点の町に戻ることを決めた。
シキ「もう、行っちゃうんだね」
勇者「ああ。去年の事があるから、早めに出発するんだってさ」
シキ「…………、さよなら。おにいさん。ぼく達の話し相手になってくれて、ありがとう」
勇者「さよならじゃないよ。またね、だって」
シキ「!」
勇者「次の夏の終わり、秋にでも。また会おう」
勇者「それに、俺こそ、話し相手になってくれてありがとう」
シキ「うん。どういたしまして」ニコッ
勇者「今度は二人分、お土産持ってくるよ」
シキ「……いいの?僕らは何も渡せないのに」
勇者「いいよ。俺がやりたいだけだから」
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:37:48 ID:UXsy/MQ6
シキ「えへへ……ありがとう。お土産、期待して良い?」
勇者「いや、それはやめて。プレッシャーかかる。期待は最小で」
シキ「ふふっ、わかった」
シキ「……本当は、シキと一緒に見送りたいけど、出来なくて、ごめんね」
勇者「……シキに、よろしくな」
シキ「うん」
シキ「またね、おにいさん!」
勇者「ああ。またな」
八年前。
夏の終わり。
その村には、その景色に不釣り合いな建物があった。
そこで何をしているかは、知らない。
シキ「おにいさん!」タタタタッ
勇者「久しぶり。元気にしてたか?」
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:39:30 ID:UXsy/MQ6
シキ「はい」
勇者「シキも。元気?」
シキ「はい、元気です」
勇者「そっか。良かった良かった」
シキ「おにいさんも、変わらず元気そうで。良かったです」ヘラリ
勇者「そりゃあ、変わらないよ。俺は成長しきったからな」
勇者「お前は……背、少し伸びたな」ワシャワシャ
シキ「ほんとに少し、ですけど」ニコニコ
勇者「すぐに大きくなるんだろうなぁ、子供の成長は凄まじいし」
シキ「おにいさんは、大きくならない方がいいですか?」
勇者「へ?あ、いやそんなことないよ。むしろ、成長が楽しみかもしれない」
勇者「何時かは、……よっ、と」ヒョイ
シキ「!」
勇者「こうして持ち上げられなくなるんだろうな。ほら、高い高ーい」
シキ「あ、あの……!少し、恥ずかしい、です……」
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:41:20 ID:UXsy/MQ6
勇者「……すまん。もうそんな年じゃないよな」ストン
シキ「…………」
勇者「…………」
勇者「あ、これお土産」
シキ「あ、ありがとうございます」
八年前。
秋。
この商人達が何を扱っているか、その全貌は知らない。
が、村人達への一般的な物資だけじゃない事には、気付いていた。
勇者「高い高い」ヒョイヒョイ
シキ「……………」
勇者「高い高ーい」ヒョイヒョーイ
シキ「おにいさん、僕だって怒るよ?」
勇者「すまん」ストン
シキ「いきなり、なに?出会い頭に、高い高い、だなんて」
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/21(土) 19:43:03 ID:UXsy/MQ6
勇者「いや、シキにだけやるのは不公平かなって」
シキ「そんな公平いらないよ」クスッ
勇者「……久しぶりだな、シキ」
シキ「久しぶり。お土産ありがとう。お菓子、美味しかったよ」
勇者「そうか、そりゃ良かった」
勇者「それにしても……」チラッ
シキ「なに?」
勇者「見た目は同じなのに、中身は全然違うんだなって」
シキ「それはそうだよ、僕とシキは同じだけど、僕は僕で、シキはシキなんだから」
勇者「ま、そうだよなー」ワシャワシャ
シキ「やめてよおじさん。僕は繊細なんだから、撫でるなら優しく」
勇者「こんなにそっくりなのに、表情がまるっきり違うからな。多分、お前ら二人が隣同士で並んでても、すぐに見分けられる気がする」
シキ「……実はね、おにいさんだけなんだ。母さん以外に僕らを見分けられるのは」
勇者「マジか。こんなに違うのに」
シキ「誇っていいよ、おにいさん」クスクスッ
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/22(日) 00:17:50 ID:B39JU2qc
八年前。
秋。
検査中だから。そう答えた。
シキとシキが、一緒にいられないのは。
シキ「俺が起きている時、シキは検査で寝てるんです」
シキ「逆に、シキが起きている時は、俺が検査中で、寝てる」
勇者「検査?って……何で?」
シキ「検査しないと駄目なんです。特にシキは」
シキ「ちゃんとやらないと、いなくなっちゃうかもしれない。だから、」
勇者「…………それ、どこでやってるんだ?」
シキ「あの、建物。村の研究所」
勇者(……山奥の村には不釣り合いな、やけに都会的な建物--研究所だったのか。やっぱりこの村、ただの村じゃないな)
シキ「この村の子は、みんな検査してます。……みんな同じ。だけど、みんな俺達が嫌い」
勇者(嫌い、ね。だからいつも一人ってわけか)
シキ「……ごめんなさい。俺達と仲良くしてるから、おにいさんも嫌われるかもしれない」
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/22(日) 00:19:12 ID:B39JU2qc
勇者「大丈夫。二人がいれば話し相手には充分だ」
シキ「ほんとに?」
勇者「ほんとに」
シキ「……良かった」ヘラリ
勇者「なぁ、寂しくないのか?検査中は、二人で遊べないんだろ?」
シキ「研究所でなら、一緒にいられる。シキが寝てる時は話せないけど、」
シキ「それに、俺達はいつも繋がってるから」
シキ「俺とシキは同じなんです。好きな物も嫌いな物も、全部一緒」
シキ「だから、俺達は、おにいさんのこと、」
勇者「俺の、こと?」
シキ「…………」ジー
勇者「え、あ、何?」
シキ「耳、貸して、ください」
勇者「あ、うん。どうぞ」
20 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/22(日) 00:19:56 ID:B39JU2qc
シキ「…………、」
シキ「俺達は、おにいさんのこと、」
シキ「大好き、です」
八年前。
秋の終わり。
その時、初めて子供が欲しいと思った。
家庭が持ちたい。彼女すらいないけど。
シキ「シキ、可愛いでしょ」
勇者「おう。女の子だったらさらにヤバかったかもしれない」
シキ「僕が同じことやったとしたら?」
勇者「お前は自分の顔の良さに自覚があるからな。可愛い以前にあざとく感じる」
シキ「ふふっ、だよね」
21 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/22(日) 00:22:49 ID:B39JU2qc
勇者「初めて会った時は普通の可愛い子供だったのになぁ、たった一年二年でこんな子供になっちゃって」
シキ「おにいさんはさ、よく、僕に声かける気になったね」
勇者「くそ寒い中雪まみれで一人雪遊びしてる子供がいれば、声ぐらいかけたくなるさ」
シキ「でもこの村、普通じゃないんでしょ?」
勇者「!!」
シキ「母さんが言うんだ。この村は異常だ、ここの人間はみんな、普通じゃないって」
シキ「でも、みんなこれが普通だと思ってる。異常だと思ってる僕らが、異常なんだ」
シキ「だから、この話は絶対に誰かにしちゃいけない。母さんはそう言ってた」
勇者「なんでその話を、俺に?」
シキ「シキが言ったじゃないか。『俺達は、おにいさんのこと、大好きです』って」
シキ「好きだからだよ。おにいさん」
シキ「……おにいさんは、もう僕らに関わっちゃ、駄目なんだ」
シキ「今年は、またね、はいらない」
シキ「さよなら、おにいさん」
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:19:31 ID:W1gEKWHo
××年前。
冬。
降り積もる雪は、この村をさらに隔絶させる。
それが嫌で、シキは冬が嫌いだった。
--もう、会っちゃ駄目なの?
シキ「……お兄さんは知らないんだ。この村で何が行われているのか」
シキ「僕達が何なのか、この村の子供が何なのかを、知らないんだ」
………………、
シキ「僕と違って、シキは弱いから」
シキ「知ってしまったおにいさんに拒否されたら、悲しくて泣いちゃうだろ?」
悲しいは知らない。
泣くも知らない。
全部、シキだけが知ってる。
シキ「こんな悲しみは、シキにはまだ早い」
……さよならは知ってる。
もう会えなくなること。
さよならを言ったシキは、悲しかったの?
25 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:20:38 ID:W1gEKWHo
シキ「うん。おにいさん、馬鹿みたいにショック受けた顔してたから、余計に」
シキ。
俺、強くなるよ。
シキ「……いきなり、なに?」
シキだけに悲しい思いはさせない。
俺が強くなれば、俺とシキで、悲しいは半分。
シキ「……………なんだかなぁ、」クスッ
シキ「おにいさんに懐いてから、一気に成長したよね」
?
シキ(でも、まだだ。シキは知らない)
シキ(--いや、知らないではなく、理解していない)
シキ(もう会えない、その本当の意味も)
26 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:22:06 ID:W1gEKWHo
七年前。
秋。
さよならと言われた翌年。
また、赤く彩られた道を歩く。
勇者「……………」ハァ
商人「嫌になったか?あの村に行くの」
勇者「嫌ってわけじゃないですけど」
商人「……何で嫌にならないんだよ。おまけに、訊かない、しな」
勇者「勇者といっても、元は傭兵ですからね。依頼主の事情は訊かないのが普通です」
勇者「けど、」
商人「…………」キョロキョロ
商人「……少なくとも、話し声が届く範囲に他の奴らはいない。そして俺は、アンタのことが気に入ってる」
商人「腕は立つし、どこぞの勇者様方と違って高慢ちきで扱い難くない。真面目だし口も堅い」
勇者「口が堅いって、何でわかるんですか。俺、意外とポロッと言っちゃ--」
商人「何年商人やってると思ってんだ。見る目が無いとやっていけんよ、物も、人も」
27 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:23:51 ID:W1gEKWHo
勇者「……良いんですか?」
商人「おう。ま、その代わりに俺個人に対してのご贔屓、頼むぜ?」
商人「傭兵に支払う賃金で動いてくれる勇者なんてなかなかいないし、な」ケラケラ
勇者「ははっ、わかりました。なんなりとご指名下さい」
商人「交渉成立。んじゃ、早く訊きな。村に一歩でも入りゃ俺は知らぬ存ぜぬ関わらずを通すぜ?」
勇者「…………では、」
勇者「あの村……あの研究所では何が行われてるんですか?」
商人「へぇ、あれが研究所と知ってるのか。嗅ぎまわってる様子は無かったくせに」
商人「--まぁ、それは置いといて」
商人「あの研究所、というか、あの村はな、戦闘奴隷を作ってるんだよ」
勇者「……戦闘、奴隷?」
商人「そ。--俺はあの村に生身でいける分そこそこの魔力耐性はあるが、魔法の方はからっきしでな。原理について詳しくは説明出来ないが」
商人「簡単に言えば人間に魔法を同化させる研究をやってんだよ」
勇者「そんなの、」
商人「出来っこない、ってのは十年以上前の古い知識だ。情報の更新は大事だぜ、今やっておくんだな」
28 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:25:40 ID:W1gEKWHo
商人「現に成功例は出ている。成功すりゃ魔力、身体能力が跳ね上がるんだとよ。それこそ、人間じゃない、」
商人「あんたら達みたいにな」
勇者「…………」
商人「といっても、成功率は極端に低いって話だ。で、それすらも数年前までの話」
商人「わかっちまったんだよな、低い成功率を上げる方法が。それが--子供」
商人「未発達ってのがイイらしくてな。特に魔力の資質が高い子供なんかは成功率が高い。元が高い分、跳ね上り方も凄まじい、んだってさ」
商人「で、俺も何年か前まではあの村に売られたガキをせっせと運んでいたわけよ」
商人「仲介したガキの顔はみーんな覚えてるが、あの村で見かけた子供の数は両手で足りちまう」
商人「極端に低い成功率、だからな。あがっても百パーで見れば低い数字になる」
商人「はい、一時中断。質問は受け付けんが、」
勇者「…………」
商人「へへっ、俺が綺麗な商売ばかりしてる人間だと思ってたのか?」ケラケラ
勇者「……胸くそ悪い話だとは思いましたが、」
勇者「俺は、例え勇者でも、全てを救えるなんて思ってません。少なくとも、今の話に俺がどうこう出来ることなんてなかった」
29 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:28:19 ID:W1gEKWHo
商人「……俺、アンタのそんな所が気に入ってるんだよなぁ。実は傭兵あがりの勇者が一番マトモなんじゃねぇの?」ケラケラ
商人「で、続きだけど」
商人「あの村で生きてる子供はさ、全部成功例なんだよ」
商人「ってことで。あの村は化け物育成用の檻だ。もうすでに、完成待ちの予約は多数って話」
商人「あの村自体、お偉いさんの実験施設だからな」
商人「もう何十何百死んだかわかりやしない、どっからどう見ても非人道的なこれが各地でまかり通ってるのは、」
商人「そのお偉いさんが、アンタの方がよく知ってる側の人間だから、だろうな」
勇者(………勇者協会が、こんなことを黙認してる、ってことか)
商人「ま、一応は隠れてこそこそやってる体だからな。大々的にバレたら、そりゃあもう、大変なことになる」
商人「--そんな危険な話をペラペラと話しちまったわけだが、アンタは口が堅いからな」
商人「バレたら、そうだな。あの村だけじゃない、同じ事をやってる全ての場所全ての子供が、どうなっちまうかわからない」
30 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/23(月) 23:30:18 ID:W1gEKWHo
商人「そうやって育てたガキはそうにしかならない。もしかしたら当たりの主人、っていう幸せも奪っちまうことになるかもしれない」
商人「だからアンタは喋らない」
勇者「…………」
商人「どう見てもマトモな目をした人間がいないあの村で」
商人「暇だからって、小さな化け物に肩入れするアンタは、絶対に喋らない」
勇者「……性格、悪いですね。商人さん」
商人「多少悪くないと生き残れないからな」ケラケラ」
勇者「少し嫌いになりました」
商人「え、こんなに細かく話してやったのにそりゃ無いぜ。好意は贔屓に繋がるんだからよ」
勇者「意識はしますから」
商人「ならいいや」
勇者「………………」ハァ
勇者(だから、さよなら、か……)
勇者(馬鹿なこと、やってるのかな。俺は……)
31 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/24(火) 00:03:16 ID:k/ccTDrw
七年前。
秋。
少し考えて、決めた。
お土産が無駄になってしまうのは、どうしても避けたい。
勇者「みっけ」
シキ「……みっけ、じゃないよ。おじさん」
勇者「久しぶり、シキ。背ぇまた伸びたな。俺に比べたらまだちっちゃいけど」
シキ「おじさんみたいに記憶力が低下する馬鹿になるなら僕は小さいままで良いよ」
勇者「うっ……口悪くなったな、お前」
シキ「おじさんがホイホイ話しかけてこなければ知ることはなかったね」
勇者「……これが反抗期かぁ、」
シキ「悪いけど、もう僕行くから」
勇者「おにいさん、暇でさ。おまけに卑怯だから」
勇者「お前さんが一人で暇そうにしてたら、すぐに声かけちゃうかも。隠れててもすぐ見つけちゃうかも」
勇者「今みたいに」ニコッ
32 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/24(火) 00:05:20 ID:k/ccTDrw
シキ「…………………、魔法、使えるんだね」
勇者「勇者だからな、俺」
シキ「………え?」
勇者「俺の秘密、教えてやる。俺、勇者なんだよ。そこらの傭兵とかじゃないんだな、実は」
シキ「………………」
勇者「吃驚した?」
シキ「…………誰にでもなれるもんなんだね、勇者ってのは」
勇者「みたいだな」ケラケラ
シキ「………………、」
シキ「………僕達が何か、もう知ってるの?」
勇者「うん、知ってる」
シキ「知った上で、一度さよならした事を覚えてる上で、魔法を使って探してまで僕に話しかけたの?」
勇者「いや、だって暇だしお土産渡さないとだし、な」
シキ「………おにいさんって、ほんと、バカ」
35 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/25(水) 23:07:37 ID:HdvHVkYo
七年前。
秋。
あの時、憎まれ口を叩くシキの顔は、
泣きそうに、笑っていた。
勇者「なぁ、シキ」
シキ「なに、おじさん。僕今本読んでるから忙しいんだけど」パラリ
勇者「あ、それ俺があげた本じゃん。どうだ?面白いか?」
シキ「勇者が勇者の冒険活劇を書いた本をお土産にするってどうかと思うけど」パラリ
勇者「いや、確かに俺もどうしようって迷ったというか、」
シキ「僕、これ二周目。おじさんにしては合格点じゃないの?」パラリ
勇者「……素直じゃないよなぁ、」ワシャワシャ
シキ「人を犬猫みたいに撫でるよね、おじさん。やめて」
勇者「ごめんごめん」
勇者「で、ものは相談というか」
シキ「なに」
36 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/25(水) 23:08:26 ID:HdvHVkYo
勇者「シキに会えない。もう吃驚するぐらい会えない」
シキ「おじさんが卑怯な手使って探してるって僕が言ったから、隠れてるんだよ。シキは僕よりかくれんぼが上手だから」パラリ
勇者「え、俺嫌われてる?」
シキ「……………」ハァ
シキ「好きに決まってるじゃん。健気に我慢してるの、」
勇者「我慢って、また何で」
シキ「本人にききなよ。見つけるのは大変だろうけど」パラリ
勇者「なぁシキー、頼むよー、挨拶ぐらいはさー」
シキ「…………、ヒントあげるから、今日はゆっくり本を読ませて」
勇者「よっしゃ、わかった」
シキ「視線感じたらすぐに振り返って。多分後ろにいるから」
勇者「へ?なにそれ、」
シキ「ヒント終わり。邪魔したらもう口きかないから」
勇者「………了解」
37 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/25(水) 23:10:19 ID:HdvHVkYo
七年前。
秋。
視線を感じた。
振り返った。
シキ「!!」ビクッ
勇者「ほんとにいたよ……」
シキ「っ、あ、の……ごめんなさい!」タッ
勇者「待った。挨拶ぐらいさせろよ、シキ」
シキ「…………は、い、」
勇者「…………」ガシッ
シキ「!!」ビクッ
勇者「久しぶり、シキ。背伸びたな、カッコ良くなったじゃんか」ワシャワシャ
シキ「……えへへ、久しぶり、です」ヘラリ
勇者「で、いくら探しても見つからないと思ったらずっと後ろにいたわけか」
シキ「……すみません、声をかけようかどうか迷ってたら、こんなことに」
38 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/25(水) 23:12:01 ID:HdvHVkYo
勇者「また、何で迷うかな」
シキ「……俺はまた、おにいさんに甘えてしまうだけだから。俺は強くならなきゃいけないのに」
勇者(強く、ねぇ……)
シキ「……………、」
シキ「……あのっ!おにいさん、勇者なんですよね!」
勇者「お、おう」
シキ「あの本に出てくる、勇者と同じ、勇者、」
勇者「俺はあの本の勇者みたいに魔物や魔族相手に無双出来ないけどな」
シキ「でも、おにいさんは強い、んですよね。シキが言ってました」
勇者「シキが?」
シキ「はい」
勇者「………まぁ、そこそこの実力はあると思うけど」
シキ「それで、その……お願いが、あるんです」
勇者「お願い?」
シキ「俺に、剣を教えてくれませんか?」
39 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/25(水) 23:13:15 ID:HdvHVkYo
七年前。
秋。
魔法ではなく、剣。
シキは、はっきりとそう言った。
勇者「魔法の方が合ってると思うんだけど」
シキ「でも、おじさんは魔法より剣が得意なんでしょ?ならそれで良いじゃんか」
勇者「そうだけどさ」
シキ「楽しい?シキに剣を教えるの」
勇者「……正直な所、楽しい。アイツ筋が良い上に飲み込み早いから、剣だけでもかなり強くなると思う」
シキ「……剣だけでいいよ。魔法はいらない。教えてなんて言わないだろうけど、シキに魔法は教えないでね」
シキ「魔法なんて、剣と比べて薄いから。自分が傷付けたっていう感覚が」
シキ「本当は、シキには誰も傷付けてほしくないんだけど、そうは言ってられないでしょ?」
勇者「………………」
シキ「黙らないでよ、おじさん。シキに剣を教えてくれていること、僕は有り難く思ってるんだ」
シキ「ここの人達はみんな、僕らに魔法ばかり使わせようとするから」
40 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/26(木) 23:37:20 ID:wMGwIg/E
シキ「……おじさん」
勇者「……なんだ」
シキ「おじさんには、シキがどう見えてるのかな」
勇者「どうって、」
シキ「正直に言ってよ。シキには絶対に言わないから」
勇者「素直で、良い子だよ」
シキ「それだけ?ちょっとバカなのかなとか思わないの?」
勇者「お前……自分の兄弟にそんなこと言うなよ……」
シキ「素直って聞こえは良いけど要は単純ってことだよね。だからシキは、単純バカなんだよ」
勇者「俺からしてみれば、お前がマセすぎてんだよ。あっちがまだ子供らしい」
シキ「あはっ、子供らしい、なんて……本気で言ってるの?」
勇者「…………、でもさ、」
シキ「剣、教えてたなら気付いてるよね。シキが怯まないって。怖がりのくせに、自分へ向かう脅威には無頓着」
勇者「……ああ、そうだな。もう少しで怪我させる所だった」
41 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/26(木) 23:41:06 ID:wMGwIg/E
勇者「ここの奴らってみんなそうなのか?」
シキ「知らない。けど、そういう恐怖心は早めに壊さなきゃ使い物にならないと思うよ」
勇者「……お前も?」
シキ「顔に出てるよ、おじさん。シキと同じで、すぐ顔に出るんだから」クスッ
シキ「安心してよ、って言うのはおかしいかな。僕は繊細だからね、怯むし驚くし、怖い事があれはどこかの隅で震えてるよ」クスクスッ
勇者「……笑って言うことかよ」
シキ「--それに、シキも」
シキ「足りないだけなんだ。欠落でもない、壊されたわけでもない。最初から存在していないだけ」
シキ「シキは単純だから……純粋だから、足りない物が多すぎて、すぐに歪んでしまう。その歪みは、誰かが側にいて本気で矯正してくれない限り、きっと戻らない」
勇者「…………」
シキ「僕らの未来は決まってるようなものだけど、細部は変えられる。僕はシキに、笑って誰かを殺してしまうようなヒトになって欲しくない」
シキ「--シキはさ、知らないんだ」
シキ「僕が見せなかったから」
シキ「シキは、ヒトの死を、まだ知らないんだよ」
43 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:10:52 ID:qIHAIIbQ
七年前。
秋。
一目でわかった。
彼女が、シキ達の母親だと。
勇者(……そっくりじゃないか、金髪といい、赤い瞳といい、)
女「…………もしかして、あなたは、」
女「あの子達に良くしてくれている、護衛の勇者様、でしょうか」
勇者「良くしてるというか、こちらが構ってもらってるだけですが、ね」
女「……ありがとうございます」
勇者「へ……?あ、いや、本当に、暇な俺に付き合ってもらっているだけで」
女「あの子達、よく笑うようになりました」
女「二人共、あなたの事をとても楽しそうに話すんです」
勇者「………………、」
勇者(なんだかな、声には感情のってるのに、顔は無表情か)
勇者(綺麗な人なのに、もったいない)
44 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:13:41 ID:qIHAIIbQ
女「…………ごめんなさい。この顔じゃ、感謝なんて伝わりませんよね」
勇者「え、」
勇者(やべ、顔に出てたか)
女「私、もう表情を作れなくて。不気味なだけですよね。無表情に礼を言われても」
女「先に言っておくべきでしたが、ここには気にする方なんていなくて、失念していました」
勇者「……表情が、作れない……」
女「体中、散々いじられてますから。表情を作る機能はもう随分と前に壊れてしまいました」
勇者「………………」
女「勇者様」
勇者「なんでしょう」
女「私もシキと同じ考えだったんです。だから去年、あなたと離れるよう言いました」
女「困ったことに、あなたが離れなかったんですね」
勇者「ははは、すみません」
女「……ふふっ、良いんです。暇つぶし、なんでしょう?あの子達に構うのは」
勇者「……はい」
45 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:15:16 ID:qIHAIIbQ
女「それがわかったから、もう良いんです」
勇者「……怒らないんですか?この現状を見て助けようとしない勇者に」
女「シキは一度でもあなたに助けてと言いましたか?」
勇者「…………いいえ」
女「なら、暇つぶしを続けて下さると私としても有り難いのですが」
勇者「………………」
女「……安心して下さい。あの子達はあなたに助けを求めません」
女「だから、存分に構ってやって下さい」
女「あなたとの交流が、あの子達の思い出になる」
女「人任せ、というのが悔しいですけど。楽しかった思い出一つ無く成長させるのは、あの子達にも、母親の私としても、悲しい事ですから」
七年前。
秋。
表情が無いことを除けば、まともだった。
この村で、この親子三人だけが、まともな目をしていた。
46 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:17:18 ID:qIHAIIbQ
勇者(それは、大多数の異常から見て異常となる)
シキ「--シキから聞きました」
シキ「おにいさん、母さんに会ったんですか?」
勇者「あ、……お、おう。会った。綺麗な人だな」
シキ「えへへ、そうですよね。やっぱり母さんは綺麗なんだ」
勇者「お前らにそっくりだからすぐにわかったよ。成長したらまたさらに似るんだろ」
シキ「ってことは、俺達って大きくなったら母さんになるんですか?」
勇者「いやいや、お母さんは女性、お前らは男。そっくりっていってもそこまでは……体格差とかも出てくるだろうし」
シキ「?」
勇者「でもなぁ、なんかシキの方はそっくりになる気がする。アイツ、華奢で最近美少女オーラ出てるからなぁ」
シキ「?俺とシキは同じなのに、シキだけ母さんに?」
勇者「お前はすぐ男ってわかるぐらい少年少年してんの。顔の作りは同じなのに中身が違うからなー」
シキ「!シキは……女の子に、なっちゃうのか……でも、なら俺も、いずれ女の子に」
勇者「いやいやいや、そういう意味じゃなくてな、つかならないから。そう簡単に性別の変更出来ないから」
47 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:18:02 ID:qIHAIIbQ
シキ「??………うう、ごめんなさい、今日のおにいさんの話は、ちょっと、わからない、です」
勇者「……なんだかなぁ、シキは皮肉屋の傾向が見えるけど、お前は少し天然だよなー、」ケラケラ
シキ「天然?」
勇者「どこか抜けてるっていうかさ、」
シキ「…………確かに俺は、」シュン
勇者「え?」
シキ「沢山、抜けてると、思います……」
勇者(おいおい、そこまで落ち込むか?)
シキ「俺には、人間として、足りない物が、沢山、ある」
勇者「…………………、」スッ
ペシッ
シキ「!」
勇者「でーこーぴーんー」
シキ「?」
48 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:18:51 ID:qIHAIIbQ
勇者「ちょっとは驚けよ」
シキ「あ、えと、俺……」
勇者「驚いてたか?」
シキ「驚いた、と、思います」
勇者「あのさ、シキ。お前は」
シキ「?」
勇者「………………、」
勇者(--って、俺は何言おうとしたんだか、)
勇者(駄目だろ、踏み込みすぎるのは)
勇者(暇つぶしなんだろ、これは)
勇者「……悪い、」ワシャワシャ
シキ「え?」キョトン
勇者「何言おうとしたか忘れちまった」ケラケラ
勇者「お詫びに、あの本に出てくる斬撃が飛ぶやつ教えてやるから」
シキ「え!?でもあれ、出来ないって…!」
49 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:19:42 ID:qIHAIIbQ
勇者「頑張れば出来るんだ、実は。ほんとに頑張らなきゃいけないんだけど、俺が」
シキ「…………」キラキラ
勇者「やってみるか?」
シキ「はい!」
勇者(……誤魔化せたよな、これで)
七年前。
秋の終わり。
最初から深入りする気は無かった。
自分の手が届く範囲は心得ている。
シキ「………………」ジー
勇者「………………」フイッ
シキ「…………僕が何を言いたいか、わかるよね」
勇者「………………」
50 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:20:50 ID:qIHAIIbQ
シキ「おじさんって卑怯だね」
勇者「…………伝わるとは思ってたが、やっぱり、お前は誤魔化せないよな……」
シキ「シキがお馬鹿さんで良かったね」
勇者「…………すまん」
シキ「……いいよ、もう。言わなかっただけ、自分の立場をわきまえてるってことだし」
勇者「………………、」
勇者「全部の感情が必要とは思えないんだ。足りないままの方が幸せかもしれない」
勇者「……全部を受け止めるのも辛いぞ。希薄にしてないと、壊れるのは別の場所だ」
シキ「わかってる。僕らみたいなのこそ、希薄にしなきゃいけないんだ。だから、この村の人間がしていることは間違ってはいない」
シキ「人間らしさなんて僕らには必要ないから」
勇者「……………」
シキ「……おじさんって、変だよね。暇つぶしなんでしょ、これって」
勇者「おう」
シキ「ちょっと深入りしすぎなんじゃないの?」
51 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 13:22:26 ID:qIHAIIbQ
勇者「……シキには言えないが、お前には言えるって思ったから、つい」
シキ「お土産、良いの期待するよ。それでチャラにしてあげる」
シキ「暇つぶしの相手、必要なんでしょ?」
勇者「……了解。期待しろ」
シキ「…………おじさんがいるとシキも楽しそうだから、僕も友好的に構ってやってるんだ。そこ、忘れないでよね」
勇者「……おー」
シキ「僕だけなら、こうはしてなかった」
シキ「このままだと、最終的に損をするのは僕の方だから、ね」
勇者「………………」
シキ「ほら、もう行きなよ。護衛が遅れたら世話無いよ」
勇者「ああ、そうだな」
勇者「またな、シキ」
シキ「うん。またね、おじさん」
52 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 18:45:59 ID:qIHAIIbQ
××年前。
冬の終わり。
冬は嫌いだ。けれど、雪は嫌いじゃない。
雪が溶けていく様を、シキは寂しそうに見ていた。
シキ「--あ、溶けてる」
ほんとだ。……せっかく作ったのに、
シキ「もったいない、格好良かったのに」
また作るよ。
今度はもう少し、大きくしてみる。
シキ「なんか、悔しいよね。僕の方が作成歴長いのに、シキの方が上手く作る」
シキのも格好良いよ。
シキ「僕のは可愛いんだよ。おじさんも言ってたし」
そうなの?
シキ「そうなの」
……ねぇ、シキ
シキ「ん?」
53 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 18:46:44 ID:qIHAIIbQ
竜、っていうんでしょ。
あの雪だるま。
シキ「うん」
本当に存在するの?
この世界に、こんな生物。
シキ「するよ。僕も実物は見たことないけど」
シキ「母さんは見たことあるんだって。おまけに、凄いんだ」
シキ「竜族、っていう種族は、竜に変身出来るんだ」
!!本当に!?凄いねそれって!
……いいなぁ、会ってみたいなぁ、
シキ「会えるよ。この村から出られれば」
出られるの?
……それに、シキや母さんは、村から出て大丈夫なの?
シキ「どうせ、大丈夫なようにするよ。そうしなきゃ使い物にならないから」
……………一人は嫌だよ。シキ。
シキ「僕がどうなってしまっても、シキを一人にはしないよ」
シキ「絶対に、ね」
54 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 21:19:10 ID:qIHAIIbQ
六年前。
秋の半ば。
風が冷たい。
今年は、随分と遅れている。
勇者「……ふぅ、」
商人「魔物の討伐、お疲れさん」
勇者「皆さんに怪我は?」
商人「護衛が優秀すぎるからな、荷馬車でゆったり談話中だよ」
勇者「緊張感無いですね。一応緊急時に備えてほしいんですけど」
商人「だから、お前が優秀すぎるからだよ」
勇者「……まったく、」ハァ
商人「で、またしても二人きりなわけだが」
商人「無いのか?何か言うことは」
勇者「?」
商人「違うか。何か、訊くことは、か」
55 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 21:20:26 ID:qIHAIIbQ
勇者「……何を訊くっていうんですか」
商人「俺の商売ルートで手に入れた、そこらではまず手に入らない、やたら質の良い菓子をあげる相手について。とか」
勇者「………………」
商人「大食い野郎なんだな、明らかに一人分の量じゃない」ニヤニヤ
商人「おまけに、知り合い価格で少々お安くしましたが、一つ一つけっして安い品ではないというのに」ニヤニヤ
勇者「……三人分なんです、今年からは」
商人「………は?三人分?」
勇者「三人分です」
商人「……お前……ホント物好きだな。去年までは一人だったろ。いつの間に増やしたんだよ」
勇者「……去年までは二人です。今年からは、二人の子供の母親の分もって」
商人「……………まてまてまて、お前、マジか……母親って、あの金髪の美人だろ?もろ人形な、あの」
勇者「……確かに無表情で作り物みたいに綺麗ですけど、人形は言い過ぎですよ。無表情のわりによく喋りますし」
商人「しゃべ……!?」
勇者「?」
56 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 21:22:23 ID:qIHAIIbQ
商人「えー、げふんげふん。悪かった、少し取り乱しちまった」
商人「にしても、お前称号通りホントに勇者だな。どうやって口説き落としたんだよ」
勇者「口説いただなんて、そもそも、先に口を開いたのはあちらですし」
商人「へ?」
仲間の商人「おーい!!」
勇者「!」
商人「!」
仲間の商人「どうだー?終わったかー!?」
勇者「はい!安全は確保しましたー!出発しても大丈夫ですよー!!」
商人「話は終わりだな、くそっ」
商人「からかうつもりが、まさか俺の方に訊きたい事が出来てしまうとは」
勇者「ははは………」
商人「仕方ない、またタイミングが合えばまた訊いてやる。知り合い価格はこれでチャラだな」
商人「何勘違いしてるのか知らねぇが、もう一人の子供ってのも気になるしな」
57 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 22:05:13 ID:qIHAIIbQ
六年前。
秋。
秋はすぐにでも通り過ぎる。
もう半分もない。
勇者「………………、」
勇者(シキがいない、)
勇者(今日は外に出てないのか。魔法で探すっていったって、建物の内部は流石に範囲には入れられないし)
勇者(…………なんだか、変わったな。この村。去年と違ってさらに空気がおかしくなった)
勇者(嫌な感じだな……)
少女「…………」ジー
勇者(おまけに、女の子が俺を見てる)
少女「…………」ジー
勇者(初めての経験だ。目に光の無い少女が俺をガン見している)
少女「…………」プイッ タタタタッ
勇者(行ったか。……いったい、なんだってんだ……)
58 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 23:00:21 ID:qIHAIIbQ
六年前。
秋の終わり。
冷たい風が吹く事が多くなった。
秋は終わる。冬が来る。
勇者(……おいおい、嘘だろ)
勇者(今まで会えない日は会った。けど、こうも連日で会えないなんて、)
勇者(ここに来て、まだ一度も、話すどころか姿さえ見かけない)
勇者(まさか、)
--おじさん、
勇者(シキの声?)クルッ
シキ「…………」
勇者「っ、シキ……お前……!!」
勇者「何で血だらけなんだよ!どこか怪我してるのか!?見せてみろ!」
シキ「…………」
59 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 23:01:44 ID:qIHAIIbQ
勇者「服もボロボロじゃないか!……腕は、無事だな、胸は、腹は……!」
シキ「…………」
勇者「……見た所、外傷は無いな。どこか痛い所はあるか?」
シキ「ない」
勇者「じゃあこれ、誰の血だよ……。まだ乾ききってない、そう時間はたってないだろ、これ」
シキ「……俺の」
勇者「え?」
シキ「俺の血」
勇者「な……」
シキ「もう治った。痛くない」
勇者「んだよ、それ。この量、尋常じゃねぇぞ!お前のなら、痛い痛くないの問題じゃないだろ!」
シキ「俺は化け物だから」
シキ「見てて」
勇者(--手に、短剣、っ!!)
60 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 23:03:04 ID:qIHAIIbQ
シキ「………」スッ
勇者「やめろっ!」
ザシュ
勇者「…………」ポタポタ
シキ「………刃を掴んだら、危ない」
勇者「その短剣、離せ。今すぐ、」
勇者「お前の首から」
シキ「………血、出てる」
勇者「俺はいい。そもそもな、お前だってちょっと切れてるぞ、首」
勇者「血だって、流れ、……!?」
勇者(傷が、治っていく……!?こんな、一瞬で)
シキ「すぐ治るから、これぐらいの傷、血なんて出ない」
勇者(そしてこれは、魔法じゃない)
勇者「シキ……お前……」
シキ「言ったろ。俺、化け物なんだ」
勇者(何があったんだっていうんだよ、)
61 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 23:04:38 ID:qIHAIIbQ
勇者「とにかく、短剣は没収」グイッ
シキ「……うん」
勇者「……………ったく、何したかったんだよお前。いや、わかるけどさ」
シキ「傷、すぐに治るから。痛くない、大丈夫だって見せたくて」
勇者「だからって、なんで首なんだよ」
シキ「すぐわかってくれるかな、と思った」
勇者「……ああ、もう!!」
勇者「お前までおじさん呼びなのも気になるけど、最初は、挨拶だろ、」
勇者「久しぶり、シキ」ポタポタ
シキ「……おじさん、」ストン
勇者「え、あ!?どうした膝付いて、やっぱりどっか痛……」
シキ「俺、おじさんを傷つけた」
勇者「何言ってんだ。俺は勇者だぞ。これぐらい治癒魔法かけりゃ一瞬だ」
シキ「おかしいんだ。俺、人を斬れないんだ。斬りたい相手に傷一つ与えられないんだ」
シキ「それなのに、おじさんを傷つけてしまった」
62 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/29(日) 23:18:59 ID:qIHAIIbQ
勇者「っ………なぁ、シキ」
勇者「シキは、どうした」
シキ「シキ、は…………」
勇者「なぁ、シキはどうしたんだよ!シキ!」
シキ「…………寝てる」
勇者「寝て、る?……寝てるだけか」
勇者(……前に言っていたアレか。どちらかが起きて……外にいる時)
勇者(片方は研究所で、検査中。眠っていると、)
シキ「……起きないんだ」
勇者「!」
シキ「前は、寝ていても、呼んだらすぐに起きてくれた。すぐに返事をくれた」
シキ「でも、今は違う」
シキ「呼んでも、起きてくれない。返事がない」
シキ「おじさん、俺、どうしよう」
シキ「一人は、寂しい」
65 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/30(月) 23:32:16 ID:qCLLl3No
六年前。
秋の終わり。
シキが目覚めない。
だからシキは、歪み始めた。
勇者「…………………はぁ、」
勇者(……そうだよな)
勇者(ずっと同じなわけないもんな、)
勇者(ちょっと勘違いしてたかもしれない)
勇者(もう少し続くと思っていた。……甘かったな、)
「……ため息なんかついて、どうしたの」
勇者「…………そりゃあ、ため息の一つや二つ、つくだろ」
勇者「……久しぶり、より、おはようが先か?」
勇者「シキ」
66 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/30(月) 23:34:09 ID:qCLLl3No
シキ「……どっちでも良いよ」
勇者「…………」
シキ「ふぁぁ…………」
勇者「まだ眠いのかよ。つかさ、どんだけ寝てたんだ」
シキ「一週間ぐらいかな。今回は少し長すぎたね。おかげでシキがああなっちゃった」
勇者「……再会、衝撃的ってレベルじゃねぇぞ」
シキ「歪みやすいって言ったじゃん。……まぁ、僕が長く寝過ぎたのが一番の原因だけど」
シキ「……僕がいないからって、派手に虐められたみたいだし」
勇者「……他の子供に、か?」
シキ「僕達、嫌われてるから」
シキ「……言っておくけど、シキに自傷癖なんて無いから。アレ、全部他の子供にやられてる」
勇者「冗談抜きに血だらけだった、下手しなくても死ぬぞ。普通」
シキ「何言ってるのさ。僕らや、この村の人間、この村そのものが普通じゃないって、知ってるでしょ?」
勇者「…………」
67 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/30(月) 23:35:23 ID:qCLLl3No
シキ「それに、普通の子は自分の首かき切ろうなんてしないよ」
勇者「その件については思いっきり叱った。いくら治るからって、あれはない」
シキ「……シキを、叱ったの?」
勇者「……ちょっとやりすぎたかもしれない。アイツ、お前がいない分弱ってたし」
シキ「ふふっ、叱るだなんて、何様のつもり?」
勇者「……ゆ」
シキ「勇者様、なんて寒い事言う人とは口ききたくないな」
勇者「………………」シュン
シキ「冗談だよ。本気にしないで」クスッ
シキ「叱ってくれてありがとう。僕までよく眠るようになったから、シキに注意する人がいなくなって困ってたんだ」
勇者「シキ、落ち込んでなかったか?」
シキ「そりゃあ落ち込んでただろうけど。今日の様子を見る限り大丈夫なんじゃない?」
シキ「検査の直前まで、口の中が甘い凄く甘いって幸せそうだったし」
シキ「……お土産、期待する、なんて言ったけどさ。あれ、結構な値段するよね」
68 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/30(月) 23:38:27 ID:qCLLl3No
勇者「合格点?」
シキ「あんなの食べ慣れてたら、僕らはどこかの貴族の子供だよ。少しむかついたけど、合格に決まってる」
勇者「そりゃ良かった」
シキ「……なんか、悪いなぁ。もう、秋は終わるのに」
シキ「ごめんね、おじさん。今年は暇つぶしに付き合ってあげられないや」
シキ「戦闘訓練があるし、なにより僕はよく眠るようになった」
シキ「だから、あと数日はシキに構ってやってよ。もう落ち着いたと思うから」
シキ「……もう、行かないと」
シキ「今更だけど、久しぶり。そして、またね、おじさん」
勇者「………………」
勇者「一つ、訊かせてくれ」
シキ「なに?」
勇者「シキが俺をおじさんと呼びだした。何でだ」
シキ「ぷっ……くくっ」
シキ「なにそれ!別れの挨拶でそれ訊くの?」
69 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/09/30(月) 23:40:28 ID:qCLLl3No
勇者「俺としては大問題だ」
シキ「まったく、おじさんってホント面白いなぁ」
シキ「いいよ。教えてあげる。僕が言ったんだ。おじさんはもうおにいさんじゃない、おじさんって呼ぶのが正しいんだよ、って」
勇者「お前……なんてことを……!俺、まだ若いんだからな!」
シキ「僕らからみれば、出会った時からおじさんだよ」クスッ
シキ「ま、百歩譲っておにいさんにしておいてあげたけど。僕らが年をとった分、おじさんも年をとった」
シキ「今は……おにいさんとおじさん、この微妙なラインにいる事、おじさんだって自覚してるんでしょ」
勇者「うっ」
シキ「シキに嘘は教えられないから。ま、おじさんが女性ならずっとおねえさんで通したかもね」クスクスッ
勇者「ったく、イイ性格してるよ。お前」
シキ「ふふっ、ありがと」
勇者「褒めてないよ」
シキ「知ってる!」
シキ「--じゃ、またね、おじさん!シキをよろしく!」
勇者「おー。じゃあな、シキ」
70 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/02(水) 23:36:16 ID:0jxaQUn.
六年前。
冬の始まり
宣言通り、シキは姿を現さなかった。
そして、秋が終わった。
シキ「おじさん、もう冬だ」
勇者「そうだなー、もうじき、雪が降る」
シキ「……行かないの?」
勇者「……護衛対象がここで冬を越す気だからな、俺だけ村から出るわけにはいかないよ」
シキ「そっか」
勇者「………………」
シキ「…………シキが喜ぶ、今年は一度しか話してないから」
勇者「逆に怒りそうだけどな。何で冬もいること言わなかった、って」
シキ「俺は嬉しいのに」
勇者「嬉しいかー、なら笑えよシキー」
シキ「ひゃめてよ、おひさん」
71 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/02(水) 23:37:17 ID:0jxaQUn.
勇者「使わないと表情筋固まったまま動かなくなるぞー、笑いたいのに笑えないって結構辛いと思うぞー」
シキ「母さんみたいに?」
勇者「……多分、そうかもな」
シキ「わかった。気を付ける」
シキ「……シキにも言われたこと、だし」
勇者「…………」
勇者「…………なぁ、シキ」
シキ「なに?」
勇者「去年は深く訊かなかったけど、何で強くなろうと思ったんだ?」
シキ「……俺、すごく弱いんだ。昔から、今もずっと、シキに守られてる」
シキ「目を閉じて、って、シキが言うんだ。目を閉じれば何も見なくてすむ、感じなくてすむ、から」
シキ「そうやってシキは俺に何も見せない。一人で全部抱え込む。俺はそれがどんなに辛いことか知らない」
シキ「……辛いを知ったのも、最近なんだ。シキがいないのは、寂しい、と……あれが辛いなんだろうね」
シキ「シキが俺に目を閉じるように言うのは、俺が弱いからだ。凄く、弱いからなんだ」
72 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/02(水) 23:39:06 ID:0jxaQUn.
シキ「でも、強くなるのも、難しい」
シキ「剣を習って、少しは強くなっていた気でいたけど」
シキ「全然、ダメだ、俺」
勇者「……なぁ、何で斬れないんだ?治るとはいえ、相手は容赦なくお前をズタボロにしてくるんだろ?」
シキ「加減がわからないんだ。アイツ等は嫌いだけど、斬られたら死ぬかもしれない」
シキ「おじさんがくれた本で知ったんだ。死ぬって、いなくなることなんでしょ」
シキ「この世界からいなくなるのは、俺は嫌だから。シキや母さんがいるし……おじさんも、いるし」
シキ「人にされて嫌なことはしない。シキが言ってた。だからしない、ようにしたい、けど」
シキ「これだと、駄目なんだよね」
勇者「……駄目だな」
シキ「だよね。正当防衛も大事って言ってたから、無抵抗は止めることにする」
シキ「とりあえず、逃げてみるよ。すぐ治るけど、怪我したのばれたらシキが怒る。怒った」
勇者「俺も怒る。攻撃より防御に重点を置いて教えたつもりなんだぞ、剣は」
シキ「おじさんも怒る。のも嫌だな。逃げる、意識しないと」
73 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/02(水) 23:40:34 ID:0jxaQUn.
勇者「痛いのが嫌だからみんな逃げたり防いだり避けたりするんだ」
勇者「意識して、じゃなくて、意識しないでも痛いのを嫌になれば、シキも俺も怒らないよ」
シキ「……おじさんって刺されたら痛いの?」
勇者「え、痛いけど」
シキ「我慢出来るぐらい?」
勇者「我慢はするな。やせ我慢だろうけど」
シキ「シキも痛いよね。お母さんは……もう痛くないって言ってたけど、痛い方が良いって言ってたし」
シキ「おじさん、俺、痛覚が鈍いんだって。だから自分に向かってくる危険がわからないんだって」
シキ「どうやったら痛いってわかるかな。俺、痛いがわからないから加減が出来ないんだ」
勇者「……………」
ペシッ
シキ「……あ、でこぴん。今の」
勇者「これ、痛い。ほら、痛いって言え」
シキ「……痛い」
勇者「頭ぶつけても痛いし滑って転んでも痛いし足の小指をどこかの角にぶつけたらそれは軽く悶絶するぐらいには痛い」
74 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/02(水) 23:42:09 ID:0jxaQUn.
勇者「痛みを痛いと無意識に変換出来るようになるまで、痛いって思うのを意識しろ。最初はこれだな」
勇者「というかお前、痛覚が鈍いって言うけど、何も感じないのか?」
シキ「ううん。痛みはあるよ。ただ我慢出来るだけ」
勇者「でこぴんと斬られるの、どっちが痛いかわかるか?」
シキ「斬られた方が痛い、と思う」
勇者「なら大丈夫だな、」
勇者「痛みを知らなきゃ加減どうこうは出来ないし。お前ならわかるようになるよ」
シキ「それがわかれば、斬れるかな」
勇者「言葉だけ見れば物騒だけど、まぁ、お前は斬れないとマズいだろ。逃げる防ぐが出来ない相手もいるからな」
勇者「あとさ、」
勇者「加減を知らないから斬れない、今のお前は正しいよ」
シキ「………そうなの?」
勇者「そうだよ。そうなんだけど、」
シキ「…………?」
75 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/02(水) 23:43:50 ID:0jxaQUn.
勇者「なんだかな、俺はお前の今後が心配だよ」
勇者「お前、人なんだからさ。何があっても人でいろよ。そうしてないと、シキのやつは悲しむだろうからさ」
シキ「…………人、」
シキ「……うん、わかった。俺も、シキは俺が人でいることを望んでると思うから」
六年前。
冬。
雪が降っている。積もっている。
村は白に染まりきっていた。
勇者「寒くないんですか?」
女「そうですね、寒くはありません。……けれど、」
女「あなたの吐く息、私の吐く息は白いから。きっと、寒いんでしょうね」
勇者「……………」
勇者(寒さすら、もうわからないのか、)
女「……慣れているから、そう思って下さい。私の方が、あなたより寒さに慣れている。だから、寒くないんです」
勇者「…………はい」
76 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:13:33 ID:OtIla8.2
女「お土産」
女「私の分まで、ありがとうございます。……あんなに高いもの頂いてしまって、申し訳ないです」
勇者「いえ、好きでやっているので」
勇者「その……お口に合いました?」
女「……とても質が良くて、美味しいものだとはわかります」
勇者「……すみません」
女「謝るのはこちらの方です。……ごめんなさい」
勇者「………………」
女「……お礼に、といってはなんですが、笑える話をしようと思います」
勇者「は、い……?」
女「私、望んで産んだわけじゃないんです。どこの誰とも知らない--まぁ私と掛け合わせるぐらいですから、魔力面では良い血統だと思います--その子種で無理やり孕まされて、産まされました」
勇者「……え、」
女「もちろん、シキの話です」
勇者「…………」
女「今まで全て流してきたのに、シキだけなんです。しぶとくこの世に生まれてきてしまったのは」
77 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:14:35 ID:OtIla8.2
勇者「…………」
女「私の子とはいえ、経緯が経緯ですから。そもそも私に母性愛など存在しないと思ってましたし」
女「愛せるわけないですよね」
勇者「…………、」
女「愛せるわけないんです、普通は」
女「………………」
勇者「………………」
女「……あの……あの子達、可愛いと思いませんか?」
勇者「……は…………?」
女「あの子達、滅茶苦茶に可愛いんですけど、もう吃驚するぐらい可愛いんですけど、あなたはそう思いません?」
勇者「あ、いや、可愛いとは思いますけど、はい」
女「ですよね、可愛いですよね。私、あの子達のこと大好きなんです。愛してます。これが母性愛なんですかね」
勇者「……………」
女「……えっと、笑えませんか?」
勇者「……すみません、笑い所がちょっと……」
78 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:16:24 ID:OtIla8.2
女「……ごめんなさい。私のような女が我が子に愛情を感じているという、このおかしさが、」
女「笑えるかな……と、考えて……」シュン
勇者(天然、というか……)
勇者「…………やっぱり、親子ですね。シキに似ている」クスッ
女「!そうですか?ふふっ、嬉しいです」
女「シキも、私は自分よりシキに似ているって言うんです」
女「私に似たんですね、あの子。可愛いです」
勇者(…………表情は変わらない。けど今、彼女は確かに笑った)
勇者(無くしちゃいけないものは無くしてないのか、)
女「ここ最近は、毎日考えています」
女「あの子達がどんな大人になるのか、とか、どんな人を好きになるのか、とか」
女「ふふっ、考えるだけなら自由ですから、ね」
79 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:17:23 ID:OtIla8.2
六年前。
冬。
そういえば、と思い出す。
初めて声をかけたあの日も、シキは一人で雪遊びをしていた。
勇者「竜か?」
シキ「正解」
勇者「………………」
シキ「………………」
勇者「……あのさ、機嫌悪い?」
シキ「冬もいるなんて聞いてない」
勇者「今年は到着が遅くなるからって、この村で冬を越すことが決まってたんだ」
シキ「この村に来た時点で?」
勇者「……来た時点で」
シキ「…………」
ボフッ
勇者「うおっ!?--ぶへっ、雪が口に!」
80 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:18:33 ID:OtIla8.2
シキ「これで許してあげる」クスッ
勇者「素直におにーさんが冬もいて嬉しいとか言ってくれないのかね」ケラケラ
シキ「言われたいの?僕に全力で媚び売られたいの?」
勇者「なんか怖いからいいや」
シキ「でしょ?」クスクスッ
勇者「……しっかし、普通の雪だるまは作らないんだな。好きなのか?竜」
シキ「うん。本物は見たことないけどね」
勇者「ドラゴンの方じゃないのな」
シキ「嫌いじゃないけど、分類上魔物のドラゴンよりは竜の方が憧れるかな」
勇者「実は俺、竜族に知り合いがいたりする」
シキ「それ、シキに詳しく話してあげてよ。凄く喜ぶと思う」
勇者「お前は?」
シキ「喜ぶよ。聞きたいと思う」
シキ「でも、僕達半分繋がってるみたいなものだから、初めて聞くわくわく感はシキに譲るよ」
81 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:19:47 ID:OtIla8.2
勇者「そっか。…………よいせっと、」
シキ「おじさんくささに磨きがかかってるね。しゃがむだけでそれ?」
勇者「いいじゃねぇか。お前も年とれば勝手に口から出るんだよ」
シキ「ふふっ、気を付けることにするよ」
勇者「……絶対言うんだからな、見てろよ……」コロコロ
シキ「なに?おじさん雪だるま作るの?」
勇者「スタンダードなやつをな。お前のソレはそろそろ雪像の域に達する」
シキ「おじさんは一度シキ制作の竜を見るべきだね」
勇者「凄いのか」
シキ「凄いよ」
勇者「じゃあ次会った時にでも見せてもらうか」
シキ「そうしてよ」
勇者「…………」コロコロ
シキ「…………」ペタペタ
シキ「…………おじさんってさぁ、」
82 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:21:53 ID:OtIla8.2
勇者「ん?」
シキ「兄弟とかいるの?」
勇者「いや。一人っ子」
シキ「そうなんだ。下に兄弟がいるからこうなんだと思った」
勇者「俺も俺って案外子供好きだったんだなーって思ってる」
シキ「子供好きならさくっと子供作ればいいのに」
勇者「簡単に言うよなー」
シキ「彼女は?」
勇者「………………」コロコロ
シキ「ごめん。僕、簡単に言っちゃったね……」
シキ「っ……一人で小作りはっ、流石に出来ないね……」フルフル
勇者「……お前、俺が寂しい独り身だからって馬鹿にしてるな?」
シキ「してないよ?ただ、いないんだぁ、って」フルフル
勇者「笑いこらえて震えてるくせにこの野郎」
シキ「……ぷぷっ、まずは彼女からだね。おじさん」
83 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:23:07 ID:OtIla8.2
勇者「おー、作ってやるわ可愛い彼女。全力でノロケてやるからな」
シキ「ふふっ、待てる間は待っててあげるよ」クスクスッ
勇者「目標は半年以内」
シキ「現実を見なよ。そんなすぐに出来るんだったらもう出来てるでしょ」
勇者「真顔で言うなよな……」
六年前。
冬。
それは、雪だるまの域を大きく越えていた。
白い竜の側に、シキはいた。
勇者「…………」
シキ「シキに褒められた。今年はさらに凄いって」ペタペタ
勇者「雪だるまってレベルじゃねーぞ……」
シキ「でも、まだ本物を見たことはないから、よくわからない所が沢山ある」
勇者「大きさ的に子供の竜、っていうかお前……器用だな……!滅茶苦茶カッコイいぞ……!!」
84 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:24:32 ID:OtIla8.2
シキ「ほんと?」
勇者「本当。シキが凄いって言った訳がわかったわ……」
シキ「……嬉しい」ペタペタ
勇者「雪でここまで作るか……あ、その竜の足元の。俺の雪だるまとシキの竜だよな」
シキ「うん。……春が来るまで、コイツが二人を守れるように」
勇者「そっか。いや、マジで守ってくれそうだわ」
シキ「…………あの、さ、おじさん……」
勇者「おう、何だ?」
シキ「竜族の人と知り合いって、シキから聞いたんだけど、」
勇者「詳しく聞きたいか?」
シキ「うん!!」キラキラ
勇者(お、ちょっと表情が戻ったな)
勇者(前みたいに笑えるようになりゃいいんだけど、)
勇者(……どっちが良いのか、どっちが楽なのか、それはコイツ等が決めることで)
勇者(俺は口出し出来る立場じゃないと、口出し出来る立場にはならないと、わかってるはずなのに)
85 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:27:16 ID:OtIla8.2
勇者(…………シキも、彼女も、俺に、未来を求めているわけじゃない)
シキ「……おじさん?」
勇者「--あ、悪い。どうだったかなって思い出してた」
勇者「で、何から訊きたい?」
六年前。
冬。
これは暇つぶしなんだと、
そう考える事が増えてきた。
シキ「人間と、竜族と、魔族。これだけ?」
勇者「ああ。……一応天使なんて呼ばれる奴らも存在するが、アイツ等は上に引きこもってるし」
シキ「空の上にも、世界がある、」
勇者「広いよなぁ、この世界は」
シキ「…………いつか、俺も、冒険してみたい」
シキ「あの本の、勇者一行みたいに」
86 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:29:58 ID:OtIla8.2
勇者「…………」
シキ「おじさんも勇者。なら、魔族や、魔王を倒しに行くの?」
勇者「……俺は行かないな」
シキ「何で?」
勇者「魔王は強くて勝てるわけないし、魔族を倒しにわざわざ行くってのも気がのらないし」
シキ「魔族は敵なんだよね。何で気がのらないの?」
勇者「……魔族は敵だが、なんというか、その……」
シキ「俺達、魔族を殺すために作られた」
勇者「…………、俺はさ、弱虫なんだ」
勇者「だから、あんまり戦うのが好きじゃないんだ。殺すのも好きじゃない」
勇者「まぁ、自分の命を守る時や、あと仕事の時は別だな。好きじゃないとか言ってられないし」
勇者「……幻滅したか?」
シキ「うん」
勇者「………………だよな、」
シキ「でも、」
シキ「俺は、おじさんみたいな勇者の方が、好きだ」
87 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:31:23 ID:OtIla8.2
六年前。
冬の終わり。
シキの作った竜はもうほとんど溶け、
唯一原型を残したシキの小さな竜が静かに寄り添っていた。
勇者(そりゃ、雪も溶けるよな。もうこんなに暖かくなってきたわけだし)
勇者(……………………、)
勇者(出発前に顔見たかったけど、今日もいそうにないな)
勇者(いるとしたら……研究所、か)クルリ
少女「………………」
勇者(さっきからずっと、後ろについて来てるんだよな、この子)
勇者「えっと、何か用?」
少女「シキを探してるんでしょ」
勇者「え?」
少女「あなたは、シキを探してる」
88 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 00:32:20 ID:OtIla8.2
少女「あなたも、シキを特別扱いしてる」
勇者「…………、」
少女「みんな不公平だって言ってる。アイツだけ、特別扱いして」
勇者「……嫌い?」
少女「みんな嫌い。シキが嫌い」
勇者「……仲良くしてやってくれとは言わないけど、アイツ等をそう苛めないでくれよな」
少女「アイツ等?」
勇者「?」
少女「アイツ等って言ったね。今」
勇者「……言ったけど」
少女「同じだ、やっぱりあなたも、あの女と同じ!」
少女「頭がおかしい!異常なんだ!!」
少女「シキは一人なのに、二人だって言う!!」
勇者「!」
少女「お父さんの言ってた通りだ!お前は頭がおかしい!!」
89 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 18:59:55 ID:OtIla8.2
勇者「………………」
少女「シキを探してるんでしょ?私達も探してた。チャンスだったのに逃げられた」
少女「今度こそ殺そうとしたのに。きっともう回復してる。むかつく」
少女「お前も、むかつく。早く出てけ。村から出てけ!」タタタタッ
勇者「………………、」
勇者(そういえば、シキ達以外で話したのって初めてだな)
勇者(この村で、この村の人間と)
勇者「…………」
勇者「ついに目をつけられた、ってことか」
勇者(…………もう少し、歩いてみて)
勇者(会えなかったら、それで終わりだ)
六年前。
冬の終わり。
90 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:04:47 ID:OtIla8.2
魔法は使わなかった。
探すつもりはなかった。
勇者「………………、」
けれど、見つけた。
衣服は赤く染まっていた。
膝に顔をうずめ、震えていた。
勇者「…………よう」
シキ「…………魔法使ってもわからないようにしてたんだけど」
勇者「使ってない。多分直感ってやつ」
シキ「……今のおじさんが一番持ってちゃいけない能力だね、それ」
勇者「……なぁ、シキ」
シキ「先に警告するよ。今の僕は自制がきかない。何言うかわからない」
シキ「だから行って。お願い……」
勇者「…………」
さらに小さくなった身体の、その隣に腰をおろす。
シキはびくりと大きく肩を震わせた。
シキ「……………馬鹿なの?」
91 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:05:59 ID:OtIla8.2
勇者「……ホントに、どこかの隅で震えてるんだな、って思って」
シキ「………………」
勇者「………………」
シキ「…………ばか。ばかばかばか」
勇者「半泣き声で罵倒されてもなぁ」
シキ「…………もげろ」
勇者「どこで覚えたんだよ、そんな言葉」ケラケラ
シキ「………………」
勇者「………傷、痛むなら見せてみろ。治癒魔法かけてやる」
シキ「いらない」
勇者「遠慮するなって」
シキ「きかないんだ。治癒魔法」
勇者「……難儀な身体だな。いくら自己治癒が早いからって」
シキ「……そうだね。僕も、シキと同じだから、怪我してもすぐに治る。治ってた。今までは」
勇者「!」
シキ「今は、どうかな。治るけど、前と比べて格段に遅くなってる」
92 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:08:20 ID:OtIla8.2
シキ「わかるんだ。もう、治らなくなるって」
勇者「………………」
シキ「シキだけは治る。ちゃんと治る。これだけが救い」
勇者「………………」
シキ「……おじさん、僕、ちゃんと未来が見えてた」
シキ「シキと一緒ならどうとでもなったんだ。僕らは奴隷だけど、奴隷なりに未来はあった」
シキ「僕は子供だから、この弱い身体じゃ、弱い心じゃ、何も出来ない。大人になれば、今よりもっと強くなれば、」
シキ「逃げ出せる、母さんと一緒に。僕らだけの力で。そう考えてた」
シキ「なのに、これだよ……ふざけんな、こんなの、アリかよ……」
勇者「………………」
シキ「……本当は、母さんは、もう長くない。母さんの身体は、生きてる方がおかしいぐらい、壊れてるんだ」
シキ「僕の身体も、村から出ればまともに機能しなくなる。僕の魔力に、身体の成長が追いついてないんだ」
シキ「この土地は空気中の魔力濃度が高いから、普通の人には毒だけど僕にとっては最高の抑制力となる」
シキ「でも村の外は、僕の魔力を抑える外側からの力があまりにも小さい。……ふふっ、内側から破裂したりして。風船みたいに」
93 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:10:43 ID:OtIla8.2
シキ「だから、薬で、無理やり抑えるようにしてる。副作用は……長い、眠り」
シキ「薬が身体に慣れる内に、眠りが深く長くなって」
シキ「傷さえ、治らなくなった」
シキ「母さんは死ぬ。でも、僕にはシキがいる。シキには僕がいる。だから、大丈夫なんだ」
シキ「でも、僕が消えたら」
シキ「一人残されたシキは、どうなる?」
シキ「シキは、僕と一緒じゃなきゃ、きっと、生きてくれない」
シキ「シキなら治る傷も、僕が消えればきっと治らなくなる。治さなくなる」
シキ「シキだけなら、シキ一人だけなら逃げ出せるんだ。けど、そうしないのは」
シキ「僕と母さんが、ここにいるから。この村の人間の言うことをきくのも、僕と母さんが消えてしまうのが、怖いから」
シキ「でも、この先、必ず、シキは一人ぼっちになってしまう」
シキ「怖いんだ。母さんが死ぬより、僕が死ぬより、」
シキ「シキを、シキと呼ぶ人がいなくなってしまうことが」
勇者「……………、っ、」
94 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:12:03 ID:OtIla8.2
シキ「--おじさん、頼みがあるんだ」
勇者「……なんだ」
シキ「お土産はいらない。もう話してくれなくていい、会ってくれなくていい」
シキ「この村に、来てくれなくて、いい」
シキ「だから、お願い。シキの事を忘れないで」
シキ「シキを覚えておいて、」
シキ「そうすれば、きっと」
シキ「シキはシキでいられるから」
六年前。
冬の終わり。
それ以上、シキは何も言わなかった。
またな、とは言えなかった。
商人「……今年限りだな、お前も」
勇者「護衛の仕事、ですか?」
95 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:13:26 ID:OtIla8.2
商人「ああ。なんせ、あちらさんに目をつけられちまった」
商人「……今まで、あの村で、あの村の子供サマに構うお前が何で放っておかれてたかはわかるよな」
勇者「はい」
商人「お前、案外性格悪いって思われるぐらいあからさまだったからなー。構うのは暇つぶしだって感じが」
勇者「……………」
商人「構われてる側も全く様子を変えなかったみたいだし、」
商人「でも、目をつけられた。変わったって事だ。どちらかなのか、どっちもなのかはわからんが」
商人「なぁ、どうしちゃったんだよお前」
勇者「……ほんと、どうしちゃったんですかね、俺」
勇者「気付かない間にほだされちゃったんですかね……」
商人「……お前が構ってるあの子供は、あの村で一番の上物だ。売却先も決まってる」
商人「この村に投資した貴族様が、人一人が一生豪遊出来る額で買うんだよ」
商人「母親も、研究材料としての価値は、他の子供様につけられた値段を上回る」
勇者「…………」
商人「無いとは思うが、馬鹿な事考えてるわけじゃないよな」
96 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:18:04 ID:OtIla8.2
勇者「無いです。そんなの、考えるわけない」
勇者「俺の手は、そう遠くまでは届かない。自分だけで精一杯なので」
商人「…………それならいいんだ。いいんだ、けどよ……」
商人「お前さ、大丈夫だよな」
勇者「?何がです?」
商人「頭」
勇者「……は?」
商人「いや、だってお前、三人って言ったよな」
勇者「言いました」
商人「お前とは、これから先も仲良くしていたいのに、おかしくなられちゃ困るんだよ。俺は」
商人「何かの勘違いだと思うんだけど、さ」
商人「お前が構ってるのは、金髪赤目の、母親にそっくりな子供だよな」
勇者「はい」
商人「一人しかいないぞ」
97 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 19:19:52 ID:OtIla8.2
勇者「…………」
商人「二人はいない。一人しかいないはずだ。子供は」
勇者「………………」
商人「何かの勘違い、だよな」
勇者「……そうですね。俺の勘違いみたいです」
商人「だよな、」
勇者「…………商人さん、一つ、お願いがあるんですけど」
商人「なんだー?」
勇者「来年、あともう一度だけ、護衛の仕事やらせて下さい」
商人「やめとけって、下手したらお前、上の貴族様にも目つけられるぞ」
勇者「さよならぐらい言わせて下さいよ。それぐらいの義理はある」
商人「……………」
勇者「お願いします」
商人「……いいぜ。一度だけ味方になってやるよ」
商人「でも、これっきりにしろよ。これ以上は無理だからな」
勇者「はい。ありがとうございます」
98 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:56:51 ID:OtIla8.2
××年前。
春。
春が来た。
一人で迎える、初めての春。
シキ「シキ」
シキ「……シキってば」
シキ「…………………」
シキ「まだ寝てるんだね」
シキ「…………、母さんも、シキも、よく眠る。長く深く眠る」
シキ「その間、俺は一人」
シキ「寂しいし、退屈だけれど」
シキ「…………、なぁ、シキ。覚えてるよな」
シキ「俺を一人にしないって」
シキ「そう、シキが言ってくれたから、俺は待てるよ。ちゃんと。シキが目覚めるまで」
シキ「少しは成長しただろ、俺」
99 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:57:41 ID:OtIla8.2
シキ「だから、」
シキ「俺だけを心配するのはやめてよ」
シキ「なんでも、俺ばかりを優先するのも、やめて」
シキ「シキが何か隠してるのも、俺、知ってる」
シキ「…………」
シキ「俺が存在するのは、シキのおかげなんだ」
シキ「シキがいるから、俺は存在するんだよ」
シキ「だから、だからさ、シキ」
シキ「……………………、」
シキ「もし、いなくなるのなら、」
シキ「……絶対、って言ったんだから、絶対」
シキ「俺も一緒に、連れてってよ、な」
100 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/06(日) 23:59:35 ID:OtIla8.2
五年前。
秋。
赤く彩られたこの道を歩くのも、これで最後。
そう考えると、やはり感慨深いものがあった。
商人「転移魔法ってあるじゃん」
勇者「はい」
商人「あれ、使いこなせると楽だよな」
勇者「制限多い上に、どこでも飛べるってわけじゃないですけどね」
勇者「少なくとも、あの村へは使えません」
商人「へぇ、やっぱりか。あそこ色々おかしいもんな」
商人「で、その口振りだと、お前使えるのか?転移魔法」
勇者「少しは」
商人「どんだけ使い勝手良いんだよ。お前」
勇者「ははっ、どうも」
商人「……………、」
101 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 00:00:58 ID:cRbmOd2s
勇者「?なんですか?」
商人「やらかさないか心配でさ」
勇者「だから何も考えちゃいませんて」
商人「なんか、目つきがさ、怖いんだよ」
勇者「え?」
商人「でも、それが素なんだろ」
勇者「まぁ、はい」
商人「ホントに、自分だけなんだな、お前。仕事以外で本気で守ろうと思った奴なんているのか?」
商人「俺はいるぞ。美人の嫁さんと可愛い娘がいる」
勇者「………独り身仲間だと思ってたんですけど」
商人「見る目無いな。だから彼女が出来ないんだよ」
勇者「出会いが無いんです。誰か紹介して下さい」
商人「適当な女ならいくらでも。上物は駄目だな、お前には勿体無い」
勇者「…………キツいなぁ」
102 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 00:02:10 ID:cRbmOd2s
商人「やっぱ勇者は駄目だな。どいつもこいつも普通じゃない」
勇者「………………、」
商人「でもさ、お前は改善の余地アリっていうか、なんとかなるよな」
勇者「そうですかね」
商人「ああ。もう少しまともになったら、俺が本気で良い女だと思う女、紹介してやる」
勇者「それは楽しみだ、」
商人「だからさ、間違えるなよ」
勇者「何をですか?」
商人「選ぶ相手だよ」
商人「あの村の奴は、絶対やめとけ。必ず後悔する」
勇者「馬鹿な考えはしてないって、言ってるじゃないですか」ケラケラ
商人「今回ばかりは、何度も会うなよ。俺がこき使ってやる」
勇者「はい」
勇者「といっても、こき使われてるのに毎年暇だったわけですが」
103 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 00:02:55 ID:cRbmOd2s
商人「お前が有能すぎるんだよ」
商人「………………はぁ、ったく」
商人「マジで、勘弁してくれよ、最後にやらかすのは」
勇者「大丈夫だって言ってるじゃないですか」
商人「………………、一応言っといた方が良いのかね」
勇者「?」
商人「……あの村はな、本当は、」
勇者「!!」ピクッ
勇者「近くに魔物がいますね、しかも大型」
商人「…………」
勇者「他の皆さんを集めて、一塊になってて下さい」
勇者「適当にあしらってきます」タタタタッ
商人「……ほんと、使い勝手いいよな」
商人「…………………」
商人「……それだけに、勿体無い、」
104 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:11:28 ID:cRbmOd2s
五年前。
秋。
勇者「久しぶり」
シキ「久しぶり、おじさん」
勇者「袖、赤いぞ。また怪我したんだな」
シキ「俺のだけじゃないよ」
シキ「おじさんに言われた通り、ずっと意識してたんだ。痛いって」
シキ「そしたら、ちゃんと加減がわかるようになった」
シキ「もうやられっぱなしじゃないよ、俺」
勇者「強くなったんだなー」
シキ「一人になることが多かったから、もう強くなるしかやることがなくて」
勇者「そっか」
勇者「なぁ、シキ。闘うの好きか?」
シキ「嫌いじゃないよ。剣振ってる時とかは、余計な事考えないですむから」
105 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:12:16 ID:cRbmOd2s
勇者「そっかー」
シキ「………………」
少し無言になって、口を開いた。
今年はそう何度も会うつもりはない。
勇者「今年で、最後なんだ」
シキ「最後?」
勇者「護衛の仕事」
シキ「そっ、か」
シキ「……寂しくなるけど、いつかまた、どこかで会えると良いね」
勇者「…………………、」
勇者「……なぁ、シキ」
シキ「何?」
勇者「お前、どうするんだ?これから」
シキ「これから?」
106 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:13:44 ID:cRbmOd2s
勇者「将来だよ。ずっとこのままじゃないことは知ってるだろ?」
勇者「お前は戦闘奴隷だから、お前を買った主人の命令で戦わされる。嫌でも、誰かを殺すことになる」
勇者「もっと嫌なこともさせられるだろうな。お前が知らないだけで、嫌な事は腐る程ある」
シキ「……………」
勇者「未来が、怖くないか?」
シキ「怖くない」
シキ「シキがいてくれるなら、怖くない」
勇者「…………」
勇者(もし、)
勇者(もしも、シキがいなくなったら、お前は、)
シキ「それに、」
シキ「また会えるって思えば、俺は頑張れる」
シキ「だからさ、おじさん。さよならじゃなくて、またねが良い」
シキ「会えないかもしれない。けれど、会えるかもしれない」
シキ「そう考えれば、もう寂しくなんてないよ」
107 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:14:57 ID:cRbmOd2s
勇者「シキ」
シキ「?」
勇者「俺さ、性格悪いって自覚あるんだ」
勇者「勇者だけど、世間が思う勇者像からかけ離れてるって知ってる。本の中の勇者の、足元にすら及ばない」
勇者「少しばかり強い一般人が、利権欲しさに勇者になったんだ」
勇者「正義感なんて、無いようなものだ。あるのは、一般人のちっぽけな良心」
勇者「その、ちっぽけな良心は、一度だって、」
勇者「……一度だって、お前等を救おうなんて考えなかった」
シキ「………………」
勇者「その場限りの、この村だけの関係でいようとしてた。本当に、暇つぶしだったんだ」
勇者「それでもお前は、そう言うのか」
勇者「また俺と会いたいなんて、言うのか」
シキ「うん」
勇者「……何で」
108 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:16:38 ID:cRbmOd2s
シキ「おじさんが好きだって、俺、言った」
勇者「何で、だよ……村の外で、俺が、ここと同じだと思ってるのか?」
勇者「もしかしたら俺は、もうお前らに関わろうともしないかもしれない」
シキ「いいんだ。暇つぶしでもいい。……もう、関わらなくてもいい。それが、おじさんを辛くさせるなら」
シキ「でも、俺に、俺達に笑いかけてくれたことは変わらない」
シキは、不安定な少年だった。
知らない事が多すぎた。
だから、弱かったんだろう。だから、すぐに歪んでしまう。
シキは純粋だった。素直だった。
好意を、真っ直ぐにぶつけてきた。
それでも、馬鹿ではない。
知らない事はある。理解も及んでいない。
その自覚は、彼にもあったはずだ。
けれど、もし、俺という人間が全部わかっていたとしても、彼はきっと、
シキ「好きになるには、それだけで十分だよ」
俺を好きでいてくれたんだろう。
109 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:18:13 ID:cRbmOd2s
五年前。
秋。
--その責任は、重い。
例えば俺が結婚して。
可愛い嫁さんとの間に、子供が生まれたとする。
結婚するぐらいだ、俺は愛する彼女を守る覚悟は出来てるんだろう。
その彼女との子だ。
俺の血を引いた子だ。
守る覚悟もその子に対する責任も、生まれた瞬間自然に出来るんだろう。
その瞬間でなくても、実感と共に、必ず。
俺は子供もいないし結婚もしてないから、そんな覚悟や責任とは無縁だ。
それでも出来ると思うのは、それが世界の普通だからだ。
出来る事が異常でないからだ。
俺は人並みだから、出来る。と考えている。
出来ないとは思わない。
実際、家庭に憧れている。
俺の手はそう遠くまで届かない。
守れる範囲はわかっている。どこまで届くかは、充分わかっている。
勇者「選ぶ相手を、間違えるな。言われたじゃねぇか」
勇者「……責任は重い。背負う覚悟なんて、俺にはないだろ……」
110 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 22:19:38 ID:cRbmOd2s
他人だ。血の繋がりは無い。
ずっと、毎日じゃない。定期的に会っていただけだ。
暇つぶしの相手だ。
……届かない相手だ。
勇者「…………、」
同情なんて、最初から望んではいないだろう。
じゃあ何を、望んでる。
望んでないだろ。何も。
弱いくせに、求めはしなかっただろう。
自分でなんとかしようとしていただろう。
勇者「何、考えてるんだよ、俺」
これは馬鹿な考えだ。
答えたはずだ。馬鹿な考えはしてないと。
--嘘だろ、それは。
いつからだ、いつからあった?
存在はしていた。馬鹿な考えは、ずっと。
自覚したのは、今この時。
勇者「……………、」
勇者「…………どうして、言わない、んですか」
勇者「助けてって。ここから連れ出してくれって」
女「…………、」
111 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:05:39 ID:cRbmOd2s
勇者「どうして……、」
女「逃げ出すことの難しさを、知っていたから」
女「あの子は、脆い。誰かの助けがなければ、外では到底生きていけない」
女「まして、子供だけでは。……死ぬだけです」
勇者「頼れば、いい、でしょう」
女「…………、」
女「そして、なにより、責任の重さを知っている」
勇者「……………」
女「あなたが考えなしに助けるようとする相手なら、シキは離れていました」
女「もし、上手く逃げ出せたとしても、その後は。半端な覚悟で連れ出され--死ぬだけの未来を、あの子は望まない」
女「暇つぶしの相手でも、良かったんです。助けようとしないあなたで良かったんです」
女「この場だけの関係で、良かった。あの子は賢いから、ちゃんと気付いて、あなたから離れなかったんです」
女「母親の私を除けば、あなただけだから。シキと呼んで、一人の人間として扱ってくれるのは」
勇者「………気付いたんです、俺」
112 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/07(月) 23:07:03 ID:cRbmOd2s
勇者「好きなんです。アイツ等のこと」
勇者「アイツは、頭が良いから、気付いてたはずなんです。俺に自覚が無くても」
勇者「言えば、言ってくれれば、俺はきっと、」
女「言ったじゃないですか。あの子は、責任の重さを知っている。あなたにその責任を負わせたくないから」
女「……好きだから、あの子は言いません。助けて、連れ出して、なんて、絶対」
勇者「………………、」
女「いいんです、悩まないで下さい。勇者様」
女「あなたは間違ってない。選ばないことが正解なんです」
勇者「……俺は、」
女「もう、いいんです」
女「勇者様、」
勇者「………………」
女「あの子達を好きになってくれて、本当にありがとうございました」
114 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2013/10/09(水) 07:26:26 ID:OaYZ20rU
乙
三人と母ちゃんの行く末が気になる
時間かかっても良いから完結してくれ
待ってる
転載元
勇者「独り身だがショタを引き取ろうかと真剣に考えている」
http://jbbs.shitaraba.net/internet/14562/storage/1379758795.html
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