1 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 00:51:43 ID:qJCRnykw
─ 町 ─
ザンッ! ズバッ! ザシュッ!
山賊A「ぐげぇ……!」ドサッ
山賊B「ぎゃぁぁぁ……!」ドサッ
山賊C「うぐう……」ドザッ…
戦士「……ゲスどもめ。この町を狙ったのは軽率だったな」チャキッ
戦士「後始末は頼むよ」
町役人「は、はいっ! いつもいつもありがとうございます!」
戦士「礼をいわれるようなことじゃない」
戦士「俺はこういうことでしか、人の役に立てない人種だからな」
ワアァァァァァ……!
2 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 00:54:06 ID:qJCRnykw
妻「さすがねえ、あなた~」
妻「あなたより強い人なんていないわよ」
戦士「ハハ、お世辞はよせよ」
弟子「お疲れさまです! タオル、どうぞ!」サッ
戦士「おう」
戦士「じゃあ俺は、弟子と一杯やってくる」
妻「戦った後なんだから、あまり飲みすぎないようにね。もう若くないのよ」
戦士「分かってるよ」
少年(すごいなぁ、かっこいいなぁ……)ドキドキ…
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 00:57:20 ID:qJCRnykw
─ 酒場 ─
弟子「どうぞ!」トクトク…
戦士「サンキュ」
戦士「ほれ」トクトク…
弟子「ありがとうございます!」
戦士「…………」グビッ
弟子「…………」グビッ
戦士「一仕事終えたあとの酒はうまいな」
弟子「一仕事といっても、あっという間でしたけどね……」
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:01:03 ID:qJCRnykw
ギィィ……
少年「こんにちは!」
戦士「なんだ、ボウズ。ここは子供が来ていいところじゃないぞ」
弟子「まあまあ、いいじゃないですか! マスター、ミルク一つ」
マスター「あいよ」
戦士「……なにか用か?」
少年「ボク……戦士さんに憧れてるんだ!」
戦士「ほう? 俺のどこに憧れてるんだ?」
少年「どこにって、決まってるじゃない! 戦士さんってとっても強いじゃんか!」
少年「昔は、奥さんとコンビを組んで暴れ回ってたとか!」
戦士「どこで聞いたんだか……んな昔のことはもう忘れちまったよ」グビッ
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:03:48 ID:qJCRnykw
マスター「ほら、ミルク」コトッ
少年「ありがとう」ゴクゴク…
少年「──っぷはぁ!」
少年「戦士さんって、きっと……ものすごい数の修羅場をくぐってきたんでしょ?」
少年「顔も腕も、あちこち傷だらけだもん! 男の勲章ってやつだよね!」
戦士「へぇ……ボウズ、俺の傷について知りたいのか?」
少年「うん、知りたい!」
戦士「……なら、特別に教えてやろう。今日は気分がいいからな」
少年「ホント!? やったぁ!」
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:05:48 ID:qJCRnykw
戦士「まず……この額の傷だが」スッ
少年「う、うん!」
少年(きっと強敵と戦って、斬られた傷なんだろうな)
少年(あと数センチ深かったら、命が危なかった、なんてエピソードがあるんだろうな)
少年(いったいどんな敵と、どんな激戦を繰り広げたんだろ?)ワクワク…
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:07:31 ID:qJCRnykw
戦士「いつだったか、訓練やってた時、剣が折れちまってな。ポキンって」
戦士「んで、折れた刃がここに突き刺さりやがったんだ。グサッて」
少年「え……」
戦士「いやぁ~、あれは痛かった」
戦士「顔面が血まみれになって……泣いちまったよ」
少年「あ……泣いちゃったんだ……」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:09:38 ID:qJCRnykw
戦士「あと、この頬の傷だが」
少年(あの鋭い一本線の傷! あれは絶対戦いでついたやつだ! そうに決まってる!)
戦士「こいつはな、ヒゲ剃りを失敗した時のやつだ」
少年「ヒゲ……剃り……?」
戦士「朝寝ぼけてたら、思いっきり失敗しちまった。ジョリジョリ、ザクッてな」
戦士「まさか、一生モンの傷になっちまうとは……みっともねえ」
戦士「ボウズも大人になったら、ヒゲ剃りは慎重にやることだ」
少年「う、うん……」
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:13:24 ID:qJCRnykw
戦士「それと、腕の傷」
戦士「こいつはいたってシンプルだ。コケただけだ」
少年「ウソだ! コケただけでこんな傷がつくわけないよ!」
戦士「デートに遅れそうで、思いっきり走ってたからな」
少年「デート……」
戦士「──で、石につまずいたら、こんなんなっちまった」
戦士「地面に落ちてた石か枝で、切っちまったんだろうな」
少年「石……枝……」
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:16:00 ID:qJCRnykw
戦士「あと……この胸の傷だが、こいつは思い出すだけで胸が熱くなる」
少年「熱くなる!? そういうのを待ってたんだよ!」
戦士「傷といったが、こいつは傷というよりはヤケドだ」
戦士「熱々のコーヒーを胸にぶちまけちまってよ」
戦士「あちっ、あちちちちっ、てなもんよ」
少年「コーヒー……」
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:19:25 ID:qJCRnykw
少年「じゃ、じゃあ手の傷は!? かなり深そうだし、きっと強敵に──」
戦士「ん、ああ、これか」
戦士「これは日曜大工でしくじってついたもんだ」
少年「日曜大工……!?」
戦士「ウチのカミさんが棚を作ってくれってせがむもんだからよ」
戦士「はりきってやってみたが……ノコギリってのは剣を扱うようにはいかんな」
少年「…………」
12 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:22:11 ID:qJCRnykw
戦士「他にも、太ももにも傷がついてるんだが──」
少年「あ、いやっ! もういいや! うん! ありがとう、戦士さん!」
戦士「ん? 聞きたくないのか?」
少年「う、うんっ! もういいっ!」
少年「それじゃ、戦士さん、弟子さん、またね! ミルクごちそうさまでした!」タタタッ
戦士「…………」
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:25:21 ID:qJCRnykw
弟子「……行っちゃいましたね」
戦士「あっちから話しかけてきたのに、あわただしいボウズだ」
弟子「…………」
弟子「師匠、質問してもいいですか?」
戦士「質問? なんだ?」
弟子「どうして、あんな真っ赤なウソをついたんです?」
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:28:56 ID:qJCRnykw
戦士「ウソだって? どこらへんが?」
弟子「今話してたこと全部ですよ、全部」
弟子「師匠の古傷はみんな、ボクが弟子入りした時にはすでについていましたけど」
弟子「どれも“剣”による傷ですよね」
弟子「いくらボクでも、さすがにそのくらいは分かりますから」
戦士「……ふうん」
戦士「お前の目はごまかせなかったってことか」
弟子「……どうして、あんなガッカリさせるような話を?」
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:32:00 ID:qJCRnykw
戦士「まぁ、アレだ」
戦士「傷は勲章なんていうが、俺個人としてはまったくそうは思っちゃいない」
戦士「ようするに、自分のミスや未熟の証拠でもあるんだからな」
戦士「傷ができた経緯を、誇らしげに語る気になんてとてもなれないさ」
戦士「だから、ああやって茶化して語りたくなっちまうんだよ」
戦士「一種の照れ隠しってやつだな」
弟子「なるほど……」
戦士「それに──」
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:36:53 ID:qJCRnykw
戦士「傷を美化して、あのボウズが傷に憧れちまったりしたらマズイだろ?」
戦士「下手すりゃ、自分で自分を傷つけようとするかもしれない」
弟子「たしかに、ありえる話ですね……」
戦士「だろ?」
戦士「古傷の話なんてもんは、相手をガッカリさせるぐらいの内容にしとくべきなんだよ」
戦士「相手が子供なら、なおさらだ」
17 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:41:11 ID:qJCRnykw
弟子「す、すごい……! そこまで考えておられたなんて……!」
戦士「まぁな」
戦士「さて……と、もう一杯だけ飲んだら、俺たちも家に帰るとするか」
弟子「はいっ!」
戦士「…………」
戦士(──なぁんてな)
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:44:36 ID:qJCRnykw
戦士(たしかに、俺の傷は全て“剣”でつけられたものだ)
戦士(だけど、あのボウズに本当のことを教えなかったのは──)
戦士(ただ単に、本当のことなんか話したくなかったからだ)
戦士(本当のことは、弟子にだって教えるつもりはない)
戦士(墓場まで……持っていく)
戦士(なぜなら、これらの傷は全部──)
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:50:03 ID:qJCRnykw
ズバッ!
戦士『ぎゃああっ!』
女戦士『浮気なんかしやがって! 許さないッ! 絶対に許さないッ!』
戦士『ま、待ってくれっ! ちがうんだ! あくまでアイツとは遊びで──』
女戦士『遊びィ!? とてもそんな風には見えなかったけどねェ!?』
ザシュッ!
戦士『ぐぎゃあっ!(ま、まずい! 本気のコイツにはとてもかなわねえ!)』
女戦士『アンタを斬って、あたしも死ぬ! 覚悟ォォォッ!』
戦士『ひぃぃぃぃぃっ!!!』
戦士(昔、あの時……俺のカミさんにつけられたものなんだからな……)
戦士(口が裂けてもいえるか、こんなこと)
─ 完 ─
20 :
◆xEnhR2MjDg :2015/05/12(火) 01:50:37 ID:qJCRnykw
以上で終わりです
21 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 01:59:05 ID:MKGoFw3I
乙
22 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 02:39:41 ID:1TBwnTzQ
乙
敵につけられた傷は一つもない
全て修行でついた傷だとか言い出すかと思ったぜ
23 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 08:25:11 ID:EshNSj7U
どっちにしろ情けない事実だったよ!!
まあ、それでも強いことには変わりないんだし……乙
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/05/12(火) 13:47:42 ID:A0zYJE8s
いつの時代も女性は強いんだな(遠い目
乙
転載元
傷だらけの戦士「俺が傷だらけになった理由」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1431359503/ 富樫 聖夜
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