1 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 21:46:57 ID:PyN6GFag
とある漫画の世界──
作者「やぁ」
主人公「あ、どうも! お久しぶりです!」
主人公「あなたがここに来るなんて……何年ぶりですかね」
主人公「たしか、よほど集中しないとここには来れないはずじゃ……」
作者「うん、そのとおり」
作者「実は困ったことになってね。キミに相談をしに来たんだ」
主人公「困ったこと? いったいなんですか?」
2 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 21:50:53 ID:PyN6GFag
作者「それを話す前に、少しおさらいしておきたい」
作者「この漫画は、悪の大帝国に挑むレジスタンスの戦いがテーマだ」
作者「そしてキミはレジスタンスの集団に新兵として参加し」
作者「メキメキ頭角をあらわしている」
主人公「そのとおりです」
主人公「この間も俺の活躍で、帝国基地を一つ潰しましたしね」
主人公「もちろん、あなたがやらせた(描いた)ことなんですが……」
主人公「そしていよいよ、帝国軍精鋭との戦いが始まろうというところです」
主人公「物語としては、ここからが本番ってところですね」
作者「そう、そのとおり……ストーリーはどんどん盛り上がっている」
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 21:52:17 ID:PyN6GFag
主人公「──あ、そうか!」
主人公「もしかして、困ったことというのは、今後の展開に悩んでいるのでは?」
主人公「俺はだいぶ強くなったといってもまだまだ発展途上だし」
主人公「逆に帝国はあまりにも強大……。どうすればいいんだ、と」
作者「いや、そうじゃない」
作者「ボクが悩んでるのはもっと単純……いや、基本的なことなんだ」
主人公「基本的?」
作者「実は、読者の意見の中で……『この漫画には名言がない』ってのがあったんだ」
主人公「名言……ですか」
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 21:54:56 ID:PyN6GFag
主人公「名言っていうと、たとえば──」
主人公「『天は人の上に人を造らず』とか『青年よ、大志を抱け』みたいな?」
作者「いや、なにも立派なことをいう必要はないんだ」
作者「名言というより、“印象に残るセリフ”といいかえてもいいかもしれない」
作者「この作品といったらこのセリフ、みたいなやつさ」
主人公「印象に残るセリフ……」
主人公「たしかに……あまりないかもしれないですね」
作者「ボクとしても、設定やストーリーを考えるので精一杯で」
作者「セリフ回しはあまり練ってこなかったからねえ」
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 21:57:44 ID:PyN6GFag
作者「──というわけだから、名言を考えてくれ! 明日までに!」
作者「そうしてできあがった名言を、今度使わせてもらうからさ!」
主人公「ハァ!?」
主人公「な、なにいってんですか!」
主人公「それを考えるのは、作者であるあなたの仕事でしょう!?」
作者「う~ん、だけどボクも色々と忙しいしさ」
作者「ここは一つ“キャラクターが勝手に動いた”ってやつに委ねてみようと思ってね」
主人公(相変わらず勝手なヤツだ……。だけど逆らうわけにもいかないし……)
主人公「分かりました……やってみます」
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 21:59:49 ID:PyN6GFag
作者「あ、ひとつだけいっとくけど」
作者「もしいい名言ができなかったら、主役交代させてもらうから」
作者「キミには戦死してもらって、別のキャラで第二部ってね」
主人公「え!?」
作者「それじゃ!」
主人公「あ、ちょっと待って……!」
主人公「……行っちまった。ホントひどい作者だ」
友「よう、こんなとこでなにやってんだ?」ザッ
主人公「あっ、実は──」
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:01:47 ID:PyN6GFag
友「“名言を作れ”か……。あのいい加減な作者らしいな」
主人公「どうすりゃいいかな?」
友「他ならぬ親友の頼みだ。半日だけ時間をくれ」
友「外の世界に干渉して、他の作品の名言ってやつがどんなもんか調査してみるから」
主人公「え、なんでお前そんなことできんの!?」
友「…………」ギロッ
主人公「わ、分かった、なにも聞かない」
主人公「じゃあ……頼むよ」
友「ああ、任せときな!」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:04:43 ID:PyN6GFag
半日後──
友「ただいま」
主人公「おお、どうだった? 名言ってどういうもんか分かったか?」
友「名言っていっても色んなタイプがあるから」
友「名言とはこういうものだ、って一言でいうのは難しいな」
友「だけど“名言の法則”みたいなもんは、なんとか分かったような気がするよ」
主人公「すげえ! ぜひ教えてくれよ!」
友「んじゃさっそく、講義を始めるぞ」
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:07:25 ID:PyN6GFag
友「まず……“自分の目的をしっかり告げる”なんてのは名言になりやすいな」
主人公「目的か……俺だったら帝国を倒す、かな?」
友「まぁ、そうなるだろうな」
友「代表的なのはワンピースのルフィの『海賊王におれはなる!』なんてのがある」
主人公「!」ビビッ
主人公「お~、いいねえ。今ビビッときたよ」
主人公「ここは海でもなんでもないのに、潮風の匂いがしたよ」
友「明確な目的がある主人公の方が、読者ものめり込みやすいだろうしな」
1.目的を告げる
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:09:03 ID:PyN6GFag
友「それと……いわゆる“キレイごとを否定するセリフ”も名言になりやすい」
主人公「キレイごとを否定……」
主人公「人は愛があれば生きていける、みたいのを全否定すればいいわけか」
友「そうそう」
友「例としてはカイジの『金は命より重い……!』なんてのがある」
主人公「すげぇな、いいにくいことをいい切っちゃってるところがすげえ」
友「だろ? 思っててもなかなかいえねぇよ、金は命より価値があるなんて」
2.キレイごとを否定
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:10:37 ID:PyN6GFag
友「だけど逆に、“命の素晴らしさ”を説くようなセリフも人気が出る」
主人公「ふうん、たとえば?」
友「ダイの大冒険の『閃光のように……!』とかだな」
友「人間の一生は短いけど、だから閃光のように生きてやるっていうセリフだ」
主人公「熱いな……」
主人公(俺、閃光のように生きられてるかな……せいぜい線香花火だ)
3.命の素晴らしさを説く
12 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:12:36 ID:PyN6GFag
友「あとは単純に“自己紹介”のセリフが名言になったりする」
主人公「自己紹介が名言? どういうことだよ?」
友「名探偵コナンの主人公のコナンはこうやって自己紹介するんだ」
友「『江戸川コナン、探偵さ』ってね」フッ…
主人公「おぉ~、かっけえな。キザだけど、悔しいけどかっこいいや……」
4.自己紹介
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:15:08 ID:PyN6GFag
友「他には……“面白い比喩”なんてのも名言になりやすい」
主人公「比喩? 炎のように熱い俺のハート、みたいな?」
友「ちょっと普通すぎるな。それじゃ名言にはなりにくいよ」
主人公「ぐ……!」
友「ジョジョの奇妙な冒険にはこんなセリフがある」
友「『コーラを飲んだらゲップが出るっていうくらい確実じゃッ!』ってな」
主人公「ぶふっ! す、すげえ……」
主人公「確実とゲップをつなげるなんて……どんな発想だよ……」
5.面白い比喩
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:16:37 ID:PyN6GFag
友「あとは……“同じフレーズを何度も繰り返し使う”なんてのもありかもな」
友「たとえばブリーチって漫画だと」
友「『なん……だと……』って言い回しが何度も何度も出てくる」
友「そのおかげで、ブリーチといえば『なん……だと……』っていうファンも多い」
主人公「なん……だと……」
主人公「うん、これはたしかに使いやすい」
友「使いやすい……だと……」
主人公「応用した……だと……」
6.同じフレーズ
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:18:06 ID:PyN6GFag
友「それから、意外と“何気ない仕草”も名言になったりする」
主人公「何気ない仕草が?」
友「バスケ漫画のスラムダンクの『左手はそえるだけ』ってのは」
友「別に特別な技でもなんでもない、ジャンプシュートの時のコツなんだけど」
友「このセリフが、いざという時に使われるとグッとくるわけだな」
主人公「ジャンプシュートのコツが、ものすごい感動を生むわけか……」
7.何気ない仕草
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:20:20 ID:PyN6GFag
友「あと、名言とはちょっとちがうかもしれないけど」
友「“変わった語尾”なんかも印象に残りやすいな」
主人公「語尾?」
友「NARUTOの主人公のナルトは『ってばよ』って語尾を使うんだが」
友「おかげでこいつのセリフ回しは記憶に残りやすくなってる」
主人公「語尾かぁ……ちょっと工夫してみるかなってばよ」
友「パクるなってばよ」
8.変わった語尾
17 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:22:29 ID:PyN6GFag
友「それと……やっぱり“長いセリフ”ってのは記憶に残りやすい」
友「ヘルシングって漫画で敵のボスが『諸君、私は戦争(クリーク)が好きだ』って」
友「延々と戦争について演説をかますシーンがあるんだが」
友「あまりに強烈なので、作品知らない人でもこの演説は知ってるレベルになってる」
主人公「長いセリフは得意じゃないけど……やってみる価値はありそうだな」
9.長いセリフ
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:24:19 ID:PyN6GFag
友「そして最後は……やっぱり“数字”だな」
友「ドカンとでかい数字でインパクト出してやりゃ、それだけで名言になる」
友「ドラゴンボールのフリーザの『わたしの戦闘力は530000です』とかな」
友「それまで戦闘力数万でやりあってたところに、53万だからな」
友「イヤでも印象に残るってもんよ」
主人公「数字ってのは分かりやすいもんなぁ」
10.大きい数字
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:26:58 ID:PyN6GFag
友「──さてと、オレの調査はこんなところかな」
友「あとはおまえ次第だ」
主人公「ありがとな……。俺、やってみるよ! 名言、生み出してみせるよ!」
友「がんばれよ」
友「この漫画から、名言が生まれりゃオレだって嬉しいんだからさ」
主人公「ああ、任せてくれ!」
主人公(必ずすごい名言を作って、作者をギャフンといわせてみせる!)
20 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:28:50 ID:PyN6GFag
その夜──
主人公(ああでもない、こうでもない……う~ん……)
主人公(くそっ、なかなかいい名言ができないな……)
主人公(ただでさえ、帝国軍との戦いで忙しい時に……)
主人公(ええい、今夜は徹夜だ!)
………………
…………
……
21 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:30:44 ID:PyN6GFag
翌日──
作者「やぁ」
主人公「ど……どうも」クラッ…
作者「昨日ボクがいった宿題、名言は作ってきたかな?」
主人公「……バッチリです! 自信作です!」
作者「よし、じゃあさっそく聞かせてもらおうか。キミの“名言”を!」
主人公「はいっ!」
22 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:35:08 ID:PyN6GFag
主人公「ククク、俺は主人公で帝国反乱軍の一員だ!
俺は帝国を絶対にブッ倒す! ドミノ倒しをするようにな……!
ククク、もちろんブッ倒すって思ってれば報われるとは限らない……!
だが、俺のちっぽけな命を燃やせば大帝国だって倒せるはずだ!
ククク、剣を持つ時は両手で握り締めるだけ……。
俺が本気を出せば帝国兵700000人くらい余裕で倒せるぜ。
ククク、やってやるでヤンス!」
23 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:38:42 ID:PyN6GFag
1.目的を告げる 「帝国を絶対にブッ倒す」
2.キレイごとを否定 「思ってれば報われるとは限らない」
3.命の素晴らしさを説く 「ちっぽけな命を燃やせば大帝国だって倒せる」
4.自己紹介 「俺は主人公で帝国反乱軍の一員だ」
5.面白い比喩 「ドミノ倒しをするように」
6.同じフレーズ 「ククク」
7.何気ない仕草 「両手で握り締めるだけ」
8.変わった語尾 「ヤンス」
9.長いセリフ 「176文字」
10.大きい数字 「700000」
PERFECT!
主人公(き、決まった……!)
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:42:12 ID:PyN6GFag
作者「……なにそれ?」
主人公「え?」
作者「やたら無駄に長いわ、内容は支離滅裂だわ、しかもヤンスってなんなんだよ」
作者「響くものがなんにもなかったよ」
作者「散々期待させといてこれかよ……ガッカリだわ」
作者「悪いけど、キミもういいや」シッシッ
作者「適当なところで死んでもらって、新しい奴を主役にすっから」
作者「じゃあな」スタスタ…
主人公「…………」
25 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:44:40 ID:PyN6GFag
主人公(なんだよそれ……!)
主人公(せっかく人が一生懸命考えたってのに……)
主人公(だいたい、漫画のセリフなんてもんは作者が自分で考えるもんだろがよ)
主人公(それをよりによって自分のキャラクターにやらせて、なにがガッカリだよ……)
主人公(好き勝手、ほざいてんじゃねえ……)
主人公「…………」ブツブツ…
作者「?」
主人公「好ききゃって、ほざいてんじゃねェェェェェッ!!!」
作者「!!!」ビビビッ
26 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:47:12 ID:PyN6GFag
主人公「このヤロ──」
作者「おおっ、い、今のはよかったよ!」
主人公「へ?」
作者「心の底からの叫びって感じで、なんかこうビビビッときた!」
作者「“勝手”を噛んじゃって“きゃって”になってたのもちょっと面白い!」
主人公「え、え、え?」
作者「ボクが求めてたのは、そういうセリフだよ! ぜひ使わせてもらう!」
主人公「ど、どうも……」
主人公(なんか知らんが、どうやら名言が生まれたようだ……)
27 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:54:46 ID:PyN6GFag
その後、ある漫画雑誌にてこんなシーンが掲載された──
帝国将軍『国が民の命や財産を奪い取ってなにが悪い?』
主人公『好ききゃって、ほざいてんじゃねェェェェェッ!!!』
読者A「なんだこれ? 誤植か?」
読者B「いや、それだけ主人公がブチキレてるって表現だろ? すげえよ」
読者C「この漫画、絵やストーリーはいいのにセリフ回しはイマイチだったからな」
読者D「ようやくこの漫画にも、名言が生まれたな」
読者E「俺、このコマでコラ作ろっと」
28 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 22:59:41 ID:PyN6GFag
友「よかったよかった」
友「例の名言、外の世界じゃずいぶん好評みたいじゃんか」
主人公「思いっきり噛んでるから、ちょっと恥ずかしいけどな」
主人公「お前の調査やアドバイスも役に立ったよ。どうもありがとう」
友「苦労したかいがあったよ」
主人公「だけど、読者の心に響く“名言”を生み出す上で一番大切なのは」
主人公「こういうセリフがウケるからこうしよう、とかいうことじゃなく」
主人公「いいたいことを心の底からズバッという、ってことなんじゃないかなと思うよ」
おわり
29 :
◆4QOsBV.E5M :2015/04/13(月) 23:00:17 ID:PyN6GFag
以上で終わりです
ありがとうございました
30 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 23:06:50 ID:ZmCeJcGU
乙!
31 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/13(月) 23:14:45 ID:NBBf6hRw
面白かった!
確かにさらっと何気なく生まれる名言は多いな
32 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/14(火) 01:12:03 ID:BYAI2jWg
乙、オチまで良かったぜ
33 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/14(火) 04:33:21 ID:TgkOEieI
途中も納得だけど、結論がいいね
面白かった乙!
34 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/14(火) 08:23:43 ID:aFy1nPnQ
乙……だと…………
35 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2015/04/14(火) 14:09:38 ID:H7CuaZGQ
作者とキャラの対談…くっ、古傷がうずくぜ…
乙乙
短い中に濃縮されてた
転載元
漫画主人公「作者に頼まれて名言を生み出すことになった」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1428929217/ NHKエンタープライズ (2011-03-15)
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