1 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:17:59 ID:207EuB7A
男「雪だ…」
女「ほんとだー、初雪、だね」
男「こりゃ積もりそうだ」
女「うん、積もるといいな」
男「…寒いのは嫌いだ」
女「暑いのも嫌いなくせに」
男「勘弁してくれよ」
2 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:19:01 ID:207EuB7A
男「…懐かしいな」
女「なにが?」
男「あの頃、雪が降るとすごい喜んでたな」
女「まぁ、子供の頃の話じゃん。今は、もう大人ですから!」
男「もう大人、か」
女「うん。子供じゃ、ないんだよ」
男「……」
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:20:11 ID:207EuB7A
女「えへへ、なんか湿っぽくなっちゃったね!帰ろうよ」
男「…早く帰るか。やんなっちゃうな、まったく」
女「そうやってネガティブなことばっかり言うー。そういうとこ、私嫌い」
男「冷たいな」
女「だって嫌いなものはきらいなんだもーん」
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:21:05 ID:207EuB7A
男「…フるんだったら、最初から言えばいいのに」
女「…ごめんね、突然告白されて、びっくりしちゃって」
男「信じた僕が馬鹿だったよ」
女「ゴメンね…でも…本当は…」
男「…あったかいものでも飲むか」
女「…うん」
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:21:59 ID:207EuB7A
自動販売機前にて
女「ささっお飲み物でございます。暖かいうちにどうぞ」
男「やけに固いな」
女「いえいえーじゃんけんに負けたのは私ですから。どうぞお飲みになってくださいー」
男「んー」
女「なによその不服そうな顔は!ていっ」ポカッ
男「あいたっ!」
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:22:49 ID:207EuB7A
女「勝負に負けて奢ることになったのは私なんだから、いいの!」
男「…どうすりゃいいんだよ」
女「さっさと飲みなさいよ」
男「仕方ないな…」
女「次は私が勝つからね!」
男「今日は、ついてない日だったんだよな」
女「まったく、そういう下手な励まし方が気にいらないんだってば…」
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:24:05 ID:207EuB7A
男「……」
女「……」
男「……」
女「ねぇ…怒ってる?」
男「ん?」
女「あの日、急にいなくなっちゃったこと、怒ってないかな…って」
男「なんかあったのか」
女「…あんたはさ、私が困ってるとき、いつも優しくしてくれたよね。…それが、辛かった」
男「……」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:24:55 ID:207EuB7A
女「…私、ずっと迷惑だって思われてるんじゃないかって不安だったの。」
男「…めんどくさいな」
女「あはは、そうなんだー。私、めんどくさい女なんだ、いまさら知ったの?」
男「しょうがないか。忘れてたのは僕のほうだもん、な」
女「…うん」
男「……」
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:25:59 ID:207EuB7A
女「…ごめん、ここまで。もう帰らなきゃ、一緒には行けない」
男「…もう終わりか」
女「うん」
男「思ったより、あっという間だったな」
女「ごめんね。でも最後にあえて嬉しかったよ」
男「楽しいこともあったし、辛いこともあったよな」
女「ばいばい」
男「…あぁ」
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__
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:27:20 ID:207EuB7A
会社終わり、外に出ると雪が降り出していた。
「雪だ…」
今年初めての雪。
近頃寒くなっては来たものの雪が降るとは思わなかった。
肩に触れる雪はしばらく形を留め、ゆっくりと溶ける。
どうやら大きい結晶の雪らしい。
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:28:23 ID:207EuB7A
「こりゃ積もりそうだ」
風が吹く。刺すような寒さが体を包む。
今日は運悪くマフラーを忘れてしまったため、首筋から冷風が入り込んで寒い。
「…寒いのは嫌いだ」
バックの中を探る。どうやら手袋も忘れてきたらしい。
「勘弁してくれよ」
12 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:29:18 ID:207EuB7A
仕方ないのでぱらぱらと降り始める雪を見つめながら、しばらく立ち尽くす。
雪が嫌いになったのは、いつからだっただろうか。
「…懐かしいな」
「あの頃、雪が降るとすごい喜んでたな」
子供の頃、初めて雪を見たときは、驚いて声も出なかった。
朝、目が覚めると町中が白く染まっていて、魔法をかけられたような気分になった。
雪だるま、雪合戦、そり遊び…
あんなに嬉しかった雪なのに、どうして今はこんなにも嫌なのだろう。
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:30:30 ID:207EuB7A
「もう大人、か」
「……」
今年で31になる。
あの頃の純粋さはもう擦り切れて、削られて、ペラペラである。
童心に返ろうとすればするほど、惨めな気持ちになってくる
「…早く帰るか。やんなっちゃうな、まったく」
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:31:35 ID:207EuB7A
歩き出すと、顔に雪が当たり溶けていく。
辛うじて風は強くないものの、目を細めないと歩けないほどになってきた。
「冷たいな」
今日の天気予報は、たしか曇り。
雪が降り始めるのは来週の予定だったはずだ。
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:32:41 ID:207EuB7A
「…降るんだったら、最初から言えばいいのに」
「信じた僕が馬鹿だったよ」
血液占いと天気予報は信じないほうがいい。
今度から、折り畳み傘と手袋はバックに入れておくことにしよう
身を小さくしながら、早足で歩く。
滑って転びたくは無いので、焦らず急いで歩く。
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:33:53 ID:207EuB7A
しばらく歩いたが、どうにも寒い。驚くべき寒さである。
手袋がないせいで、指先の感覚がなくなってきた。
「…あったかいものでも飲むか」
目に付いた自動販売機へ。
消費税が上がって10円値上げした缶コーヒーに一瞬躊躇ったが、購入する。
ガコンという音と共に取り出し、指先を暖める。
感覚のなくなった指に、暖かい血が再び流れ始める。
雪の降る日に、ひとり自動販売機の横で小さく震えてるおっさん。
なんとも惨めな姿である。
17 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:35:02 ID:207EuB7A
しばらく指先を暖めた後、コーヒーを飲もうとするが、開かない。
プルタブが妙にきつくて開かない。
「やけに固いな」
「んー」
グッと力を込めると、活きよいよくプルタブは抜けた。
「あいたっ!」
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:36:13 ID:207EuB7A
開いた、訳ではない。
缶コーヒーの飲み口を綺麗に残したまま、プルタブ部分だけが取れた。
「…どうすりゃいいんだよ」
もはや、若干冷め始めた缶コーヒーという名のカイロ。
しばらく飲み口を爪で引っかいて開けようとするが、無理。
「仕方ないな…」
缶コーヒーは家に持ち帰って飲むことにする。
次第に暖かかった熱も冷め、130円のカイロは5分と持たずに役目を終えてしまった。
「今日は、ついてない日だったんだよな」
今朝の血液占いは最下位だった。
占いのほうだけは信じてもいいかもしれない。
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:37:24 ID:207EuB7A
再び、歩き出す。
先ほど暖めた指が、見事に一瞬で冷えて感覚を失う。
「……」
喉が渇いたが、小銭はもう無い。
「……」
しばらく歩くと、ポケットの中に入れていた携帯のバイブレーションが鳴った。
見てみると一通のメールが届いていた。
会社の後輩からのメールだった。
20 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:38:54 ID:207EuB7A
「ん?」
「なんかあったのか」
『先週お願いした資料なんですが、まだ提出できませんか?』
「……」
「…めんどくさいな」
「しょうがないか。忘れてたのは僕のほうだもん、な」
21 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:40:02 ID:207EuB7A
雪が降る道を、一人歩く。
今年もあと少しで終わりだ。
「……」
「…もう終わりか」
年を取れば取るほど時間の感覚が短くなっていく気がする。
そんな感覚をここ何年かずっと感じていた。
「思ったより、あっという間だったな」
今年も、もう少しで終わり。
「楽しいこともあったし、辛いこともあったよな」
22 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:40:50 ID:207EuB7A
ふと横を見ると、若いカップルが並んで歩いていた。
「…あぁ」
羨ましいな。くそ。
23 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/21(日) 20:41:32 ID:207EuB7A
おしまい
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/12/22(月) 09:24:08 ID:JYSBjGdg
お疲れ
転載元
男「雪だ…」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1419160679/ バンダイ (2015-05-31)
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