1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/13(月) 23:47:14.73 ID:cgClIyBDO
-早朝、第七学区某所
削板「……暑い」
とある学生寮の一室、タンクトップとパンツの男が汗だくで目を覚ます。
部屋のクーラーは微動だにしていない。
昨晩は大規模停電でクーラーが使えなかった。
だが、どのみちこの男はこの夏に入ってからというものクーラーなど使った試しがない。
「夏は暑くて当たり前。大絶賛地球温暖化の中でクーラーを使うなど根性なしの所業だ」
というのがこの男の思想だ。
しかし、暑いものは暑い。
削板「むう…シーツもタンクトップもビシャビシャだな。洗っておくか」
ムクリ、と起き上がりタンクトップを脱いで丸め、ベッドから降りてシーツも丸める。
そのまま脱衣室に行って洗濯カゴへ無造作に投げ入れる。
削板「ん~、なかなかいい朝だな! マットも干すか!」
クソ暑い朝=いい朝という等式が彼の中では成り立つ。
だから気分は爽快だ。マットも干そうという気分にもなる。
パンツ一枚でマットも丸めてカーテンと網戸を足で開ける。
削板「ハッハッハ! やはりいい天気……」
最初に目に入ったのは清々しい青空。
しかし、次に目に入ったのはなぜか彼の正装着。
削板「……白ラン……干してたか……?」
だが、彼の白ランにしては小さい。というか白ランは持ってても白い被り物など持ってない。
すると急に白ランが頭上げる。
白ラン「……ご飯くれると嬉しいな」
削板「白ランがしゃべっただと!?」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1368456434
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/13(月) 23:48:30.54 ID:cgClIyBDO
白ラン「私はハクランなんて名前じゃないよ。インデックスって言うんだよ」
削板「…インデックス?」
インデックス「うん」
………まだ寝呆けてるのか? イヤ、夢と現実の違いくらい分かる。
インデックス「ねえ」
削板「む?」
インデックス「ご飯……くれると嬉しいな」
削板「……とりあえず朝メシ食うか」
インデックス「うん!」
一旦マットは置き、小さな少女を部屋に入れ、半袖短パンジャージを着て、削板軍覇は厨房に向かった。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/13(月) 23:49:29.51 ID:cgClIyBDO
-30分後
インデックス「お、美味しいんだよ! スゴく美味しいんだよ!」バクバクバクバク
削板「ハッハッハ! いい食べっぷりだ!! 根性あるな!!」ガツガツガツガツ
インデックス「こんな美味しい料理はじめてなんだよ!」バクバクバクバクバクバク
削板「むう! これは足らんな! もっと作るから待ってろ!!」スクッ
インデックス「ご飯!! お代わり!!」
削板「スマンが炊いたのはそれで終わりだ! パン食えパン!!」ジャーッジャッジャッ!
インデックス「了解なんだよ!」ムシャムシャムシャムシャ
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/13(月) 23:50:38.42 ID:cgClIyBDO
-一時間後
「「ごちそうさまでした!」」
インデックス「プハッ、お腹いっぱいなんて久々かも!」
満足気にお腹をさするシスター。その顔はこの上なく幸福そうだった。
削板「そうかそうか! こっちも作り甲斐があったぞ! 根性ある朝メシだったな!」
同じく腹をさする高校生。その顔もニカリと笑っていた。
インデックス「……今さらだけどこんなに食べちゃってよかったのかな?」
削板「かまわんかまわん! 昨日の停電のせいで食料の保存が利かなくてな!
捨てるよりは百万倍マシだ! 何より朝から全力投球というのは素晴らしいからな!」
少々申し訳なさそうな表情をしたシスターの不安を削板は右手を振って笑い飛ばす。
事実、この真夏に融けかかった氷でこれ以上食材を保存するのは難しかった。
何より、よく食べてよく動いて良い根性を育むべし、が削板軍覇のモットーだ。
インデックス「……よく分かんないけど、悪いコトしてなかったみたいでよかったんだよ!」
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/13(月) 23:52:51.81 ID:cgClIyBDO
削板「さてと、腹も膨れたところでだ」
インデックス「うん?」
削板「とりあえずお互い自己紹介しないか?」
文字通り同じ釜のメシを食った仲になった訳だが、二人は互いのことを何も知らない。
おまけにベランダに干されていた少女など削板の波乱万丈な人生にも現れたことはないので削板は興味津々だった。
インデックス「うん!」
そして、それはこの白い少女も一緒だった。
削板「ではまず俺からだな! 学園都市が誇るLevel5の第七位!【ナンバーセブン】こと削板軍覇だ!! よろしくな!」
インデックス「分かった。よろしくね、ぐんは!」
削板「おう!」
インデックス「ところでぐんは」
削板「おう?」
インデックス「Level5ってなに?」
削板「…おぉう?」
インデックス「?」
削板「いやいや、Level5はLevel5だ」
インデックス「…だから何? それ」
削板「…もしかして、学園都市の人間じゃないのか?」
インデックス「うん」
削板「なるほど。道理で銀髪碧眼の外人か。いいか? この学園都市には超能力者がいるんだ」
インデックス「へー」
削板「それで、その頂点が180万人の学生の中で7人しかいないLevel5! その第七位【ナンバーセブン】がこの俺だ!!」
ビシィ! と立ち上がりながら決めポーズを取る削板。
完全にキマった。
インデックス「……ふーん」
だが、シスターのテンションはこれと言って上がりはしなかった。
削板「…なんだ、リアクション薄いな」
インデックス「だってビリッケツなんでしょ?」
削板「な!? い、イヤ、違うぞ! 頂点だ頂点!」
インデックス「7人中7位なんでしょ?」
削板「」
インデックス「ビリッケツなんだよ」
削板「」orz
インデックス「じゃあ次は私の番だね」
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/13(月) 23:54:00.54 ID:cgClIyBDO
インデックス「私はシスター、インデックスって言うんだよ。
バチカンじゃなくてイギリスの方だからその辺も理解してくれると嬉しいな」
削板「…なるほど、イギリスのシスターだな!」
インデックス「うん!」
削板「……それで、インデックス」
インデックス「うん?」
削板「本名はなんだ?」
インデックス「……うん?」
削板「いやいや、本名だ本名。俺は【ナンバーセブン】で削板軍覇。お前は【インデックス】で名前はなんだ?」
インデックス「あ、そういうことね。本名はIndex-Librorum-Prohibitorum。魔法名は【dedicatus 545】。『献身的な子羊は強者の知識を守る』って意味だね」
削板「ほう、ホントにインデックスって名前なのか」
インデックス「うん。ちょっと変かな?」
削板「イヤ、モツ鍋よりマシだと思うぞ」
インデックス「モツ鍋!?」
削板「ところで魔法名ってのはなんだ?」
インデックス「たぶんぐんはの【ナンバーセブン】と一緒なんだよ。それよりモツ鍋って? 人の名前?」
削板「おう。アイツは根性あるぞ」
インデックス「……やっぱり科学は分からないんだよ……」
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/13(月) 23:55:49.74 ID:cgClIyBDO
削板「じゃあインデックス、お前はなんで俺ん家のベランダで干されてたんだ?」
インデックス「屋上から屋上に飛び移ろうとして失敗したんだよ」
削板「屋上から屋上に? イギリス流のシスターの修行か?」
インデックス「ジャパニーズ修験者と違ってシスターに荒行はそうそう無いんだよ。追われてたの」
削板「追われてた?」
インデックス「うん。魔術結社の連中にね」
削板「…ん?」
聞きなれない単語に削板は首を傾げる。
なんと言った? 魔術?
インデックス「あれ? 日本語がおかしかった? マジックキャバル。教会に属さないで少数人数でグループを組んだ魔術師のことだね」
どうやら聞き間違えたようではないらしい。
ほんの少し考え、ああ、と納得したように削板はポンと手を叩いた。
削板「ハッハッハ!違うぞインデックス。そいつらは能力者だ。魔法使いじゃない」
簡単な話だ。外部の人間から見れば能力も魔術に見える。
大方、自分の得た能力で天狗になっているタチの悪い連中にでも絡まれたのだろう。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/13(月) 23:57:02.36 ID:cgClIyBDO
インデックス「ううん、魔術師なんだよ」
削板「さっきも言っただろ? この街は超能力者の街だ。
最近は能力者でもスキルアウト紛いの連中がいるからな。
にしても根性の無い連中だ。こんな小さな女の子を付け狙うとは! そいつらの根性を叩き直して…」
インデックス「スキルアウトがなんなのか知らないけど、私を狙ってるのは正真正銘魔術師なんだよ!
そもそも私が追われてるのは一年前からで、この街にたどり着くよりもずっと前からなんだよ!!」
自分の主張をまるで聞き入れない削板に腹を立ててシスターは声を張る。
その表情は真剣そのもので、とても嘘を吐いているようには見えなかった。
削板「……本当か?」
インデックス「シスターが嘘つくわけないかも!」
一瞬、間が空いた
そして
削板「………そうか。そうかそうか! ハッハッハ! この世界には魔法使いも存在するのか!」
削板軍覇は腹を抱えて大笑いした。
インデックス「……? さっきまで否定してた割には受け入れが早いんだよ」
削板「ハッハッハ! 実を言うとな、俺の能力は科学じゃよくわからんらしいんだ! だから思っていたんだ!
もしかしたら俺は超能力者じゃなく違う何かじゃないかとな! そうか魔法使いか! ハッハッハッハッハッハ!」
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/13(月) 23:58:34.75 ID:cgClIyBDO
削板「それで、インデックス。お前はなんで追われてるんだ?」
インデックス「……たぶん私が持ってる10万3000冊の魔導書を狙ってるんだよ」
削板「む? 10万3000冊?」
インデックス「うん。私は『魔導図書館』だからね」
削板「………? あー、図書館の、司書? なのか?」
インデックス「ううん。私は10万3000冊の魔導書を一字一句漏らさず全部覚えてるんだよ」
フフン、と純白の少女は得意気に胸を張った。
削板「………スゴいな。つくづく根性のあるヤツだな!」
インデックス「ふっふーん♪」
食い付く削板。ドヤ顔でさらに胸を張るインデックス。
削板「じゃあアレやってくれ! ビューン、ヒョイってヤツ!」
インデックス「え?」
削板「なんだったか……ウィン……ウィン…ウィンガーディアンオーガンジー?」
インデックス「???」
削板「とにかくアレだ。モノを浮かせるやつだ」
インデックス「…………えっと……私には魔力がないから魔術は使えないんだよ」
……再び静寂が訪れる。
一度信じたものをすぐに疑うことは彼のポリシーやら根性やらに反しているが……。
削板「……本当に魔法使いとかいるのか?」
さすがに疑わざるを得ない状況である。
15 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/14(火) 00:00:02.14 ID:sLB/CbBDO
インデックス「あ、あー! 疑うんだね!? 私の話が全部デタラメだと思ってるんだね!?」
削板「……」
インデックス「目を逸らさないでほしいかも! 証拠ならちゃんとあるんだよ!」
削板「ほう?」
インデックス「これ! 私が着ているこの修道服!」
そう言ってインデックスは自分が着ている修道服を広げる。
インデックス「これは『歩く教会』って言って、教会における必要最低限の機能を抽出した、服の形をした教会なんだよ!」
削板「……?」
インデックス「つまり! この修道服は物理的害悪も魔術的害悪も何から何までぜーんぶ受け流して吸収しちゃう霊装なんだよ!」
削板「……マジか」
と、この男は少女が大声でわめきたてただけで信じてしまう。
そもそも10万3000冊の書物を丸暗記しているという時点でかなり眉唾物なのだが。
それでも彼は疑わない。
まあ根性があればできないこともないな、とものすごく大きくて大雑把な物差しで彼は物事を測るのだ。
これが彼の長所であり短所である。
インデックス「疑うなら試してみる? パンチでも包丁でもちょーのーりょくでもなんでも来いなんだよ!」
削板「む……」
インデックス「どうしたの?」
削板「悪いがお断りだ」
インデックス「へ?」
削板「俺は何もしてない女に手を上げるような根性のない真似はしないぞ!」
インデックス「……今はそーゆーコトを言ってるんじゃないんだよ! 実験なんだからそんなコトは関係ないかも!」
削板「ダメだ! これだけは曲げられん!」
インデックス「むー!」
削板「その代わりだ、お前の言うことは信用しよう。魔術は存在する。そうだな?」
インデックス「……釈然としないけど信じてくれるならよしとするんだよ」
16 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/14(火) 00:02:10.59 ID:sLB/CbBDO
インデックス「さて、私はそろそろ行くね」
論争も一段落ついたところで、インデックスは玄関へと足を向かわせた。
削板「行くってどこにだ?」
そして、削板も立ち上がり、インデックスについていく。
インデックス「んーと、教会かな。できればイギリス式のがいいんだけど」
削板「教会に行けばお前はもう追われずに済むのか?」
インデックス「……たぶんね。そこでイギリスの本部と連絡が取れればこっちの勝ちなんだよ」
削板「そうか。なら教会まで送ろう。着替えるからちょっと待ってろ」
インデックス「ううん。ぐんはは来なくていいんだよ」
削板「そういう訳にもいかん。そんな物騒な話を聞いて放っておいては根性が廃る」
魔術の存在を認め、魔術師に追われていると知ってなお、削板はインデックスを送ろうとした。
その行動を受け、純白のシスターは少し驚いた表情をし、すぐに悲しい顔をした。
インデックス「……ぐんはは優しいね。でも、本当にいいんだよ。
お腹一杯ご飯食べさせてくれた人にこれ以上迷惑をかける訳にはいかないから」
削板「だがな……」
インデックス「じゃあぐんはは」
ほんの少し間を空け、しっかりと削板の目を捉え、真剣な表情でシスターは言い放った。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/14(火) 00:02:46.05 ID:sLB/CbBDO
インデックス「私と一緒に地獄の底までついてきてくれる?」
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/14(火) 00:04:45.24 ID:sLB/CbBDO
削板「っ!」
その言葉の重みのせいか、またはあまりにもリアルな雰囲気のせいか、削板は硬直した。
インデックス「……ご飯ごちそうさま。バイバイ」
ガチャリと扉を開け、少しだけ残念そうな表情をしたシスターは駆け足で削板のアパートを後にした。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/14(火) 00:06:18.43 ID:sLB/CbBDO
削板「……地獄の底、か」
「しょちょう! ヤダ! 私帰る! みんなのとこに帰る!」
「駄目に決まっているだろう。【発火能力】【電撃使い】は成功した。次は【水流操作】の君だ」
「はなして! ヤダ! 誰か助けて!」
「所長……」
「な、軍覇!? なぜここに!?」
「! ぐんはくん! 助けて!」
「所長……今の話は本当か?」
「な、なんのことだ?」
「【発火能力】【電撃使い】……最近転園したヤツと一人立ちしたヤツの能力だ」
「……」
「それがあんたの正体か」
「……見られしまったからには帰すわけにはいかん。取り押さえろ!」
「ふざけるな……ふざけるなああああああ!!!!」
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/14(火) 00:07:28.13 ID:sLB/CbBDO
削板「……やっぱ、放っておけないな」
一度部屋に戻る。そして、ジャージを脱ぎ捨てる。
日章旗のシャツ、正装である白ラン、気合いを入れるハチマキ。
すべて身につけ、バシン! と削板は胸の前で右の拳を左の手のひらにぶつけた。
削板「【ナンバーセブン】削板軍覇、出陣だ」
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/15(水) 18:28:15.97 ID:TtQWvVHKo
お、面白そう
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/16(木) 01:29:40.89 ID:q3oEe3lb0
ほォ…
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 18:51:48.81 ID:O9HDQcjDO
-第七学区、大通り
???『教会?』
削板「おう。できればイギリス式のヤツを教えてくれ」
午前中ですでに屋外は真夏日の気温を記録していた。
蒸し暑く、それでいて雲ひとつない炎天下。
燦然と輝く太陽の下、削板軍覇は女子高生と携帯電話で会話していた。
その女子高生の名は雲川芹亜。とある高校に在学する天才だ。
雲川『確か三沢塾の近くにイギリス式の教会があったはずだけど……』
削板「三沢塾か! ここからそう遠くないな!」
雲川『寝起きにそんなデカい声を聞かせるな。頭に響く……』
削板「寝起き!? もう9時だぞ!」
雲川『まだ9時だ。たまの休みに惰眠を貪って何が悪い』
削板「今は夏休みだぞ!」
雲川『私は夏休みもアルバイトで忙しいのだけど』
削板「それにしたって寝すぎだろう!」
雲川『だから……もういい。話が進まん』
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 18:52:47.77 ID:O9HDQcjDO
雲川『それで? なんで急に教会だ? 神に懺悔するタイプには見えないけど』
削板「人探しだ。シスターを探してる」
雲川『……なるほど。だからイギリス式という条件付きか』
削板「まあな」
雲川『先に言っておくけど、修道女に恋愛はNGだぞ』
削板「? ああ、それがどうした?」
雲川『……ああ、スマン。お前を浮いた話でからかおうとした私が馬鹿だったな。
とりあえず教会に着いたらそこで残りの教会の住所を聞け。うろ覚えの私よりはよっぽど正確な情報が聞けるはずだけど』
削板「分かった! ありがとな!」
雲川『ああ』
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 18:56:00.40 ID:O9HDQcjDO
-第一学区、某所
プツッ、と携帯電話は切れてしまった。
大きな窓から明るい学園都市の風景が見えるビルの一室で、雲川芹亜は軽くため息をついた。
雲川「相変わらず暑苦しいヤツだ。真夏だから余計暑苦しい」
携帯電話を制服のスカートにしまい、もうひとつため息をついてから雲川は部屋の主に目を向ける。
雲川「それで? 休みだというのに叩き起こして呼びつけた理由を聞きたいけど?」
窓を背景に置かれたデスクとチェア。
そのチェアの背もたれを ギ、と鳴らして部屋の主である学園都市統括理事会の1人、貝積穂継は喋りだす。
貝積「すまないね。ちょっと相談に乗ってほしい」
雲川「それが仕事だ。聞こう。その代わり代休はしっかり一日分もらうけど」
貝積「かまわないよ。実は明け方から理事会全体に通達が来た。そのことについて少し聞いてもらいたい」
雲川「ほう?」
貝積「……魔術、って信じるかね?」
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 18:57:26.85 ID:O9HDQcjDO
-第七学区、イギリス清教分教会
削板「たのも――――――――う!!!」
どぉん!!と教会の巨大な扉が勢いよく開き、わんわんと削板の大声がこだまする。
なぜ教会を訪ねるのに道場破りのような突撃をするのか。
きっと理由はその時の彼のテンションやら勢いやら根性やら色々である。
???「な、何事ですか!?」
すると奥からあわてて初老の神父のような男がバタバタと現れた。
特殊な力を持つ学生がいるこの都市では度が過ぎたヤンチャは日常茶飯事だが、あくまでも教会の外での話だ。
神聖な教会で騒音が鳴り響くなどなかなかない。
削板「お、えーと、神父様? 司祭様?」
神父「一応私は神父ですが…」
削板「そうか! 俺は削板軍覇だ! よろしくな!」
神父「は、はあ、どうも…」
削板「おう! それでな、神父様、今人を探してんだが聞いてもいいか!?」
神父「え? ええ。人を探しに来られたのですか?」
削板「ん? おお、そうだぞ」
神父「なんだそうでしたか。いきなり大声で入って来られましたので暴漢かと思いました」
削板「む、それはスマン!」
神父「いえいえ。それと、できればお声はもう少しお静かに。神聖な場所ですので」
削板「分かった」
神父「ご理解いただいて何よりです」
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 18:58:46.59 ID:O9HDQcjDO
神父「して、尋ね人というのは?」
削板「ああ、インデックスっていうシスターなんだけどな」
神父「!」
削板「おっ、知ってるのか」
神父「……そうですね。あー、英国本部に珍しい名前のシスターがいる、という程度には」
削板「そうか。それで、そいつがイギリス式の教会を探してるっていうから来たんだが、来てないか?」
神父「……いえ、こちらには訪れていません」
削板「むう、どこかですれ違ったか……それとも違う教会に行ったのか……?」
神父「あなたから連絡は取れないのですか?」
削板「取れないんだ。そもそも連絡先も知らん」
神父「そうですか……失礼ですが、どういったご関係で?」
削板「同じ釜のメシを食った仲だ!」
神父「おや、同業者でしたか」
削板「ん? イヤ、俺はただの学生だぞ?」
神父「……はあ?」
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 18:59:58.26 ID:O9HDQcjDO
削板「とにかくな、そいつどうやら追われてるらしいんだ」
神父「!? なんと、物騒な」
削板「まったくだ。シスターを襲うなんざ根性が腐ってやがる。
だから、白い修道服で銀髪の小さいシスターが来たらかくまってくれないか?」
神父「……ええ、もちろんですとも」
削板「そうか! それと、もしインデックスが来たら俺に連絡をくれ!」
神父「承知しました」
削板「うし、じゃあこれ俺のケータイ番号な! それと、ここの他の教会の住所って分かるか?」
神父「……ああ、それでしたら私の方で聞いておきましょう。幸い、他宗派の連絡先も存じておりますので」
削板「お、いいのか!?」
神父「ええ。ですから貴方は外を探してください。本当に追われているのなら、きっとお困りになっているでしょう」
削板「そうか! じゃあなにか分かったら連絡をくれ!」
神父「ええ。もちろんですとも」
削板「よし! じゃあ俺は行くぞ! ありがとうな、神父様!」
神父「どういたしまして。あなたとシスター・インデックスに神のご加護が」
あらんことを、と言う前に削板軍覇は目にも止まらぬスピードで立ち去ってしまった。
神父「……【禁書目録】の学園都市侵入、さらに追われている、か」
神父「……『必要悪の教会』……イヤ、直接本部に連絡ですね。
案件が案件な上に【禁書目録】を科学サイドが追っている可能性もあります」
神父「追っているのは十中八九『必要悪の教会』の構成員だと思いますが……
念には念を。あの少年がイレギュラーになる可能性も十分にあります」
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:01:22.95 ID:O9HDQcjDO
-第一一学区、裏通り
???「なに? 小さいシスター?」
削板「おう。見なかったか?」
教会方面を神父に任せた削板は学区を移し、第一一学区の裏通りにあるスキルアウトの根城に来ていた。
ここのリーダーである横須賀こと『内臓潰し』こと『対能力者戦闘のエキスパート』ことモツ鍋とは根性仲間である。
曰く、ともに弛まぬ鍛練で己の根性を根性入れて磨きあげて立派な根性に根性していく仲間である。
横須賀「見ていないな。というかスキルアウトの溜まり場にズカズカ入りこんで来るな。」
削板「ん? なんか悪かったか?」
横須賀「お前にボコられた連中もいるんだぞ? そういった連中がお前に御礼参りしようが俺は一切手出しは……」
スキルアウト「削板さんこんちゃーすっ!!」
スキルアウト「お久しぶりです削板さん!!」
スキルアウト「珍しいッスね! 次の番付ッスか!? 大食いとかいいんじゃないッスかね!」
削板「む! アリだな! それでいくぞ!」
スキルアウト「っしゃあ! ぜってぇ負けねぇッスよ!」
横須賀「……」
削板「よし! じゃあ来週な! 俺はちょっとモツと話がある」
スキルアウト「わかりやした! 失礼します!」
スキルアウト「削板さんお疲れッス!」
スキルアウト「横須賀さんお先失礼しやす!」
削板「おう! また来週な! ……で、なんだったか」
横須賀「……イヤ、なんでもない。」
削板「?」
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:03:11.23 ID:O9HDQcjDO
横須賀「で、お前はなんでシスターなど探している?」
削板「どうもそのシスターが魔法使いに追われてるらしいんだ」
横須賀「は?」
削板「そいつもいい根性していてな。なんと10万3000冊の魔導書を丸暗記した上に俺とタメを張る食いっぷりで」
横須賀「なに? なんて?」
削板「とにかく根性あるシスターが追われてるから助けてやろうと思ってな!」
横須賀「……正直訳が分からん。……だが、シスターが追われてるんだな?」
削板「おう」
横須賀「……魔法使いに?」
削板「おう」
横須賀「……面白い。つまり『封印の剣』だな?」
削板「おう?」
横須賀「ふっふっふ、ベルン軍に追われているエレンを助けるべくお前は動いているわけだ。
さしずめ俺はフィレ軍に合流するディーク傭兵団。シャニーは論外だとしても俺はワードやロットで収まる器ではないぞ。」
削板「……何を言ってんのか分からんがとにかくそのシスターを見つけたら連絡をくれ。
お前の仲間にも協力してもらいたいんだが頼めるか?」
横須賀「おう。ぷらぷらしてる連中にも声をかけてみよう。ライブの杖は自分には使えないしな。」
削板「? まあいい。恩に着る!」
横須賀「ふっふっふ……まさか本当にそんな世界があったとは……
ドラゴンナイトやペガサスナイト…マムクートが出てきたらどうすっかなー。あの回転斬り間近で見てーなー…」
削板「?」
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:05:18.76 ID:O9HDQcjDO
-夕刻、第七学区裏通り
削板「原谷は……ダメか。補習だったからずっと学校か」
各学区の裏通りやスキルアウトの溜まり場などの捜索は横須賀に一任し、削板は表通りを中心に走り回った。
道中、仲間である原谷矢文にもメールで連絡したが返事は遅れて返ってきた上にいい内容ではなかった。
削板「神父様もダメ。モツからも連絡なし。……どこ行ったんだ? インデックス」
先ほどの神父曰く、どの教会にもインデックスは姿を現さなかった。
横須賀たちも恐らく見つけていないはずだ。
根性あふれるまま各学区をすべて走り回ってみたが、どこかの学区でかろうじて巫女らしき人物を見かけたのみ。
こうなってくるともはやお手上げである。
削板「なんで見つかんねぇんだ……俺に根性が足りないせいか!?」
ハッ、と顔を上げる削板。
彼にとって結果の原因はよかれあしかれ全て彼の根性に返ってくるのである。
削板「そうに違いねぇ! そうと分かればもう一周! もっと根性いれて学園都市を回るのみ!!」
パァン! と自分の頬に両手で気合いを入れる。
自らに喝を入れることで力が漲る。根性が溢れる。
削板「っしゃああああああ!!! 行くぞおおおおお!!!」
踊る血肉に沸き上がる根性を注入し、削板軍覇は天に向かって吠えた。
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:06:34.11 ID:O9HDQcjDO
ところで
削板「お?」
その視界に高層ビルの屋上から飛ぼうとするシスターが映った。
そのシスターは間違いなく削板が探していた純白のシスター。
削板「お、おい! インデッ」
名前を言い切る前にインデックスが飛び降りる。
さらにそのうしろから別の黒髪の女が間髪入れずに飛び降りる。
削板「!?」
そして、あろうことか後から飛び降りた女は手に持っていた自身の身長よりも長い日本刀でインデックスを背後から斬り付けた。
インデックス「ッ!」
その威力故か、インデックスの身体は重力加速度をはるかに超える速さで地面に吸い込まれていく。
とんでもない速さで落下していく彼女はぎゅっと目を瞑り、衝撃に備えた。
そして、一連の追撃を見ていた削板は考えるよりも速くインデックスの落下地点へと駆け出した。
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:08:53.55 ID:O9HDQcjDO
とさり、と。
表現するならこのような感覚だった。
インデックス「……?」
思わずインデックスは辺りを見回す。
如何に『歩く教会』を身につけているとは言え、あのスピードでコンクリートに叩きつけられてこのような感覚を得られるのだろうか?
というか、コンクリートが無事で済んでいるということがありえるのだろうか?
ましてや自分の身体が地面から少し浮いた状態を維持できるのだろうか?
あり得ない。彼女一人なら。
だが、彼女は
削板「おい! インデックス!!」
インデックス「……え? ぐ、ぐんは!?」
【ナンバーセブン】に腕の中でしっかりと抱き止められていた。
削板「大丈夫か!? 今お前刀で斬られて……」
インデックス「あ、うん。『歩く教会』を着てたから、じゃなくて!」
削板「じゃないのか!? やっぱりケガしてんのか!?」
インデックス「違うんだよ! 降ろして!」
削板「あ、そうか」
ストン、と足からゆっくりインデックスを降ろす。
確かに削板から見ても大ケガをしたような跡はなかった。
削板「おお……、本当に根性あるな、その服」
インデックス「今はそんなコトどうでもいいんだよ! 早くここから逃げて!」
削板「む、そうはいかん。ようやく見つけたんだしな。こっからは俺も参戦だ」
インデックス「ダメだってば! ぐんはを巻き込むわけには」
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:11:40.19 ID:O9HDQcjDO
???「残念だけど、もう巻き込んでるよ」
低く、小さな声が聞こえた。
しかし小さな声の割りにはしっかりと二人の耳に届いていた。
その声の主を見つけた瞬間、インデックスの顔からスッと血の気が引いた。
そして、削板も同様に声の主を見た。
10mほど先にいたのは赤い長髪で長身の神父。
タバコをくわえ、顔には妙な刺青、手にはいくつかの指輪が嵌められていた。
???「彼女をこちらに渡してもらおうか。そうすれば君のことは見逃してあげてもいい」
ふーっ、と不良神父はめんどくさそうに紫煙を吐きながらこちらへと歩み寄ってきた。
そして、若干イライラしたような眼で二人を見据えていた。
削板「コイツか? インデックス。お前を追いかけ回している魔法使いとやらは」
ギロリ、と削板は不良神父を睨み付ける。
???「! 残念だ。どうやらキミを生きて帰すわけにはいかなくなった」
瞬間、不良神父を纏うオーラが変わる。
素人肌にもわかるほどの痛いまでの殺気。
それが目の前の男から発されている。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/05/25(土) 19:12:18.39 ID:O9HDQcjDO
インデックス「逃げてぐんは! 相手はプロの魔術師なんだよ! 勝てるはずがない!!」
それを受けてインデックスも焦りはじめる。
相手の実力はこの一年で嫌というほど味わってきた。
とても一学生がかなう相手ではない。
削板「ごめん被る。根性なし相手に向ける背なと持ち合わせとらん」
しかし、彼は頑として動かない。
全身全霊で無理矢理服を引っ張って動かそうにもびくともしなかった。
???「【Fortis931】…古くさい習慣でね。魔法名をいちいち名乗らないと殺しができないんだよ。
ちなみに、ボクの魔法名の意味は『我が名が最強である理由をここに証明する』だ。名乗ったからには手加減はできないよ」
ボゥ、と不良神父の手に大きな炎が生まれた。
削板「ふん、根性なしが一丁前に名乗り上げか。なら、俺も名乗らせてもらうぞ。学園都市が誇るLevel5の」
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/05/25(土) 19:17:26.74 ID:O9HDQcjDO
???「『巨人に苦痛の贈り物』!!」
ゴッ、と巨大な火球が削板に迫る。
相手の名乗りなどなんの気にも留めず、不良神父は削板を狙った。
削板の近くにいたインデックスは万事休すとばかりに目を瞑った。
1mほどの大きさのある火球は削板たちを丸呑みに
することはなく、パァン、と弾け飛んだ。
???「……は?」
思わず不良神父から声が漏れた。
何が起きた? 魔術に対する干渉か?
インデックス「……?」
だが、唯一それができる可能性がある彼女もキョトンとしている。
ならば、可能性があるのは――?
削板「……か弱いシスターを散々追いかけ回した挙げ句、名乗りの途中に不意討ちか。どこまで腐った根性してやがる」
この学生? バカな。
たしかにさっきとは姿勢が変わっているが……拳を前に突き出しただけで魔術が弾け飛んだというのか?
???「キミは一体」
削板「黙れ根性なし。俺は今相当頭にキてんだ」
目の前の学生から出る空気が変わる。
なるほど、言葉の通り殺気というよりも怒気が溢れている。
―――どうやら一筋縄でいくような相手ではなさそうだ。
削板「いくぞ魔法使い! てめえの歪んだ根性を徹底的に叩き直してやっから覚悟しろ!!」
???「……いいだろう。プロの魔術師相手にケンカを売ったことを後悔させてやる!」
98 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:34:23.74 ID:e++sKXBDO
インデックスを追い、削板の前に立ちはだかる魔術師の名はステイル=マグヌス。
得意としている魔術はルーンを使用した、炎を中心とした魔術である。
その魔術を用いた彼の戦闘能力は凄まじく、いくつもの魔術結社を文字どおりに灰塵に帰してきた。
また、使用する魔術は炎に限らず、ルーンを使用した魔術全般において高度な魔術を繰り出せる。
挙げ句の果てには弱冠14歳にして新たなルーン文字を2つも見つけ、オリジナルの魔術すら編み出してしまう天才である。
その彼にとって、目の前にいる学生はイレギュラーであれど障害ではない。
ステイル「こちらとしてももう時間がなくてね。ここで彼女を確実に捕らえるために入念に準備をしてきた」
バッ、とステイルは右手を掲げる。
先ほど完全に魔術を消し飛ばされたにもかかわらず、未だ余裕が見てとれた。
削板「……準備?」
ステイル「そうさ、超能力者。キミ達のような才能溢れる者と違って、ボク達凡人はそんなところでしか差を埋められないからね」
99 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:36:29.30 ID:e++sKXBDO
インデックス「ぐんは、気を付けて」
削板「お前は下がってろ。だが、あんまり離れすぎるなよ」
インデックス「うん」
インデックスは素直に頷き、戦闘の邪魔にならないように削板の後方に下がった。
どこか不安そうではあるが、この男の未知数の可能性に賭ける気にはなったようだ。
ステイル「――顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ」
そして、ステイルが勢いよく手を振り下ろす。
ステイル「【魔女狩りの王】!」
ボォウ! と巨大な火柱が立ち上る。
その熱量故か、火柱は赤々ととてつもない光を発し、思わず削板は腕で眼を覆った。
すぐにその腕を下ろすと、そこには燃え盛る炎に身を包んだ巨人がいた。
削板「な!?」
端的に表すならば、マグマが巨人の形をしており、その全身から火を噴いている。
巨人の体長は3~4mほどもあり、手にはその体長の半分ほどの大きさの巨大な十字架が握られている。
身体そのものが流動体のようになっているせいか、顔も定まっておらず、それが余計に不気味に見える。
100 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:39:21.10 ID:e++sKXBDO
ステイル「行け! 【魔女狩りの王】!」
その言葉を受けて【魔女狩りの王】は地面を滑るように動きだす。
その速さは先ほどの火球よりも速く、あっという間に削板との距離が詰まる。
削板「スゴい…」
そして、削板もそれに反応し、即座に腰を落として拳を引く。
削板「パンチ!」
ゴパァ! と【魔女狩りの王】に巨大な風穴が空いた。
体当たりにきた巨人へ大きく一歩を踏み出し、腹部へ渾身のカウンター。
その桁外れの威力を誇示するかのように、巨人の腹部は吹き飛んでしまった。
だが、巨人は何事もなかったかのように削板を丸焼きにしようと覆いかぶさってきた。
削板「っ!?」
体重を前から後ろへ、バックステップで削板は躱そうとする。
その瞬間には空いた風穴は既にふさがっていた。
ステイル「逃がさないよ!」
削板は【魔女狩りの王】の懐から一度のバックステップで5mも飛んでみせた。
100からマイナス100へ。反対方向への体重移動込みでこの移動距離は驚愕に値する。
だが、削板の頭上には炎を噴き出すマグマのような巨大な十字架が迫っていた。
削板「!」
間合い、タイミング、速度、すべてが完璧である。
いくら削板でも避ける術はない。
ステイル(もらった!)
蓋を開けてみれば予想通り。彼はイレギュラーであれど障害にはならなかった。
ステイル=マグヌスは勝利を確信した。
101 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:40:45.42 ID:e++sKXBDO
ステイル「……?」
振り下ろしたはずの十字架が途中で止まった。
ステイル「……!?」
否、動かない。
削板「お、おお…」
【魔女狩りの王】が振り下ろした十字架は、あろうことか削板に素手で掴まれている。
削板「おおおおおおおお」
さらにあり得ないことに、削板は十字架ごと【魔女狩りの王】を地面から引っ込抜き、身体全体を使って振り回す。
ステイル「」
あまりの出来事にステイルは開いた口がふさがらない。ポロリとタバコが唇から離れて落ちていった。
削板「おおおおおおおおおおらああああああああああああ!!!」
一回転、二回転、三回転と振り回したところで、削板は【魔女狩りの王】をステイル目がけてハンマー投げの如く、ブンと投げ飛ばした。
ステイル「は!?」
寸でのところで正気を取り戻したステイルは身を翻す。
【魔女狩りの王】はステイルの鼻先をかすめ、そのまま路地裏を背中から滑っていく。
更に数mいったところでビル壁に激突し、轟音と共に粉々になった。
102 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:43:18.64 ID:e++sKXBDO
インデックス「」
ステイル「」
【魔女狩りの王】がぶつかった壁は熱と威力で歪に穴が空き、周りには焦げ跡ができていた。
あまりの出来事に魔術の世界に身を置く2人は立ち尽くした。
10万3000冊の魔導書のどこにこんな魔術の破り方が記載されていただろうか。
かつて水で風で物理で魔術で【魔女狩りの王】を止めようとした敵は数あれど、掴んで投げ飛ばした敵がいただろうか。
削板「はーっはっはっはっはっはっ! いいな! いい根性だ!」
その無茶苦茶な攻略をやってのけた時代錯誤な白ランは大声で高笑いしていた。
両手からは火傷のせいか、はたまた別の何かのせいか、妙な煙が出ている。
削板「やられても進み続けるその根性! 火傷するほど熱くたぎるその根性! 尊敬に値するぞ!」
粉々になった身を集め、再び元の身体へと戻っていく【魔女狩りの王】を見ながらハチマキをなびかせた漢は満面の笑みを浮かべた。
削板「だからこそ納得できん。なぜお前ほどの漢がこんな根性なしの舎弟に収まっている!」
ステイル「ふざけるのも大概にしろ!」
あまりに奇想天外で的外れな言動にとうとうステイルがツッコミを入れた。
ステイル「なんなんだ……一体何者なんだキミは!」
その言葉を受け、白ランの漢は威風堂々、声高らかに名乗りあげる。
削板「ならば教えてやろう。180万人の学生の頂点! 7人しかいないLevel5の第七位!【ナンバーセブン】削板軍覇だ!」
ドッパァン!! と削板の背後で赤青黄の3色の煙が盛大に立ち上り、白ランとハチマキをはためかせた。
103 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:45:42.62 ID:e++sKXBDO
ステイル「……」
しかし、この名乗り上げはステイルにとって意味をなさなかった。
学園都市の超能力者の第七位と言われても何がどうスゴいのかまったくピンとこない。
ステイル(……落ち着け。目的を忘れるな)
フーッ、と長い息を吐いてステイル=マグヌスは気を落ち着かせる。
タバコが欲しいところだが、さすがに新しいタバコに火を点けている余裕はない。
ステイル(僕の任務はあくまで彼女の奪還。あんな得体の知れないものに構ってるヒマはない)
完全に復活した【魔女狩りの王】を呼び戻し、体勢を整える。
現状分かっていることは、相手はムチャクチャな超能力者であるが【魔女狩りの王】を完全に無力化することはできないということ。
度を超えたタフネスであり、なにかしらの飛び道具はあれど【魔女狩りの王】でも足止めはできるということ。
それだけ分かれば彼女を奪還するには十分だ。
この場には【魔女狩りの王】だけでなくあらゆるルーンを設置してある。
【魔女狩りの王】があの得体知れない何かを相手している間に別の魔術を発動し、彼女を捕縛して逃走。それで任務完了だ。
インデックス「信じられない……こんなことが……!」
幸い彼女はあの男のもとを離れている上にこれまでにないほど油断している。このチャンスを逃す手はない。
ステイル「……なるほど、思った以上に手強いね」
削板「フン、なら次は舎弟でなくお前が来い。これほどの漢が従っているんだ。お前もそれほどの器量があるんだろうな」
ステイル「……」
【魔女狩りの王】はステイルの魔術であって生命体ではないのだが、その間違いを訂正する気にもステイルはなれなかった。
104 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:47:39.59 ID:e++sKXBDO
ステイルの作戦はこうだ。
【魔女狩りの王】を白ランに向かわせ、一定の距離を保たせ視界を塞ぐ。
ワンテンポ遅れてから捕縛用魔術を発動し、自身も『禁書目録』へ接近して物理的に捕らえる。
ターゲットが『歩く教会』を着ている以上、捕縛用魔術で捕らえきることは難しい。こればかりは物理的に抱えるしかない。
体力に自信はないが、すぐ近くで仲間が待機している手はずになっているのでさして問題にはならないだろう。
少々狭い通りではあるが、少なくとも【魔女狩りの王】を振り回せるスペースは空いてるのだ。
あの男と十分離れたところから抜き去り、その先にいる『禁書目録』を捕縛することも不可能ではない。
ステイル「……【魔女狩りの王】!」
再び【魔女狩りの王】が削板に襲い掛かる。
先ほど完全に粉々になったはずの身体は前回と比べてもなんら遜色なく動いていた。
削板「またお前か! いいだろう! 根比べなら負けんぞ!」
言うが早いか、削板は自身の前にある『見えない何か』を殴りつける。
その『見えない何か』は殴り飛ばされ、【魔女狩りの王】に直撃し、その身体を押し返す。
しかし【魔女狩りの王】もゆずらない。押し返されればその分進み続ける。
105 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:48:38.33 ID:e++sKXBDO
ステイル(今だ!)
頃合いを見計らってステイルが走りはじめる。
更に、走りながら魔術を発動する。
インデックス「きゃあ!?」
瞬間、インデックスの立っていた地面から巨大な光の筋でできた檻が出現し、インデックスの身体を囲った。
削板「! インデックス!」
ほんの一瞬、削板の注意がインデックスに向けられた。
その瞬間に【魔女狩りの王】が得物である巨大な十字架で横から削板に殴りかかる。
削板はそれを寸でのところで上から拳で殴り付け、地面にめり込ませた。
その戦闘を横目に、ステイル=マグヌスは離れたところから削板を抜き去る。
ステイル(よし!)
最大の難関は突破した。あとは『禁書目録』を捕らえるのみ。
106 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:51:27.69 ID:e++sKXBDO
削板「ちょっと待てええ!」
ドッパァン! と、先ほどの3色の煙が立ち上る。というよりも、広範囲に爆発した。
ステイル「ぐおああ!?」
その爆発により、ステイルの身体は吹き飛ばされ、壁に激突した。
インデックス「きゃあああ!?」
同じくインデックスも爆発に巻き込まれたが、奇しくもステイルが発動した魔術に守られたおかげでほぼ被害はなかった。
削板「今! 俺とコイツがタイマン張ってんだろうが! 勝負に水を差すな!」
ビシィッ、と削板はステイルに指をさして怒鳴りつける。
しかし、ステイルの方は打ち所が悪かったのか壁にもたれかかってノビていた。
削板「ったく、粋の欠片もないヤツめ。スマンな、邪魔が入った。……って」
改めて炎の巨人と対峙しようとしたのだが、気付いたら巨人はいつの間にかいなくなっていた。
削板「む? おい! どこ行った! まだケリはついてないぞ!」
辺りを見渡しなが叫ぶが反応はない。気配すらない。
インデックス「えっと……多分この人が気を失ったから魔術も切れちゃったんじゃないかな?」
おずおずとインデックスが削板の近くに来て遠慮がちに声をかけた。
見たところ特にこれといったケガもなさそうだ。
削板「ん? なんであの根性なしが気を失うとアイツが消えるんだ?」
インデックス「うんと、さっきのはあの人の魔術であって、生きてるわけじゃないんだよ」
削板「なに? ……そういえばアイツ一言もしゃべらなかったな」
インデックス「うん」
削板「なんだそうなのか! 久々に熱いヤツに出会えたと思ったのに!」
そう言うと、削板は地団駄を踏んで悔しがった。
107 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:52:51.62 ID:e++sKXBDO
インデックス「ね、ぐんは」
削板「ん?」
インデックス「ありがとう。助かったんだよ」
削板「……はっはっは! 気にするな! 困ってる人間は助けるのが道理だ!」
インデックス「あはは、神様の教えをこんな形で実践する人なんてはじめて見たかも」
と、場が和んだところで二人の腹部からなにやら音が鳴った。
削板「……」
インデックス「……ぁぅ、安心したらお腹空いちゃったかも」
削板「はっはっ、メシでも食いに行くか!」
インデックス「! うん! あ……でもこの人……」
削板「……救急車くらいは呼んでおいてやるか」
そして救急車を呼んだのち、二人はその場を後にした。
その晩、24時間営業のファミレスが在庫切れで閉店に追い込まれるというちょっとした珍事が起きた。
108 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:54:20.18 ID:e++sKXBDO
-30分後、学園都市某所
ステイル「う……」
???「気が付きましたか、ステイル」
ステイル「神裂……ああ、やられたのか、ボクは」
神裂「ええ。あなたともあろう者が不覚を取るとは珍しいですね」
ステイル「……学園都市はボク達が彼女を追うことを許可したんじゃなかったのかい?」
神裂「ええ。どうやらあなたの前に立ちはだかった彼は一学生として彼女を助けたようです」
ステイル「一学生、ね。あれだけの力を持った者がどこの組織にも所属していないと言い張るのかい?」
神裂「……その真偽も含め、調べてみる価値はあるでしょう。
明日までには収集しておきます。あなたは体調を万全にしておいてください」
ステイル「そんなヒマはない、と言いたいが、このザマじゃ何も言えないね。分かったよ」
神裂「では」
109 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 21:57:01.61 ID:e++sKXBDO
-2時間後、第七学区大通り
削板「あ~食った食った。根性出した後のメシは格別だな!」
インデックス「ねえ、ぐんは……」
削板「ん?」
インデックス「今気付いたんだけど……その手」
削板「ああ、さっきの戦いであの十字架を思い切り掴んだからな。大したことない。気にするな」
インデックス「大したことないって! ぐるぐる巻きの包帯に血が滲んでるんだよ!」
削板「この程度で痛がるような腑抜けた根性はしとらん。心頭滅却すれば痛みもまた根性だ」
インデックス「……ごめんなさい。私にできることならなんでもするから」
削板「だから気にするな。それよりこれからどうするんだ? 今から教会に行ってもいいが神父様がいるかどうか……」
インデックス「あ、えっと、教会はもういいんだよ」
削板「む? なんでだ?」
インデックス「……どうもここの教会は連中と繋がってたみたい」
削板「なに!?」
インデックス「うん。私が教会に着いたら5分後には連中が来て……匿うつもりもなかったみたいだしね」
削板「なんてこった……」
インデックス「だから私はそろそろ行くね。アイツらが追ってくる前にここを去りたいから」
110 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/04(火) 22:07:01.98 ID:e++sKXBDO
削板「む? 何言ってんだ?」
インデックス「え?」
削板「まだなんにも解決してないのにこれで終わりなわけないだろう。解決するまで俺は協力するぞ」
インデックス「ええ!? だ、だめなんだよ! ここからは本当に危険で……」
削板「乗り掛かった船だ。それにさっきお前ななんでもするって言っただろ。なら、この問題が解決するまで俺と一緒に行動しろ」
インデックス「で、でも、これ以上ぐんはに迷惑をかけるわけには……」
削板「むしろこのまま去られた方が迷惑だ。こんな中途半端で放り投げては寝覚めが悪い」
インデックス「……」
削板「……地獄の底の辛さなら多少なり知っているつもりだ。それに立ち向かう覚悟と根性もある。
この【ナンバーセブン】に遠慮はいらんぞ。お前はたった1人で1年間も頑張ってきたんだ。ここまで来たら救われて然るべきだろ」
インデックス「……本当に? 本当に私を助けてくれるの?」
削板「当然!」
インデックス「じゃあ…私は、もう逃げなくていいの?」
削板「おう! 逃げるんじゃなくて迎え撃つ! 魔法使いどもの根性を矯正して、って」
インデックス「……うぅ……う~……」
削板「お、おい! なんで泣いてんだ!? そんなに嫌だったか!?」
インデックス「ううん、グスッ、なんか安心したら、ヒグッ、涙が」
削板「インデックス……」
インデックス「ふふ、なんでぐんはも泣きそうなの?」
削板「え? あ、いや……」
インデックス「あはは……じゃあ、えと……」
インデックス「私と一緒に地獄の底までついて来てくれる?」
削板「……おう! 任せとけ!!」
128 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:37:01.06 ID:mZM9W5RDO
「……………」
「やりましたよ所長! 見てください!」
「おぉ! いいぞいいぞ! 素晴らしく安定しているな!」
「……………」
「よーしよし。ようやくここまで来た。やはり、私のアプローチは間違っていなかった!」
「所長、次の被検体です」
「……しょ、ちょう?」
「ああ、よしよし。君の能力は…【水流操作】系統だったね」
「しょちょう……このお部屋、こわいよ……気味が悪い……」
「ははは、そんなことないさ。みんな君の友達じゃないか」
「とも、だち? みんなどこにいるの?」
「目の前にいるじゃないか。おかしな子だね。ほら、ぷかぷか浮かんでいる」
「え……? これ、が?」
「そうだとも。間違いない。ちゃんと能力もだせるぞ。ホラ」
「…………ひっ………」
「ははは、そうさ火だ。私の長年の研究の成果さ」
「しょちょう! ヤダ! 私帰る! みんなのとこに帰る!」
「駄目に決まっているだろう。【発火能力】【電撃使い】は成功した。次は【水流操作】の君だ」
「はなして! ヤダ! 誰か助けて!」
129 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:37:48.33 ID:mZM9W5RDO
「所長……」
「な、軍覇!? なぜここに!?」
「! ぐんはくん! 助けて!」
「所長……今の話は本当か?」
「な、なんのことだ?」
「【発火能力】【電撃使い】……最近転園したヤツと一人立ちしたヤツの能力だ」
「……」
「それがあんたの正体か」
「……見られてしまったからには帰すわけにはいかん。取り押さえろ!」
「ふざけるな……ふざけるなああああああ!!!!」
130 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:38:38.48 ID:mZM9W5RDO
-早朝、削板宅
削板「……む……」
インデックス「ぐんは……?」
削板「お……ああインデックス。おはよう」
インデックス「うん、おはよう。あの、大丈夫?」
削板「何がだ?」
インデックス「すっごくうなされてたみたいだけど……」
削板「……そうか?」
インデックス「うん」
削板「……気にするな。それより朝メシ食いに行かないか?」
インデックス「! うん!」
131 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:39:23.91 ID:mZM9W5RDO
-第七学区、ファーストフードチェーン店
インデックス「今日は、モグ、根性メシじゃないんだね」バクバクバクバクバクバク
削板「昨日は買い出しに行く、ムグ、暇がなかったからな」バクバクバクバクバクバクバクバク
インデックス「そっか………ごちそうさまでした!」
削板「ああ……ごちそうさん!」
インデックス「ふぅ……ここのご飯もおいしいけどまたぐんはの根性メシも食べたいんだよ」
削板「お、なら昼飯は俺が腕によりをかけて作ろう」
インデックス「ホント!?」
削板「おう!」
インデックス「楽しみなんだよ!」
132 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:40:38.58 ID:mZM9W5RDO
削板「さて、今日の予定だがな」
インデックス「?」
削板「まず仲間を集めようと思う」
インデックス「仲間?」
削板「ああ。魔法使いが何人いるか分からんしな。奴らのひん曲がった根性なら1対多数も平気でしてくるだろう」
インデックス「……」
削板「なんだ、不満か?」
インデックス「……あんまり多くの人をこんな危ないことに巻き込みたくないかも……」
削板「何言ってんだ。自分の力だけでなんでも解決しようとするヤツは根性があるんじゃなくて傲慢なだけだ。
困った時は助けを求め、頼られた時は助けてやる。自分の力量を把握し、その上で筋と正義を通すのが本当の根性だ」
インデックス「……そうなの?」
削板「おう。だから、お前も俺や今から呼ぶ連中を頼れ。絶対力になる」
インデックス「……」
削板「心配するな。なんせそいつらは俺が認めた根性仲間だからな!」
133 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:41:37.08 ID:mZM9W5RDO
-2時間後、削板宅
原谷「……は?」
横須賀「魔術師? 10万3000冊?」
削板「おう」
インデックス「そうなんだよ」
朝食を終え、削板は2人の男を自宅に呼び出した。
1人はどこにでもいそうなメガネをかけた平凡な学生、原谷矢文。
もう1人は筋骨隆々の軍人のような体型をしたイカつい男、【内臓潰し】横須賀である。
2人は削板とインデックスから魔術についての知識を一通り説明されたところだった。
原谷「……夏の暑さにやられて根性バカからただのバカになりました?」
削板「何言ってんだ! この程度の暑さで頭をやられるほどの俺の根性はヤワではないぞ!」
原谷「ホントだ。変わらず根性バカだ」
横須賀「……昨日言ってたヤツか。じゃあ魔法使ってみてくれ。アーリアルとかは大惨事になるから無難にライトニングあたりをだな…」
インデックス「わ、私は魔術は使えないんだよ。でも魔術は本当にあって…」
横須賀「……ああ、修道士じゃなくてシスターだったな。
じゃあライブとかなら使えるか? ちょうど昨日指切っちまったからこいつを…」
インデックス「だから私に魔力はないから何もできないんだよ!」
横須賀「……魔力0で杖も使えないシスターか。使い物にならんな。マリナスと一緒に茶でもすすってろ。」ハッ
インデックス「な、なんか知らないけどスゴい馬鹿にされてる気がするんだよ」
134 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:42:56.92 ID:mZM9W5RDO
インデックス「ねぇ、ぐんは。本当にこの人たち協力してくれるの?」
削板「当然だ! こいつらの根性はビシッとしてるからな!」
原谷「すいません、いつ確定したんですか?」
横須賀「お前この間も緊急事態だと言って集まってみたらホラ吹いたガキのケツ拭いただけだっただろうが。」
原谷「真の爆弾魔くんのヤツですか? あの子も完全に冗談で言ってたのに
警備員に連絡して捜索しながら駆けつけたら収拾つかなくなって半泣きでしたよね」
横須賀「あの連続爆発事件は既にケリついてたからおかしいと思ったんだ。
どうせ今回も同じパターンだろう。魔法を使えないヤツが魔法使いだと言い張っても説得力0だぞ。」
135 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:44:57.71 ID:mZM9W5RDO
インデックス「うう……」
削板「お前ら、これを見ろ」シュル…
原谷「うわ、どうしたんですかそれ? 手ぇテカテカしてんじゃないですか」
横須賀「これは……火傷か?」
削板「ああ。昨日やられた」
原谷「削板さんが?」
横須賀「……むぅ、お前が負傷するレベルの実力者か。」
インデックス(負傷で済むような魔術じゃなかったはずだけど…)
削板「これがインデックスが魔術師に追われてるって証拠だ」
原谷「…いやいや、無理がありますよ。火傷なんて誰でもしますし」
インデックス「……そう、やっぱりこの街の人間は魔術なんて信じてくれないんだね」
削板「……」
136 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:45:34.42 ID:mZM9W5RDO
横須賀「……だが、何者かに追われているというのは事実のようだな。」
インデックス「え?」
削板「」ニヤリ
横須賀「そいつは熱したヤカンに触ったくらいで火傷するようなヤツではない。」
削板「当然だ!」
原谷「……そうですね。むしろヤカンが火傷します」
インデックス「意味が分からないんだよ」
横須賀「恐らく【発火能力】系統の高位能力者だろう。そうなってくると放っておくわけにはいかんな。」
原谷「ハァ、やっぱりそうなりますか」
インデックス「だから超能力じゃなくって魔術なんだよ!」
横須賀「分かった分かった。皆まで言うな。魔術だな。」
インデックス「絶対信じてないんだよ! 返事がなげやりすぎるかも!」
原谷「そりゃそうでしょ」
横須賀「ふっふっふ、面白い状況だな。対能力者戦闘のエキスパートの腕がなるというものだ。」
削板「ってことは協力してくれるんだな!?」
原谷「……追われてる理由は意味不明ですけど、
それが協力しない理由にはなりませんよ。僕にできることなんてタカが知れてますけど」
横須賀「わざわざ魔法使いと言うくらいだ。相手は全員能力者だろう。
我が物顔をしてふんぞり返っている連中に一泡吹かせてくれよう。」
削板「はっはっはっ! さすがはお前たちだな! どうだインデックス!」
インデックス「……協力してくれる嬉しいけど……」ブスー
137 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:49:25.81 ID:mZM9W5RDO
原谷「じゃ、改めて自己紹介しようか。僕は原谷矢文。高校1年だから削板さんと同い年」
横須賀「横須賀だ。」
削板「モツ鍋だろ?」
横須賀「違うわ。」
インデックス(ああ、この人が)
横須賀「高校は籍だけあるがほぼ通っておらん。年はこいつらよりは上だな。」
削板「モツはスキルアウトのリーダーだ。だが、そこらのエリートなんぞよりよっぽど根性が据わってるぞ」
横須賀「当たり前だ。温室では根性は育たん。」
原谷「2人ともただの根性バカでしょ。僕はケンカとかは向いてないから正直力になれるか分からないけど、よろしくね」
インデックス「うん、よろしくね、やぶみ」
横須賀「その点、俺はケンカが日常茶飯事だ。目一杯協力させてもらうぞ。」
インデックス「うん、よろしくね、なべ」
横須賀「は?」
インデックス「え?」
原谷「……なべ?」
インデックス「うん。だって 横須賀・モツ・鍋 でしょ?」
原谷「プッ!」
削板「ああ、そういうことか」
横須賀「」
インデックス「え? 違うの?」ポカン
原谷「っく、大丈夫、ハハハ、合ってるよ」プルプル
横須賀「合ってねぇだろ! 何適当吹いてんだコラァ!!」バァン!
削板「ええっ!?」
横須賀「ガチで驚いてんじゃねぇよ! ナメてんのかオラァ!」
インデックス「え? え? えっと、えっと、ケ、ケンカはダメなんだよ!」オロオロ
原谷「あー大丈夫大丈夫、いつものコトだから」
削板「モツお前今まで偽名使ってたのか!? 見損なったぞ! そんな根性のない真似をしていたとは!」バァン!
横須賀「使っとらんわぁ! 見損なったはこっちのセリフだボケェ!!」
ドガ! バキッ! ズドン!
インデックス「い、いつものこと!? あんな風に拳で語り合うのが!?」
原谷「ほら、コミュニケーションの8割は非言語って言うし」
インデックス「ボディランゲージはこんなバイオレンスな意味じゃないんだよ!!」
原谷「大丈夫だって。あ、ボクみんなの飲み物買ってきますね」
削板「おう!」
ベキィ!!
横須賀「ビブルチ!?」
インデックス「え!? ちょ、なべ! 首が、なべ、なべぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
138 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:51:28.55 ID:mZM9W5RDO
-同時刻、第七学区某ビル屋上
ステイル「……」
神裂「ステイル……」
ステイル「ああ、神裂か」
神裂「複雑な気持ちですか? かつてあの場所にいたあなたとしては」
ステイル「……そうだね、キミの着替えを覗いたと言いがかりをつけられて首をへし折られたことを思い出した」
神裂「……その節は本当にすいませんでした」
ステイル「たしかに薄れゆく意識の中で彼女があんなリアクションをしているのを見た気がするよ」
神裂「……」
ステイル「神裂」
神裂「はい」
ステイル「ボクの首もあんなにエグい角度だったのかい?」
神裂「……いえ、あそこまでは……」
ステイル「……彼女に殺人現場なんて見させたくなかったんだけどね」
神裂「あ、でも彼自分で戻しましたよ」
ステイル「……やれやれ、やはり科学は分からないね」
神裂(アレは科学と関係あるのでしょうか……)
139 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/07(金) 22:55:10.38 ID:mZM9W5RDO
神裂「それで、昨日あなたが戦闘した人物についてですが」
ステイル「何か分かったのかい?」
神裂「ええ。まず、彼は学校以外の組織には入っていません。
ですが、個人的にこの街の首脳陣の1人と深い繋がりがあるとのことです」
ステイル「つまり、そこから彼女を捕らえるように依頼された、と?」
神裂「なきにしもあらず、と言ったところでしょうか。
彼女は魔術サイドの極秘事項のようなものです。科学サイドの人間がそこまで把握しているとは考えにくいかと」
ステイル「……たしかにね」
神裂「そして彼の能力ですが……詳細不明、とのことです」
ステイル「詳細不明?」
神裂「ええ。この街の科学者がこぞってその能力を研究したようですが、解明できなかった、と」
ステイル「自分たちで超能力者にしといて分からないだって? ずいぶん無責任な連中だね」
神裂「いえ、そうではなく……」
ステイル「うん?」
神裂「彼は【原石】のようです。それも世界最大級の」
ステイル「……なるほどね」
神裂「申し訳ありません。これといって有益な情報も得られず……」
ステイル「イヤ、むしろ納得がいったよ。ボクの【魔女狩りの王】を投げ飛ばしたんだ。それくらいでないと困る」
神裂「……タイムリミットが迫っています。長引かせるわけにはいきません。次は私が行きます」
ステイル「ああ、よろしく頼むよ」
150 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:27:21.63 ID:sFZkUJNDO
-第七学区、削板宅
横須賀「あー、エライ目に遭った。」コキコキ
削板「はっはっはっ! すまんすまん! すっかり勘違いしていた!」 クルッ クルッ
横須賀「勘違いで明後日の方向に首をへし折られてたまるか。」
原谷「どの方向に折られたんですか、それ」
削板「悪かったな! 昼メシは俺が自ら振る舞おう! それで手打ちにしてくれ!」 クルッ クルッ クルッ
横須賀「ふん。」
インデックス「おおー……、コレがジャパニーズTAKOYAKI……美味しそうな匂いがぷんぷんするんだよ」ジュルリ
原谷「あれ? たこ焼きははじめて食べるの?」
インデックス「うん。今までそんな余裕なかったから」
削板「……」 クルッ クルッ クルッ クルッ
151 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:28:41.92 ID:sFZkUJNDO
横須賀「おい、紅ショウガないのか?」
インデックス「べにしょーが? 何? それ」
原谷「付け合わせだよ。さっき買ってきましたよ」
横須賀「足りんだろう、これだけでは」
原谷「十分ですって。それ以上使うとたこ焼きに紅ショウガじゃなくて紅ショウガのたこ焼きトッピングですよ」
インデックス「え? このべにしょーがはTAKOYAKIの主役の座を奪うほど美味しいの!?」
横須賀「そこまではいかん。だが、タメを張ると考えていい。ダブル主人公だ。」
インデックス「ほぇ~」キラキラ
原谷「騙されちゃダメだよ、インデックス。あーゆーコト言う人は大抵味覚がイカれてる人だから」
インデックス「え?」
横須賀「なんだと? 貴様は紅ショウガの偉大さが分からんのか?」
原谷「付け合わせというカテゴリでここまでの地位に伸し上がったから紅ショウガは偉大なんですよ。
炭水化物でないものが食卓においてメインを張るなど不可能です。すべてのモノには向き不向きがあります」
横須賀「違うな。その常識を切り崩したモノが紅ショウガだ。
付け合わせでありながらメインを抜くレベルにまで自己をアピールし、それでいてメインもしっかり引き立てる。
それほどの器量がありながらほとんどの飲食店では無料で食べられる。こんな根性を持った食品は他に存在しない。」
原谷「それはあくまで一部に味音痴の暴論です。紅ショウガはあくまで付け合わせです」
横須賀「あ? まだ紅ショウガの可能性に気付かん愚か者が。」
152 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:29:42.14 ID:sFZkUJNDO
インデックス「ちょ、2人とも! せっかくのお昼ご飯にケンカはダメなんだよ!」オロオロ
削板「まったくだ! それにお前らの結論は1つだろうが!」 ヒョイヒョイヒョイヒョイ
原谷「もちろん」
横須賀「そうだな。」
インデックス「え?」
削板原谷横須賀「「「紅ショウガ万歳」」」キリッ
インデックス「」
削板「うし、できたぞ! あと5回は追加するからどんどん食え!」
原谷「お、旨そうですね!」
横須賀「む、また腕を上げたな。」
削板「はっはっはっ! 普段から根性入れて料理しているからな!」
インデックス「……心配して損したんだよ!!」
横須賀「ん? おいこれ青のり足りるか?」
インデックス「黙れ!」
横須賀「!?」
153 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:30:31.09 ID:sFZkUJNDO
-1時間半後
削板「ごちそうさまでした!」
インデックス「うぅ……まだ舌がいたい……」
横須賀「焼きたてのたこ焼きを3つもいっぺんに食べようとするからだ。ほら、麦茶。」
インデックス「ありがと、えと……」
横須賀「? ……ああ、なんでもかまわん。好きに呼べ。」
インデックス「じゃあ、ありがとう、よこすか。ジャパニーズTAKOYAKIは美味しいけど危険なんだね……」
原谷「その危険な食べ物いくつ食べたのさ。僕の3倍くらい食べなかった?」
インデックス「やぶみは小食かも」
原谷「イヤ、君がおかしい。たこ焼きは美味しいけど1プレート分以上食べるのはおかしい」
インデックス「? ぐんはもよこすかもそれくらい食べてたよ?」
削板「普通だろ?」
横須賀「普通だな。」
原谷「異常だよ」
154 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:32:09.40 ID:sFZkUJNDO
横須賀「さて、さっきはゴタゴタしてよく聞けなかったからな。もう一度状況を確認するぞ。」
削板「ん? なんのだ?」
横須賀「インデックスが追われている状況だ。俺たちはまだコイツが
やたら本を覚えてることと一年間逃げ回ったこと、それ以前の記憶がないことくらいしか知らん。
だから、今度は追っている連中の情報と状況を知りたい。どんな相手だとか何人いるだとかな。」
インデックス「……そうだね。協力してもらえるんだからちゃんと話すよ」
横須賀「よし。まず相手の特徴だ。」
インデックス「うんと、相手は男女の2人組で、男の方が誘い込んで自分のフィールドで戦うタイプ。
女の方は接近戦で戦うタイプなんだよ。だいたい女に追われて男のフィールドに追い込まれるパターンが多かったかも」
原谷「」
横須賀「なるほど。じゃあ次は…」
原谷「イヤ、なるほどじゃないでしょ!」
削板「ん?」
インデックス「え?」
原谷「なんでこんな娘が冷静に戦闘パターンを分析してることをスルーしてるんですか! おかしいでしょ!?」
横須賀「ふむ、まあ食べっぷりからしてなかなかの根性をしていたからな。」
削板「インデックスはそこらの連中とは根性が違うんだ! 当然だろう!」
インデックス「な、なんか照れるかも……」テレテレ
原谷「理由になってないだろうが根性バカども!」
155 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:35:23.07 ID:sFZkUJNDO
横須賀「とにかく次は外見的な特徴を教えてくれ。」
原谷「スルーしやがったよチクショウ」
インデックス「うーんと、男の方は多分イギリス人で結構背丈があったかな。
神父みたいな格好してるけど、髪は赤っぽいしタバコも吸ってるしいっぱい指輪もしてる」
削板「昨日の根性なしだな!」
横須賀「なるほど。そいつが高レベルの【発火能力】の能力者か。」
インデックス「だから魔術師だってば。女の方はスゴく髪が長い日本人。
手に自分の背丈よりある刀を持ってる。服装は白いTシャツとジーパンだね」
削板「昨日インデックスを空中で後ろから斬り付けたヤツか! あいつも根性なしだな!」
原谷「すいません、空中で後ろから斬り付けたってどーゆー状況ですか?」
インデックス「こう……ビルの屋上から屋上に跳び移ろうとした時に……」
原谷「斬り付けられたの!? だからどんな状況だよ! なんでその歳でキルビルやってんだよ!!
そもそもなんでビルに跳び移るなんて選択肢を選べるのさ!! どんな度胸してるんだよ!!」
削板「インデックスは根性が違うからな!」
横須賀「なるほど、これはたしかに大した根性だ。」
インデックス「エヘヘ……」テレテレ
原谷「うるせぇよバカども!」
156 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:36:37.40 ID:sFZkUJNDO
原谷「あのさぁ、インデックス。君ホントのこと言ってる?」
インデックス「え?」
原谷「あまりにも奇想天外で波乱万丈で荒唐無稽すぎるでしょ。もうツッコミ疲れたよ」
インデックス「全部本当なんだよ! シスターが嘘なんて吐くはずないかも!」
削板「そうだ! それに証人なら俺がいるぞ!」
原谷「じゃあなんで君は後ろから斬り付けられてピンピンしてるのさ」
インデックス「それはこれ!『歩く教会』を着ていたからなんだよ!」
原谷「へ?」
横須賀「その修道服か? 何か特殊なモノなのか?」
インデックス「これは『歩く教会』って言って、教会における必要最低限の機能を抽出した、服の形をした教会なんだよ!」
原谷「イヤ、だから何?」
インデックス「つまり! この修道服は物理的害悪も魔術的害悪も何から何までぜーんぶ受け流して吸収しちゃう霊装なんだよ!」
横須賀「……そんな反則的なもの、あり得るのか?」
インデックス「試してみる? ぐんははやらなかったけど、私としてはどんと来いなんだよ」
原谷「……うーん、試すって言ってもなあ」
横須賀「無抵抗の女に手を上げるのは気が引けるな……。」
インデックス「ふーん、やっぱり2人もそう思うだね。これは最強クラスの霊装だから問題ないのに」
157 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/14(金) 18:37:49.23 ID:NVSA42Nd0
原谷のツッコミがいいな
158 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:37:51.65 ID:sFZkUJNDO
原谷「はあ、もういいや。そもそも自分の背丈より長い刀なんて持ってたら一発で警備員にしょっぴかれるとか思ったけどもういいや」
横須賀「だからこそ問題ないのだろう。まさかそんな堂々と刀を持ち歩いているなど警備員も思わん。」
原谷「あーそーですねー」
削板「どうした? 原谷。元気がないぞ」
原谷「疲れたんですよ…」
横須賀「じゃあ次で一旦最後にするか。この状況のゴールについてだ。」
インデックス「ゴール?」
横須賀「そのお前を狙っている連中にヤキ入れるのは確定だとしてだ。
その後お前をどうすればいい? 匿えばいいのか、どっかに送り届ければいいのか、それとも……」
インデックス「えっと、多分『イギリス清教』に連絡を取ってくれればそれでいいかも」
横須賀「ほう、イギリス出身だったのか?」
インデックス「うん。私は『イギリス清教』の『必要悪の教会』ってところに所属してるから」
原谷「それならさっさと連絡しちゃえばいいじゃん。ネットで探せば『イギリス清教』の窓口かなんかの番号くらい出てきますよね?」
削板「あ、その手があったか!」
インデックス「ネット? 網?」
原谷「イヤ、普通にインターネット」
インデックス「?」
横須賀「……知らないのか?」
インデックス「科学のことはよく分からないかも」
削板「……天然、か?」
原谷「天然記念物ですね。ちょっと待っててください。今探します」
159 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:38:49.64 ID:sFZkUJNDO
原谷「お、あったあった」
インデックス「本当!?」
原谷「うん。こっからはインデックスお願いね。もう電話かけたから」
インデックス「え? こ、これで話せるの?」
原谷「? そうだよ?」
インデックス「え? え? あ、he,hello?」
削板「なんだ、最後までやってやればいいだろう」
横須賀「ちょっと頼みこむだけだろう。」
原谷「生憎、僕にこんな状況を英語で説明できるほど頭良くないんで。お2人はできます?」
削板「……」
横須賀「……」
原谷「でしょ?」
160 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:39:59.73 ID:sFZkUJNDO
インデックス「ねえ、やぶみ」
原谷「ん?」
インデックス「コレ、終わったらどうすればいいの?」
原谷「ああ、もう切れてるから大丈夫だよ。どうだった?」
インデックス「もうすぐ迎えに来てくれるって! これで一安心なんだよ!」
削板「お、本当か!?」
インデックス「うん! 本当によかった……これでようやく終わるんだね!」
原谷「……1年間ずっと逃げ続けてきたんだったっけ」
インデックス「うん……でも、ここで『イギリス清教』の誰かに迎えに来てもらえば大丈夫!
やぶみとよこすかに迷惑をかけずに済みそうでよかったんだよ!」
横須賀「なんだ、拍子抜けだな。」
削板「まだ分からんぞ? インデックスを追っている連中が諦めたわけじゃねえんだ」
横須賀「……たしかにな。」
161 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/14(金) 18:41:33.49 ID:sFZkUJNDO
原谷「んじゃ、これからどうします? どうせすぐイギリスに帰っちゃうなら学園都市を観光していくのもアリだと思うけど」
インデックス「おおっ、面白そうかも!」
削板「連中が襲ってくる可能性もあるが……じっとしてるのも暇だしな!」
原谷「じゃあそうしますか。インデックス、それでいい?」
インデックス「うん!」
横須賀「スマンが俺は少し離れるぞ。」
削板「ん? なんかあるのか?」
横須賀「念のために戦闘の準備をしておきたい。お前が負傷するほどの手練れだ。丸腰ではいささか心許ない。」
原谷「怖い話しないでくださいよ」
インデックス「あぅ…それならやっぱりぐんはの家でおとなしくしてた方がいいかも」
横須賀「なに、お前らの行く場所は観光できるような場所だろう?
白昼堂々人混みの中を狙ってくる可能性は低い。何より削板がいれば一瞬で拉致られる可能性は皆無だ。」
削板「おう! 任せておけ!」
横須賀「狙ってくるならむしろ夜だ。それまでには合流する。」
原谷「……分かりました。じゃあ、とりあえず第三学区のあたりをぷらぷらしてるので準備ができたら連絡ください」
横須賀「分かった。」
削板「よし、行くか! あの辺は根性入ったもんがいっぱいあるからな! かなり面白いぞ!」
インデックス「ホント? 楽しみなんだよ!」
167 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/14(金) 21:08:05.18 ID:C/c8U5Jvo
横須賀がただのイケメンな件について
168 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/14(金) 23:49:41.18 ID:VKEhzfo9o
横須賀は幽白で言うところの桑原ポジだな
169 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/15(土) 07:33:44.42 ID:AjOHmEul0
現時点では原谷が一番頼りになるな。
170 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/15(土) 10:09:14.72 ID:Mf7LHT150
あれ?
このSSの軍覇ってフラグ建築士になるのか?
171 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/17(月) 00:57:01.97 ID:hozgQiMe0
その根性を叩き直す
そこた
172 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:09:00.38 ID:cdiyMqZDO
-夕方、第四学区大通り
インデックスら一向は学園都市の観光を終え、夕飯を食べるべく第四学区に来ていた。
この第四学区では食品関連の施設が多く立ち並び、この学区だけで世界中の料理が味わえるほどである。
一向はその中でも食べ放題でバイキング形式の施設を予約し、インデックスのお別れ会をする予定である。
また、この学区で1人行動を別にしていた横須賀と合流した。
のだが、
インデックス「……」
原谷「あの……横須賀さん?」
横須賀「なんだ。」
削板「暑くないのか?」
横須賀の服装は異様だった。
紺色のタオルのようなものを頭に巻き、これから夜だというのに妙に顔にフィットしたサングラスをかけている。
上着はなぜか膝まである灰色の厚手のコート。下も同じような材質のものである。
そして、その身体には少し大きめのボディバッグが巻き付けられている。
履いている靴は登山でもするかのようなゴツゴツしたブーツであった。
173 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:12:30.16 ID:cdiyMqZDO
横須賀「クソ暑いに決まっているだろう。見ろ、この汗の量。制汗スプレー使ってもコレだ。」
そう言って横須賀は頭とは別に首にかけていたタオルで汗を軽く拭う。
7月下旬の熱帯夜で冬場の服装をしていれば暑いのは当然である。
原谷「……てっきりなんかしらの飛び道具でももってくると思ってたんですけど」
横須賀「いけすかんだろう、そんなもの。拳で挑んでこそ漢だ。」
インデックス「見てるこっちが暑いんだよ」
横須賀「お前も似たようなものだろう。」
インデックス「この服は主のご加護を視覚化したしたものであって、私は一度たりとも暑苦しいなんて思ったことはないんだよ!」
原谷「ちなみに今から行く食べ放題のお店で食べたいものは?」
インデックス「アイスクリーム!」
横須賀「やっぱり暑いんじゃねえか。」
インデックス「この時期にアイスクリームを食べたいと思うのは至極当然な考えかも!」
原谷「よく知らないけどシスターって修行してる身だから禁欲すべきなんじゃないの?」
インデックス「修行中の身だからこそ誤ってアイスクリームを食べてしまう可能性もなきにしもあらずなんだよ!」
横須賀「思い切り確信犯だな。」
174 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:13:45.51 ID:cdiyMqZDO
インデックス「とにかく! とっととお店に行こう! お店の料理が食べ放題なんて主の奇跡が具現化したに違いないかも!」
原谷「いくらなんでも大げさすぎるよ。具現化したのは学園都市産食物の安定供給の成功」
インデックス「なら、それが神の奇跡だね!」
横須賀「……あながち間違いとも言えん。それにとっとと行くのは俺も賛成だ。このままだと直に脱水症状と熱中症でくたばりかねん。」
インデックス「そのコートの下はあまり見たくないかも……」
原谷「シャツが汗だく地獄絵図……。それ脱いでもニオイとか大丈夫ですか?」
横須賀「……一応替えのシャツと予備のタオルは持ってきたが……さて、店内のどこで着替えるか。」
175 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:15:08.24 ID:cdiyMqZDO
削板「……ハハ」
インデックスたちのやり取りを削板は少し離れて後ろから見ていた。
インデックスからは今朝まで時折見せていた思い詰めた表情も見えなくなっている。
なんとなく見ているこっちも微笑ましくなるというものだ。
横須賀と原谷を呼んだのはやはり正解だった。
結果としてインデックスは『イギリス清教』に帰れそうだし、あの2人ともすぐに馴染めた。
どんなに根性を入れても1人でできることは限られている、ということを再認識した。
俺の根性にあの2人の根性が加われば俺の3倍の根性どころか3乗以上の根性だな、と削板はうんうんとうなずいていた。
Level5であり、ずば抜けた能力を持っていて、180万人の頂点に立とうとも、できないことも気付かないこともたくさんあるのだ。
それはもはや人間としての優劣ではなく、個性の領域。
異なる立場で、異なる力量で、異なる人生で、見える世界はガラリと変わるのだから。
176 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:15:58.46 ID:cdiyMqZDO
削板「……」
そのことにもう少し早く気付いていれば。
凝り固まった考えをしなければ。
自分の力を過信しなければ。
地獄の底も少しはマシな世界に見えただろう。
現にインデックスは地獄の底にいるような顔をしていない。
あの時はそんな余裕はなかった。
間違った根性にこだわったせいで惨劇になった。
未だに夢に見るくらいだ。トラウマと言っても過言ではない。
177 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:18:45.70 ID:cdiyMqZDO
「なあおい、どうすんだよ」
「とにかく逃げる。大人はアテにならん」
「だからどこにだよ! なんのとっかかりもない!
足がつくからまともな施設は使えない! 同じ理由でATMもだ! 計画性0だろうが!」
「じゃああそこで留まっていることが正解か!? 今まさに目の前で身体をぐっちゃぐちゃにされようと
している現場を見て見ぬフリをして留まることが!? テメェはそんな腐った根性してやがんのか!?」
「俺に言わせればそれ自体が眉唾なんだよ! のんびりくつろいでいたらいきなりテメェが暴れだして!
気付いたらテメェに引きずられて! 何が何だか分からない内にお訪ね者だ! テメェの勘違いなんじゃねえのか!?」
「そんなわけねぇだろ! そんなことも分からん根性なしなわけあるか!」
「じゃあなんでお訪ね者なんだ!? なんで俺たちが犯罪者扱いだ!?
おかげでまともなメシもなきゃまともな屋根すらねぇ! この先の展望は真っ暗! いつまでこんな生活強いるんだ!」
「そのくらい根性で耐えろ!」
「根性根性うっせぇんだよ!! だれもがお前みてぇな常識はずれじゃねぇんだ!! 俺たちにそれを求めんな!!」
178 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:23:56.19 ID:cdiyMqZDO
「いい加減にしろ」
「ああ!? テメェはなんの不満もねえのかよ!」
「年長者が真っ二つになってケンカしてるからチビたちが怯えているけど」
「……」
「……スマン」
「ちっ」
「それに削板が正しい。あそこは妙な点が山ほどあった。人体実験もあって然るべき。
ちなみに私たちは保護対象として探されているんだ。警備員はまだしも、上の連中は『保護』なんてしないだろうけど」
「……」
「ともあれ、私もチビたちもいい加減限界だ。この状況じゃ今に体調を崩すヤツが出てきてもおかしくないけど」
「……そんなもん根性で」
「果たしてこの中の全員がその精神論についていける人間かね」
「……」
「行動を起こしたのはお前だ。私も出来る限りの助言はするが決定権はお前にあるけど」
179 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:25:25.91 ID:cdiyMqZDO
削板「む………?」
ふと気が付くと辺りから人影が消えていた。
いくら完全下校時刻があるとは言え、大通りに車の一台も通っていないというのは異常である。
削板「なんだ……? もしかして魔術か?」
???「ステイルが『人払い』のルーンを刻んでいるのですよ」
削板「!」
ふと女の声がした。
声の方を見ると、長身で長い髪を後ろで一まとめにした女性が一人。
白いシャツの裾を結び、片方が脚の付け根から切り詰められているジーンズを履き、ウエスタンベルトを巻いている。
それでいながら、手には2mはありそうな日本刀が握られている。
???「他の方に邪魔をされたくありませんのでここに来れないようにしました。危害を加えてはおりませんのでご安心ください」
削板「……お前も魔術師か?」
???「ええ。神裂火織と申します。もう1つの名は……名乗らせないでください」
削板「……削板軍覇だ。それで? お前もインデックスが狙いか?」
神裂「ええ。ですが、話し合いで解決したいと思ってます」
削板「……その前に1つ聞く。俺の記憶が正しければ……お前は逃げ回るインデックスをその刀で切り付けなかったか?」
神裂「………そうですよ」
180 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:27:14.31 ID:cdiyMqZDO
バグゴォ!! と轟音が響いた。
削板が地面を蹴って神裂に殴りかかった音。
そして神裂がその拳を鞘に入ったままの刀で受け止めた音だ。
神裂(速い……!)
削板「ならば話し合うことなど何一つない!! 貴様のような根性なしにインデックスを渡せるか!!」
神裂「……残念です」
バッ、と神裂は大きく後ろに跳び退く。
その跳躍力は常人のそれとは大きく異なっていた。
神裂「『七閃』」
神裂が刀に手をかける。それと同時にコンクリートが粉々に砕け、その亀裂が削板へと向かっていく。
危機を察知した削板はとっさに横へと跳んだ。
削板「うお!?」
だが、削板の身体には衝撃が走る。
明らかに何かが削板の身体を破壊しようとした。
神裂「……なんと、これで傷1つ負いませんか。まさか、あなたも【聖人】ですか?」
神裂の表情に少し驚きの色が入る。
それも当然。常人なら血まみれになるような技を使ったにもかかわらず目の前の白ランはピンピンしているのだから。
削板「……ワイヤーによる不意討ちか。根性なしの考えそうな技だな」
神裂「! 一回受けただけで見抜いたというのですか?」
削板「見抜いたんじゃなくて見たんだ。こんなもんちょっと眼に根性入れれば誰でも分かるぞ」
181 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:29:38.88 ID:cdiyMqZDO
???「ホラ見ろ。やっぱりドンパチしているだろう?」
神裂「!?」
今度は神裂の後ろから男の声がする。
振り向くとそこには真夏にもかかわらずコートに身を包んだ男。学生服に眼鏡の少年。
そして、白い修道服に身を包んだ銀髪のシスター。
インデックス「ぐ、ぐんは! 無事なの!?」
削板「おう!」
原谷「……まあ、そりゃそうでしょ」
神裂「馬鹿な……『人払い』の術式をどうやって突破したのですか!?」
横須賀「『人払い』? …………なるほど、コレが魔術か。」
インデックス「……うん。言われてみれば確かに魔力が流れてるんだよ」
原谷「……じゃあ今までの話は全部本当なんだね? 頭痛くなってきた……」
横須賀「どうやって、か。簡単な話だ。そいつのケータイのGPSを辿ってきただけのこと。」
そう言って横須賀はコートの内側から自身のケータイ電話を取り出す。
神裂「じーぴー……?」
横須賀「俺は最初から決めていた。常に固まって行動するとな。インデックスを狙うならまず周りの俺たちを引き離す。
そこから各個撃破が定石。それを防ぐために何があろうと絶対に4人で固まって行動すると決めていただけのこと。」
神裂「まさか……それで無意識下に作用する『人払い』が効かないはずが……!」
横須賀「ああ、だから大変だったぞ? 引き返す道中で腹が減ったと駄々をこねたインデックスに噛み付かれ、財布を忘れたと原谷が帰ろうとし、
噛み付いてきたインデックスにゴミを見るような眼で 『臭いんだよ』 と言われた時はさすがに心が折れて銭湯に行こうとしたな。」
インデックス「ゴ、ゴミを見るような眼なんてさすがにしてないかも!」
原谷「でも眼のハイライト全部消えてたよね」
インデックス「やぶみは黙ってて!」
横須賀「とにかくだ。意識のないケータイに魔術は通じなかったこと。そして俺の意志の強さ。
つまり、初志貫徹を貫いた俺の根性がお前の誤算だ。さあ、どうする? 魔術師とやら。」
神裂「……」
182 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 17:30:51.97 ID:cdiyMqZDO
削板「手ぇ出すなモツ。一対多数など根性のない真似するな」
横須賀「分かっている。俺が聞いているのはそっちの男だ。」
ギロリ、と横須賀は別の通りを睨み付けた。
スッ、と物陰からローブに身を包んだ大きな神父が現れる。
神裂「ステイル……」
ステイル「……やれやれ、『人払い』を刻んでいるにもかかわらずズンズン向かってくる集団が来たから何かと思えば……」
横須賀「原谷、インデックスを頼む。」
そう言って横須賀は身につけていたボディバッグを外して投げ捨てた。
原谷「頼むって……僕にどうしろって言うんですか?」
横須賀「見てろ。」
原谷「……分かりましたよ」
インデックス「よこすか、大丈夫なの?」
横須賀「ふん。この【内臓潰し】の横須賀、シスターを追い回すような根性なし相手にやられるつもりはない。」
コキリ、と首を鳴らし、大男は不良神父へと歩をすすめた。
ステイル「……ナメられたものだね、僕も」
187 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/17(月) 19:46:57.45 ID:U65edH+7o
削板va聖人のガチバトルとか楽しみすぎる
189 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/17(月) 23:23:58.19 ID:D+jW2xeQ0
だからなんで横須賀はこんなイケメンなんだよwww
193 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 20:40:59.20 ID:YqPO9gCDO
『言霊』というものがある。
古代より、ことばがもっていると信じられた神秘的な霊力のことを指す。
親が子に願いを籠めて名前を付けるのはそれに由来する。
例えば健康な人間になってほしいから健人、という具合に。
アレイスター=クロウリーは自身の『プラン』の要になる存在を見つけるために日本に学園都市を作った。
日本では同じ名で複数の意味を取れるものが他国に比べて多いからだ。
例えば健人は賢人とも取れ、健康でありながら賢いとも取れる。
その目論見通り、世界中の複数の候補の中から最高の人物が日本で産まれた。
上条当麻。つまり、神浄討魔。
その名の通りの能力を生まれながらに持つ【原石】をアレイスターは嬉々として学園都市に迎えた。
その【原石】を将来利用するにあたり、アレイスターは【原石】のサンプルを上条とは別に学園都市に呼ぶ。
それが後のLevel5第七位、【ナンバーセブン】削板軍覇。
194 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 20:42:47.70 ID:YqPO9gCDO
だが、ここでアレイスターのプランに早くも二度の想定外の事態が生じた。
1つは軍を破り軍を覇すこの【原石】の力があまりに強大で、あまりに繊細だったこと。
そのため科学者たちは彼のどこから手を着けていいのかまるで分からず、手をこまねいていた。
そうこうしている内に次の想定外が発生する。
削板がいた研究所のメイン研究。脳のみで能力を行使し、その脳を保存する研究。
通称『プロデュース』の人体実験の現場を削板が目撃してしまったのだ。
さらにその全貌を知った削板は自身も分からぬまま身体も能力も力の限り暴走させていた。
その結果、研究所は施設としても組織としても壊滅。
それに伴い【原石】の脳の保存を最終目的とした研究は能力の行使と脳の保存に成功した当時の段階で凍結。
そして、削板に残っていたほんのわずかな理性により生き残っていた脳は『学園都市統括理事会』の1人、薬味久子に回収された。
この時、削板軍覇はこの世界の闇と地獄を知った-
195 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 20:44:33.60 ID:YqPO9gCDO
神裂「……よいのですか? ステイルはルーンの天才。一般の魔術師とは比べものにならないのですが」
削板「こっちのセリフだ。あんな根性なしをモツにぶつけて無事で済むと思っているのか?」
神裂「根性なし……ですか。私は彼ほど根性のある人間を知りませんよ」
ヒュッ、と神裂がワイヤーを振るう。
だが、常人とはかけ離れた動体視力を持つ削板はワイヤーの動きをはっきり見切る。
削板(なんだ……? 模様?)
ワイヤーは削板に襲い掛からない。
ものすごい速さで空中を動きまわり、1つの模様を形成する。
神裂「言っておきますが、私も魔術師の端くれですので」
すると、ワイヤーの前にいくつもの氷塊が出現する。
削板「な!?」
1つ1つが1m大程もある氷塊は明らかに削板に向けられている。
神裂「空気中の水分を凝縮して凍らせました。あまりこの街を壊したくはありませんが……」
ボッ! と氷塊が散弾銃のように射出される。
その速さも銃弾のそれであり、もはや音速に匹敵する。
削板「くっ…!」
だが、あろうことか削板はそれを紙一重で躱そうとする。
わずかな間を縫い、それでも避けられないものは腕で受け流し、衝撃で跳ね上がるコンクリートを能力で押さえつける。
この一連の動作をすべて終えても、まだ一秒も経過していなかった。
196 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:01:12.47 ID:YqPO9gCDO
神裂「読んでますよ」
削板「!」
そして【聖人】神裂火織はそのスピードについていく。
氷に気を取られた一瞬の隙に神裂は自身の攻撃範囲内に削板を入れるまでに詰め寄っていた。
神裂「ふっ!」
削板「ガ!!」
音速を超える速さで振りぬかれた刀で、削板は切り付けられた。
その衝撃故か、削板は異様な速さで吹き飛ばされる。
グワッシャア!! という音と共に、窓ガラスを突き破りビルの中へとたたき込まれてしまった。
インデックス「! ぐ、ぐんは!」
神裂「………峰打ちです。常人ならともかく、彼なら死んではいないでしょう」
ザッ、ザッ、と背丈以上の大きさをもつ日本刀を鞘に収め、魔術師は白いシスターへと歩んでいく。
原谷「……う、わ…」
神裂「おとなしくインデックスを渡してください。そうすれば、あなたに危害は加えません」
原谷「………」
神裂「……渡さないのであれば、実力行使に移りますが……」
インデックス「待って! やぶみには手を出さないで!」
再び刀に手をかけた神裂を見て、原谷の後ろにいたインデックスが慌てて前に出ようとした。
197 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:02:23.41 ID:YqPO9gCDO
だが、それを震える腕を出して原谷が制す。
インデックス「! やぶみ……」
原谷「……」
神裂「……どういうつもりですか? 見たところあなたはただの学生。とても戦闘に慣れているとは思えませんが……」
原谷「……それ、でも、渡さない!」
インデックス「やぶみ! ダメなんだよ! ぐんはだけじゃなくてやぶみまでやられちゃったら……!!」
原谷「ゴメン、逃げて、インデックス。さすがに勝つのは無理だ」
神裂「……どうしてそこまでこの子を庇うのですか? 今日会ったばかりの貴方がどうしてそこまで……」
原谷「………あの人たちに、付き合ってれば、思考回路なんて嫌でも変わるさ。
こんなか弱い子を犠牲に自分だけ逃げるなんて根性のない真似できるか!!」
198 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:03:23.75 ID:YqPO9gCDO
???「よく言った原谷ぃ!!」
神裂「!?」
ギュン!! と白い突風が吹く。
だが、それは風ではない。
Level5の第七位【ナンバーセブン】削板軍覇!
削板「フン!!」
神裂「ゴふ!?」
ズン! と削板の正拳突きが神裂の腹部に直撃する。
今度は神裂の方が吹き飛ばされ、ダゴン! と十数メートル離れたビルの壁に叩きつけられた。
インデックス「! ぐんは!」
原谷「……はは、そりゃそうだよ。この人がやられるはずないもの」
不死鳥のように舞い戻ってきた削板を見て、原谷は安堵したようにヘナヘナとコンクリートに座りこんだ。
削板「いい根性だったぞ原谷! さすがは俺が見込んだ漢だ!」
原谷「……まだまだ。緊張で喉カラカラだし、腰抜けて立てませんもん。まあ、追い付くつもりもないけど」
インデックス「……ありがとう、やぶみ! カッコよかったんだよ!」
原谷「あはは、どういたしまして」
199 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:04:24.01 ID:YqPO9gCDO
削板「さて、これでおあいこか?」
ザ、とビルの壁に叩きつけられたはずの神裂が再び立ちふさがる。
ただ、口の端からは赤い血が流れていた。
神裂「……」
削板「ゲホ、俺の内臓に最初に傷をつけるのはモツだと思っていたがな。実力だけは認めてやるぞ」
いかに削板とはいえ、音速の打撃をモロに食らったのだ。
当然、無事ではない。原谷とインデックスに危機にすぐに駆け付けなかったのは削板もダメージで動けなかったからだ。
インデックス「ぐ、ぐんは、口から血が……」
削板「かまわん。このくらいでくたばるようなヤワな根性はしとらん」
原谷「! 横須賀さん!」
200 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:06:02.65 ID:YqPO9gCDO
横須賀「だあー!!っちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃっちゃ!!」
コンクリートの上をゴロゴロと転がり、炎の巨人から距離を取る筋骨隆々の大男が1人。
そして、大男はそのまま削板たちのそばまで転がっていった。
ステイル「……やれやれ、本っ当に腹が立つね、この街は」
同時に燻った煙を転がりながら消す大男を見て、くわえたタバコを苛立った様子でピコピコと上下させる不良神父が1人。
両者の戦闘はやや不良神父の方が優勢に展開していた。
横須賀「クソッ! 厄介な相手だな!」
ステイル「僕の【魔女狩りの王】に突っ込んで『熱い』で済んでもらっちゃあ困るんだよ。いったい何度あると思ってるんだい?」
転がった勢いそのままに立ち上がった横須賀に不良神父が問いかける。
燻った煙は既に消えていた。
201 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:07:23.64 ID:YqPO9gCDO
横須賀「対【発火能力】用のフル装備だ! 不燃繊維に加えて肌には耐火ジェルを塗りこんでいる。眼球はこのグラサンだ。」
事前に削板らから情報を得ていた横須賀は急襲に備えて常にこの装備をしていた。
もともとは火災現場で使われる一式であるが、一部のスキルアウトは対能力者用にこういったものを横流ししてもらっている。
当然裏ルートであり、欠陥品や試作品が出回っている場合も多々あるが。
横須賀「『発条包帯』と違ってこいつはバックドラフトにも耐えられる成功品なのだがな。魔術の炎は普通のそれとは違うのか?」
ステイル「さあね。教える義理もない」
こうしている今も横須賀からステイルの姿は見えない。
【魔女狩りの王】が常に横須賀とステイルの直線上に立ちふさがり、ステイルを庇うように動いている。
ステイルにとって、魔術師以外の敵は横須賀が初めてではない。
そのために知っている。このようなテロリストの武器は重火器。
その弱点は基本的に直線上でなければ当たらないこと。
202 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:09:25.83 ID:YqPO9gCDO
横須賀(デカいローブで隠してはいるが、アイツはヒョロヒョロだ。
一発入れれば倒せる自信はあるが……そこまで楽な相手ではないな。)
仮にも【内臓潰し】を謳っている横須賀だ。銃よりも徒手空拳の方が得意である。
その気になれば拳銃の調達くらいなんとかなるが。
そして、先ほどから近づこうにも炎の巨人がそれを遮る。
爆風からも熱波からも身を守れる装備をしているから、とタカを括って突っ込んでもなぜか突破できない。
あろうことか質量のある炎ときた。おまけに熱も完全に遮断できていない。
装備がなければとうの昔に身体が蒸発していた。
しかし、その装備のせいでスピードが殺され、回りこむことができない。
魔術師の動きは大して速くはないが、炎の巨人の動きは横須賀の動きを上回る。
削板「どうしたモツ。あんな根性なしに遅れを取るな!」
横須賀「悪いが俺は対能力者戦闘のエキスパート。魔術師は専門外だ。それとアイツ結構な根性しているぞ。」
削板「お前の根性とは比べものにならんだろ! 根性でなんとかしろ!」
横須賀「……言うと思ったぞ、クソッタレ。」
203 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:20:37.37 ID:YqPO9gCDO
神裂「……フー……」
削板「どうした? なんならこのままタッグマッチでも構わんぞ」
ステイル「このっ…言わせておけば…!」
挑発的ともとれる言動にステイルが炎の巨人と共に逆上して前に出る。
ステイルにしてみればこんなところで戦闘を行う必要性など皆無である。
だと言うのに向こうはヤル気満々。おまけに見下してきた。イライラして仕方ががなかった。
あのナメきった連中を燃え散らさなければこのフラストレーションは解消できまい。
ステイル「神裂……?」
神裂「……あなた達は……私たちがインデックスを追い掛ける理由を知っていますか?」
ふいに長身の女魔術師が削板たちに問いかける。
その顔は真剣そのもの。口の端から流れ出た血液は既に拭われたあとだった。
横須賀「……あー、インデックスの……魔導書? とやらだろう?」
原谷「なんでちょっと自信なさげなんですか。ぶっちゃけ僕も半信半疑ですけど」
インデックス「こ、ここまで来てまだ疑うのかな!? いくらなんでもおかしいかも!」
削板「俺は話し合うことなど一切ないと言っただろ。来ないならこっちからいくぞ」
神裂「かまいませんよ。私が一方的に話します。それに私が話したいのはインデックスです」
インデックス「え?」
神裂「『完全記憶能力』……それがすべての原因です」
204 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:22:37.98 ID:YqPO9gCDO
ステイル「おい神裂!? 僕は反対だぞ! なぜその話を……それもこいつらの前でしなければならない!」
タバコをくわえた不良神父は、今度は女魔術師の方に逆上する。
彼の前にそびえ立つ炎の巨人すらその顔? を女魔術師の方に向けた。
神裂「この方たちももはや無関係の人間ではありません。
それに、戦闘が長引いて万が一どちらかが重傷を負えば儀式に支障をきたします」
ステイル「……」
その言葉に思うところがあるのか、不良神父は押し黙る。
削板「何をグダグダしてんだ!」
横須賀「待て削板。」
語気を荒げる削板。彼も彼でイライラしている。
話し合う気などないのに向こうは向こうでもめているのだから。
そして、それを横須賀がなだめる。
削板「止めるなモツ! こんな根性なしの話など聞く価値もない!」
横須賀「お前は人の話も聞かずに殴りかかるような腐った根性をしてたのか?」
削板「ぐ……」
そう言われてしまったら削板は言い返せない。
根性を引き合いに出された上に立派に筋が通っているのは横須賀の方だ。
明らかにしぼんでいく闘志。そのやり取りを見て不良神父の方も炎の巨人を引っ込めた。
ステイル「いいだろう。ただし手短にしてくれ」
そう言って不良神父は携帯灰皿の中に短くなったタバコを押し付け、新たなタバコに火をつけた。
205 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/18(火) 21:22:43.73 ID:i5dHCB9AO
削板と横須賀カッケェwwwwww
206 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:24:44.97 ID:YqPO9gCDO
神裂「……まずは私たちの立場を明らかにしましょう。私が所属している組織は……『必要悪の教会』」
インデックス「え?」
原谷「『必要悪の教会』って……確かインデックスの?」
神裂「ええ。私たちは貴女の同僚で……親友だったんですよ、インデックス」
インデックス「ど、どういうこと!?」
神裂「貴女は一年前からの記憶がない。それは当然です。私たちが………私たちが貴女の記憶を消したのですから」
インデックス「!?」
横須賀「……話が見えんな。ちゃんと順序立てて話せ。」
神裂「……私たちは好きでインデックスを追い回している訳ではありません。
ですが、こうでもしなければ……インデックスは死んでしまうから……」
インデックス「え……?」
削板「なんだと!?」
207 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:28:22.03 ID:YqPO9gCDO
神裂「……『完全記憶能力』……先ほども申したように、それがすべての原因です」
削板「なんなんだ? それは」
神裂「彼女が持つ特異体質です。彼女は今まで見てきたものを何一つ忘れず、すべて覚えています。
10万3000冊の魔導書を一字一句違わずに完全に記憶しているのもその体質を持っているからです」
原谷「ああ、そうだったの? インデックス」
インデックス「う、うん。でも、覚えてるのは記憶をなくしたあとのことだけだけど」
横須賀「ふむ、それがどうした?」
神裂「………、あなた達にはインデックスがどう見えますか?」
削板「根性あるシスター」
横須賀「ズバズバ言うシスター。」
原谷「大食いシスター」
インデックス「……ちょっと釈然としないんだよ」
神裂「……そんなシスターが私たちの追撃から一年も逃げ切れると思いますか? 『組織』に狙われたら私でも一月ももちませんよ?」
原谷「……普通に考えればムリですね」
削板「根性が違うんだろ、貴様と違ってな」
インデックス「それほどでもないんだよ」フフン
横須賀「なんで若干嬉しそうなんだ。」
神裂「……そんな才能を有していて、かつ、10万3000冊もの魔術書を
保持している彼女を誰がまともに扱いますか? 彼女が怖いんですよ、教会は」
インデックス「……」
横須賀「……で? 親友だった貴様らはその実態を知っていながら、なんでこんなコトをしてる?」
208 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:31:21.85 ID:YqPO9gCDO
神裂「……彼女は一度見たものを忘れることができない……ラッシュアワーの1人1人の顔、街路樹の葉っぱの数まで。
そのため、10万3000冊の魔導書に脳の85%を割かれた彼女の脳は一年毎に記憶を消去しなければパンクしてしまうのです」
削板「なに?」
インデックス「……そんな……」
原谷「はあ?」
横須賀「………事実か?」
神裂「……この目で何度も見てきました。忘れられない記憶に圧迫されて苦しむ彼女の姿を」
原谷「いやいや、は?」
ステイル「……これで分かっただろう? インデックスをこっちに渡せ。僕たちが記憶を消さなければ彼女は死んでしまうんだ」
神裂「私たちはインデックスにこれ以上危害を加えるつもりはありません。
記憶の消去を行うのは3日後。きっかり一年周期で記憶を消さなければいけないのです」
ステイル「はっきり言っておこう。記憶を消去すれば、彼女は君たちのこともキレイさっぱり忘れている」
神裂「今の私たちが敵として映っていたように。あなた達も敵と思われる。彼女を庇ったところでなんの益にもなりませんよ」
209 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:32:20.53 ID:YqPO9gCDO
横須賀「……なるほどな。」
インデックス「……」
横須賀「原谷、削板。今なにを思っている?」
原谷「……そりゃまあ、この人なに言ってんのかな? と」
削板「まったくだ」
ステイル「!?」
神裂「な……!」
インデックス「……やぶみ…ぐんは……」
横須賀「同じくだ。悪かったな削板。お前の言う通り聞く価値もなかった。」
ザ、と二人の戦士が前に出る。
両者とも臨戦体勢をとり、消えていた闘志は再び膨れ上がる。
ステイル「……なるほど、君たちはインデックスを見殺しにしたいんだね?」
ボオッ、と再び炎の巨人が出現し、不良神父の姿が隠れる。
神裂「記憶を消さずにインデックスをこれ以上苦しめようというのですか……!」
ためらいながらも女魔術師も刀に手をかける。
話し合いの場は瞬時に戦場へと変貌した。
210 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:33:57.20 ID:YqPO9gCDO
削板「分かってねぇな」
神裂「!」
一瞬にして削板が自身の間合いに神裂を入れる。
横須賀「そんなこっちゃねぇんだ。」
ステイル「!」
横須賀が【魔女狩りの王】に向かって全力で突き進む。
原谷「逃げた方がいいよアンタら。学園都市で一番怒らせると怖い根性バカを怒らせたんだから」
211 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:35:27.96 ID:YqPO9gCDO
ステイル「…ふん、この単細胞が」
目の前の【魔女狩りの王】がテロリストを迎撃しようと両腕を広げる。
確かに熱は相手に効きにくいようだが、ダメージは与えられている。
相手もなかなか素早いが、敏捷性は【魔女狩りの王】の方が優れている。
【魔女狩りの王】だけでなく中距離魔術も併用すれば確実に勝てる相手だ。
そのためのルーンは配置してはいないが、だからといってまったく使えないというわけでもない。
ルーンしか使えない魔術師がインデックスの回収任務にあたれるはずがない。
然るべき魔術を使用すべく、ステイルは術式を組み立て始める。
だが、視界の端、【魔女狩りの王】の脇から敵の着ていたコートが見えた。
ステイル「そっちか」
その瞬間、ほぼ反射的に【魔女狩りの王】をその方向に動かす。
相手の動きに合わせて対処しても十分間に合う。
とにかく直線上に遮蔽物さえ置いておけば敵は無力だ。
212 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:37:14.07 ID:YqPO9gCDO
だが、
横須賀「ハズレだ。」
ステイル「なっ!?」
【魔女狩りの王】を動かしたそばから影になって見えなくなっていた横須賀がふいに現れた。
先ほど見えたコートを横須賀は着ておらず、タンクトップとコートと同じ材質のズボンのみだ。
視界の端に映ったコートは横須賀が放り投げたもの。
己の身体が蒸発してしまう可能性も厭わず、耐火装備を脱ぎ、横須賀は捨て身で突進していく。
そして、装備を取り払い、身軽になった横須賀は【魔女狩りの王】を抜き去る。
ステイルにしてみれば直線上に相手を置かないことを重視しすぎたことが仇となった。
横須賀「思った通り。あれほどの熱量がありながらコンクリートには焦げ跡のみ。
熱の指向性も貴様の制御下。これしか離れていなくとも俺にはほとんど熱波はこない。」
3000℃という業火でありながら【魔女狩りの王】が与える周囲への被害が少なすぎる。
それほどの熱量ならとうの昔に辺りはドロドロになっていてもおかしくはないのだ。
もちろん、具体的な熱量の数値を測っていたわけではない。
だが、あれほどの炎の塊がコンクリートの上にあって焦げる程度で済むはずがないのだ。
そして、抜き去ってしまえば熱の指向は横須賀に向けられない。
一歩間違えればその灼熱はステイル自身を焼いてしまうからだ。
213 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:38:21.37 ID:YqPO9gCDO
ステイル「くっ……」
横須賀「まともにやり合えばお前が勝っていただろう。」
新たな術式を組もうとステイルが間合いを取り魔力を練り上げる。
だが、それよりも横須賀の動きの方が速い。
後ろにさがる人間と前に進む人間。どちらが速いかは明白である。
横須賀「今の話で気が乱れている。…後悔と迷いにまみれていては俺には勝てんよ。」
ステイル「!」
十二分に加速がついた状態で筋骨隆々の大男が思い切り拳を引く。
横須賀「ヌン!!!!!!」
ステイル「ぐぁ!?」
ズドン!!! と振りぬかれた拳がステイルの胴に突き刺さり、その身体を宙へ浮かせた。
214 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:39:42.79 ID:YqPO9gCDO
神裂「! ステイル!」
削板「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ根性なしが! インデックスが覚えていようがいまいが関係あるか!
また仲間になればいい話だろうが! 記憶がねぇならまたダチになりゃいいだろうが! テメェらインデックスをなんだと思ってんだ!」
神裂「……うるっせんだよド素人が!」
ズバン!! と神裂の刀が鞘に入ったまま削板の顔面にたたきこまれた。
神裂「知ったような口を利くな!
私たちが今までどんな気持ちで彼女の記憶を消してきたと思ってる! あなたなんかに一体なにが分かる!!
ステイルがどんな気持ちであなた達とあの子を見てきたと思ってるんですか!!! ステイルがどれだけの決意の下に彼女の
215 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:41:10.27 ID:YqPO9gCDO
削板「知るかぁ!!」
パァン!! と神裂の鞘が弾かれる。
神裂「なっ!?」
削板「だったらなんだってんだこの根性なしがぁ!! インデックスに打ち明けてもいねぇくせに何を感傷に浸ってやがる!!」
神裂「っ! 私たちだって頑張った! 頑張ったんですよ! 春を過ごし夏を過ごし秋を過ごし冬を過ごし!
思い出を作って忘れないように!! たった1つ約束をして日記や写真を胸に抱かせて!!」
ほとんど互いに叫ぶように拳を振るい、刀を振るう。
人間の限界など簡単に越える二人のぶつかり合いはみるみる内に道路を荒れ地に変えてゆく。
神裂「それでもダメだったんですよ!! あの子は申し訳なさそうにごめんなさいって言うんですよ!!
何度思い出を作っても全部0に戻ってしまう! 私たちにはもう耐えられません!! あの子の笑顔をこれ以上見ることなんて
216 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:42:29.83 ID:YqPO9gCDO
削板「ふざけるなああああああああああああああ!!!!!」
バキィ!! と神裂の顔面に削板の拳がたたきこまれる。
神裂「ガっ…」
削板「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞテメェ!! そんなエゴでインデックスを追い掛け回したのか!!」
後ろにのけぞった神裂に削板がさらに襲い掛かる。
神裂「くっ、なんですか! じゃあ他にどうしろっていうんですか!」
そして神裂もそれに応戦する。だが、先ほどよりも明らかに動きが鈍っていた。
削板「知るか! だがな! テメェら自分がインデックスに何をしたか分かってんのか!?」
神裂「何を…!」
削板「インデックスが俺のメシ食った時なんて言ったかわかるか!? こんなに美味しいのは初めてだって言ったんだぞ!?」
神裂「っ」
神裂の動きがさらに鈍る。
自分から攻撃する余裕はなく、削板の攻撃を躱すことしかできなくなってくる。
削板「インデックスが初めて俺のメシを食い終わった時なんて言ったかわかるか!?
お腹いっぱいなんて久しぶりだって言ったんだぞ!?」
神裂「……」
神裂の足が止まる。
もはや削板の攻撃を防御し、受け流すのが精一杯である。
217 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:43:56.32 ID:YqPO9gCDO
削板「インデックスが俺に別れを言った時なんて言ったかわかるか!?
一緒に 地 獄 の 底 ま で ついてきてくれるかって言ったんだぞ!!!」
神裂「-っ!!」
ズゴム!! と削板のボディーブローがキレイに決った。
そこから先は見るも無惨な一方的な展開だった。
削板「テメェらはインデックスから記憶を奪い取った挙げ句に地獄の底まで見せたんだぞ!!!
誰にも頼らず一年も地獄の底まで追いかけ回されたインデックスの気持ちがテメェらに分かるのか!!!」
拳が、蹴りが、肘が、膝が、神裂に嵐のように襲い掛かる。
神裂はもはや動けなかった。否、動かなかった。
削板「そこまでしてやっと報われたインデックスから記憶を奪い取り! 再び地獄の底へ追いやるのか!?
自分が傷つきたくないからすべての痛みをインデックスに押し付けんのか!? それで自分は悲劇の主人公気取りか!?
ふざけんのも大概にしろ!! だったら俺が今ここでテメェを地獄の底までたたき落としてやる!! 覚悟しろよこの大馬鹿野郎!!!!」
218 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:45:17.06 ID:YqPO9gCDO
ドン、と今までに比べて小さな音がした。
削板「な……?」
目の前に白い何かが立ちふさがっている。その後ろで長身の女魔術師が力なく倒れこんだ。
振り抜いたはずの拳は途中で止まっていた。遮られていた。
白いシスターの頭によって。
インデックス「い…ったあ~。……『歩く教会』の上からでもこれだけ衝撃がくるような力を人に向けて振るっちゃダメなんだよ」
削板「イン、デックス……?」
怯えと恐怖に顔を染めながらも、目だけはしっかり削板の目を捉えている。
白いシスターは神裂を庇うように両手を広げて削板の前に立ちふさがった。
インデックス「もういいよ、ぐんは。これ以上やったらこの人死んじゃうんだよ」
削板「どけインデックス! こいつがお前を地獄の底まで追いやったんだぞ!?」
インデックス「その私がもういいって言ってるんだよ。私はぐんはに過ちなんか犯してほしくないかも」
削板「だが……!」
横須賀「そこまでだ。」
ガシリ、と横須賀が削板の腕を掴んだ。
削板「モツ……」
横須賀「その女にもう戦意はない。無抵抗の女を殴るほどお前の根性は曲がってないはずだ。」
219 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:47:14.62 ID:YqPO9gCDO
神裂「…………ぃ……」
ふと、インデックスの足元から声がした。
インデックス「……?」
神裂「………ごめ…なさ…イン………ス、……ヒグッ………ご……な…ぃ…、………クス……ぁぁ……め……さ…ぃ」
蚊の鳴くような声で、かすれてほとんど聞こえない声で、その声の主はひたすら謝っていた。
インデックス「……」
腫れあがり、見るも無惨な顔の上にいくつもの涙の筋を流しながらうわごとのように謝り続ける魔術師。
自分を追いかけ回した敵の本心を、銀髪のシスターは困惑した表情で見下ろしていた。
横須賀「……もはや意識も定かではないだろう。これ以上やる必要はない。」
削板「……クソッ!」
220 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/18(火) 21:48:43.06 ID:YqPO9gCDO
そして、戦闘の終わりを告げるようにサイレンの音が遠くから聞こえてきた。
原谷「……警備員ですかね。そっちの男が気を失ったから魔術の効果も切れたのかな?」
インデックス「……うん。漂ってた魔力が全部消えてるんだよ」
横須賀「マズイな。逃げるぞ。」
削板「なんでだ!? 悪いことなどしとらんだろ!」
原谷「パッと見だと二人がリンチしたようにしか見えませんよ。
加えて器物破損と建築物破壊容疑です。コンクリもビルもぐっちゃぐちゃじゃないですか」
横須賀「このまま拘留されてしまえばインデックスの身柄が危うい。
下手すればイギリスに強制送還だ。逃げるしかないだろう。」
削板「……あああああ、ちくしょう!! 行くぞインデックス!」
インデックス「うん……」
そして、四人はサイレンの音とは反対方向に走りだし、その場を後にした。
224 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/18(火) 22:04:52.80 ID:9iP56KRU0
熱い展開でいいね
乙
225 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/18(火) 22:06:40.32 ID:LBRhu2apo
この三人バランスいいな
230 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:34:06.40 ID:mDMDcm6DO
-翌朝、第七学区某ホテル
あの後、他の魔術師による更なる追撃を警戒した一向はホテルに宿泊した。
なんとかチェックイン時間に間に合ったので、横須賀を保護者だと誤魔化して泊まりこんだ。
代金は全部削板持ちで、宿泊セットはホテルで一式買った。
そして、全員で売店で買ってきた朝食を黙々と食べ、今に至る。
横須賀「さて……、とりあえず全員頭は起きたな?」
全員が集まり、部屋の真ん中に置かれた机を囲むように座っていた。
削板「おう」
原谷「ええ」
インデックス「バッチリなんだよ」
横須賀「なら……とにかく話し合うか。インデックスの頭について。」
インデックス「うん……」
削板「あの根性なしどもの話だとあと2日しか猶予はない。それまでになんとかせんとな……」
231 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:36:10.72 ID:mDMDcm6DO
インデックス「……」
原谷「それよりインデックス、ホントに一年前からの記憶がないの?」
インデックス「……うん……あの人たちのことも何も覚えてないんだよ……」
原谷「……うーん……」
腕を組み、納得がいかないとばかりに原谷が首を傾げる。
横須賀「あの魔術師どもが完全に消したというのは間違いなさそうだな。」
原谷「……それについてはホントに腹立ちましたよ。言うにこと欠いてあんなメチャクチャなコト言って!」
削板「まったくだ! 今でもイライラするぞ!」
原谷「なにが一年で脳ミソパンクするだよ! そんなコトあるわけないってのに!」
バン! と原谷が勢いよく机を叩いた。
横須賀「……ん?」
インデックス「え?」
削板「なに?」
原谷「……え?」
そして、全員が全員キョトン顔になった。
232 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:38:02.76 ID:mDMDcm6DO
削板「今……なんて言った?」
原谷「イヤ、だからインデックスの記憶を消す必要なんかまるでないって……」
インデックス「ど、どういうこと!?」
原谷「どうって……普通に考えてそんなはずないじゃんか。完全記憶能力者なんて過去に何人もいたんだし」
横須賀「……?」
削板「ぬ……?」
原谷「え……? 二人とも昨日何にキレてたんです?」
横須賀「何って……アイツらがインデックスの敵に回って追いかけ回すからだな……。」
削板「なんで側にいてやらないんだってコトで……」
原谷「……あー、なるほど」
インデックス「そ、それよりやぶみ! さっきの話を聞かせて!」
原谷「うん。えっと、まず脳ミソがパンクするなんてコトはあり得ないんだ。完全記憶能力を持っててもね」
横須賀「……そうなのか?」
原谷「ええ。そもそも考えてみてくださいよ。一年で脳ミソが15%も使われるなら完全記憶能力者の寿命は6年半から7年くらい。
ですが、完全記憶能力者の成人も普通にいますよ。その能力でカジノで荒稼ぎして出禁になったって話も聞きますし」
削板「……言われてみれば……」
原谷「それにそんなヤバい天性的な病ならもっと知名度もあるでしょう?」
233 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:44:06.42 ID:mDMDcm6DO
インデックス「で、でも、10万3000冊も記憶してる人なんてそうそういないでしょ!?」
原谷「あのね、10万3000冊覚えようが覚えまいがキミは見たモノを全部記憶してるんだろう?
だったら、起きている時間=記憶の量になるわけで、本の冊数は関係ないってことになるんじゃない?」
インデックス「あ……」
原谷「仮にそうならその日見た夢の内容だとか寝る時間だとかで若干前後するだろうからきっかり1年で85%なんてあり得ない。
そもそも脳の構造上、知識と記憶は別のところに分類されるんだ。その記憶の分野もだいたい140年分くらいは詰め込める」
横須賀「……ということは?」
少しの間、原谷は押し黙る。
頭の中に散在している知識を整理し、状況と組み合わせ、自分の考えをまとめていく。
原谷「……僕は最初テキトーなこと言ってインデックスを拉致ろうとしてると思ったんですけど……
あのリアクションだと本当のことを言ってるとしか思えません。
でも科学じゃそんなのどう考えてもあり得ないから……やっぱり魔術? なんじゃないですか?」
削板「……アイツらは騙されていたってコトか?」
原谷「恐らくは。あの女のリアクションからして消したことも、本心ではしたくなかったってのも事実でしょう」
インデックス「……」
原谷「1年で85%の時点でおかしいですけどね。あの二人が絶望に追いやられてそれに気付かないのか……
……もしくはそのことに気付かないように、あの二人にもインデックスとは別に魔術がかけられてんのか」
横須賀「……魔術って言えばなんでもまかり通る気がしてきたな。」
原谷「なんでもアリですもんね。つーか僕はてっきり2人がそれに気付いててキレてんのかと……」
横須賀「……」
削板「……」
原谷「……気付けよ根性バカども……」
はぁー、と原谷は呆れたように深いため息を吐いた。
234 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:45:00.96 ID:mDMDcm6DO
インデックス「えっと、と、とにかく私は記憶をなくさなくてもいいの!?」
原谷「うん。普通に考えればね」
インデックス「……ふぇ……」
ジワッ、とインデックスの眼に涙が浮かんだ。
原谷「え?」
インデックス「うぅ……良かったんだよ……みんなのコト忘れたくなかったんだよ……」
削板「インデックス……」
インデックス「ヒック……昨日からずっと……不安で……不安でぇ……うわあああん!」
235 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:46:59.63 ID:mDMDcm6DO
横須賀「……インデックス、正直に答えろ」
インデックス「?」グスッ
横須賀「頭痛は……するのか?」
インデックス「………うん」
削板「!」
インデックス「で、でもたまになんだよ! 心配しなくても、もう記憶を消す必要なんてないって分かったから……」
横須賀「……イヤ、このままだとまた消すことになる。」
インデックス「え!?」
原谷「……」
横須賀「科学的に見て記憶を消す必要がないのは分かったが……何かが脳を蝕んでいるコト。
そしてそれを解消するには記憶を消すしかないというコト。これらは事実だ。これを解決しないことには……」
236 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:49:00.89 ID:mDMDcm6DO
インデックス「……」
削板「……たしかにな。十中八九、魔術だとは思うが……」
原谷「それならちょうどここに10万3000冊も参考書があるじゃないですか。インデックス、そんな感じの魔導書ってないの?」
インデックス「…………ないんだよ……そんな魔導書、読んだことないかも」
横須賀「……まあ、当然だろう。わざわざそんなものを記憶させるメリットがない。」
原谷「……でも、10万3000冊ですよ? こう、記憶関連の魔術の知識を足せばそれっぽいのも出てくるんじゃ……」
インデックス「うん……やってみる…………っ…………ゥ……うあ……!」
削板「! やめろインデックス! 無茶するな!」
インデックス「………ハァ……ハァ………ダメ……かも。考えれば考えるほど……頭が……」
横須賀「……要するに『首輪』ということか。インデックスが逃げ出さないように徹底している。」
原谷「……インデックスが記憶している10万3000冊が流出しないように……
あの魔術師たちにだけ延命法を教えて、依存せざるをえない状況を生み出していると……そういうことですか……!」
237 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:51:06.40 ID:mDMDcm6DO
削板「……おい、インデックス」
インデックス「なに……?」
削板「イギリス清教ってのはイギリスに行けば分かるのか?」
インデックス「え? ……うん、たぶん……って、ぐんはどこ行くの!?」
削板「ちょっとイギリスに殴り込みに行ってくる」
横須賀「おい待て削板!」
削板「放せ! もう頭きた! なんなんだ教会っつーのは!! どいつもこいつもインデックスをなんだと思ってんだ!!
変なもん覚えさせて化け物扱いして追いかけ回して挙げ句の果てには記憶を消さないと生きられないだと!!
一体どんな根性してやがんだ!! 親玉一発ぶん殴って教会ごとブッ壊す!! 地獄の底まで見せてやらんと気がすまん!!」
原谷「ちょっと落ちついてくださいよ! 親玉がだれかも分からないでしょうが!」
削板「知るか! 教会ブッ壊せば親玉も出てくんだろ!」
横須賀「尻尾巻いて逃げるに決まっているだろうが!」
削板「じゃあどうすんだ!? このままインデックスを見殺しにすんのか!?
今回だけじゃねぇ! これからもずっとインデックスにこんな人生を送らせるのか!?」
インデックス「ぐんは……」
横須賀「……分かっている。俺とて気持ちは同じだ。」
原谷「納得なんてできるはずないでしょう。目の前で女の子が涙流して生きたいって言ってるんだから」
インデックス「よこすか……やぶみ……」
削板「だったらもうやることは決まってるだろうが! アイツらの親玉ブチのめして全部吐かせるぞ!」
238 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:54:05.18 ID:mDMDcm6DO
横須賀「……そうだな。だが、時間がない。効率的に動くべきだ。」
削板「なに……?」
横須賀「俺たちがイギリスにカチ込んだところで右往左往するだけだ。勝手が分かる者が行くべきだろう。」
削板「だから教会ブッ壊せばそれで……!」
横須賀「上手くいくわけないだろう。ローマ教皇がバリバリの武闘派だったらビビるわ。」
原谷「ローマはイタリアですよ」
横須賀「ぬ? じゃあ……イギリス教皇か?」
インデックス「【最大主教】って言うんだよ」
削板「どうでもいい! とにかくお前はなにが言いたいんだモツ!!」
横須賀「その【最大主教】とやらに会える確率の高い者が行くべきだと言っている。」
原谷「……誰ですか? そんな人います?」
横須賀「あぁ。不本意だが……あいつらしかいないだろう。」
239 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:56:19.45 ID:mDMDcm6DO
-1時間後、第七学区とあるビル屋上
ステイル「……今のところ彼女に異常はない。取り巻きの方はイラついてるけど……」
とあるビルの屋上でタバコをくわえながら双眼鏡で遠くを見る不良神父が一人。
神裂「………そうですか……」
そして、その不良神父の隣で膝を抱えて神父とは反対の方向を向いて小さく座っている長身の女性が一人。
ステイル「……やれやれ、昨日のダメージがそんなに響いているのかい?」
神裂「……そう……ですね……」
昨晩は予想外の戦闘が起きた。そして予想外の敗北を喫した。
二人とも気を失っていたが、この街の治安機関に見つかる前に辛くも逃走に成功。
人目につかないところで互いに回復魔術を掛け合い、とりあえず普通の活動に支障が出ない程度には回復した。
回復魔術とはいえ、すべてを完全に回復することはできない。
それ以前に疲弊していてそれほどの魔力を練る体力もなかった。
残りは応急処置として湿布などで終わらせた。神裂の顔にも白い湿布が貼ってある。
240 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:58:14.47 ID:mDMDcm6DO
それでもその後すぐにインデックスの居場所を探知したあたり、二人の使命感と執念の強さが見受けられる。
昨晩の疲れと戦闘による負傷のせいで、神裂の方は居場所を発見してから身体を小さく丸めたままほとんど動いていなかったが。
ステイル「……【聖人】であるキミをそこまで打ちのめすとは……これは骨が折れるね」
フーッ、と紫煙を吐きながらステイルがぶっきらぼうにつぶやく。
【聖人】である神裂火織はステイルにとって、『イギリス清教』にとって、魔術界にとっても切り札である。
それが敗れたとなると単なる奪還任務の難易度が一国の軍隊を相手にするレベルの難易度に相当するということになる。
これ以上長引くようなら援軍の要請も考えた方がいい。
241 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 22:59:50.08 ID:mDMDcm6DO
神裂「……ステイル」
そんなことを考えていると、ふいに神裂が話しかけてきた。
ステイル「うん?」
神裂「私たちは……何をしているのでしょうか……」
相変わらず身体を小さく丸めたまま、ステイルの方を見ずに地面の一点を虚ろに見つめながら神裂は問いかける。
ステイル「……」
神裂「彼女を追いかけ回して……彼女に辛い思いをさせて……私たちのしていることは正しいのでしょうか……」
昨日の戦闘において神裂に最もダメージを与えていたのは、削板の拳でも蹴りでもなく言葉だった。
もっと正確に言えば削板の言葉によって叩きつけられた現実である。
今まで彼女を救うためだと自分に言い聞かせて彼女を追いかけ回してきた。
だが、その行動理念は単なる都合のいい幻想だった。
実際には彼女にこの世を地獄の底だと感じさせるほど追い詰めていた。
彼女を救うどころか生き地獄を味あわせていた。
もはや神裂には自分がどう行動すべきか分からなくなっていた。
242 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:01:32.76 ID:mDMDcm6DO
その神裂の問いかけに、ステイルはほんの一瞬、口元にタバコをもっていく時間だけ考える。
煙を肺にため込みながら考えをまとめ、そして吐き出してから問いかけに答える。
ステイル「……正しいはずないだろう。そのくらい理解している」
神裂「!」
思いがけない答えに、今までほとんど動かなかった神裂がステイルを見上げる。
その表情は驚きに満ち、目は見開かれていた。
ステイル「でもね、こうでもしなきゃ彼女は生きられないんだ。
そして……記憶を消す時に、消した後に、彼女のあの顔をまた見るくらいなら僕は喜んで恨まれる」
神裂「……」
ステイル「……分かっているさ、エゴだってことくらい。それでも僕は彼女の敵になると決めたんだ。
どうせ彼女に辛い思いをさせるなら……辛い思い出も楽しい思い出も全部消したこんな僕に対して
心から申し訳ないと思わせるくらいなら、僕は心から恨まれて生きて死ぬ。……そう、決めたんだ」
これがステイルの信念だった。
自分の行動は間違っている。それは分かっている。
だが、記憶なくした彼女が記憶を消した自分に心から謝罪する。これはもっと間違っている。
誰がなんと言おうと間違っている。
何度記憶を消しても何度他の方法を考えても少女は申し訳なさそうに謝るだけだった。
誰よりもインデックスという少女を愛したステイルにとってそれは許せないことだった。
だからこそ彼は彼女に恨まれて、彼女のために生きて死ぬと決めたのだ。
243 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:02:51.79 ID:mDMDcm6DO
ステイル(ま、未だにどこかで踏ん切りがついていないのだろうけど)
だからこそ、捨て身で突っ込んできたあの男に無様に敗北したのだろう。
戦闘中の迷いは動きを鈍らせる。
自分たちの経緯を話した時、押し込めていた感情が揺れ動き、迷いに繋がり、敗北に繋がった。
だが、もう迷うわけにはいかない。タイムリミットが迫ってきている。
今度こそ彼女を奪還し、彼女を記憶を消し、生き永らえさせる。
そのためならなんだって消し炭にしてみせる。
神裂「……やっぱり……あなたは根性ありますね……」
ステイル「やめてくれ。虫酸が走る」
244 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:11:43.53 ID:mDMDcm6DO
ガチャリ、と屋上の扉が開いた。
横須賀「よう。」
原谷「……どうも」
そこから出てきたのは昨日のテロリスト面をした大男。
それにインデックスとともにいたメガネの少年。
ステイル「お前は……!」
神裂「……」
横須賀「インデックスだけに気を払いすぎだ。とはいえ、俺たち以外にビルの屋上に眼を向ける者などいないだろうがな。」
二人の姿を見た瞬間、ステイルは臨戦体勢をとる。
対して神裂の方は未だに膝を抱えて座りこんでいた。
245 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:13:01.16 ID:mDMDcm6DO
横須賀「待て待て。やり合うつもりはない。ちょっと話したいと思ってな。」
ステイル「昨日ボクたちは散々そう言った。聞く耳を持たずに一方的に殴りかかってきたのはどっちだい?」
原谷「……こっちですね、完全に」
横須賀「なら、昨晩のそっちの女と同じように俺が一方的に話そう。」
ステイル「勝手にしたまえ。僕はその内にキミの細胞を余すことなく灰にしてみせる」
ボゥ、とステイルの手に炎が生まれる。
迷いを取り払ったステイルに隙はない。
対して横須賀に至ってはなんの装備もない。ただのジャージである。
このままなら一瞬で勝負は決まる。
246 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:14:12.79 ID:mDMDcm6DO
横須賀「インデックスの記憶は消す必要がない。」
ピタリ、とステイルが動きを止めた。
次いで神裂が顔を上げる。
横須賀「……原谷、説明してやってくれ。」
原谷「ああ、そこは僕なんですね」
横須賀「聞いたばかりの知識をドヤ顔で説明するような根性はないのでな。」
ステイル「……いいから早く説明してくれないかい?」
神裂「今言ったことは……本当なのですか?」
原谷「本当ですよ。でもその前にお仲間全員呼んできてください」
ステイル「今インデックスを追っているのは僕たちだけだ。だから早くしてくれ」
原谷「あ、そうなんですか?」
横須賀「……ホテル代無駄だったな。」
原谷「じゃあ説明しましょうか。まずですね……」
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:16:15.19 ID:mDMDcm6DO
原谷「……と、まあこんなところです」
ステイル「……」
神裂「……」
原谷「つまり、科学的な見地から見ればあり得ないことがインデックスに起きてる。
まさか魔術の世界で生きている人間には科学の法則が通じないなんて理屈はないでしょう?」
神裂「なら………私たちは………彼女を………無意味に………」
原谷「無意味……かは分かりませんけど。事実、インデックスに頭痛の兆候が出てきてる。
たぶん、記憶を消さなかったらインデックスが死んでしまうのは事実なんでしょう」
ステイル「……どういうことだい? キミは今、インデックスの記憶を消す必要はないと言ったばかりだ」
原谷「科学的な見地から見れば、と言ったばかりのはずです」
神裂「……まさか」
ステイル「……インデックスに魔術がかけられている。そう言いたいのかい?」
原谷「恐らくは。それにアンタたち自身のことも考えてみてください。
1年で85%なんて違和感に何年も気付かないなんておかしいでしょう? アンタたちがインデックスを救おうとしたってのは…
…まあ信じますよ。そんなアンタたちが、ほんのちょっと頭を捻れば分かるようなことを何年間も見落とすなんてありえますか?」
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:18:43.12 ID:mDMDcm6DO
神裂「そんな……私たちにも魔術がかけられていると?」
原谷「たぶん、はい。じゃなかったらただのバカだ。
だから今の話丸々メモっといてくださいよ。忘れられたらたまったもんじゃない」
神裂「忘れるなんて……」
横須賀「そんな魔術かもしれない、ということだ。」
神裂「……ス、ステイル、紙とペン!」
ステイル「あ、ああ。……っだが、僕と神裂にそんな真似ができる魔術師など……ましてインデックスの脳に魔術なんて……」
原谷「いるはずですよ。そしてそいつが黒幕、もしくはその一端を担ってる」
249 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:19:25.65 ID:mDMDcm6DO
神裂「………まさか、【最大主教】?」
ステイル「! そういうことかっ! あの女狐!!」
横須賀「……お前らのトップか。ホントに人を救済する気あんのか、お前らの宗教は。」
原谷「宗教なんてそんなモンですよ。世界史だって日本史だって現代だって宗教絡みの紛争戦争は日常茶飯事です」
横須賀「本末転倒にもほどがあるだろう。ともかく、ホレ。」
ステイル「……これは?」
横須賀「【超音速旅客機】のイギリス行きチケットだ。そいつなら片道2時間あればイギリスに行ける。帰りは自分たちで調達しろよ。」
神裂「……今からイギリスに行ってインデックスにかけられている術式を【最大主教】に吐かせてこい、と?」
横須賀「当然だ。よく分からんが気付かぬほど高度なものなのだろう?
だが、このタイミングで気付けたのが不幸中の幸いだ。まだ可能性は0ではない。」
ステイル「……間に合うと思うかい? あの女狐相手に2日で全部吐かせることがどれだけ難しいか」
原谷「言うまでもないでしょう」
横須賀「根性でなんとかしろ。」
ステイル「……恩に着る! 行こう! 神裂!!」
神裂「ええ!!」
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:20:34.30 ID:mDMDcm6DO
横須賀「……行ったか。」
原谷「……上手くいくと思います?」
横須賀「……このタイミングにあのナリで戻るんだ。確実に何かあったと思うだろう。
向こうのトップが慌てて話を聞きに出てくる可能性は高いが……果たして上手くいくかどうか……。」
原谷「……僕はそれ以前の問題だと思いますけど」
横須賀「? と言うと?」
原谷「冷静になったあいつらがわざと時間をおいてこっちに戻ってインデックスの記憶を消し、再びイギリスに行くパターンです」
横須賀「……?」
原谷「だって今の段階で記憶消去の阻止に成功したら、インデックスは永遠にあいつらに追いかけ回されたことを覚えてしまいます。
対して、ここで一度記憶を消してしまえばあとでなんとでも言える。
それに本当のことを言っても聞くと体験するじゃまるで違う。インデックスの二人に対する印象も変わってくる。
だから安全策という名目でインデックスの記憶を消去し、その後焦る必要もなく一年かけて術式の解除法を探ればいい」
横須賀「……」
原谷「……考えたくないですけど……リミットがどんどん迫ってくればこの理論を肯定してしまう気がするんです」
横須賀「……たしかにな。だが、なにも俺たちも指をくわえて待っている必要もない。」
原谷「……? 何か策があるんですか?」
横須賀「……策とは呼べんが……悪あがき程度ならできる。」
251 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/19(水) 23:22:01.07 ID:mDMDcm6DO
<バッハーノセンリツヲ ヨルニキイタセイデス♪
横須賀「……? お前のケータイか。」
原谷「ああ、はい。……削板さんからです。もしもし?」
削板『原谷か!? 今すぐモツ連れて戻ってこい!! インデックスが!!』
原谷「!」
横須賀「!」
263 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:34:54.14 ID:3lA0f+2DO
-第七学区、某ホテル
原谷「インデックス!」
横須賀「無事か!?」
インデックス「…ハァ…ハァ…」
削板「……さっき急に頭痛がしたらしくてな……どうすればいい? どうすればいいんだ!」
横須賀「どうするったって…!」
インデックス「ハァ………ハァ……うぅ……」
原谷「……インデックス」
インデックス「……やぶみ……」
原谷「正直に答えて。さっきと……今、何考えてた?」
264 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:36:04.37 ID:3lA0f+2DO
横須賀「?」
インデックス「……それは……」
削板「む?」
原谷「インデックス」
インデックス「…………10万3000冊の魔道書の知識を用いた、脳に作用する術式の理論上の構築……」
横須賀「!」
削板「な……じゃあ頭痛の原因は……」
原谷「おかしいと思ったんですよ。いくらなんでも早すぎる。きっかり一年で消さなきゃいけないなら
タイミングは絞られるはずなんだ。必要以上に早く衰弱させれば外部に拉致られる可能性が高まる」
インデックス「……」
原谷「なんでこんなになるまで考えこんだの? こうなることは分かってたのに」
インデックス「………だって………だって……忘れたくないんだもん……」
横須賀「……」
インデックス「…やぶみの、ことも……ぅぅ……よこすかのこと、も……ヒグッ……ぐんはの、こと、も……グズッ……忘れたく、ない……」
原谷「……」
インデックス「あの人たちだって…悪い人たちじゃないって、ようやく分かったのに…
……本当は……みんな友達なのに………ぅぁぁ………ヤダよ……忘れたくないんだよ……」
265 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/20(木) 23:36:54.38 ID:PHEodfPB0
面白い!!
しかし三主人公はどうなるん?
266 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:37:10.65 ID:3lA0f+2DO
削板「……ちくしょう!! なんとかなんないのか!! 俺は、俺たちはなんにもできんのか!!
あの根性なしどもが帰ってくんのを待つだけなどできん!! なにか……なにかないのか!!」
横須賀「……あるにはあるが……」
削板「! 本当か!?」
インデックス「よこすか……」
原谷「そういえばさっきも言ってましたね。一体なんなんです?」
横須賀「……魔術でダメなら……科学しかないだろう。それだけの話だ。」
267 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:46:32.65 ID:3lA0f+2DO
-第七学区、とある病院
横須賀の提案により、一向はホテルをチェックアウトして病院に向かった。
この病院は横須賀の行き付けの病院であり、学園都市で最も優秀な医師【冥土返し】のいる病院である。
この病院を選んだ理由は少々後ろ暗い理由を持っていても拒まずに治療を施してもらえるからである。
もちろん、横須賀の行き付けであることと【冥土返し】の優秀な腕を頼ってのことでもあるが。
その【冥土返し】に魔術のことは伏せ、『頭痛』の原因を探ってもらうことにした。
横須賀「スマンな先生。ムリを言って。」
冥土返し「キミには借りがある。散り散りになっていた
昏睡状態の子どもたちを集めるのにかなり尽力してもらった。気にすることなどないね?」
原谷「……なるほど、科学で症状を診るならこれほどの適任はいませんね」
削板「先生! インデックスを治せるのか!?」
冥土返し「診てみないことにはなんとも言えないね?」
インデックス「……」
横須賀「安心しろ。俺が何度ボコられてもお前に挑めるのは先生のおかげでもある。」
原谷「そりゃ名医だ」
冥土返し「横須賀くんの担当になれば誰でも名医になれると思うけどね?」
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:49:44.15 ID:3lA0f+2DO
原谷「……ん? でも、そしたら先生は……外科医?」
冥土返し「脳外科も担当だし内科の心得もある。僕は患者を救うためならどんな知識でも吸収するね?」
横須賀「……俺が思っている以上に名医だったか。」
冥土返し「光栄だね?」
削板「……そういえばインデックス、医者にかかったことはあるか?」
インデックス「……記憶にある限りではないかも」
冥土返し「……分かった。じゃあ、とりあえず診てみようか」
横須賀「ああ、頼む。」
冥土返し「うん」
原谷「……」
削板「……」
インデックス「……」
横須賀「……」
冥土返し「……?」
削板「……どうした? 先生。早くインデックスを診てやってくれ!」
冥土返し「……あー、キミたちがいるとやりづらいんだけどね?」
削板「?」
インデックス「私はみんなにいてほしいかも……」
冥土返し「キミがいいならいいけど……心音聞いたりするからね?」
原谷「あ、そっか」
横須賀「…フ、噛み付かれてはたまらんな。インデックス、俺たちは部屋の前で待ってるから先生の言うことちゃんときけよ」
インデックス「? 分かったんだよ」
削板「む? 俺は一緒にいちゃいかんのか?」
原谷「そりゃそうでしょ」
削板「むう……先生、インデックスをお願いします」
冥土返し「分かった。責任持って診させてもらうね?」
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:51:10.45 ID:3lA0f+2DO
<バタン……
冥土返し「さて……頭痛がひどいんだったね?」
インデックス「うん」
冥土返し「どんな風に痛いんだい?」
インデックス「こう……考えこむと頭にモヤがかかって……そのあとズキズキするんだよ」
冥土返し「なるほど……まずは喉を見せてもらっていいかい?」
インデックス「? こう?」クイッ
冥土返し「ううん。外側じゃなくて内側の方だ」
インデックス「?」
冥土返し「……えーと、大きく口を開けて?」
インデックス「ふぁい」アーン
冥土返し「ありがとう。ちょっと失礼」
インデックス「ふぁ」
冥土返し「どれどれ、扁桃腺は……」
インデックス「……?」
冥土返し「」
インデックス「………?」
冥土返し「」
インデックス「…………?」
冥土返し「……あ、ああ、もういいよ」
インデックス「ん。今ので何か分かったの?」
冥土返し「……十中八九分かったね?」
インデックス「! 本当!?」
冥土返し「ああ。でも、念のため精密検査だね?」
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/20(木) 23:53:23.84 ID:3lA0f+2DO
-数時間後
削板「先生! 何か分かったのか!?」
冥土返し「ああ、大体ね」
原谷「本当ですか?」
冥土返し「……魔術、だね? それもとびきり高度な」
横須賀「!」
原谷「!」
削板「!」
インデックス「あなた……魔術を知ってるの?」
冥土返し「僕は医者だね? 患者を救うためならどんな知識も吸収する」
横須賀「はは……さすがは先生。」
冥土返し「……その口振りだと君たちは魔術がかけられているってことは知ってたみたいだね?
まったく人が悪い。それならそうと先に教えてほしかったよ」
原谷「すいません。いきなり魔術がどうこう言っても受け入れてもらえないと思ったんで……」
冥土返し「それでも、医者としてはどんな些細なことでも教えてもらいたいね。突拍子もないことが原因となる病はいくらでもある」
削板「……スマン、先生。なら、俺たちの知ってることを全部話そう」
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:01:06.05 ID:tMvs6FNDO
冥土返し「……ふーむ……」
削板「……治せそうか? 先生」
冥土返し「……僕は医者だ。できない、とは言えないね?」
インデックス「本当に……?」
冥土返し「ああ。…まずは治療内容の説明をしようか」
そう言って【冥土返し】はいくつかのレントゲン写真を机に置いてあったディスプレイに映した。
それは主にインデックスの喉の映像。
しかし、そこには常人にはないものが映されていた。
272 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:02:04.16 ID:tMvs6FNDO
冥土返し「一応精密検査してみたけど、ルーンが刻まれてるのはこの喉の部分だけだ。だから…この部分を切除してしまえばいい」
横須賀「え?」
インデックス「わ、私の喉にルーンが!?」
原谷「その……ルーンってなんです?」
冥土返し「うーん、設置型魔術を発動させるためのマーク、で合ってる?」
インデックス「うん、機能に関してだけ簡単に言えばそんな感じかも」
削板「そういえばアイツらもルーンがどうこう言ってたな……」
冥土返し「で、そいつを切除してしまえばいいと思うんだけど……」
横須賀「……けど? なんだ?」
冥土返し「話を聞くとどうにも厄介なものらしいね? 正当な解除法以外で無理矢理取ろうとした場合、何が起こるか分からない」
原谷「なるほど……」
インデックス「……」
273 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:04:18.37 ID:tMvs6FNDO
削板「でも先生! このままじゃインデックスが!」
冥土返し「分かってる……期限は二日後の深夜。そうだね?」
横須賀「ああ。」
冥土返し「……分かった。なら、二日後の日没後に執刀する」
削板「今じゃないのか?」
冥土返し「僕にも少し時間がほしい。僕の理論に対する裏付けと
万が一に備えて被害が出ない場所の確保。そして、そこへの機材の搬入……やることがたくさんあるね?」
原谷「被害が出ない場所の確保って……そんなヤバい事態になる可能性があるんですか?」
冥土返し「……あくまでも万が一、だけどね?
こんな非人道的なことをしてまで保持しているんだ。その守りを崩そうとすればどうなるか分からない」
横須賀「……呆れたな。そんなモン生身の人間にブチ込む時点でイカれてやがる。神の教えも何もあったもんじゃないな。」
インデックス「ぅ……」
削板「おい」
横須賀「あ、イヤ……」
インデックス「……分かってるんだよ」
274 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:05:52.81 ID:tMvs6FNDO
冥土返し「……それじゃあ、君たちにも動いてもらうよ? できれば明日中に場所を確保してもらいたい。
条件としては……そうだね、なるべく広くて人がほとんどいないところ。最悪屋外でもかまわない」
削板「むう……なかなか難しいな」
横須賀「見つからなければ俺たちのシマを使えばいい。」
原谷「僕も学校のグラウンドか体育館を使えるか聞いてみます。事態が事態ですし」
削板「む、それなら俺の学校も聞いた方がいいな!」
横須賀「部活とかあるんじゃないのか?」
原谷「そっか、搬入の時間とか考えると何時間もかかかりますよね」
削板「うーむ、その辺は聞いてみんと分からないな……」
インデックス「……」
冥土返し「いいお友達だね? 君のためにこんなに真剣になってる」
インデックス「うん。本当に感謝しかないかも。それに、あなたにも」
冥土返し「僕はこれが仕事だからね。……さて、今日のところは解散してもらっていいかな?
この後も回診が控えてる。できることなら明日の夕方までに連絡してもらえると助かるね?」
原谷「あ、すいません。分かりました」
横須賀「無茶言ってすまなかったな、先生。」
削板「さっきまでの絶望的な状況とは大違いだ! 本当にありがとうな! 先生!!」
冥土返し「お礼を言うのはまだ早いね? 彼女の治療が完璧に終われば、その時受け取るよ」
インデックス「それでもやっぱり言いたいんだよ。ありがとう」
275 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:08:15.16 ID:tMvs6FNDO
-数分後、病院施設脇スポーツ公園
横須賀「さて、一旦解散でいいだろう。インデックスは削板の家に泊まるな?」
インデックス「うん!」
原谷「……削板さんなら過ちを犯す可能性皆無ですしね」
削板「何言ってんだ。過ちを犯さない人間などいないだろ」
原谷「そーゆーんじゃなくて……まあいいや」
削板「?」
横須賀「俺は明日の午前中は仲間のところに顔を出してくる。最悪の場合、俺たちのアジトを使うからな。」
原谷「僕も午前中の内に学校に聞きに行ってきます。午後から合流しましょう」
削板「わかった。俺もインデックスを連れていろいろ回ってみる」
インデックス「……みんな本当にありがとうね。いきなり押し掛けた私にこんなに協力してくれて……」
原谷「気にすることないよ。巻き込まれるのは慣れてるし」
横須賀「この【内臓潰し】の横須賀、困っている少女を見捨てるような真似はせん。」
削板「ハッハッハ! どうだインデックス! 俺もこいつらもそんじょそこらの連中とは根性が違うだろ!」
インデックス「うん! とっても頼もしいんだよ!」
原谷「…はは、ちょっとこそばゆいな」
横須賀「同じくだ。さて、そろそろ最終下校時刻だ。警備員に目をつけられると厄介だぞ。」
削板「む、まずいな! 帰るぞインデックス!」
インデックス「わ、待ってよぐんは! バイバイ、やぶみ! よこすか!」
276 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:09:45.36 ID:tMvs6FNDO
-英国、ヒースロー空港
神裂「ええ、分かっています。自分がどれほど身勝手なことを言っているのか」
神裂「かつて人の上に立った者の行為でも言葉でもありません。
こんなことをしても、あなた達が被害を回避できるか分からない」
神裂「……後生の頼みです。どうかなにも言わずに引き受けください、建宮」
神裂「……ありがとうございます。皆にはあなたから伝えてください」
神裂「これっきりです。……ええ、あなたにも神のご加護があらんことを」
277 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:11:12.50 ID:tMvs6FNDO
ステイル「大丈夫だったかい?」
広い空港ロビーとは切り離されて作られた喫煙スペースで、ローブに身を包んだ男がその日何本目かのタバコをくわえていた。
長い間待たせていたせいもあり、喫煙スペースでは換気が追い付かずに煙が少し籠もっている。
神裂「ええ。これより私は一介の魔術師です。天草式へは建宮を通して伝えました。万が一に備える時間はあるでしょう」
その魔術師の正面に長身の女性が一人。明らかに人の目を引くファッションで神妙な面持ちをしている。
ちなみに、彼女の愛刀は確実に空港関係者の目に止まってしまうため、然るべき魔術師用のルートで運ばれてくる。
学園都市の統括理事長が少しでも魔術に理解のある人間であったことが彼女たちにとっての僥光だった。
まさか、科学の総本山たる学園都市に魔術師用のルートが他国と同じように設置されていようとは。
278 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 00:14:16.70 ID:tMvs6FNDO
ステイル「そうか。これでもう後戻りはできないよ?」
言い終わると同時にステイルは肺に煙を溜め、神裂を見据える。
神裂「もとよりするつもりもありません。あなたもでしょう?」
ステイル「当然」
溜めこんだ煙と同時に決意を吐き出す。
今や2人に学園都市にいたころの迷いは微塵も存在しなかった。
神裂「……今から刀を受け取り、その後【最大主教】との面会の手続きを行い……
移動時間や帰りの便の本数を考えるとあまり時間はありませんね。お身体は?」
ステイル「もう大丈夫だ。どうせ帰りもアレだからね。まったく、これだから科学は……」
そう言ってステイルは短くなったタバコを自らの炎で焼き消した。
学園都市から英国。短時間で北半球を半周するための代償は身体への負担。
【聖人】である神裂はなんの問題もなかったが、ステイルにはかなりの苦痛だった。
神裂「……では、参りましょう。『ランベスの宮』……【最大主教】のもとへ」
285 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:05:39.33 ID:tMvs6FNDO
-学園都市、削板宅
削イン「「ごちそうさまでした」」
削板「うむ、根性ある晩飯だった!」
インデックス「朝もお昼もあまり食べてなかったからお腹ペコペコだったんだよ! とっても美味しかったかも!」
削板「ハッハッハ! なんせ俺が作った根性メシだからな! 売店のものとは訳が違う!」
インデックス「ぐんはの根性めしは世界一かも!」
削板「なんの! 俺の根性メシなどまだまだだ!」
インデックス「ぐんは以上の根性めしを作る人がいるの?」
削板「当然だ! 世界は広いからな!」
インデックス「いつか食べてみたいんだよ!」
286 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:06:28.71 ID:tMvs6FNDO
削板「うし、風呂も入ったし歯も磨いたし、そろそろ寝るか」
インデックス「そうだね。いろいろあって疲れたかも」
削板「じゃあインデックスはベッド使ってくれ。俺は布団を持ってくる」
インデックス「いいの?」
削板「俺はどっちで寝ようが変わらんからな。なんならお前が布団で寝るか?」
インデックス「んー、じゃあお言葉に甘えてベッドで寝るね」
削板「そうか。じゃ、電気消すぞ」
インデックス「うん。おやすみ、ぐんは」
287 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:07:37.12 ID:tMvs6FNDO
インデックス「……」
削板「……」
インデックス「……」
削板「……」
インデックス「……ぐんは」
削板「ん?」
インデックス「起きてる?」
削板「おう」
インデックス「……あのさ」
削板「うん?」
インデックス「仲直りって、できるかな?」
削板「……あいつらと、か?」
インデックス「うん」
削板「あんな目に遭ってきたのにあいつらを許すのか?」
インデックス「……それでも、私のことを親友って言ってくれた。ごめんなさいって言って泣いてくれた」
削板「……」
インデックス「それなのに、私はあの人たちのことを全部忘れちゃったから……きっとおあいこなんだよ」
削板「……」
インデックス「少なくとも私はそう思う……実際にはどっちかに天秤が傾いてるかもしれないけど」
288 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:09:29.18 ID:tMvs6FNDO
削板「……やっぱりお前は根性あるな。きっと俺よりもある」
インデックス「……ぐんはには勝てないかも」
削板「いや、ある。少なくとも俺がお前ならあいつらは許せない」
インデックス「……」
削板「自分やその周りを地獄の底に落としておいて何言ってやがるってのがあいつらへの本音だ」
インデックス「……そっか」
削板「……明日原谷やモツにも聞いてみろ。俺とは違う答えが返ってくるかもしれん」
インデックス「うん」
削板「じゃ、今度こそ寝るぞ。おやすみ、インデックス」
インデックス「……おやすみ、ぐんは」
289 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:11:43.34 ID:tMvs6FNDO
-英国、『ランベスの宮』内部
神裂とステイルの2人は『ランベスの宮』内部に来ていた。
普段一般公開されている間からさらに奥の間。【最大主教】の官邸である。
広さは縦横15m以上あるその荘厳な空間の玉座のような椅子に座しているのは【最大主教】ローラ=スチュアート。
見た目こそ18歳くらいのかわいらしい金髪の少女に見えるが『必要悪の教会』のトップでもあり、その実力は計り知れない。
ベージュ色の修道服に身を包んだ【最大主教】は纏めている長い金髪が地面すれすれになっているのもかまわず、神妙な面持ちをしていた。
ローラ「一体どうしたりけるの? 神裂、ステイル」
神裂「申し訳ありません【最大主教】」
ローラ「【禁書目録】は? まさか、学園都市に奪われたりや?」
ステイル「……我々はインデックスを匿った学園都市の連中と戦闘を行い、敗北を喫した」
ローラ「……協定違反よ! これは明らかに科学サイドの介入なり! 今すぐにでも学園都市に抗議を」
290 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:13:26.96 ID:tMvs6FNDO
ステイル「その後、我々はインデックスをその連中に託した」
ローラ「……なに?」
神裂「……【最大主教】、貴女はインデックスに何をしました?」
ローラ「…………なに、とは?」
ステイル「もっと言おうか。ボクと神裂とインデックス。この3人にどんな魔術をかけた?」
ローラ「……」
神裂「『完全記憶能力』をもっていようと、記憶を消す必要はない。……我々が学園都市で得た真実です」
ローラ『……何を言っている? 人間の脳は忘れるようにできている。そなたらとて一週間前の晩御飯の献立も覚えておるまい?』
ステイル「……」
ローラ『彼女はその脳の85%を魔導書に割きにけり。早く記憶を消さねば脳が破裂してしまう』
神裂「……」
ローラ「……これにて分かりにけりや? さ、早く【禁書目録】を……」
291 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:14:25.71 ID:tMvs6FNDO
ステイル「……なるほど、『呪言』の一種か」
ローラ「!」
神裂「言の葉一つ一つに呪を乗せて……そうだと分かっていなければ気付かぬうちに洗脳される」
ローラ「……」
ステイル「生憎、僕らにそれはもう通じない。ここに来るまでに頭の中で矛盾点を徹底的に糾弾してきた」
神裂「……時間がないのはあなたも承知でしょう。早く吐いてください。インデックスにかけた術式、その解除法を」
ローラ「……はて、二人とも何を」
292 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:15:26.22 ID:tMvs6FNDO
ジャキリ、とローラ・スチュアートの首に日本刀と炎剣が突き付けられる。
ローラ「!」
神裂「これ以上シラを切るな」
ステイル「吐かされたいならそれでもかまわない。ボクは貴様を燃え散らしたくてしょうがないんだ」
ローラ「……なぜそんなに焦りにけりや? 時間がないなら【禁書目録】の記憶を先に消せばよかろう」
神裂「……」
ローラ「それからゆっくり調べればよいものを……。アレに残っているそなたらの記憶はろくなものではなかろうに」
ステイル「……」
ローラ「ならば忌々しき記憶は消すが上策。違いにけりや?」
293 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:16:22.36 ID:tMvs6FNDO
神裂「……るっせぇんだよこのド素人が!!」
ローラ「な!?」
ステイル「なんにも分かってないね。僕たちは彼女に恨まれていたいんだよ」
ローラ「なんと……?」
神裂「私たちの犯した罪は決してうやむやにしていいものではない!」
ステイル「あんなことをしてきて、彼女の隣に立とうなんて図太い神経は持ち合わせていないんだよ」
神裂「そして彼女には今! 立派な仲間がいる!」
ステイル「その仲間との記憶を消してなるものか! 悲劇はもう起こさせない! それが今まで彼女の記憶を消してきたボクらのけじめだ!」
294 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/21(金) 21:17:41.73 ID:tMvs6FNDO
ローラ「……そう。もはや私が吐くまでここを離れるつもりはない、と?」
神裂「ええ」
ローラ「私に刃を向けること。それが何を意味するか分こうているのかしら?」
ステイル「組織に追われようがかまわない。今さら保身なんか気にするとでも思っているのか?」
ローラ「組織に追われる? それ以前の問題なりし」
ブアッ!! とローラの身体から見えない何かが生じた。
その衝撃により神裂とステイルは吹き飛ばされる。
神裂「くっ!」
ステイル「チッ……」
ローラ「この私を力でどうこうできると思うているの?」
305 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 21:56:48.23 ID:GuFbb15DO
「……」
「おや、こっちもか。意気消沈なんてお前には似合わないけど」
「……妹はどうした?」
「大絶賛引きこもり中だ。あの歳であんな地獄を経験すればそうなってもおかしくはないけど。
おまけに学校から来ている『落第防止』の名前が『木原』ときた。あいつもなかなかに神様に嫌われている」
「……あいつらは?」
「……他の理事会メンバーに『保護』されたようだ。私たちと同じ待遇をされていると願うしかない」
「……俺の、せいだ」
「お前の『おかげで』逃げ出したメンバーの8割が人並みの生活を手に入れた。違うか?」
「地獄の底に置いてきたヤツらがいるってのが問題だろうが。俺の根性が足りなかったせいだ」
「釈迦やキリストでもすべてを余すことなく救うことはできなかった。
たかだか学園都市のイレギュラーごときがすべてを救おうというのがおこがましいけど」
「……それでも、あいつらを引きずってでも連れていく根性があれば……」
306 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 21:59:10.38 ID:GuFbb15DO
「面白いことを言うな、君は」
「! 貝積のおっさん……」
「私に言わせれば君にもここにいない者にも根性があった。ただ、根性と言ってもいろいろある」
「……?」
「『悪を滅ぼす』根性があれば『平和を生み出す』根性があり、『突破する』根性があれば『耐えぬく』根性がある」
「……」
「様々な根性があるが……後悔にまみれて動かないのは根性なしだと思うぞ?」
「!」
「……君の根性はすでに1級品だ。だが、見方が単一だ。君以外の根性を根性と認めていない」
「俺以外の……」
「人間の精神はすべて異なる。同じように根性も人それぞれ。
状況に向き不向きがあるし、だからと言ってそれは優劣にはならない」
「……」
307 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:00:33.69 ID:GuFbb15DO
「だから君はこんなところでくすぶってちゃいけない。根性ある仲間を救わねば。そうだろう?」
「……ハハ」
「相手は私と同じ立場。だからこそ、私ならある程度気を逸らすことができる。その他諸々のバックアップも任せなさい」
「はて、それだとあなたにはリスクしか残らないと思うけど」
「気にするな。前からいけすかなかったんだ、ヤツは。
挑発して扇動して揺さ振った後は何食わぬ顔して我関せずを振る舞ってみせるさ」
「ハッハッハ! いいのか貝積のおっさん! それなら俺は力の限り暴れるぞ!」
「かまわん! なくした根性を取り戻せ!」
「ふっ、面白い。私も1枚噛ませろ」
「おっ! お前もくるか!?」
「馬鹿言え。私はお前と違う根性を披露する。たった今根性は1つでないと言われたはずだけど。
……どのみち、ここで泣き寝入りするようなら私も根性なしの仲間入りだ。私とてやられっぱなしは性に合わん」
「上等! 俺も負けてられんな! とびきりの根性を見せてやる!」
308 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:02:45.86 ID:GuFbb15DO
-翌朝、削板宅
削板「…489、490…」
インデックス「……ぐんは?」
削板「499、500! ふぅ。お、おはようインデックス!」
インデックス「うん、おはよう。何してるの?」
削板「見ての通り腕立てだ! 寝覚めがよかったからな!」
インデックス「ふぅん」
削板「今朝メシ作るからな! ちょっと待ってろ!」
インデックス「分かった。……あれ?」
削板「ん?」
インデックス「こんなにいっぱい野菜やお魚あったっけ?」
削板「おう。朝起きて安く仕入れてきた」
インデックス「? 日本のお店はそんなに朝早くからやってたっけ?」
削板「店っていうか市場だな! セリの残りを安く買い叩いてきた!」
インデックス「?」
削板「あそこはいいぞ! 活気があるし根性ある漢がたくさんいる!
箱単位で売ってくれるから帰りは荷物背負って帰れてトレーニングにもなるしな!」
インデックス「走って行ったの?」
削板「おう! いくつか学区を跨いだところにあるからな」
インデックス「……ぐんは今日何時に起きたの?」
削板「4時半だな! そっからトレーニングして市場行ってまたトレーニングだ!」
インデックス「」
309 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:04:17.17 ID:GuFbb15DO
-数時間後、第七学区某高校教務室
削板とインデックスは削板の通っている学校に訪れていた。
別段有名校というわけでもなく、普通の学校である。
Level5ともなれば進学先は引く手あまただったが、削板はそんなものに興味はなかった。
むしろ、
エリート校など肌に合わん!
と、特待生枠をすべて蹴って一般入試で今の高校に入学した。
削板を呼ぼうとしていた学校側も
Level5は欲しいが研究対象としてどうしようもないものに労力を割いても仕方がない
と、しつこく勧誘する真似はしなかった。
そして、削板は自身の担任に明日の体育館かグラウンドの使用許可を得るべく直談判をしていた。
削板「ダメか? 先生」
教師「んーむ、ちょっと厳しいな」
インデックス「そこをなんとかお願いしたいんだよ」
教師「もうちょい前もって言ってくれればなんとかなったんだがなぁ……というかキミ誰?」
インデックス「私の名前はインデックスって言うんだよ!」
教師「……? まあいいか」
310 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:05:32.11 ID:GuFbb15DO
削板「どうしてもムリか?」
教師「めったにない軍覇の頼みだ。なんとか聞いてやりたいが……
どっちも部活動で使用してるんだ。どこもかしこも新人戦に向けて猛練習してるから多分ムリだぞ」
削板「そうか……」
教師「にしたって一体何をするんだ? 体育館やグラウンドを貸し切りたいなんて」
削板「手術だ」
教師「……相変わらずまあ、なんというか……」
削板「?」
教師「とりあえずちゃんと最初から話せ」
311 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:06:40.33 ID:GuFbb15DO
教師「……要するに、明日の夕方に病院じゃできない手術をするからスペースを確保したい、と」
削板「そうだ」
インデックス「お願いします」
教師「……病院でやれない手術ってなんなんだ、と言いたいところだが」
削板「だが?」
教師「またそれも人助けの一貫なんだろ?」
削板「ああ。なんせ患者はこいつだからな」
インデックス「そうなんだよ」
教師「……よっしゃ、やるだけやってみっか」
削板「!」
インデックス「本当!?」
教師「ああ、だが上手くいくか分からんぞ?」
削板「掛け合ってくれるだけで十分だ、先生!」
教師「そうか。なら、すべての顧問の先生に聞いたらお前に報告しよう」
削板「分かった! ありがとうな、先生!」
インデックス「私からも! ありがとうなんだよ!」
312 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:08:33.25 ID:GuFbb15DO
-昼過ぎ、第七学区駅前
原谷「すいません、お待たせしました」
横須賀「来たか。」
インデックス「遅いんだよ!」
削板「どうだった?」
原谷「ダメですね。危うく精神病棟に連れていかれるところでした」
横須賀「……お前魔術のことそのまま言ったのか?」
原谷「だって理由誤魔化そうとしてもちゃんと言えってしつこいんですもん」
インデックス「まったく! この街はおかしいんだよ! 超能力は信じて魔術は信じないなんて!」
原谷「科学的に証明できるものならなんでも信じるんだけどね」
削板「おい、俺はどうなる」
原谷「信じられない存在ですかね、いろんなニュアンスで」
313 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:09:41.60 ID:GuFbb15DO
横須賀「俺の方はなんとかいけそうだ。だが、できることならあまり使いたくない。」
原谷「どうしてです?」
横須賀「新たにアジトを構えるとなると他のスキルアウトどもとの兼ね合いが面倒でな。
シマ争いに発展する可能性もある。何より衛生面では決してキレイとは言えないところだ。」
インデックス「……それならよこすかのところは考えない方がいいかも。
私のせいで縄張り争いが起きるんでしょ? これ以上迷惑かけられないんだよ」
横須賀「それなら保険だと思えばいい。最悪の可能性がなくなっただけマシだろう。」
削板「もしそうなったら俺を呼べ! 借りは返すぞ!」
横須賀「パワーバランスが崩れそうだが……最悪頼むかもしれん。」
314 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:10:37.95 ID:GuFbb15DO
削板「俺の学校は俺の担任の先生が今交渉中だ! その結果次第だな!」
原谷「じゃあ1番期待できそうなのはそこですかね」
削板「そうなるな!」
インデックス「あの先生とってもいい先生だったんだよ! きっと相当根性あるかも!」
削板「当然だ! 俺の担任だからな!」
横須賀「ほう。今どき珍しいな。」
削板「何言ってんだ! 警備員にも根性ある教師はたくさんいるだろう!」
横須賀「……手塩とか黄泉川とかな。あのあたりは本気でシャレにならん。」
315 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:11:49.56 ID:GuFbb15DO
原谷「さて、お互い報告も終わったことだしどっかメシ行きますか。皆さんもう食べました?」
削板「イヤ、まだだ!」
横須賀「同じく。」
インデックス「お腹ペコペコなんだよ!」
原谷「じゃあ、ラーメンでも行きますか。ちょうどお誂え向きのチラシもらったんですよ」
削板「お誂え向き?」
横須賀「……これか。『富士山盛りドデカラーメン! 20分で食べられたらなんと無料!』」
インデックス「無料で食べさせてくれるの!? 気前のいいお店だね!」
原谷「……そうだね。あ、ボクは普通サイズ食べるんで。皆さんで、どうぞ」
316 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/23(日) 22:11:58.63 ID:00RO8YHHo
この1には書き抜く根性があるはずだ!
317 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:13:27.48 ID:GuFbb15DO
-数分後、駅前大通りラーメン屋
店長「ご注文お決まりですかぁ!?」
原谷「あ、じゃあ味玉ラーメンで」
横須賀「富士山盛りドデカラーメン。」
削板「富士山盛りドデカラーメン!」
インデックス「富士山盛りドデカラーメン!」
店長「味玉1丁と富士山3丁! ってお嬢ちゃん富士山挑戦するの?」
インデックス「当然なんだよ!」
店長「やめた方がいいよ? ウチ食べ残しは1・5倍の料金もらうことになってるから」
インデックス「失敬なんだよ! 神の恵みである食物を残すなんて冒涜をするはずないかも!」
削板「そうだ! インデックスはそんな腐った根性してないぞ!」
店長「……後悔しても知らないよ?」
原谷「すいません、それわりとこっちのセリフです」
横須賀「いいから持ってきてくれ。」
店長「……味玉1丁と富士山3丁入りまーす!!」
318 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:14:50.08 ID:GuFbb15DO
削板「まったく! インデックスの根性をナメてるな!」
原谷「親切から出たリアクションなんでしょうけどね」
横須賀「たしかにな。」
インデックス「……ねえ、やぶみ、よこすか」
原谷「ん?」
横須賀「なんだ?」
インデックス「ちょうどいいからちょっと質問していい?」
原谷「質問?」
削板「……昨日のことか?」
インデックス「うん」
横須賀「ふむ、いいぞ。一体なんだ?」
319 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:17:22.69 ID:GuFbb15DO
原谷「仲直りはできるか?」
インデックス「うん……」
横須賀「魔術師どもと、か?」
インデックス「そうだよ」
原谷「んー、できないことないんじゃない?」
インデックス「!」
削板「ほう……」
横須賀「だな。俺も同じ意見だ。」
インデックス「で、でも、どうやって?」
原谷「やっぱ話し合い? かな? 僕と横須賀さんもそれで和解したし」
インデックス「!?」
横須賀「ああ、そうだったな。」
インデックス「2人は……ケンカしてたの?」
原谷「ケンカっていうか……初対面がカツアゲした側とされた側だからね」
インデックス「え!? それってよこすかがやぶみをってこと!?」
横須賀「逆があり得ると思うか? まあ、正しくはカツアゲしてたのは俺の舎弟たちだが。」
原谷「そこを削板さんが助けてくれて、それから削板さんとよく遊ぶようになったんだけど、なぜか横須賀さんも入ってきてさ」
横須賀「やられっぱなしでは気が済まんからな。」
原谷「僕としては顔怖いし身体デカいしカツアゲしてきたスキルアウトのリーダーだしで恐怖の対象でしかなかったんだけどね」
横須賀「俺もヒョロい学生としか思ってなかったな。」
原谷「でも、意外と話してみたら気が合ってさ」
横須賀「1時間半に渡る討論の末『メインヒロインはドロシー』という結論に達し、俺がカツアゲの件を謝罪して和解した。」
インデックス「ドロ……だれ?」
原谷「1番の乙女だね」
横須賀「戦闘面でも確実にメインヒロインだったな。」
インデックス「?」
320 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:20:03.04 ID:GuFbb15DO
削板「……」
原谷「ま、インデックスの件はもっと複雑で深い問題だけどさ、本質は一緒じゃないかな。
とりあえずお互いに顔突き合わせて話し合ってみれば少しは分かりあえるんじゃない?」
横須賀「無論、話せる状況になってからだがな。」
インデックス「うん……うん! そうだね! 分かったんだよ!」
店長「ヘイ、味玉1丁と富士山3丁お待ち!」
原谷「お、きたきた」
横須賀「一旦固い話は終了だ。かっくらうぞ!」
削板「……だな! なかなか根性あるサイズだ!」
インデックス「うん! 美味しそうなんだよ!」
店長「それでは今から20分です! はりきってチャレンジしてくださーい!」
原横イン削「「「「いただきます!」」」」
-10分後
原谷「ごちそうさまでした」
横須賀「おかわり!」
削板「おかわり!」
インデックス「おかわり!」
店長「ファッ!?」
321 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:24:31.79 ID:GuFbb15DO
-英国、『ランベスの宮』
ステイル「く…そ……っ!」
神裂「分かってはいましたが……ここまでとは……っ!」
戦いはじめてから何時間が経過しただろうか。
もはや『ランベスの宮』にかつての荘厳さはない。
あちこちが割れ、砕け、焼け焦げてしまっていた。
その中で二人の魔術師はいたるところから血を流し、膝をついていた。
対して、彼らの相手は
ローラ「んふふ。この場で私を相手にしてまだ生きているとは流石なり」
多少なりとも息を切らしているが未だ健在。
彼らの前に立ち、右手に長い金色の杖を持ち、たっぷりと余裕を見せて彼らを見下ろす。
ローラ「いい加減諦めたらどうなの? 今なら極刑を勘弁してあげるくらいなら考えてやってもよくてよ」
神裂「……誰が! 諦めるはずないでしょう!」
ステイル「……この程度で音を上げるほど弱い精神は持ってないんだよ。誰かさんたちに拳で鍛えられたおかげでね!」
二人の目に再び闘志が灯る。
刀に手をかけ、炎をその手に生み出し、身構える。
世界に20人といない【聖人】である神裂火織の戦闘能力。
『ランベスの宮』で万が一戦闘が起きた場合に備え、警護役であったステイル=マグヌスが元来配置していたルーン術式の数々。
これらを同時に相手取り、勝てる者などまず存在しない。
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:27:55.62 ID:GuFbb15DO
ただし、ここが『ランベスの宮』で相手が【最大主教】ローラ=スチュアートであれば話は別だ。
ローラ「無駄だと言っておろうに」
ローラ=スチュアートがその左手を振るう。
たったそれだけで刀に置いた手は弾かれ、炎は消失する。
神裂「っ、また…」
ステイル「くそっ!」
ステイルのルーン術式以上に、ここはローラ=スチュアートの領域で、彼女を守るために作られた場なのだ。
【最大主教】として『イギリス清教』を統率し『必要悪の教会』のトップとして君臨する者が150%の力を出せる場で戦っている。
むしろ、神裂とステイルでなければとうの昔に塵芥となっているだろう。
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:33:26.83 ID:GuFbb15DO
ローラ「今一度冷静になりや。お前たちはここで時間を無駄に費やしてよいのかしら?」
神裂「……」
ローラ「こうしている今ですら、刻一刻と【禁書目録】のリミットは迫っている。刻限に遅れた場合、二度とアレは目を覚まさない」
ステイル「……」
ローラ「勝ち目のない戦いを挑み、そのせいで【禁書目録】はその命を失う。
……救われぬ者に救いの手すら差し伸べずに何が【聖人】だというの?」
神裂「……あなたが、それをっ……!」
ローラ「……それに、気付かぬの? ステイル」
ステイル「……!」
瞬間、ステイルの顔が青ざめる。
目を見開き、絶望した表情で扉の方向を振り向く。
神裂「ステイル……?」
相方の豹変ぶりに、神裂は思わずそちらに目を向ける。
長髪のせいであまり見えはしないが、血ではなく冷や汗が彼を頬を伝った気がした。
ステイル「……『人払い』の術式が破られた。小規模集団がこちらに向かってきている!」
神裂「なっ!?」
そして、ステイルの判断を裏付けるようにバタバタという音が扉の向こうからどんどん近づいてくる。
万事休す。『人払い』を破られたなら今に『イギリス清教』の人間が続々と押し寄せるだろう。
そうなれば二人は捕らえられ、まず幽閉は間違いない。
すなわち、インデックスを救うことはかなわない。
ローラ「……終わりなり。学園都市には新しい人材を派遣しけるにつき、たっぷり責め苦にあいたまへ」
324 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:34:33.57 ID:GuFbb15DO
バコォン! と扉が吹き飛ぶ。それとほぼ同時に見えたのは三又の槍の矛先だった。
神裂「え?」
しかし、その矛先はステイルたちに向くことはなかった。
???「でやあああああああああああああ!!」
槍の持ち主は足を止めずに【最大主教】ローラ=スチュアートへと突き進む。
ローラ「なっ?」
一瞬にしてローラ=スチュアートは狐につままれたような、呆気に取られた表情になった。
しかし、それでも一直線に突き進む少女を躱すことは容易く、ひらりと身を翻した。
???「ああああああぁぁぁぁぁぁ……!?」
すると、槍を構えて突き進んでいた少女は勢い余って部屋の奥まで突っ切ってしまい、盛大に壁に激突した。
どぉん、と音がこだまする中で、先ほどまで激しい戦闘を繰り広げていた3人は訳が分からず硬直していた。
ステイル「彼女は…確か……?」
3人の目はその少女に釘付けとなる。
全員が全員無防備だというのに、戦闘が再開される気配はまったくなかった。
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:35:50.92 ID:GuFbb15DO
???「遅れを取るな! 五和に続けぇ!!」
男の声が『ランベスの宮』に響き渡る。
次いで間髪入れずに武器を携行した十人前後の老若男女が、一斉に扉があった場所からローラに向かって突撃していく。
ローラ「……なるほど、そう来たりけるか」
スチャ、とローラ=スチュアートが杖を構える。
それでも老若男女の集団は止まることも怯むこともなかった。
神裂「そんな……なんで……!」
その光景を神裂は今にも泣き出しそうな顔で見ていた。
???「おう、無事かい? ご両人」
先ほどの声の主が遅れてゆっくりと室内に入り、血を流して膝を着いていた二人に声をかける。
その男はかつての神裂の仲間。クワガタ頭の元教皇代理。
建宮「おーおー情けないツラしちまって。何やってんのよな」
『天草式十字清教』の正式な【教皇】。建宮斎字。
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:38:08.31 ID:GuFbb15DO
神裂「建宮、あなた、なんて馬鹿な真似をしてるんですか!!」
神裂が立ち上がり激昂する。
当たり前だ。これではなんのために自分が『天草式』に警告したのか分からないではないか。
建宮「はっ、こっちのセリフなのよな。たかだか一介の魔術師が【教皇】相手になんて口の利き方だ」
しかし、クワガタ頭の方はまったく悪怯れた様子はない。
呆れた様子でとんとんと自分の肩を巨大なフランベルジェの面で叩いていた。
建宮「『天草式』の現在の正式な【教皇】は俺。その座を放棄して出ていった馬鹿に俺の指揮について口出しされたくないのよなぁ」
神裂「それは……ですが……!」
ステイル「……『人払い』を破ったの君たちなのかい?」
建宮「ん? おお。だが、破った直後にここにいない天草式のメンバー全員でルーンを張り直した。
誰にもバレてないし、お前さんがこれ以上『人払い』に魔力を割く必要もない。安心してほしいのよな」
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/06/23(日) 22:39:54.59 ID:q0IGuoUg0
建宮かっけえ!
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:40:31.63 ID:GuFbb15DO
ヒュッ、と何かが建宮の前に現れる。
建宮「むおっ! とぉ……!」
ギィン!! と金属がぶつかり合う音が響く。
建宮のフランベルジェとローラの杖がぶつかったのだ。
ローラ「一体どういうつもりなりや? 建宮斎字」
建宮「お、おお。まさか【最大主教】に顔を覚えてもらっていたとは。光栄なのよな」
ギギギ、と二人はそのままつばぜり合いに移行する。
だが、あらゆる魔術と霊装で強化され、保護されている彼女の力に建宮が勝てるはずもない。
一瞬にしてつばぜり合いの均衡は破られる。
神裂「このっ!」
しかし、ローラに押し切られる前に神裂が横から刀を振るう。
【聖人】の刀を避けるべくローラは建宮のフランベルジェを弾き、大きく後ろへ飛び退いた。
ローラ「……『イギリス清教』への謀反。その結末がどうなるか分からぬほど馬鹿ではなかろうに……」
建宮「当然です。だが、ここであなたに立ち向かわなければどのみち『天草式十字凄教』は潰れちまうのよな」
神裂「え…?」
ローラ「ほう…?」
建宮「我ら『天草式十字凄教』はとあるお方の教えを教義として掲げております。
その教義に反してしまえば、我々はもはや『天草式十字凄教』でなくなってしまう」
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:45:57.65 ID:GuFbb15DO
建宮「『救われぬ者に救いの手を』
……目の前にこんなにも救われない馬鹿が二人もいんのに! 見て見ぬフリをする訳にはいかんのよなぁ!!」
神裂「建宮っ……!」
ローラ「……威勢のよきこと。だが、この惨状を前にしてよくそんなセリフが吐けたものなり」
ス、とローラが杖を壁に向ける。
その先にはすでにやられた『天草式十字凄教』の面々がぐったりと横たわっていた。
ローラ「お前たちは助太刀に来たのかも知れねど、戦力的に見ればどう見てもマイナス要因。
そこのお優しい【聖人】様はお前たちが死なぬように身を挺するだけで戦闘にすらならぬ。
お前たちが来たせいで戦力差は逆に大きく開いてしまいにけり。ここからどうやって私に勝つと言うの?」
見下すようにローラは淡々と言葉をぶつける。しかし、その分析は正確だ。
現に『天草式』の信徒だけでは足止めにすらなっていない。
まだ息こそあるが、その気になればとどめをさすことなどいつでもできる。
それをしないのは神裂の動きを止めるため。彼女は仲間が目の前で殺されることを許さない。許せない。
だからこそ敵を討ち取るよりも仲間を守ることを優先するだろう。
ステイル「くっ……」
そうなれば実質的な戦力はステイルのみ。彼一人でローラ=スチュアートを討ち取ることはまず不可能だ。
【聖人】という強大な戦力がいてようやく対等、否、それでもローラ=スチュアートには及ばないのだから。
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:50:34.58 ID:GuFbb15DO
だが、建宮は動じない。むしろ、クツクツと笑いをこらえていた。
ローラ「……何がおかしい」
建宮「御生憎様、なのよな。俺はそこまで感情で動くような馬鹿じゃない。
しっかりとした勝算がなきゃ、こんな場違いな戦場にノコノコ顔を出したりしないのよな」
ぐ、と建宮は自分の首にかけられている細い鎖をつかんだ。
それを引っ張ると彼のTシャツの中から何かが出てきた。
ローラ「!」
建宮「コイツぁ【女教皇様】じゃ決して使えない。『天草式十字凄教』の【教皇】、かつ、男子にのみ許された霊装」
鎖につながれていたものは、古びたカラフルなガラスの杯。
その杯には通常のものよりも少し大きな卵がいれられていた。
杯から上半分が見えるほどの大きさであり、杯の大きさはワイングラスほどある。
331 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/23(日) 22:53:46.44 ID:GuFbb15DO
ピシリ、と卵にヒビが入る。
それから数瞬遅れてふいにどこか遠くから歌声が聞こえてきた。
建宮「戦力差が出ることはむしろ俺の狙い通り。圧倒的な戦力差があってはじめてこの霊装は力を発揮する」
最初は遠い歌声。しかし次第に歌声は声量を増し、膨れ上がっていく。
聞こえてくる歌声は老若男女数百人による大合唱。
その歌声に優美さはまったくない。ソプラノやテノールにパート化されている訳でもない。
だが、その代わりに泥臭さが、明るさが、力強さがこれでもかとばかりに伝わってくる。
333 :
訂正 [saga]:2013/06/23(日) 22:56:29.22 ID:GuFbb15DO
ステイル「!」
神裂「これは……!」
その歌声を聞いた瞬間、ステイルと神裂に異変が生じる。
死闘の末、二人の身体はすでに満身創痍だ。その傷を一瞬で治すことはどんな魔術でも不可能。
しかし、身体ではなく代わりに心が回復していく。
心の底から気力が沸き上がってくる。痛みも疲れも脳内から吹き飛んでいく。
まだ動ける。まだ立てる。まだ頑張れる。まだ戦える。まだ何も終わってはいない。
まだ、救える。
建宮「『天草式十字凄教』教祖、天草四郎時貞が生み出した卵。
その奇跡は更なる奇跡を生み、押し寄せる大軍の猛攻に耐え続け、ついには総大将を討ち取った」
むくり、むくり、と倒されたはずの『天草式』の信徒が次々に立ち上がる。
その全員の目には闘志と希望が宿っていた。
建宮「さあ! 400年前の奇跡! 異国の地にて再び起こしてみせるのよなあ!!」
352 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:41:06.17 ID:a4S5OK7DO
-学園都市、第七学区駅前大通り
削板「はっはっは! さすがに腹いっぱいだな!」
インデックス「あんなにいっぱい食べたのに 『お代はいりません』 なんて本当に気前がよかったね!」
横須賀「新記録更新どころか殿堂入りらしいからな……うぷ、食い過ぎた……。」
原谷「当たり前ですよ。食没でも極めてたんですかアンタら。
つーかよくインデックスは箸であんなパクパクいけたね」
インデックス「? チョップスティックで食べてもフォークで食べても食べる量は変わらないよ?」
原谷「イヤ、そうじゃなくてイギリス生まれでよくそんな簡単に箸で食べれたねって話」
インデックス「……?」
横須賀「そりゃ1年も日本で生活していれば自然と身につくだろう。っぷ、気持ちわりぃ。」
削板「どうしたモツ! あの程度の量に音を上げるような根性しとらんだろう!」
横須賀「だから吐いてないだろう。まだ俺の胃袋は負けとらんぞ。」
原谷「限界ギリギリじゃないですか。【内臓潰し】が自分の内臓潰してどうすんですか」
353 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:43:06.77 ID:a4S5OK7DO
<ワスレテタマルモンカヨ! ボクガボクジャナクナッタラ-♪
インデックス「? 誰か歌ってる?」
原谷「じゃなくて、ケータイの着信だね。横須賀さんですか?」
横須賀「俺じゃないな。削板だろう。」
削板「お、先生からだ。もしもし?」
教師『おう、軍覇か? 例の件、グラウンドだけならなんとかなったぞ』
削板「! 本当か!? 先生!」
教師『ああ、お前やっぱ男連中には人気あるみたいでな。野球部もサッカー部も陸上部も了承してくれたぞ』
削板「ありがてぇ! あとでちゃんと礼を言わんとな!」
教師『ただ、お前なぜか女子からはそうでもないみたいでな。
女バスと女バレが了承しないから体育館は使えない。ソフト部もダメだったからグラウンドも午前中は半面しか使えないぞ』
削板「そうか……無理言ってんのはこっちだからな。仕方ないか」
354 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:45:00.84 ID:a4S5OK7DO
教師『そうだな。だが、校長の方にも了承とれたからグラウンドの方は問題ない。
それとお前の話聞いた限りだと、夜にその問題の手術を始めるんだよな?』
削板「ああ、その通りだ」
教師『お前それだと次の日まで機材やらなんやらグラウンドに置きっぱなしだろ? 1日だけでいいのか?』
削板「……あ」
教師『だろうと思ったよ。陸上部の女子がちょっと文句言ってたが、一応次の日の午前中も借りておいたぞ』
削板「ホントか!? さすが先生!」
教師『生徒が人助けしたいっつってんだ。全力でバックアップしてやんのが教師の務めだろ』
削板「はっはっは! やっぱり見本のような根性してるな! 先生!」
教師『ま、お前の人望のおかげで全部上手くいったからこんな大口叩けるんだけどな。
実際は俺は仲介になっただけで、ほとんどお前の手柄と言っても過言じゃないぞ』
削板「そんなことないだろう! この件は完全に先生のおかげだ!」
教師『はっは。嬉しいこと言ってくれるな。……しっかりあの女の子の面倒みてやれよ』
削板「おう! 任せろ!」
355 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:46:07.43 ID:a4S5OK7DO
原谷「なんでしたか?」
削板「先生の交渉が上手くいった! これで場所は確保できたぞ!」
インデックス「! 本当!?」
削板「おう! さすが先生だ!」
横須賀「これで第一関門は突破か。業者の手配などがあるだろうから早目に伝えた方がいいだろう。」
削板「だな! 病院に行くぞ! モツは病院の先生に連絡とっておいてくれ!」
356 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:55:27.51 ID:a4S5OK7DO
-数十分後、第七学区とある病院
冥土返し「そうか、あそこ学校か」
削板「ああ! グラウンドだが大丈夫か?」
冥土返し「構わないよ。搬送する機材が少し増えるだけだ」
原谷「先生の方はいいんですか?」
冥土返し「うん? 僕かい?」
横須賀「理論に対する裏付けが欲しいとか言っていただろう。」
冥土返し「ああ、そのことか。一応裏付けはとれたよ。とある専門家に聞いてきた。方法としては悪くないそうだ」
インデックス「え? この街に魔術の専門家がいるの?」
冥土返し「ああ。信用できる人物だと僕は思っている。ただ……」
削板「ただ?」
冥土返し「その人の話だと、やっぱり万が一が起きた時が厄介な事態になりそうでね。できることなら周りに人がいない方がいいそうだ」
原谷「……つまり、関係ない人を学校周辺に近付けるなってことですか?」
冥土返し「そうなるね?」
横須賀「……厄介だな。人海戦術で辺り一帯を封鎖するのがベストだが……
俺の舎弟たちでは夜に集まった時点で警備員が騒ぎかねん。そもそも通路の封鎖など上の権力がなければできんぞ。」
冥土返し「まあ、これはできることならって範囲だからね? 無理なら無理でかまわないよ」
インデックス「……『人払い』ができればいいんだけど……この中に魔術を使える人はいないし……」
357 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:56:15.97 ID:a4S5OK7DO
削板「うーん……」
冥土返し「とりあえず、午前中はグラウンドの半分だけだったね?
その間に粗方の搬入を終わらせて、午後にセッティングを終わらせよう。君たちは5時までにグラウンドに来てほしい」
原谷「分かりました。何から何までありがとうございます」
冥土返し「何度も言うけど、僕は医者だからね? 当然のことだよ」
インデックス「それでもやっぱり、ありがとうございます。なんだよ!」
358 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:57:48.71 ID:a4S5OK7DO
-数分後、病院施設脇スポーツ公園
横須賀「さて、これで準備はほぼ万端なわけだが……」
原谷「だが? なんです?」
横須賀「何を難しい顔をしているんだ? 削板」
削板「……イヤ、さっきの周りに人を、ってのでな……」
インデックス「……でも、魔術も使えないのに人を寄せ付けないようにするなんてできるの?」
原谷「ダメ元で警備員に頼んでみますか? 門前払いがオチな気もしますけど」
削板「イヤ、そうじゃねえんだ。もっといい方法があるんだが……」
横須賀「ほう? ならなぜためらう。」
削板「……権力に頼るってのがな……どうも根性なしみたいで好きじゃねえんだ」
インデックス「権力?」
原谷「Level5の特権でもあるんですか?」
削板「Level5にそんなものはない。もっと別なものだ」
359 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 22:59:06.35 ID:a4S5OK7DO
横須賀「ふん。そんなもの、とっとと頼みこむべきだろう。」
削板「モツ……?」
横須賀「その判断のせいで巻き添えを食う人間がいるかもしれんのだぞ?
なんの関係もない一般人の日常をお前の好き嫌いのせいで奪うのか?」
削板「……そうか、そうだな。そんなわけにはいかん」
横須賀「なら、とっとと頼みこめ。打てる手はすべて打っておくべきだろう。」
削板「ああ」
原谷「……ホント、たまにスゴいいいこと言いますよね」
横須賀「たまにか?」
インデックス「でもぐんは、誰に頼むの?」
360 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:00:32.10 ID:a4S5OK7DO
-1時間後、第五学区ファミレス
削板たちは第七学区と隣接している第五学区に向かい、とある人物と待ち合わせた。
また、とある人物の指定により広い個室のあるファミレスに入って待ち合わせることとなった。
そのとある人物とは
雲川「で、私に泣き付いてきたわけか」
学園都市統括理事会のブレインを若くして務める女子高生。雲川芹亜。
361 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:01:27.06 ID:a4S5OK7DO
削板「そういうことだ」
雲川「教会がどうこう言っていたからもしかしたらとは思っていたけど……なんでもかんでも顔を突っ込むな、お前は」
原谷(……横須賀さん、誰ですか? アレ)ヒソヒソ
横須賀(知らん。だが、超高校生級だな。)ヒソヒソ
原谷(? そりゃまあ削板さんが権力に頼るって言って出てきた人ですから)ヒソヒソ
横須賀(……なるほど、権力に取り入ることも可能だろうな。)ヒソヒソ
雲川「おい、そっちのテロリスト。どこ見て何を考えている?」
横須賀「うお!?」ビクッ
雲川「私はこれでも統括理事会のブレインだ。貴様のような本能で膨らませた下衆な妄想を私に当てはめるな」
原谷「へ? イヤ、僕と横須賀さんはそんなこと……」
横須賀「……」
原谷「……僕はそんなこと考えてませんよ」
雲川「そうだろうな。お前の目線はちゃんと顔に来ていた。そっちのテロリストはもっと下に来ていたけど」
インデックス「」ジトー
削板「おい」
横須賀「……その、なんだ。スマンかった。」
362 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:03:59.12 ID:a4S5OK7DO
雲川「で、こっちが件の魔法少女か」
インデックス「え? えと、私は魔術を使えないからその表現は……」
雲川「なんでもいい。休日出勤の元凶め」
インデックス「へ?」
雲川「お前がこいつのもとに辿り着いたせいで私のところにも妙なヤツが来ていたけど。
ウケを狙ってんのか新たなエロスの境地を開拓したいのか分からんヤツがな。おかげ代休すら落ち着いて休めなんだ」
インデックス「……ぁぅ」
削板「お、おい! インデックスは何も悪くないだろ!」
雲川「黙れ。お前もお前で何をしている。魔術サイドへは不干渉って通達が出ていたのだけど」
削板「知るかそんなもん! 困っているヤツを放っておけるはずないだろう!」
雲川「だからと言って街を破壊する規模で暴れるヤツがあるか。結構な被害額だったけど」
削板「う……それは……」
雲川「やっぱりお前か。第七学区の裏通りでも大通りでもビルに穴空けた馬鹿は」
削板「え?」
雲川「おい、入ってこい。案の定引っ掛かったぞ」
363 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:05:21.69 ID:a4S5OK7DO
ヒョコ、と個室の入り口に背広姿の初老の男が顔を出した。
人の良さそうな顔でニコニコと笑っている男の正体は
貝積「よ、久しぶりだな。軍覇」
削板「貝積のおっさん!?」
学園都市統括理事会の1人、貝積継敏。
原谷「え? 貝積って……」
横須賀「……統括理事会か。本人ともパイプ持ってたのか、削板のヤツ。」
インデックス「? 誰?」
原谷「学園都市で1番偉い人の1人だよ」
364 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:07:37.39 ID:a4S5OK7DO
削板「おい、貝積のおっさん! こんなところに1人で来ていいのか!?」
貝積「1人じゃないさ。最低限の人員は配備してある」
原谷「え?」
雲川「魔術サイドへ不干渉の通達が出ていると言っただろう。なのにこんな真っ正面から持ち込みおって。
これでもしもバレたりしたら我々の立場がいったいどれだけ悪くなるか分かったものじゃないけど。」
インデックス「……ごめんなさい」
貝積「なあに、君は悪くないよ。さて、軍覇。やっぱり第七学区の件はお前だな?」
削板「ああ、俺とモツが」
横須賀「ばっ!」
削板「ん?」
貝積「そうかそうか。じゃ、お前たち2人にプレゼントだ」
原谷「プレゼント?」
貝積「ほら、これだ」バサッ
インデックス「……紙の束?」
削板「なんだこれ?」
貝積「反省文。400字詰原稿用紙20枚で勘弁してやろう」
削板「」
原谷「あー……」
インデックス「え? ま、待ってよ! ぐんはたちは私のために戦ってくれて」
貝積「それとこれとは話が別だ。むしろだからこそこの程度なんだがね」
横須賀「……ハァ、そんなことだろうと思っていた。で、他にはなんだ? いくらで足りる?」
雲川「たった今20枚分と言ったはずだけど」
横須賀「そっちじゃない。賠償金だ。結構な被害額なのだろう?」
貝積「金なんて取るはずないよ。少女を助けようとする勇者から金をせびるなんておかしいだろう?」
横須賀「いいのか?」
貝積「いいとも。貰うべきところからきっちり貰う。苦学生からむしり取るほど鬼じゃない」
削板「8000字か……当然と言えば当然だな……」ハァ
365 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:09:57.37 ID:a4S5OK7DO
貝積「さて、本題に入るか。軍覇の学校付近の通路の封鎖だったな?」
インデックス「!」
削板「! 協力してくれるのか!?」
貝積「しないなんていつ言った?」
原谷「取りつく島もない態度だったんでてっきりダメかと……」
貝積「それとこれとは話が別だ」
雲川「と言いたいところだけど」
横須賀「む?」
貝積「さっきも言った通り理事会全体にわざわざ通達が来ている状態だ。
我々がおおっぴらに彼女に関わることはできない。下手するとイギリスと国交断絶になるレベルだ」
原谷「国交断絶!?」
横須賀「何者なんだお前……」
インデックス「……きっと10万3000冊のせいだよ。私がスゴいわけじゃないかも」
貝積「そんなわけだから、私の方から警備員を動かすことはできない」
削板「……貝積のおっさん、まさかそんな根性なしだっ
366 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:11:21.83 ID:a4S5OK7DO
雲川「と、言いたいところだけど……」ハァー
原谷「え?」
貝積「困っている女の子をほったらかすなんて鬼畜外道な真似はできん。
お前の学校付近に研究所があっただろ? あそこで野外実験を行うとか適当な理由をつけて警備員を配置しておこう」
削板「! さすがおっさん!」
雲川「やれやれ、相も変わらず甘すぎる」
貝積「その甘さでお前たちを救ったんだけどな」
雲川「その件は感謝している。いつもそれが通用するわけではないと言いたいのだけど」
貝積「ふふ、本当にマズかったらもっと本気で止めてくるだろ?」
雲川「……私とて鬼畜外道ではない。そういうことだけど」
367 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/06/26(水) 23:16:59.43 ID:a4S5OK7DO
貝積「さて、そろそろ戻る時間だ。これ以上空白の時間はマズいからな」
雲川「警備員には通行止め以外の仕事はさせられない。何が起きても実験の産物だと思うだろう。
もしも本当に何かが起きたとしたら、お前たちだけで対処するしかないということになるけど」
削板「十分だ!」
原谷「よろしくお願いします」
横須賀「反省文は投書しておこう。」
インデックス「……いろいろ迷惑をかけてごめんなさい」
貝積「気にすることはない。止められる悲劇が1つ増えたんだ。喜ぶべきことだよ」
雲川「すべてが上手くいくよう、祈ってはおく。あとは……そうだな、根性でなんとかしろ」
382 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:16:46.91 ID:reeJvLLDO
-夜、削板宅
貝積らによる協力を得た削板たちは、その日は解散し、また次の日に集まることにした。
神裂・ステイルら魔術サイドからの解除法の捜索、【冥土返し】の協力、削板の学校からの場所の提供、貝積らによる交通規制。
考えつく策はすべて打った。
神裂らが明日の夕方までに帰ってくれば、魔術サイドの方法でインデックスにかけられている術式を解除するだろう。
仮にその方法が大掛かりなものであったとしても、グラウンド規模の広さがあれば大抵のことはなんとかなるだろう。
神裂らが間に合わない場合は【冥土返し】の執刀に賭けるしかない。
【冥土返し】も裏は取れたと言っていたが、やはり魔術の問題は魔術で解決した方が無難だろう。
そして、今削板の家では消灯の時間が迫っていた。
383 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:19:54.50 ID:reeJvLLDO
削板「うし、そろそろ寝るか」
インデックス「うん……」
削板「? なんだか元気ないな。晩メシ食いたりなかったか?」
インデックス「……ううん、明日のことを考えると緊張しちゃって……」
削板「……はっはっは、心配するな。きっと上手くいく」
インデックス「……分かってはいるんだけどね」
削板「魔術師どもはともかく、先生もお前も立派な根性持ってんだ。恐れることはない」
インデックス「うん」
削板「じゃ、電気消すぞ」
384 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:20:48.02 ID:reeJvLLDO
インデックス「……」
削板「……」
インデックス「……」
削板「……」
インデックス「……ぐんは」
削板「ん?」
インデックス「ぐんはの話、聞かせてくれる?」
削板「俺の?」
インデックス「うん」
削板「なんで俺の話なんか聞きたいんだ?」
インデックス「いっぱいお世話になったから、少しはぐんはに恩返ししてあげたいんだよ」
削板「……?」
インデックス「ぐんはも過去に辛いことがあって、それでまだ悩んでるんだよね?」
削板「!」
インデックス「寝てるとよくうなされてるし、地獄の底も経験してるって何度も言ってた」
削板「……ああ」
インデックス「私はシスターだから……迷える子羊のお話は聞いてあげたいんだよ」
385 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:23:02.79 ID:reeJvLLDO
削板「……」
インデックス「……話したくないなら、無理には聞かないけど……」
削板「イヤ、話そう」
インデックス「!」
削板「……ずっと前、まだモツや原谷と会うよりも前の話だ。俺は学園都市に来てからずっと施設暮らしをしてたんだ」
インデックス「……うん」
削板「そこは『置き去り』がいっぱいいて……早い話が孤児院だな。そこに研究所が合体したような施設だ。
生活資金がなかったりまだ自立できない連中が研究に協力する代わりに
生活面の面倒を見てもらう。俺は自立できてたんだが、珍しい能力だからってことでそこにいたんだ。
さっき会った雲川も同じ施設にいた。アイツ自身はともかく、妹がまだ幼いから離れたくなかったらしい」
インデックス「……」
削板「だが、その研究所は出ていくやつらと入ってくるやつらのサイクルが早かった。
不思議に思ってこっそり研究所を調べてみると、違法な人体実験のデータがごっそり出てきたんだ」
インデックス「!」
削板「最初は信じられなかった。世話をしてくれた大人たちはみんな頼りになった人だからな。
だが、いざ夜中の研究室に入ってみれば、今まさに人体実験が行われようとしていた。
普段はなかった巨大な試験管に脳ミソがぷかぷか浮いてる異様な光景を背景にしてな」
削板「裏切られたショックと仲間を殺された怒りと見抜けなかった腑甲斐なさで頭ん中がぐちゃぐちゃになった。
次に気付いた時には施設の子どもを全員引きつれて脱走していた。どうやら俺は研究所を全部破壊していたらしい」
削板「そこからは地獄の底だ。逃げる先の当てもない。まともなメシも屋根もない。大人は血眼で俺たちを追ってくる。
我慢の限界に達した幼いやつらは泣きじゃくり、体調を崩す。仲間もストレスでいつ誰に八つ当たりしているかも分からない」
削板「そして、俺たちはバラけてしまった。何人かが俺についていけないと言って別行動をとった。
つまりは守るべき仲間と対立したんだ。俺が頑なに自分の考えを押し通したせいでな。
……その直後、俺たちは全員捕まった。俺たちは貝積のおっさんに。別れたやつらは別の理事会の外道にな」
386 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:24:32.64 ID:reeJvLLDO
インデックス「外道……?」
削板「……そいつは裏で人身売買や非人道的な薬物投与実験なんかをやってる根性なしだったんだ」
インデックス「……」
削板「貝積のおっさんは俺たちをちゃんと扱ってくれたが、あっちは実験台が増えたとしか思わない。
かつての仲間を助けるべく、俺は貝積のおっさんと雲川の協力のもと、そいつから仲間を奪い返したんだ」
インデックス「……そっか。その人たちは今どうしてるの?」
削板「知らん。その時からずっと絶縁状態だからな」
インデックス「え? どうして?」
削板「……俺たちが逃げ出した研究所はその外道の管轄下の研究所でな。
俺の仲間はそこで実験の全体像を把握した。その実験の目的も当然知った」
削板「その実験の名前は『プロデュース』。
その目的は『既存の能力者の法則に当てはまらない削板軍覇の脳の解明及びサンプルとしての半永久的な保存』」
インデックス「!?」
削板「それを実行するため、学園都市の能力者で片っ端から実験したんだ。
どうやったら脳ミソだけで能力を完璧に発動でき、その脳ミソを保存できるかをな」
削板「俺が奪い返した仲間の言い分はこうだ。
『お前がいたからあんな実験が行われ、何人も死んだ。
もう恨むことすらできない連中に代わって、俺は学園都市とお前を恨み続ける』」
インデックス「そんな……」
削板「最初は腹も立ったが……死んだ人間の遺志を受け継ぐことがそいつなりの根性なんだ。
文句はつけられん。アイツの言い分も分からなくはない。……この一連の騒動は俺にとってトラウマになった」
インデックス「……」
削板「だから、もうこんなことが起きないように、もし起きたら全部まるごと救ってやれるように
俺は自分の身体と根性を徹底的に鍛えることにした。仲間を死なせることが何よりも根性なしだからな。それで……今に至るわけだ」
387 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:29:30.10 ID:reeJvLLDO
インデックス「……」
電気を消した削板の部屋では沈黙が流れていた。
ベッドと布団で横になっている2人はずっと天井を見つめていた。
削板「……長くなったな。これが俺の過去だ」
インデックス「そっか……」
削板「ああ。だからお前が魔術があるって言った時は嬉しかったぞ。
すべての元凶だったこの能力が魔術などという突拍子もないもんかも知れないと思ったからな」
インデックス「……」
いちばん最初に削板がインデックスから魔術の話を聞き、それを認めた時、削板は大爆笑した。
それもそのはずだ。かつて多数の犠牲のもとに行われた実験でも分からなかった能力の正体が分かるかもしれなかったのだから。
ましてそれが魔術などというふざけたものだというのなら、大爆笑もしてしまうというものだ。
削板「だが、この能力は魔術じゃない。
この能力を使う時、俺は根性を入れるからそれが魔力かもしれんと思ったが
それであの根性無しの魔術師どもが魔術を使ってるとは思えん。だからこれはまったく別のものだ」
388 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:30:55.40 ID:reeJvLLDO
インデックス「……うん。ぐんはのは魔術じゃないよ。もっと別なもの」
削板「! 知ってんのか……?」
インデックスの言葉に削板が少し驚く。
この少女は削板の知らない世界を見せてくれる。
インデックス「きっとぐんはのチカラは【原石】のチカラ……私たち魔術師の目標だよ」
削板「【原石】……」
インデックス「もともと私たちの魔術っていうのはぐんはみたいなチカラを持った人に対抗するために生み出されたチカラなんだよ。
私たち魔術師は宗教的奇跡や神話なんかをベースに異世界のチカラを無理矢理こっちに引っ張ってくるの。これが魔術」
削板「異世界……って、ホントにそんなもんあんのか?」
インデックス「そう言われてる。それには複雑な術式が必要だから、ぐんはみたいな曖昧なチカラの出し方で出せるはずがないんだよ」
削板「……やっぱりか」
インデックス「この街の人たちはぐんはみたいなチカラを人工的に作りだしてるみたいだね。これが超能力。
だからこの街の人たちは天然で作られたぐんはの能力を科学的に証明して、半永久的なサンプルにしようとした。ってことでしょ?」
削板「……たぶん、な」
インデックス「それなら、私が胸を張って言ってあげる。ぐんはは間違ってる」
389 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:31:58.11 ID:reeJvLLDO
削板「……え?」
はっきりとした口調でいきなりの話題転換。
思わず削板は聞き返してしまった。
インデックス「ぐんはは悪くない。それこそ、誉められるべきなんだよ」
再びはっきりとした口調でインデックスは言い切る。
その言葉に不思議と力強さを感じるあたり、やはり彼女はシスターである。
削板「違うだろ。俺の能力が元凶だ。それがすべてだ」
インデックス「なんで? 神から与えられたモノそのものが元凶なの?」
削板「そうだ」
インデックス「そんなはずない! 悪いのはそれを悪用しようとする意思なんだよ!
それを正しく人のために使ってるぐんはが悪いわけない! そんなのおかしいんだよ!」
削板「だが、現実に俺のせいで被害者が出てんだ」
インデックス「ぐんはのせいじゃないって言ってるでしょ!?
そんなの通り魔の元凶は包丁だって言ってるようなもんなんだよ!」
削板「お前がそう思っても向こうがそう思ってんだから関係ないだろ!
だいたいなんだってそんなに噛み付いてくるんだ! お前がどうこう言う問題じゃないだろ!」
インデックス「違う! 私の問題でもあるんだよ!」
390 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:34:07.73 ID:reeJvLLDO
インデックス「私の恩人の悪口をこれ以上言わないで!」
削板「!」
インデックス「……ぐんはは悪くないもん……」
削板「インデックス……」
インデックス「地獄の底に飛び込んでまで私を助けてくれた人が、悪いわけないもん……」
削板「……」
インデックス「……うぅ~……」
インデックスから嗚咽の声が聞こえてくる。
彼女にしてみれば自分のヒーローを真っ向から否定されたようなものなのだ。
彼女が誰よりも純粋だからこそ、彼女はそんな理由で泣き出してしまうのである。
削板(……、そうか、俺は)
削板(今、試されてんのかもな)
むくり、と起き上がり、削板はベッドに近づいた。
そこでは、身体を丸めたインデックスが細々と啜り泣いていた。
削板(こいつがシスターってことは、死んでいったやつらからの挑戦状かもな)
シスターの存在理由なんて大雑把にしか知らない。
ただ、神に仕える存在だというのなら、一足先にあの世に行った連中が運命的に巡り合わせたのかもしれない。
本当にお前が修行して全部救えるというならやってみろ、と。
恐ろしく身勝手で、根拠などどこにもない。その上科学の街で育った人間らしかぬ考え方だが、なんとなくそんな気がした。
そう思ったとき、削板は背中から何かがフッと消えた気がした。
391 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/08(月) 18:35:13.43 ID:reeJvLLDO
削板「インデックス」
インデックス「グスッ……なに?」
削板「賭けてみるか?」
インデックス「え?」
削板「これでお前を救えたら俺は悪くない。救えなかったら俺が元凶だ」
インデックス「……なんで?」
削板「なんでもだ」
インデックス「……フフ、いいよ。それならぐんはは絶対悪い人じゃないって証明できるから」
402 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:47:55.53 ID:fC5Xd2gDO
-翌朝、第七学区地下街
原谷「で、今日が運命の執刀日なんですが」
横須賀「夕方17:00まではひまなので」
削板「遊ぶぞ!」
インデックス「おー!」
原谷「てことでまずは地下街から攻めましょう」
横須賀「地下街で遊ぶところと言えば……ゲーセンか。」
削板「天気がいいから外に行かないか!?」
インデックス「こっちのが涼しいからいいんだよ! てゆーかげーせんって何?」
原谷「ゲームセンターだよ。科学の街の定番娯楽スポット」
横須賀「格ゲー音ゲーシューティングレーシングUFOキャッチャーなんでもアリだ。」
削板「あとはパンチングマシーンとかな! ちなみに俺はレコードホルダーだ!」
インデックス「……よく分かんないから行ってから理解するんだよ!」
403 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:48:41.13 ID:fC5Xd2gDO
-地下街、ゲームセンター
インデックス「!? み、耳がおかしくなる! 何この騒音!」
横須賀「パチ屋よりマシだ。」
原谷「行くんですか?」
横須賀「ときどきな。」
削板「ハッハッハ! 相変わらずここは豪快だな!」
インデックス「うるさいんだよ! なんなのここは!?」
原谷「音量が売りのゲーセンだよ。心配しなくてもすぐ慣れるよ」
横須賀「さて、何からいく?」
削板「なら格ゲーいくぞ!」
404 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:50:05.65 ID:fC5Xd2gDO
-鋼拳
削板「むおっ! 原谷きさま卑怯な手を!」
原谷「引き寄せてからハメるまでが一連の作戦です! 毎度毎度負けてたまるかってんですよ!」
削板「なんの! 緊急回避!」
原谷「あっクソ! まだまだぁ!」
インデックス「」バン! バン!
横須賀「違う違う、そうやって闇雲に押すんじゃなくてボタンとスティックを組み合わせてだな……」
405 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:50:50.14 ID:fC5Xd2gDO
-Pap′n
横須賀「」ズダバダバダバダバダバダバ
インデックス「す、すごい! よこすかの手が見えないんだよ!」
削板「意外と上手いからな! モツは!」
原谷「それは分かるんですけど……」
横須賀「」ズダバダバダバダン! ダバダバダバダバダバダバ!
原谷「なんで決まって曲がアイドル系なんですか?」
削板「モツの趣味だな!」
横須賀「」ズダバダダン!
横須賀「……フッ」
インデックス「おー! パーフェクト!」
406 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:51:29.68 ID:fC5Xd2gDO
-TIME DANGERS
削板「大尉ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」ズガガガガ!
原谷「何度見ても面白いなあの人」
インデックス「わ、わ、虫! 虫が!」ダン! ダン!
横須賀「ショットガンを使え!」
削板「大尉ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」ドガガガガガガガガガ!
原谷「でた! ショルダースルー!」
インデックス「ひぃ! くっついてきたんだよ!」ブンブン!
横須賀「マシンガンを使え!」
407 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:52:23.37 ID:fC5Xd2gDO
-頭文字G
インデックス「~♪」ヒャァァアア!
原谷「くっ、インデックスホントに初心者!?」ズシャァァァァ!
横須賀「……立派に峠を攻めてるな」
削板「さすがインデックス! 根性が違うな!」
インデックス「『完全記憶能力』があれば一週しただけでコースのコツは十分分かるんだよ♪」ギャァァァァ
原谷「なんで一週しただけで進入角度やギアチェンジまで覚えられるんだよ! クソ、負けられない!」ビィィィィィ!
横須賀「デッドヒートだな。……おい、ミゾ落としはやりすぎだろう!? どうやって再現したんだ!?」
削板「ハッハッハ! さすがインデックス!」
408 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:53:03.30 ID:fC5Xd2gDO
-UFOキャッチャー
横須賀「……」ウィーン
横須賀「ココだ。」ピタッ
原谷「もうちょい奥じゃないですか?」
横須賀「もう遅い。」ウィーン
インデックス「お、いける! いけるんだよ! 今度こそ――あ」スカッ
削板「チクショウ! 相変わらず根性ないなコイツ!」
原谷「そりゃアームに根性あったら入れ食いですからね」
インデックス「うー、取れそうで取れない。コレが科学のトラップか……」
原谷「あながち間違ってもないね」
横須賀「……」チャリン
原谷「ああやってみんなお金を投入していくから」
409 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:53:52.50 ID:fC5Xd2gDO
-パンチングマシーン
インデックス「ていっ」ペチン
<30kg!
原谷「せいっ!」バコン!
<100kg!
横須賀「ヌン!!」ドゴン!
<300kg!
原谷「うわ、スゴ」
横須賀「どうだ削板! 今度こそ俺の」
削板「よっこいせーっと」ズドゴシャ!
<係員を呼んでください
原谷「」
横須賀「」
インデックス「すごーい! さすがぐんはだね!」
削板「むぅ、筐体ごといくつもりだったんだが……」
原谷「ベジータか!!」
410 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:54:52.15 ID:fC5Xd2gDO
横須賀「さて、あらかた遊び尽くしたな。」
インデックス「楽しかったね! 科学もなかなか面白いかも!」
原谷「ハハ、伊達に科学の総本山を謳ってないよ。そろそろメシ時ですし次で最後にしませんか?」
削板「そうだな! なら次は……アレにするか!」
横須賀「アレ、って……プリクラか?」
インデックス「プリクラ?」
原谷「んーと、要するに写真撮影かな? ちょっと違うんだけど。それにしてもプリクラ撮りたいなんて意外ですね」
削板「あー……まあな。アレだ、記念と思い出としてって意味でな」
横須賀「……なるほど。」
インデックス「?」
原谷「……いいですね。撮りましょうか」
411 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:56:02.68 ID:fC5Xd2gDO
<お金を投入してネ☆
インデックス「へー、このお部屋で撮るの?」
削板「ああ」チャリンチャリン
<注意事項を説明するネ☆ カバンなどの荷物は……
インデックス「なんだか狭いね。撮影って基本的に屋外とか広いところでするものだと思ってた」
原谷「そう? まあ、プリクラはわざと狭くして密着させるって狙いもあるから」
<撮影の方法を選んでネ☆
インデックス「? 密着させることに意味があるの?」
横須賀「そっちの方が仲良く見えるだろうってだけだ。」ピッ ピッ
<撮影の種類を選んでネ☆
インデックス「ふーん。それで、誰が撮るの?」
削板「自動で撮影してくれるんだ。根性あるからな」
<この設定でいい?
インデックス「そうなの!? じゃあプリクラではカメラみたいにタイマーをセットしたあとに
慌ててみんなのところに戻ろうとしたけど慌てすぎて転んでやり直しになるなんていう悲劇は起きないんだね!」
原谷「何そのベタベタな展開。ベタすぎて逆にレアケースだよ」ピッ
<それじゃあ撮影するネ☆
インデックス「え? 普通のカメラ撮影ってそんな危険性が孕まれてるモノだよね?」
横須賀「ないこともないくらいだろう。ほら、撮るぞ。」
<3、2、1☆
412 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:57:16.45 ID:fC5Xd2gDO
原谷「で、何枚か撮ったあとは裏で落書きができるんだ」
インデックス「落書き?」
削板「しなくてもいいんだがな。雰囲気は出るぞ」
インデックス「せっかく撮ったのに落書きするなんておかしいかも」
横須賀「たぶんイメージしているのと違うな。そもそもプリクラの補正自体が高度な落書きみたいなもんだと思うが。」
インデックス「補正?」
原谷「実物より可愛くなったりイケメンになったりするように作られてるんだ。ここに入って見れば分か……!?」
インデックス「え……、……!?」
削板「お、おいどうした? 中で一体何が……!?」
横須賀「」
原谷「……こ、コレが補正だよインデックス」
インデックス「よ、よこすかの顔が……」
削板「オカマテロリストだと!?」
横須賀「どういうことだコラァ!!」
413 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:57:57.00 ID:fC5Xd2gDO
-第四学区、バイキング料理店
削板「昼メシはここだ! ピークも終わりごろだからすいてるぞ!」カランカラン
従業員「いらっしゃい、ませ」
原谷「あ、4人で」
従業員「か、かしこまりました。ご案内します」
横須賀「ふむ、ここも久しぶりだな。」
インデックス「ここはどういうお店なの?」
削板「食べ放題の店だ! どれだけ食べてもかまわんぞ!」
インデックス「ホント!?」
原谷「そうだよ。ほら、前に食べ放題の店に行くって言って結局行かなかったでしょ? あの時行こうとしてたのがこの店だよ」
従業員「こちらになります。ごゆっくりどうぞ」
横須賀「む、なら取りに行くか。」
インデックス「いっぱい食べるんだよ!」
414 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:59:00.01 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「緊急事態! コードレッド! セブン一行が来店!」
料理人「なに!? 昼のピークが終わりかけたところなのにか!?」
従業員「間違いない! しかも1人増えてる!」
店長「なんと……噂は本当だったか」
従業員「店長! 何かご存知なのですか!?」
店長「……最近、セブンに彼女ができたらしい。その少女はセブンに負けず劣らず食べまくる、と」
料理人「!? バカな! セブンと取り巻きで精一杯だってのにセブンがもう一人!?」
店長「現実に第7学区でファミレスが閉店に追い込まれている」
従業員「そんな……ピーク終わりとはいえ、まだお客様はたくさんいらっしゃるのに……」
店長「わたしも厨房に立とう。ピーク終わりでは調理が間に合わないかもしれんが、なんとしても乗り切るぞ!」
415 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 15:59:44.64 ID:fC5Xd2gDO
削板「お、なんだコレ?」
原谷「……食品にあるまじき色してませんか? 赤紫?」
インデックス「やめた方がいいよぐんは! 完全に威嚇してる色なんだよ!」
横須賀「原材料ならともかく完成品が威嚇してるのはおかしいだろう。
東南アジア系のメシはアタリとハズレの差が激しいんだ。食ってみたらどうだ?」
削板「たしかに食わず嫌いは根性なしのすることだな! こいつもらってくぞ!」ドサッ
原谷「あーあーまたそんなごっそり……」
インデックス「私は堅実にOSUSHIにするんだよ!」
横須賀「板で持っていくな。皿に取れ、皿に。」
416 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:00:29.99 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「サイドテーブル全滅!」
料理人「クソッ、そっちから手ぇ出してきやがったか! 完全に予想外だ!」
店長「かまわん! いずれ今作った料理も食いはじめる! むしろ補充が済んでラッキーだ!」
従業員「運んでおきます!」
料理人「まかせた!」
店長「気を抜くな! 次はサイドテーブルの補充だ!」
417 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:01:09.19 ID:fC5Xd2gDO
削板「相変わらず網が狭いな」ジュー
原谷「どう考えても供給過多です。あ、いただき」ヒョイ パク
横須賀「原谷きさま! 俺のハチノスだぞ!」ガタッ
インデックス「」ガツガツガツガツ
原谷「モツがモツにモツ詰め込んでどうすんですか。てかインデックスはそんなに肉食べていいの? 宗教的な意味で」モグモグ
インデックス「主に与えられた食べ物を粗末にする方がダメなんだよ!」ガツガツガツガツ
削板「そうだ! 食べ残しは根性なしのすることだ!」ヒョイ パク
横須賀「人が丹精籠めて焼いた肉を横取りすんのはどうなんだ! 俺の牛タン!」
418 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:02:06.23 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「牛タン、ハラミ、ハチノス、牛ロース、豚カルビ、豚トロ、豚タン、鳥モモ、砂肝、鳥皮、サンチェ、レタス撃沈!!」
料理人「いっぺんに持っていきすぎなんだよチクショー!」
店長「早く肉を解凍しろ! 間に合わなくなってもしらんぞ!」
従業員「鳥皮の在庫切れました! レタス流水にさらしておきます!」
料理人「手ぇ洗ってからしろよ!」
店長「テールスープ煮込んでおけ! すぐ消えるぞ!」
419 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:02:52.62 ID:fC5Xd2gDO
削板「ほらモツ。さっきの詫びだ」
横須賀「む、黒烏龍茶か。」
インデックス「スゴいね、ジュースも飲み放題なんだ」
原谷「別料金なんだけどね。僕は緑茶でいいや」
削板「うし、次は地中海だな!」
横須賀「地中海か。パスタあたりいくか。」
インデックス「ブイヤベースなんだよ!」
原谷「僕はそろそろペース落とそうかな」
420 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:03:22.24 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「地中海ゾーンに一斉に入りました!」
料理人「今の内だ! クレープ生地とデザートの補充を急げ! フルーツをカッティングしろぉ!」
店長「ドリンクバーは大丈夫かね!?」
従業員「カルピスと黒烏龍茶が瀕死です! 大至急補充します!」
料理人「ちげぇよ! リンゴじゃなくてマンゴーだ!」
店長「混乱するな! 落ち着いて迅速に動け!」
421 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:04:24.96 ID:fC5Xd2gDO
削板「こうして麻婆豆腐をご飯にかけてだな」ドロリ
インデックス「おぉ……日本人はなんでもかんでもご飯に乗っけるっていうのは本当なんだね」
横須賀「否定できんな。」ガツガツ
原谷「チャーシュー丼食べてる最中ですもんね。あ、コレおいし」モグモグ
削板「そんでここに醤油をひとかけすると削板流中華丼の完成だ!」ドン!
インデックス「美味しそうなんだよ!」
横須賀「ふぅ。さて、そろそろ締めに入るか。」カチャ
原谷「すいませーん、お手拭きくださーい!」
422 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:04:59.94 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「白米もうすぐショートします!」
料理人「くっ、あと5分! あと5分なんだ!」
店長「まだデザートに移らないのか! 化け物どもめ!」
従業員「もうその状態で出すしか……」
料理人「それはできねぇ……それが料理人としての俺のプライドだ!」
店長「クソッ、負けるな! みな奮起せよ!」
423 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:05:37.30 ID:fC5Xd2gDO
インデックス「アイスクリーム……よりどりみどり……」キラキラ
削板「ハッハッハ! さすがだな! 全種類制覇するぞ!」
インデックス「合点なんだよ!」
原谷「♪」ジュー
横須賀「相変わらずクレープ作るの上手いな。俺にも一枚頼む。」
原谷「了解です。生クリームたっぷり入れときます」
横須賀「……食いまくったあとにそれは勘弁してくれ。」
424 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:06:24.59 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「セブン一行、全員締めに移りました!」
料理人「ようやくか! 半数は洗い物と夜の仕込みに移れ!」
店長「最後まで気を抜くな! 相手はセブンだ!」
従業員「洗い物急いでください! 食器が下げられません!」
料理人「食洗機のキャパ越えてるんだ! 下げたらその辺に置いとけ!」
店長「割るなよ! フリじゃないぞ!」
425 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:07:08.95 ID:fC5Xd2gDO
インデックス「ん~♪ 濃厚ティラミス!」
削板「見ろ! 巨大わたあめだ!」
横須賀「む……く……」モグ…モグ…
原谷「なんでそんな状態になっても食べ続けるんですか。せっかく生クリーム控えめにしたのに」ズズズ
インデックス「ああ……ここが天国だったんだね」
削板「ハッハッハ! 大げさだな!」
横須賀「天……国……?」プルプル
原谷「正反対の顔してますね」
426 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:07:45.55 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
従業員「セブンの取り巻き沈黙!」
料理人「ようやくか! ざまあみやがれ!」
店長「やめんか! お客様だぞ!」
従業員「ですが、セブンの彼女の勢いが衰えません! なぜか感涙してます!」
料理人「感涙!? そうか……知らぬ間に俺はシェフからパティシエにジョブチェンジを……」
店長「お前が作ったデザートじゃないだろ! なんにしてもコレが最後の戦いだ!」
427 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:08:29.06 ID:fC5Xd2gDO
削イン横原「「「「ごちそうさまでした!」」」」パン
削板「ハッハッハ! 昨日のラーメンより食ったな!」
インデックス「いろんな味が楽しめたもんね!」
横須賀「」チーン
原谷「……昨日より食いましたもんね」
削板「うし、食ったらとっとといくか! 会計行くぞ!」
インデックス「よこすか大丈夫?」
横須賀「ふっ……こ、この程度で……俺が……」プルプル
原谷「限界じゃないですか。【内臓潰し】って自虐的な意味だったんですか?」
428 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:09:23.49 ID:fC5Xd2gDO
-厨房
<アリガトウゴザイマシター
従業員「終わった……」クタッ
料理人「乗り切ったか……」フゥ
店長「戦争だったな……」
従業員「……やっぱり夜もお店開くんですかぁ?」グテー
料理人「当たり前だろ……とっとと仕込みしねぇと……」
店長「その前に一休み入れよう。みんな、よく頑張ってくれたな」
従業員「ああ、店長の優しさが身に染みる……」
料理人「……じゃあお言葉に甘えて」
店長「19:00から外部の団体客の予約入っているからな。150人規模だそうだ」
従業員料理人「「」」
429 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:10:26.96 ID:fC5Xd2gDO
-第四学区、大通り
原谷「んー……ビミョーな時間ですね。今から第七学区に戻ってもけっこう時間ありますよ」
削板「ゲーセンで時間使いまくったからな……」
横須賀「1度第七学区に戻ってから時間を潰せばいいだろう。」
インデックス「……そうだね。万が一遅れたら大変だもん」
原谷「じゃあそうしますか」
削板「……それなら俺の家に寄ってもいいか?」
横須賀「? なんか忘れ物か?」
削板「イヤ、今思ったんだがお前ら魔術師たちの連絡先聞いたか?」
インデックス「あ……」
原谷「聞いてませんね、そういえば……」
削板「だったら、まず俺の家に来ると思うんだ。俺がインデックスを匿ってるのを知ってるはずだからな」
横須賀「なるほど。なら、まずは削板の家に行くか。もしかしたらすでに来ているかもしれん。」
430 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:12:01.21 ID:fC5Xd2gDO
インデックス「……」
削板「どうした? インデックス」
インデックス「……もしも」
原谷「うん?」
インデックス「もしも、あの人たちがなんの解決策も見つけられなくて、私の記憶を消そうとしてきたら……?」
横須賀「……その時はまた叩き潰す。心配するな。」
インデックス「でも……」
削板「そこまで根性なしだったらいよいよ救いようがない。次は容赦せん。地獄の底まで送ってやる」
インデックス「……」
原谷「それにほら、【冥土返し】の先生もいるしさ。他にちゃんとした解決策があれば記憶を奪いにかかってきたりしないよ」
インデックス「うん……そうだよね」
横須賀「よし、じゃあ行くぞ。」
431 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:13:22.39 ID:fC5Xd2gDO
-第七学区、削板宅前
削板「……いないな」
原谷「もしかしたら部屋の中にいるんじゃないですか?」
インデックス「……」
横須賀「入っていいか?」
削板「おう。今鍵を開ける」
<ガチャ、ギィ……
原谷「……いないみたいですね」
インデックス「ほっ……」
横須賀「この分だとアイツらの解決策は期待しない方がいいな。」
432 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:14:24.05 ID:fC5Xd2gDO
原谷「どうしますか? 時間ギリギリまで待ちますか?」
削板「俺たちの居場所と連絡先を書いた紙でもドアに貼っておけばいいだろ」
横須賀「アイツらケータイ持ってんのか? なんとなく何かしらの魔術で連絡を取り合っている気がするが……」
インデックス「どうだろう……携帯電話に魔術的な回線を繋げる魔術師はいるけど数ある連絡手段のひとつでしかないんだよ」
原谷「だったらなるべく詳細な地図を書いた方が良さそうですね」
インデックス「でも、私を1年も追いかけ回してたくらいだから探索魔術には長けてるかも」
削板「それが地図を書かない理由にはならん。お前の命が懸かってんだ。
念を入れといて損はないだろう。紙とペン探すからちょっと待ってろ。トイレ行きたいやつは今のうち行っておけよ」
横須賀「スマン、ならトイレ借りるぞ。」
原谷「僕たちはリビングで待ってよっか」
インデックス「うん」
433 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:15:23.51 ID:fC5Xd2gDO
削板「それでここの信号を……」キュー キュキュッ
原谷「目印になるものも書いた方がいいですよ。土地勘ないでしょうから」
インデックス「……」キョロキョロ
横須賀「はー、すっきりした。……どうしたインデックス。そんなに部屋を見回して。」
インデックス「え?」
削板「ん? 今さら気になるものでもあったか?」
インデックス「……ううん、ちゃんと覚えておこうと思って。もしかしたら見納めになるかもしれないから」
原谷「……」
横須賀「縁起でもないことを言うな。」ズビシ
インデックス「あぅ」
削板「お前の記憶は消えたりせん。心配するな。ちゃんと形のある思い出も作っただろ」
インデックス「形のある思い出?」
原谷「ほら、みんなでプリクラ撮ったでしょ? それで証明できるよ。僕たちは仲間だって」
インデックス「……でも、あの人たちも写真撮ったけどダメだったって」
横須賀「縁起でもないことを言うなと言っているだろう。」ズビシ!
インデックス「あぅ」
434 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:17:10.34 ID:fC5Xd2gDO
原谷「ちょっと、何回インデックスにチョップするんですか。言ってるそばから記憶飛びますよ」
削板「おいモツ!」
横須賀「平気だろう。お前の渾身の拳もらって無傷なんだぞ?」
インデックス「……まあね。『歩く教会』に防げないものなんてほとんどないんだよ!」フフン
原谷「……たしかに。ホントにそれどういう素材なの?」
インデックス「『ロンギヌス』に貫かれた【聖人】を包んだ『トリノ聖骸布』を完璧にコピーしたものだね!
それだけじゃ『歩く教会』にはならなくて、完璧に計算された刺繍や縫い方によって魔術的意味を持たせることで法王級の魔術結界を」
削板「つまりどういうことだ?」
インデックス「『歩く教会』は完全無欠の最強の防護服なんだよ!」
横須賀「うらやましいな。こちとら炎ひとつ防ぐためにクソ暑くてクソ重たいコートを汗だくになって着てたってのに……」
インデックス「ふっふーん! これで魔術の優位性が証明されたんだよ!」ドヤァ
原谷「……そのなんとかの布のコピーと計算された刺繍と縫い方が必要なんでしょ?
それだけならデータさえあれば学園都市の織り機とミシンのコンピューター任せで量産できる気がするけど」
インデックス「えっ!? ム、ムリに決まってるんだよ! 科学はよく分かんないけど!」
削板「ハッハッハ、科学と魔術が交差すればとんでもない革命が起きるかもな。……よし、書けた」
横須賀「……時間もちょうどいいな。行くぞ。」
435 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:18:22.72 ID:fC5Xd2gDO
-第七学区、某高校グラウンド
冥土返し「やあ、待ってたよ」
削板「おお! なんかよく分からんがウチのグラウンドのど真ん中にスゴいものがあるな!」
横須賀「……なんかアレどっかで見たことあるな。なんだったか……」
原谷「アレですよ、中学生の時に図書館で読んだブラック・ジャックの屋外用手術室」
横須賀「それだ。」
冥土返し「大きさとかの細部は違うけど、似たようなものだね?
あとはオペに必要な機材と空調設備なんかだ。繋がってるのは簡易滅菌室」
削板「おおー、スゴいな! なんかスゴいな!」
冥土返し「興味津々で何よりだね?」
436 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:19:23.67 ID:fC5Xd2gDO
インデックス「……」
冥土返し「不安そうだね?」
インデックス「……あなたを疑ってるわけじゃないけど、緊張しちゃって……」
横須賀「無理もない。自分の記憶が懸かっているのだからな。」
冥土返し「何も心配することはないね? 眠って起きたらすべて終わっている」
削板「そうだ! お前と先生の根性なら何があっても大丈夫だ!」
インデックス「うん……うん、分かってる」
原谷「その意気だよ。僕たちもついてる」
437 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:20:48.57 ID:fC5Xd2gDO
冥土返し「さて、もう一度だけ確認しよう。これから彼女の喉を切開し、その奥に刻まれているルーンを切除する。
この方法が有効であることはボクの方で裏付けは取った。それに、キミたちのおかげで一般人は近寄れないようになっている。
仮に何かの魔術が暴発してもキミたちのおかげで被害は最小限に抑えられる。……何も起きないのが一番だけどね?」
インデックス「……」
冥土返し「……さて、質問はあるかい?」
削板「どのくらいで終わるんだ?」
冥土返し「やること自体は単純だからね? 切開してから縫合するまで、ボクなら1時間もあればお釣りがくる」
横須賀「……さすが先生だな。インデックスの声はどうなる?」
冥土返し「今の状態と何ら変わりない声が出せることを約束するよ。
喉にも傷跡ひとつ残さない。少しだけ入院が必要だけどね?」
原谷「……今さらですけど、費用は?」
冥土返し「キミたちが気にする必要ないね? 理事会の1人が負担してくれるそうだ。
なんでも『どうせ立て替えるだけだ。あとでしかるべきところからむしり取る』だそうだ」
削板「……貝積のおっさんか」
原谷「みたいですね」
冥土返し「おや、知ってたのかい?」
横須賀「ああ、実はコレに1枚噛んでいる。」
438 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:21:33.47 ID:fC5Xd2gDO
冥土返し「さて、そろそろ時間になる。校舎のどこかでこの手術依に着替えてきてくれるかい?」
インデックス「うん……」
削板「付き合うぞ、インデックス。女子更衣室まで案内しよう」
インデックス「え?」
原谷「僕も行くよ」
横須賀「同じく。俺も準備がある。」
インデックス「みんな……ありがとう。……覗かないでね」
削板「そんな根性のない真似するか!」
原谷「このタイミングで覗きするってどんなKYだよ!」
横須賀「そんな口が叩けるなら安心だな。落ち着いたようで何よりだ。」
439 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:22:48.70 ID:fC5Xd2gDO
-十数分後、体育館棟女子更衣室前
インデックス「着替え終わったんだよ」
削板「……なんか新鮮だな」
原谷「いつも修道服でしたからね」
インデックス「ふふ、似合う?」
削板「ああ、バッチリだ!」グッ
原谷「似合ってるかどうかはあんまり関係ないけどね」
インデックス「あれ? よこすかは?」
削板「隣の男子更衣室でなんか準備してるらしい」
原谷「またなんか着替えてるんじゃないかな。前みたいに」
440 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:24:42.34 ID:fC5Xd2gDO
<ガチャ
横須賀「お、もう着替え終わってたか。」
インデックス「うん。何してたの?」
原谷「着替えてたんじゃないんですか?」
横須賀「服装はこのままだ。だが、身体の方に細工してきた。」
削板「身体に?」
横須賀「『発条包帯』というテーピングを貼ってきた。不良品だが、身体能力が飛躍的に上がる。」
原谷「不良品なんですか?」
横須賀「ああ、動きすぎると肉離れが起きる。」
インデックス「ええっ、なんでそんなの貼ってきたの!?」
横須賀「万が一に備えてだ。何が起きるか分からんなら小回りの利く機動力を確保した方がいいだろう。」
削板「大丈夫なんだろうな。いざって時に肉離れじゃ話にならんぞ」
横須賀「任せろ。根性でなんとかする。」
インデックス「よこすか……」
横須賀「他人の心配する前に自分の心配をしろ。何もなければそれで終わりだ。」
インデックス「……分かった」
441 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:25:37.91 ID:fC5Xd2gDO
-数分後、グラウンド
冥土返し「ん。バッチリだね?」
屋外用手術室の前ではカエル顔の医者が柔和な笑顔で待っていた。
インデックス「うん!」
医者の問いかけに対し、インデックスは明るく力強くうなずく。
彼女なりに迷いも恐れも振り切れたようだった。
冥土返し「なら、すぐにはじめようか。スタッフは全員中で待機している。準備万端だね?」
インデックス「分かったんだよ」
横須賀「俺たちは外で待機している。邪魔になるだろうからな。」
原谷「頑張ってね、インデックス。先生、よろしくお願いします」
インデックス「うん!」
冥土返し「任せたまえ」
削板「退院したらまた根性メシ作ってやる! 期待してろ!」
インデックス「ホント!? 楽しみなんだよ!」
442 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:26:32.16 ID:fC5Xd2gDO
冥土返し「……じゃあ、滅菌室へ」
インデックス「うん」
カエル顔の医者に促され、インデックスは簡易滅菌室へと歩いていく。
しかし、扉の前までいくとピタリとその足を止めた。
そして、勢いよくクルリと振り返った。
インデックス「ぐんは! やぶみ! よこすか!」
削板「お?」
原谷「うん?」
横須賀「なんだ?」
スーッ、と息を吸い込んだあと、インデックスはとびきりの笑顔で3人に声をかけた。
インデックス「ありがとう! また明日! なんだよ!」
その言葉を受け、3人はニッと笑ってこう答える。
削板「おう!!」
原谷「もちろん!」
横須賀「当然だ!!」
すると、インデックスはより一層明るい笑顔を見せ、カエル顔の医者と共に一思いに滅菌室へと入っていった。
443 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:28:09.78 ID:fC5Xd2gDO
原谷「はー、ヤバい。緊張してきた」
横須賀「お前が緊張してどうする。」
原谷「そんなコト言ったって……」
そこまで言って原谷は口を動かすことを止めた。
目の前で削板が険しい顔をしていることに気付いたからだ。
削板「……結局、アイツらは来なかったな」
横須賀「……」
インデックスにかけられている魔術の正式な解除法を得るべく、イギリスへ渡っていった魔術師たち。
インデックスの親友だと言っていた2人はついぞ姿を現さなかった。
削板「根性なしめ」
ギリリ、と削板は歯軋りする。
親友だというのに1年も追いかけ回した挙げ句、インデックスが不安な時に駆けつけもしない。
削板にはあの2人がとてつもなく不義理で根性なしに思えた。
原谷「……向こうは期限が深夜だと思ってますから。限界まで粘ってるのかもしれませんよ?」
削板「それで間に合わなかったらどうするつもりなんだ。
まさか短時間で終わらせられるようなお手軽な解除法だってのか?」
横須賀「さあな。だが、言っても始まらん。俺たちができるのはインデックスを見守るだけだ。」
原谷「ですね。ちょっと離れたところで座って待ってましょう」
削板「ちっ……」
444 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:29:58.01 ID:fC5Xd2gDO
数十分ほど経過しただろうか。
削板らはグラウンドの隅で地べたに座って待機していた。
太陽は完全に沈み、代わりに明るい月と街灯、そして手術室の灯りがグラウンドを照らしていた。
原谷「順調……なんですかね」
横須賀「さあな。」
蒸し暑さが3人にまとわりつく。
7月の下旬ということもあり、虫たちも元気にあちらこちらを飛び回っている。
外からでは半透明の手術室の中は見えやしないので、手術室に目をやっては飛び交う虫を目で追ったりというのを繰り返していた。
削板「……大丈夫だ。インデックスと先生の根性なら。今にでも先生がひょっこり顔を出してくるにちがいない」
辺りはこの時間帯にしては静かだった。
室外機が高速で回る音、遠くで車が走っている音、あとは削板たちの会話しか聞こえない。
【冥土返し】曰く、1時間もあればお釣りがくるとのことだ。
ここまで何もないのなら、このまま無難に手術は終了。
悲劇は何も起きず、ハッピーエンドを迎えるだけだ。
445 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:31:44.69 ID:fC5Xd2gDO
―――――そのはずだった。
ドギャアア!! と轟音を上げて手術室が弾けとんだ。
削板「!!」
原谷「うわあ!?」
横須賀「何事だ!!」
それと同時に削板たちは跳ねるように立ち上がる。
グラウンドには四方八方に機材や医療スタッフが飛散していた。
機材はぐちゃぐちゃだが、幸い医療スタッフに死者はいないように見える。
全員が動いており、何人かはあわてて走り回り、倒れこんだ同僚のもとへ駆けつけていた。
そして、爆発の中心にいたのは
インデックス「―――けィコ…、第3……2節。I……ex-Lib…rum-Pr……to…m……【禁書目録】…『首輪』……だイ3ま……ゼん結界ノ貫通……にン。再生…ンび」
ワイヤーに吊されたかのように不気味に宙に浮かぶインデックスだった。
446 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:33:37.67 ID:fC5Xd2gDO
喉を切り裂かれてまともに声は出ない。
そのはずなのに3人の耳にはしっかりとインデックスの声が聞こえていた。
横須賀「……どういうことだ、アレは。」
原谷「……要するに作品が違ったみたいですね。
エレンじゃなくてリオン皇子だったみたいです。……今ならまだ倒してしまえば本人は救えると思いますけど」
削板「つまり、アレが『イギリス清教』がインデックスに植え付けたラスボスか。
アイツを根性でぶちのめしてもっかい先生に診せればハッピーエンドってことだな」
横須賀「そこまで冷静に観察できるってことは十分落ち着いているな。
原谷、先生たちを校舎に誘導して一緒に避難しろ。どうやら一筋縄ではいかん雰囲気だ。」
原谷「お2人は?」
削板「アイツをぶちのめす」
バシン、と削板が右の拳を左の掌に叩きつける。
横須賀「わざわざ『発条包帯』を買い付けた甲斐があったというものだ。」
コキリ、と横須賀が首を曲げて骨を鳴らす。
原谷「……僕がいても足手まといですね。ご武運を!」
ダッ、と原谷はインデックスを迂回するように走りだした。
447 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:35:22.74 ID:fC5Xd2gDO
インデックス「――再生完了。10万3000冊を狙った侵入者を排除するため『自動書記』を起動します」
開いたはずの喉が縫合もなしに完璧に閉じてしまう。
その様子をカエル顔の医者は地面に腰を落とした状態で忌々しげに見ていた。
冥土返し「やれやれ、何が科学的に最も有効な方法だ」
吹き飛ばされた際に少し腕を擦り剥いたが、そんなことはこの医者にとって些細なことだった。
冥土返し「よくも適当なことを言ってくれたね―――恨むよ? アレイスター」
怒りを噛みしめながら小声で恨み言を呟く。
自分の患者の予期せぬ暴走に無力な自分を悔やんでいた。
原谷「先生! こっちです!」
遠くからメガネの少年がよびかける。
少年は負傷した医療スタッフに肩を貸しながら他のスタッフも引き連れ、小走りで校舎の方に向かっていた。
原谷「体育館に避難します! インデックスは向こうの根性バカ2人に任せて! 早く!」
こんな大惨事を学生に任せるわけにはいかない。
しかし、事はすでに医療分野で済ませられる問題ではなかった。
ならば、否応なしに少年たちに託すしかない。
冥土返し「……恨むよ? アレイスター」
恨み言もそこそこに、カエル顔の医者は体育館へと走り出した。
448 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/11(木) 16:36:58.85 ID:fC5Xd2gDO
インデックス「『書庫』への侵入方法は科学的な医術と断定。周囲を検索し、該当者を排除――」
ピタリ、と機械的なインデックスの声が止まる。
それもそのはず。医者よりももっと強大な敵が闘志を剥き出しにして近づいてきたのだから。
削板「おいテメェ、散々インデックスを苦しめたうえになにインデックスの身体を乗っ取ってやがんだ。根性なしが」
ぐるり、とインデックスの身体が空中で高さを変えずに削板と横須賀の方向を向いた。
インデックス「――警告、第12章第13節。これ以上近づくのであれば、脅威とみなし、優先的に排除します」
横須賀「フッ、こっちはハナから貴様をぶちのめすつもりだ。脅威以外のなにものでもないぞ?」
豹変したインデックスを前にしても、2人はまったく怯まない。
己の信念と根性を貫き、『自動書記』の前に立ちはだかる。
インデックス「―――優先事項を確認。『聖ジョージの聖域』を発動、脅威となる存在を破壊します」
削板「上等だ『イギリス清教』!! その根性を叩き直してやっから覚悟しろ!!」
451 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/11(木) 17:50:38.77 ID:TIEERqbmo
さてどうなる
460 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:00:57.15 ID:SwC35kKDO
キン、と大きな魔法陣が鮮やかな深紅の輝きを放って展開される。
その大きさは直径でインデックスの身長の1・5倍はあった。
横須賀「……あの妙なマークもルーンというやつか?」
削板「イヤ、どっちかっつーと女の魔術師が使ってたやつに似てるな」
一定の距離を保ち、2人は身構える。
さすがに『歩く教会』すら着ていないインデックスの身体を直接殴るのは抵抗があった。
インデックス「―――発動、『竜王の殺息』」
バキン! と魔法陣の中心部が大きく裂けた。
その先には見たこともない異世界の空間が覗いていた。
横須賀「おい、なんだア
461 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:01:55.33 ID:SwC35kKDO
ドッ!! と光の柱が削板らを目がけて射出される。
紅い閃光のような巨大な光の柱は削板らを貫こうと襲い掛かる。
削板「スゴいパンチ!!」
とっさに削板が反応し、光の柱目がけて不可視の力を殴り飛ばす。
人類最先端の更に先をいく学園都市の科学力を以ても解明できない強大な力。
何もかもを理屈抜きで吹き飛ばしてきた力が光の柱に真っ向から立ち向かう。
462 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:02:59.50 ID:SwC35kKDO
だが、
削板「!」
削板が放った不可視の力は光の柱を吹き飛ばすには至らなかった。
激突した瞬間、ほんの一瞬光の柱が止まったと思うと光の柱が膨れ上がり、不可視の力を弾け飛ばした。
削板「スゴいガード!」
ボゥン! と赤青黄の煙が削板の前で吹き上がる。
その煙が強固な盾となり光の柱から削板らを防ぐ。
削板「ふ、ぐ、おおおおおおおお!!!」
ドウッ! 光の柱が削板の盾に激突したが、光の柱はそれでも勢いを失わない。
煙の盾を押し切り、煙の盾ごと突き進む。
寸でのところで削板が煙の盾の裏から直接腕を突き立て、盾を支える。
削板「がああああああああああああああ!!!」
ようやく煙の盾は止まったが、光の柱はそれでも力を失わない。
次から次へと暴力的な波動が押し寄せ、煙の盾を突き破ろうとする。
463 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:03:48.73 ID:SwC35kKDO
横須賀「とんでもない光魔法だな。シスターなのに嘘吐いてるじゃねえか、インデックス。」
ダッ、と横須賀が煙の盾を迂回してインデックスへと近づく。
1対多数は根性なしのすることだが、相手がオーバーキルも辞さない武力で命を狙ってくるなら話は別だ。
このまま放っておけば、最悪第七学区が吹き飛びかねない。
横須賀「これも魔術なら」
『発条包帯』で強化された横須賀の肉体は常軌を逸して加速し、インデックスへと肉薄する。
そして、そのまま横須賀は巨大な魔法陣の左半円目がけてふりかぶる。
横須賀「こいつを壊せば消えるだろう!!」
ブン!! と横須賀の拳が放たれる。
ただでさえ【内臓潰し】という異名を持ち、人体を宙に浮かせるほどの拳だ。
それが『発条包帯』で強化されたとなれば、その破壊力は計り知れない。
464 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:04:50.70 ID:SwC35kKDO
横須賀「!?」
横須賀の顔が驚愕の色に染まる。
振り抜いた拳は途中で止められていた。
横須賀(なんだ……これは……!?)
そして、それは横須賀が経験したことのない止められ方だった。
横須賀の拳から『力』という概念が消えていた。
自分が振るった拳の破壊力はもちろん、拳に返ってくる衝撃すら消えていた。
故に反発力すら起きず、横須賀の拳は魔法陣に触れたと同時に静止している。
どんな衝撃吸収素材であろうとこんなことは起きたりはしない。
力を吸収するのではなく消失させるなど聞いたことがない。
465 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:05:42.54 ID:SwC35kKDO
横須賀「インデックス……!?」
次いで横須賀が何かに気を取られる。
それは魔法陣越しに見上げたインデックスの眼だ。
遠くでは見えなかったが、インデックスの眼には今インデックスの前に展開されている魔法陣と同じものが描かれていた。
そして、その異様な眼に気を取られたことが命取りとなる。
インデックス「第6章第9節『殉教者が血の復讐を求める』。即時発動」
横須賀「しまっ」
バン!! と黒い閃光が短く乾いた音とともに弾ける。
それと同時に横須賀の身体が空高く吹き飛ばされた。
466 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:06:38.97 ID:SwC35kKDO
削板「! モツ!?」
煙の盾で前は見えない。光の柱の轟音でほとんど何も聞こえない。
それでも横須賀が移動したことは分かったし、何かの爆発音は聞こえた。
そして、自身の後方で横須賀がとてつもない速さで為す術もなく地面を転がっていった音も。
削板「モツ!! 返事しろ!! モツ!!」
それでもあれは横須賀だ。
何度倒しても何度死にかけても不死鳥のように舞い戻り、立ち上がる根性を持った漢だ。
たった一度相手の攻撃をもらった程度でやられるはずがない。
削板「おい!! モツ!!」
しかし、後方からはなんの声も音もしない。
気配すら感じるコトはできなかった。
467 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:07:32.07 ID:SwC35kKDO
そして、とうとう煙の盾が限界を迎える。
光の柱が煙の盾を貫ぬき、煙の盾は霧散する。
削板「ああああああああああああ!!!」
それでも削板は抵抗する。
不可視の力を、根性を右手にすべて集中させ、光の柱を食い止める。
傍から見れば右手一本で光の柱を食い止めているように見えた。
削板「く、そおおおおおおおおおお!!!」
しかし、それも長くはもちそうになかった。
光の柱の圧力と不可視の力圧力で右手に激痛が走る。
そもそも不可視の力自体が光の柱に押されている。
468 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:08:55.23 ID:SwC35kKDO
削板(……何をしてんだ、俺は……)
必ず助けると言いながら、こんな状況に陥っている。
削板(結局、あれから何も変わってねぇってのか……)
1人よがりの根性で周りを巻き込み、救うことすらできず、敵対される。
削板(それどころか……)
また、自分のせいで死人が出た。
削板(俺には何も救えないのか……!)
もはや周りに仲間は誰もいない。
削板「……それに、こんなことを考えている俺が1番根性なし、だな」
ビキ、と嫌な音が右手から鳴った。
もはや押し切られるのは時間の問題だ。
長時間継続して全力を出し続けたせいで頭痛もしてきている。
右手の痛みが薄れる。
目の前が真っ白に染まる。
圧倒的な暴力に飲み込まれるように、意識がホワイトアウトしていき、世界が消えていた。
469 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:21:31.24 ID:SwC35kKDO
???「あだだだだだだだだだだだだだだだだ!!」
だが、目の前が真っ白になったというのに意識ははっきりしている。
痛みは薄れたというのにそれ以外の感覚はしっかりとある。
そこで削板はようやく気付く。
目の前が真っ白になったのも痛みが薄れたのもホワイトアウトしたからではない。
白い衣服を着た誰かが目の前に出てきたのだ。
その誰かとは
原谷「な、なにが最強の護身服だよインデックス! これすげぇゴリゴリくるじゃん!!」
自身には小さすぎる『歩く教会』を無理矢理身に纏ったメガネの少年。
削板の親友であり、削板と同じく呆れるほどの根性バカ。
原谷矢文が頼りないその身ひとつで圧倒的な暴力から削板を護っていた。
削板「原、谷……?」
思わず呆気にとられた削板は目の前の人間の名前をつぶやいた。
すると、痛さのせいか涙目になった少年は苛立ちながら、キッ、と削板に顔を向ける。
原谷「とっとと行ってこいよ根性バカ!! アンタが救わなかったら誰があの娘を救うんだ!!」
470 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:23:11.61 ID:SwC35kKDO
???「削板ァ!!」
続いて低い声が魔術の轟音を制して響き渡る。
その声の主は先ほど魔術にやられたはずの大男。
並み居るスキルアウトの中でも最強の一角。
削板「!! モツ! 無事なのか!?」
暗がりの中でうっすら見えるシルエットには見覚えがある。
筋骨隆々の巨体を誇る【内臓潰し】横須賀。
横須賀「俺がこの程度でくたばるはずがあるか!! とにかくあのマークをブッ壊せ!!」
削板「マーク?」
インデックスの方を指さしながら大男は叫ぶ。
横須賀「近くで見たらインデックスの目に同じものが描かれていた! アレを破壊すればインデックスも止まるはずだ!!」
確かにワイヤーか何かに吊られているようなインデックスの目の前には複雑な模様が描かれた、直径約2mほどの大きな魔法陣が展開されている。
そして、その円の中心部分から圧倒的な破壊力をもつ光の柱が出ている。
その円とインデックスの眼球が連動しているのなら、あるいはこのふざけた魔術を止めることも可能なはずだ。
削板「な…お前、あの一瞬で…」
横須賀「救ってこい! お前の根性で! すべてにケリをつけてやれ!!」
471 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:23:57.32 ID:SwC35kKDO
削板「……ハハ」
まったく、どいつもこいつも……
削板「ハッハッハ……」
我が仲間ながら……
削板「ハ――――ッハッハッハ!!」
天晴れな根性だ!!
472 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:25:33.89 ID:SwC35kKDO
インデックス「戦場の再検索、完了。削板軍覇の前に遮蔽物を確認。該当する霊装の検索、完了。『歩く教
フッ、とインデックスの前に白ランの男が現れる。
腰を落とし、右の拳を地面ギリギリまでにおろしている。
削板「おう!!」
ドゴム!!!! と、あろうことか削板は拳をマークの下にぶつけ、そのままカチ上げた。
そして、3色の光がその拳の軌跡としていつまでも空間に輝く。
削板が行った行為は単純だ。ものすごくモーションの大きいアッパーカットを魔法陣の下から放つ。
ただ、その動作を音速の3倍の速度で行ったのだ。
カチ上げられたマークはインデックスの身体を基点に四半円を描くように上を向く。
それに連動してインデックスの眼が、身体がマークとの平行を保ちながら上を向く。
放たれていた【竜王の殺息】はまるで大剣を振り上げるかのように上空に角度を変えて放たれる。
無限の射程を誇るその光は宇宙空間にまで届き、人工衛星すら破壊したかもしれない。
473 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:26:57.03 ID:SwC35kKDO
ピシリ、と数瞬遅れて巨大なマークに亀裂が入る。
そして、人ならざるモノから発せられた魔術は魔法陣の損傷によりかき消される。
インデックス「……特異な攻撃により『聖ジョージの聖域』の損傷を確認。術式の再構築を
削板「させるかぁ!」
バキィ!!! と、3色の光をまとった拳を以て、今度は更に踏み込んでから上を向いた魔法陣を横からフック気味に殴る。
すると今度はインデックスの身体はその場に留まらず、空中を転がるようにきりもみ状に吹き飛ばされる。
そして、吹き飛ばされた先で待ち構えているのは【ナンバーセブン】削板軍覇。
あろうことか殴り飛ばしたインデックスよりも速く動き、インデックスを待ち構えていた。
削板「上っっ等だ『イギリス清教』!!」
ズドム!!!! と常にインデックスの前に張られていた魔法陣のど真ん中に、三度削板の拳がたたき込まれる。
しかし、何が起きているのか分かる者はいない。
当然だ。超音速で短距離を反復移動する物体を見切る人間などいるものか。
インデックスの魔法陣にのみ正確に打撃を与えている削板が常軌を逸しているのだ。
474 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:27:59.32 ID:SwC35kKDO
カウンターの要領でさらに斜め上空へとインデックスの身体は吹き飛ばされる。
削板「テメェらがなんでも思い通りにできるってんならぁ!!」
ゴガン!!! と、今度は削板の脚が魔法陣を蹴り上げる。
もはや魔法陣は半壊している。
いたるところにヒビが入り、かろうじて型をなしているだけだ。
そして蹴り上げられたインデックスの真上には当然、誰よりも熱く、誰よりも愚直なヒーローが待ち構える!
削板「まずは!! その根性を叩き直す!!!」
ドッッパァアン!!!!! と魔法陣は豪快に四散し砕け散る。
そして、インデックスの解放を祝うかの如く盛大に赤青黄の3色の煙が地表から吹き上がり、夏の夜空を華やかに彩った。
475 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:36:01.29 ID:SwC35kKDO
横須賀「むおっ……、と」
トサリ、と横須賀は空から落ちてきた幼いシスターをしっかりキャッチした。
インデックスに衝撃がいかないように全身をクッションのように柔らかく使い、彼女の全身を静かに自身の腕の中に抱き入れた。
横須賀「……あの煙の中に叩き込んで落下速度を減速させた、か? 多分。」
少なくとももう少しマシな、というかせめて優しさあるやり方はないのか、と大男は軽くため息をついた。
横須賀「……それで?」
クルリ、と横須賀は首だけ右に回した。
原谷「……」
横須賀「……何してんだ? お前は」
先ほどまでかっこよく削板の盾となって身体を張っていたはずの原谷に冷たい視線を送る。
なんでここに戻ってきたんだ、などと咎めるつもりはさらさらない。
ただ、今の原谷は地面を転げ回った挙げ句、頭頂部を地に付け、腰を高々と上げ、脚の間から横須賀を覗くという体制をとっていた。
例えるなら前転を途中で止めたような体制だ。
原谷「そりゃあね、音速で動く物体があんな至近距離を通り抜ければソニックブームのひとつやふたつ直撃しますよ。
断言しますけど、この服なかったら僕の身体今ごろバラバラですよ。アンタたちと違って人間の身体してんだから」
横須賀「失敬だな。人を化け物みたいに言うな。」
原谷「ちゃっかりインデックスの落下点に間に合ってるヤツが何言ってんだバカヤロー」
よいしょ、と原谷は起き上がり白い修道服についた土を軽く払った。
原谷「うへえ、背中のとこボロボロだよ。あとでインデックスに怒られる」
ふ、と横須賀は軽く笑いながらインデックスを抱えたまま原谷へと歩み寄る。
横須賀「ボロボロにしたのはインデックスだ。どちらかと言えばお前が勝手に着たことに怒るかもな。」
原谷「シスターの心がそんなに狭かったら泣きますよ」
476 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:36:57.26 ID:SwC35kKDO
そして、むちゃくちゃな力技で囚われのシスターを救ったヒーローがスタッと横須賀の近くに着地した。
横須賀「……何をしたんだ?」
削板「拳を4発と蹴りを1発! 叩き込んできた!」
原谷「最初の1発すらよく分かりませんでしたよ。地面転がってたから」
横須賀「俺は何かが連続で爆発したとしか思わなかったな。」
削板「根性の赴くままに動いたからな!」
原谷「相も変わらずむちゃくちゃだよこの人。……しっかしまあ、そんな目にあったっていうのに……」
そう言って原谷は横須賀の腕に収まっているインデックスへと顔を向ける。
横須賀「……よく眠っているな。疲れていたのだろう。」
横須賀と削板も同じく顔を向ける。
そこには何事もなかったかのようにすやすやと寝息を立てているインデックスの寝顔があった。
その寝顔はあまりにも純粋無垢で、あまりにも安らかだった。
まるで母親に抱かれた赤子のように、すべてに安心し切ったその表情に、3人は気付いたら微笑んでいた。
ぐちゃぐちゃになったグラウンドやさっきまでの轟音とのギャップを生み出している静寂が、より3人に安らぎを与えていた。
477 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:37:41.14 ID:SwC35kKDO
削板「お? なんだアレは」
そして、さらにその場にいる者たちを癒すかのように、淡く光る無数の羽根が幻想的にひらひらと降りてきた。
原谷「きれーだなー……でもインデックスが横須賀さんの腕の中ってのがなぁ……」
横須賀「ああ、我ながら適役にはほど遠いと思っている。」
削板「ハッハッハ! 何はともあれ! これで一件落着だな!」
478 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:43:46.92 ID:SwC35kKDO
カッ、とインデックスの眼が見開かれる。
原谷「え?」
そして、その瞳には消え失せたはずの複雑なルーンが描かれていた。
横須賀「なっ」
ブアッ!! とインデックスの身体から見えない衝撃波が発せられる。
削板「ぐおっ!?」
その衝撃波で3人は別々な方向に十数メートルほど吹き飛ばされる。
削板と横須賀は受け身を取り、原谷は為す術もなくさらにゴロゴロと転がっていった。
削板「まさか……」
横須賀「……ちっ、カンが外れたな……」
二人は起き上がると同時に、前方に広がる光景に絶望した。
原谷「な、何が……って、え?」
少し遅れて原谷も起き上がる。そして、同様に絶望する。
3人が目にした光景。それは
インデックス「『聖ジョージの聖域』修復完了。
警告、第6章第13節。攻撃対象、削板軍覇から3㎞半径に生存するすべての生命体に変更。
『書庫』の保護を最優先し、魔導書の知識を略奪する可能性があるすべての要因を徹底的に排除します」
『自動書記』を覚醒させた、【魔神】インデックス。
479 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:45:53.67 ID:SwC35kKDO
ワイヤーに吊り上げられたかのように宙に浮くインデックス。
まさに絶望的な展開だ。
仮にあのマークを破壊してもまた再生してしまうのなら終わりがない。
削板「……本当に見上げた根性だな、インデックス。だが、俺は根比べなら絶対負けんぞ!」
しかし、その程度で【ナンバーセブン】は絶望しない。
信頼できる仲間と己の根性さえあればこんな状況はいくらでも跳ね返せる。
だが、
インデックス「特異な攻撃の解析、完了。ローマ神話における【軍神】マールスの類似系統の力と断定。
『歩く教会』への対抗術式、検索完了。前述の攻撃への対抗術式との融合、可能。術式の再構築を始めます」
横須賀「……!」
原谷「え、こ、これってまさか……」
インデックス「対ローマ神話用の術式と対十字教用の術式を融合中。
第1式、第2式、第3式、第4式。命名。『底知れぬかぎと大きな鎖』。
半径3Km圏内の生命体への術式を構築。第35章第18節『硫黄の雨は大地を焼く』。同時展開。完全発動まで20秒」
削板「!!」
キン、キン、とインデックスの前に先ほどと同じように魔法陣が、そしてインデックスの上空を中心に巨大な魔法陣が展開される。
インデックスの前に展開された魔法陣は先ほどよりも複雑になっており、鮮やかな深紅からドス黒い血のような色に変わっていた。
上空に張られた巨大な魔法陣に至ってはもはや全体図が分からない。
インデックスの言っていたことが本当ならば、3Km先までこの魔法陣が広がっているはずだ。
480 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:47:21.64 ID:SwC35kKDO
そして、さらに削板たちを絶望させる要因は続出する。
原谷「ちょ、ちょっと! アレ!」
ボコリ、ボコリ、とインデックスの周りに1m大のクレーターができていく。
その原因は先ほど空から降ってきていた無数の羽。
それが地面に触れた瞬間、物理的にあり得ない破壊力を生み出し、クレーターを作っていた。
原谷「ヤバいですよ! インデックスは今『歩く教会』を着てないんですから! あんなのが当たったら!」
削板「クソ! 次から次へと!」
横須賀「とにかくまずはインデックスの位置をズラすぞ! 俺が気を引く! その隙に―――!?」
ふいに、横須賀の声が途切れる。
削板「!? おい! どうしたモツ!」
削板が横須賀の方を向くと、横須賀は左の膝を付き、その表情は苦悶に満ちていた。
横須賀(――嘘だろう!? もうか!?)
その原因は魔術ではない。
自身の身体を無理矢理強化するために身体中に貼りつけた『発条包帯』。
その副作用が出てきてしまっていた。
横須賀(肉離れ……! こんな時に!!)
恐らく、普通に動くだけならまだ肉離れなど起きていなかっただろう。
だが、インデックスの攻撃により2度も吹き飛ばされ、その度に無茶な体勢を強いられていたのだ。
普段は使わない筋肉。普段とは違う筋肉の使い方。
それが『発条包帯』を巻いた横須賀の肉体にただならぬ負担を与えていた。
481 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:48:02.09 ID:SwC35kKDO
そうこうしているうちにもインデックスの魔術は進行していく。
インデックス「完全発動まで10秒」
バギン! とインデックスの前に展開されている魔法陣の中心部分が裂ける。
天空に広がった巨大な魔法陣はより強烈に光り始める。
削板「くっ、原谷! モツを連れてけ!」
原谷「連れてけったって…!」
横須賀「かまうな!! まだ動ける!」
インデックス「カウント、7、6、5」
これ以上はマズい。
数秒後に始まるであろう大殺戮を止めるため、【ナンバーセブン】は駆け出した。
482 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:48:53.06 ID:SwC35kKDO
ズドドドドドド!! と、空から光の矢が降り注いだ。
インデックスのカウントダウンが終わるよりも早く、巨大魔術が発動した。
483 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:52:24.40 ID:SwC35kKDO
そして、それは奇跡だった。
原谷「……あれ?」
横須賀「ぬ……?」
削板「……インデックス?」
巨大魔術が発動した範囲はほんの一部だった。
光の矢は学園都市に存在する誰をも傷つけなかった。
放たれた光の矢が貫いたモノはグラウンドと空中を舞っていたすべての青い羽のみだった。
インデックス「―――外部からの命令を受信。命令に従い、『自動書記』を終了します」
フゥッ、と魔法陣が霧のようにあっさりと消える。
それとほぼ同時にインデックスの身体がゆっくりと地面に降りていく。
そして、そのままぐちゃぐちゃになったグラウンドの上で静かに横になった。
484 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:53:12.55 ID:SwC35kKDO
原谷「……終わった、んですか?」
横須賀「知らん。だが、外部からの命令?」
削板「いったい誰が……」
命令などという簡単な理由で大殺戮は中止された。
未曾有の危機が一転して呆気ない幕引きを迎えたことに対して、現場にいた誰もがついていけなかった。
そもそも誰がインデックスに命令を下せるというのだ。
485 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:55:04.27 ID:SwC35kKDO
だが、その答えは簡単に見つかった。
???「どうやら……」
???「間に合ったようだね……」
削板たちの後ろからかすかに声が聞こえた。
その声は聞き覚えのある声だった。
3人が一斉に振り向くと
神裂「くっ……」
ステイル「……」
すべての力を使い果たし、血まみれの状態で倒れこむ魔術師たちがいた。
男の方は女に背負われてきたらしく、女が倒れこむと同時に女の背から滑り落ち、地面に吸い込まれていった。
そして、2人の手には杖のようなものが握られており、2人は決してそれを離さなかった。
それは『イギリス清教』と『英国王室』がそれぞれ1つずつ保有している『遠隔制御霊装』。
インデックスを救うために魔術師たちが命懸けで『イギリス清教』から強奪してきたものだった。
486 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:56:42.24 ID:SwC35kKDO
ステイル「インデックス……」
ズズ……、とステイルが右手を杖から放してその手で地面を掴み、その地を這う。
ステイル「待ってろ、インデックス……いま助ける……!」
息も絶え絶えに、満身創痍の身体を懸命に引きずり、地面を這いながらステイル=マグヌスは少しずつインデックスに近づいていく。
原谷「ちょ、ちょっと……」
その様子を見ていた原谷がステイルに駆け寄る。
最も近くにいたからなのか見ていられなかったのか、立ち上がることすらできない魔術師を不審に思ったのか、理由は分からないが。
原谷「っ!?」
思わず原谷は息を飲む。
自分が近づいた理由を理解した。違和感を覚えたからだ。
魔術師の身体は物理的に立ち上がることができなくなっていた。
―――彼の右足は太ももから先がなくなっており、彼の左腕は二の腕の途中から消えていた。
487 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 16:57:56.46 ID:SwC35kKDO
神裂「待って、つっ……!」
地面に倒れこんだ神裂火織がなんとか上半身を起こすが、それと同時に頭を抱え込んだ。
彼女の身体は五体満足ではあるが、彼女の頭はとてつもない激痛に襲われていた。
『自動書記』を操ることすらできる『遠隔制御霊装』が無条件で使えるはずがない。
一度それを使えば【原典】における知識汚染が始まってしまう。
もちろん、神裂は【原典】の知識を覗くのではなく『自動書記』を強制終了させるために使った。
しかし、発動寸前の魔術が彼女の脳に悪影響を与えていた。
それでもその痛みを無視し、血まみれの身体で神裂は同僚に向かって叫ぶ。
神裂「待ってください! ステイル! そのままでは、あなたの命が!!」
ステイル「かまうものか!! 彼女のために死ねるなら本望だ!!」
しかし、それでもステイルは止まらない。
右腕一本でゆっくりと、確実にインデックスに近づいていく。
ステイル「ハッ……ハッ……イン、デックス……!」
488 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:01:50.53 ID:SwC35kKDO
ザ、と2本の足がステイルの目の前に現れた。
ステイル「ハッ………ハッ………」
見上げると、かつて立ちはだかった白ランの超能力者が再び立ちはだかり、無表情でステイルを見下ろしていた。
削板「……」
ステイル「……どいてくれ」
しかし、削板は動かない。
無表情のままステイルを見下ろし続ける。
ステイル「っああ、大丈夫だ。彼女の記憶を消すつもりはない。ハッ、彼女のノドに刻まれているルーンが原因なんだ。
ボクが診れば彼女は助かるんだ。ッハァ、ルーンのことでボクの右に出るヤツなんてこの世にいない。っく、必ず解析してみせる……!」
息を切らしながらも一気にまくし立てる。
自分たちが持ち帰った値千金の情報を叩きつける。
489 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:03:19.44 ID:SwC35kKDO
しかし、それでも削板は動かない。
ステイル「―――どけよ!! 超能力者!!」
憤怒の形相になりながら弱々しい渾身の力で、ステイルは削板の左足を握った。
ステイル「今までボクがどれだけこんな展開を待ち焦がれていたと思っている!!
彼女の敵にならず、彼女だけのヒーローになってかっこよく彼女を救い出す!! そんな都合のいい展開を!!」
ゴボリ、とステイルの口から血の塊が吐き出される。
それでも彼は叫ぶことをやめない。
ステイル「ゲホッ、ゼェ、ボクのこの手で、彼女を救うんだ!! 彼女のために生きて死ぬと誓ったんだ!!
ようやく悪役から主人公になれるんだよ!! 手を伸ばせば届くんだ!! ボクの安い命1つで救えるんだ!!
彼女はもう苦しまなくていいんだ!! 彼女はもうこれ以上死ぬ必要はないんだ!! 彼女は!!! 救えるんだ!!!」
490 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:04:36.77 ID:SwC35kKDO
ステイル「だから……」
ステイル「だからどいてくれよ……超能力者……」
491 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:06:34.86 ID:SwC35kKDO
ふぅ、と削板は軽くため息をついた。
削板「俺もまだまだ修行が足りんな」
ガシリ、とステイルの右腕を掴み、引き起こす。
ステイル「ぐああっ!!」
あまりの激痛にステイルは大声をあげる。
満身創痍の身体を無理やり動かせば全身に痛みが走るのは当然だ。
だが、削板はそこからは丁重に、敬意を持ってステイルの腕を自身の首に回した。
ステイル「ハァ……ハァ……?」
削板「お前ほどの根性の持ち主を根性なしだと思いこむとは」
そして、そのままインデックスのもとへと歩いていく。
超能力者が魔術師に肩を貸し、共に歩んでいく。
科学と魔術が交差した瞬間だった。
削板「たがな、インデックスに謝りもせずに死んでいくなどという根性のない真似は許さん。
ちゃんとインデックスに頭下げて謝れ! 今から何をするのか知らんが、根性で生き延びろ!! 魔術師!!!」
ステイル「……ハァ……ハァ、っ上等だ!! 超能力者!!!」
492 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:07:28.33 ID:SwC35kKDO
冥土返し「盛り上がってるところ悪いんだけどね?」
ヒョコ、と削板とステイルの前にカエル顔の医者が現れた。
削板「先生……?」
ステイル「……? 誰だい? キミは」
冥土返し「ボクかい? ボクは医者だね?」
瞬間、ステイルの表情が変わる。
ステイル「医者だと!? キミたちは彼女をこの街の医者に診せたのか!?」
削板「あ? ああ。それが
493 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:09:06.69 ID:SwC35kKDO
ズドン!! という音が後方から聞こえた。
ズザザザザザ、という音が削板たちのすぐ後ろで止まった。
振り返ると神裂の突進を横須賀が腰を落として左肩を神裂の腹に入れる形で止めていた。
おそらくはずっと後ろで神裂を止めようとし、ここまで押し切られたのだ。
横須賀「~~~っ!! これ以上俺の身体を酷使させてくれるな。いい加減限界だ。」
神裂「だったら大人しくしててください!!」
横須賀「ふざけるな!!! テメェ今先生に何しようとしやがった!!!」
よくよく見ると、神裂は手に刀をかけていた。
それを横須賀が肩と胸を使って抜かせないようにしていたのだ。
ステイル「ええい放せ!! やはりキミたちにインデックスを任せたのは間違いだった!!」
次いでステイルが削板を振り払おうと暴れだす。
削板「お、おい! なんだってんだ!」
ステイル「キミは彼女が何者か理解していないのか!?
10万3000冊の魔導書を記憶した脳を持っているんだぞ!? それをこの街の医者に診せればどうなるか分かるだろう!!
貴重なサンプルとして脳を奪われ!! 知識を吐き出すための存在として半永久的にホルマリン漬けにされるのが関の山だ!!」
削板「なっ、先生がそんなことするはずないだろ!」
ステイル「そんな確証がどこにある!!
魔術を知りもしないこの街の医者が目の前に広がる未知の知識の山を見て何もしないはずがないだろう!!」
494 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:10:43.49 ID:SwC35kKDO
冥土返し「ちょっと失礼?」
ぐちゅり、とカエル顔の医者がステイルの左腕の断面に指を突っ込んだ。
ステイル「ぐわあああ!?」
神裂「ステイル!」
削板「お、おい、先生!?」
ステイルが叫び、神裂が案じ、削板が困惑する。
しかし、それらをすべて無視して【冥土返し】は真剣な表情で触診を進めていく。
冥土返し「ふーむ、キミたちはどうやら慌ててここにきたようだね?
身の回りにあったモノに魔術的な意味を持たせて回復魔術を行い、応急処置を施したのかな?」
ステイル「!?」
神裂「えっ……」
495 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:12:40.60 ID:SwC35kKDO
冥土返し「イヤ、応急処置にしては精度が高すぎる……これは自分でかけたのかい?」
ステイル「……」
神裂「……いえ、私と、私の仲間が……」
冥土返し「そう……ああ、そうだったね。日本には迫害を逃れるために身の回りのモノを使って魔術を行う
魔術結社が400年もの間存在しているとか。たしか結社の名前は『天草式十字凄教』。キミはその構成員の1人ということかな?」
神裂「はい……」
ステイル「キミは……魔術を……?」
冥土返し「ボクは患者を救うためならどんな知識でも吸収する。
……魔力を練るのがド下手なのと、科学の方が無理なく患者を救えると信じているから科学医療しかしないけどね?」
困惑する魔術師2人に対し、【冥土返し】はにっこりと笑ってみせた。
冥土返し「さっきのオペではルーンの周りにメスを入れるところまでは問題なかった。
つまり、切除の瞬間だけさっきのように彼女の暴走を抑えれば彼女の魔術を科学的に解ける。
切除の段階だけなら、ボクは最速で2分で済ませられる。
とはいえ、ボクはただの脇役だ。キミたちが彼女を救う。その救出劇を、どうかボクにも手伝わせてくれ」
そう言って【冥土返し】は2人の魔術師に深々と頭を下げた。
496 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/13(土) 17:15:15.39 ID:SwC35kKDO
神裂「……」
ステイル「……答えてくれ」
冥土返し「うん?」
ステイル「彼女はもう、記憶を消さなくて済むのか?」
冥土返し「ああ」
神裂「……うぅ」
ステイル「ボクたちは、もう、彼女の記憶を消さなくて済むのか?」
冥土返し「ああ」
神裂「うぅぅ、ヒッグ、うあああ……」
ステイル「ボクたちは、もう、彼女を、殺さなくても、いいのか?」
冥土返し「ああ」
神裂「うあああああ、グズッ、うあああああああ」
ステイル「彼女は、救われるのか?」
冥土返し「ああ。約束する」
神裂「うわああああああん!! うわああああああああああ!!」
ステイル「ああ……! よろしく、お願い、します……!!」
511 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/14(日) 21:52:03.91 ID:ToVS3gdDO
聖人の突進を生身で止める横須賀さんマジ横須賀さんww
512 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/14(日) 21:52:41.16 ID:aG+ZUvUp0
ステイルが格好良すぎる
513 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/14(日) 22:28:03.47 ID:ZIrtbg5p0
乙
根性すげぇ
521 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 21:59:15.05 ID:Ru06+pUDO
-学園都市、第七学区『窓のないビル』
冥土返し『よくも適当なこと言ってくれたね? アレイスター』
アレイスター「はて、なんの話だ?」
冥土返し『キミを信用して執刀してみたらえらい目に遭った。危うく死人が出るところだ』
アレイスター「だが、結果として死者は出ていない。万が一のことも伝えたはずだが?」
冥土返し『結果論だね?』
アレイスター「幸運を一手に受け続ける【聖人】が削板軍覇に諭され、真相を知り、
『【禁書目録】の記憶消去』でなく『【禁書目録】の救済』を望み続けた。
この結果以外は起きえない。もしも現場に『幸運をも消し去る何か』があったら話は別だが」
522 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:01:12.82 ID:Ru06+pUDO
冥土返し『……これもキミの『プラン』のうちかい?』
アレイスター「ああ、もちろん」
冥土返し『……ボクは患者の望むモノはなんでも用意する。
だが、その望みが他の患者を害するのであれば、キミと対立しなければならない。
たとえば、今回のような『プラン』なんかはボクとしては認められない範囲だね?』
アレイスター「何を言う。今回の件はこの段階に限定すれば数ある『プラン』候補の中でも最小限の被害、最大限の利益だ。
誰も記憶を失わず、誰も死んでいない。加えて、全員が全員救われた。他の『プラン』ではこうはいかない」
冥土返し『これが最善だったって言うのかい?』
アレイスター「いかにも
」
冥土返し『……いいだろう。だが、さっき言ったコトを忘れないでほしいね?
もしもキミの『プラン』がボクの患者に大きな実害を与えるようなら、ボクも相応の対応をとる。いいね?』
523 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:02:45.20 ID:Ru06+pUDO
<ブツン
アレイスター「……とはいえ、【聖人】が強く望んだ願いは『【禁書目録】の救済』のみ」
アレイスター「科学・魔術の両サイドで人的被害0という数字は、実際は『プラン』を大きく上回った」
アレイスター「相変わらず私の『プラン』の上をいく男だ」
アレイスター「……Level5【幻想殺し】【虚数学区】『AIM拡散力場』……。
中でもLevel5の序列は『プラン』における重要性の度合いをも表している……が」
アレイスター「第七位削板軍覇はむしろ『プラン』の後にこそ必要だ」
アレイスター「すべてを破壊し、すべてを創造した世界で、ヒトが生きていくチカラ」
アレイスター「すなわち『根性』。……どこまでヒトが絶望に逆らえるか。
そして、どこまでヒトに可能性があるのか。『プラン』を進行させるとともに見させてもらおう」
524 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:05:16.65 ID:Ru06+pUDO
-英国、???
ローラ「あらあら、英国王女に騎士団長」
エリザード「……」
騎士団長「……」
ローラ「【王室派】と【騎士派】のトップが揃ってかようなところにまで見舞いに来てくれるとは。身に余る光栄なり」
エリザード「……」
騎士団長「本当に見舞いに来たと思っているのか?」
ローラ「……」
騎士団長「【禁書目録】と『遠隔制御霊装』の2つが科学サイドの総本山、
【最悪の魔術師】が潜伏している可能性がいちばん高いところの手に渡った。
これがどれだけの失態で、どれだけ英国に不利益で、どれだけ科学と魔術のバランスを崩すか、分からぬ頭ではあるまい」
ローラ「……」
エリザード「それにな、たとえ当世一のルーンの天才と【聖人】を同時に相手取り、
『天草式十字凄教』が秘宝まで持ち出そうとも、お前が『ランベスの宮』で敗北するなんてことはあり得ないんだよ」
ローラ「!」
エリザード「責任問題どころの話じゃない。お前は『わざと』敗北し、魔術サイド全体を危険においやったんだ」
525 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:07:09.59 ID:Ru06+pUDO
ローラ「……それで? いったい何が望みなりや? 私の職務的な首? 私の物理的な首? 両方かしら?」
騎士団長「いい覚悟だ」
エリザード「待て待て騎士団長」
騎士団長「……はっ」
エリザード「まったく。別にお前を葬るつもりなんかありゃしないさ」
ローラ「なに?」
エリザード「以前、私が時の内閣の行き過ぎた『懸け橋外交』を御し切れず、中東の混乱を招いた。
その時、お前は私がある事実を黙認することを条件に私の退陣を追及しなかった。その借りを意趣返しで返そう」
騎士団長「我々【騎士派】は反対なのだがな。王女の寛大な処置に感謝しろ」
ローラ「……本当なりや?」
エリザード「【清教派】にお前以上の手腕の持ち主がいるのか? この非常事態に対処できる人間が」
ローラ「……」
エリザード「それに、まあ、なんだ。私とて人の親だ。お前の気持ちも分からなくはない」
526 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:09:51.17 ID:Ru06+pUDO
ローラ「……そう。して、条件は?」
エリザード「なに、簡単だ。学園都市側から請求書がきてる。コレを全部【清教派】が負担しろ」ピラッ
ローラ「請求書?」
エリザード「学園都市で起きた戦闘での被害総額だそうだ。即払いを希望してる。
えー、ビルの壁、ビルの窓、ビル内の備品、ビルに入ってた企業の業務上の損害金、コンクリート道路延べ60m×10m分、グラウンドの修繕費、
医療機器多数、【禁書目録】の治療費、学園都市生徒の治療費、ステイル神裂両名の治療費、高性能義手義足、その他諸々に対する慰謝料、etc……」
ローラ「」
エリザード「はー、やはり学園都市製の医療機器なんかは高価だな。
見ろコレ、被害総額全部あわせれば地方都市の上半期予算くらいあるぞ」ヒラヒラ
ローラ「こ、この、何が寛大な処置だというの!? 【清教派】を弱体化させる魂胆が丸見えなりや!?」
騎士団長「十分寛大で、おまけに幸運な数字だ。報告では『竜王の殺息』が空に向かって放たれたという。
これで学園都市製の衛星か何かに『竜王の殺息』が直撃していたらこんな数字では済まなかったぞ」
エリザード「ま、もしかしたら我々には言えないような衛星に直撃していたかもな。
それに安心しろ。ちょっとくらいなら国家予算で立て替えてやらんこともないぞ」
ローラ「……それで【清教派】から優位に立ちけると?」
騎士団長「これだけのコトを起こしておいて何を言っているのか」
エリザード「どのみち、こちらの切り札が学園都市にある段階で学園都市と不仲になるのは非常にマズい。
多少の無茶は道理を引っ込めてでも通さんとならん。
おそらく向こうもそれを見抜いた上で実際よりも大きい金額をふっかけてきてるな。頭のいいヤツだよ」
ローラ「……見抜いているのはお前の思惑もだろうに」
エリザード「お? 何か言ったか大戦犯!」
ローラ「分かりにけり。3割を立て替えてくれるならば払いたむる」
エリザード「そうかそうか。いい判断だ!」
騎士団長「……では、交渉成立ということで」
ローラ「ええ」
エリザード「じゃ、達者でな! 養生しろよ!」
527 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:11:01.21 ID:Ru06+pUDO
<バタン
ローラ「……やれやれ、これでしばらくは【王室派】の言いなりなり」
ローラ「……人の親、か。ふふっ、申してくれる」
ローラ「あの子が自由になれる可能性があるのなら……
あんな姿になってもあの子を救わんとしてくれる友がいるなら、封じていた情も湧くというもの」
ローラ「【清教派】のトップである前に、私も人でありにける、か」
ローラ「ねえ、かわいいかわいい私のインデックス」
528 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:16:47.71 ID:Ru06+pUDO
-学園都市、第七学区とある病院
時刻は昼過ぎ、第七学区にあるとある病院のとある病室のベッドの上で、身体にチューブやコードをつけられた右足と左手がない人間がもぞりと動いた。
ステイル「う……」
それと同時に手足が片方ずつない人間――ステイル=マグヌスはうっすらと目を開ける。
神裂「ステイル! 起きましたか!」
彼を見舞いに来ており、近くの丸イスに腰をかけていた神裂火織は少し驚いたように、そして安堵したように声を上げた。
ステイル「神裂……。……そうだ! 彼女は! っつ!」
ガバリ! と掛け布団をはねとばして起き上がろうとすると同時にステイルは顔を歪める。
未だに完治していない身体を急に動かしたせいで全身に激痛が走っていた。
神裂「落ち着いてください! 彼女なら無事です! 無事ですから!」
その様子を見た神裂が慌てて丸イスから立ち上がり、ステイルを押さえ込む。
押さえ込むことで余計に激痛を与えることになるが、このまま身体を起こさせるよりはマシだと判断したのだ。
529 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:18:07.62 ID:Ru06+pUDO
そして、神裂の言葉を聞いた瞬間、ステイルの動きがピタリと止まった。
ステイル「……本当かい?」
神裂「ええ。少し入院しましたが、とうの昔に退院してます」
うなずきながら神裂が答える。
その答えに嘘はないと確信すると、ステイルは全身から力を抜き、すべてをベッドに預けた。
ステイル「よかった……」
心から安堵した表情を浮かべるステイル。
それを見て神裂もホッとしたように微笑み、掛け布団をステイルにかけ直してから丸イスに再び腰を掛けた。
530 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:19:51.90 ID:Ru06+pUDO
ステイル「……ボクはどれくらい眠っていたんだい?」
神裂「ざっと一週間ほど……あの医者曰く、疲労とダメージがあり得ないほど蓄積されていた、と」
ステイル「そうかい。その間に『必要悪の教会』の追っ手は? 彼女には彼らがついているから大丈夫だとは思うけど……」
今回の一件で『必要悪の教会』はおろか『イギリス清教』からも追放される身になったことは間違いない。
ステイルと神裂がやったことは完全に反逆罪だ。
となれば、いつ『イギリス清教』の対魔術師用の実働部隊である『必要悪の教会』が2人を捕らえにくるか分からない。
神裂「今のところは特に……。あの日、彼女は私たちの予想以上に大暴れしていたみたいです。
さすがに表向きは隠ぺいされてますが、この街の上層部は事情を把握しているようです。
あの医者の話ではすでに上層部が『イギリス清教』と『英国王室』にクレームをいれたとか。
その状況でさらに魔術サイドの兵を投入すれば学園都市との関係の悪化は必至です。しばらくは向こうも様子見かと思われます」
イギリスにとって友好関係にある学園都市との関係をこじれさせるのは好ましくない展開である。
おまけに【禁書目録】が『遠隔制御霊装』で操れる状態で学園都市にいるのだ。
イギリスの人間が学園都市で散々暴れた上にさらに学園都市で暴れるとなれば学園都市も黙ってはいない。
【禁書目録】を人質として使うことも、場合によっては無理やり兵器として使うこともできるのだ。
531 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:20:57.90 ID:Ru06+pUDO
ステイル「……なるほどね、うっすらとした大局は理解したよ。
しかし、一週間か。それにしては一緒に行動していたキミはピンピンしてるみたいだけど」
神裂「私も入院しましたよ? すでに退院しましたが」
ステイル「ハハ、さすがは【聖人】様だ。凡夫たる自分が惨めに思えてくるよ」
神裂「……あなたが私よりも身を呈して彼女を救った。そう捉えることはできませんか?」
ステイル「ああ、ならそういうことにしておこうか」
と、ここまで話してきて神裂はふいにステイルに違和感を覚えた。
神裂「……なんだか少し明るくなりましたか?」
先ほどから皮肉っている割には声質も顔色も明るい。
皮肉っているというよりはおどけているという方が正しい表現だった。
ステイル「彼女が救われたんだ。暗いままでいろという方がムリだろう?」
神裂「……ふふっ、そうですね」
あまりにも納得のいく答えを受けて【聖人】神裂火織は顔と肩の筋肉を緩めた。
ステイル「ハハハ、どうやらキミも同じようだね。キミのそんな顔を見たのは久しぶりだ」
532 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:23:34.80 ID:Ru06+pUDO
ステイル「その様子だと『天草式』の面々も無事なのかな?」
神裂「ええ、全員無事にイギリスを脱出して日本に帰国しています。逃げに撤した彼らを日本国内で捕えることは難しいでしょう」
ステイル「そうか。彼らにも世話になった。いずれ礼をしたいんだけど……」
神裂「まずは身体を治してからです」
ステイル「ああ、そうだね」
神裂「科学医療は不得手ですのでこれらのチューブやコードが
どんなものなのかは分かりませんが、あの医者が施したものならば間違いはないでしょう」
ステイル「ちがいない。ボクもかろうじて点滴が分かるくらいで他はさっぱりだけど」
ステイル(……うん? ボクは一週間寝たきりだったのだろう? その間の排泄とかはどうなってたんだ?)
ステイル(栄養接種の方は点滴だろう? 液体に養分を混ぜて補給したとして、水分はどうなる?)
ステイル(状況が状況だけに何もノドを通らなかったからそっちはいいとして、水分だけはどうしようも……)モゾ…
ステイル「」
神裂「? どうかしましたか? ステイル」
ステイル「……ボクの下腹部のあたりからチューブが伸びてないかい?」
神裂「はい? ……ええ、掛け布団で詳細な位置は分かりませんが、それとおぼしきものはあります」
ステイル「そのチューブは何に繋がっている?」
神裂「密封された真空パックのようなものですね。中に黄色い液体が入ってます。これも何かの薬用液でしょうか?」
ステイル「……数世紀前の消毒液だよ。まったく、これだから科学は……」ハァー…
神裂「?」
533 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:25:01.18 ID:Ru06+pUDO
ガラリ、と病室の扉が開かれ、誰かが病室に入ってきた。
冥土返し「おや、起きたみたいだね?」
その人物はこの都市で一番の腕を誇るカエル顔の名医だった。
白衣を纏い、いつもの柔和な顔でステイルの病室を訪れていた。
ステイル「おかげさまで。今は科学医療を満喫していますよ」
冥土返し「それはなにより。科学医療も悪くないだろう?」
ステイル「ええ、これらのチューブやコードが誰の手によってつけられたかを想像すると色々複雑な感情に駆られますよ」
神裂「?」
冥土返し「起きてすぐにそこまで喋れて精神的に余裕もあるなら大丈夫そうだね?
ちなみに、それらをやってくれたのはボクのイチオシのナースだ。キミの担当にしたから外すのも彼女だね?」
ステイル「」
神裂「???」
534 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:26:32.58 ID:Ru06+pUDO
冥土返し「さて、ちょっと真面目に聞こうか。身体の調子は?」
ステイル「全身に鈍い痛みがある上にダルさがとてつもないですね。頭もぼんやりしてます」
冥土返し「ふむ、順調な経過、というところだね?
一応ボクの方で診断した時、呪いの類いはかけられてないと判断したけど、専門家の目からはどうだい?」
ステイル「……、おそらくは大丈夫かと。今まで洗脳されていたことに何年も気付かなかったこともあるので自信はありませんが」
冥土返し「結構。それと、キミの右足と左手の件だけど、ボクの方で義足と義手を作らせてもらってもいいかい?」
ステイル「いいんですか? 下手すると口座が凍結されている可能性があるので大したお支払いはできないかと思いますが」
冥土返し「ああ、金銭面は考えなくていい。補助金がかなり出てるから問題ないね?」
ステイル「補助金?」
冥土返し「当然だね? キミたちは見方よっては学園都市をも救ったヒーローなのだから」
神裂「そんな、私たちが元凶のようなものですのに……現にこの街の上層部はクレームを入れているはずでは?」
冥土返し「この街の上層部にも色んな人間がいるからね? それで、作ってもいいかい?」
ステイル「ええ、それならばお願いします」
冥土返し「うん。なるべく魔術の行使に影響のないものを作ってみせるよ」
535 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:28:49.20 ID:Ru06+pUDO
ステイル「では、今度はこちらから質問です」
ベッドで横になったまま、今度はステイルの方が問いかける。
その内容はステイルがいちばん気になっていたことだ。
冥土返し「うん?」
ステイル「インデックスについて、あなたの口から聞きたい」
それはインデックスの容態。
神裂の口から安否は聞いていたが、やはり担当の医者の口からしっかりと聞いておきたかったのだ。
冥土返し「ああ、何も問題はないね? 手術は無事に成功したし、経過も良好。
退院して普通に食事をとれるまでに回復しているよ。声の方も以前となんら変わりない」
その問いに対して、カエル顔の医者はにっこりと笑って返答した。
そして、ステイルの方も再び安堵したように笑顔になった。
ステイル「そうですか……はじめて会った時には散々疑ってしまった。
にもかかわらず、ボクや彼女の命を救ってくれた。いくら謝罪しても感謝してもしたりません」
神裂「私からももう一度、非礼のお詫びと感謝の念を言わせてください。
本当に申し訳ありませんでした。そして、本当にありがとうございました」
そう言って、魔術師の2人は深々と頭を下げた。
冥土返し「気にすることはないね? キミたちの判断は正しい。ボク以外の人間だったら……
特にボクの嫌いなあの一族だったら迷うことなく彼女を文字通りの『図書館』にしていただろう」
カエル顔の医者は苦笑する。
現に学園都市には魔術師が考えるような医者や科学者が大勢いるのだ。
ヒトを人間として扱わず、実験材料や進歩のための生け贄としか見ない者たち。
しかし、そういった科学者たちがいるからこそ学園都市が周りを置き去りにして科学の最先端を走ることができるというのも事実なのだ。
魔術の存在と知識をすでに把握しており、患者を第一に考えるこの医者でなかったら、最悪の結果が待っていたにちがいない。
536 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/23(火) 22:29:43.56 ID:i8YFvr9Uo
カテーテル抜くとき痛いよね
537 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:30:29.32 ID:Ru06+pUDO
冥土返し「それにあの時も言ったけど、彼女の命を救ったのはキミたちだね? ボクは手を貸しただけにすぎないよ」
神裂「……」
ステイル「そうですかね……」
冥土返し「そうでなければ、キミのお見舞いに来たりしないね?」
ステイル「お見舞い? 彼女がですか?」
きょとん、とステイルは呆気に取られた顔になった。
1年も追いかけ回した少女に恨まれる覚えはあっても気を使われる覚えはなかった。
神裂「……ええ、昨日彼らと一緒に来てましたよ。……あの娘は私を見るなり彼らの後ろに隠れてしまいましたが」
昨日のことを思い出し、【聖人】の顔が暗くなる。
昨日も神裂はステイルの見舞いに来ていたのだが、途中でインデックスを含む削板ら4人がステイルの病室を訪れたのだ。
しかし、神裂の姿が目に入った瞬間、インデックスは削板の後ろに反射的に隠れてしまった。
すぐに出てきたが、それでもどこか少しおどおどとしており、落ち着かない様子だった。
結局その日はステイルの容態を確認して解散となってしまったのだ。
ステイル「……それはそうだろう。ボクたちはそれだけのことをしてきたんだ。
ボクのお見舞いに来たというのも最低限の義理としてだろう。今さら昔のような関係に戻れるなんて思ってはいないよ」
それまで明るい表情だったステイルの顔にも影が走る。
見舞いに来たのはインデックスの救出に微力ながら貢献した2人に筋を通すため。
あの連中はとにかく曲がったことが大嫌いなのだ。こういったことにはちゃんと礼を尽くしたいのだろう。
しかし、だからといって2人の罪が消えるわけではない。
昔のように仲良くなれるわけではない。
その記憶は彼ら自身が消したのだから。
神裂「……ええ。分かっています」
538 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/23(火) 22:34:24.35 ID:M1zhmHORo
カエル先生、木原知ってるのか
539 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:34:29.76 ID:Ru06+pUDO
冥土返し「いいや、分からないよ?」
柔和な笑みを崩さず、カエル顔の医者は魔術師たちの考えを穏やかに否定した。
ステイル「……分かりますよ。彼女にしてみればボクらはトラウマそのものでしょうから」
冥土返し「だが、本意ではなかった。それは向こうも知ってるはずだね?」
神裂「本意ではなかろうと事実ではあります」
しかし、魔術師たちは譲らない。頑なに自分たちの考えを曲げなかった。
というよりも、自分たちで自分たちの罪をうやむやにするのを嫌がっているようにも見えた。
冥土返し「……ふむ。なら、手っ取り早い方法があるね?」
そう言って、カエル顔の医者はクルリと魔術師たちに背を向け、扉の方を向いた。
冥土返し「おうい、いるんだろう? 入ってきてくれるかい?」
ガラリ、と再び病室の扉が開いた。
神裂「!」
ステイル「……」
入ってきたのは白ランを着てハチマキを巻いた超能力者、メガネをかけた学生服の少年、テロリストのような強面の大男。
そして
インデックス「……」
白い修道服を着た銀髪のシスターだった。
540 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:35:48.34 ID:Ru06+pUDO
原谷「……あー……取り込み中だと思ったんですけど……」
冥土返し「もうボクの用事は終わったね? このあとも予定が詰まってるから失礼するよ」
横須賀「そうか。相変わらずの激務だな。」
冥土返し「好きでやってる仕事だからね? なんの苦もないよ。それじゃ、お大事にね」
ステイル「……ええ、ありがとうございました」
最後にステイルの声を受け、カエル顔の医者はにっこりと笑ってから病室を後にした。
削板「……ようやく起きたか」
ステイル「ああ、ついさっきだよ。ボクの身体はキミたちほど頑丈にできてないからね」
原谷「あれ? 僕も入ってます?」
神裂「『竜王の殺息』を受けたんですよね? それでピンピンしているなら当然かと」
原谷「へ? ……ああ、あのビームのことですか。あんなの生身で受けてたらチリになってますよ」
横須賀「さすがに俺も同意見だ。」
インデックス「……」
541 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:37:06.85 ID:Ru06+pUDO
削板「……約束、覚えてるだろうな」
ステイル「ああ、もちろん。だからこうして生き延びてる」
削板「うし、いい根性だ。……インデックス」
インデックス「……」
スッ、とインデックスが前に出る。
それと対比して、削板らは壁ぎわに移動した。
ベッドで横になっているステイルとベッドの前で座っている神裂がインデックスと向かい合った。
ステイル「……」
神裂「……」
インデックス「……」
しばし、気まずい沈黙が流れる。
お互いに何をどこから話すべきか迷っていた。
しかし、その沈黙を破ったのはインデックスの意外な言葉だった。
インデックス「えっと……」
542 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:37:56.31 ID:Ru06+pUDO
インデックス「ありがとう。それと、ごめんなさい」
543 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:39:35.57 ID:Ru06+pUDO
神裂「……え?」
ステイル「……どういうことだい?」
神裂とステイルの表情が固まる。
インデックスの表情とその行動は2人がいちばん見たくないものだった。
インデックス「言葉の通りなんだよ。助けてくれてありがとう。友達だということを忘れてしまってごめんなさい」
心底申し訳なさそうに謝罪する。
その行為はかつてインデックスの記憶を2人が消した時に必ずインデックスが見せた行為だ。
神裂「インデックス……」
ステイル「違うだろう? キミが本当に言いたいことはそんなことじゃないだろう?」
その行為をやめさせるべく、ステイルはわざと強い口調で言い放った。
インデックス「え?」
ステイル「キミが筋を通して礼を言いたいというならボクらは甘んじて受け入れよう。
だが、キミの本音は違うだろう? 心配しなくてもボクらは罵詈雑言を浴びせられたところで何もできやしないよ」
もはや神裂とステイルが何を言われようと覚悟ができているという心理的な面。
ほんの数メートル離れたところに【魔神】を力技で一時停止に追い込んだ一味がいるという戦力的な面。
どんな面から見てもインデックスの安全は約束されている。
建前などを言う前にいっそ本心を全部ぶちまけてもらいたい、というのがステイルの正直な気持ちだった。
544 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:40:57.80 ID:Ru06+pUDO
インデックス「……何を言わせたいのか分からないけど、さっき言ったことが私の一番言いたいコトなんだよ」
しかし、インデックスの意見はブレない。
感謝と謝罪が本心であり、建前でもなんでもない、と。
ステイル「本当にかい? なんの慈悲もなく1年もの間追いかけ回して、何年もの間記憶を消し続けた相手に恨み言の1つもないのかい?」
神裂「……」
インデックス「それは、説明もなしに恐い顔して迫ってきたコトにはちょっと怒ってるよ?
最初から事情を説明してくれればもっと早く分かり合えたはずだし、あんな辛い思いもしなくてよかったし。
でも、それとこれとは別問題かも。あなたたちが必死になって、そんな身体になってまで私を救ってくれたことには変わりないんだよ」
545 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:41:48.91 ID:Ru06+pUDO
ステイル「それを言うなら」
インデックス「もう! わからず屋!」
ダン、とインデックスが一歩踏み出してステイルらに迫る。
ステイル「う……」
神裂「ですが……」
そのあまりの剣幕に2人の魔術師は思わずたじろぐ。
こんな風に迫ってくるインデックスを見たのはもう何年も前で、すぐには対応できなかった。
インデックス「そもそも! 私がなにもかも忘れたと思ったら大間違いなんだよ!」
546 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:43:21.42 ID:Ru06+pUDO
神裂「え?」
ステイル「……そんなはずはない。キミの記憶は確実に消したはずだ」
インデックス「ふふん、知ってる? 脳の記憶分野には『意味記憶』と『エピソード記憶』があるんだよ」
そう言ってインデックスは得意げに脳の構造について解説をはじめる。
インデックス「『意味記憶』は知識、『エピソード記憶』は思い出について記憶してるんだよ。あなたたちがこの内の『エピソード記憶』のみ」
神裂「……?」
ステイル「そう、なのかい?」
インデックス「あなたたちは私の脳の魔導書の知識以外の記憶を消してたつもりだったんだよね?
でも、本当にそうなら私はきっと歩き方から覚えないといけなくなっちゃう。でも、私は走って逃げることすらできた。
ってことは、実際にあなたたちが消した記憶は『エピソード記憶』のみってことになるんだよ。
たぶん【最大主教】は『意味記憶』の方に10万3000冊が記憶されてるから『意味記憶』を傷つける魔術を教えなかったのかも」
神裂「……たしかに。過去にあなたとの思い出を全部消した時、次に目覚めた後も日常生活は送っていました」
ステイル「だが、それがどうしたんだい? キミとボクらの思い出はボクたちが全部消した。
キミというヒトの人となりを壊した。そんなのはもはや殺人だ。やっていいことではない。どんな事情があってもだ」
547 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:45:51.83 ID:Ru06+pUDO
インデックス「かおりは私にお箸の使い方を教えてくれた。きっとお蕎麦か何かで。
すているは3人で外で写真を撮った時にタイマーをセットしたあとにころんじゃった。きっと慌てすぎたんだね」
神裂「!?」
ステイル「な!?」
思わず2人は身体を跳ね上がらせるほどに驚愕した。
それもそのはず。消したはずの思い出をインデックスが覚えていたのだから。
インデックス「ふふ、やっぱりね。思った通りなんだよ!」
そう言ってインデックスはこれでもかとばかりに胸を張った。
インデックス「ぐんはややぶみ、よこすかたちと生活してはじめて疑問に思ったんだよ。
イギリス人の私がなんで教えられたこともないのにスムーズにお箸を使えるのか。
なんで私はカメラについてちょっぴり間違ってる知識でこれまで覚えていたのか」
全員でラーメン屋に行った時、インデックスは削板・横須賀と変わらないペースでラーメンを平らげた。
全員でゲームセンターでプリクラを撮った時、インデックスはカメラについての微妙に間違った知識を指摘された。
インデックス「答えは簡単。かおりとすているが私に知識を与えてくれたから。
ストーリーはなくなっても、2人との記憶がなにもかもなくなっちゃったわけじゃないんだよ。
2人との記憶は私の中でしっかり生きてる。だから、私がなにもかも忘れたと思ったら大間違い、って言ったんだよ」
548 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:48:58.14 ID:Ru06+pUDO
インデックス「ね? だから2人がこれ以上気に病むことなんか……」
神裂「……違う」
インデックス「え?」
ステイル「おかしいだろう……?」
先ほどと変わらず、驚愕した表情で固まったまま、神裂とステイルは声を漏らした。
インデックス「え? え?」
その異様な光景にインデックスはたじろぎはじめる。
自分で考えた時は完璧だと思ったのだが、なにか間違えていたのだろうか。
神裂「なんで……練習した食べ物が蕎麦だと分かったんですか?」
ステイル「なんで……カメラを撮ったのも転んだのもボクだと分かったんだい?」
たしかにインデックスの考えたストーリーは当たっていた。
箸の使い方を教えたのは神裂だし、カメラを撮る時に転んだのはステイルだ。
ただ、当たりすぎているのが問題なのだ。
イギリスにいる日本人で箸の使い方まで教えてくれる者=友人であった神裂、と想像するのは分かる。
だが、なぜ箸の練習をした食べ物が具体的に蕎麦だと言い当てるコトができたのか?
箸の使い方を練習するなら、蕎麦のよりもよく練習に使われる食べ物はいくらでもあるというのに。
思い出を作るために写真を撮ったという話はした。
そのため3人で撮ったというコトは予想できる。
カメラの間違った知識からタイマーを押した人間が転んだというのは予想できる。
しかし、なぜ撮った人間がステイルだと分かったのか?
そもそも今までの人生の中で写真を撮ったと考えられるタイミングはたくさんあったはずだ。
なぜカメラについて微妙に間違えた知識を得た時がステイルらと一緒にいた時期だと特定できた?
549 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:51:21.50 ID:Ru06+pUDO
インデックス「……?」
その問いかけにインデックスはきょとんとした。
インデックスにしてみればなんとなく、本当になんの根拠もなくただそう思っただけなのだから。
神裂「あなたの先ほどの脳の仕組みの解説でも、私たちがあなたの思い出を完全に消したのは間違いないはず……」
ステイル「それなのになんで……どこに記憶が残っているっていうんだい?」
そう言われてインデックスは少しだけ考えこんだ。
そして、すぐに ニッ、と笑った。
インデックス「そんなの、決まってるんだよ!」
ドン、と小さな右の拳で自分の胸を叩く。
550 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:52:23.27 ID:Ru06+pUDO
インデックス「――――根性に、なんだよ!」
551 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:53:51.89 ID:Ru06+pUDO
インデックス「だから2人とも、ってうわあ!?」
ガバリ、ガバリ、とインデックスの親友はそろってインデックスを抱き締めた。
神裂「ヒッグ、ごめんなさいインデックス! 本当に、本当にごめんなさい!!」
ステイル「すまなかった……! ああ、本当に、グズッ、すまなかった……!!」
そして、今までため込んで懺悔の言葉すべて吐き出しはじめた。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして、嗚咽で声をとぎらせながら。
インデックス「な、なんで泣いてるの? そんなに泣かれたら私も……うぅ、私、私だってぇ……」
神裂「ああ、ごめ、んなさい、イン、デックス、うあああん!!」
ステイル「本当に、ボクは、グズッ、うぅ、本当に、すまなかった!」
インデックス「うわあああああん! うああああああああああ!!」
552 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:55:50.61 ID:Ru06+pUDO
原谷「……なんで号泣してんですか」グスッ
横須賀「ずばん……おでこういうどだべだんだわ……」ダー
削板「ハッハッハ!! どいつもこいつも!! 本当に天晴れな根性だ!!」
魔術師たちの和解に立ち合った面々は、ある者は泣き、ある者はもっと泣き、またある者は笑っていた。
呪われた運命にことごとくあらがい、何度絶望が訪れても決して諦めず、遂に彼らは大団円を迎えた。
仮に少しでも歯車が狂っていたらどうなっていただろうか。
もしも、インデックスがすぐにステイルに捕まっていたら。頼った医者が『木原』だったら。
横須賀がステイルにやられてしまったら。削板が神裂に倒されたら。原谷が避難した先に『歩く教会』がなかったら。
ステイルたちが【最大主教】に敗北していたら。『天草式』がかけつけなかったら。あと一本飛行機の便を遅らせていたら。
一体どんな結末を迎えていたか。
もちろん、ハッピーエンド決まっている。
どんなに逆風が吹き、絶望が現われようとも、彼らにはそんなものをものともしない気概、すなわち『根性』を持っているのだから。
この先何が訪れても、彼らにバッドエンドはあり得ないだろう。
彼らが誇るべき『根性』を失わない限りは。
553 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/07/23(火) 22:56:47.94 ID:Ru06+pUDO
とある根性の旧約再編
これにて終幕。
554 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/23(火) 22:58:28.72 ID:tuH1qMkEo
おつ!根性のある話だった
555 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/23(火) 22:59:36.19 ID:M1zhmHORo
乙!
良かった!
559 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/24(水) 02:22:59.80 ID:SRH/tknN0
素晴らしい
いい話でした
560 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/24(水) 02:26:28.99 ID:f2Ripz2J0
乙!
イギリス組がこんなに活躍する再構成もなかなか無いな
565 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/07/24(水) 20:31:19.00 ID:zPkl8MSa0
科学と魔術が交差するとき、根性仲間が増える!
乙でした!
転載元
とある根性の旧約再編
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368456434/
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス (2014-11-25)
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