1 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 22:50:26 ID:JD3Usf4Q
魔王城
魔勇者「お任せ下さい! 必ずや、遂行してみせます!」
魔王「うむ、期待しておるぞ」
魔王「私は、この人類との終わりの見えない戦いに、終止符を打ちたい」
魔王「無益で、無意味な争いを止め、共に手を取り合うのだ」
魔王「彼らとなら、それが出来る。私は、そう信じている」
魔勇者「素晴らしきお考えです」
2 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 22:53:26 ID:JD3Usf4Q
魔王「……お前には、危険な役目を負わせることになってしまった。すまない」
魔勇者「魔王様は、ご自分の責任を果たされたまで。気に病むことはありません」
魔王「…………」
魔王「……勇者よ」
魔勇者「はっ」
魔王「……後悔、していないか」
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 22:56:09 ID:JD3Usf4Q
魔王「……私と、その、幼馴染であるばかりに、お前には、迷惑をかけてきた。今回の人選も、それが加味されていないといえば嘘になる」
魔勇者「……魔王様」
魔王「今更、どうこうすることもできないのは、私が一番良く分かっている。しかし……」
魔勇者「魔王様!」
魔王「!」
魔勇者「失礼ながら、玉座に昇る許可を頂きたく思います」
魔王「……良いだろう、許可する」
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 22:58:23 ID:JD3Usf4Q
魔王「……久しいな。私が、魔王の地位を継いでから、お前とこうして向かい合う機会はめっきり減った」
魔勇者「そうですね、魔王様」
魔王「して、何だ?」
魔勇者「魔王様……いや、魔王」
魔勇者「今度の任務は、これまでとは違う。無事に帰って来れるかどうか、正直あんまり自信がない」
魔王「………」
魔勇者「だから、旅立つ前にこれだけ言っておきたい」
魔勇者「僕は、魔王の幼馴染で、本当に良かった」
魔王「!」
魔勇者「後悔なんて、するわけない。俺は、いつまでも魔王の友達だ」
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:01:16 ID:JD3Usf4Q
魔王「勇者……」
魔王「…………」
魔勇者「……玉座に昇る許可を頂いたこと、身に余る光栄だと思っています」
魔勇者「では、行って参ります」ニコ
魔王「! ……ま、待て」ギュ
魔勇者「魔王様、服を掴まれては……」
魔王「お、お前の任務は、人類の長、王と謁見し、同盟関係を築くに値するかどうかを見極めること。そうだな?」
魔勇者「はっ。私は、道中発生する事象についてその全権限を、魔王様より委譲されております」
魔王「……それだけでも、充分に過酷なことは理解している。しかし、私は、お前にもう一つ任務を課そうと思う」
魔勇者「は。何なりと」
魔王「うむ。……第百三十四代魔王の名において、貴様に命ずる」
魔王「生きて帰れ」
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:03:05 ID:JD3Usf4Q
城下町
魔勇者「ふぃー。やっぱり魔王城ってのは肩が凝るなぁ」
魔勇者「……さて、と」
魔勇者「うーん。やることは色々あるけど、何から始めようかな」
魔勇者「んー」
魔勇者「……まぁ、まずは仲間集めかな」
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:06:56 ID:JD3Usf4Q
酒場
ワイワイガヤガヤ
店主「らっしゃい」
魔勇者「えっと、ブラッドビール一つ」
店主「あいよ。他に、ご注文は?」
魔勇者「名簿を頼む。腕の立つ奴がいるんだ」
店主「……遠出かい?」
魔勇者「まぁ、そんなとこ。あんまり聞かないでくれ」
店主「金は?」
魔勇者「見合う実力があるなら、金に糸目はつけないよ」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:09:16 ID:JD3Usf4Q
店主「…………」
店主「わかった、今持ってくる」
店主「……ただ、お客さん」
魔勇者「?」
店主「名簿ってのは、分厚くてな。酒一杯じゃ、保たないんじゃないかね」
魔勇者「…………」
魔勇者「わかったよ。じゃあ、オオガラスのステーキも頼む」
店主「あいよ、ちょっと待ってな」
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:12:02 ID:JD3Usf4Q
魔勇者「うーん……」ゴクゴク
魔勇者「………」ペラ
魔勇者「ふーん……」ムシャムシャ
魔勇者「……」ペラ
魔勇者「ゴブリン、ミノタウロス、ワーウルフに……」
魔勇者「サキュバス、バンパイア、セイレーンと……」
魔勇者「さすがに人型が多いな」
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:14:49 ID:JD3Usf4Q
魔勇者「……高ランクだから、もっと魔族がいるかと思ったんだけど、そうでもないんだ」
店主「今は、境界付近が稼ぎ時でね。ここに登録してた魔族は、軍に雇われて、皆そっちにいってるよ」
魔勇者「あ、そうなんだ。タイミング逃しちゃった感じか」
魔勇者(うまく食わされちゃったな。ま、良いけど)ペラ
魔勇者「うーん……何でだろ。どれもピンと来ないな~」
魔勇者「デュラハンね~……」ペラ
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:17:05 ID:JD3Usf4Q
?「…………」ゴク
?「ど、どうしたの? な、何か気になること?」モグ
?「ん、何となく、だが……」クンクン
?「金の、匂いがするんだよな」
?「か、金の、匂い……?」
?「そ、そんなことまでわかるんだね。お、お姉ちゃん」
?「…………」
?「お、お姉ちゃん?」
?「……行ってみるか」ガタ
?「! ……ま、待って、お姉ちゃん!」タタ
12 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:20:44 ID:JD3Usf4Q
魔勇者「んー……」ペラ
ゴンッ
客1「痛って! おい! 気をつけ……」
?「おっと、わりい」
ガンッ
客2「何やってんだ、このだぼす……け……」
?「し、失礼いたしたました!」
?「わりい。狭いところはどうも慣れなくてよ」
?「お、お姉ちゃん!」
ザワザワ……
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:23:07 ID:JD3Usf4Q
?「はいはいちょっと失礼するよ、お兄さん」ガンッ
?「おっと。おやっさん、ちょっと椅子どけるよ」
店主「おいおい……ちゃんと元に戻せよ?」
?「わかってる」
魔勇者「…………」ペラ
?「…………」
店主「…………」
?「……その、お兄さん?」トントン
魔勇者「ん? え、僕?」
?「そうそう、あんた」
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:26:20 ID:JD3Usf4Q
魔勇者「えっと……何か用?」
魔勇者(ふーん、綺麗な人)
?「それ、名簿だろ。護衛でも探してんのかい」
魔勇者「んー、まあ、そんなところだけど……」チラ
魔勇者(腕に火傷の跡。かなり大きいな)
魔勇者(ところどころ古い傷跡もあるし、この人……)
?「……見てくれは合格、か?」ニヤ
魔勇者「! ……すまない、結構な金がかかっているから」
?「良いって、種族柄、そういう視線には慣れてる」
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:28:15 ID:JD3Usf4Q
魔勇者「種族柄? そういや、君、種族は?」
魔勇者「見た感じ、魔族っぽくはないけど」
?「…………」パチクリ
魔勇者「え、何? 変なこと言ってる?」
?「……ぷっ、あはははは!」
?「ははは! その目、本気で分かってないんだね」
魔勇者「???」
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:30:10 ID:JD3Usf4Q
?「ふー……、ふふっ、あんた、最高だよ」
?「ほら、カウンターの下、見てみな」
魔勇者「……!」
魔勇者(この人……)
魔勇者「……確かに、これは、僕の不注意だったかな」
?「ふふっ、あたしにも分かる。あんたには護衛が必要だよ」
魔勇者「ぐぅの音も出ないな、はは」
?「そこでだ、お兄さん。あんた、あたしを雇っちゃくれないか」
魔勇者「僕が、君を?」
魔勇者(やっぱり、戦えるんだこの人)
17 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:31:20 ID:JD3Usf4Q
?「おう、こう見えても、腕には結構自信あるんだぜ?」
?「ランクは低いが、名簿にも載ってる」
魔勇者「ふーん?」
魔勇者(困ったな、名簿以外に判断要素が無い)
魔勇者(魔王に貰った資金も無限じゃないしなぁ……)
?「なんなら、金はあたしの働きを見てからってんでも良い」
?「食いもんと、どこかに寄るばあいはその宿賃。それだけ保証してくれるんなら、目的地まであんたを送り届けてやる。必ずな」
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:32:44 ID:JD3Usf4Q
魔勇者「………」
魔勇者(実力に裏付けされた自信、かな)
?「……どうだ?」
魔勇者(お試し期間か。まぁ、それなら……)
魔勇者「わかった。とりあえず、次の目的地まで頼むよ。そこで、本決めだ」
?「了解だ。まかせてくれ、しっかり守ってやる」
魔勇者「期待してるよ」
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:34:02 ID:JD3Usf4Q
?「そういや、自己紹介がまだだったな」
?「あたしの名前は、蜘蛛女。んで、こっちが……」
魔勇者「ん? こっち?」
蜘蛛女「相棒のスライム娘だ。よろしくな」
スライム娘「あ、あの、あ、ありがとうございます」
スライム娘「精一杯、が、頑張りますので、よ、よろしくお願いします!」
魔勇者「…………」
魔勇者「……よ、よろしく」
20 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/26(水) 23:51:26 ID:uPIn.das
これは新しいな
期待
22 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:15:56 ID:5K/wRPc2
城下町
魔勇者(ま、まさか、二人だったとは……)
魔勇者(まあ、食費くらいなら、何とかなるけどさ)
魔勇者(……それにしても、不注意が過ぎるな。気を付けないと)
魔勇者「……さて」
蜘蛛女「んで、どこに向かうんだ?」
魔勇者「んー、まずは、青の街まで行こうと思ってる」
蜘蛛女「青の街、か。了解だ」
23 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:17:28 ID:5K/wRPc2
魔勇者(それにしても……)
スライム娘「………」ジィ
魔勇者「………」チラ
スライム娘「!?」ビク
魔勇者(人型のスライムなんて、初めて見た)
魔勇者(地面が透けて見えてるぞ)
蜘蛛女「……どうした?」スッ
魔勇者「いや、少し珍しいな、と思っただけだよ」
魔勇者(庇った、のか?)
魔勇者「すまない。他意はないんだ」
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:19:12 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……ま、そう思うのも無理ないか」
蜘蛛女「スライムってのは、長く生き続けると、こいつみたいに形を変える奴が現れるんだ」
蜘蛛女「所詮、低級の魔物だからな。長生きする奴なんて、そうそういない。形が変わるまで生きる奴なんて、それこそ稀だ」
魔勇者「へぇ、そうなのか」
魔勇者(……魔王は、知ってるのかな)
蜘蛛女「だから、多少、警戒心が強いんだ。悪いな」
25 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:20:25 ID:5K/wRPc2
スライム娘「……っ」コソ
スライム娘「あ、あの……その、ご、ごめんなさい……」
魔勇者「こちらこそ、済まない。……青の街まで、頼めるかな」
スライム娘「も、もちら、もちろんです!」
蜘蛛女「あたしが保証する。こいつは、役に立つ」
魔勇者「……その言葉が、信頼に足るかどうか。しっかり見定めさせてもらうよ」
蜘蛛女「上等だ。必ず認めさせてやるよ」
スライム娘「や、やるよ!」
魔勇者(……この二人、ただの相棒ってわけじゃなさそうだな)
26 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:22:39 ID:5K/wRPc2
街道
蜘蛛女「さぁて、行くか!」
スライム娘「お、おー……」
魔勇者「はいはい、僕達が行くのはこっちだよ」
蜘蛛女「こっち……って、何でだよ! わざわざ、寂れた道行くことないだろうが!」
スライム娘「あ、青の街、なら、街道をいくのが、あ、安全……」
魔勇者「それは、わかってるよ」
蜘蛛女「だったら、何で……」
魔勇者「安全だったら、君たちの実力が分からないだろ?」
蜘蛛女「!」
蜘蛛女「……ふん、まあ良いさ」
魔勇者「じゃあ、行こうか」
27 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:23:44 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……で、結局こうなるのか」
スライム娘「………っ」ガクガク
魔勇者「いやあ、魔王城の権威ってのも、案外弱いね」
魔勇者「街道から少し外れただけでこうなるんだから」
???1「………」
???2「………」
???3「………」
???4~6「………」
28 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:24:35 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「ちっ」
蜘蛛女(こいつら、隙が無さ過ぎる。只の盗賊じゃねぇな)
蜘蛛女(この人数差じゃ、下手に動けねぇ。……かといって、このままじゃ)
蜘蛛女「……くそがっ!」ブン
???1~6「!」ジリ
蜘蛛女「来るなら来い! 全員まとめて、この槍の餌食にしてやるよ!」
29 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:26:15 ID:5K/wRPc2
???2~6「………」チラ
???1「………」スッ
蜘蛛女「!」
???1「……そいつを渡せ。そうすれば、命は助けてやる」
蜘蛛女(こいつを?)チラ
魔勇者「………」
蜘蛛女「……呑めない、といったら?」
???1「女子供とて、容赦はしない」チャキ
???2~6「………」チャキ
30 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:27:56 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……くっ」
蜘蛛女(短刀か……リーチはこっちの勝ち)
スライム娘「お、お姉ちゃん……」
蜘蛛女「……ふん。おい、奴さん、ああ言ってるが?」
魔勇者「……君たちが、決めれば良い」
魔勇者「僕は、その意見を尊重するよ」
蜘蛛女「………わかった」
31 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:28:42 ID:5K/wRPc2
???1「……話は、決まったか?」
蜘蛛女「ああ。……スライム娘!」
スライム娘「! わ、わかった!」
???1「……」コク
???2~6「っ」ダッ
蜘蛛女(向かってくるのは、三人か!)
32 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:29:59 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「うおらっ!」ブン
???2~4「!」ザっ
蜘蛛女「逃すか!」ブン
蜘蛛女(……! 捉えた!)ニイッ
???2・4「!」
???3「……ぐっ」グサ
33 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:31:23 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「少し熱いが……」ガキン
???3「ぐあぁっ」ガパッ
キィィィィィン
魔勇者(! 槍の先から魔方陣が展開された!?)
蜘蛛女「我慢しろよっ!」ブン
???3「」ズルッ
???2・4「ぐっ」ドサ
蜘蛛女「まとめて死になっ!」
ズガン!
魔勇者「!」
魔勇者(人間爆弾かよ……)
34 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:32:35 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女(残りは!)
???5「シッ!」ヒュン
蜘蛛女「くっそ!」キン
???6「っ」タッ
蜘蛛女「なっ!?」
蜘蛛女(こいつは囮か!)ガギギ
35 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:34:04 ID:5K/wRPc2
???5「っ!」ググ
蜘蛛女(圧してくるのか……!)
蜘蛛女「このっ……!」
蜘蛛女(間に合わねぇ……!)
蜘蛛女「スライム娘ぇっ!」
スライム娘「ひ、ひゃい!」
36 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:35:53 ID:5K/wRPc2
???6「」ダッ
スライム娘「ひ、ひぃっ」
スライム娘(ま、まけちゃだめ!)
スライム娘「すう……」
???6「っ」ヒュン
スライム娘(うしろはだめ、まえにだけ……まえに!)ボコボコ
魔勇者「!」
魔勇者(スライム娘の体の表面が……)
魔勇者(……まるで沸騰してるみたいだ)
37 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:38:50 ID:5K/wRPc2
スライム娘「はあっ!!」
ヒュヒュヒュヒュン
グサグサ グサグサ
???6「ガっ……」プラーン
魔勇者「……」
魔勇者(片や、人間爆弾。片や、自分の体で相手を串刺しか……)
魔勇者(この二人、結構えぐいな……)
38 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:41:28 ID:5K/wRPc2
???5「!」
蜘蛛女「へっ、油断したな!」ブン
???5「くっ」グラ
蜘蛛女「これで!」ブン
???5「」ドサ
39 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:42:57 ID:5K/wRPc2
スライム娘「姉さん!」
蜘蛛女「おう、良くやったな、スライム娘」ナデナデ
スライム娘「で、でも、お姉ちゃん、怪我して……」
蜘蛛女「死んでないんだから、大したことねぇよ」
蜘蛛女(……自分で付けた傷なら、そりゃ気づくか)
蜘蛛女「それより、ちゃんと血を抜いとけ。さっきので大分混ざっただろ」
スライム娘「う、うん、わかった」
蜘蛛女「その間に、あたしは、もう一仕事するか」ギロ
???1「!」ジリ
40 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 21:45:51 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「気づいてないとでも、思ったか?」
???1「……」
蜘蛛女「………」スッ
???1「……!」
蜘蛛女「……ここは、おとなしく退いちゃくれないか?」
蜘蛛女「あたしたちも、好んで殺り合いたいわけじゃねぇんだ」
???1「……」
蜘蛛女(……どうだ)
41 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:05:45 ID:5K/wRPc2
魔勇者「いや、それは困る」
蜘蛛女「なっ」
魔勇者「悪いけど、生かして帰すわけにはいかないんだ」
蜘蛛女「な、何で……」
???1「っ」ダッ
蜘蛛女「あっ!」
蜘蛛女(逃げやがった……)
42 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:07:26 ID:5K/wRPc2
魔勇者「君たちの実力は、充分見せてもらった」
魔勇者「だから、お返しに、僕の実力も見せておくよ」チャキ
蜘蛛女(あれは、東洋の……何てったっけ)
蜘蛛女(ってか、剣なんかでどうすんだよ。もうあんな遠くにいるぞ)
魔勇者「僕の後ろにいてくれ」グッ
蜘蛛女「あ、あぁ」チラ
スライム娘「っ」コク
43 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:10:41 ID:5K/wRPc2
魔勇者「ふー……ッ」
シン
魔勇者「……」キン
蜘蛛女「……」
スライム娘「……?」
蜘蛛女「……!」
蜘蛛女(待て待て! こいつ、今剣を納めたのか!?)
蜘蛛女(いつ抜いたんだ? 何をしたんだ?)
44 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:12:57 ID:5K/wRPc2
???1「」
ズル ベチャ
蜘蛛女「!」
蜘蛛女(胴体から、真っ二つだと)
魔勇者「っと、これで良し」
スライム娘「………」ガクガク
蜘蛛女(こいつ……)
45 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:15:33 ID:5K/wRPc2
魔勇者「じゃあ、行こうか」
蜘蛛女「……ちょっと待て」
蜘蛛女「お前、何のためにあたしたちを雇った」
魔勇者「それは、護衛が必要だったからだよ」
蜘蛛女「馬鹿言え」
魔勇者「本当のことなんだけどなー」
蜘蛛女「ふん、納得できねぇな」
46 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:18:31 ID:5K/wRPc2
魔勇者「うーん……」
魔勇者(青の街までは、納得するしないの問題じゃないんだけど)
魔勇者(まあ、実力は見れたし、バラしても問題はない、か)
魔勇者「……納得できれば、良いんだよね?」
蜘蛛女「……ああ」
魔勇者「僕が、仲間を必要としたのは、それほどの場所に出向くからだよ」
蜘蛛女「場所?」
魔勇者「ああ……僕は、境界を越える」
47 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:21:36 ID:5K/wRPc2
???
〝???1「」〟
〝 ズル ベチャ 〟
?「馬鹿な……っ! 魔王軍の精鋭部隊が、こうも容易く!」
?「………落ち着け。まだ手はある」
?「問題は、魔勇者に同行していた者達だ。……あやつら、一体何者なのだ?」
?「あれほどの手練が、城下町に残っていたとは……」
ガチャ
?「!!」
48 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:23:43 ID:5K/wRPc2
魔王「おや。これは、これは」
?「ま、魔王様……」
魔王「大臣、貴様、一体ここで何をしている?」
大臣「な、何と言われましても……」
大臣「ここは、私の屋敷でございます。そして、私は今日、お暇を頂いております故……」
魔王「とやかく言われる筋合いはない、と?」
大臣「失礼ながら」
魔王「ふむ……」
大臣「………」ゴク
49 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:26:24 ID:5K/wRPc2
魔王「……大臣、私は、ある噂を耳にしてな」
大臣「……噂、でございますか?」
魔王「ああ、その噂というのはだな、大臣」
魔王「有力者たちが、貴様の屋敷で〝宴〟を開く、というものなのだが……」
大臣「!」
魔王「中には、我が国の政に大きな影響力を持つ者もいると聞いてな。ならば、私が出向かぬわけにもいかぬだろう?」
大臣「そ、それは……」
50 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:28:12 ID:5K/wRPc2
魔王「ところで、大臣」
大臣「は、はっ」
魔王「客の到着が〝遅れている〟とは思わぬか?」ニヤ
大臣「っ!」
大臣「魔王、貴様……っ!」
魔王「思いのほか、早く化けの皮がはがれたな」
魔王「何か、弁明はあるか?」
51 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:29:58 ID:5K/wRPc2
大臣「はっ、弁明だと? そんな必要がどこにある!」
大臣「私は、お前を魔王だと認めてはおらん!」
大臣「先代魔王の娘でさえなければ、お前なぞ……!」
魔王「ほう?」
大臣「っ……!」
大臣「ふん、その憎たらしい余裕もここまでだ!」パチン
ヴン ヴン ヴン
?1~12「……」
52 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:33:05 ID:5K/wRPc2
魔王「これは……」
大臣「〝我々〟の私兵だ」
魔王「私兵?」
大臣「打倒魔王の元に集まった者たちだ。あらゆるところからな」
大臣「中には、魔王軍の精鋭部隊からやってきた者もいる」
魔王「………」
大臣「皆、お前のひ弱な考えに、魔王としての資質を疑っているんだ」
53 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:34:29 ID:5K/wRPc2
魔王「第一教義、か?」
大臣「よく分かっているじゃないか」
大臣「『強き者に従え』 ……強さのみが、我々の優劣を決める」
魔王「ふん、古臭い考えだ」
大臣「そう思っているのはお前だけだ」
大臣「こうして囲まれているのが、何よりの証拠!」
大臣「さあ、どうする? 魔王よ」
大臣「私としても、出来れば手荒な真似はしたくないのだが?」ニヤ
54 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:36:07 ID:5K/wRPc2
魔王「………」
魔王「……はぁ…」
大臣「諦めがついたか?」
魔王「……お前の手腕を買っていたところもあったのだがな」
魔王「所詮は、その程度か」
大臣「何ぃ……っ!」ギリ
魔王「良いぞ、かかって来い」
魔王「貴様らに、どちらが正義かを教えてやる」
55 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:37:43 ID:5K/wRPc2
ドタドタ バタン
?「魔王様っ!?」
魔王「遅かったな、側近」
側近「お一人で向かわれたと聞き、急ぎ救援をと」
側近「屋敷は既に制圧しましたが……」
?1~6「」
大「」
臣
側近「……親衛隊は必要ありませんでしたね」
56 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:40:07 ID:5K/wRPc2
魔王「あの部隊は極秘だ。今後、私の命なしに動かすな」
側近「出過ぎた真似を、以後、心に刻みます」
魔王「だが、お前に何も言わず出てきてしまったのは、私の落ち度か」
側近「………」
魔王「ふん、無言か。まあ、いい」
魔王「鳥娘を喚べ。奴が言うには、私の妨げとなる者たちは至るところにいるらしい」
魔王「魔王城は守りが固い。今狙うなら、勇者だろう」
側近「了解いたしました」
57 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:41:19 ID:5K/wRPc2
側近「……魔王様」
魔王「ん?」
側近「あれらの処遇は、いかがいたしましょう」
?7~12「……」ザッ
側近「膝をついていますが、あれは、何です?」
58 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:42:36 ID:5K/wRPc2
魔王「あぁ、あれは……そうだな、親衛隊に入れておけ」
側近「は!? ……あ、いえ、先ほどまで敵対していましたよね?」
魔王「奴らは、第一教義に忠実だ。そして、私の強さを見た」
側近「……なるほど」
魔王「それに、親衛隊なら、こいつらをしっかり仕上げてくれるだろう」ニヤ
魔王「後は……ここの後処理か。手配しておいてくれ」
側近「はっ」
側近「魔王城にお戻りになられますか?」
魔王「うむ」
側近「では、参りましょう」
59 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:44:50 ID:5K/wRPc2
青の街
宿屋
ガチャ
宿主「いらっしゃい」
魔勇者「部屋はあるかな?」
宿主「人数は? 一人かい?」
魔勇者「三人なんだけど、できるだけ広い部屋がいいんだ」
宿主「広い部屋、ねぇ……うちは、四人部屋が一番大きいよ」
60 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:45:46 ID:5K/wRPc2
魔勇者「う~ん……ここ以外に、魔物用の水浴び場がある場所ってある?」
宿主「あまり聞かないね。ほら、ここの領主様は、綺麗好きだから」
魔勇者「……? ごめん、話が見えない」
宿主「まあ、綺麗好きというか、潔癖症かね、あれは」
宿主「……お嫌いなんだよ、魔物が」
魔勇者「ふーん……」
魔勇者(彼女たち……大丈夫か?)
61 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:47:58 ID:5K/wRPc2
宿主「ここだって、お触れのおかげで建ったようなもんだからねぇ」
魔勇者「ふむ……その、四人部屋なんだけど、寝具を一つどかしてもらえたりするかな」
宿主「え! いや、まぁ、できないことは無いけど……」
魔勇者「じゃ、頼むよ。その分の金は払うからさ」チャリ
宿主「……部屋は、この廊下の先だよ。寝具は後で取りにいくから」
魔勇者「わかった。あ、後、水浴び場は?」
宿主「裏にある。いつでもどうぞ」
魔勇者「ありがとう」
62 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:49:24 ID:5K/wRPc2
ガチャ
魔勇者「部屋取れたよ。四人部屋だって」
魔勇者「どうにか入れるように工夫してもらうから」
宿主「?」
魔勇者「水浴び場は裏手だって」
宿主「………」
魔勇者「荷物はどうするの。ほら、入った入った」
63 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:51:40 ID:5K/wRPc2
ガチャ
蜘蛛女「………」
スライム娘「………」オドオド
宿主「」
魔勇者「廊下の先だっていうから、先行ってて」
スライム娘「……」コク
スライム娘「い、行こう、お姉ちゃん」
蜘蛛女「……おう」
64 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:52:28 ID:5K/wRPc2
宿主「あ、ありゃ、一体……」
魔勇者「まあ、見れば分かると思うけど、そういうことだから、急ぎでお願いね」
宿主「あ、あぁ」
65 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:54:00 ID:5K/wRPc2
ガチャ
スライム娘「………」
蜘蛛女「………」
スライム娘「お、思ってたよりも広いね」
蜘蛛女「……そうだな」
スライム娘「これなら、か、家具を少し動かせば、お姉ちゃんでもへ、平気かもね?」
蜘蛛女「………」
スライム娘「お、お姉ちゃん?」
66 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:55:34 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……ちょっとすっきりしてくる」
スライム娘「な、なら、私も……」
蜘蛛女「……わりぃ、少し、一人にしてくれるか?」
スライム娘「あ……う、うん。わかった」
ガチャ バタン
スライム娘「……お姉ちゃん」
67 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 22:58:00 ID:5K/wRPc2
チャポン バシャ
ポタ ポタ
蜘蛛女「………」
〝魔勇者「僕は境界を越える」〟
蜘蛛女「……っ」
〝魔勇者「目的は、人類との和平だよ」〟
68 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:00:17 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女(……和平、だと……っ)ギリ
〝「……おかーさん! ……おとーさん!」〟
〝「……あ………あツ、い……よ…ォ…」〟
蜘蛛女「……ふざ……けんなっ!!」
ガサッ
蜘蛛女「!」
69 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:02:06 ID:5K/wRPc2
魔勇者「あらら、マズいところに来ちゃったかな」
蜘蛛女「……何だ、覗きか?」
魔勇者「はは、僕は何も見てないよ」
魔勇者「……その全身の火傷の痕はどうしたのか、なんてこれっぽっちも思ってないよ」
蜘蛛女「見てんじゃねーか、変態勇者が」
70 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:05:00 ID:5K/wRPc2
魔勇者「……人類への憎悪は、それが原因?」
蜘蛛女「お前に……」
魔勇者「関係あるでしょ」
魔勇者「もう決めちゃったから。僕は、生半可な理由で君たちを手放すつもりはないよ」
蜘蛛女「……チッ」
71 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:06:39 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……これは、スライム娘を助けたときにできたもんだ」
魔勇者「へぇ」
蜘蛛女「あたしの……いや、あたしたちの集落は、境界の近くにあったんだ」
蜘蛛女「ひっそりと暮らしたい奴らの寄り合い所帯さ。あたしや、スライム娘は、人目を引くからな」
蜘蛛女「境界の近くなら、魔族、魔物はまず寄り付かない。必要以上に騒がなければ、人類に気づかれることもない」
蜘蛛女「のどかで、良い毎日だったよ。あたしは好きだった」
魔勇者「………」
72 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:08:37 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「でも、無くなっちまった。……奪われたんだ」
蜘蛛女「スライム娘に気づいたのは、ただの偶然だった」
蜘蛛女「必死で逃げていたはずなのに、あいつの声だけ、不思議とはっきり聞こえてよ」
蜘蛛女「燃えて、今にも崩れそうな家の近くで、鳴いてた」
蜘蛛女「熱にあてられて、もう人型を保てなくなってたんだ」
蜘蛛女「手の平ぐらいの大きさになって、両親を探して、鳴いてた」
73 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:10:55 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「思わず手を伸ばしてたよ。あいつも必死だった。訳も分からず飛びついたんだ」
蜘蛛女「意思をもった熱湯を浴びたようなもんだ。痛みに気づいた時には、もう手遅れだった」
蜘蛛女「逃げないわけにもいかないからな。……がむしゃらになって逃げてくうちに、いつのまにかあたしたちだけになってた」
蜘蛛女「そっからあとは、本当に関係の無い話だ」
74 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:14:59 ID:5K/wRPc2
魔勇者「……うん。大体分かった」
蜘蛛女「……あたしは、善人ってわけじゃない。死体を見たことも、一度や二度じゃない」
蜘蛛女「だから、邪魔はしない。でも、協力もできない」
魔勇者「………」
蜘蛛女「……悪いな」
魔勇者「いや、無理強いはできないからね」
魔勇者「もうお金払っちゃったから、今日はここに泊まっていってよ」
魔勇者「もうそろそろ、部屋の片付けも終わってるだろうし」
蜘蛛女「わかった。恩に着る」
75 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:18:48 ID:5K/wRPc2
大通り
魔勇者「うーん……やっぱり、そう上手くはいかないか」
魔勇者「ま、ここで探すか」
魔勇者「えっと、酒場は……っと」
?「もし、魔勇者様でいらっしゃいますか」
魔勇者「……いや、人違いじゃない?」
76 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:23:06 ID:5K/wRPc2
?「では、魔勇者様に、青の城においで下さるようお伝え願えますか」
魔勇者「城……って、あの真ん中のでっかいやつ?」
?「ええ、この街の統治者、青の女王様の居城でございます」
魔勇者「女王……へぇ、なるほどね」
?「お伝えいただけますか」
魔勇者「わかった。必ず伝えておくよ」
?「ありがとうございます。お待ちしております」
77 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:24:51 ID:5K/wRPc2
宿屋
スライム娘「………」
蜘蛛女「………」
スライム娘「………」
スライム娘「……か、片付け、上手くいって、よ、良かったね。お姉ちゃん」
蜘蛛女「………あぁ」
78 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:27:01 ID:5K/wRPc2
スライム娘「………」
スライム娘「………」すぅ はぁ
スライム娘「あ、あの、お姉ちゃん。あ、あの人と、どんな話をしたの?」
蜘蛛女「………」
スライム娘「あの、その、い、嫌なら、別に良いんだけど」
蜘蛛女「………」
スライム娘「お、お姉ちゃん?」
79 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:29:58 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……お前は、どう思った?」
スライム娘「! ……ど、どうって?」
蜘蛛女「あいつの、人類と和平を結ぶって話」
スライム娘「………その」
スライム娘「………」
スライム娘「わ、私は、わ、悪くないかなって、思った」
蜘蛛女「……何でだ?」
蜘蛛女「どうしたら、あいつらを許せるんだよ。あたしたちから、家族も、帰る場所も奪った奴らを、どうしたら……!」
80 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:33:18 ID:5K/wRPc2
スライム娘「ゆ、許すとか、許さないとかじゃ、なくて」
スライム娘「こ、これ以上、わ、私たちみたいな目に合う人たちが、い、いなくなれば、良いなって」
蜘蛛女「!」
スライム娘「で、でも、お姉ちゃんが決めたことなら、わ、私は、別に……」
蜘蛛女「……」
スッ
蜘蛛女 「……」ナデナデ
スライム娘「ふぇ……?」
81 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:36:09 ID:5K/wRPc2
蜘蛛女「……やさしいな、お前は」
スライム娘「そ、そうかな?」
蜘蛛女「あぁ、流石、あたしの妹だ」クス
スライム娘「……えへへ」
蜘蛛女「……良し、決めた! あたしは、あいつに協力する!」
スライム娘「え、い、良いの?」
蜘蛛女「おう! あいつが帰ってきたら、頼んでみる」
スライム娘「だ、大丈夫かな」
蜘蛛女「頭を下げるさ。あいつも、このまま帰ってこないなんてことはないだろう」
スライム娘「そ、そうだね」
82 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:39:11 ID:5K/wRPc2
コンコン
蜘蛛女「ん?」
宿主「あの、お客様、今、よろしいですか?」
ガチャ
蜘蛛女「あぁ、何だ……!?」
ガスッ
蜘蛛女「かはっ……」
スライム娘「お姉ちゃん!?」
83 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:43:32 ID:5K/wRPc2
???「動くな」
スライム娘「!」ビク
???「我々は、この街の治安維持を任されている第十五憲兵団だ」
蜘蛛女「憲兵……だぁ?」
???「……ふむ、間違いないな」カサ
蜘蛛女「ふざけんな、あたしたちは何も……」
ドゴッ
蜘蛛女「ぐっ……」
84 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/27(木) 23:50:22 ID:5K/wRPc2
???「黙れ、汚らしい魔物風情が。半身だからといって、調子に乗るな」
蜘蛛女「何だと……っ!」
バキッ
蜘蛛女「……っ!」
スライム娘「止めてっ!」
???「黙れ、と言ったんだ」
スライム娘「……っ」
???「……ふん。まあ、いい。お前らには、後でゆっくり、礼儀を教えてやる」
蜘蛛女(どうする? とりあえず、こいつらは敵。 しかし、数が多過ぎる)
蜘蛛女(くそっ、油断した、か)
???「お前たちを、国家反逆罪で逮捕する」
85 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/28(金) 03:34:46 ID:X2nLYkb6
反逆も何も国民じゃないんじゃ
86 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/28(金) 04:01:07 ID:LuMRh6/c
取り敢えずの拘束理由ってやつだろう
魔物の国という意味での国家反逆罪かもしれんし
87 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/02/28(金) 23:58:57 ID:5dBE596E
青の城
ギイッ
?「女王様、魔勇者様がおいでになりました」
「そう。すぐに通してちょうだい」
?「畏まりました。……魔勇者様、こちらへ」
カツ カツ
魔勇者「ご拝謁を賜り、光栄です。女王様」
青の女王「ふむ、そなたが勇者か」
魔勇者「はっ」
88 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 00:00:39 ID:8B1DYERs
青の女王「……思ったより、地味ね。危うく、見逃してしまうところだったわ」
魔勇者「まぁ、その、それが狙いだった、と申しましょうか」
青の女王「ふーん……あ、私、堅苦しいの苦手なの。だから、気は使わないわ」
魔勇者「はっ」
青の女王「ま、あなたがどうしようと、あなたの自由だけど」
魔勇者「わかりました」
89 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 00:05:04 ID:8B1DYERs
青の女王「……で、勇者様は、その名に似合わず、こそこそ何をしようとしているのかしら?」
魔勇者「……失礼ながら、その質問にはお答えできません」
青の女王「あら、どうして?」
魔勇者「魔王様より厳命されておりますので」
青の女王「……へぇ」
90 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 00:07:39 ID:8B1DYERs
魔勇者「そもそも、この作戦は、私が勇者であることも含めて、全てが極秘のはず」
魔勇者「私の存在を理解した上で、ここに呼び出すということは、何もかも理解しておられるのでは?」
青の女王「ま、そうなんだけど。一応、言質取っておかないといけないのよ」
青の女王「できれば、あなたから言って欲しかったんだけど」
青の女王「まあ、良いわ。単刀直入に聞く、そして命じるわ」
青の女王「人類との和平、即刻止めてほしいのよ」
91 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:38:00 ID:8B1DYERs
魔勇者「……それは、出来かねます」
青の女王「魔王様から命じられているから?」
魔勇者「ご理解感謝します」
青の女王「……ったく、魔王、魔王、魔王って」
青の女王「何か、ムカつくわね。あなた」
92 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:40:16 ID:8B1DYERs
魔勇者「…………」
青の女王「はぁ……和平、ね。世間知らずのお嬢様が考えそうなこと」
青の女王「あぁ、あなたも、同類だったわね」
魔勇者「…………」
93 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:41:53 ID:8B1DYERs
青の女王「私たちが、どうやって生きてきたのか。あなたは考えたことがある?」
青の女王「皆が、何をして、日々の糧を得ているのか。考えたことがある?」
青の女王「答えは、戦争、よ。今も、昔も、私たちは、争うことで何とか生き残ってきたの」
青の女王「争いが、あらゆる需要を生む。そして、それに応えることで私たちは、発展をみたのよ」
青の女王「いい? 私たちに必要なのは、戦争なの。そこには、勝利も、敗北も無い。あってはならないのよ!」
青の女王「その点、人類って奴らは素晴らしいわ! ひ弱で、非力! それなのに繁殖力だけは、魔物並みだもの」
青の女王「しっかり管理すれば、私たちは、いつまでもこの戦争を続けることができる! 理想的な戦争をね!」
94 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:43:59 ID:8B1DYERs
魔勇者「…………」
青の女王「……あなたにもう一度チャンスをあげる。だから、私の言葉に、だまって頷きなさいな」
青の女王「人類との和平、諦めなさい」
魔勇者「…………」
95 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:45:51 ID:8B1DYERs
魔勇者「……女王様、お気づきかとは思いますが。あなたの発言は、魔王様に対する反逆に捉えられかねません」
青の女王「ふふっ……反逆? その言葉が力を持つには、魔王が、この国の意思の体現者である必要があるわ」
青の女王「今の魔王にそんな力がある? 誰があんな箱入り娘を認めるというの? 形だけの世襲なんて甘い考えは、この国じゃ通用しないのよ」
青の女王「今、この場において、反逆者は、あなたなの」
青の女王「憲兵!」
ダッダッダッダッダッ
憲兵1~22「………」
96 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:47:17 ID:8B1DYERs
魔勇者「……女王様、これは一体何の真似ですか?」
青の女王「知らないの? 反逆罪は、重罪なのよ?」
魔勇者「なるほど、口封じですか」
青の女王「いいえ、罪人を捕えようとしてるのよ」
青の女王「あ、そうそう、仲間がいるのはわかっているわ。薄汚い半身魔族が二匹」
魔勇者「!」
97 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:49:31 ID:8B1DYERs
青の女王「あなたは、もしかしたら、と思っていたけど、無駄だったようね」
魔勇者「彼女たちは関係ない! ただの雇われだ!」
青の女王「あら、そうだったの」
魔勇者「っ! 彼女たちは!?」
青の女王「さぁね。殺せ、とは命じてあるけど」
青の女王「殺し方まで、指定してないから」
魔勇者「……てめぇ……」
青の女王「あらあら、乱暴ね。何なら、あなたも殺して上げましょうか?」
魔勇者「やってみろよ……」
青の女王「……フン、殺せ」
98 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:51:30 ID:8B1DYERs
「はい、そこまでー。どっちも動かないよーに」
魔勇者「!?」
青の女王「誰だ!」
ヴン
「どもー、魔王軍特務部隊のものでーす」
青の女王「特務、部隊? 聞いたことがないわ」
青の女王「でも、この城の魔法障壁を破ってくるってことは、実力はあるようね」
「えっ、障壁? そんなものあったんだー?」
99 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:53:38 ID:8B1DYERs
「まー、いいや。わかったら、無駄な抵抗は……」
青の女王「たかだか一匹のくせに、調子にのらないで」
青の女王「憲兵! そいつも殺せ。逃がすな」
「……ハァ。しょうがないな。……全員しゅーごー!」
ヴン ヴン ヴン ヴン……
?1~22「………」
憲兵1~22「!」
青の女王「なっ!?」
100 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:57:09 ID:8B1DYERs
「だから、動くなって言ったの。この場所は、既に我々の支配下にあるのよ」
青の女王「! ど、どこにいった!? あの女は!?」
「あれー、わからないかなー」
ヴン
「ここよ。あなたの、後ろー」
青の女王「ひっ」
「はい、あなたも動かないでね?」
101 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 22:59:26 ID:8B1DYERs
「ふいー、目標確保っと。大丈夫ですかー、勇者さま」
魔勇者「えっと、君……もしかして、鳥娘?」
鳥娘「わ! 覚えててくれたんですねー!」
魔勇者「背中の翼でね。相変わらず、綺麗だ」
鳥娘「えへへ、ありがとうございます」
鳥娘「でも、今は任務中なので、『隊長』でお願いします」
102 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:02:06 ID:8B1DYERs
魔勇者「隊長?」
鳥娘「はい! 魔王軍特務部隊の隊長ですー」フンス
魔勇者「特務部隊って……すごいな。エリートじゃないか」
鳥娘「……あれから、私なりに考えたんです。どうしたら、勇者さまと魔王さまのお役に立てるのか」
魔勇者「そ、それで、特務部隊に?」
鳥娘「親衛隊を別にすれば、一番魔王さまの近くにいられますから」
103 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:03:58 ID:8B1DYERs
鳥娘「本当は、親衛隊に入りたかったんですけど、ほら、私……」
魔勇者「…………」スッ
鳥娘「!」ナデラレ
魔勇者「……そっか、頑張ったんだね」
鳥娘「……はいっ」
魔勇者「…………」
鳥娘「? どうしたんですか?」
104 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:07:14 ID:8B1DYERs
魔勇者「ごめん、色々と聞きたいことはあるんだけど」
魔勇者「人の形をしたスライムと、半人半蜘蛛の女の人を知らないかな?」
魔勇者「短い間だったけど、ここまで、僕を守ってくれた。大事な仲間なんだ」
魔勇者「最後に見たのは、街の入り口にある宿屋なんだけど」
魔勇者「どこにいるのか知りたいんだ」
鳥娘「……勇者さま」
105 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:09:46 ID:8B1DYERs
鳥娘「……ふふ、だそうですよー?」
魔勇者「……え?」
ギィッ
蜘蛛女「……よ、よお」
スライム娘「……っ」
魔勇者「二人とも……」
106 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:12:08 ID:8B1DYERs
鳥娘「魔王様から、勇者様とそのお仲間を守るように仰せつかっておりましたので」
蜘蛛女「正直、助かったよ。さすがにヤバかったからな」
魔勇者「……ありがとう、鳥娘」
鳥娘「いえいえー、お礼なら、魔王様に。魔王様、勇者様が心配で、城下町を出るまで、こっそり監視させてたんですから」
魔勇者「ふふ、そっか。見られてたのか」
鳥娘「……」クス
107 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:15:47 ID:8B1DYERs
蜘蛛女「……で、これから、どうすんだ? 勇者さんよ」
魔勇者「まぁ、まずは仲間探しかな。目的はまだ果たせてないし」
蜘蛛女「おいおい、仲間ならもういるじゃねーか。なぁ?」
スライム娘「…………っ!」コクコク
スライム娘「ふ、二人で、話し合った」
スライム娘「わ、私たち、あなたの旅に、同行する」
スライム娘「……も、もちろん、あなたが良ければ、だけど」
108 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:17:24 ID:8B1DYERs
魔勇者「……ありがとう。こちらこそよろしくお願いするよ」
蜘蛛女「よっし、決まりだな!」
鳥娘「仲直り、ですねー。よかったです」
鳥娘「私は、ここの後始末をしなければならないので」
魔勇者「わかった。本当にありがとう」
109 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/01(土) 23:19:13 ID:8B1DYERs
鳥娘「いえいえー。……あ、そうだ。っと、これ。持っていって下さい」
魔勇者「これは? 丸い石……?」
鳥娘「跳躍魔法の起点となる魔法石です。周囲の魔力を少しずつ吸収して、〝出口〟の起点になりますー」
鳥娘「起動していただければ、いつでも、どこでも、駆けつけますから!」
鳥娘「あ、でも、起動するときは、距離を離して起動して下さいねー。空間の狭間に呑み込まれて帰って来れなくなりますから」
魔勇者「わかった」
鳥娘「……勇者様、どうかご無事で」
魔勇者「うん。……魔王を、頼む」
鳥娘「はい」
110 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:00:35 ID:3Eo.M0oc
鳥娘「ふー……じゃあ、こっちの処理を始めよっか」
青の女王「……ふん」
青の女王「私を連れて、無事にこの街を出られると思っているの?」
鳥娘「まぁ……それなりに」
鳥娘「あ、そうそう。あなたに聞かなきゃいけないことがあったんだった」
鳥娘「彼ら、何か知ってる?」
憲兵1~22「……」
111 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:04:39 ID:3Eo.M0oc
青の女王「何か、とは?」
鳥娘「魔王様への謀反に関して」
青の女王「それを教えたとして、何の得があるの?」
鳥娘「んー……彼らは生き存える、くらいかな。少しの間だけど」
青の女王「話にならないわね。それで私が協力すると思った?」
鳥娘「だよねー」
鳥娘「ま、いっかー。見たところ、あなたが一番深く噛んでそうだし」
鳥娘「消しちゃって」
特務兵1~22 コク
スラァ
ザシュ
112 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:07:55 ID:3Eo.M0oc
青の女王「……私が言えたことじゃないけれど、惨いことするわね」
鳥娘「私たちは、魔王様の影だから」
青の女王「下々の者には、高みの者の影は見えないってわけ」
鳥娘「そーいうこと」
青の女王「意外ね、もっとお子様かと思っていたわ」
鳥娘「あなたたちがどう思おうと、彼女は、魔王なの。わかったー?」
113 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:14:27 ID:3Eo.M0oc
青の女王「その言い方は、不快極まりないけれど、私にぺらぺら話しちゃっていいわけ?」
鳥娘「まー、多少の差こそあれ、あなたもああなるし」
青の女王「あらあら、怖い、怖いわぁ」
青の女王「その認識が甘いのよ」
青の女王「あなたの主にあなたたちを隠してたように、こっちにだって隠し玉があるのよ」
鳥娘「へー」
青の女王「っ……その余裕がどこまで保つか、見物だわ」
114 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:16:31 ID:3Eo.M0oc
鳥娘「……」
鳥娘「まー、じゃ、いきますか」グッ
青の女王「ちょっと、顔は止めてよ? 結構自慢なんだから」
鳥娘「……ふんっ」
グシャッ
青の女王「……え?」
115 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:19:22 ID:3Eo.M0oc
鳥娘「あ、そうそう。言い忘れたけれど」グッ
鳥娘「もうあなたの体とは、お別れだから」ググッ
青の女王「な……ん……」
鳥娘「あなたに隠し玉があるなら、私には、奥の手があるの」
ズボッ
青の女王「……かはっ」
鳥娘「捕まっても逃げられる」
鳥娘「その認識が甘いんだよ」
116 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:22:38 ID:3Eo.M0oc
鳥娘「よっと……〝容れ物〟ちょうだい」
特務兵1 サッ
鳥娘「サンキュー。……これを入れて、封をして……っと」
鳥娘「よーし、吸魂術、かーんせーい!」
特務兵1~22 パチパチ
鳥娘「どうも、どうも」テレ
鳥娘「んじゃー、撤収しますか」
特務兵1~22 コク
ヴン ヴン ヴン ヴン……
117 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:27:17 ID:3Eo.M0oc
宿屋
魔勇者「こんなもんかな」
蜘蛛女「おう、準備終わったか?」
魔勇者「うん、待たせてごめん」
スライム娘「ぜ、全然! わ、私たちも今終わった」
魔勇者「そっか、それなら良かった」
魔勇者「じゃあ、行こうか」
蜘蛛女「おう!」
スライム娘「うん!」
ガチャ バタン
118 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:30:21 ID:3Eo.M0oc
魔王城
側近「……ご報告が御座います、魔王様」
魔王「何だ?」
側近「先日、境界南部防衛大隊において、前線部隊が壊滅しました」
魔王「!」
側近「幸い、前線部隊の報によって、防衛大隊は増援を派遣。前線にはほとんど変化ありません」
魔王「……そうか」
119 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:34:59 ID:3Eo.M0oc
魔王「何があった。激戦区ではないとはいえ、慢心が過ぎるぞ」
側近「それが……」
魔王「?」
側近「慢心が原因であることは否めません。しかし、生き残った兵士たちからの証言によれば……」
魔王「何だ、珍しく歯切れが悪いな」
側近「申し訳ありません。しかし、私にもにわかに信じ難く」
魔王「信じ難い?」
120 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:40:56 ID:3Eo.M0oc
側近「はっ。彼らの証言によると、部隊を壊滅させたのは、わずか四人の人類だ、と」
魔王「何? 四人?」
側近「はっ」
側近「加えて、その内の一人は、勇者と名乗ったとか」
121 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 20:42:50 ID:3Eo.M0oc
魔王「! ……ついに、来たか」
魔王「境界南部に援軍を送れ。境界の全部隊にも警戒しろと伝えろ」
側近「はっ」
魔王「親衛隊に、城の防備を固めさせろ」
魔王「特務部隊に、その四人についての情報を集めるよう言え」
側近「委細承知」
スタスタスタ バタン
魔王「……」
魔王「間に合ってくれよ」ボソ
魔王(魔勇者……)ギュッ
123 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 21:34:49 ID:3Eo.M0oc
境界北部
霧の森
蜘蛛女「本当に、ここにあるのか? 聞いたことないぞ」
魔勇者「あるはずだよ」
魔勇者「というか、無かったら、僕たちは、命がけで戦線を越えなきゃならなくなる」
蜘蛛女「三人じゃ、無謀にもほどがあるっつーの」
スライム娘「で、でも、転送装置なんて、本当にあるの?」
蜘蛛女「んなもんあったら、真っ先にぶっ壊すけどな、あたしなら」
124 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 22:04:24 ID:3Eo.M0oc
魔勇者「うん。この戦争が始まってすぐにほとんどが壊されたみたいだよ」
魔勇者「でも、ここのは、この森が、魔族、魔物でさえ迷ってしまうからって、破壊されずに残ってるみたいなんだ」
蜘蛛女「人類が来ても……ってことか」
魔勇者「そういうこと」
蜘蛛女「しかし、こっち側にその装置があるのは、わからなくもないが……」
蜘蛛女「なんで向こう側に、そんな装置があるんだ?」
魔勇者「交流があったんだよ、昔は」
125 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 22:11:23 ID:3Eo.M0oc
魔勇者「だから、魔王は、人類と和平を結べるって、確信してるんだ」
スライム娘「……」
蜘蛛女「……そんな時代もあったんだな」
魔勇者「ずっと、ずっと昔の話だけどね」
スライム娘「ま、またそうなれると良いね」
蜘蛛女「……そうだな」
魔勇者「そうするためにも、今は前に進もう」
スライム娘「……うん!」
126 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 22:16:06 ID:3Eo.M0oc
パキッ
魔勇者「!」チラ
蜘蛛女「……」コク
スライム娘「……?」
魔勇者「誰だ!」
スライム娘「!」
魔勇者「大人しく姿をあらわせ! そうすれば、命は助ける!」
魔勇者「出てきてもらえないのなら、この一帯全てを刈り取るしかなくなる!」
127 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 23:33:37 ID:3Eo.M0oc
シーン……
魔勇者「……仕方ないか」チャキ
?「待って! 今、出て行くから!」
ガサッ
?「そ、そのご、ごめんなさい。話し声が聞こえたものだから」
魔勇者「!」
魔勇者(子供? ……!)
魔勇者「君は誰だ? どこから来た?」スチャ
スライム娘「ゆ、勇者さん!?」
128 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 23:35:05 ID:3Eo.M0oc
蜘蛛女「お前、何やってんだ! 相手は子供だぞ!」
魔勇者「この森は、人智の及ばない迷いの森だよ?」
魔勇者「そんな場所に、どうして健康そのものの子供がいるのさ?」
魔勇者「……しかも、人類の」
蜘蛛女「!」
スライム娘「じ、人類……?」
129 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 23:36:05 ID:3Eo.M0oc
魔勇者「さ、答えてよ」
子供?「そ、そんなこと言われても……」
子供?「僕、生まれてからずっとここに住んでるし」
魔勇者「ずっと……?」
魔勇者(どういうこと……?)
蜘蛛女「おい、どうなってんだ。あたしたちは、まだ境界を越えてないはずだろ?」
魔勇者「そのはず、だけど……」
130 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 23:39:03 ID:3Eo.M0oc
子供?「って、そうじゃなかった」
子供?「僕……ううん、僕たちを助けて!」
魔勇者「助け……?」
魔勇者(この子……何を企んでいるんだ……?)
蜘蛛女「なあ」
魔勇者「何?」
蜘蛛女「とりあえず、武器をから手を離そうぜ? な?」
魔勇者「……」
蜘蛛女「何にせよ、話は聞いておくべきじゃないか?」
魔勇者「……わかった」
131 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/02(日) 23:41:43 ID:3Eo.M0oc
子供?「こっちだよ、こっち!」
蜘蛛女「ったく、こういう森は狭くて歩きにくいな」
魔勇者「自分が言ったんだから文句言わない」
蜘蛛女「わぁーってるよ」
スライム娘「あ、あの子、迷いがない」
魔勇者「……」
魔勇者(確かに……。何か目印でもあるのか?)
子供?「早く、早く!」
蜘蛛女「おい、こら、待てって!」
133 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:38:00 ID:6Vo4lH96
???
蜘蛛女「な、何だよ、これ……」
スライム娘「……」
魔勇者「……」
134 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:40:14 ID:6Vo4lH96
男1「ふーっ。 おーい、薪はこれくらいで良いのか?」
蜥蜴女「うん、それぐらいで大丈夫。いつもありがとう」
男1「良いってことよ。お互い様だろ」
135 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:43:02 ID:6Vo4lH96
老女「すまないね」
スケルトン「……」カラカラ
老女「いつも手伝ってもらっているのに、何のお礼も出来ない」
スケルトン「……」カラカラ
老女「そうかい、そうかい」
136 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:44:58 ID:6Vo4lH96
男2「また壊れちまったんだが……直してもらえるかね」
ドワーフ「またか……力を入れすぎるなといつも言っとろうに」
男2「す、すまん、すまん」
ドワーフ「まったく……貸せ!」
ドワーフ「ふむ……これなら、少し打ち直せば良いだろう」
男2「本当か!」
ドワーフ「二、三日したらまた来てくれ」
男2「わかった」
137 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:50:38 ID:6Vo4lH96
魔勇者「人類と魔物が……共存してる?」
スライム娘「ど。どういうこと……?」
子供?「ど、どうしたの? 何だか怖い顔してるよ?」
魔勇者「……ここは、いつからこうなったの?」
子供?「いつから……って、さっきも言ったじゃん」
子供?「生まれてからずっとだよ?」
138 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:52:20 ID:6Vo4lH96
魔勇者「……」
魔勇者(一体、何がどうなって……)
?「おや、あなた方は?」
スライム娘「!」
?「ここに辿り着いたということは、あなた方も平穏を求めておられるのですね?」
蜘蛛女「ま、まあ、その、そうだよ。なあ?」チラ
魔勇者「……あ、えっと、そうだよ」
スライム娘「……」コク
139 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 22:55:20 ID:6Vo4lH96
?「おぉ! それは、素晴らしい! どうぞくつろいで下さい」
?「少々おかしな場所に思えるかもしれませんが……」
?「ここの人々……魔のもの、人類は、皆、互いに助け合って生きています」
?「皆、心優しい者ばかりですから、ご安心を」
140 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 23:03:16 ID:6Vo4lH96
魔勇者「……ここのことを教えてもらってもいいかな」
?「ああ、これは失礼しました」
?「ここは、平穏を望む者たちの小さな楽園、霧の女王が見守る霧の集落でございます」
?「そして、私は、未熟ながらこの集落のまとめ役のようなものをしております。集落長と申します」
魔勇者「……僕は、魔勇者。彼女たちは、蜘蛛女とスライム娘。僕の仲間だよ」
集落長「これはこれは、よろしくお願いします」ペコリ
蜘蛛女「お、おう」
スライム娘「お姉ちゃん! ……よ、よろしくお願いします」ペコリ
141 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 23:06:30 ID:6Vo4lH96
「集落長! またお客だ! こっちへ来てくれないか」
集落長「おや、まあ、何と珍しい。すみません、ご案内できたら良かったのですが……」
魔勇者「気にしないで、自分たちで勝手に見て回るから」
集落長「そうですか。では……」
魔勇者「……」
142 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 23:08:35 ID:6Vo4lH96
子供?「……面白いよね、あの人」
スライム娘「お。面白い?」
子供?「あの人が言ってた〝霧の女王〟なんて、ホントはいないんだよ」
蜘蛛女「そりゃ、どういう……」
子供?「あの人、この森で迷子になって、疲れて動けなくなったとき、助けてもらったんだってさ」
子供?「綺麗な、綺麗な女の人に」
スライム娘「お、女の人……」
子供?「そう。皆、その話を知ってる。でも、その女の人を見たことはないんだ」
143 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/03(月) 23:12:19 ID:6Vo4lH96
子供?「あの人が言うには、その人に憧れて、一目会いたくて、お礼と恩返しがしたくて、ここに住むことにしたんだって」
子供?「そんな人いやしないのに……馬鹿、だよね」ウツムキ
魔勇者「……?」
魔勇者(この子……)
『止めて下さい! あなた方のような人々はこの場所に相応しく無い!』
蜘蛛女「! ……この声は、集落長!?」
スライム娘「な、何かあったみたい」
146 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:33:42 ID:jiNLKU0Y
人狼1「おらぁっ!」バキッ
集落長「ぐあっ」
人狼2「はははっ! 人類! この劣等種族が!」
人狼3「放っておけば、害虫のように増えやがって」
人狼3「こりゃあ、駆除、しねぇとなぁ?」
147 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:36:19 ID:jiNLKU0Y
集落長「や、止めて下さい……」
人狼1「あぁ? まだ息があるのか、こいつ」
集落長「わ、私たちは、ただ静かに暮らしたいだけなんです」
集落長「どうか、どうか、放っておいて下さ……」
人狼1「うるせぇ、死ね」ブン
キン
魔勇者「まあ、待ちなよ」
148 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:39:25 ID:jiNLKU0Y
人狼1「あ?」
ブシュ
人狼1「あぁぁぁぁぁ! 腕がぁぁぁぁぁぁ!」
魔勇者「待てって、言ったのに」
人狼1「て、てめぇ……何しやがった!」
魔勇者「何って、その腕見れば分かるでしょ」
149 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:41:43 ID:jiNLKU0Y
人狼2「馬鹿を言え! その距離からその剣が届く訳が無い!」
魔勇者「……まぁ、そうかもね」
人狼3「!」
人狼3(あの野郎、まったく血の匂いがしねぇ……)
人狼3(だってのに、何でこんなに気圧されるんだ……!)
人狼2「ふざけおって! 魔族だからとて、容赦はせん!」ダッ
人狼3「! 待て!」
150 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:44:40 ID:jiNLKU0Y
人狼2「うぉらっ!」ブン
ガキン
人狼2「なっ!?」
魔勇者「……フッ!」ブン
メキメキっ
人狼2「かはっ……」アトズサリ
人狼2「お、お前……それは、一体……」フラッ
ドサッ
151 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:47:15 ID:jiNLKU0Y
魔勇者「……」
人狼3「くっ……」チラ
人狼1「ぐぅっ」
人狼2「……ひゅー……ひゅー……」
人狼3(チッ……馬鹿が……っ)
人狼3「おい、ずらかるぞ!」グイ
人狼2「ぐあつ」
人狼1「くっそ……」ダッ
人狼3「……てめぇら、ぜってー殺す」ダッ
152 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:51:25 ID:jiNLKU0Y
魔勇者「……ふー、危なかった」
魔勇者「集落長、大丈夫ですか?」
集落長「げほっ、げほっ……え、えぇ、助かりました」
魔勇者「ごめんなさい。ここに争いを持ち込んでしまった」
集落長「い、いえ、あなた方に、非はありませんよ……うっ、ごほっ」
魔勇者「!」
魔勇者「誰か! 集落長に手当てを!」
蜥蜴女「は、はいっ!」
男1「おう、担架持ってくる!」
153 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:54:00 ID:jiNLKU0Y
子供?「集落長、大丈夫かな……」
魔勇者「しばらく動けないだろうけど、命に別状はないはずだよ」
子供?「そっか……良かった」
魔勇者「じゃあ、僕たちはもう行くよ」
子供?「え? な、何で?」
154 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:56:16 ID:jiNLKU0Y
魔勇者「ここに、部外者である僕たちが、争いを持ち込んだからだよ」
子供?「それは違うの!!」
魔勇者「うわっ!?」
子供?「あ、ご、ごめんなさい」
魔勇者「だ、大丈夫。でも、一体どうしたの?」
子供?「い、いや、でも、さっきのことは、あなたたちのせいじゃないのは本当だから……」
子供?「……」
155 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:57:39 ID:jiNLKU0Y
魔勇者「?」
子供?「……僕、あいつらの居場所、知ってるんだ」
魔勇者「!」
魔勇者「じゃあ、助けてほしいって言ったのは……」
子供?「……」コク
156 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/03/04(火) 22:58:51 ID:jiNLKU0Y
子供?「……あなたたちにとって、僕たち人類は、憎むべき対象なのかもしれない」
子供?「僕たちなんて、殺されてしまえばいいと思っているかもしれない」
子供?「身勝手なのは、わかってる。 あなたたちに僕たちを助ける義理なんてないことも」
子供?「でも、僕は、あそこで平和を話してたあなたたちに、お願いしたい」
子供?「あいつらを、殺して……」
転載元
魔王「頼んだぞ、勇者!」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1393422626 柊暁生
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
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