1 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:14:45.76 ID:Ur0QNdGDO
*序
ガラガラ……
ロレンス「……いい天気だな」
見渡す限りの草原の中、ぼんやりと馬車の手綱を引く一人の青年。
彼の名はロレンスという。
彼は行商人。そう、時間に追われ埃にまみれる、行商人だ。
ロレンス「……」
とはいえ今の、ごくのんびりとした彼の姿に、行商人らしい様子はない。
それはある取引が思うままに進んだという、実に商人らしい理由ではあったが。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1363691685
2 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:17:41.44 ID:qrdMExINo
そんな彼の今回の旅程には、いくつかの転機が待っている。
カラン……
カラン
ロレンス「……この鐘の音は」
ロレンス「羊飼いか。確かにこれだけの草原にあって、羊飼いがいないのは不釣り合いだな」
ロレンス「(……今回の旅はいろいろとついているのかもな)」
退屈で孤独な旅の中で、ちょっとした出会いは買えない価値を持つ。
そんな小さな期待とともに、ロレンスは向かって来る羊飼いに声をかけた。
3 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:19:21.95 ID:Ur0QNdGDO
*1
??「…」
カラン
ロレンス「行商人のロレンスと言います」
??「…」コク
ロレンス「この出会いが、きっと神のお導きであること」
ロレンス「そしてあなたが善き羊飼いであること、それをあなたの正しい振る舞いで示して頂ければ、と思います」
??「…はい」
ロレンス「(…え?)」
??「……」スゥ
??「“天の神の祝福により―――”」
ロレンス「(これは…)」
ロレンス「(まだ幼い、少女の声か…!?)」
4 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:21:46.12 ID:qrdMExINo
トン
??「…」
ロレンス「…あ、えっと」
ロレンス「失礼しました。あなたは確かに、善き羊飼いで間違いない」
ロレンス「お名前をうかがっても?」
??「…」コク
??「ノーラ・アレントと言います」ニコ
6 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:26:18.55 ID:Ur0QNdGDO
・ ・ ・ ・ ・
ロレンス「喜んで」
ノーラ「へ?」
ロレンス「リュビンハイゲンまでの狼からの護衛、でしたよね」
ロレンス「ありがたいお話です。正直、多少無理を承知でこの道を選んで来たものですから」
ノーラ「ほ、本当ですか?」
ロレンス「ええ」ニコ
7 :
>>5 ありがとう。まあほのぼのだと思う。 ◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:32:14.83 ID:qrdMExINo
ロレンス「それに何より」
ノーラ「?」
ロレンス「一人旅は退屈ですからね」
ロレンス「行商人の話こそ面白くもないかもしれませんが、付き合っていただけるなら安いものです」
ノーラ「…分かります」
ノーラ「実は私も、半分は、そんなつもりでお願いしたんです」ニコ
ロレンス「そうですか。それはよかった」
8 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:36:42.48 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「では数日の短い間かもしれませんが」
スッ
ロレンス「改めまして。よろしくお願いします」
ノーラ「は、はい」ゴシゴシ
ノーラ「あの、こちらこそ…」
ギュ
ノーラ「よろしく、お願いします」ニコ
9 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:40:58.13 ID:qrdMExINo
*2
カラーン…
ロレンス「しかしこれだけの羊を連れて」
ロレンス「あの森を越えてラムトラまで行けるとなると、ノーラさんの羊飼いとしての腕は確かなようですね」
ノーラ「いえそんな…その、この子のおかげで、なんとか」
エネク「ばうっ」
ノーラ「…」ヨシヨシ
ロレンス「…腕のいい羊飼いは、いい連れを持つと言いますからね」
ノーラ「…」ニコ
10 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:44:53.44 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「小さな努力を積むことはとても大事なことだと思います」
ロレンス「まあ、私からはささやかなお礼しか渡すことはできませんが」
ノーラ「…はい」クス
ロレンス「…」ニコ
ロレンス「いつか自分のお店を、持つことができるといいですね」
ノーラ「ええ」
ノーラ「お互い頑張りましょう」ニコ
11 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:49:00.58 ID:qrdMExINo
*3
ロレンス「では、短い間でしたが」
ノーラ「はい」
ノーラ「あの、とても楽しかったです」
ノーラ「なので、その…」
ロレンス「?」
ノーラ「…」
ノーラ「い、いえ。何でもないです」
12 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:54:18.07 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「…そうですか?」
ロレンス「そうだ。ノーラさんの護衛の仕事ですが」
ノーラ「は、はい」
ロレンス「依頼の有無に限らず、一度は報告に向かわせてもらおうと思っているのですが…」
ノーラ「! はい」
ノーラ「あの…待ってます」
ロレンス「ええ」
ノーラ「…//」ニコ
13 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 20:57:56.96 ID:qrdMExINo
+ローエン商業組合 商館+
ヤコブ「…むう」
ヤコブ「そいつはよした方がいい」
ロレンス「え…どうしてですか?」
ヤコブ「なぜ彼女が教会に飼われているのかくらいは、お前も分かっているだろう?」
ヤコブ「ここの教会を舐めていると痛い目にあうぞ?」
ロレンス「……。そうですね」
14 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:00:12.76 ID:Ur0QNdGDO
ヤコブ「彼女の仕事を斡旋するようなことは避けるべきだな」
ヤコブ「だが…」
ポタ…
ギュ
ヤコブ「自分が利用するなら構わないだろう。まあ、覚悟を持っているのならばだが…ほれ証書」
ロレンス「どうも。…あの、それはどういう」
ヤコブ「いや。お前に仕事の依頼をしてやろうと思ってな」
15 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:04:50.59 ID:Ur0QNdGDO
・ ・ ・ ・ ・
+教会前+
ロレンス「ノーラさん」
ノーラ「…? あっ」
ロレンス「こんにちは」ニコ
ロレンス「せっかく教会の前ですから―――こうしてすぐにでも再会できたことを、神に感謝しましょう」
ノーラ「…はい」クスクス
16 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:09:47.58 ID:jUMYJyBEo
ガヤガヤ
ロレンス「仕事の依頼を持って来ました」
ロレンス「…というか、まあ、私がまたノーラさんに依頼をしたい、ということになるのですが」
ノーラ「ほ、本当ですか!?」
ロレンス「え、ええ」
ノーラ「…あ、失礼しました」カァァ
ロレンス「いえ」クス
17 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:15:13.47 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「話は単純で、ラムトラまでの護衛をお願いしたい、ということです」
ロレンス「正直に言えば、リュビンハイゲンへの道のいくつかが傭兵団によって阻まれている今」
ロレンス「旅路を選んでいるだけで儲けが出ますから」
ノーラ「…な、なるほど」
ロレンス「なので」チラ
ノーラ「…?」
ロレンス「ノーラさんさえよければ。しばらくは、対等な関係で行商につき合うつもりでいてもらえると、嬉しいです」
ノーラ「…」
ノーラ「は、はい。喜んで」ドキドキ
ロレンス「よかった」
ノーラ「(…対等、かぁ)」//エヘヘ
18 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:18:57.82 ID:jUMYJyBEo
*3
・ ・ ・ ・ ・
パチパチ…
ノーラ「…」
ロレンス「(商会からの依頼で、ラムトラまで羊を何匹か届ける)」
ロレンス「(そしてついでに適当に物を売り捌けば、十分儲けが出る)」
ロレンス「(…まあ、さすがにこれまでの行商路を捨てるわけにはいかないかし…こんなに単純なやり方は、せいぜい一度が限度だが)」
ノーラ「…順調に行けば、明日のお昼ごろには着くと思います」
ロレンス「はい」
19 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:22:07.64 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「…」グビ
ノーラ「…」
ノーラ「…あの、一つ…お聞きしてもいいでしょうか」
ロレンス「ええ。何でしょう」
ノーラ「…本当に、私をこうして雇っていただいて、ロレンスさんはよかったのでしょうか?」
ロレンス「?」
ノーラ「その、ロレンスさんを疑っているとか、そう言うつもりではないんです」
ノーラ「…ただ…護衛として使っていただけたのは、ロレンスさんが初めてでしたし」
ノーラ「その上こうして旅を共にさせてくれるなんて、その…」
ロレンス「都合のいいことばかりで不安、ですか」
ノーラ「…は、はい…」
20 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:28:06.15 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「…そうですね」グビ
ロレンス「私は行商人です。なのでいつもの行商路にない」
ロレンス「このラムトラへの旅は、決して必要なものではありません」
ノーラ「…そ、そうですよね」
ロレンス「でも、それなら説明がつくと思いませんか?」
ノーラ「え?」
ロレンス「行商人としてでなく私自身が」
ロレンス「今回の、ノーラさんとご一緒できる旅を仕組んだんだと」
ロレンス「こう考えればこれ以上の理屈は必要ありません」
ノーラ「…」
ノーラ「あの、でも、それだと…」//
ロレンス「ええ。まあ、そう言うことです」
ノーラ「…」//
21 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:33:19.76 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「はは。臭いことを言ってしまいました」
ロレンス「まだそんなに飲んでもいないのに、もう酔っているのかもしれない」チビ
ノーラ「い、いえ」
ノーラ「…よかったです。私も、そうですから」
ロレンス「…何だか照れ臭いですね」ポリポリ
ノーラ「そうですね」
22 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:36:17.31 ID:jUMYJyBEo
・ ・ ・ ・ ・
パチパチ…
ロレンス「…ん」パチ
ノーラ「…」
ノーラ「あ、おはようございます」ニコ
ロレンス「…はい」
ロレンス「…っと、すいません。一人だけ暢気に眠り呆けるなんて…」ガバ
ロレンス「っ、寒…」
ノーラ「いえ。ロレンスさんの護衛が、私の務めですから」
ノーラ「それに…」
ロレンス「? はい」
23 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:41:22.88 ID:Ur0QNdGDO
ノーラ「誰かに、おはようと声をかけることができるのは、何だかとっても素敵なことだと思います」ニコ
ロレンス「…」
ロレンス「そうですね」
ロレンス「そう声をかけてもらえることも、本当に、幸せなことだと思いました」
ノーラ「そ、そうですか?」//
ロレンス「ええ」
24 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:44:07.75 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「ゆっくりと、ご飯を食べてからの出発で、いいですよね」
ロレンス「…ええ」
ロレンス「せっかくの旅ですから。急ぐことはありません」
ノーラ「はい」
25 :
あ、3が二回ある…>>18は*4でした。 ◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:48:00.45 ID:Ur0QNdGDO
*5
+ラムトラ+
商会の人「確かに」
商会の人「…それにしても、ずいぶん早かったなぁ。まさかあの森を越えて来たわけじゃないよな?」
ロレンス「さて、どうでしょう」
商会の人「はは、まさかな。助かったよ」
商会の人「また何かあったら頼むよ」
ロレンス「ええ。そう言っていただけることが、商人にとっては一番の報酬です」
商会の人「そいつはよかった」ハハ
26 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:53:48.15 ID:jUMYJyBEo
ガヤガヤ…
ロレンス「…ノーラさんは、服飾の職に就きたいんでしたね」
ノーラ「きゃっ」
ノーラ「あ、ろ、ロレンスさん…」
ノーラ「もう、驚かさないでください」
ロレンス「っと、失礼しました」
ノーラ「あ、いえ、…こちらこそ、大きな声を出してしまって」//
27 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:56:59.77 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「…」
ノーラ「素敵な服ですよね」
ロレンス「ええ」
ノーラ「…今はまだ、私にはお金も、技術もないですけど」
ノーラ「いつか私も、こんな服を作れるようになりたいなって」
ロレンス「…はい」
28 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 21:59:25.83 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「もういいんですか?」
ノーラ「ええ。その…」
ノーラ「恥ずかしい話ですが、冷やかししかできないですから…」アハハ…
ロレンス「…分かりました」
ロレンス「では、先に街の外で待っていてください。食糧をいくらか買い足しておきたいので」
ノーラ「分かりました」
29 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:02:46.88 ID:Ur0QNdGDO
・ ・ ・ ・ ・
ロレンス「雲行きが怪しいですね」
ノーラ「はい。一雨来るかも…しれません」
ロレンス「…急ぎましょうか」
ノーラ「…」
ノーラ「そう、ですね」
30 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:05:44.95 ID:jUMYJyBEo
*6
ザァァァァ…
ロレンス「…」
ロレンス「(まだ、リュビンハイゲンまで…しばらくかかるな)」
ノーラ「…」ハア、ハア
ロレンス「(急ぐと言っても、荷馬車では限界がある)」
ロレンス「(とても今日中には辿り着かないだろう)」
ロレンス「ノーラさん」
31 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:07:36.68 ID:Ur0QNdGDO
ノーラ「…は、はい」
ロレンス「…今日はこの辺りで野営にしましょう。幸い、木々で雨の届かないところはいくらでもありそうです」
ロレンス「…少し休まないと」
ノーラ「…」
ノーラ「…はい。そうします。ごめんなさい」
ロレンス「いえ」
ロレンス「(いっそノーラさんにも馬車に乗ってもらいたいが…)」
ロレンス「(それで狼が追い払えるか、という話だ。羊もまだ何匹か連れているところだし)」
ノーラ「…」フゥ
32 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:12:46.82 ID:jUMYJyBEo
ザァァァァ…
パチパチ
ロレンス「それから…」
ロレンス「よかったら、荷台を使ってください」
ノーラ「え?」
ロレンス「濡れている地面に横になるのは、体によくないでしょう?」
ノーラ「…そう、ですが」
ロレンス「気にすることはありません」
ロレンス「ノーラさんが体を壊してしまったら、私はこの森から無事に出ることはできないですからね」ハハ
ノーラ「…そうですね」クス
33 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:14:34.89 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「暖かくして休んでください」
ノーラ「…」
ノーラ「あの、それでしたら」
ロレンス「?」
ノーラ「…」
ギュ
ロレンス「…ノーラさん?」
ノーラ「…こ、こうして」
ノーラ「…いさせてもらっても、いいですか?」
34 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:17:45.35 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「…」
ロレンス「そ、そうですね」
ロレンス「人肌が、一番、暖まると言いますから…その」
ノーラ「はい」
ギュゥ
ロレンス「…ゆっくり疲れを癒してください」
ノーラ「…はい」
35 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:20:32.45 ID:Ur0QNdGDO
*7
・ ・ ・ ・ ・
パチパチ…
ロレンス「…」
ロレンス「…ん…しまった、少し、眠ってしまっていたか」
ノーラ「…すー…」
ロレンス「(ノーラさんは、まだ眠っている)」
ロレンス「(いつもなら、彼女はもう起きている時間だろうが…)」
ロレンス「疲れていて当然だよな」
ノーラ「…」スー…
36 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:24:28.07 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「…」
ノーラ「…」
ロレンス「…」ドキドキ
ロレンス「(…綺麗な髪だよな…)」
ロレンス「(…そーっと)」スッ
ガサ
ロレンス「」ビクッ
ロレンス「(な、なんの音だ…まさか狼か…!?)」
37 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:27:16.29 ID:Ur0QNdGDO
ガサガサ
ギギ、ギイギイ
ロレンス「(…馬車に何かいる)」
ノーラ「…ん…」
ロレンス「(ノーラさんを起こすべきか?)」
ガサガサ
ロレンス「(…いや。あれは俺の荷物だ)」
ロレンス「(自分で解決する)」
38 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:30:03.26 ID:jUMYJyBEo
ゴソゴソ
ロレンス「…」ゴクッ
ロレンス「ええいっ」
バッ
??「む?」
ロレンス「…」
ロレンス「(…裸の少女…だと? …狼ではなかったか…)」ホッ
39 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:34:31.81 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「おいお前。一体どこから…いや」
ロレンス「それよりも、お前、それは何だ…!」
ピョコピョコ
??「それ、とは?」
ロレンス「っ…その、耳と、尻尾だよ!」
??「…くふ。珍しいかや」
??「わっちは賢狼じゃ。耳としっぽがあって、なにか可笑しいかの」
ロレンス「…賢狼? なんだそれ…って、よく見たら」
??「んむ?」
40 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:38:34.26 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「ち、血まみれじゃないか! どこか怪我でもしているのか」
??「…ああいや、これはわっちの血ではありんせん」ペロ
??「というか、ぬしはこの馬車の持ち主じゃろう?」
ロレンス「…そうだが」
??「くふ。持ち物を物色する相手の心配とは、ずいぶんなお人好しのようじゃな」
ロレンス「…っ、うるさいな、悪いか」
??「ううん? なかなかいい雄じゃなって」
ロレンス「…」
41 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:42:15.48 ID:Ur0QNdGDO
??「心配してくれて、ありがと」
ロレンス「…そんなことはいい」
ロレンス「それでお前は、ここで何をしている」
??「なにって」
??「こんな鬱々とした森に似つかわぬよい匂いがしたからの。ちょっとだけ、分けてもらったぞ」
ロレンス「…」
ロレンス「ここにあったパンを食べたのか」
??「まあの。実に美味じゃった―――」
ゴツン
??「いたっ!?」
??「な、何をするんじゃ!」
42 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:45:55.62 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「俺の台詞だ! 人の物を勝手に食い散らかしやがって」
ロレンス「いいか商人を舐めるなよ、お前が食った分は、どんな手を使ってでも耳を揃えて返してもらうからな」
??「な、なんじゃと?」
??「この賢狼をつかまえて、殴るだけでは飽き足らず…借りを返せじゃと?」
ロレンス「当たり前だ!」ゴン
??「いたい! や、やめてくりゃれー」
ロレンス「(偉そうなやつ。…何なんだ、一体)」ハア
43 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:48:18.73 ID:Ur0QNdGDO
??「このっ…」バッ
??「神とまで崇められたこのわっちの頭に、気安く触れるでないわ!」
ロレンス「…神? 悪魔憑きの間違いじゃないか」
??「違うわい!」
??「わっちの名は―――」
44 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:49:19.35 ID:jUMYJyBEo
ホロ「ホロ。賢狼ホロじゃ。北の地ヨイツの、誇り高き、狼でありんす」
ロレンス「…狼だと?」
45 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:52:50.96 ID:Ur0QNdGDO
ノーラ「…ん」
ノーラ「(人の声?)」
ムク
ノーラ「馬車の方に…ロレンスさんと、…もう一人、誰かいるのかな」
ノーラ「…言い争っているようにも見えるけど」イッテミヨウ
46 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:55:44.86 ID:jUMYJyBEo
ガッ
ホロ「な、なんじゃ」
ロレンス「その血…まさかお前、そこにいた羊に手を出したんじゃないだろうな」
ホロ「…だったら何なんじゃ」
ロレンス「俺が許さない」
ロレンス「あれはノーラさんの大切な羊だ。やがて潰されるにしろ、彼女が必死に育て上げた子らだ」
ロレンス「それをお前が食ったのなら、俺はお前を許さない」
ホロ「…」
ホロ「(こやつ…このわっちを、さっきから許さぬだの何だのと…)」
47 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 22:58:34.77 ID:Ur0QNdGDO
ホロ「…くふふ」
ロレンス「…何を笑ってる」
ホロ「いいや?」
ホロ「ぬしはなかなか面白い人間じゃと思ってな」
ロレンス「…何だと?」
ホロ「ほれ。いつまでわっちの肩を掴んでおる気じゃ」
ブンッ
48 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:02:37.38 ID:jUMYJyBEo
ガッ
ロレンス「…」
ロレンス「(い、いつの間に汲み伏せられたんだ、俺は…!?)」
ホロ「くふ」アーン
ロレンス「(牙がある…ま、まずい)」
ロレンス「お、おい。お前、何をする気だ…」
バッ
ノーラ「ま、待ってください!」
ホロ「?」
49 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:04:01.12 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「ノ、ノーラさん…」
ノーラ「…あの、わ、私の羊のことは、いいので…」
ノーラ「ロ、ロレンスさんのこと、離してください」
ホロ「…」
ホロ「…むう」
ロレンス「…あ、…危ないですから、下がって…」
ノーラ「いえ、…あの、ロレンスさん」
50 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:08:36.32 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「さっき、私のために怒ってくださいましたよね」
ノーラ「嬉しかったです」ニコ
ロレンス「…ノーラさん」
ノーラ「あの。ホロさん」
ホロ「…なんじゃ」
ノーラ「お願いですから、彼を離してください」
ノーラ「もしよかったら、残りの羊と、…私のことも、食べてしまってもいいので」
ロレンス「ノーラさん!」
51 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:11:32.48 ID:Ur0QNdGDO
ホロ「…」
ホロ「そんな陳腐な提案で、わっちが牙を収めると思うかや」
ノーラ「…思いませんが、一応…」
ホロ「…」
ノーラ「…」ブルブル
スッ
ホロ「…そもそも人間の肉など食えたものではありんせん」
ホロ「それに」
52 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:14:16.93 ID:jUMYJyBEo
グリ
ロレンス「うげ」
ホロ「わっちは羊など食べておらぬ。それはこやつの勘違いじゃ」
ノーラ「…え?」
ホロ「…この血は、ここの狼のそれでありんす。それに殺してもおらぬ」
ホロ「生意気な若者にちょっと仕置きをくれてやっただけじゃ」
ロレンス「…そ、そうだったのか…」
ホロ「賢狼だと言っておる。相手が何であろうと、無為に、殺すようなことはせん」プイ
53 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:17:18.69 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「そうだったか」
ロレンス「…悪かったよ、疑って」
ホロ「ふん」
ホロ「そんなことよりも、下らぬ寸劇を見せたことの方に頭を下げてもらいたいもんじゃ」
ノーラ「…あう」
ホロ「まあ、よい」
ホロ「では疑いも晴れたことじゃ。わっちはこのへんで失礼するでありんす」タタッ
ロレンス「……。って、あ」
54 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:21:06.45 ID:jUMYJyBEo
バッ
ロレンス「おいこら! 俺の荷物を荒らした分はどうなるんだ!」
ホロ「くふ、つけておいてくりゃれー」
ロレンス「なあっ」
ロレンス「…くそっ、あの野郎…」
ロレンス「(結局荷物を荒らされて服も破けて、それに、余計に怪我をしただけじゃないか…)」ゲンナリ
ノーラ「あ、あの。ロレンスさん」
55 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:23:35.81 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「? ええ」
ノーラ「…」
ノーラ「…本当に、さっきの言葉…嬉しかったです」
ロレンス「…あ、その」
ノーラ「あ、まだ時間がありますから、今度はロレンスさんが休んでください!」
ノーラ「また日が昇って来たら起こします!」タタッ
ロレンス「あ…」
ロレンス「…」
ロレンス「(…これは、賢狼とやらに感謝すべきだろうか…)」
ロレンス「…寝るか」
56 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:25:00.40 ID:jUMYJyBEo
*8
・ ・ ・ ・ ・
ガラガラ…
ホロ「む」
ロレンス「ん?」
ホロ「おお、待っておったぞ!」
ロレンス「…おま、何を裸でこんなところに…」
ホロ「わっちは耳がいいからの。人目を心配する必要はありんせん」ピクピク
ロレンス「…あ、そう」
57 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:27:55.40 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「それで? 待ってたってことは、返済でもしてくれるのか」
ホロ「ん? ああ、それはまた今度じゃ」
ロレンス「(…まあもう諦めているからいいんだが…)」
ホロ「ぬしに食べさせてもらったものは、とてもおいしかったでありんす」
スッ
ロレンス「別に食べさせてやったわけじゃない」
ロレンス「…あと、顔が近いんだが」
ホロ「のうぬしさまよ? わっちはお腹が空いておる」
ホロ「何かおいしいものが食べたい。一緒に街に入れてくりゃれ?」
ロレンス「…それが目的か」
58 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:29:12.85 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「あ、あの」
ホロ「む?」
ノーラ「…ち、近いです。ロレンスさんから離れてください」
ホロ「…くふ。わっちとぬしさまが近いと、何か困るのかや?」ススッ
ロレンス「おわ、な、何だよ」
ノーラ「…困るとかってわけではないですけど…」ゴニョ
ノーラ「と、とにかくだめなんです!」
ホロ「くふふ。いやじゃ」
ギャーギャー
ロレンス「(…何だこれ…)」
59 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:30:53.70 ID:Ur0QNdGDO
ガラガラ…
ロレンス「じゃあこうしよう」
ロレンス「街に連れて行ったら貸した分を返せ。それでいいか?」
ホロ「うむ。この賢狼がぬしに知恵を貸してやるでありんす。大船に乗ったつもりでいるとよい!」
ロレンス「…そうですか」
ロレンス「…あ、ノーラさん?」
ノーラ「…」
ノーラ「何ですか?」ツン
ロレンス「…」ヒクッ
ロレンス「ど、どうかしましたか?」
ノーラ「…」
60 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:32:17.50 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「もうロレンスさんなんて知りません」プイ
ロレンス「えっ」
ホロ「ほう。ならばこの雄は、わっちの好きにしてよいかの」グイッ
ロレンス「引っ張るな」
ノーラ「そ、それはだめです!」
ホロ「くふふ、どっちなんじゃ?」
ノーラ「~~~~っ」///
ノーラ「も、もう。ホロさんは意地悪です!」
ホロ「あははは!」
ロレンス「…頭が痛い」
61 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:33:54.36 ID:Ur0QNdGDO
*9
・ ・ ・ ・ ・
ロレンス「…」ズキズキ
ロレンス「…あの程度の雨で風邪を引くとは…」
ロレンス「(情けないことだが、…旅の途中でなくて、本当によかった)」
コンコン
ロレンス「? はい」
62 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:35:40.79 ID:jUMYJyBEo
キィ
ノーラ「…調子はどうですか?」
ロレンス「ノーラさん」
ロレンス「おかげさまで、疲れは取れたように思います」
ロレンス「まだ頭痛が続いているのが、少し、苦しいですが」
ノーラ「そうですか」
ノーラ「あの、ゆっくり休んでください。私にできることは、何でもしますから」ニコ
63 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:36:34.43 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「いえ。こうして見舞いに来てくださるだけで十分です」
ノーラ「え?」
ロレンス「いつもは、病と闘うにも一人ですからね」
ロレンス「誰かが自分に気をかけてくれる。それだけでも、ずいぶん救われる思いです」
ノーラ「…」
ノーラ「そ、そうですか…それなら、よかったです」//
64 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:38:02.88 ID:jUMYJyBEo
コト
ノーラ「それで、宿の方にお粥を作ってもらったんです。よかったら」
ロレンス「ありがとうございます。温かい食べ物は、すごく嬉しいです」
ノーラ「…」ニコ
ノーラ「…あの」
ノーラ「あ、熱いので、その」
ロレンス「?」
ノーラ「…」フー…
ノーラ「ど、どうぞ」
ロレンス「…」
ロレンス「あ、あーん」
65 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:39:13.21 ID:Ur0QNdGDO
パク
ロレンス「…」モグモグ
ロレンス「…おいしいです」
ノーラ「よ、よかったです」
ノーラ「あ、作ったのは、私ではないですけど…」アハハ…
ロレンス「…」ハハ…
ノーラ「…」//
66 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:40:51.40 ID:jUMYJyBEo
ホロ「ん、ん」ゴホン
ノーラ「きゃっ」
モゾモゾ
ホロ「…ぬしらの初々しいやり取りを見ておると」
ホロ「わっちの方が気恥しくなってしまいんす。どうにかならんかや」
ロレンス「…」ハア
ロレンス「ただで同じ宿に泊めてやっているんだ。大人しくしていたらどうだ?」
67 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:41:56.98 ID:Ur0QNdGDO
ホロ「ふん」
ノーラ「…あはは…」
ノーラ「…あ、そうだ。ロレンスさん」
ロレンス「はい」
ノーラ「確か、服が破れてらっしゃいましたよね」
ロレンス「…そうですね」
ロレンス「どこぞの狼に乱暴されてしまったとき、馬車に引っ掛けてしまって」
ホロ「む。聞き捨てならんの」
ロレンス「誰もお前とは言っていないだろう?」
ホロ「…むうー」
68 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:43:13.13 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「よかったら、私に縫わせていただけませんか?」
ノーラ「裁縫用具を持って来たんです」
ロレンス「…ノーラさん。それはいけません」
ノーラ「…え?」
ロレンス「私は商人です。糸の値段のことも、ある程度は把握しています」
ロレンス「はっきり言ってしまえば」
ロレンス「ノーラさんにとっては、糸も十分高価なもののはずです」
ノーラ「…は、はい」
69 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:44:35.31 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「きっといつか…この街を出たときのために、大切に取っておいたものなのでしょう?」
ロレンス「そんなものを使わせるわけにはいきません」
ノーラ「…そ、それは…そうですが…」
ノーラ「…そう、ですね」シュン
ロレンス「…」
ロレンス「えっと、なので」ゴソ
ノーラ「?」
70 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:45:20.77 ID:jUMYJyBEo
スッ
ロレンス「私から糸をプレゼントします。もしよかったら、これで、繕ってもらえませんか?」
ノーラ「…へ、え?」
ノーラ「これ…私に、ですか?」
ロレンス「ええ。ラムトラの街で買っておいたんです」
ロレンス「さすがに服を贈るほどの甲斐性は、まだ私にはありませんので」ハハ…
ロレンス「…こんなものでよければ、もらってください」
ノーラ「…」
ノーラ「う、嬉しいです。こんな、贈り物なんて、は、初めてで…」ポロポロ
71 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:46:22.36 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「…それはよかった」
ロレンス「その、私も誰かに物を贈るなんて…初めてですから」ハハ
ノーラ「…じゃあ、一緒ですね」ニコ
ロレンス「…」ドキ
ロレンス「え、ええ。そうですね」
ノーラ「えっと」ゴシゴシ
ノーラ「これ、開けてみてもいいですか?」
ロレンス「どうぞ」
72 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:47:09.71 ID:jUMYJyBEo
シュル…
ノーラ「…」
ボロ…
ロレンス「…あれ」
ロレンス「ど、どうして糸が、こんな、崩れて…」
ホロ「悪かったの」
ロレンス「…え?」
ホロ「贈り物とは知らなかったでありんす。勝手に借りた」パク
73 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:48:07.59 ID:Ur0QNdGDO
ホロ「…」モグモグ
ロレンス「…」
ロレンス「ちなみにそれは?」
ホロ「はちみつパンじゃ」
ロレンス「…金は?」
ホロ「それは安心してくりゃれ?」
ホロ「わっちに贈り物をしたがる雄なら、道にいくらでも溢れておるからの」ニコ
ロレンス「(…性質の悪いやつだな…)」ハア
74 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:49:18.85 ID:jUMYJyBEo
ロレンス「何に使ったんだ?」
ホロ「…なにって」ペロ
ホロ「糸の使い道など一つしかありんせん」
ロレンス「…?」
ロレンス「…お前まさか、…俺の服を、繕ってくれたのか」
ホロ「…」
ホロ「すまぬな、勝手なことをして。それに」チラ
ノーラ「?」
ホロ「その小娘より、どうせ下手くそじゃし。何だったら、もう一度解いてからそやつに繕い直してもらうとよい」
75 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:50:40.76 ID:Ur0QNdGDO
ロレンス「…なあ」
ホロ「なんじゃ」
ロレンス「…お前、案外いい奴なんだな」
ホロ「…」
ホロ「まあの」
ロレンス「…」クス
76 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:51:45.49 ID:jUMYJyBEo
ナデナデ
ホロ「…」
ホロ「…賢狼の頭を、気安く撫で回すでない」
ロレンス「今のところ自称だしな。俺には、お前はちょっと綺麗な町娘にしか見えないよ」
ホロ「失敬な」フン
ホロ「…賢狼たるもの、借りを返さぬわけにはいかぬ」
ホロ「きちんと耳を揃えて返す。それでよいな」
ロレンス「ああ」
ホロ「…」プイ
77 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:52:53.50 ID:Ur0QNdGDO
ノーラ「…あの、ロレンスさん?」
ロレンス「あ、すいません、ノーラさん」
ロレンス「糸はまた改めて、新しいものを…」
ノーラ「い、糸のことはいいんです。それより」チラ
ロレンス「?」ナデ
ホロ「…」
ノーラ「ホ、ホロさんばかり、ずるいと思います」
ロレンス「はい?」
78 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:53:54.56 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「わ、私も…今回は、頑張りました」
スッ
ノーラ「…なのでご褒美に、…な、撫でてください…」//
ロレンス「…」
ロレンス「…」
ロレンス「…」ナデナデ
ノーラ「…えへへ」
ホロ「…ぬしは見かけによらず女たらしじゃな」
ロレンス「うるさいな」
79 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:56:10.98 ID:Ur0QNdGDO
*終
ロレンス「…一緒に旅に、ですか」
ノーラ「は、はい」
ノーラ「…ここにいても、私の夢は…やっぱり、遠いままなんだと思うんです」
ロレンス「…」
ノーラ「ロ、ロレンスさんにご迷惑はおかけしません」
ノーラ「自分の食い扶持は自分で稼ぎます。なので―――」
ロレンス「いいですよ」
ノーラ「…へ」
80 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:56:57.07 ID:jUMYJyBEo
ノーラ「ほ、本当ですか?」
ロレンス「ええ。私もそうしたいと思っていました」
ロレンス「ノーラさんのおかげで、遥かに旅路は楽になります」
ロレンス「むしろノーラさんの方から提案してもらえて、嬉しいです」ニコ
ノーラ「…そ、そうですか」
ノーラ「よかったぁ…」
81 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:58:03.64 ID:Ur0QNdGDO
ヒョコ
ホロ「ぬしにはわっちがおるではないかや」
ムギュ
ロレンス「お前は、俺に借りを返すために、同行するんだ。ノーラさんとは違う」
ホロ「…むぅ」
ホロ「何度も言っておるが、わっちの頭に、軽々しく手を乗せるではありんせん」
ロレンス「…」ナデナデ
ホロ「撫でるでない!」ガーッ
ノーラ「…」クスクス
82 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/19(火) 23:58:59.72 ID:jUMYJyBEo
ホロ「まあ、よい」
ロレンス「お前の台詞じゃないな」
ホロ「やかましい」
スッ
ホロ「…のう、小娘よ」コソ
ノーラ「は、はい」
ホロ「本音と建前は、たしかに大切でありんす。じゃが」
ホロ「あんまり遠慮しておると、あの雄、わっちがもらってしまうからの」
ノーラ「…」
83 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/20(水) 00:00:19.73 ID:cLkaBP1DO
グッ
ノーラ「ホ、ホロさんには、負けません」
ホロ「…そうかや」
ノーラ「むー」
ホロ「むぅ」
バチバチ
ロレンス「…」
ロレンス「あの、そろそろ出発しませんかね」
84 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/20(水) 00:01:19.69 ID:mO0vUO7mo
ガタ
ホロ「のうぬしよ、次の街は何が名物なんじゃ?」
ロレンス「お前、借りを返す気ないだろ」ハア
ロレンス「…クメルスンは、確か魚が有名だったはずだ」
ホロ「ほうほう」ジュル
ホロ「たまには魚もありじゃな。ほれ、早く行こう!」
ロレンス「はいはい」
85 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/20(水) 00:03:00.00 ID:cLkaBP1DO
ノーラ「…あのー」
ノーラ「私も、ロレンスさんの隣に座っていいですか?」
ホロ「羊飼いの娘は歩けばよいじゃろう」
ノーラ「…ホロさんだって、狼なら走ればいいと思います」
ホロ「なっ」
ロレンス「…出しますよー」
86 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/20(水) 00:04:01.42 ID:mO0vUO7mo
ギュウ
ロレンス「(…狭い)」
ホロ「くふ」
ノーラ「えへへ」
ロレンス「…」
ロレンス「(まあ、一人で御者台に座るよりは)」
ロレンス「(狭いくらいの方がいいか)」
87 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/20(水) 00:04:45.83 ID:cLkaBP1DO
ホロ「では、ぬしよ」
ノーラ「ロレンスさん」
ロレンス「うん。じゃあ行こう、次の街へ」
ホロ「んむ!」
ノーラ「はい!」
ガラガラ…
☆おわり
88 :
◆5elc53sAMI [saga]:2013/03/20(水) 00:09:48.74 ID:mO0vUO7mo
もう少しさくっと終わるつもりが長くなりました。
ロレンスが、ホロより先にノーラに会ったら、というネタがテーマになっています。
二人の掛け合いを楽しむ作品が「狼と香辛料」ですから、もはや原型は留めませんね。
ただこうすることで、ヒロインたちがロレンスを取り合ったら楽しいんじゃないかなと思いました。
ではここまでお読み頂き、ありがとうございました。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/20(水) 00:17:39.49 ID:9NnLYKJ10
おつっしたー
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/20(水) 00:18:03.01 ID:v2Sl4ofR0
桃の蜂蜜漬けを幾つ吐かせるつもりだwww
乙です
原作も一歩踏み外せばこうなっていたかも知れん。
ところで、ロレンスと一緒に奮闘するノーラと、
色々ちょっかい出しながら旅を楽しむホロのお話はまだですか?
92 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/20(水) 02:49:50.82 ID:3HQyEgH6o
乙
93 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/22(金) 18:58:45.02 ID:1acJ5fCDo
おつ!楽しみにしてる
94 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/03/23(土) 18:07:19.13 ID:h6dxti1go
乙でした
転載元
ノーラ「羊飼いと行商人と、狼」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363691685/
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あれ以降登場がないのが悔やまれる
>>1の腕のお陰でまったく違和感がなかった
原作だとやっぱりホロが一番だったけど漫画版のあのノーラの幸薄美少女っぷりを見るとグラつくな
しかしホロに会わなければロレンスも慎重なままで冒険もしないから問題に巻き込まれないのか
あれ、これホロがry
まあ感想は人それぞれだが改悪にしか見えなかった
その手のことはISなりそっち系でやれ