1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:34:40.53 ID:vJZ+ZBuz0
~朝 事務所にて~
P「こんなもん、かな。」
小鳥「何書いてるんです?」
音無さんが肩越しに覗き込んでくる。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:37:53.17 ID:vJZ+ZBuz0
P「うわぁっ!? いきなりなんですか!」
小鳥「そんなに驚かなくても… っていうかそれ誰に贈るんです?」
「これから一年またよろしくって、まるでラブレターじゃないですか。」
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:39:02.23 ID:vJZ+ZBuz0
P「ちっ違いますよ。そんな軽薄なもんじゃありません。」
急いで便箋と封筒を机の中にしまいこむ。
小鳥「冗談はさておいて、そろそろ時間じゃないですか?」
時計を確認する。
9時12分。 千早の街頭ロケの開始時間は10時。
P(そろそろ出るか…)
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:43:49.11 ID:vJZ+ZBuz0
P「そうですね、じゃぁそろそろ送ってきます。
ロケの間向こうで暇つぶして、終わったら千早を家まで送ってから帰るんで、ちょっと遅くなります。」
小鳥「はいはい。じゃあ、気をつけて。」
6 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:45:41.97 ID:MxUEFLlM0
ピヨピヨ
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:48:48.60 ID:vJZ+ZBuz0
~午後5時 仕事終了後~
P「悪いな、千早まで歩かせちゃって。」
千早「いえ、構いませんよ。収録が家の近くで助かりましたね。」
P「ああ、本当にすまん。まさか車のキーを無くすとは思わなかった…」
仕事帰り、二人並んで街路を歩く。
少し前まで蝉の鳴き声で賑わっていた通りも、
八月の終わりともなると少しばかり静けさを取り戻していた。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 17:53:50.65 ID:vJZ+ZBuz0
千早「なんだか秋めいてきましたね、いつの間にか。」
P「ん?そうか?まだまだ毎日結構暑いけど。」
千早「…プロデューサーには風情が足りてません。」
P「?」
キョトンとするプロデューサー。
その間の抜けたような表情も何処か魅力的に見える。
これが春香の言っていた「夕暮れの魔法」だろうか。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:02:21.50 ID:vJZ+ZBuz0
眩いオレンジに光る夕日。
私とプロデューサー、二つの影が揺れる。
千早(結構・・・ロマンチックな状況ね、これ。)
P「千早?」
千早「えっ?あっ はい、どうしました?」
P「いや、いきなり黙りこくっちゃったから。考え事か?」
千早「いえ。」
「綺麗、だな と思いまして。」
P「…そうだな。普段移動は車ばっかりだし、たまにはこう歩くのも悪くないな。」
千早「プロデューサーが鍵を無くしたせい、なんですけどね。」
P「うっ。悪かったって。」
千早「ふふっ 冗談ですよ。寧ろこうしてゆっくり話せて、ちょっと嬉しいです。」
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:04:09.81 ID:BVYQAbPQ0
いいぞ
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:07:57.39 ID:vJZ+ZBuz0
仕事で見せるものとは違う、力の抜けた笑いを浮かべる。
暫く心地よい沈黙が続く。
千早(そういえば、一年前の今日って確か)
(プロデューサーと初めて、二人で出かけた日、でしたね。)
(歌の仕事がしたいと我が儘を言う私の相談に乗ってくれて。)
(思えば、あのときから・・・だったのかもしれませんね。)
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:12:35.25 ID:vJZ+ZBuz0
P「千早、ちょっとこっち向いてみろ。」
千早「ふぇっ?」
P「顔が真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないか?」
千早「い、いえ大丈夫ですから。きっと夕日のせいですっ。」
気がつくとプロデューサーの顔がすぐ近くにあって、
照れくさくなり思わず顔を背けてしまった。
P「そうか…ならいいんだけど。最近忙しそうだからな。無理だけはするなよ。」
千早「ありがとうございます。」
「でも最近、仕事がすごく楽しいんです。
きっとプロデューサーが歌の仕事を沢山とってきてくれているお陰ですね。」
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:18:29.51 ID:vJZ+ZBuz0
P「ははは。そりゃよかった。頑張ったかいがあるよ。」
「最近、ますます歌も上手くなってるし。」
千早「まだまだ、世界的な歌手には遠いです。」
P「千早なら、きっとすぐになれるさ」
「一年前のあの日、俺はそう思った。」
千早(えっ まさか・・・覚えていてくれた?)
P「千早も覚えてるか?皆でカラオケ行ったときさ・・・」
千早(あっ… なんだ そのことか…)
(やっぱり、もう覚えてないかな。こんな些細なこと。)
(そうよね。プロデューサーは他に何人ものアイドル達をプロデュースしているんだもの。)
(仕方ないわ。)
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:25:17.92 ID:vJZ+ZBuz0
P「・・・なんてこともあったな。」
千早「え、ええ。そうでしたね。」
P「千早…?」
少し落ち込んだのが通じてしまったのかもしれない。
心配そうな目でこちらを伺っている。
千早「気にしないでください。少しロケで疲れただけです。」
P「ん…そうか。季節の変わり目は体調崩しやすいからな。気をつけろよ。」
千早「ありがとうございます。」
千早(気配りが出来るんだか出来ないんだか…)
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:32:43.92 ID:vJZ+ZBuz0
街路を抜け、入り組んだ住宅地へと差し掛かる。
オレンジ色の光を放っていた太陽は姿を消し、空には代わって月がおぼろげに輝いていた。
薄明かりの中を涼風が吹き抜ける。
P「暗くなってきたな。確か千早の家はもうすぐだったよな。」
千早「はい。あそこの交差点を超えたらすぐです。」
P「そっか。」
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:38:43.48 ID:vJZ+ZBuz0
千早(もう暫く、二人で歩いていたい…)
(でもこんなときに限って、時間は早く過ぎるものね。)
赤信号の交差点に辿りつく。
時折通り過ぎる車のヘッドランプが二人を照らす。
千早「月が綺麗・・・ですね。」
P「ああ、そうだな。朧月も悪くない。」
「また暇なときに、散歩に来ようか。」
千早「ええ、約束ですよ。」
暫し見詰め合う二人。
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:43:37.71 ID:vJZ+ZBuz0
P「ああ、楽しみにしてる。じゃあ千早。気をつけてな。」
千早「プロデューサーもお気をつけて。お疲れさまでした。」
横断歩道を渡り、家へと歩く。
(結局、気付きませんでしたね…プロデューサー)
(ちょっぴり残念ですが、二人の散歩、楽しかったです。)
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:49:08.79 ID:vJZ+ZBuz0
ガチャ
バタン
千早「ふぅ。今日は色々あって疲れたわ。」
律儀に靴をそろえて脱ぎ、居間へと上がる。
ソファに半ば倒れこむように腰掛け、バッグをテーブルに置いた。
千早(先にシャワーでも浴びようかしら。)
簡素なバスルームへと向かい、手早く入浴を済ませる。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:50:56.36 ID:NSVgmILK0
雰囲気いいな
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 18:58:12.21 ID:vJZ+ZBuz0
パジャマに着替え、ソファに腰を下ろす。
千早「あら?」
バッグの口から見慣れない物が顔を覗かせていた。
(何かしら…)
恐る恐る手にとって見る。
千早「…!」
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:03:00.34 ID:vJZ+ZBuz0
可愛らしい青のリボンで装飾された封筒。
女の子が喜びそうな動物のシールで封がなされたそれを裏返すと、
差出人とタイトル欄には、こう記してあった。
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:09:04.88 ID:vJZ+ZBuz0
Title:また一年よろしく
From:P
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:18:33.71 ID:vJZ+ZBuz0
千早「クスッ 本当に、、、鈍感なのか敏感なのか。」
「でも」
「ありがとうございます、プロデューサー。」
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:25:00.04 ID:vJZ+ZBuz0
~その少し後のP家にて~
P「ふむ。全く分からんな…」
アイドル達の次の仕事は本屋の宣伝。
一人ひとりお気に入りの文豪の本の紹介をするらしい。
P「俺も何か力になってやろうと思い、夏目漱石の偉人伝を読み始めてみたんだが・・・」
「サッパリわからん。」
ぺらぺらと流し読みをしつつページをめくる。
P「ん?」
ふと視界に飛び込んできたフレーズが目に留まった。
ページを繰る手を止め、その一文を読む。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:32:33.64 ID:vJZ+ZBuz0
『彼の文豪夏目漱石は外国語にも造詣が深く、数々の名訳を残したことでも知られる。
その中でも代表的なものをここで紹介しよう。
彼は、とある教科書の中の"I love you."というありふれた一文を、こう訳した。
"月が、綺麗ですね。"と』
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:41:50.13 ID:vJZ+ZBuz0
P「…!」
Pの頭の中に、交差点で俯いていた千早の顔が浮かぶ。
P(まさか、な。)
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 19:48:04.05 ID:vJZ+ZBuz0
…とにかく、また一年の間、いや、これからもずっと
トップアイドルの座に上り詰める、そのときまで。
P「そのときまで、よろしくな、千早。」
おしまい
32 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/09/11(火) 20:00:13.71 ID:vJZ+ZBuz0
短文でしたが
お付き合い頂きありがとうございました
転載元
千早「秋めいてきましたね。」 P「ああ。」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1347352480/
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