2 :
1 :2010/12/25(土) 04:35:48.51 ID:WgEyKHJE0
今日は2011年1月25日。雪がちらつくのがカーテンの隙間から見える。
今朝も唯は仏壇の前で手を合わせ、
少し焦げたトーストをかじりながら学校へ向かう準備をしている。
靴を履き、ギターを背負い精一杯叫ぶ、
-いってきます-
返事は無い。
もちろん、親は今サイパンで愛を深めているので
返事が無い事は分かりきっているのだが。
「一人って・・・やっぱりさびしいなぁ。」
そう言って鍵をかけ、
降りしきる雪の中唯は一人学校へと向かった。
3 :
1 :2010/12/25(土) 04:36:51.68 ID:WgEyKHJE0
もう何度も通った校門をくぐり、何度も入った教室の扉を開ける。
唯の顔を見ると、大半が顔を曇らせた。もうずっとだから、そんな扱いも
唯はすっかり平気なようだ。
窓際のいつもの席に座ると、1つ前の席の女の子が振り向き声をかけてきた。
「唯、どう調子は?」
この赤いメガネの生徒会長面した女の子は、唯の幼馴染の和だ。
唯に気をかけてくれる数少ない・・・いや、唯一かもしれない味方、
「もうすっかり元気だよ、のどかちゃん!!いつも・・・ありがとね」
「そう、ならいいんだけど。空元気が出るようになっただけましのようね」
和は、唯が最後に一瞬見せる素の表情を見逃さなかった。
「もうあれから1ヶ月経つんだよねー」
「時が経つのは早いものね。唯にはそろそろ炊飯器の電源の位置で電話してくるのはやめて
欲しいものだわ」
「うぅ・・・。だって・・・」
言葉を遮るように始業のチャイムが鳴り、唯は慣れた手つきで
「人殺し」「市ね」「犯罪者」などと書かれたノートのページを破り捨て、授業を受けた。
4 :
1 :2010/12/25(土) 04:37:47.43 ID:WgEyKHJE0
雪やまないなぁ、帰り滑ったらやだな。
そんな事を考えている内に放課後を告げるチャイムが鳴った。
もうクラスの大半が進路を決めてしまったからだろう。
「ねえ、どっか遊びいこうよ」
「いいねーカラオケいこっか!」
などといった言葉が教室中から聞こえる中、そんな言葉がかかるはずも無い唯は
たった一人ギターと共に音楽室へ駆け足で向かった。
5 :
1 :2010/12/25(土) 04:38:48.77 ID:WgEyKHJE0
「唯、もうよしなよ」
「なんで?やめないよー、こうやって一生懸命ギー太弾いてたらさ、澪ちゃんも律ちゃんもむぎちゃんも、
あずにゃんだって・・・きっとみんな帰ってきてくれると思うし!そのためにギー太もがんばって直したんだし」
「ほんと、あんなボロボロなのよく直ったね」
「うん!」
二人っきりの音楽室で、絶望に等しい希望を描いて純粋に笑いギターをかき鳴らす唯を見て、
和は何も言い返すことが出来ずにいた。
7 :
1 :2010/12/25(土) 04:39:53.15 ID:WgEyKHJE0
唯はいつだってそうだった。どんなに苦しくても、どんなに辛くても、どんなに希望が見えなくても、
誰かの前では必ず明るく笑っていた。
そして乗り越えて、実現させてきた。だから・・・もしかしたあの人たちも帰ってくるのかも
なんて思えてしまうから不思議だ。
「そんなはず、ないのに・・・。」
和は、次第に強くなる雪を窓から眺め、呟いた。
9 :
1 :2010/12/25(土) 04:40:48.65 ID:WgEyKHJE0
「唯、雪強くなってきたし、帰ったほうがいいって!」
「わかった、じゃありっちゃんのスネアチューニングだけするから待っ」
物騒な音がして和が振り返ると、
そこにはうつぶせに倒れた唯の姿があった。
「唯!」
和の心配をよそに、はにかみながら立ち上がり何事も無かったかのように振舞う唯。
スカートの誇りを手で払い、
「へへ・・・こけちった。もうチューニングいいや、帰ろっか」
やっぱり、この子は心配だ。憂がいないと――
そう思ったところで唾を飲み込んで、ギターだけで無くピックまで入念に磨き終えた唯の後を続き、音楽室を出た。
10 :
1 :2010/12/25(土) 04:42:05.91 ID:WgEyKHJE0
足跡も残ら無いような雪の中、二つの傘が小さく揺れていた。
二人で学校から帰るなんて事なんて日常茶飯事で、
いつも、必ず騒がしい唯と呆れ顔の和が並んでいた。
しかし、今では会話すら少なくなってしまっている。
長い長い沈黙を打ち破るように、唯が急に口を開いた。
「そうだ!のどかちゃん、これあげる。いつもありがとね」
そう言って唯はポケットから腕時計を取り出した。
時計の形をしたなんとも奇抜な腕時計だ、唯らしいと言えばらしいかもしれない。
それに、普通はラッピングして渡すだろう。
11 :
1 :2010/12/25(土) 04:43:04.82 ID:WgEyKHJE0
「え?そんないいのに」
空気に耐えかねたかのようなタイミングで渡され、
和も話を広げる事が出来ずまた黙ってしまう。
容赦無く降りしきっていた雪が、少し収まってきた気がした
そうこうする内に別れ、二人は自宅へ戻った。
和は自室の机で頬杖をつき、先ほどの腕時計を眺めながら物思いにふけっていた。
12 :
1 :2010/12/25(土) 04:44:17.72 ID:WgEyKHJE0
無音の部屋に、秒針の音だけが響く。
時計の音きいてると音眠くなるななんて事を考えていると、すっかり夜になっていたようだ。
「唯みたいだな」
と小さくつぶやき笑い、腕時計を机に置いた。
その時、声が聞こえた
13 :
1 :2010/12/25(土) 04:44:57.72 ID:WgEyKHJE0
なんだ!?腕時計?
そう思い和はまた腕時計を手にした。
微かに、光を帯びた腕時計が語りかけてくる。
――すまん、俺の声聞こえる?聞こえたら返事...してくれ。
和にはまだ理解出来ないが、どうやらこれは現実のようだ。
半信半疑のまま、夢でも見ているのだろうと思い何も言わない。
14 :
1 :2010/12/25(土) 04:45:46.40 ID:WgEyKHJE0
――くそ、そりゃまあ信じれんわな
まあいいわ、これは間違いない現実や
さっさと本題にはいるで。
憂、知っとるやろ?一ヶ月前の事件で死んだ。
第一発見者は姉の唯。
饒舌な関西弁が耳に障る。
それはもちろん知ってる、と和が返す。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 04:46:05.32 ID:R8oWQTNlO
もう寝ようと思ってたのに…
16 :
1 :2010/12/25(土) 04:46:43.13 ID:WgEyKHJE0
――なら話は早い、あんたが真実を暴いて、唯の疑惑を晴らしてくれ。
証拠不十分で犯罪者にはならずに済んだが、周りの人間はあんた以外
誰も信じちゃ居ない。
今から一ヶ月前にあんたを連れていくから、よろしく
え?ちょっ、おま
反論をする時間が和にあたらえられるはずも無く、そのまま意識を失った。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 04:46:46.24 ID:IjJHkvdL0
④
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 04:47:13.85 ID:hnlDsDB/O
まさかのコナ…
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 04:47:45.74 ID:pbd+cKHi0
犯人はムギだろどうせ
21 :
1 :2010/12/25(土) 04:48:28.80 ID:WgEyKHJE0
>>15 睡眠時間削るほどのクオリティいは保障しませんよっと
和が意識を取り戻すと、自分の机で突っ伏していた。
「なんて変な夢なの・・・」
そう呟いて立ち上がり、部屋を出ようとする。
しかし、目の前の現実を突きつけられた和は、ドアノブに手をかけた状態で足が止まった。
「・・・え?じゅうに・・・」
カレンダーが、12月になっている。
あわてて携帯電話を開いたが、やはり2010年12月25日午前11時20分になっている。
少しめまいがしてき
た和に追い打ちをかけるかのように声が聞こえた。
――気づいたか!俺や!時計や。
一ヶ月前に戻したで。
22 :
1 :2010/12/25(土) 04:49:36.35 ID:WgEyKHJE0
どうやらもう何を言っても無駄のようね、和はと小さく息を飲んだ。
――聞き分けのいい子で助かるわ。
ほんなら改めて事件の説明するからよう聞いてな。
事件は12月25日、ようするに今日や。クリスマスの部室で起こった。
死因は鈍器のようなもので後頭部を、ボコボコに。
いやいや・・・可哀そうに。
部室の、いつもなら澪の席で、のたれ死んでいたわけや。
凶器すらわからずこれといった証拠は出てこずに、疑惑の目は第一発見者の唯に向けられた。
まあ当然不起訴になったんだが。
これといって進展せずにいるわけやな。
で、死亡時刻は・・・あと5分後。11時30分
「え!?だったら早くい」
23 :
1 :2010/12/25(土) 04:50:34.18 ID:WgEyKHJE0
――それは出来ん。人の生死を左右する事したら、時空の歪みが発生して、
あんたは帰れんようになる。
「・・・なんて作者に都合のいい・・。もう細かい事に突っ込む気にはならないわね」
そう言って頭を抱えた。そんな和にはやはりお構いなしに時計は話続ける。
――他にも注意点言うで!まず、この世界の真鍋和はお前しかおらんから安心しろ。普通に振舞えば大丈夫や。で、悪いけどこっちにおれるんは24時間が限界や!だから24時間でなんか手がかり見つけて、なんとかしてくれ!
時計が喋り終わるのを確認する。
「はぁ。」
小さくため息をつき、ハンガーからコートを取り玄関へ向かった。
24 :
1 :2010/12/25(土) 04:51:23.97 ID:WgEyKHJE0
とりあえず部室へ行ってみるべきだな、と和と時計はいつもの登校ルートを進んでいく。
「生徒会引退したのに、冬休みに学校行くなんて思わなかったわ」
もしかしたら、犯人がまだ部室にいたりするのだろうか。
あるいは校外、道端で会ったりするかも知れないな。
などあらぬ不安を感じながら、歩いていく。
向かい側の道路を歩く、黒髪ツインテのギターと共に帰路に着く少女には気づかずに。
25 :
1 :2010/12/25(土) 04:52:42.75 ID:WgEyKHJE0
「すいませーん」
用務員室の前で和が叫び続けていた。
もう何度呼んでも一向に出てくる気配が無い。
――寝とんちゃうか?あのおっさん
「かもね」
そう言った瞬間、いかにも寝起きですと言った表情の用務員のおじさんが現れた。
「なんやのー・・・冬休みやのに学校来るなよみんな・・・気持ちいい眠りを邪魔しないでくれ・・・」
「学校入りたいんですけど」
「あーだる。はいはい、これに名前書いて勝手に入って」
そういって用務員は気だるそうに記録用紙とボールペンを手渡した。
「書けたら適当においていてー。寝るし」
26 :
1 :2010/12/25(土) 04:53:46.54 ID:WgEyKHJE0
「あの用務員、なぜクビにならないのかしら」
怒りを抑え、名前を書く。
ふと前のページを見てみると、結構な人数が既に学校を訪れているようだ。
何の気無しに眺めていると、ふと見覚えのある名前が目に入った。
「・・・中野、梓?」
今日の部活は部長命令で休みのはずだ。
和の頭に嫌な予感が走った。
「まさか、そんなはず」
――そんなはずない、人生では通用せん言葉やで
和の不安を煽るように、時計が冷たく言い放った。
「このページ、貰っていこう」
中野梓の名前が入ったページを破り、鞄にしまった。
27 :
1 :2010/12/25(土) 04:54:54.89 ID:WgEyKHJE0
――とりあえず部室いこか。
憂が星になっとるはずや
和は何も言わず階段を早足で駆け上った。
今から目にすることになる現実を思うと、胸が苦しくなり引き返したくなる。
しかし、そんなことでは何の意味も無いと自分を奮い立たせ
部室の扉を開けた。
何も変わらない部室。
たった一つを除いて。
「憂・・・」
28 :
1 :2010/12/25(土) 04:56:28.36 ID:WgEyKHJE0
和は返事が返ってくるはずの無い相手に呼びかける。
出血などが無いことが、唯一の救いだろう、見た目はそれほどひどくは無い。
ただ、もうこの世の人間ではないのだが。
――とりあえず、くまなく調べてなんか情報を掴むんや
「でも、あんまりここに居て誰かに見られたら・・・」
――大丈夫、大きな音を立てたり、誰かを呼び出しでもせん限り、次に人が来るんは
明日の朝の唯や。だから心配ない
謎の安堵感を得た和は、まず遺体に注目した。
椅子に座ったまま、机に突っ伏すように死んでいる。
顔、くび、手、足どこにも外傷は無い。やはり後頭部のみのようだ。
29 :
1 :2010/12/25(土) 04:57:38.53 ID:WgEyKHJE0
「遺体は別に・・・ん?右手が・・・」
どうやら右手が何かを握り締めるような形になっている。
そっと憂の右手を解き、手の中の物を確認する。
「これは・・・ピック?」
――なんでこんなもんもっとんやろな?
「いった誰の物だろ、憂のじゃないだろうし。唯のかな?」
意味があるのかすらわからないが、持って置おくことにした。
「遺体は別に、もう変わったところは無いみたいね」
――そうか?なーんか、ひっかかるんやな。なんかはわからんけど、違和感がする。
遺体全体的に。気のせいかもやけどな
頼りないなお前、と言いかけてこらえた和の胸にも、やはり微かに違和感があった。
30 :
1 :2010/12/25(土) 04:58:54.97 ID:WgEyKHJE0
その後、何時間も部室中をくまなく漁ったが、見つかるのは唯と律がちらかした遺産ばかりで
手がかりは何も見つからなかった。
結局凶器が何かも掴めなかった。
「これ以上ここに留まっても仕方ない、かな。教室にでも行ってみよう、何も無いがするけど」
ならいくなよとつぶやく時計を小突き、3年2組の教室へ向かった。
誰も居ないと思っていたが、聞きなれたうめき声がする。
引き返したくなったが、
「誰ー?」
と気づかれてしまったので入ることにした。
31 :
1 :2010/12/25(土) 05:00:05.66 ID:WgEyKHJE0
真鍋です、そう言って教室に入ると、山中先生と目が合った。
「あら、どうしたの?冬休みなのに」
「生徒会の関係です。そのついでに用は無いんですが来てみました」
「へー。大変ねえ。」
「先生は何をされてたんですか?」
「ほら、今日ワックスがけがあったのよ。ドスキンが来て、全部の教室を順番にやったの。
で、もう乾いたから注意書きを剥がして回ってたとこ。1から3年全部だからもうくたくたよー・・・」
得意げに指を突き立てる先生を尻目に、和が訪ねる。
32 :
1 :2010/12/25(土) 05:00:57.09 ID:WgEyKHJE0
「先生・・・~9時45分ってなってますけど」
「ごめんw二日酔いで寝坊しちゃって、昼前に出勤したの。てへぺろ(・ω<)☆」
「帰ります・・・」
ピカピカになった床にご満悦の山中先生を残し、教室を後にした。
――で、公園のベンチに座ってて何かわかるのか?
「じゃあどうしたらいいか教えてよ!」
半ばイライラした和に、時計も言葉を失った。
33 :
1 :2010/12/25(土) 05:01:42.71 ID:WgEyKHJE0
元々、こんな事できるはず無かったんだ。そう言ってしまえばその通りである。
どうすればいいか分からず、寒空の下ベンチでうなだれるしか和には出来なかった。
そんな時、携帯からふわふわ時間‐instrumental‐が聞こえた。
「誰だろ・・・」
携帯を開き、受信フォルダを開く。
唯だ。
「「12月25日 18時46分
from yui
to megane.musou777@docomo.ne.jp
sub yばい
のどかちゃーん・・・助けてー・・・
‐end‐」」
34 :
1 :2010/12/25(土) 05:02:24.80 ID:WgEyKHJE0
古くからの幼馴染の家を目指し、全力疾走した。
「唯、流石の私も怒るよ?炊飯器の使い方教えて欲しいならそう書いて!あんな文何かあったんじゃないか心配になるじゃない!!」
「ごめんのどかちゃんー。でも助かったよー、今日憂が友達の家に泊まってて、ご飯どうしようか悩んでたんだ」
「まったく・・・まあこんぐらいならいつでも作ってあげるけどさ・・・」
「そうだ、ご飯食べて行きなよ。で、ついでにうちに泊まっちゃうとかさ」
親にも言ってないし、何の準備もしてきてないし、ないないづくしだったが
目を輝かせる唯を悲しませるわけにはいかないしなと、和はしぶしぶではあったが承諾した。
35 :
1 :2010/12/25(土) 05:03:09.34 ID:WgEyKHJE0
家事を全て和がこなし、二人がパジャマに着替え部屋に落ち着いたのは日付が変わる30分程前だった。
「ほんとありがとね、のどかちゃん」
「いいよ。覚悟してたし笑」
好きなお笑い芸人の話題で一人盛り上がる唯を、物思い気に眺めてふと悲しくなった。
「のどかちゃん?かばんについてるのそれ何?」
「え?・・・ああ!!」
かばんについていたのは、「ワックス塗りたて 入るな~9時45分 12月25日 ドスキン」
の注意書きだった。
しかも厄介なことに、まったく剥がれそうに無い。
「もうやだ・・・このかばん気に入ってたのに・・・山中先生」
「おしゃれでいいんじゃないww」
37 :
1 :2010/12/25(土) 05:03:49.27 ID:WgEyKHJE0
和やかな空気を壊すかのように、時計が話しかけてくる。
――どうする気なんだ?あと12時間。
「・・・わかんない。あの子が、犯人なのかな?」
――さあなあ、そうだとしたらどうする?
「そう上手く追い詰められるかどうか・・・学校で何やってたかも知らないし」
――あきらめるのか?
「そういうわけじゃ・・・ないけど」
唯を見ていると泣き出してしまいそうなので、視線を横にそらす。
すると、視界にギターが入った。
38 :
1 :2010/12/25(土) 05:04:46.27 ID:WgEyKHJE0
「唯、変わったよね。強くなった。これも、軽音部、ギターのおかげだね」
「えー、ありがとう。どうしたの急に?」
「ちょっとね。・・・そういや唯?家では練習しないの?」
「するよー、今日は憂がいなくて色々大変だったからしてないけど。
・・・・そうだ今から弾こう!!!」
「ちょ、おま!」
和の静止を聞かずに、ギターケースのチャックに手をかける。
意気揚々とギターを取り出す唯の顔が急に曇るのが見えた。
39 :
1 :2010/12/25(土) 05:05:48.11 ID:WgEyKHJE0
「ゆ・・・い?」
「・・・なにこれ・・・なにこれ・・・なんで?なんで?なんで!?」
「どうしたの唯!?」
「ギー太が・・・ボロボロだー・・・」
確かに素人目にもわかる異常だった。
泣き崩れる唯がかすかに呟いた。
「なんで・・・あずにゃんがメンテしてくれたばっかりなのに・・・」
「唯、今なんて!?」
「あずにゃんが今日メンテして持ってきてくれて、ずっとここに置いてたの。なのに・・・」
――これって・・・。もしかして。
「うん。多分・・・そういうことだと思う。」
41 :
1 :2010/12/25(土) 05:06:49.81 ID:WgEyKHJE0
唯は確かに憂が死んだ後、ギターを修理に出した。
疑惑が晴れてギターを見たらボロボロだったから、誰かいじめている連中が
いたずらをしたんだろうとしか思っていなかった。
しかし、これは明らかにおかしい。
「唯、それって12時くらい?」
「うん・・・そうだけど」
42 :
1 :2010/12/25(土) 05:07:43.86 ID:WgEyKHJE0
「唯、渡す時に何か言われた?」
「うん。せっかくメンテしたんだから、明日朝早く来て練習して下さいね。だから今日は楽器は弾かずに早く寝ること!って」
まだ泣き止まぬ唯の頭をなでながら、
和は覚悟を決めた。
「あずにゃんに電話してみる!!」
「唯、もう時間が時間だからやめなさい。明日また聞いてみたほうがいいよ」
「うぅ・・・」
43 :
1 :2010/12/25(土) 05:09:44.05 ID:WgEyKHJE0
――もう決まりだろ。
「そんな気がするけど、上手く行くかどうか。」
――じゃあどうすんだ、もう何も出来ないだろ!
「・・・。上手くいけば落とせるはず」
――上手くいけばってお前、上手くいかなかったらどうすんだよ!?
「その時はその時よ。だって、それが本来でしょ?悔しいけど、
無意味になっちゃうけど、仕方ないじゃない」
時計の返事は聞こえなかった。
そして、唯も和も眠った。
目覚めることが出来ると信じて、眠った。
44 :
1 :2010/12/25(土) 05:11:47.37 ID:WgEyKHJE0
2010年12月26日 午前10時45分
唯は今頃事情聴取中だ。
桜高の校門の前に、和と黒髪ツインテールの150cmの少女が向かい合っていた
「生徒会長さんが、私に何かようですか?」
先に口を開いたのはツインテールだった。
この女の子は、中野梓。桜高軽音部の2年生、通称あずにゃんだ。
「元・・・だけどね。ちょっとお話があってきてもらったの。憂の事でね」
「なんでしょう。できれば憂の事はしばらく掘り返さないで欲しいんですが」
露骨に嫌な顔をする梓を横目に和が続ける。
45 :
1 :2010/12/25(土) 05:12:37.27 ID:WgEyKHJE0
「どうも、そういうわけには行かないようだけど」
「・・・何が言いたいんですか?」
「中野梓さん、あなた昨日の午前中一体何をしていたの?」
「私を疑うんですか?昨日の午前中は家にいました。とても寒かった
ですしわざわざ出歩きません。」
「あら、だったらこれは何。優しい用務員のおじさんに記録を見せてもらったわ。綺麗な字ね、12月25
9時30分・来校者中野梓」
「それがどうかしたんですか?」
46 :
1 :2010/12/25(土) 05:13:37.30 ID:WgEyKHJE0
「何・・・?」
一瞬ひるんだかに見えた梓だったが、こう続けた。
「そう、私はただノートを一冊忘れたので取りに来ただけですよ?
部室になんていって無いから関係ないと思って」
「つまりあなたは教室にいった、ってことよね?」
「ええ。それがどうかしたんですか?」
和がしばらく考え込んだ後、口を開く。
「・・・一緒に教室の前まで行ってみましょうか。そしたら話が早いわ」
48 :
1 :2010/12/25(土) 05:15:10.65 ID:WgEyKHJE0
二人は2年1組の教室の前にやってきた。
「あなたが学校に来てからまっすぐ教室に向かい、自分の机へ行きノートを取り
そのまま帰った。間違い無いかしら?」
「はい、そうですけど?」
「残念ながら、それはありえないのよ。」
「なぜですか?はったりはよしてください」
「それはどちらの事かしらね。・・・教室の中、気づかない?」
そういって梓はゆっくりと室内を覗き込んだ。
49 :
1 :2010/12/25(土) 05:16:35.48 ID:WgEyKHJE0
>>47 さるくらわない、とは?
何にしても、突っ込みどころが多いのは実力不足です
申し訳ない
50 :
1 :2010/12/25(土) 05:17:41.08 ID:WgEyKHJE0
「これは・・・・・・ワックス?」
「そう。昨日は午前中にドスキンとかいう業者が来てワックスがけがあったみたい。なのにどうやって入ったの?」
「ふん・・・私が教室にノート取りに来た時にワックスがけをしていたかなんてわかるんですか?」
「残念でした。それが分かっちゃうの。これ、読んで」
そう言って和は無様な姿になった自分の鞄をつきつけた。
「ワックス塗りたて。入るな・・・~9時45・・・分。」
「ようするに入れなかったはず、ってこと」
「そうだ、45分まで入れなかったから、15分間じっと待ってから注意書きを剥がして入ったんです!
別に何も問題無いですよね?」
51 :
1 :2010/12/25(土) 05:18:22.84 ID:WgEyKHJE0
「・・・その注意書き外して回ったのは、2日酔いで寝坊してやってきた山中先生なの。
12時過ぎだって言ってたわ・・・。注意書きを剥がして入り、出た後にまた丁寧に張りなおして帰ったとでも主張するつもりかしら?」
「・・・」
「そろそろ本当の事を聞かせて欲しいのだけど・・・」
「ええ、確かに部室に行きました。部活は休みだけど、一人で練習しようと思って。
でもすぐ気が変わって10時前には楽器を片付けて帰りました。憂とは会ってません」
54 :
1 :2010/12/25(土) 05:19:23.38 ID:WgEyKHJE0
さっきとは全く違う証言を平気で口走った。
こんなもの必ず嘘だ。憂と会ったはず・・・崩さなければ、負ける。
「そう・・・それが真実なのね。」
「はい、だから私は全く関係ありません」
――おいおい、どうすんだよ。話終わっちまうじゃねえか!
「「うん、だから賭けに出るわ。もしはったりが通用しなければ、負ける」」
――みてらんねーよ・・・
56 :
1 :2010/12/25(土) 05:22:21.51 ID:WgEyKHJE0
「憂とは会ってません・・・か。この子は違うって言ってるみたいだけど?」
そう言って震える手をこらえ、ポケットからピックを取り出した。
「このピックに見覚えはない?」
「あるような気もしますが沢山あるのでわかりません」
「憂の右手の中にあったわ」
「唯先輩のじゃないですか?そんな物関係ないですよ」
57 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:22:27.87 ID:IjJHkvdL0
あずにゃんには悪党が良く似合う。
58 :
1 :2010/12/25(土) 05:24:39.82 ID:WgEyKHJE0
一瞬目を強く瞑り、唾を飲み込みふてぶてしい笑みを浮かべこう言い放った。
「警察によると、・・・あなたの指紋がついてたみたいだけど?」
もちろんこんな事、警察が来る前に和が保管しずっと持っていたのだから全くのでたらめだ。
「たまに借りることもありますから、その時ついたんじゃないですか?」
「・・・残念だったわね。練習が終わったら唯は必ずピックまでしっかり拭いて片付けるの。
唯のピックなら誰の指紋もついてないはずよ。つまり、あなたの物なはず。」
――そんな上手くいくわk
梓は唇を震わせたまま、言葉を失っていた。
59 :
1 :2010/12/25(土) 05:25:20.42 ID:WgEyKHJE0
チャンスとばかりに和が畳み掛ける。
「あなたが慌てて、机に忘れて行ったピックを最後の力振り絞って握ったのね。いい加減認めなさい。憂と部室で会ってたんでしょ?」
ここで動揺を誘えないと私の負け。
長い沈黙の後梓が言う。
「・・・確かに会いました!話もしました!状況としては物凄く怪しまれるのはわかります。
でもそれがなんですか?私が殺したっていう決定的な証拠なんてあるんですか?」
60 :
1 :2010/12/25(土) 05:26:08.56 ID:WgEyKHJE0
明らかにうろたえているがここで一旦引いてみる。
「そもそも・・・、なんで呼び出したの?」
「別にいいじゃなですか。部活の事とか、進路の事とか相談してただけです」
「その相談について、もっと詳しく聞かせてくれるかしら」
「いいですよ。私は9時30分に学校に着きました。そして憂も10時前には着きました。1時間くらい話をして、11時過ぎに「「帰ろう」」と言ったら、「「30分に会う人が居るから」」といって憂は残りました。
唯先輩だったんじゃないですか?そして殺され・・・」
「わかった。唯、もしくは誰かを憂ちゃんは部室で待ってた・・・ってわけね」
「はい。会う人がいる、そういってました」
「また、・・・ボロが出たようね。中野さん?」
「どういう事ですか・・・・」
61 :
1 :2010/12/25(土) 05:26:48.55 ID:WgEyKHJE0
「自分に置き換えて考えて見なさい。机に座って人を待っていた。そして時間になりドアが開いたら、
その人が来たと思うでしょ?」
「はい」
「そしたらどうする?」
「ドアのほうを・・・・・・あ」
「そう、普通ならドアが開いたら必ずドアに目を向ける。その人が入った時点で殺気立っていたなら、椅子に座ってのうのうとせずに逃げるよね?普通な振りをして近づいたとしても、後頭部を向けたまま、なんて事不自然すぎる。なんで憂は後頭部を殴られているんだろうね?」
62 :
1 :2010/12/25(土) 05:28:28.39 ID:WgEyKHJE0
「イヤホン・・・そうだ、iPodで音楽を聴いていて聞こえなかったから分からなかったんじゃ・・・」
「憂の持ち物からオーディオプレイヤーの類は見つかってないわ」
「そんな物、犯人が持ち去ってしまえば分からない・・・」
「いったい何のために?犯人がプレイヤーを持ち去るメリットなんて、何かあるなら教えて」
「・・・・・・。」
「憂が誰かを待っていたなんて真っ赤な嘘で、実際は11時30分まで二人は部室にいた。
そしてかばんから携帯を取るとか適当な事言って、こっそり後ろに回りこみ、憂の後頭部を殴った。
そしてそのまま音楽室を後にした。」
63 :
1 :2010/12/25(土) 05:29:21.80 ID:WgEyKHJE0
梓は開き直ったかのように笑い出し、こう言った。
「さすが生徒会長さん、こじつけでこんなに人を悪者の空気にしたてあげるなんてすばらしいですね。
私に犯行が可能だってことは良く良く分かりました。で、もちろんあるんですよね?し・ょ・う・こ!」
「・・・。」
「まさかここまで悪者呼ばわりしておいて、証拠も無いなんて言いませんよね?」
「証拠は・・・」
「それに、結局凶器って何ですか?凶器も分からないんじゃ犯人だなんて」
――ピンチの時こそ、ふてぶてしく笑え――
「証拠は・・・・・・・有るに決まってるじゃない。とーっても、決定的になる・・・かも知れない奴がね」
64 :
1 :2010/12/25(土) 05:30:29.88 ID:WgEyKHJE0
そう言って和は背中に背負ったギターを突きつける。
「なんですか?またはったりを使うなんてせいt・・・それ」
「さっき平沢家から持ってきたの。唯のギター、あなたが昨日家でメンテナンスして、昼に唯へ返したたギターよね?」
「はい・・・それが何か?」
「ってことは、これ絶好調のはず・・・ちょっとアンプに繋いで弾いてみてくれないかしら?」
和がケースを開け、ギターを取り出した。
「・・・・・・。」
「弾けるわけないよね、それ。誰にだって弾けない。ちゃんと音が鳴らないんだから」
「!!」
「ほら、素人目にもはっきりわかるくらいボロボロじゃない。メンテナンスして返したばかりのギターがなんでこんなことになってるの?」
「それは・・・それは・・・・・・」
66 :
1 :2010/12/25(土) 05:31:15.69 ID:WgEyKHJE0
どう反論してくるか身構えた和の、意表をつく言葉が梓から聞こえた。
「全部、・・・ばれてるんですか?」
泣いているのだろうか、俯き声が聞こえづらくなった気がする。
「うん。多分ね」
どうやら、すっかり戦意喪失したように見えた。
「動機は何なんですか?なんで私が憂を殺す必要が・・・」
「唯」
「・・・え?」
「唯じゃない?憂、ギター、部室、仲間。唯から全てを奪って、唯を自分だけのものにしようとしたんじゃない?予想、だけどね。朝早く来るように言ったのは、必ず最初に発見させるため。疑惑をかぶせ、何もかもを失わせるように」
「さすがですね。もういいです。」
67 :
1 :2010/12/25(土) 05:32:15.08 ID:WgEyKHJE0
少し強い口調で和の言葉を遮った。
両手を強く握り、肩が振るえ、足元に雫が落ちる。
「自分のしたことは、自分で責任取ります。唯先輩と代わって来ます。全て私のわがままです」
そう言って梓は振り返ることなく、街の方へ去っていった。
――嘘に嘘を重ねると、また嘘を重ねるしか無くなる。でも、嘘とはとてもバランスの悪い形ばかり。
世の中の一握りの悪知恵を持つ人間しか重ね通す事は出来ない
68 :
1 :2010/12/25(土) 05:33:43.21 ID:WgEyKHJE0
「全部・・・奪うか。全部は奪えなかったみたいだけどね・・・
唯、メリークリスマス」
空気の読めない時計が声を荒げる。
――やるじゃねえか!!!じゃあ早速一ヵ月後に戻るぞ!!行くぞ!!
「え、ちょおま」
69 :
1 :2010/12/25(土) 05:34:49.44 ID:WgEyKHJE0
「・・・・ゃん?・・・のど・・・ちゃん?のどかちゃーん?」
気がつくと、唯の顔が目の前に会った。
安堵のため息と共に唯が喋る。
「よかったー、のどかちゃん死んじゃったかと思うくらい寝てるんだもん」
どうやら部室のソファで寝てしまっていたようだ。
・・・おそらく唯と二人で帰るはずの無い仲間を待っている時、窓の外の雪を眺めていたら
うとうとしていたのだろう。
何か、とてもリアルな夢を見ていた気がする。
少し頭がフラフラする。もう少し横になっていようと思った時、机のほうから
懐かしいような聞きなれたような声が聞こえた。
70 :
1 :2010/12/25(土) 05:36:07.50 ID:WgEyKHJE0
「ほんと、のどかがこんな所で寝るなんて、唯みたいだな」
「律、しょっちゅうそこで昼寝するお前が言うな!」
「いて!!やめろ澪!!誤解だ」
「目が覚めるように、お茶にしましょうか」
そこには4人がいた。
「わーいむぎちゃんのお茶だ☆、のどかちゃん、早く行こ!」
唯が笑って呼びかける。
71 :
1 :2010/12/25(土) 05:37:13.27 ID:WgEyKHJE0
私は、唯の笑顔が大好きだ。
唯の笑顔は、不可能をも可能にする。
ずっと幼馴染で小さいころから唯に救われてきた。
今回は、恩返しといった所だろうか。
奇抜な形の腕時計は、11時20分で止まったままだ。
「今行くよ、唯!」
-end-
72 :
1 :2010/12/25(土) 05:39:46.25 ID:WgEyKHJE0
いやはや・・・
クリスマス一人でさびしいから夜明けまでに一筆握るぞ作戦 in 俺
無事成功です
こんな稚拙な文章に最後まで付き合ってくれた方がいると非常にうれしいです
73 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:41:35.81 ID:XK0K04hO0
梓が犯人だと思わせておいて…
かとも思ったけど捻りがなかったなw
面白かったよ
74 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:42:11.09 ID:aqZs8c1pO
梓がどうなったとか、色々気になるけど乙!こんな時間まで…今頃ラブホでは…(´;ω;`)ブワッ
75 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:42:22.33 ID:5q9ALcY30
投下はやくてよかった
おつ!!
76 :
1 :2010/12/25(土) 05:45:14.58 ID:WgEyKHJE0
>>73 あずを犯人だと思わせておいて、実はむぎってしたかったけど、
夜明けに間に合わないと思い断念
>>74 何をおっしゃる
あなた横で寝てるじゃないですか
>>75 どもです
77 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:45:40.21 ID:hnlDsDB/O
乙
おれサン○さんだから正直に言うけど60点をやろう
500点満点だけどな。キャラがかけ離れてるし、憂ちゃんとギー太ボコボコは許せん
壊されるものに愛着持ってくれよ。哀しいしクリスマスのバカヤロウ
78 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:47:15.64 ID:TcB18gla0
結局他の部員は唯とは切れてて部室に来なかったってだけか
79 :
1 :2010/12/25(土) 05:49:13.18 ID:WgEyKHJE0
>>77 100点満点で12点もいただけるなら満足ですよ
憂ちゃんとギー太ぼこぼこにしたのは、クリスマスにむしゃくしゃしてやった。今は反省してる
80 :
1 :2010/12/25(土) 05:51:53.18 ID:WgEyKHJE0
>>78 いえす
色んな要素詰め込める実力も時間もないっす
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/12/25(土) 05:55:47.03 ID:pQap7iFi0
>>76 ムギ犯人はそれこそ捻りがないからそうしなくて正解だったと思うよw
82 :
1 :2010/12/25(土) 05:58:45.98 ID:WgEyKHJE0
ブロッコリー (2011-01-28)
売り上げランキング: 1588
- 関連記事
-
どっちにしても憂が殺された部室に集まる気にはなれんだろう