1 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/22(日)17:49:23 ID:asJ
School daysとドラえもんのクロスSSです。
========================
ドラえもんから発せられた、最悪の知らせ。
それを聞いた三人、源 静香、骨川 スネ夫、剛田 武はそれぞれの反応を見せる。
「そ、そんな、のび太さんが……」
「ま、まずいよ! だからあの人をどっかに置いていこうって言ったんだ!」
「ドラえもん! なんとかならないのかよ!?」
三人の反応に共通するのは、明らかな焦り。
当然である。
今まさに、自分たちの親友が命の危機にさらされているのだから。
「お、落ち着くんだみんな! まずは状況を整理する!」
なぜこんな事態になったのか?
それは、この時から三日前に遡る――
4 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)17:52:33 ID:asJ
三日前。
空き地に集結していたのは、いつもの五人。
ドラえもん、しずかちゃん、ジャイアン、スネ夫、
そして、野比 のび太の五人である。
「未知とのそうぐう機・改?」
のび太が、ドラえもんの持つ何かの電波を発するアンテナのような物がついた機械を見て言う。
「そう、これは前に使った『未知とのそうぐう機』の改良版なんだ」
未知とのそうぐう機。
特殊な電波を発し、宇宙人を呼び寄せる道具である。
この電波を受けた宇宙人は、どんな用事があったとしてもこの道具の発信者に会いに行かなければならない。
それも、膨大な時間と大量の燃料を使って。
のび太がこの機械をいたずらで使ったとき、興味本位で呼び出された宇宙人は激怒したが、
その宇宙人にとって貴重な材質、ガラスを大量に譲渡したことで事なきを得た。
そして、今五人の前にある『未知とのそうぐう機・改』とは……
「この機械は、『平行世界』の人を呼び寄せてしまう道具なんだよ」
5 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)17:57:26 ID:asJ
そもそもなぜ、この道具がこの場所にあるのか。
それは、例によってドラえもんが未来デパートで購入したこの機械をのび太の部屋に置きっぱなしにし、
のび太が好奇心で空き地に持って行って、メチャクチャに操作した、といういきさつである。
なんとも学習能力のない二人である。
「そんな、大それた道具なら、なんで前もって説明しないんだよ!」
「説明も何も、君が勝手に持って行ったんだろ!」
自分の身勝手な行動を棚に上げ、他人のミスにしようとするのび太。
のび太の無軌道な行動を計算せず、大事な機械を放置してしまうドラえもん。
はっきり言えば、どっちもどっちである。
6 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)18:02:50 ID:asJ
「おいドラえもん、『平行世界』ってのはなんなんだよ?」
いまいち、話の流れについて行っていけず、質問をしたのはジャイアンだった。
「そうだねえ、僕たちが今いるこの世界とそっくりだけど、別の世界って言うとわかりにくいかな」
「未来の世界とは違うのか?」
「うーん、ざっくり言うと未来の世界と今いるこの世界はつながっている。
この世界の時間が進めば、僕がやってきた22世紀の世界になる。
でも、いくら時間が進んでも、時空が違う平行世界には行けないんだ」
「……ドラえもん、もうちょっとわかりやすく言ってよ」
この説明では、のび太の脳のキャパシティでは理解できなかった。
7 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)18:07:07 ID:asJ
「そうだね、川で例えようか。川は川上から川下に向かって流れている。
川上が過去で、川下が未来。そのまま川の流れに乗っていけば川下、つまり未来に行けるんだ」
「あー、なるほど、つまり僕らがタイムマシンで過去に行ったりするのは、
船か何かに乗って、川上に上るみたいなものなんだね」
実は、ジャイアンとのび太よりかは幾分か頭のいい、スネ夫はいち早く理解したようだ。
「そう、だからタイムマシンが船だとしたら、川上と川下、つまり未来と過去には行ける。
でもね……平行世界は違う。船では行けないんだ」
「船では行けない……ああ、わかったわ!」
そして、スネ夫よりも頭のいいしずかは、ドラえもんの言いたいことを理解する。
9 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/22(日)18:19:31 ID:jQe
誠しね
10 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)18:20:59 ID:asJ
「平行世界は、その例えで言うと別の川ってことね」
「その通り! 平行世界は全く別の時空なんだ。だからタイムマシンでは行けない。
そしてのび太くん……これが何を意味するかわかる?」
ことの重大さを理解させるために、あえてのび太に質問するドラえもん。
「えっと……川に行くとおぼれるから危ないってこと?」
……この男の理解力に少しでも期待した僕がバカだった。
ドラえもんは心底そう思いながら、はっきり言うことにする。
11 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)18:25:25 ID:asJ
「だから! 平行世界から人を呼び寄せてしまったら、その人を元の世界に戻すのが大変だって事だよ!」
「も、元の世界に戻せないの?」
「……元の世界に戻せないことはない。だけどいろいろ試さなければならないだろうね」
そう言っている間に、来るべき時が来たようだ。
空き地の土管の上、そこに何か黒い穴のようなものが出現する。
「あ、あれは!?」
「あれはたぶん、次元の裂け目みたいなものだろう。
あそこから、平行世界からの人間が来るらしい」
来るらしい、とドラえもんが言ったのは、この道具の使用前例がほとんどないためである。
未来でも、平行世界の人間を確実に戻す手段が確立されていないため、この道具をむやみに使うことは禁止されていた。
13 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)18:56:50 ID:asJ
「来るぞ!」
ドラえもんが叫ぶと、まるで滑り台を滑り降りたかのように、黒い穴からズルリと人が飛び出てきた。
そして、その人間はちょうどドラえもんに向かって落ちてきた。
「わ、わ! むぎゅう!」
うまくその人物を受け止めようとしたドラえもんだったが、うまく受け止められずに下敷きになる。
「だ、大丈夫? ドラちゃん?」
しずかが心配するも、ドラえもんはなんとか這いずり出た。
14 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)19:02:26 ID:asJ
「だ、大丈夫。で、えっと……」
這いずり出たドラえもんは、自分を下敷きにした人物を見る。
そこには……
「お、女の人?」
腰まで届きそうな黒髪、この世界の学生服と似た服、一般的なスポーツバッグ、
服の上からでもわかる胸の膨らみ、いかにも清楚といった風貌。
そこには、この世界の人間と何ら変わらない少女が横たわっていた。
17 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)19:11:10 ID:asJ
場所は変わって、のび太の部屋。
このままにはしておけないので、どこでもドアでのび太の部屋に運び、布団に少女を寝かせる。
少女の意識は未だ戻らなかったが、呼吸は正常だった。
「……あのさ、ドラえもん。本当にこの人、平行世界の人なの?」
「俺たちと全然変わらないぜ?」
平行世界という概念をあまり理解していなかったのび太とジャイアンが、ドラえもんに質問する。
「うーん、確かに。もしかしたら、只単に過去や未来から来た可能性はある」
21 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)19:41:58 ID:asJ
ドラえもんがそう思った理由は、彼女の持つ携帯電話だ。
一般的な携帯電話で、この世界にも普通に流通しているものだ。
それでも、この世界に近い平行世界から来た可能性も捨てきれなかった。
「ドラちゃん、この人のポケットに生徒手帳が入っていたわ」
少女の服を調べていたしずかが生徒手帳を見つける。
何かの手がかりになるかもしれない、そう思った五人は調べることにした。
「えーと、名前は……桂 言葉さん?」
「変わった名前だけど、全然違う世界って感じの名前でもないよこれ? そもそも日本人みたいだし」
スネ夫が言った通り、生徒手帳には日本語が書かれていて、ドラえもんたちも普通に読むことができた。
22 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)19:47:14 ID:asJ
「やっぱ、この世界の人なんじゃねえの?」
「そうだよ、ドラえもん。この世界なら、どこでもドアかタイムマシンで戻せるよ」
のび太が自分のしでかしたミスは収拾可能であるものだと主張する。
しかし……
「でもさ……榊野学園高等学校っていう学校も、原巳浜っていう地名も聞いたことないよ」
生徒手帳に記載されていた学校名と住所を見たスネ夫が言う。
確かに、のび太たちも聞いたことが無かった。
「じゃあ、僕の『宇宙完全大百科』で調べてみよう」
23 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/22(日)19:52:33 ID:asJ
宇宙完全大百科。
この宇宙のありとあらゆる情報が詰め込まれた未来の百科事典である。
そのあまりの情報量の多さゆえに、大百科本体は惑星に匹敵する大きさの人工星として、宇宙に浮かべてあるという。
そして、ドラえもんが持つのはその大百科の端末である。
この端末で大百科本体に接続し、欲しい情報を引き出すのである。
この大百科が網羅しているのは、それこそ特定の日時で特定の学校で特定のクラスで出された特定の教科の宿題の答えなど、
かなり小さな情報にまで渡る。
当然、特定の時代の地名も載っているはずなのだ。
だが……
「……だめだ。どんなに検索を掛けても、『榊野学園高等学校』っていう学校も、『原巳浜』っていう地名も出てこない」
24 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)19:55:29 ID:asJ
その結果は、この少女が平行世界から来たことを裏付けることとなった。
「そ、そんなぁ……」
ようやく、自分のしでかした事の重大さを自覚したのび太がへたり込む。
その時であった。
「う……ん」
その声に反応した五人が振り返る。
そう、少女が目を覚ましたのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
しずかが少女の顔を覗き込んで、様子を確認する。
まだ薄目を開けただけであるが、意識は戻ったようだった。
26 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)20:03:57 ID:asJ
「こ、ここは……?」
「ここは、えーと、練馬区です」
「練馬区……? 東京の……?」
少女の口から出た、「東京」という言葉。
やはり、少女がいた世界は、この世界と近い世界のようだ。
「あの、あなたのお名前は?」
「桂……言葉です……」
生徒手帳の名前と同じ。そして改めて見ると、生徒手帳の写真と同じ顔である。
この少女が「桂 言葉」であることは間違いないようだ。
28 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)20:19:46 ID:asJ
「桂さん、自分が今までどこにいたか覚えていますか?」
「え……ひっ!?」
同じように質問しようとしたドラえもんを見た言葉は、驚愕の表情を浮かべた。
「あ、蒼い……ねこ? ねこが、喋っている?」
「あ、ああ、ドラえもんのこと? ドラえもんは22世紀から来た、ねこ型ロボットなんだよ」
「22世紀? 何を言ってるんですか? ロボット?」
「の、のび太くん、いきなり色んなことを言っても、わかるわけないよ」
「あ、そうか、ごめんなさい」
考えなしに、思ったことを言ったのび太をドラえもんが窘める。
とりあえず、言葉の世界ではドラえもんのような存在はいないらしい。
30 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)20:27:12 ID:asJ
「とりあえず、私は水を持ってくるわ。喉が渇いているでしょう?」
「あ、はい、ありがとうございます」
しずかは台所に水を取りに部屋を出た。
残された四人は、今後のことを話し合う。
「それで、あの人になんて説明するの?」
「うーん、とりあえずあの人がどんな状況からこっちの世界に来たのがわからないとねぇ」
状況を聞き出そうと、ドラえもんが質問する。
31 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)20:31:27 ID:asJ
「あの、桂さん。ここに来る前のことは覚えていますか?」
「え、ええ、まあ……あの、本当にロボットなんですか?」
「は、はい、こんな見た目ですが、ねこ型ロボットです……」
「まあ、ねこ型なのにねずみが苦手なんだけどね」
「こら! 余計なことを言うな!」
のび太がドラえもんの弱点をなぜかバラしてしまうが、場を和ませるのには効果があったようだ。
「ねこ型なのにねずみが苦手なんですか……面白いですね」
手を口に当てて、小さく笑い声を上げる言葉は、まさにおしとやかな女性という表現がふさわしい。
それを見て、四人も幾何か和んだ。
32 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)20:36:28 ID:asJ
「……そうだ、私はヨットに乗っていたんです、誠くんと一緒に」
「ヨット?」
スネ夫が不思議そうに言う。ここに来たのは言葉とその荷物だけだ。
それ以外には人間も乗り物もいなかった。
「はい、私の実家が所有しているヨットに誠くんと一緒に乗っていたのですが……」
「ヨ、ヨットを持っている? すごい、お金持ちなんですね」
「お、おい、のび太……」
思った感想を口に出してしまったのび太をジャイアンが止める。
「あ、すみません!」
「いえ、大丈夫です」
「それでその、誠さんというのは?」
「私の彼氏の伊藤 誠くんです。彼と一緒だったんです」
それを聞いた四人は、気まずい空気になる。
「まずいよのび太くん。この人、デートの途中だったのに、こっちに来ちゃったんだよ」
「ど、どうしよう、それ知ったら怒るかな?」
「いや、どう考えても怒るだろ……」
40 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)21:50:59 ID:asJ
ドラえもんたち四人は言葉に聞こえないように、対処を考える。
だが、それを待たずに言葉は声を掛けた。
「あの、ところで私の隣に男の人がいませんでしたか?」
その質問に、四人の心臓が跳ねる。
いずれは説明しなければならないことではあるが、正直言って、気まずい。
ここにはあなた一人しか来ていませんとは言いづらい。
「えーと……」
どう説明していいか考えているうちに、言葉は辺りを見回す。
41 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)21:56:56 ID:asJ
「あ、あれ、私の鞄ですね?」
言葉が目にしたのは、彼女が持っていたスポーツバッグだ。
「はい、そうです……」
「ああ良かった、ちゃんといるじゃないですか」
「え?」
ちゃんといる? 何が?
鞄の存在を確認したのであれば、ちゃんと「ある」と言う筈だ。
この違和感に気づいたのはドラえもんだけだった。
42 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)22:04:27 ID:asJ
「ちょっと連れてきてくれますか?」
「え、ええ……」
ドラえもんがスポーツバッグを言葉に持っていく。
……やけに重くないか?
更なる違和感を感じながらも、バッグを言葉の横に置いた。
言葉はバッグを開けて、中身を確認する。
「……良かった、誠くんは私から離れないでいてくれたんですね?」
「……え?」
45 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)22:34:12 ID:asJ
この発言に今度は四人全員が違和感を感じた。
あの中に、「誠くん」がいる?
……もしかして、「誠くん」というのはペットか何かなのか?
ドラえもんが推測を立てていた時、言葉は中身を取り出した。
男性の、生首を。
47 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)22:37:35 ID:asJ
「……ひっ!?」
言葉が取り出したものを最初に認識したのはスネ夫だった。
その直後、彼はそれが作り物である可能性を即座に考えた。
だが、首の切り口にこびりついた血が、その可能性を消し去った。
「う、うわっ!?」
「あ、ああっ!」
その後、のび太とジャイアンもそれが生首だということに気づく。
考えたくなかった。それが生首だと考えたくなかった。
だが、固まった血がポロポロと畳に落ちていくのを見て、目の前の現実を認めざるを得なかった。
48 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)22:40:42 ID:asJ
「あ、か、桂さん……そ、それは……!?」
四人の中で、唯一言葉を紡げたのはドラえもんだった。
他の三人が腰を抜かす中、立ち上がって言葉の真意を探ろうとする。
「ああ、紹介しますね、私の彼氏の……伊藤 誠くんです」
そして、言葉は生首の顔の部分をドラえもんたちに向ける。
言葉の満面の笑みに対して、かつて伊藤 誠であったであろうものは、見るも無残な状態だった。
49 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)22:51:52 ID:asJ
「みんな、どうしたの?」
部屋の外から、しずかが声を掛けてくる。
「しずかちゃん! 来ちゃだめだ!」
「え!?」
「いいか! 絶対にここに来ちゃだめだ! 僕が迎えに来るまで下で待ってるんだ!」
「は、はい!」
せめて、しずかだけにはこの凄惨な光景を目にさせまいと、ドラえもんが制止する。
やがてしずかが階段を下りる音が聞こえて、その音が止んだ後、ドラえもんは皆に声を掛ける。
「みんな、僕の後ろに隠れているんだ!」
「あ、わわわ」
「早く!」
腰が抜けている三人だったが、なんとか這いずってドラえもんの陰に隠れる。
50 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)23:06:37 ID:asJ
「どうしましたか? ああ、すみません、誠くんは今口が利けない状態でして……
代わりに私がお詫びします」
「く、口がって、そんな状態で喋れるわけないっつーの!」
気が動転して、どこか変な口調になったジャイアンが指摘する。
「あ、あ、あなたは、その人を……」
考えたくなかった。のび太は考えたくなかった。
自分が呼び出してしまった人間の正体が何なのか。
こんな、自分たちより少し上くらいの女の人が、
殺人犯、などと。
51 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)23:10:45 ID:asJ
だが、ドラえもんは確信していた。目の前のこの女が異常だということを確信していた。
彼女の目が、先ほどから打って変わって、全く光を宿していなかったから。
……すでにこの人は、狂っている。
スネ夫はまだ目の前の現実をうまく認識できないでいる。
ドラえもんの後ろで、ただ震えていることしか出来ない。
「そんなに怖がらないでください。誠くんは結構優しんですよ」
ドラえもんたちは戦慄した、見た目は同じ人間のはずなのに、全く会話が成立しないからだ。
例え、「ほんやくコンニャク」を食べたとしても、彼女との会話は不可能だ。
53 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/22(日)23:32:36 ID:asJ
「どういうつもりなんですか!? 僕たちにそんなものを見せて!」
「……え? 私は誠くんの無事を確認しただけですよ?」
「な、何を言ってるんだ! そんなの早く捨ててくれ!」
ずっとドラえもんの後ろに隠れて、目の前のそれを見ないようにしていたスネ夫が感情をぶつける。
だが、その発言が言葉の逆鱗に触れた。
「……そんなの? 私の大切な誠くんを『そんなの』って言うんですか?
しかも、あまつさえ捨てろと?」
「え?」
「折角、西園寺さんもいなくなって、やっと二人きりになれたのに、あなたたちも私の邪魔をするんですか?」
その発言に反応したのは、ドラえもんだった。
54 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/22(日)23:37:58 ID:asJ
「西園寺さんが、いなくなった?」
ドラえもんは推測を立てる。
(「西園寺さん」とやらがいなくなったことで、桂さんと誠さんは二人きりになれた。なのに、肝心の誠さんははあの有様だ)
おかしい、実におかしい。
(もし、その西園寺さんという人物がどこか遠くに引っ越しただけなら、誠さんがあのような状態になる理由がない。
というか、桂さんと誠さんが普通に付き合っていただけなら、こんな生首を持ち歩く事態にならないはずだ。
しかし、もし西園寺という人がいなくなっただけでは桂さんと誠さんが付き合うことが出来なかったとしたら?)
ここまで考えたドラえもんは、ある一つの結論にたどり着く。
(ま、まさか!)
56 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)00:15:55 ID:w24
だが、彼がその考えにたどりついたと同時にスネ夫が発言した。
「もういやだ! こんな生首持ち歩いている人と一緒の部屋にいたくない!」
スネ夫は飛び出すように立ち上がろうとしたが、足が震えていたためうまく立てずに転んでしまった。
「あっ!?」
畳の上に横たわってしまうスネ夫。そこに言葉が近づく。
「ひいっ!」
「あなた……ちょっと許せませんね」
57 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)00:20:29 ID:w24
先ほどまで、和やかな顔で笑っていた人物とは思えない。
それほどまでに、今の言葉の顔は狂気に満ちていた。
そして、言葉はスポーツバッグの中に手を伸ばす。
「私の誠くんを悪く言う人は許しません」
今の言葉は、左腕に誠の頭を抱えている。
そして右手には、ノコギリを握っていた。
「あ、ああああああああああ!」
スネ夫の目から涙が流れる。
ノコギリには黒く変色した血のようなものがベットリ付着している。
ここまでくれば、言葉が何をしたかは明らかだった。
「……死んでください」
63 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)19:39:49 ID:w24
死刑宣告と共にノコギリが振り上げられる。
だが、その直後、
「ドカン!」
ドラえもんの叫びと共に、
「きゃあっ!?」
言葉が窓の横の壁に叩きつけられた。
「う……ぐ、それは……?」
ドラえもんの腕に装着されているもの、
黒く光り、人間の拳より一回り大きい直径の円筒。
空気砲である。
64 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)19:44:14 ID:w24
床にへたり込んでいた言葉が再びノコギリを手にして立ち上がろうとする。
「ドカン!」
「あぐっ!」
だが、ドラえもんは素早く空気砲を撃ち、言葉の動きを止めた。
「ドカン! ドカン! ドカン!」
「ああっ! ぐうっ! あうんっ!」
倒れた言葉に数発の空気砲が撃ち込まれる。
言葉の目が見開かれたと思うと、その後にゆっくりと閉じられたのを確認したドラえもんは空気砲を下ろした。
65 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)20:01:49 ID:w24
「し、死んじゃったの?」
恐る恐る、スネ夫が聞く。
その一方で、ドラえもんは言葉の首に手を当てる。
「いや、気絶しているだけだ。空気砲にそこまでの威力はないからね」
気絶している言葉に、のび太が近寄ろうとする。
「近づくな!」
「で、でもドラえもん、ちょっとやりすぎじゃない?」
「やりすぎなもんか! この人は人を一人殺しているんだぞ!」
この中では一番恐怖を感じていたスネ夫は、言葉の安全などどうでもよかった。
66 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)20:07:06 ID:w24
「のび太、スネ夫の言うとおりだぜ。この際、つべこべ言ってらんねえよ」
ジャイアンがスネ夫に同意した時だった。
「一人じゃない。おそらく、二人だ。」
ドラえもんの発言。それの意味が一瞬、三人は理解できなかった。
「ふ、二人って?」
「……ま、まさか!」
感づいた様子のスネ夫に対し、ドラえもんは自らの推測を述べる。
「この人は……少なくとも、二人の人間を殺している」
67 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)20:11:48 ID:w24
その発言に三人は固まる。
当然だ、一人殺したというだけでもこの世界では立派な異常者だ。
まして、それが二人となれば……
「な、なんでそんなことがわかるんだよ!?」
「この人は、「西園寺」という人物がいなくなったと言った。そしてそのことで、誠さんといっしょになれたとも。
でも、西園寺という人が桂さんと誠さんの邪魔をしていただけなら、誠さんが死ぬ必要は無かったはずだ」
「ま、まあ確かに」
「そして、なんで西園寺さんはいなくなったのかを考えたら、どうあっても結論は一つだと思う」
「そ、それは?」
のび太の質問に対し、ドラえもんは言う。
「桂さんは、誠さんと付き合っていた西園寺さんを殺し、それに怒った誠さんも殺した」
自分が推測した、桂 言葉の異常性を。
68 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)20:16:15 ID:w24
「う、うわあああああ!」
もはや恐怖が限界に達しそうなスネ夫は、のび太に掴みかかった。
「お前のせいだぞのび太! お前がこんな恐ろしい人を連れてきたんだ!」
「ぐ、ぐるしい……」
「おいやめろスネ夫! 俺たちが言い争っても仕方ないだろ!」
「落ち着け!」
混乱する三人を、ドラえもんが一喝する。
「……とにかく、桂さんの動きを封じる。それと、しずかちゃんも呼んで来よう」
69 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)20:35:33 ID:w24
「そ、そんな……桂さんが……」
言葉を縄で縛り、「壁紙ハウス」の中に閉じ込めた後、
ドラえもんたちはしずかを呼び出し、言葉がしたことを説明した。
「……信じられないけど、嘘じゃないのよね」
四人の真剣な表情から、今現実に非常事態が起こっていることを悟る。
「それで、これからどうしよう」
「どうしようじゃないよ、のび太! お前が呼び出したんだから、お前が責任を持て!」
「う……」
「待てよスネ夫。このままあの人を放っておく気かよ?」
「当たり前だ! 僕はあんな人とはもう関わりたくない! 死ねばいいんだ!」
「ちょ、ちょっとスネ夫さん、それは言い過ぎじゃ……」
「しずかちゃんはあれを見てないからそう言えるんだ!」
「そ、そんなの……」
「だけどよ、俺はあの人をどうにかしないと逆に危なくて寝れやしねえよ」
皆がそれぞれの意見を交わした後、スネ夫が提案する。
70 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)20:48:49 ID:w24
「じゃあ……あの人をどこか山の中にでも置き去りにすればいいんだ」
いつもの彼ならば、思いつきもしない考えを。
「そうすれば、僕たちは安全だ。それにあんな人が死んだところで……」
「スネ夫くん」
スネ夫の発言を、ドラえもんが遮った。
「それは、桂さんを殺すってこと?」
「……え?」
「あの人を山の中に置き去りにすれば、それは殺したも同然だ。君は人を一人殺そうって提案しているんだよ」
「それは……」
「それに、もしあの人が助かったらどうする? もっと犠牲者が出るかもしれない」
73 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)21:17:00 ID:w24
ドラえもんの発言に、スネ夫も口を噤む。
「でもドラえもん、この世界の警察に通報するとかは?」
「そもそも、桂さんはこの世界に戸籍がない。社会的には存在しないんだ。捕まえられても、裁判に持っていけるのかどうか……」
「じゃあ、どうするんだよ?」
「……なんとかして、桂さんを元の世界に戻すしかない」
解決策は一つ。この場の全員が口を閉じた。
「それと、みんなに言っておくことがある」
「言っておくこと?」
ドラえもんの提案、それは……
「この件は、僕一人に任せてもらいたい」
いつもの彼らしからぬものだった。
74 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)21:23:20 ID:w24
「な、何言ってるんだよ!?」
実は五人の中で、一番友情を重要視してるジャイアンが叫ぶ。
この問題を、ドラえもん一人に背負わせるというのか。
彼としては黙っていられなかった。
「……今回の件は危険すぎる。今までの冒険とはわけが違う」
「でも、僕たちはみんなで乗り越えてきたじゃないか!」
「それでもだ。今回は生身の人間が相手、しかもこちらにどんな危害を加えてくるかわからない。
僕たちの目的が、あの人を無傷で元の世界に帰すということである以上、どうあっても戦いになったら僕たちは後手をとる」
「それなら、僕たちみんなで協力した方が……」
「のび太くん、これは言いたくなかったけどね」
ドラえもんは皆の身を案じている。だからこそ言うのだ。
「僕はロボットで、皆は人間だ」
自分が、皆とは違うということを。
75 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/23(月)21:25:43 ID:w24
「僕が傷ついても多少は大丈夫だし、元通りに戻る。でも、君たちは違う。
あの人に致命傷を負わされたら助からないし、後遺症が残るかもしれない」
だが、そんな発言をこの少年が受け入れられるはずがなかった。
「ドラえもん! 何てこと言うんだ!」
ドラえもんと常に一緒にいた、のび太は受け入れられなかった。
「僕たちは、友達だろ!? 仲間だろ!? 君だってそう言ってくれたじゃないか!
なのに、今更自分は皆と違うだなんて……僕たちが君を代わりの利く道具だなんて考えているわけないじゃないか!」
自分なら、傷ついても大丈夫。だからお前らは安全な所で自分のことを気にせずのうのうと暮らせ。
そんな発言を受け入れられるはずがなかった。
80 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/25(水)19:29:54 ID:UB2
「だからこそだ!」
だがそれでも、ドラえもんは言わなくてはならなかった。
「君たちは大事な友達だ。それは僕だってそう思っている。だけど僕はこの時代にのび太くんを助けるために来たんだ。
その僕が、のび太くんとその大事な友達を危険に晒すわけにはいかない」
ドラえもんの使命、それはのび太を不幸から救うことでのび太の子孫たちを幸せにすること。
それを、忘れるわけにはいかなかった。
81 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/25(水)19:51:42 ID:UB2
「ふざけんな!」
しかし、そこで叫んだのはジャイアンだった。
「ドラえもん、お前はのび太の友達を危険に晒すわけにはいかないと言ったな!?
その「友達」の中にお前は入っていないのかよ!」
いつもは乱暴なジャイアンではあるが、本心では皆を、ドラえもんを「心の友」だと思っている。
その友を、一人で危険な目に合わせられるはずがなかった。
「……うう」
ドラえもんは涙を流す。
82 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/26(木)07:37:35 ID:g9Q
「……ありがとう、ジャイアン。でもダメなんだ。今回ばかりは危険なんだ」
「危険がなんだよ! 俺たちならどんな危険でも……」
だが、その時。
「……待ってよジャイアン」
口を開いたのはスネ夫だった。
「どうしたんだよ?」
「……」
スネ夫は意を決したように、言う。
「僕は……今回の件はドラえもんに任せるべきだと思う」
腰巾着であるはずの彼が、いじめっ子に反対の意見を言う。
88 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/26(木)22:37:33 ID:g9Q
「ス、スネ夫! お前何言ってるんだよ!」
「……よく考えてみてよ。今回の相手は本当に人を殺しているんだよ? それだけじゃない、僕もついさっき殺されそうになったんだ」
「だから、みんなであの人をなんとかしようって話だろ!?」
「僕は無理だ!」
そして、スネ夫は感情を爆発させる。
「いいか! あの人は本気だ! 人を殺すことなんてなんとも思っていないんだ! あの生首と一緒にいることを邪魔する人は全部殺すつもりなんだ!
そんな異常者とは、僕はもう関わりたくない! ましてや、立ち向かうなんて無理だ!」
「で、でもスネ夫さん。誰かがあの人をなんとかしないといけないのよ?」
「だからドラえもんがなんとかすればいい! でもそれに僕を巻き込まないでくれ!」
91 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/26(木)23:00:31 ID:g9Q
だが、その発言を見過ごせない男がいた。
「てめえ!」
ジャイアンである。
「ドラえもん一人にこの問題を背負わす気か!? 見損なったぞスネ夫! 俺たちは仲間じゃなかったのかよ!?」
「ドラえもんだけに背負わせたくないなら、ジャイアンたちが手伝えばいい! だけど僕は無理だ! 関わりたくない!」
「いい加減に……!」
「待ってよジャイアン」
スネ夫に殴りかかろうとしたジャイアンをドラえもんが止めた。
96 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)00:31:31 ID:Wy6
「スネ夫くんが関わりたくないのであれば、関わらせないほうがいい。そもそも、僕が一人でやろうとしているんだ」
「でもよ……!」
「それに、あんな人と関わるのが怖いという気持ちは至極まっとうなものだと思う。スネ夫くんを責めないでくれ」
「……わかった」
ドラえもんの説得により、ジャイアンは引き下がる。
「ドラちゃん……」
「ん? どうしたのしずかちゃん?」
「正直言って、私も怖いわ。でもあなたを手伝いたい」
「し、しずかちゃん!」
しずかの発言にのび太が反応する。
97 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)00:36:10 ID:Wy6
「だめだよ、しずかちゃん。こんな恐ろしいことに君が……」
「私も友達としてドラちゃんを手伝いたいの! その資格は私にもあるはずよ」
「でも……」
「大丈夫よ、危なくなったら自分の身くらい守るから」
「……」
のび太は、「自分が君を守る」と言おうとしたが、その発言が喉から出てこなかった。
「ドラえもん、決まりだ。俺たち四人でこの問題を解決する。止めろと言っても止めねえぞ」
皆の意志を受けて、改めてジャイアンが宣言する。
98 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)00:47:10 ID:Wy6
「……わかったよ。だけど、本当に気を付けてくれ。今回の相手は普通じゃない」
「ああ、それはよくわかっている」
そして四人が意志を固めた一方、唯一協力を拒んだスネ夫はその場にいづらくなっていた。
「じゃあ僕は、帰るよ」
「ああ帰れ、お前がそんな薄情なやつだとは思わなかったよ」
「ジャイアン! スネ夫くんをそんな責めないでくれ……」
「……」
ガキ大将の軽蔑とも取れる言葉を背中で受けて、スネ夫はのび太の家を後にした。
99 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)13:25:25 ID:Wy6
その後。
のび太の部屋にある「壁紙ハウス」の中。
「……ん」
「気が付きましたか?」
言葉が目を覚ますが、その直後に自分が縛られて身動きが取れないことに気が付いた。
目の前には、先ほど自分に何かの武器を放ったロボット、そしてキツネみたいな少年を除いた三人の少年少女がいる。
「……これはどういうつもりですか?」
「悪いとは思いましたが、あなたの自由を封じます」
「あなたたち……私の邪魔をするつもりですか? 誠くんに会わせてください」
言葉としては、折角誠と二人きりになれたというのに、目の前の人間たちは自分の邪魔をする。
どうあっても、許しがたいことであった。
100 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)13:35:55 ID:Wy6
「誠さんはもう……」
「待ってしずかちゃん」
「死んでいる」と言おうとしたしずかをドラえもんが制止する。
「へたに刺激するとまずい。ここは生きている体で話を進めよう」
「……わかったわ」
102 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)13:42:41 ID:Wy6
言葉に聞こえないようにしずかに提案する。
現在、誠の首は元通り言葉の横にある彼女のバッグに入れてある。
そして、ドラえもんたちの間で彼も元の世界で埋葬してあげたいという結論が出たため、
「ゴルゴンの首」で石化し、腐らないようにしてある。
ただ、のび太としてもドラえもんとしても生首を部屋に置いておきたくないため、
言葉のバッグに入れて「壁紙ハウス」の中に置くしかなかった。
「ええと、誠さんはちょっと休んでいます。後で会わせてあげます」
ドラえもんがとりあえず話を合わせる。
103 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)13:56:19 ID:Wy6
「そうですか。それで、あなたたちの目的はなんですか? 私を縛り上げてどういうつもりなんですか?」
「ええと……」
ドラえもんたちは迷った。どこまで説明すべきかと思ったからだ。
「どうするの、ドラえもん? あの人にこの世界は別の世界だって言うの?」
「うーん……どちらにしろあの人を元の世界に戻さないといけないからなあ……」
「ドラえもん、あの人もここが自分の世界じゃないと知ったら、おとなしく戻ってくれるんじゃねえか?」
「……そうだね」
ジャイアンの意見に同意したドラえもんは、説明を始めた。
104 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)14:02:03 ID:Wy6
「えーと、まず前提としてここはあなたのいた世界ではありません」
「……」
「……驚かないんですね」
「まあ、あなたみたいな存在は見たことがないので」
言葉の世界にはドラえもんのような存在はいないらしい。まあ、そうだろう。
「それで、あなたを元の世界に戻すための手段を今探しています」
「それはわかりました。それで、なぜ私は縛られているのですか?」
「……」
105 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)14:05:52 ID:Wy6
ドラえもんたちは戦慄した。
この人物は本当に自分が縛られている理由に心当たりがないのだろうか。
生首を持ち歩き、人を殺している自分が本当に危険人物とは見られていないと思っているのだろうか。
そこで、ドラえもんたちの中である懸念が生まれる。
「ドラえもん、もしかしたらこの人のいた世界って……」
「可能性はある。だけど、僕の考えでは桂さんの世界でも殺人は犯罪だと思う」
「な、なんで?」
「この人はそもそも誠さんが死んでいないと考えている。その事実から目を逸らしている。
さらに西園寺さんに関しても『いなくなった』と言っていた。桂さんは殺人を犯したという現実から逃避した結果、ああなったんだ。
つまり、桂さんの世界でも殺人を犯すというのは大きいもののはずなんだ」
「う、うん……」
ドラえもんの説明をいまいち理解していないのび太ではあったが、言葉の世界でも殺人は重罪であるらしい。
108 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/28(土)17:19:39 ID:9IP
どうなるんだ
112 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:06:21 ID:Wy6
「答えてくれますか? なぜ私は縛られているのかを」
それを踏まえた上で、会話が通じないことにのび太は改めて戦慄する。
「その、あなたがこの世界で行動を起こすといろいろと問題が……」
「だからと言って、縛らなくてもいいじゃないですか。ここが異世界である以上、私は言われたことには従いますよ?」
「はあ……」
ドラえもんは考える。
(どうする? この人との話し合いは無理だ。どうあっても強制的に送り返すしかないか……)
そこまで考えて、ドラえもんは決断を下す。
113 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:33:18 ID:Wy6
「僕は、あなたを自由にするつもりはありません」
その発言に、言葉だけでなくのび太たちも驚く。
「ド、ドラえもん?」
「はっきり言いましょう。僕たち、いや少なくともこの世界の人間にとってあなたは危険な存在です。
だからこそ、あなたを自由にするわけにはいきません。あなたの行動を封じたまま元の世界に戻し、
可能であれば、あなたの世界の警察なり治安組織に引き渡すつもりでいます」
のび太たちの驚き。それはいつになくドラえもんが真剣な表情で、目の前の人物を敵視していたからだ。
のび太の知るドラえもんは、多少辛辣なところもあるが基本的には心優しく穏やかな性格である。
だが、今の彼は違う。明らかに目の前の人物に強い敵意を抱いている。
114 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:37:29 ID:Wy6
「……なるほど、あなたたちは私の敵ということですね」
そして、敵意を向けられた言葉もまた、ドラえもんたちに敵意を向けている。
先ほどと同じく、まったく光の宿っていない目でにらまれたことでのび太とジャイアンの心に恐怖が芽生え、
初めてその目を見たしずかは、言葉が異常者であることを改めて認識した。
「それにしても、私を警察に引き渡す? どうしてですか?」
言葉の口から「警察」という単語が出た。やはり彼女の世界にも警察はある。
つまりそれは、殺人などの犯罪を取り締まる機関があるということだ。
115 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:41:10 ID:Wy6
「どうしてって、あなた自分のしたことがわかっていないんですか!?」
あまりに会話が成り立たないことから、しずかは叫んでしまった。
この人は人間を殺しておきながら、その事実から逃げている。
その罪を背負うことから逃げている。
しずかはどうしてもそれが許せなかった。
「あなたは誠さん、それにその西園寺さんという人を殺しておいて、全く何も思わないんですか!?」
「し、しずかちゃん!」
言葉を刺激することを恐れたのび太が制止しようとするが、それでもしずかは続けた。
「あんまりよ! あなたの都合で殺された二人が……これじゃあんまりよ……」
116 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:44:40 ID:Wy6
しずかは誠のことも、西園寺という人物のことも知らない。
だが、しずかもドラえもんから言葉の行動の推測を聞かされ、
幸せに付き合っていたはずの二人が無残に殺されたかもしれないということがあまりにも悲しかった。
だが――
「誠くんは生きていますよ」
それでも言葉の精神が戻ることは無かった。
「西園寺さんに口が利けない状態にはされちゃいましたけれど……これからやっと私と二人きりになれて喜んでいます」
あくまでも、彼女の中では誠が生きてと自分が付き合っているという前提は崩れないのだ。
117 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:47:41 ID:Wy6
「ドラえもん……」
「うん、わかってる。やっぱりこの人と話し合うのは無理だ」
どうあっても、言葉が自分たちの理解の範疇を超えていることを認識したドラえもんたちは、これ以上の話し合いを諦めた。
「……とにかく、あなたにはここでじっとしていてもらいます。食事は持ってきますし、お手洗いも用意しますので生活は出来ます」
「この状態でトイレに行けるとでも?」
「縄は解きます。ただし、この空間からは出られないようにはします」
そしてドラえもんは空気砲を三門出し、のび太たちに配る。
「これから縄を解きますが、もし僕に危害を加えるのであれば即座に皆が空気砲を放ち、その後あなたを縛ったままにします」
「……」
言葉は素直に縄を解かれても暴れることは無かった。
118 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)20:49:10 ID:Wy6
「それじゃ、僕らはここから出ますが中からは開けられないようにします。食事の時と元の世界に戻れるようになったら迎えに来ます」
そう言って、ドラえもんたちは壁紙ハウスの中から出ると、壁紙を丸める。
こうしておけば、言葉は中から出ることは出来ない。
「とりあえず、これで桂 言葉は閉じ込めておけた。あとは元の世界に戻すだけだ」
「それでドラえもん、俺たちは何をすればいい?」
「とりあえず、学校には普段通り行ってくれ。僕はその間に手持ちの道具で何かできないか調べる」
「わかった」
「いいか皆、あの人が逃げ出したなんてことになったら大ごとだ。それこそ、皆の家族にも危険が及ぶかもしれない。
くれぐれも注意してくれ」
「……うん」
そして、その日は解散となり、丸めた壁紙ハウスはのび太の机の引き出しにしまわれて鍵をかけられた。
119 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/28(土)21:21:20 ID:Wy6
その後。
のび太たちは普段通り学校に通い、帰った後に交代で壁紙ハウスを見張った。
言葉の食事については「グルメテーブルかけ」で一般的な定食を出し、朝昼晩に届けに行った。
無論、食事を届ける際には空気砲を装備し、ドラえもんを含めた二人体制で行った。
昼食についてはのび太たちが学校に行っているためにドラえもん一人で届けることになったが、
言葉は特に暴れることもせずに大人しく食事を摂っていた。
ただ、言葉はいつの間にかバッグの中の誠の生首を取り出していて何事か話しかけていた。
120 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)21:33:44 ID:Wy6
これを受けてドラえもんは、しずかに壁紙ハウスの中には入らないように忠告し、食事は三人で届けることにした。
その一方で、学校でののび太たちは自然と口数が少なくなっていた。
まさか、異世界の人間を監禁している現状をベラベラ話すわけにもいかないし、三人が集まれば自然とその話題になりそうだったからだ。
だからこそ、三人が学校で話す機会は減って行った。
そしてそれは、ドラえもんたちへの協力を拒んだスネ夫も同じである。
スネ夫は何かを言いたそうではあったものの、三人、特にジャイアンを見ると逃げるように去って行った。
彼も彼なりに迷いがあると感じていたジャイアンではあったが、出来ればスネ夫の方から協力を申し出てほしかった。
122 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)21:38:04 ID:Wy6
そしてドラえもんは手持ちの道具を徹底的に調べ、なんとか言葉を送り返す手段が無いかを探していた。
部屋中にあらゆる道具が散乱する結果になってしまったが、ドラえもんはその都度仕舞ってはいた。
そしてついに、彼は一つの可能性を見つける。
それは言葉がこの世界に現れて三日後のことだった。
123 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)21:52:36 ID:Wy6
「もしもボックスを!?」
現在、のび太の部屋にはのび太とドラえもんの二人だけがいる状態である。
そして、数ある道具を調べて言葉を元の世界に戻せる可能性のある道具をドラえもんは見つけた。
それが、「もしもボックス」である。
電話ボックスのような巨大な道具であり、中には通常の電話ボックスと同様、電話が備え付けられている。
そして、受話器を手に取り自分が考える「もしも」の世界を言う。
こうすることで、その「もしも」の世界が現実となるのだ。
124 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)22:15:54 ID:Wy6
これまでのび太は様々な世界をこのもしもボックスで作り上げてきた。
「お金がいらない世界」、「あやとりが世界的な人気を持つ世界」、「眠ることが推奨される世界」、
さらに、「魔法が使える世界」などもこの道具は現実に出来る。
そう、これは「もしも」の世界を現実に出来る道具。
つまり――
「これを使って、桂 言葉のいた世界と僕たちの世界を繋げられるかもしれない」
125 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)22:26:18 ID:Wy6
ドラえもんが見つけた可能性、それは「もしもボックス」で今の世界を言葉の世界と繋げることだった。
「もしもボックス」で世界を繋げ、言葉を原巳浜まで送り現地の警察に引き渡す。
原巳浜までは「どこでもドア」を使えば簡単にたどり着けるはずであるし、
もし、言葉が起こした殺人事件が原巳浜及び榊野学園で騒動になっていれば、すでに警察が動いているはずである。
そして警察に引き渡した後、再び「もしもボックス」で元の世界に戻す。
こうすれば、言葉を送り返した状態でドラえもんは元の世界に戻れるはずであると踏んだ。
126 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)22:39:56 ID:Wy6
「とりあえずやってみよう、僕が『もしもボックス』の中に入る」
ドラえもんはボックスの中に入り、受話器を持つ。
「もしも、原巳浜と榊野学園がある世界になったら!」
ドラえもんが受話器に「もしもの世界」を願った後、「もしもボックス」から黒電話の着信音のような音が鳴り響く。
これは「もしもの世界」が実現した証である。
「ドラえもん、これで……」
「まだわからない、とりあえず確かめてみよう」
ドラえもんたちは一階に降り、和室のテレビをつける。
テレビではちょうどニュース番組が放映されていた。
127 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)22:57:36 ID:Wy6
『次のニュースです。
榊野学園高等学校の二人の生徒が殺害された事件に、同校一年生の女子生徒が深く関わっている可能性が警察への取材で明らかになりました。
この女子生徒は、殺害された伊藤 誠さんと西園寺 世界さんとの間で何らかのトラブルがあった可能性があり……』
ドラえもんたちが見たものは、言葉が起こしたであろう事件のニュースであった。
「やった! これで世界は繋がった!」
「じゃ、じゃあドラえもん、あとは桂さんを原巳浜ってところに連れて行けば……」
「うん、既に警察は動いている。誠さんの遺体の一部を桂さんが持っている限り、桂 言葉は言い逃れは出来ない。
このまま警察に引き渡そう」
「そうか……これで……」
128 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/28(土)23:09:32 ID:Wy6
のび太は安堵した。そのつもりだった。
だが、彼の中にはやりきれない思いがあった。
原因はわかっている。彼は夢を見たのだ。
言葉の悲しい過去を追体験するような夢を。
前日の夜のことだった。のび太は珍しく寝つきが遅く、日付が変わるころにやっと眠りについたのだ。
そして、夢を見た。
言葉が受けてきた、数々の仕打ちを体験する夢を。
129 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)00:07:50 ID:h2w
言葉が受けてきた、数々の仕打ちを体験する夢を。
夢の中で、言葉は同級生から孤立していた、そんな中である日西園寺という人物と仲良くなり、誠を紹介されたのだ。
言葉は前から誠が気になっていて、彼と知り合えたことを喜んでいた。そしてその後、彼から告白されたのだ。
言葉は天にも昇る気持ちだった。恋人どころか友達も碌にいなかった言葉にとって、誠は救いだった。
だが、事態は思わぬ方向に向かってしまう。
のび太から見てもわかった。二人の考えや性格があまりにも違い過ぎることに。
直截的な行為を求める誠に対し、奥手な言葉はそれを思わず拒否してしまった。
そのためか、誠は次第に二人をとりもっていたはずの西園寺 世界と接近していったのだ。
さらに、西園寺 世界の方も実は誠に好意を抱いており、言葉の見ていないところで二人は恋人のような行為をしていた。
そして彼女には友人が多く、彼女を応援する人間が多かった。
それ故、言葉の味方より西園寺 世界の味方の方が圧倒的に多かった。
130 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/29(日)00:31:57 ID:h2w
もともとクラスで孤立していた言葉だったが、それがいじめにまで発展した上に、
西園寺 世界の友人たちから誠への接触を妨害された。
さらに当の誠自身も言葉への想いが薄れており、ついには別れを切り出された。
こうして追い詰められた言葉は、精神を病んでしまったのだ。
だが、事態はこれで終わらなかった。
誠は西園寺 世界だけでなく、様々な女子と関係を持ち始めた。
それ故、西園寺 世界とも関係を切り始めたのだ。
だが、西園寺 世界が誠の子供を身ごもったと告白すると、誠の周りの女子たちはいっせいに彼から離れ始めた。
そんな中、あろうことか誠は言葉とよりを戻そうとした。
言葉は喜んだが、西園寺 世界はそれに激怒し、ついに誠を殺害してしまう。
誠の死体を見た言葉は完全に精神が崩壊し、最終的に誠の首を切断して持ち歩いた状態で、西園寺 世界を殺害してしまった。
これが、のび太が見た夢の光景。
131 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)01:08:39 ID:h2w
正直言って、のび太は目を背けたかった。
子供の自分でさえ、伊藤 誠が想像を絶するほどひどい男だということがわかってしまったからだ。
だが、そんな男でも言葉にとっては救いだった。唯一の支えだった。
それを失ったからこそ、彼女はあそこまで狂ってしまったのだ。
これが真実であるとは限らない。ただの夢かもしれない。
だが前例はあった。のび太は過去にも、夢で他人の体験を見たことがある。
しずかが絵本の世界で、奴隷船に捕まってしまった夢を。
だからこそ、のび太はこれがただの夢だと思うことは出来なかった。
これが言葉に本当に起こった出来事だとしたら、このまま彼女を送り返していいのかわからなかった。
だが、言葉をこの世界に置いておくことは出来ないのも事実。
だからこそ、のび太はドラえもんに提案しようとした。
「ねえ、ドラえ……」
「のび太くん! とにかく僕はジャイアンたちを呼んでくる! ここで待っていてくれ!」
「あっ……」
のび太が提案する前に、ドラえもんは家を出てしまった。
133 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)01:29:40 ID:h2w
ドラえもんが出て行ったあと、仕方なく自分の部屋に戻ったのび太は何かの声を聴いた。
「……う、ぐう」
その声は、「壁紙ハウス」の中から聞こえる。
おそらくは言葉の声なのだろう、しかし何か苦しんでいるように聞こえた。
思わず様子を見に行こうとしたが、慌ててドラえもんの忠告を思い出す。
『いいか皆、桂 言葉がなんらかの手段でこちらの油断を誘ってくるかもしれない。くれぐれも壁紙ハウスの中に入るときは武器を忘れないように』
そしてのび太は空気砲を装備し、改めて中に入る。
「大丈夫ですか……?」
のび太が扉を開けると、言葉は普通に立っていた。
下着姿で。
「……っ!?」
134 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)01:38:37 ID:h2w
普段、女性の下着姿を見ることなどないのび太は、思わず目を逸らしてしまう。
だが、それが命取りとなってしまった。
のび太が目を逸らした瞬間、言葉は一直線に走りだし――
彼の腹に拳を入れた。
「ぐぅっ!?」
女子高生の力とはいえ、ただの小学生にダメージを与えるのは十分なものだった。
のび太がよろめいた所で、言葉は素早く空気砲を奪い取り、彼を押し倒す。
「うわっ!」
のび太が気が付いた時には、下着姿の言葉が自分の上にのしかかって空気砲を向けていた。
135 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)01:49:32 ID:h2w
「あ、あああ……」
「……これで、形勢逆転ですね」
のび太にとてつもない後悔が襲った。ドラえもんの忠告があったのにもかかわらず油断してしまった。
自分はどうなるのだろう、殺されてしまうのか?
言葉の光無き目は、容易に死を連想させた。
「あなたに聞きたいことがあります」
「な、なんですか?」
聞きたいこととは何だろう、自分はこの人に何をされるのだろう。
まさか、殺人の片棒を担がされるのか?
のび太がさまざまな想像をしていると、言葉が口を開いた。
136 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)02:06:02 ID:h2w
「あの、蒼いねこ。ドラえもんさんでしたっけ? 彼はなぜここにいるのですか?」
「えっ?」
「なぜここにいるのですか?」
「え、えっと、未来から僕を助けに……」
そこまで言ったところで、のび太は言葉に殴られた。
「あぐっ!」
「理解力の無い人ですね。なぜ未来のロボットがこの時代にいるのかを聞いているんです」
「え、えっと、それはタイムマシンを使って……」
その時、のび太は考えた。なぜ言葉がこんな質問をしているのかを。
「なるほど、タイムマシンですか……」
137 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)02:17:19 ID:h2w
タイムマシンという単語に言葉は興味を向ける。
なぜ彼女がタイムマシンを求めるのか。のび太には察しがついた。
もし自分が見た夢の内容が現実に起こったことであれば、彼女は本当に誠と付き合っていたことになる。
だが、西園寺 世界の介入でそれが崩れてしまった。それを踏まえて、彼女がタイムマシンを手に入れたらどうなるか。
決まっている。過去に戻って、西園寺 世界を殺害する。
「二つの世界……無事に繋がりましたか?」
「な、なんでそれを!?」
「この空間、結構外の声が聞こえるんですよ? あなたたちは知らなかったようですけど」
言葉にはすでに二つの世界が繋がったことを見抜かれている。
この状態でもし、彼女がタイムマシンを手に入れたら止める手段が無い。
隠し通さないといけない。のび太はそう判断した。
138 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)02:23:24 ID:h2w
「え、えっと、タイムマシンはドラえもんが持っています……」
「持っている?」
「あ、あなたも見たでしょ? ドラえもんはポケットの中からいろいろな道具を出せるんです。タイムマシンもその中にあります」
「……」
もし言葉に、タイムマシンが机にあると知られれば終わりだ。
だが、ドラえもんが持っているということにすれば、言葉はドラえもんと対峙せざるを得ない。
それなら言葉も諦めると思ったのだ。
「なるほど、そうですか」
「は、はい、だから……」
「なら、あなたに来てもらうしかないですね」
「……は?」
139 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)02:30:22 ID:h2w
その頃。
ドラえもんはジャイアンとしずかと合流し、のび太の家に戻ろうとしていた。
だが、その時一人の人物と遭遇する。
――スネ夫である。
「……スネ夫くん」
ドラえもんたちの前に立つスネ夫は、神妙な面持ちだった。
「どうしたんだよ? 関わりたくないんだろ?」
ジャイアンは未だにスネ夫に怒りを抱いていた。
「……僕は」
そして、スネ夫が口を開く。
「僕は今でも怖い。あの人に関わるのが」
「……そうか」
「でも、僕は忘れていた。何度もドラえもんに助けられていたことを。
ドラえもんが、皆が怖い思いをしながら、僕を助けてくれたことを」
「……」
「それなのに、僕は自分のことだけだった。自分の安全だけしか考えていなかった。
しずかちゃんが、ジャイアンが、そしてのび太でさえもドラえもんの力になろうとしていたのに、
僕は自分のことだけだった」
そしてスネ夫は打ち明ける。
140 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)02:41:39 ID:h2w
「僕は! 僕を助けてくれたドラえもんの、みんなの力になりたい! 今からじゃ、それは遅いかな!?」
その発言に最初に反応したのは、
「そんなわけねえだろ!」
ジャイアンである。
「お前が来るのを待っていたぜ、心の友よ」
「……ありがとう、ジャイアン」
ドラえもんは知っていた。
ジャイアンとスネ夫。この二人が味方に付いた時、どんなに頼もしいか。
乗り越えられる、そう確信できた。
「行こう、あの人を元の世界に送り返す!」
ドラえもんたちはのび太の部屋に向かった。
141 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/29(日)09:29:47 ID:K6w
泣けるね……
142 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)11:02:42 ID:h2w
そして、見ることになる。その書置きを。
『野比 のび太くんは預かりました。返してほしければ、タイムマシンを渡してください。
夜の10時までに裏山の頂上にタイムマシンを持ってこなければ、彼の命は保証しません。 桂 言葉』
「やられた……! のび太くんが桂 言葉に攫われた!」
ドラえもんから発せられた、最悪の知らせ。
それを聞いた三人、源 静香、骨川 スネ夫、剛田 武はそれぞれの反応を見せる。
「そ、そんな、のび太さんが……」
「ま、まずいよ! だからあの人をどっかに置いていこうって言ったんだ!」
「ドラえもん! なんとかならないのかよ!?」
三人の反応に共通するのは、明らかな焦り。
当然である。
今まさに、自分たちの親友が命の危機にさらされているのだから。
「お、落ち着くんだみんな! まずは状況を整理する!」
そしてドラえもんは考える、今の状況はどうなっているのかを。
144 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)11:25:48 ID:h2w
「今は夕方の5時。あの人の指定した時間まであと5時間だ。それはいいね?」
「ああ、まだ時間はあるが、どうするんだ? タイムマシンを渡すのかよ!?」
「それなんだけど、そもそも何であの人がタイムマシンのことを知っているの?」
スネ夫の疑問も最もだった。
「おそらく、のび太さんから聞き出したんじゃない? 未来のロボットのドラちゃんがここにいるわけだから、タイムマシンの存在には感づいていたのよ」
「いや待って、のび太くんから聞き出したにしては、不自然な点がある」
「どういうこと?」
「『タイムマシンを持ってこい』っていう要求だ。のび太くんが全てを話したのであれば、既に桂 言葉はタイムマシンを手に入れられるはずだ。
なにせ、タイムマシンはこの部屋の机にある。のび太くんを攫う必要なんてない」
「じゃ、じゃあ?」
「のび太くんは桂 言葉に何かしらの嘘の情報を与えている。それが彼女に知られたら危険だということだ」
ドラえもんの推測を聞いた三人に、緊張が走る。
145 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/29(日)11:36:43 ID:h2w
「それに、なんで桂 言葉がタイムマシンを欲しているのか……これを考えると、あの人にタイムマシンを渡すのは絶対にまずい」
「な、なんで?」
「……おそらくだけど、誠さんは西園寺さんと付き合っていた。だけど桂 言葉は二人とも殺してしまった。
それを本当は後悔していたとしたら、あの人がやることは一つだ」
そしてドラえもんは、
「過去に戻って西園寺さんを殺して、生きている誠さんと付き合うつもりだ」
のび太とは違った経路で、その結論に辿りつく。
「お、おい! じゃああの人にタイムマシンを渡したら過去の西園寺さんって人を殺しに行っちまうのかよ!?」
「その可能性は高い。だから絶対にタイムマシンは渡せない」
「だけど、渡さなかったらのび太さんが……」
「わかっている! 僕たちでなんとかするしかない」
そしてドラえもんはあることに気が付く。
部屋に散乱する、道具の数々に。
146 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)11:44:19 ID:h2w
「しまった……! 秘密道具を部屋に置いたままだった!」
「えっ!?」
「まずいぞ! もしあの人が何らかの道具を奪っていったとしたら!」
ドラえもんはあらゆる道具を調べていた、それは今日もそうだ。
「もしもボックス」が言葉を送り返せる道具であることを突き止めたことで、忘れていたのだ。
調べるために、部屋に散乱させてしまった道具を片づけることを。
ドラえもんは急いで道具を回収する。
全て回収したが、彼の顔は穏やかではなかった。
147 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)11:46:54 ID:h2w
「ドラえもん、何かあったの?」
スネ夫が質問すると、ドラえもんは答えた。
「あったんじゃない、無いんだ。道具の一部が無い」
その事実は、今のこの四人を焦らすのに十分だった。
「じゃあ、桂さんが道具を奪っていったの!?」
「たぶんそうだ。しかも、よりによってあれを……」
「奪われた道具が何かわかるの?」
「……」
ドラえもんから発せられた道具の名前、それは……
「名刀『電光丸』と、『がんじょう』だ」
148 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)12:54:42 ID:h2w
言葉とのび太は、裏山の頂上にいた。
現在、のび太の首には縄が括りつけられ、もう一方の端は言葉が持っている。
そして彼女は、右手で刀を持っていた。
ドラえもんの道具である、『電光丸』である。
149 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)13:09:03 ID:h2w
名刀『電光丸』。
コンピューターが内蔵されている刀であり、そのコンピューターが持ち主に勝手に最適な行動をとらせるので、
相手から目を離していたり、寝ていても相手の攻撃に対応できる。
つまりこれを持っている限り、接近戦で負けることは無い。
さらに、言葉自身も居合の経験があり、刀の扱いには慣れている。
彼女がこれを持ち去ったのもそのあたりが関係している。
そして、『がんじょう』。
ビンの中に入った多数の錠剤がそれであり、これを飲むと使用者の体を一定時間鋼鉄のような硬さにする。
バットで殴られても無傷であり、おそらくは空気砲程度の攻撃も無効化するであろう。
言葉がこれを持って行ったのは、名前から防御に向いていると感じたためである。
つまり、今の言葉は攻守共に常人をはるかに超えていることとなる。
151 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)13:20:05 ID:h2w
言葉は誠の首が入ったバッグを抱えた状態で、のび太を繋いでいる縄を持ち、電光丸を持っている。
これではのび太も、身動きが取れなかった。
「さて、ドラえもんさんはちゃんとタイムマシンを持ってきてくれるのでしょうか」
既に日は暮れている。言葉が携帯電話を見ると、既に午後7時を回っていた。
「言っておきますが、要求が守られなかった場合、あなたを殺してタイムマシンを奪いに行きます」
「……!」
言葉の宣告に、のび太は身震いした。
この人は本気だ。要求が守られなかった場合、本気で自分を殺す。
ドラえもんが自分を見捨てるとは欠片も思っていないのび太ではあったが、それでも紛れもない恐怖を感じた。
152 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)13:28:16 ID:h2w
「あの、聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「あなたは、誠さんと付き合っていたんですよね?」
「そうですよ?」
「……でも、西園寺って人がそれを邪魔した」
そこまで言ったところで、『電光丸』がのび太の首筋に当てられた。
「ひいっ!」
「あなた、それを聞いてどうするんですか? それがあなたに関係ありますか?」
「い、いや、はっきりさせておきたいんです。あなたの身に何が起こったのかを。僕にはその責任があると思うんです」
「責任?」
「……僕はあなたを僕たちの世界に呼び出してしまった。あなたに関わってしまった。
あなたをこちらの事情に巻き込んでしまった以上、あなたの手伝いもするべきかな、と思って」
「……」
153 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)13:45:03 ID:h2w
正直な所、のび太はこのまま言葉を警察に引き渡していいのかと思っていた。
あの夢の内容が確かであれば、言葉が殺したのは西園寺 世界一人だ。
だがニュースを見た限り、言葉は西園寺 世界と伊藤 誠両名の殺害容疑が掛けられているようだった。
それに、言葉が今まで受けていた仕打ちもある。
人殺しが許されることではないとはいえ、このまま言葉を単なる殺人鬼として扱わせていいのかと思っていた。
だからこそ聞きたかった。本人の口から何が起こっていたのかを聞きたかった。
それに、ドラえもんがいる状況なら言葉に起こったことを証明する手段はある。
だが、それに気づいているのは夢を見た自分だけであり、さらに確証が少なかった。
だから、聞きたかった。
「……あなたの言うとおりです。私は最初、西園寺さんの紹介で誠くんと仲良くなり、付き合うこととなりました」
言葉は、のび太から『電光丸』を離しながら言う。
154 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)14:10:13 ID:h2w
「ですが、私が誠くんの願いをちゃんと聞いてあげなかったせいで、誠くんが不満に思ったのでしょう。
そうしたら、西園寺さんが誠くんを誘惑し始めたのです」
夢で見た通り、言葉は本当に伊藤 誠と付き合っていた。
それに西園寺 世界が介入する形になったのだ。
「そして……」
その後は、おおむねのび太が見た夢の通りだった。
言葉はあくまで誠が生きている体で話をしていたが、誠を殺したのは西園寺 世界だったのだ。
――言葉が西園寺 世界を殺したのも間違いないようだが。
だが、のび太は思った。
155 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)14:22:29 ID:h2w
「あなたは、どうして誠さんを責めなかったんですか?」
「え?」
「僕が話を聞く限り、誠さんがもっとしっかりしていれば、そんなことには……」
それを言ったのび太の首に、再び『電光丸』が当てられる。
「……うっ!」
「あなたに何がわかるんですか? 誠くんは悪くありません、悪いのは西園寺さんです」
「違う!」
だがのび太は、今度は引き下がらなかった。
156 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)14:23:37 ID:h2w
「あなたは怖かったんだ。誠さんを責めることで、あの人と別れるのが」
「……!?」
「あなたたちの関係が本当に恋人だったのなら、あなたは誠さんを責めるべきだった。自分の恋人なら、他の女の子の誘惑に流されるなと言うべきだったんだ」
「……やめて」
「だけどあなたはそうしなかった。誠さんを責めなかった。それは誠さんがあなたから離れるのが怖かったんだ」
「やめなさい」
「あなたにとって、誠さんは恋人じゃない! ただ依存したかっただけだ!」
「だまれえええええええええ!」
言葉の叫びとともに、彼女の左手がのび太の顔面にめり込む。
「ぐうっ!」
「……あなた、それ以上発言したら即座に殺します。いいですね?」
「……」
言葉が再びのび太の縄を持つと、二人の間に会話は無くなった。
だが、のび太は感じた。
(いつもジャイアンに殴られているのに比べたら、今の一発は全く痛くなかった)
それが何を意味するのかは、わからなかった。
157 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)14:46:44 ID:h2w
数分後。
山頂にて、言葉とドラえもんたちが対峙していた。
「午後8時。リミットよりは早いですが、タイムマシンを渡してもらいましょうか?」
言葉はのび太に『電光丸』を押し当てている。下手に動くわけにはいかなかった。
「わかった。これを見てくれ」
そう言って、ドラえもんはポケットからある道具を出す。
それは四次元ポケットでなければ、絶対に入らないであろう巨大な道具。
のび太たちが何度も冒険に使った道具。
『宇宙救命ボート』である。
158 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:03:56 ID:h2w
「それがタイムマシンですか?」
「……そうだよ」
ドラえもんの作戦。
それは『宇宙救命ボート』をタイムマシンと偽ることだった。
ボートからは燃料を抜いてある。本来の役目を果たすことは無い。
うまく言葉をあの中に閉じ込められればいい。
しかし、問題はあった。
「わかりました。それではあなたたちはここから離れてください。私の目が届く範囲でね」
依然として、言葉はのび太を離さない。
もし言葉がのび太と一緒に乗り込むつもりであれば、のび太の命が危ない。
だからこそ、もう一つ作戦を考える必要があった。
159 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:20:33 ID:h2w
言葉はボートの中にのび太と共に乗り込む。
彼女は中を調べるために、一旦のび太を離したが、彼の首の縄は持ったままだ。
だが彼女は気づいていない。これがタイムマシンではないということに。
そして、もう一つ気づいていないことがあった。
彼女はその不自然さには気づかなかった。だが当然である。
この数日間、彼女の世話をしていたのはのび太を含む四人だけだ。
だから気づくはずもないのだ。
彼女と対峙し、『宇宙救命ボート』から離れたのが、ドラえもん、ジャイアン、しずか、
その「三人だけ」なのが不自然だということに。
言葉の持つ縄から、突如として手ごたえがなくなる。
「!?」
「走るぞのび太!」
その声を発したのは、言葉がのび太たちの世界に来た日以来彼女の前に姿を現さなかった少年。
骨川 スネ夫である。
160 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:48:39 ID:h2w
言葉が気づいた時には、すでにのび太の縄は切られていてスネ夫とのび太が出口に走っていた。
なぜ!? 言葉が見た限り、中に人はいなかった。ならこの少年はなぜ今ここにいる!?
ドラえもんの作戦は二つあった。
その二つ目の作戦が、スネ夫にスモールライトを持たせてボートの中に潜ませるというものである。
小さくなったスネ夫はボートの中に潜み、言葉からのび太を救出する役目を担っていた。
一時期ドラえもんたちへの協力を拒み、言葉からドラえもんの仲間だと認識されていなかった彼だからこそ出来た役目である。
そしてスネ夫は、のび太から言葉が離れたタイミングを見計らって、自分の大きさを元に戻してのび太の縄を切ったのである。
スネ夫たちはボートからの脱出に成功した。
あとはボートの扉を閉めれば……!
素早く扉を閉めるが、中から言葉が腕を出して妨害した。
「うわっ!」
「は、早く扉を!」
だが二人にとって、予想外の事態が起きる。
言葉は扉に体当たりをした。通常ならそんなことでこの扉は破れない。
だが、既に言葉は『がんじょう』を飲んでいた。
だからこそ、鋼鉄の硬さとなった彼女がぶつかったことにより、扉は破られてしまう。
161 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:51:19 ID:h2w
「うわっ!」
「は、離れろ!」
とっさに扉から離れると、ボートの中から現れたのは、
無表情の、言葉だった。
「……交渉決裂ですか」
その発言を受けて、ドラえもんたち五人に緊張が走る。
「みんな、ショックガンを渡すよ」
ドラえもんたちが人数分のショックガンを投げて渡す。
それを見た言葉は、
「……!」
「あっ、桂さん!?」
一目散にその場から逃げ出し、林の中に消えて行った。
162 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:51:55 ID:h2w
「に、逃げたのか?」
「……ショックガンなら、体が硬くても関係ない。『ショックガン』という名前で不利だと判断したんだろう」
ドラえもんはそう推測した後に、のび太たちに言う。
「みんな、僕はあの人を探し出す。みんなはここで固まって待っていてくれ」
「ド、ドラえもん! 一人で行くの!?」
「何回も言うように、あの人は危険だ。なら、僕が先陣を切って……」
「待ってドラえもん」
のび太はドラえもんを制止する。
「タイムテレビを出してほしい」
「え!? 何言ってるの!?」
「いいから! 確かめたいことがある!」
「……わかった。でも僕が見張りにつくよ」
「うん、頼むよ」
ドラえもんがタイムテレビを出し、のび太はそれを操作する。
「……みんな、僕が思うとおりなら、これからつらいものを見るかもしれない」
「どういうことだよ、のび太?」
「僕はこれで、桂さんの過去を確かめる」
「あの人の、過去?」
「……もしかしたら、あの人が人を殺したのはとてもつらいことがあったからなのかもしれない」
そして、タイムテレビに言葉が映し出された。
163 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:54:58 ID:h2w
「こ、こんな、こんなことって……」
「マジかよ、誠さんって、こんな人だったのかよ……」
「これで……あの人はああなったのか」
「……」
言葉の壮絶な過去を見た四人から、それぞれの感想が絞り出される。
誠のだらしない女性関係や、言葉へのいじめ。
さらに、言葉は強姦めいたことまでされていたのだ。
「だからと言って、人を殺していいわけじゃないよ」
見張りをしながら見ていたドラえもんが言う。
「わかっているよ、ドラえもん。でも、皆に知ってほしかった。あの人をただ警察に突き出すだけじゃなく、助けるために」
だからこそ、のび太はこのタイミングでタイムテレビを出させた。
言葉を、救うために。
「あなたは私に同情しているのですか?」
その時、言葉の声が辺りに響いた。
見ると、言葉が『電光丸』をドラえもんに当てている。
164 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:56:48 ID:h2w
「ドラえもん!」
「油断した……! 後ろを警戒していなかった!」
「動かないでください。いくらロボットでも、頭と体が切り離されたら行動できないでしょう?」
その発言に、四人の動きが止まる。
「……桂さん」
「のび太さん、あなたは私に同情しているのですか?」
「わかりません。でもあなたの気持ちはわかります」
「え?」
「僕は、誰もいない世界に行ったことがあります」
誰もいない世界。
のび太はかつて、「どくさいスイッチ」を使い、全世界から自分以外の人間を消したことがある。
最初は喜んでいた彼も、誰もいないという状況に耐えられずに泣き出してしまった。
最終的に元の世界に戻ったが、このことはのび太の心に「人は一人では生きられない」という教訓を残した。
「誰もいない、味方がいない。そのつらさを僕は知っています」
「だからなんですか? あなたには関係な……」
「でもあなたにとって、誠さんはその状況から救い出してくれる唯一の存在だった」
「……」
タイムテレビで見た、言葉の顔。
誠と付き合うことが出来るとわかったときの言葉は、西園寺 世界に深く感謝すると共に、希望に満ちていた。
165 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:58:13 ID:h2w
「だけど、僕は感じました。あなたが誠さんに拘りすぎていることに」
「なんですって?」
「本当に……あの人でなきゃ駄目だったんですか? そして、あの人を責めては駄目だったんですか?」
「いい加減に……!」
「あなたは! ちゃんとあの人を受け入れていたんですか!?」
「……!」
そして、のび太は続ける。
「僕は何度もここにいるみんな、特にドラえもんとはケンカしました。でも、その回数分仲直りしました。
でも、あなたはあんなことをされていたのに誠さんとケンカすることは無かった」
「……」
「あなたは認めなかった。誠さんが彼女がいながら、たくさんの女の子と見境なく仲良くなることを何とも思わない人だと認めなかった」
「……」
「でも僕たちは違う。ここにいる皆をお互いに認めている。いいところも、悪いところも。
時には意見が衝突してケンカすることもあるけれど、その上で認めているんです」
「……だからなんですか?」
「はっきり聞きます」
のび太は、核心をつく。
「あなたは本当に、誠さんが好きだったんですか?」
「……!」
言葉の目が見開かれる。
166 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:59:08 ID:h2w
「あなたは誠さんと付き合っていながら、あの人がどんな人かをまるで見ていなかった。あなたにとって重要なのは、自分の支えになってくれるかどうかだった」
「やめて……」
「僕は誰もいない世界にドラえもんが来てくれた時、嬉しかった。同時に、周りの人の大切さを知った。
そして皆を消した僕が、周りの人をまるで見ていなかったことを知った」
「やめて……」
「僕はみんなが気に入らなかったから、消してしまった。周りの人は、本当は僕を気遣ってくれていたのに僕はそれに気づかなかった。
あなたは……あの時の僕と同じだ」
「やめてよ……」
「自分にとって都合のいい面しか見ない、あの時の僕と同じだ!」
「やめてええええええええ!」
ついに言葉は、その場に崩れ落ちてしまった。
その隙に、ドラえもんが離れる。
「お、おいのび太!」
だがのび太は逆に、言葉に近づいて行った。
「……う、うう」
「あなたは、許されないことをした。それは変えられない、でも……」
そして、のび太は言う。
「あなたの味方はいるはずなんです」
167 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)15:59:56 ID:h2w
のび太は見た。
タイムテレビで、言葉の家族を見た。
言葉の家族は、皆彼女の幸せを願っていた。それが感じられた。
だからこそ、確信を持って言えたのだ。
「それで足りないなら、僕が味方になります!」
「え……?」
「あなたに何があったかを、警察の人にも説明します! それで足りないなら、タイムテレビの映像も見せます!
それで罪が消えることにはならないけど……警察の人もわかってくれるかもしれない」
「……」
のび太の顔を見る言葉の目から、涙が流れ出していた。
そして同時に、光も宿っていた。
「だから……自首してください」
そしてのび太は、言葉に頭を下げた。
168 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)16:00:42 ID:h2w
「……私は」
「桂さん」
ドラえもんも声を掛ける。
「きっとあなたが僕たちの世界に来たのは意味があったんだ。のび太くんが味方になってくれた。
それで、それで足りないなら僕たちも味方になります」
「あ、ああ……」
「そ、そうです! 私もあなたを助けます!」
「お、俺も、こんなことは見過ごせないぜ!」
「僕も……力になります!」
それを受けて言葉は、
「ありがとう……ございます」
ついに『電光丸』から手を離した。
169 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)16:01:27 ID:h2w
翌日。
原巳浜の警察署の前に言葉はいた。
「これで、お別れですね」
言葉は自首する意思を固めていた。彼女自身で決めたのだ。
自分がしたことに、向き合うことに。
「……僕は、またあなたに会いに行きます」
「たぶん、その時はガラス越しですよ」
「それでも、あなたを助けるって決めたから……」
それに対して、言葉は言った。
「あなたは、あなたたちは既に私を助けてくれました。だから……今度は私があなたたちを助けます。何年後になるかわかりませんが、必ず」
それは、強い意志を感じさせるものだった。
170 :
◆ BEcuACNawuaE :2015/03/29(日)16:03:06 ID:h2w
「それでは、失礼します」
言葉が警察署に入るのを確認した後、のび太たちも離れる。
「ドラえもん、これから桂さんはどうなるかな?」
「……たぶん、つらい人生になるだろうね。でもさ」
そしてドラえもんは言った。
「味方がいることがどんなに心強いか、僕たちは知っているだろう?」
ドラえもんの発言に、口には出さなかったが全員が心から同意した。
完
171 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/29(日)16:08:45 ID:3Wo
乙!
終着点が見えなさそうなクロスだったのによくここまでまとめたなあ
175 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/29(日)16:43:57 ID:c3n
乙
しかし何か分からないがとてつもないものを忘れてる感
179 :
名無しさん@おーぷん :2015/03/29(日)17:48:42 ID:ByG
かなり良かった
転載元
ドラえもん「やられた……! のび太くんが桂 言葉に攫われた!」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1427014163/ ショウワノート (2015-03-20)
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