1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:05:35.70 ID:rtM+vd2WO
この世界には大きく分けて二つの種がある。
一つは人間、魔物と呼ばれる化け物に怖れながら暮らす弱い種だ。
まあ中には化け物より強い奴、化け物を狩って生きてる奴もいる。
魔法なんていう奇っ怪なものを扱う奴もいるが、それもまあ少数だ。
もう一つの種は魔族、こっちは魔物なんかよりもずっと凶悪だ。
生まれながらに魔法を使える奴なんてざらにいるし、素手で岩を砕くくらいわけない。
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1417093535
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:08:14.35 ID:rtM+vd2WO
まず人間なんかが太刀打ち出来る奴らじゃないだろうな。
勿論、言葉も話せれば人間とさほど風貌が変わらない奴もいる。
中身はまったく違うけどな。
俺は前者、弱い弱い人間だ。
化け物と戦える強さもなければ、魔法なんて使えやしない。
ただの人間、人間の中の人間さ。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:09:16.28 ID:rtM+vd2WO
それとあちらさん、魔族にも国や政治があって、魔王と呼ばれる王様もいる。
そこら辺は人間と変わりない、違うのは強い奴が偉いってことだ。
そんで、今現在の魔王。
一番強くて頭の切れる奴が人間と和平を結んでくれたお陰で、世界は平和だ。
もう魔族に怯えて暮らすこともなくなったわけだ。
和平が結ばれて随分経って、今じゃ魔族領に住む人間もいる。
俺もその一人だ。
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:11:16.98 ID:rtM+vd2WO
ああ、両親と兄弟は人間領で暮らしてる。
俺が魔族領に行くと決めた時、そりゃあ反対されたけど事情が事情だったんだ。
あまり裕福じゃないし、弟は体が弱いしで、色々と大変で金が必要だった。
そんな時、人間領に来ていた魔族の姫様に気に入られ、私の家で働かないかと誘われたわけだ。
庭仕事や掃除、メイドみたいなもんだったが給料がかなり良かった。
俺はすぐに反発する両親を説得して、姫様の屋敷で働くことにした。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 22:12:22.95 ID:rtM+vd2WO
うまい話しには裏がある。
そんな馬鹿でも知ってる言葉を忘れて、目の前の餌に飛び付いた。
これが俺の人生で最初で最後の大失敗だった。
庭仕事も掃除もすることはなかったが、金はきちんと故郷に送られている。
じゃあどうやって金を得ているかって、それは……
「あなたの瞳は本当に綺麗ね」
6 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 22:13:23.35 ID:rtM+vd2WO
目玉を舐められた。くそっ、相変わらず気色悪い。
声に出して言いたいが声は出ない、俺は、この女に声を奪われた。
だから魚みたいに口をぱくぱくさせるだけ、間抜けなもんだ。
どうやって金を得ているかだったな、簡単な話し、この女の玩具になることだ。
言っておくが好んで玩具になったわけじゃない、玩具にさせられたんだ。
玩具って言っても特殊な玩具だ。
皮膚灼かれたり剥がされたり、鞭で叩かれたり爪剥がされたり、肉削られたり。
まあ色々やられた。
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:14:05.19 ID:rtM+vd2WO
どうもこの鬼姫って女は、痛めつけるのが大好きな変態らしい。
本当の意味で、毎日が苦痛だった。
苦痛なんてもんじゃない、激痛だな。
傷付けておいて魔法で治すってんだから余計に質が悪い。
死にたくても死ねないんだからな。
舌を噛み切ろうとしても出来ないようにされちまったんだ。
魔法、まったく忌々しい力だ。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 22:14:56.76 ID:rtM+vd2WO
「その目で見つめられると、ぞくぞくするの」
睨んでんだよ、変態女。
小さい頃から気にしてた目つきの悪さを褒めてくれたのが、この変態女だ。
この女の何も知らなかった頃は、それはそれは嬉しかった。
何しろ綺麗だし肌は真っ白、腕なんか凄く細くて、守ってやりたくなった。
こんなにも美しい女性がこの世にいるのかと思ったもんさ。
「わたし、男と二人きりになるなんてないのよ。あなただけ…んっ」
耳の中に舌を入れるな、そんなこと言われても全然嬉しくないんだよ。
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:15:28.95 ID:rtM+vd2WO
絶世の美女が、今じゃただの変態女だ。
男ってのは、本当に単純で馬鹿な生き物だよなぁ。
自分の馬鹿さ加減、愚かさが情けなさすぎて涙が出る。
阿呆だよ、阿呆。
「あなたは、わたしの物。あなたがいれば何も要らない」
だったら真っ当な愛情表現をしろ、舐めるな噛むな、服を着ろ変態。
くそっ、また始まった。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 22:16:20.21 ID:rtM+vd2WO
何をされても欲情なんかしないのに、魔法一つでこのざまだ。
「あなたを愛してる。さあ、ちょうだい」
狂ってる。
痛めつけて、傷付けて、愛してるって囁いて、肌を重ねる。
いくら口汚く罵っても、この女のには聞こえない。
肌も爛れて髪は焼かれて頭皮は丸出し、一見すれば死体みたいな様だ。
こんな姿にしておいて愛してるだと、気狂いの変態め、さっさと死んじまえ。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 22:17:14.47 ID:rtM+vd2WO
「んっ…そうよ、その目がたまらないの」
よがってんじゃねえ、さっさと終わろ。
俺は何もしない、ぶん殴ったって悦ぶだけだからな。
「あっ…出てる……んっ…」
出てるんじゃなくて『出させた』んだろうが。
俺はあちこち痛くてそれどころじゃないんだよ。
さっさとどけ、こら。
「あっ…もう少し余韻に浸らせてくれてもいいじゃない。いじわるね」
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 22:19:01.74 ID:rtM+vd2WO
黙れ屑、終わったんならさっさと出て行け。
大体、そんな風に頬を膨らませて拗ねたって全然可愛くないんだよ。
寧ろそんな風に出来る精神がおぞましい。
「こんなに愛しているのに、あなたはいつになったら愛しくれるの」
死ぬまで、いや死んでも有り得ない。
お前を愛する、そうなったら俺もいよいよ終わりだよ。
いや、もう終わってるようなもんか。
「まあいいわ、また来るから。ふふっ、またね」
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:24:54.15 ID:rtM+vd2WO
ーーーー
ーーー
ー
鬼姫が出て行って痛みが収まった。
これも魔法。
自分がいない間は痛みをなくし、此処へ来たら痛みを与える。
痛みに慣れさせない為の手段だ。
魔法ってやつは本当に便利だよな。
強い者には優しくて、弱い者にはやたら厳しい。
それが俺の魔法に対するイメージ。
俺がもし魔法を一つだけ使えるのなら……そうだな。
あの変態鬼姫を殺す魔法で、今すぐに殺してやりたい。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 22:32:18.06 ID:rtM+vd2WO
首絞めても悦ぶし、馬乗りになって殴っても悦ぶ。
人間なら死ぬほどの痛みでも、あの女には快楽にすぎない。
だから、俺は何もしない。
わざわざ悦ばせたくもないからだ。
たがその抵抗すら鬼姫には快楽だ。
俺が拳を握り締めて堪える様が、鬼姫にはたまらないらしい。
何をしても、何もしなくても、鬼姫に悦楽を与える。
結論、俺は弄ばれていずれ気が狂って死ぬ。
そりゃあ一矢報いたいとは思う。
でも相手は魔族、その見込みはない。
これが現実、抗いようのない現実なんだ。
人間の俺には、鬼姫に傷一つ付ける手段もない。
18 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 23:18:57.16 ID:ze7FqhX0O
※※※※※
嗚呼、退屈だわ。
彼との時間が唯一の時、幸せなひととき。
今日も彼は変わらなかった。
本当に愉しかった。んっ、まだ奥が熱い。
でも、今は退屈。
父が魔王に尽くした。
だから、わたしは裕福な暮らしを約束されている。
魔族領の内乱を『力』で抑えたのは、わたしの父。
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 23:20:03.20 ID:ze7FqhX0O
現魔王の思想に共感して、戦いに身を投じ命を落とした愚かな父。
哀れよね。
自分の為に力を使えば良かったものを、誰かの為に使うなんて。
どんなに賞賛されようと、利用されたことに変わりはないのに……
まあいいわ。
わたしはそうならない、わたしの力はわたしの力。
誰の為でもない、わたしだけの力。
蹂躙、支配、終わりない争い。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 23:21:26.12 ID:ze7FqhX0O
それが魔族のあるべき姿なのに、人間と和平を結ぶなんて有り得ない。
弱者は滅び、強者が生きる。
弱者を踏んで強者が立つ、それが世界のあるべき姿。
だから今日、わたしは魔王を殺す。
わたしより弱い者が上に立つのが気に入らない。
わたしより弱い者が世界を回すのが気に入らない。
だったら好きにする。
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/27(木) 23:22:50.88 ID:ze7FqhX0O
わたしの好きなように壊して壊して、終わらない争いを始める。
平和呆けした魔族の目を覚ましてあげる。
暇潰しに過ぎないのだけれど、それはそれで面白そうよね。
嗚呼、早く彼に会いたい。彼の瞳が見たい。
あの瞳、あたしを憎む瞳。
どれだけ痛みを与えても、甘い快楽を与えても消えない憎悪。
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/27(木) 23:26:02.78 ID:ze7FqhX0O
あの瞳が、たまらない。
だからこそ精一杯『愛して』あげたい。
思い出すたび、身震いする。
奥が疼く。
「どうなさいました」
彼の声を与えた部下が言う。
これでわたしは彼の声を忘れずに済む。
「なんでもないわ」
「そろそろ到着するようです、もう少しの辛抱です」
彼の声がすぐ側にある、心が昂ぶる。
あんまり喚くものだから、声を奪って部下に与えた。
これは駄目ね、ますます彼に会いたくなってしまう。
愚かな魔王様、早くこないかしら。
身体が疼いて仕方がないの、だから早く殺させてくださいな。
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 00:17:27.27 ID:PZJelxKhO
ーーーー
ーーー
ー
「鬼姫、何故だ」
そんなの決まっているじゃない。
退屈だからよ。
何の争いもなく人間とと和平を結ぶなんて、わたしには堪えられない。
魔族は強くあるべきなの、平和とは無縁の、争い続ける存在なのよ。
魔王様、あなたが捧げた数百年の安寧は、わたしの気紛れで消える。
力あるべき者が統べる、それが生来魔族の持つ性。
26 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 00:19:27.54 ID:PZJelxKhO
弱者には目もくれず争い続ける日々、戦いに明け暮れる日々。
それが魔族。
それが強者。
彼以外の塵芥なんて消してしまえばいい。
彼以外の人間なんて、わたしには要らない。
「力に狂ったか、鬼姫」
27 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 00:24:19.84 ID:PZJelxKhO
いいえ、わたしは自分の力を示しただけ。
供も置かずに此処に来たあなたの失態。
あなたの信じた父に恩義を示す為にお一人で来たのだろうけど、本当にお馬鹿さんね。
未だ争いを望む者がいることを知らなかったのだから。
魔族を忘れた魔王様、さようなら。
さあ、死になさい。
「がっ…」
わたしはこの後、とっても後悔することになる。
たった一つの偶然が、わたしの手から彼を奪った。
とっても寂しくて切ないわ。
けれど、それはそれで楽しみだわ。
だって、彼がわたしを求めてるのが分かるんだもの。
彼がわたしの命を欲しがっているのが、よく分かる。
彼の魔力、彼の想いが、全てわたしに向けられているんだもの……
30 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 11:26:45.57 ID:8UEytP15O
※※※※※
魔法について色々と試してみた。
攻撃魔法は敵意や憎悪、治癒魔法は優しさや愛って感じらしい。
他にも幻を見せたり出来るみたいだ。
試してみた結果、一つだけ分かった。
俺には攻撃魔法しか使えない、まったく随分尖った能力だ。
それと、愛とか優しさなんてものが俺には残ってない証拠でもある。
31 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 11:28:29.12 ID:8UEytP15O
でも変態鬼姫は治癒魔法を使える。
ってことは、奴が愛を持ってるってことだ。
どうやら変質的、変態的、倒錯した愛でも『愛』の内に入るみたいだな。
線引きが曖昧で腹が立つ。
あんな奴が、人を痛めつけるのが趣味の変態が治癒魔法を使える。
なのに、やられた側の俺には使えない。
ふざけやがって、魔法ってのは本当に優しくないやつだ。
32 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 11:32:06.43 ID:8UEytP15O
体中が痛くて眠れやしない、いつも鬼姫を殺す術を考えてる。
本当に眠りたい時は、自分に催眠魔法をかけて強制的に眠ってる。
ただでさえ頭がおかしくなりそうなのに、睡眠ってのは大事なんだな。
鬼姫が俺から睡眠を奪わなかった理由がよく分かる。
簡単に狂ってしまわないように、睡眠をとらせたんだろう。
その『優しさ』すら、愛と捉えられるんだから余計に腹が立つ。
33 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 11:36:38.47 ID:8UEytP15O
鬼姫はこの手で殺す、止めてくれとか言われたが知らん。
たとえ首だけになっても、喉笛噛み千切って殺してやる。
でもまだだ、まだ使えてない。
鬼姫を殺す方法を見つけるまでは、この山からは下りない。
大砲をぶっ放したみたいな派手な音が聞こえる、また壊されてんだろうな。
魔族、魔力、魔法、魔物……
力が法になる世界だ……
34 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 12:13:46.20 ID:8UEytP15O
ーーあの日、俺が魔力を手に入れてから何日経っただろう。
鬼姫の屋敷が何度も揺れて、地下にまで衝撃が伝わってきた。
あれが一対一の戦いが放つ衝撃だと知ったのは、それからすぐだった。
「魔族かと思ったが、人間だったか」
こんな形だからな、そう思われても仕方ない。
っていうか誰だよ、この爺さん。
35 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 12:14:40.54 ID:8UEytP15O
びっくりして叫んだが、やっぱり声は出ない。
見てくれは貴族っぽいけど、手酷くやられたのかぼろぼろだ。
「声を奪われたか、余程鬼姫が憎いと見える」
何だこの爺さん、魔族には違いないだろうが、変な感じだ。
確かに鬼姫は憎いが、それをどこから知った。
「その憎悪が、お前を魔族と勘違いさせた原因か。魔力と似ているな」
36 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 12:15:31.81 ID:8UEytP15O
まさか俺か、俺の心と記憶を読んだのか。
魔族ってのは、平気でそういうことするんだな。
鬼姫ですらそんな真似しないってのによ。
「済まないな、私には時間がないのだ。鬼姫を倒す力を与えよう」
何言ってんだ、あんたは誰だ。
おい、答えろ。
鬼姫を倒すって、どういう……
そこからは、あまり記憶がない。
37 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 12:16:36.13 ID:8UEytP15O
体中の血管が沸騰したみたいに熱くなって、転げ回った。
頭は割れるほど痛いし、心臓は何度も爆発した。
そんな俺に、名の知らない爺さんが言った。
「私は魔王、どうか鬼姫を止めてくれ」
知るか阿呆、何度も喚き散らしたが、やっぱり声は出ない。
喉元からどろりとした何かがせり上がってくる、かなり気持ち悪い。
また爺さんを見ると消えていて、着ていた服だけが落ちている。
死んだのだと、何となく思った。
38 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 12:17:57.48 ID:8UEytP15O
それから気を失って、目が覚めると俺は素っ裸で山の中にいた。
辺りは魔物だらけだった。
俺は混乱して、無我夢中で逃げた。
でも結局追い付かれて喰われそうになった時、頭に過ぎった。
何で俺がこんな目に、俺が何をしたって言うんだ。
ふざけんな、鬼姫も魔物も魔族も死んじまえ。
俺と同じ痛みを与えてやる。
呪ってやる。
[ピーーー]。
どいつもこいつも死んじまえばいいんだ。
39 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 12:18:27.23 ID:8UEytP15O
それから気を失って、目が覚めると俺は素っ裸で山の中にいた。
辺りは魔物だらけだった。
俺は混乱して、無我夢中で逃げた。
でも結局追い付かれて喰われそうになった時、頭に過ぎった。
何で俺がこんな目に、俺が何をしたって言うんだ。
ふざけんな、鬼姫も魔物も魔族も死んじまえ。
俺と同じ痛みを与えてやる。
呪ってやる。
死ね。
どいつもこいつも死んじまえばいいんだ。
40 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 12:21:47.32 ID:8UEytP15O
覚悟していた痛みなく、俺は喰われなかった。
大口開いて噛みつこうとしていた魔物は、
皮膚を剥がされ焼け爛れて死んでいた。
理解するのに時間はかからなかった。
魔力、魔法だ。
手も触れず、念じるだけで殺す手段なんて『それ』しかない。
俺と同じ姿になった魔物を見下ろしながら、理解した。
俺が、これをやったんだ。
そして、理解した瞬間に誓ったんだ。
この力を使って鬼姫を殺す。
41 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 12:44:41.92 ID:FgdXl3WTo
催眠は使えるのか
42 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:50:12.54 ID:FByefXTyO
※※※※※
あれから、彼がわたしの手を離れてから数ヶ月経った。
魔王を殺したのが知れると、魔王傘下の魔族が大挙として現れた。
あの軍勢を前にした時はほんの少しだけ興奮したけれど、彼には及ばない。
殺しても殺しても、血を浴びて真っ赤になっても……
最後の一人の懇願する顔を見ても……
魔王の城の天守に立っても……
結局何をしても、わたしは満たされなかった。
43 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:51:16.10 ID:FByefXTyO
あの時、わたしの屋敷の前に出来た血の流れ。
赤い川は少しだけ綺麗だった。
名のある魔族も、あの川を作る一部でしかない。
彼の血の一滴にも劣るけれど、夕陽も相まって素敵な景色だった。
最近はめっきり来なくなって、わたしから出向いて殺しに行く。
わたしは確かに強いけれど、『魔族』ってこんなに弱かったのかしら。
泣き喚いて助けを請う姿は醜かったらない。
44 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:52:21.44 ID:FByefXTyO
あの時、わたしの屋敷の前に出来た血の流れ。
赤い川は少しだけ綺麗だった。
名のある魔族も、あの川を作る一部でしかない。
彼の血の一滴にも劣るけれど、夕陽も相まって素敵な景色だった。
最近はめっきり来なくなって、わたしから出掛けて殺しに行く。
わたしは確かに強いけれど、『魔族』ってこんなに弱かったのかしら。
泣き喚いて助けを請う姿は醜いったらない。
45 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:53:48.07 ID:FByefXTyO
そんな無様な姿も、彼なら様になるのかしら。
いえ、彼なら助けてなんて言わない。
きっとあの瞳であたしを睨みつけて、首に手を掛けるに違いない。
彼が人間としてでなく、魔族として生まれていたら……
あら、素敵だけれど想像出来ないわね。
「鬼姫様、もうじき到着するようです」
46 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:54:24.12 ID:FByefXTyO
突然の彼の声に胸が高鳴る。
声の主が部下であることは分かっていても、鼓動が早くなる。
でも、それも長くは続かない。
今日は久しぶりにわたしを殺しに来た者と戦わなくてはならない。
それも魔族ではなく『人間』
彼以外の男、彼以外の人間。
屑、塵芥。
47 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:55:55.11 ID:FByefXTyO
「俺が始末します。鬼姫様が出る必要はありません」
彼の声で話すにあたって、彼と同じように話すよう命令した。
その方が、耳心地が良い。
まだぎこちないけれど、彼女は良くやってくれている。
わたしを、楽しませる為に。
「いいえ、遠路はるばる来てくれたんだもの、わたしが出ないと失礼だわ」
戦いを挑むからには、それなりの勝算があるのだろう。
でなければ一人でわたしに挑むなんて有り得ないもの。
48 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 13:58:24.27 ID:FByefXTyO
魔王傘下の魔族の残党と手を組んで、苦労して苦労してここまで来たんだもの。
人間からは『勇者』などと呼ばれているらしいと部下から聞いた。
挙げ句、魔族でさえ勇者なんて屑に頼る始末。
魔族としての誇りもないのかしら。
希望の象徴で平和をもたらす者……
そんな感じだったかしら。
本当に馬鹿馬鹿しい。
人間を滅ぼすのはもう何年か後にする予定だったのに……
と言うより、彼と会うまでの暇潰しとして残しておくつもりだった。
49 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:00:29.79 ID:FByefXTyO
「鬼姫様、そろそろ」
「ええ、行ってくるわ」
荒れ地に立つ屑を見て、わたしは天守から飛び降りた。
すると、背後から彼の声。
「俺が来るまで死ぬなよ、鬼姫」
戦いに赴く度に言わせている台詞。
他はぎこちない部下も、これだけはさらりと言えるようになった。
わたしはふわりと浮いて、振り向かぬまま微笑する。
彼の姿を思い浮かべながら緩やかに落下する。
目を閉じて、愛を囁く。
「わたしは死なないわ。あなたに会う、その時まで……」
52 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:49:26.11 ID:0tQ0L1+5O
ーーーー
ーーー
ー
そんな小さな喜びも、屑によって消されてしまった。
優しげな眼差し。
その奥には、自分が特別な存在だという自負が見える。
自負じゃないわね、ただ傲慢なだけ。
勇者なんて呼ばれて、その名に酔っているのかしら。
哀れだけれど、本人に自覚はないのよね。
世界を救うなんて言って、人々の為に奔走して……馬鹿みたい。
53 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:51:24.07 ID:0tQ0L1+5O
自分の本質も見えない、こんなちっぽけな存在が、勇者。
少しでも興味深いと思ったのは、やはり間違いだったみたい。
落胆と怒り。
「さ、早く済ませましょう」
「いいだろう」
此処まで来てつまらない真似をしたのなら、どうしてやろうかしら。
あら、何かしら。何かがくる。
54 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:52:57.59 ID:0tQ0L1+5O
魔力、人間の許容量を超える魔力が収束してる。
いえ、あれは魔力じゃない。
なるほど、人々の『希望』とは良く言ったものね。
何千万のそれが、屑に力を与えている正体。
まったく下らない。
そんなものに頼らなければ戦えないなんて、愚かだわ。
「まどろっこしいのは嫌いなの、早くぶつけなさい」
「人々の願いを喰らえ、鬼姫」
55 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:54:58.51 ID:0tQ0L1+5O
屑がわたしの名を呼んだ。
彼以外の声がわたしの名を呼んだ。
渾身の力で放たれた希望を消し去り、わたしは屑の腕を触れずに千切った。
「何故、何故だ。何故通じない」
うるさいわね。
確かに発想は面白いけれど、その程度でわたしを殺せると思っていたのかしら。
救いようのない生き物ね。
56 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:56:44.53 ID:0tQ0L1+5O
希望なんてものより、確かに存在しているものが勝っただけよ。
何千万の人間が命を捧げたのなら、わたしを倒せたかもしれないわね。
「なら、一体どうやって」
「愛よ。何千万の希望より、たった一人の男への愛」
「そんな馬鹿なこッーーー」
もう訊きたくないないから、わたしは首を刎ねた。
人間って、わたしを苛立たせるのが上手いのね。
57 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 14:59:02.95 ID:0tQ0L1+5O
でも、少し嬉しいわ。
何千万の者が託した『希望』
それを、わたしの『愛』が砕いたのだから。
わたしがどれだけ彼を愛しているのかが分かったんだもの。
「あら、珍しい」
少しうっとりとしていて、視線に気付かなかった。
遠方に狼が見えた。
もしかしたら、ずっと見ていたのかしら。
あの刺すような瞳、彼に似ているわね。
近付こうとした時、わたしの魔力を察知したのか、狼は消えた。
58 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 16:21:05.79 ID:P+i+BflsO
※※※※※
勇者だったか、随分呆気ないな。
まあ『人間』ならあんなもんだろうさ。
でもなるほど、あんな魔力の使い方もあるわけか。
でもあれじゃあ弱いな、もっと確実に『鬼姫』を殺す方法があるはずだ。
くそっ、憎いと思いながら鬼姫のことばかりを考えてる。
例え魔法でも、この憎しみは消せないだろうな。
大体、何が愛だ。
59 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 16:22:09.23 ID:P+i+BflsO
変態嗜好の気狂い女の愛なんて、肥溜めの中の死体みたいなもんだ。
あの女の愛を形にしたら、とんでもないことになるんだろうな。
……気持ち悪い。
まあいい、狼を通して見たあれは参考になった。
問題はどうやって改良応用するかだ。
魔力を集めてぶつける、それは通じない。
そもそも、受け継いだ魔王の力は鬼姫に劣るわけだしな。
60 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 16:23:47.31 ID:P+i+BflsO
いや待て、確か魔王は俺を魔族と勘違いしていた。
ーー憎悪は魔力に似ている。
そうだ、確かにそう言っていた。
いや、ただの憎悪じゃない。
俺が持つのは『鬼姫への憎悪』だ。
それは俺の核、力の根源。
殺したい、痛みを与えたい、消えない傷、絶対の死……
あの女を、滅ぼしたい。
61 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 16:30:59.51 ID:P+i+BflsO
魔力だけじゃあそれには届かない。
もっと別の、俺そのもの、鬼姫……
そうか、これなら殺せる。
これは俺にしか出来ず、鬼姫しか殺せない『魔法』だ。
鬼姫に対してだけ、必ず成功する。
狼も無事に帰ってきたし、そろそろ行くこう。
ぼろ切れ羽織った死体が、狼の背に跨がって山を下りる。
そういやこの前、魔族に協力頼まれたっけ、断ったけど。
俺を屍の王なんて言いやがって、俺は人間だってんだよ。
俺は誰かの為に戦うわけじゃない、俺の為に戦う。
誰かを救う為でもない、ただ鬼姫を殺す為に戦う。
だからこそ、鬼姫を殺せる。
63 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:10:56.44 ID:cwQBurR+O
ーーーー
ーーー
ー
まだ城が見えないってのに、血と腐った肉の臭いがする。
俺同様、狼も顔を顰めてる。
でもまあ、随分と慣れたもんだ。
環境に適応する力ってのも中々馬鹿に出来ないな。
ちゃんと人間やってた頃なら、間違いなく吐いてただろう。
今や声がなくても会話出来るし、魔物なんて虫けらみたいに殺せる。
以前なら怖くて怖くて仕方がなかった化け物を、一瞬で殺せる。
64 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:13:27.45 ID:cwQBurR+O
力を得て、試して、殺した。
どこまで出来るのか、想像出来る範囲外のことすら可能になった。
今なら鬼姫の居場所まで転移出来るだろう。
それなのにわざわざ狼に跨がって移動するのには訳がある。
きっと考える時間が欲しくて、そして、悩みたかったんだろうと思う。
65 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:14:43.09 ID:cwQBurR+O
鬼姫と出逢って、魔族領に来た。
度重なる拷問と性交。
鬼姫に人生を狂わされ、死体みたいな姿にされた。
そう、人生……人生だ。
俺はもう、人としては生きられない。
きっと人だと認めてもらえないだろう。
そんで、爺さんに魔力を貰った。
今じゃあ、屍の王なんて呼ばれてる……
66 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:15:31.58 ID:cwQBurR+O
あの魔族が言っていたように、最早俺も魔族なんだろうか。
お供に狼、他に仲間はなく、肉を剥き出しにした醜い姿。
魔王の如き魔力を持ち、数多の魔物を葬る怪物。
屍を生む屍、屍に立つ屍。
それが、魔族から見た俺らしい。
俺は身を守ってただけだってのに、酷い言われようだ。
確かに魔法を試したし、魔物を殺して喰ったりもした。
67 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:16:39.19 ID:cwQBurR+O
あの『魔族』が、化け物を見るような目で俺を見た。
醜いと、得体の知れない魔だと、おぞましいと思ったのだろう。
まあいいさ、何とでも思うがいい。
全ては生きる為にしたことだ。
大体、今更魔族と協力して、仲良しこよしで鬼姫を倒そう。
そんな風には絶対思えないからな。
どいつもこいつも信用出来ない、信用出来るのは狼だけだ。
醜い化け物と昼夜を共に過ごし、夜は俺を包んでくれた。
68 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:20:41.60 ID:cwQBurR+O
魔法で懐かせたわけじゃない。
この狼は、自ら俺といることを望んでくれた。
人間、魔族。
果ては世界がどうなろうが、俺にはもう、どうでもいい。
ただ一つだけ、許せない存在がいる。
ほら、見えてきた。
魔族であり、化け物の頂点、鬼姫様だ。
あの女、人間の俺と初めて出逢った時と同じ着物を着てやがる。
69 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 19:23:05.55 ID:cwQBurR+O
当然、それを分かってて着てるんだろうな。
俺は出逢った時の姿には戻れないってのに、あの糞女。
狼、お前はもう戻れ。
分かるだろ、お前はこんな所にいては駄目だ。
此処には、俺と鬼姫だけでいいんだ。
ほら、もう行け。よし良い子だ。
今まで、ありがとう。
「お帰りなさい、お別れは済んだのかしら」
70 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:24:56.77 ID:cwQBurR+O
ああ、終わったよ。
もう此処には、俺とお前の二人だけだ。
「ええ、二人きり。わたし、この時をずっと待っていたのよ」
そうかい、それはそれは有り難いな。
お前がいつ山に来るものかと、不安に思ったこともあったんだ。
俺がお前を殺せるようになるまで待ってくれて、本当に良かった。
「あら、てっきりわたしが恋しくて戻って来てくれたと思ったのに」
71 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:26:59.67 ID:cwQBurR+O
ふざけるなよ変態女。
今じゃあお前が笑う度に殺したくて仕方ないんだよ。
美しさなんてもんは、一切感じない。
気持ち悪いんだよ、犬畜生にも劣る屑が。
「酷いわね、こんなに愛しているのに」
ーーなるほど、お前は本当に救いようのない変態だな。
その着物、俺の皮膚で造ったのか。
どこか違うとは思ったが、よくそんなもん想像出来るな。
「だって、あなたを傍に感じられるんだもの」
72 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:29:50.05 ID:cwQBurR+O
長い黒髪を震わせ、頬を赤らめながら己の女を弄る。
抜いた指はてらてらと光っていて、糸を引いた。
変わってない。
いや、あいつは生まれながらに『そう』だったのかもしれない。
まあいい、俺は終わらせに来た。
愛する男の皮膚で着物を作る変態、俺をこんな姿にした張本人。
俺はお前を滅ぼす為に此処へ来た。
「なら、声を返すわ。悲しいけれど意志は固いようだし。最期、なのよね」
「……ああ、最期だ。俺はお前を殺す」
長い間使ってなかった為に上手く声が出なかったが、何とか口にした。
眼前に立つ鬼姫は、心底嬉しそうな顔で、笑っている。
73 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:35:30.38 ID:cwQBurR+O
事実、嬉しいんだろう。
自分の趣味嗜好、歪んだ愛情を、鬼姫は否定しない。
あれは、そういう女だ。
「さあ、ちょうだい。あなたの全てを、魅せて」
俺は俺に集中した。
力の根源に潜って、俺と繋げた。
俺そのもの、肉ではなく、精神。
俺を俺たらしめる物。
ごく簡単に言えば、命ってやつだ。
鬼姫を『想う』憎悪は、どこの誰にも負けやしない。
想いと命を繋いで、俺自身が、魔法になる。
そして、言うんだ。まだ保っていられる内に……
鬼姫にしか通用しない、魔法の言葉を……
74 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 19:36:21.07 ID:cwQBurR+O
「さあ鬼姫、俺のー想いーを、受け取ってくれ」
75 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 19:37:38.70 ID:cwQBurR+O
おわり
76 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 19:42:05.02 ID:cwQBurR+O
読んでくれた人、ありがとう
77 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 20:06:47.05 ID:/dAqDFlJO
これは以前書いた
鬼姫「早く来ないかしら」ってSSを書き直したものです。
一応書いておきます。
78 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 20:49:41.92 ID:A4MrdB+tO
※※※※※
そんなこと言われたら、受け入れるしかないじゃない。
あなたは、わたしだけの物なのだから。
だからわたしは、あなたの全てを受け入れてみせるわ。
そもそも、あなたのいない世界に未練はないのだから。
嗚呼、入ってくる。
あなたの叫び、呪い、憎悪、侮蔑、殺意。
この全てが、わたしに向けられているものなのね。
なんて、なんて素敵な贈り物なのかしら。
79 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 21:10:11.09 ID:A4MrdB+tO
あなたの皮膚、肉、髪、爪、歯……
そのどれよりも美しくて、刺激的な贈り物。
これが、あなたの『想い』なのね。
出来るのなら、ずっとずっと一緒にいたかった。
だけれど、こんなものを貰ってしまったら諦めるしかなさそうね。
もう一度、あなたの瞳を見たいけれど、それも無理みたい。
だって、わたしは満足してしまったから……
80 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 21:16:35.69 ID:A4MrdB+tO
だからもう、どうなってもいい。
あなたとなら消えたって構わない。
もうあんな窮屈で退屈な世界にいる必要はないのよね。
とっても気分が良いわ。
でもね、一つだけ内緒にしていることがあるの。
大事なことよ、だからよく聞いて。
いいえ大丈夫、とってもとっても幸せなことよ。
わたしとあなたは消えてしまうけれど、繋がりは消えないの。
もう遠くなってしまったあの世界に、それを残してきたわ。
ちょっと寂しいでしょうけど、仕方ないわよね。
だって子供は、いずれ親から離れなければならないもの。
81 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2014/11/28(金) 21:22:42.90 ID:A4MrdB+tO
ただそれが早まっただけのこと。
あの子には悪いけど、わたしはわたしの幸せの為に生きる。
出来るのなら、あの子にもそうあって欲しいものだわ。
いえ、きっとなれる。
だって、わたしとあなたの子なのだから。
ふふっ、分かってくれたかしら……
しかばねの王様とオニのお姫様
二人はいつまでも変わらない……
二人は決して離れない……
二人はずっと一緒にいる……
肉体が消えてしまっても
魂が消えてしまっても
二人は、ずっとずっと……
82 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 21:23:57.42 ID:A4MrdB+tO
おわり
83 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 21:26:41.80 ID:A4MrdB+tO
鬼姫視点書いてたら途中で消えて焦った。
これで書き残しはないので、本当に終わりです。
ありがとうございました
84 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 21:35:26.44 ID:A4MrdB+tO
蛇足かもしれないし後味悪いかもしれないけど。
85 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 22:58:30.22 ID:f7MWSzsWO
ちょっと番外編
86 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 22:59:49.30 ID:f7MWSzsWO
※※※※※
「これが、屍王と鬼姫様の物語です。どうでしたか、屍姫様」
少女は目を閉じて、両親の愛の形に想いを馳せる。
母は身勝手で我が儘。
父はそんな母を憎み、自分諸共消し去った。
両親がいないのは寂しいが、物語りはとても美しく思えた。
倒錯した女の愛と、愛された男の憎しみ。
母はその憎しみすら受け入れて、父を愛したのだ。
少女は母の想いが理解出来た。
そして、父が如何に魅力的だったのかも理解した。
87 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 23:01:27.09 ID:f7MWSzsWO
わたしにも、そんな男が現れるのだろうか?
そんな素敵な出逢いがあるのだろうか?
少女は一時悩んだが、振り払った。
母に出来て、自分に出来ないわけがないと振り切った。
なぜなら、少女にはそれだけの力がある。
我が儘に、強者として生きられる。
嘗て母がそうであったように……
弱者の上に立ち、全てを思うがままにしてみせる。
少女は物語りを聞くたび、そう決意する。
88 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 23:02:46.37 ID:f7MWSzsWO
「わたしも、父のような人と出逢えるかしら」
「勿論、屍姫様がそう望むのなら」
少女は父に想いを馳せる。
母のような『女』をどうやって虜にしたのだろうと。
元は人間だったと聞く、それが屍の王と呼ばれる存在にまでなった。
それはそれは、とても素敵な男性なのだろう。
89 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 23:05:13.00 ID:f7MWSzsWO
少女は、父に逢いたくなった。
母しか見たことのない、父の姿が見たかった。
「父様のような人間は、今もいるのかしら?」
「ええ、きっとおられるでしょう」
ならば捜しに行こう。
少女は立ち上がり、ふっと消えた。
己に見合う、たった一人の男を手に入れる為に。
母と父のように……
『理想的』な夫婦になりたいと願いながら。
ーー少女は、母に似ていた。
90 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/28(金) 23:11:28.70 ID:f7MWSzsWO
後は書かないと思う、依頼は出してあるし終わります
私にこんな趣味はありません
91 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2014/11/29(土) 13:07:11.90 ID:OaJsrqNX0
完結乙
転載元
しかばねの王様とオニのお姫様
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417093535/ 黒狐 尾花
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