空条徐倫「ここがッ!765プロ……」 【前編】241 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/18(月) 09:48:25.86 ID:z5ZINl0F0
第10話
『どのアイドルも、最初の営業はファン増加がたった1人だったbyアイマス2』
徐倫と仗助の奇妙な出会いは、その場にいた全員を含めて場が固まった。
最初は目を見開いたのは、仗助と康一だけだったが。
仗助の徐倫に対しての、直後の台詞。
仗助「空条承太郎って…知ってるか?」
その一言。それに徐倫が続けて目を見開いた。
徐倫「どうし……て?何故なの…?何故親父の名前を知ってんの?」
その徐倫の一言で、春香と真、雪歩も口をあける。
終始、億泰だけは、頭にクエスチョンマークを放っていたが……。
それから6人は、共に食事を取ることにした。
主には仗助と徐倫に、他の4人が付き添う形だった。
242 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/18(月) 09:48:55.81 ID:z5ZINl0F0
――フレンチカフェ・「ネアポリス」――
真「ねぇ、雪歩?ネアポリスって確かイタリアだよね?
フレンチってフランス料理だよね??」
雪歩「えっと…うん。そうだよね……」
康一「あ、いやいや。えっと、ここは一応イタリアンみたいなんですよ。
イタリアのシェフがフランスに行って学んだ知恵を生かしたハイブリッドな料理。
みたいですよ?って…雪歩さん?お名前…確かに今そう呼びましたよね?」
真「あっ……」
康一「……やっぱりそうだ!うわぁああ!」
億泰「どうしたんだァ?康一。由花子に初めて会ったときみたいな驚いた声出して?」
康一「いや、えっと。とりあえず僕の妻を突拍子もなく馬鹿にしたことは後で数倍にして返すとして……。
違うんだよ。うすうすそうなのかと思ったんだけどさ!」
億泰「だからなんだってんだよぉ!ハッキリしろよな?」
康一「アイドルだよ!この人たち。億泰くんも765プロっての知ってるでしょ?」
億泰「あー。知ってるぜ?あの、あれだよな。天海春香って子が一番かわいいよな!」
康一「えー。一番好きって言ってるのに気付けなかったの……?」
億泰「はぁ?」
康一「だから、目の前に居るのが、その天海春香さんと萩原雪歩さんと菊地真さんだよ!」
春香「えっと……どーも。あまみはるかです……」
億泰「え?マジィ?」
真「仕事柄、プライベートでは顔を隠す服を着てるからね……へへへ」
雪歩「でも、康一さん…ですよね?私たちの事知っていてくれてうれしいです」
康一「え?いやいや、すっごく有名じゃないですか!
今度もライブあるんでしょ!僕、それ行くんですよ!」
億泰「はあ?聞いてねーぞ?なんで俺を誘ってくれねーんだよ」
康一「え?あ……。違うんだよ。友達にも言わず会社の人とだけの秘密にしてたんだ……」
億泰「なんでだよ!」
康一「えっと……ホラ……怒るから。絶対。その。由花子さんが……」
億泰「あー……」
243 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/18(月) 09:49:23.50 ID:z5ZINl0F0
春香「え?でも、億泰さんは765プロの中で私が一番好きなんですか!?
えへへ……照れちゃうな……」
億泰「でも、実際見てみると、意外とフツーにいそうな女の子だな。春香ちゃんって」
春香「ピキッ……あははは。褒め言葉として受け取っておきます……」
真「え?じゃあ康一さんは誰が一番可愛いと思いますか!?」
雪歩「え、そういうの聞くのやめようよ……。なんか恥ずかしい……」
康一「えー僕?僕はその……お姫様…かな?」
真「姫…?あー。貴音さんか」
康一「なんか、こう。凄く……綺麗な髪だなって……思ってて」
億泰「お前絶対、由花子と付き合って趣味変わったよな」
春香「でも、こうやって私たちの事を知っててもらえるって。やっぱり嬉しいよね!」
真「うんうん!あ、でも。今日の事はどうか内密に……。
アイドルが一般の男性と遊んでるなんて知られたらちょっとした事件になっちゃうんで……」
康一「え?でもだとしたら今この状況がもう不味いんじゃ……」
雪歩「あ、それは大丈夫です。えっと、窓から見えない位置に座りましたし、入口に背を向けるように私たち座ってますんで、もし隠し撮りしようにも。不可能な場所なんで……」
康一「あ、そういえば……。結構皆、そう言うところはしっかりしているんですね……」
億泰「とりあえず腹が減っちまった!飯食べよーぜ!」
真「あ、じゃあ僕はコレ!」
億泰「お!俺もそれ食べたかったんだ!でも、コッチと迷うな……」
真「あ、じゃあ両方頼んで分けましょうよ!」
億泰「おお!ナイスアイディアじゃねぇか!偉いなお前!」
康一「いいなー。アイドルと料理を半分こなんて……」
春香「康一さん康一さん!こ・こ・に・も・いますよ?アイドルぅ!」
康一「(可愛い……///。だがしかし、あざとい……)」
244 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/18(月) 09:49:55.79 ID:z5ZINl0F0
徐倫「凄いわね…皆。もう打ち解けてる」
仗助「まあ、億安も康一も、色々ワケ分かんねー奴と話す事多かったから。
コミュニケーションは得意なんだろーよ。
そっちもアイドルなんだろ?だったらそれこそ得意そうじゃねーか」
徐倫「それもそうね……って。話を戻しましょう。さっきの事。
なんで私の親父を知ってんの?」
仗助「あ?ああ、単刀直入に言うと……いや、言いにくいな。
えっと。徐倫、アンタの父親。承太郎さんの更に父親。の、更に父親。
つまりは徐倫のひいじいさんだな。俺、その人の息子なんだわ」
徐倫「え?ぶっ飛び過ぎじゃない?どんだけ年の離れた兄弟なのよ。
ってことは私のおじいちゃんの兄弟?若いわね?何、吸血鬼?」
仗助「まあ、話せば長いんだけどな。で、とある事情で、承太郎さんが俺達の住む町に調査に来てた事があって……」
徐倫「成程ね、そこで知り合ったって事ね?」
仗助「そう言う事だ。いやーでもビックリだぜ!
承太郎さんから聞く話では、色々アメリカで大変だったみたいだからな!
徐倫がヤベーっつって、あわててアメリカに渡米すんだぜ?
あの承太郎さんがあわあわしてるのは見てて面白かったけどな!」
徐倫「はぁ?そのヤベー事っての、多分例の事でしょうけど。
でも。私あの時親父に会った覚えはないわ」
仗助「は?いやいや。そんなハズはねーだろーがよォ」
徐倫「いや、正確には会ったのかもしれない。ただ、覚えてないのよ。
その、例の事の時の記憶が、ほとんどないの」
仗助「スタンド攻撃でも受けたのか?」
徐倫「スタ……ンド……?なにそれ、日本の流行語?」
仗助「え?あ、いや。承太郎さんの娘なら知ってるハズなんだが。
コイツは予想以上にグレートな重傷なのかもな……。いや、なんでもねーんだ。
気にしないでくれ」
徐倫「変なの。まあいいわ。
で?私に会ってどうしたかったのかしら?」
仗助「いや、別にどうしようってわけじゃねーよ。ただ、承太郎さんの娘さんがどんな人なのか気になってよ。
それにしても、目のあたりとかそっくりだよな」
徐倫「父親に似てるっての、女性に対して褒め言葉とでも思ってるの?
似てるって言わないで。アレと同じだとか反吐が出る。
私が高熱を出そうがママをほっといて日本に居たのよ?多分アンタの所でしょうね?だからってアンタを恨もうとは思わないけど、親父は嫌いだわ」
仗助「そう……か。まあ、俺も父親…ジョースターさんとはイマイチ距離が微妙だったし。
まあ、それでいいんじゃねーのか?」
徐倫「まあ、今は私もママから離れてコッチでアイドルするんだけどね」
245 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/18(月) 09:50:35.06 ID:z5ZINl0F0
仗助「やっぱそうか。横の春香ちゃんとかと同業者か。
でも、なんつーか。なんで?」
徐倫「なんでってなんで?」
仗助「いや、なんで『アイドル』なのかなって。
別に承太郎さんとか血筋とか関係なく、素朴な俺の疑問って奴よォ」
徐倫「色々あるけど、簡単に言ったら。『するべきだと思った』。これだけよ」
仗助「グレートな目をしてやがんだな。気に行ったぜぇ!
徐倫のライブ見に行く。静とかも気に入りそうだしな!」
徐倫「あら、それは嬉しい。でも、もしかしたらアイドル出来ないかもしれないけど」
仗助「はあ?」
徐倫「なんでかしら。あなたになら言ってもいい。そう思えるの。
信頼とか信用とか、そんな言葉じゃあない。なんていいうか、心で感じるの。
貴方になら話したいって」
仗助「何かあんのか?」
徐倫「実は…………。その例の事が、ばらされそうなの」
仗助「え?でもありゃあ冤罪だっつぅ話じゃねーのか?」
徐倫「ええ。でも、そこに入った事実だけで十分よ。
それだけで私のアイドル人生は断たれる」
仗助「でも、なんでそれを……」
徐倫「961プロっていう。私の事務所の765プロに敵対意識を燃やすトコがあんの。
ソコがその情報を入手したみたい。
だから、ばらされたらブーよね。全部終わり」
仗助「おいおい、そりゃなんとかなんねーのかよ」
徐倫「さあ。なんとかなるって話じゃないし。なるようにしかならないわ」
仗助「961プロ……ねえ」
徐倫「そんな事より、たまたまといえど、親戚と会ったのよ?
食事しましょ」
仗助「ああ、そうだな。おい、億泰。そのパスタちっとくれよ」
億泰「はぁ?駄目だな。こいつはやれねぇ!
これはまこちんと交換したパスタだ!一口どころか一舐めもさせねぇ!」
仗助「わかったわかったよ……。じゃあなんか頼むか」
徐倫「私これがいい」
仗助「あ、すんませーん!」
仗助は手をあげて店員を呼ぶ。
その瞬間、徐倫は仗助の肩の素肌が見えた。
徐倫「あんたもあるのね……そのあざ」
仗助「あ?ああ、これか。徐倫もあるよな」
徐倫「ええ、もちろん。ますます近く思えるわ。仗助、アナタと」
246 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/18(月) 09:51:21.62 ID:z5ZINl0F0
それから数時間。食事の時間を楽しんだ後、彼らはレストランを出た
徐倫「会えてうれしかった。って言うのが正しいのかしらね?
仗助さんに会えただけで日本に来たかいがあったって感じ?」
仗助「マジィ?そこまで言ってくれるかよ。嬉しい限りだなオイ。
まあ、俺の地元はM県のS市だからよォ。また近いうちにに遊びでも来いよ」
徐倫「ええ、是非。プライベートか【お仕事】かは分からないけど」
仗助「まだデビューもしてねー奴が言ってんじゃァねえよ」
億泰「またなまこちん!」
真「じゃーねおくやすさん!」
春香「差所は私のファンだって言ってくれたのにぃ……」
康一「まぁまぁ、億泰君、結構能天気だからさ……」
雪歩「でも、本当にそろそろお別れしないと、あんまり外でおしゃべりするわけにもいかないし……」
康一「あ、そうだね。皆はアイドルなんだもんね。じゃあ、名残惜しいけど……」
春香「うん!またぜひ!ライブにも遊びに来て下さいね!見つけたら手を振りますんで!」
康一「ありがとう!さてと、それじゃあそろそろ本当に行こうよ。
仗助くんも、親戚なのは分かるけど。今は春香さん達もいるんだし……そろそろ」
徐倫「なんだか。また不意に会える気がするわ」
仗助「スタンド使いは惹かれあう……まあ、お前はスタンド使いじゃあなかったんだっけ」
徐倫「意味分かんない。ぶっ飛んでる口説き文句ね。それじゃ……」
仗助「ああ、そうそう。最後に1つだけいいか?」
徐倫「何?」
仗助「お前は絶対デビュー出来る。俺が保証する!」
徐倫「?…………ありがと?」
仗助「ああ!」
徐倫は首をかしげたが、それを気に留めず仗助は康一と億泰の肩にもたれかかり去っていく。
徐倫も、無意味に口角をあげて小さく手を振った。
春香「じゃあ、私たちもいこっか!」
真「徐倫の親戚さん。怖いけど優しそうな人たちだったね!」
雪歩「あ!結局買い物できてない!!」
徐倫「別に夜中まで話していたわけじゃないんだし、今から行けばいいでしょ?」
雪歩「そ……そうだね。じゃあ行こう?」
春香「うんうん!さぁれっつごー!」
それから4人で色々なアクセサリーや服を見て回った。
結局、徐倫の選ぶ服はどれも露出度の高い服が多く。変装用の服選びは見送られたのだが……。
奇妙な出会いと、アイドルの仲間との日常を楽しんだ後。
明日からのレッスンに向けて、徐倫はより一層気合が入った。
To be continued→
247 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/18(月) 10:22:51.35 ID:TGaGzcpRo
おつ
訂正しとくとジョースター家なのはホリィさんだから徐倫のおばあちゃんだな
248 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/18(月) 11:02:50.27 ID:vrfCQxYLo
乙!
承太郎の母親の父親の息子だな
250 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします (SSL) :2013/11/18(月) 17:30:08.22 ID:w+QxVzcW0
トニオさんの紹介ならば、ここのカフェの料理にもスタンドが混ざってるんだろうか
256 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 00:39:18.98 ID:wh9d+XCQ0
EX話『岸部露伴は動かない』
編集者「露伴先生!締め切りを守ってくれないなんて初めてじゃあないですか?
伝家の宝刀『作者取材のため休載』を使いましたけど……。
ピンクダークのファンは死亡説まで囁いてますよ!」
露伴「わかってるって。悪かったよ悪かった。
でもさ、いくら僕が速攻で漫画を描けるって言っても。ゼロじゃあ無理なんだよ。
1時間でも10分でも時間があればだけどさァ?
杜王町に帰った時にはもう締め切りまでゼロなんだから無理だよ」
編集者「それはアンタが取材に行ってるからでしょうが!!
一週間跨ぐ取材ならコチラに早めに言って下さいよ!対応しますから!」
露伴「僕だって本来ならその前日に帰るつもりだったさ!
面倒くさい事が起きちゃったからであって。僕の故意じゃないよ」
編集者「なんですかァ?そのめんどくさい事って……。
電車が遅れた?間に合わなかった?時間を間違えた?
殺人事件にでも巻き込まれましたか?重要参考人という事で足を封じられましたか??
調べますからね?僕。嘘は通用しませんよ?」
露伴「オイオイオイオイオイオイ。そりゃ確かに悪いとは思ってるよ。
でも、なんでそこまでする必要があるんだい?
コイツぁ僕のプライベートだよ?いくら君と僕といえど……」
編集者「いいや!僕にはきく権利がある!
アンタは仕事をサボッたッ!理由はどうであれ事実そうでしょうに!
僕だってね?この仕事に誇り持ってんですよ。アンタら漫画家ありきの仕事っつぅのは分かってますけどー?だから理由を聞くのは至極当然!当たり前なんスよ!」
露伴「分かった分かったってば。話せばいいんだろ?話せば……」
この時。僕のスタンド能力は、ヘブンズドアーなのだから。
目の前で必死になるひたむきなワーカホリッカーに『信じる』とでも書きこんで。
適当な嘘をでっちあげれば良かったのだけど……。
僕は正直に話した。
誰かに話して罪を軽くしたいとかそういう感情からじゃない。
ただ、この話を他人が聞いて。
どう感じるのか、それを取材したかった。
257 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 00:39:52.92 ID:wh9d+XCQ0
某日。
僕は都内にあるスピードワゴン財団の日本支部を訪ねた。
勿論取材だ。
知り合いの人間から、ちょいとした『お手伝い』を頼まれたソレの報酬。
普通は入れない、その財団の中身を取材させてもらった。
そこに関しては今回の原稿を落とした理由じゃないから割愛するけど。
まあ、有意義だったよ。
そして、その次の昼に新幹線で帰ろうとしたんだ。
本当なら、夕方には帰って、そこから書き始めて朝には間に合わすつもりだった。
でも。帰れなかったんだよ。
とても興味深い、奇妙な事件に巻き込まれたからね。
どこから話そうか。
電話が来た所からかな?
友人の、広瀬康一という人間から電話が来たんだ。
帰ろうとした日の前の晩に。
961プロって言ったら分かる?
あの、ジュピターだっけ?アレとかのアイドルプロダクション。
近々、イタリアの歌姫のトリッシュとかいうのもそこからデビューするらしいアレ。
あそこのプロダクションの社長の記憶を奪ってほしいという。
友人からの依頼だった。
はあ?なんでそんな依頼が僕の所に来るかって?
スタンドとかの話しをしても君は理解できないだろう?とにかくそういう事が出来るの。
僕はね?そこは今重要じゃあないんだよ。
だから僕は、その電話でこう言ってやったんだ。
「原稿が明日締め切りだから無理だ」ってね?
そもそもそんな犯罪の片棒担ぐことなんてしたくないしね。
そうしたら向こうがこう言って来たんだよ……。
258 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 00:40:28.77 ID:wh9d+XCQ0
康一「空条徐倫という人を、露伴先生ご存知ですか?」
露伴「なんだって?」
康一「承太郎さんの、1人娘です。
僕達、その人に今日会ったんですよ」
露伴「確か、君たちも今旅行で都内にいるんだっけ?
そりゃあアイドルやってんだから会うのも当然だろう」
康一「やっぱり。知ってるんですね?徐倫さんの事……」
露伴「ああ、知ってるよ。それが何だい?」
康一「覚えてないらしいんです。彼女。とある過去の記憶を……。
もし意図的に。何かのスタンド攻撃でも受けている可能性があるなら……。
ヘブンズドアー……先生の能力じゃあないんですか?」
露伴「オイオイオイオイオイオイ!
何が言いたいんだい?康一君!
僕が彼女の記憶を無理やり奪ったって言うのかい?」
康一「そうは言ってませんよッ!
多分理由あってのことだろうと思っています。
でも、それが本当なら。このお願いは、先生自身にも繋がりますよ?」
露伴「何がだい?徐倫ちゃんの所属してるのは765プロだったろ?
それなら961プロは関係ないじゃないか」
康一「いえ、徐倫さんの、その記憶。刑務所に入っていたという事実を961プロに掴まれて、公表するぞと脅されているらしいんです」
露伴「はぁ!?だってアレは記録上、もうどこにもないんだぜ?
スピードワゴン財団が抹消したから。少女一人が逮捕されたことなんか。
ニュースの隅っこにもならないから、事実上でもどこにもない。
知りえるわけがないね」
康一「でも、他でもない徐倫さんからそう言われたんです。仗助くんが……つまり」
露伴「分かった!僕じゃないのかって言うんだろ?漏らしたのが」
康一「いえ、その疑いがありますよって事です。
どこから漏れたのかは分かりませんが……。それを疑われると面倒じゃないですか?」
露伴「確かに。承太郎さんに睨まれるのはごめん被りたいね。
あの人は僕でも怖い。怖いというより苦手なんだよ」
康一「だから、手伝ってもらえないかと」
露伴「成程ね。
でもさー。そんな大きなプロダクションの社長に会うなんて簡単じゃあない。どうするの?」
康一「侵入します」
露伴「オイオイオイオイオイオイオイ。物騒だな。見つかったらどうするの?」
康一「見つからないようにします」
露伴「っていうか…そもそも。
どうしてだい?君たちと徐倫ちゃんに直接的な接点はない。
なんでそこまでしてあげようと思うんだい?」
康一「仗助くんが。
『杜王町を救った承太郎さんと同じ事をするだけだ』
と言ってました」
空条承太郎。彼にとって杜王町は縁もゆかりもない。
なのに殺人鬼である吉良を倒すのを共に手伝ってくれたのは。
深い理由というよりも、ジョースターと呼ばれる血族の血がそう騒いだから。
露伴「ナアナアナアナアナアナアナア。それこそ僕には関係ないじゃないか。
しかも前と違って今回は一歩間違えば犯罪だ。
そんな非道徳的な事の片棒を僕に担げと?そんな事をして僕に得はあるのかいィ!?」
康一「いえ。ただ1人の友人としての。頼みです」
露伴「だから気に入った!」
260 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:18:27.40 ID:wh9d+XCQ0
だから次の日。僕はまだ都内に居た。
友人の康一君と、虹村億泰、東方仗助の4人で、961プロに向かったんだ。
仗助「デ…でけーな…グレート……」
億泰「で?どうやって入んだ?」
康一「待ってよ……。僕のact1で見てるから。
うーん。やっぱり最上階が社長室で、それっぽい人が1人だけそこにいる。
裏から侵入すれば誰にも会わず行けそうだね」
露伴「…………」
億泰「先生何黙ってんスか?」
露伴「ウルサイな。これでも僕は漫画家。社会的には多少有名なんだ。
こんな所見られるのは好ましくはないんだよ。
早くしてくれないかな。そう思ってるんだ」
仗助「本当ありがとうございます露伴先生!アンタのおかげで殴ったりしなくて済むからよぉ」
露伴「僕が居なかったら殴るつもりだったのか?
なんというか、君たちは流石だね」
億泰「ありがとよ」
仗助「褒められてねーぞ」
康一「ここから侵入すれば、丁度エレベータ前なんだけど……」
露伴「ここからって言っても壁じゃあないか……」
康一「だからこうするんだよ、億泰君」
億泰「ア~イヨ!」
彼のスタンド、ザハンドが。壁を削り取る。
目の前には、抉られたようにポッカリと入口が出来あがる。
露伴「オイオイ。確かザハンドは直せないんだろ?亜空間かどっかに行くんだから。
どうするんだよコレェ!」
仗助「仕方ねーだろ?俺の能力で直すにも破壊する音でバレちまうんだからよー」
露伴「いやいや、完全に器物破損じゃあないのか?コレ。
絶対知らないからな、僕……」
まあ、そんなこんなで侵入は成功したわけだ。
え?act1とかザ・ハンドがなんなのかって?あー。そう言う能力だって思ってよ。
説明するのめんどくさいから。
で、次にエレベーターに乗るんだけど。
261 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:18:58.30 ID:wh9d+XCQ0
康一「あ、このエレベーター社員用でカードキーが居るみたい。
開かないや……」
露伴「そこの階段を使えばいいんじゃないのか?」
康一「階段は、各階の開けたところを通るみたいだから危ないよ。
エレベーターで行きたいんだけど…」
億泰「じゃあさっきみたいに扉を削り取るか?」
仗助「いや、その必要はねーゼ億泰。
壁なら破壊音が目立つが、扉なら大丈夫だ」
そういうと、エレベータの扉をスタンドで思いっきりこじ開ける。
そりゃ多少みしみしと音をたてたけど、周りが不審がる程音は響いてない。
仗助「中に入ったら扉を直して完璧よォ!」
どうやら中の操作はカードキー入らないみたいだったから。
そのまま、最上階へ向かうことにしたんだ。
露伴「でもさ。思うんだけどさ?
いや、その可能性ってだけで。そうとは限らないんだけど……」
康一「うん……僕も乗って見て思ったんですけど……」
仗助「あ?何だよ……2人して」
露伴「誰かが乗ってきたらどうするんだろうって……」
ティンッ!7階に止まります。
262 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:19:32.98 ID:wh9d+XCQ0
4人「ッ!!」
僕らが向かうのは11階だ…。それなのに7階で止まるってことは……。
仗助「ヤベッ!洒落になんねーぞ!」
露伴「なーんも考えてないのか?嘘だろ?おい、開くぞ!!」
ガガギギギギギ!
正確には開かなかったんだ。扉は。
クレイジーダイヤモンドとザハンドの2人が、両側から扉を抑えつけたから。
パワー型の二人だったから良かったものの。例えば僕と康一君なら不可能だったよ。
億泰「ウグォ……」
仗助「開けんなよ億泰!開いたら俺達一巻の終わりだ!」
露伴「…………馬鹿だねぇ……」
263 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:20:05.98 ID:wh9d+XCQ0
冬馬「おい!あかねーぞ!着いたんじゃないのかよ!」
翔太「ホントだ。壊れちゃってるのかなー」
北斗「これは報告しないと。いや、寧ろ今修理中だったのかも?」
冬馬「だったらそう書いとくべきだぜ!クソッ!色々返してもらうために立ち寄ったのに。
やっぱここは嫌いだぜ!」
翔太「もー冬馬君!黒ちゃんが嫌な人であって、961プロは悪くないじゃんか……。
そんなピリピリしないでよ」
北斗「そうだぞ冬馬。別にここに喧嘩を売りに来てるわけじゃないんだから」
冬馬「チッ!まあいいや。行こうぜ……」
264 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:20:54.22 ID:wh9d+XCQ0
そんなこんなでやっと最上階。
開いた瞬間誰かと鉢合わせって危惧もしたけど。そんなことはなかった。
そのまま一直線に社長さんの部屋に着いた。
ガチャリ
黒井「ン……?誰だ君たちは!」
仗助「あーすんませんね。どうも。
すぐ終わるんで……」
黒井「はぁ?不法侵入か?いい度胸じゃないか!」
無言で仗助が僕に両手を合わせてお願いする。
はぁ……。まあここまで来たんだし、不本意ながら片棒を担ぐ事にしよう。
それに、ちょっと大企業の社長の中身に興味があったし。
露伴「ヘブンズ・ドアー!」
瞬間で、社長さんは本になった。
後は、記憶を消せばいいだけ。
露伴「ん~?なんだこりゃ。その765プロに敵対するのはそんな理由?マジィ?
人って分かんねーなぁ……。
アレ?えー。こんな汚い事やってんの?そりゃあ売れるでしょうよ……」
康一「先生。あんまり人の中身じろじろ見ないであげてくださいよ……。
僕もだけど結構ショックなんですから」
露伴「分かってるよ。でも取材させてくれよ。
報酬もないんだからせめてばかりの収穫だよ。
あと、情報を漏らしたのは誰か知っておきたいし。
大丈夫。徐倫ちゃんの記憶は消しておくよ。書きこむんじゃなく破ってね」
康一「ええ?でも破ったら……」
露伴「大丈夫だよ。君の時みたいに1ページ丸丸破かず、その部分だけ。
軽くなるとしても誤差だよ」
露伴「ああ、スピードワゴン財団の中にばらした奴が居るのか……。
うわぁ、そいつ結構やらかしてるっぽいな……ご愁傷さま」
え?その財団の中でばらした奴?知らないよ。
僕はただ承太郎さんにその事とそいつの名前を教えただけ。
後は何もしてない。どうなったかも知らない。
露伴「さて、終わったよ。
これでいいのかい?ハァ、疲れた疲れた。
さあ、帰ろうよ」
仗助「あ、しまった……」
露伴「え?」
仗助「帰りの事なんも考えてない……」
露伴「オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ!?」
265 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:21:23.45 ID:wh9d+XCQ0
トリッシュ「うるさいわね……」
仗助「うわ!人が居た!ヤベ!」
トリッシュ「さっきからずっといたわよ。
別に私は社長のボディガードじゃないから見て見ぬふりしてたけど」
億泰「はぁ?何て言ってんだ?俺は英語分かんねーぞ?」
康一「いや、英語じゃないよイタリア語。多分この人、今度デビューするトリッシュ・ウナだよ」
トリッシュ「あら、イタリア語が通じるなんて意外ね」
康一「あ、いや。これも露伴先生の陰なんですけどね……」
露伴「そうか、昔そんな事もしてあげたっけ?消すのを忘れてた」
トリッシュ「大体想像がつくわ。徐倫の秘密を守るために来たんでしょ?」
康一「え?……あ、うん。そうですけど」
トリッシュ「あ、安心して。バラすつもりはないから。私は。
友人にそんなひどい事。するわけないでしょ?」
康一「は…はぁ……」
露伴「おい康一君。あの子はなんて言ってるんだ?」
康一「とりあえず、敵意はないみたいです」
トリッシュ「で?こんな日本で同じスタンド使いと出会えたのも何かの運命かしら。
いいわ、私の友人ってことで表玄関から一緒に出してあげる」
康一「え?本当に!?って……同じスタンド使い!?」
露伴「おい!そっちで進めるな!僕たちにも分かるように言ってくれ!」
康一「えっと。彼女が僕たちを友人って言って出してくれるみたいです。
あと、どうやら彼女もスタンド使いみたいで……」
露伴「何ィ?そりゃあ好都合だな……なにわともあれ良かった」
トリッシュ「それにしても、そこの人。とっても奇特な髪形ね」
康一「あなたがイタリア人でよかったです……」
トリッシュ「?」
266 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/11/27(水) 02:22:16.30 ID:wh9d+XCQ0
――――
露伴「とまぁ、これが僕が今回原稿を落とした理由だよ」
編集者「…………なんてゆーかぶっ飛んでますね」
露伴「だろ?どう思う?」
編集者「んー……。やっぱり漫画家ってそういうファンタジックな夢を見るもんなんですか?」
露伴「なんだって?」
編集者「イヤイヤイヤイヤ。
あのねぇ先生。寝過したんなら正直にそう言って下さいよ!
長々夢の話されても困りますって!」
露伴「何ぃ!?信じてないな!」
編集者「当たり前ですよ!なんですかスタンドって!
新しい漫画の設定構想ですか?」
露伴「正直に話したらこれだよ!
分かった分かった!寝坊したでいいよもう!」
小鳥「あれ?徐倫ちゃーん?貴方にお手紙よ?
まだデビューもしてないのに……読んでも意味がちょっとわからないんだけど…」
徐倫「何?誰から?」
小鳥「んーと。東方仗助って人から」
徐倫「!?何て書いてあるの…?」
小鳥「えっと。「安心しろ。なんとかした」ですって」
徐倫「ふぅん。そう。ありがとう。
フフ……」
小鳥「知り合い?」
徐倫「ええ、とても素敵な親戚よ。
とってもグレートな人……」
To Be continued→
268 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/27(水) 02:28:31.53 ID:E7SshW8AO
乙
露伴先生
そこはヘブンズ・ドアで1ページほど漫画書いて見せれば信じたんじゃないですかねぇ
269 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/27(水) 02:58:48.87 ID:K47r5oPAO
乙
露伴がいなければドラララ+ガオンだったのか…
運が良かったのか悪かったのかは何とも言えないがな
270 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/27(水) 07:15:13.81 ID:wU9CRBIho
露伴先生の単行本も出たところだったし素晴らしいタイミングだな
乙
271 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/27(水) 16:12:48.42 ID:7v1FayuZo
乙!
黒井社長、とりあえず殴られフラグはなくなったか?
どっちがよかったかは知らんが
274 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/12/01(日) 15:54:18.25 ID:bYtioK0t0
第11話『あと一週間!【前篇】』
トレーナー「はいワンツーワンツー!」
キュッキュッと、シューズが擦れる音が、歌をかき消す。
765プロのアイドル達が、全員集まった上での練習だった。
皆の顔立ちは焦りにも似た緊張を表していた。
特に準備を怠っていたわけではないし、惰性で練習していたわけではない。
しかしながら、この期間。ライブまで後一週間というこの状況。
彼女達は新人から今に至るまで。いつでもそうだった。
それこそがアイドルのライブなのだ。
限界やゴールなどという言葉は存在しない。
一歩進めば次がある。
そこまで進もうが、終着点などない。
終わりはない練習だった。
春香「ふぅ~。雪歩……お疲れ……」
雪歩「だ、大丈夫?春香ちゃん……尋常じゃない顔してるよ?」
春香「えへへ……昨日もちょっと家で練習してたから疲れがドッときちゃってて」
響「なあ貴音。さっきのこの振付だけどさ?」
貴音「ええ、確かにそうですね。それならもう少し私は右に……」
響「まあ、実際ステージ見なくちゃ分からないから何とも言えないけどさー」
彼女達は休憩時間中も余念がなかった。
各々が、ライブに向けて一丸となっている。
そして、そんな中で1人。じっと彼女達を見つめる者がいた。
空条徐倫だ。
彼女はこの全員参加の曲には入っていない。
練習量が圧倒的に少ないその時間のせいだった。
デビューまでの時間を考え、彼女はそのライブで披露するのは、自身の持ち歌になる。
『ウェザー・リポート』のみに絞られていた。
故に、羨望も入ったその眼差しで、彼女達の練習をまじまじと見つめていた。
獲物を狩るかのように、獅子のように。彼女達の1つ1つの繊細な動きを得ようと。
275 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/12/01(日) 15:54:50.27 ID:bYtioK0t0
時間は過ぎて、気付けば日が落ちる頃。アイドル達はその日の練習を終える。
真「伊織、ちょっとさっきのダンスで相談があるから、ご飯行こうよ」
伊織「あら、奇遇ね?私もアンタに言いたい事があったの。いいわよ」
真「なんだよ言いたい事って。悪口?」
伊織「そんなわけないでしょ!? ただ普通に伊織ちゃん直々にご教授してあげようと思ってるんじゃない!」
真「わかったわかった……。まあ行こうよ。あ、春香も行く?」
春香「私は今日はちょっと疲れちゃったから……千早ちゃんの家に泊めてもらって寝るよ……」
真「あんまり根詰め過ぎて体壊さないでよ?」
春香「へーきへーき!」
やよい「あのー。私もご一緒してもいいですかぁ?」
伊織「あら、もちろんじゃない。やよいも一緒に行きましょうよ」
皆が身支度を終えて、帰ろうとする。
そんな中。徐倫は独り言をつぶやく。
徐倫「私……私は…………。765プロの1人なのかな」
彼女の心に何かが突き刺さる。
別に他のアイドル達といい関係が気付けていないわけではない。
一緒に御飯も食べるし、買い物にも行く。
この前もあずさと貴音と映画を見に行ったし。
美希とビリヤードもした。
しかし、徐倫と他のアイドル達に。大きな溝があるように感じる。
理解はしているはずだった。納得もしているはずだった。
徐倫はつい1カ月もしない前まで普通の女の子だった。
それが付け焼刃でステージに立つ。
だから彼女達とはモチベーションもポテンシャルも雲泥の差だ。
ステージに立つ時間も、短いのは当たり前。
しかし、でも。だけれど。
否定の言葉が、徐倫の脳裏で納得を遮る。
765プロのライブとは言うものの。
徐倫にとっては、正に。765プロ+徐倫のライブと言わんばかりの。
そんな、感情が根づいてしまっていた。
276 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/12/01(日) 15:55:51.21 ID:bYtioK0t0
美希「?…徐倫?どうしたの?怖い顔してるの」
徐倫「え?ああ、ごめん」
急に美希の声で我に返り、顔をひきつらせる。
美希「悩みがあるなら相談してほしいって思うな。今から皆でご飯に行くけど、来る?」
徐倫「ありがとう。でも心配しないで……。あ、食事はこの後プロデューサーと打ち合わせだから。ありがとね」
美希「うーん。わかったの。心配しないでって言うんならその言葉を信じるの。
でもね、徐倫」
徐倫「?」
美希「もし悩んでるなら、相談されないとちょっと悲しいの。
765プロの仲間なんだよ?美希達と徐倫は」
徐倫「そうね。ありがとう」
そのありがとうは、機械的に口から出された言葉だった。
美希はそれを分かってしまったが、そのまま「うん」と頷いてその場を去った。
277 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/12/01(日) 15:56:37.01 ID:bYtioK0t0
P「悪い徐倫。ちょっと会議で遅くなった!」
事務所に駆け込むように、プロデューサーが入って来た。
徐倫はレッスン場から事務所に移動して、テレビを見ながら待機していた。
徐倫「お腹すいた」
一言だけそうプロデューサーに行った。
頬を膨らませ、睨みつける。
P「ごめんって徐倫……。好きなものを食べに行こうよ」
徐倫「じゃあお肉がいいわ。高いヤツ。それで許してあげる」
P「に…肉……か。音無さん……」
小鳥「経費は落ちませんよ?」
P「うぅ……今月ピンチなんだけどな……いや。分かった!好きなだけ食わせてやる!」
徐倫「カッコイイわプロデューサー!好きになっちゃうかも!」
小鳥(私もお肉食べたいな……)
――焼肉屋――
徐倫「ねえ、プロデューサー?」
P「どうした?」
徐倫「好きなだけ喰え!って豪語した割にさ?」
P「…………」
徐倫「食べ放題って……。文句はないのよ?でも、その。
アンタ今、凄くカッコ悪いわよ?」
P「今月……ピンチなんだよ……許してくれ」
徐倫「ハァ……わかった許す。んじゃあ早速食べましょうよ」
P「ああ、そうだな。それと忘れないうちに打ち合わせもするか」
打ち合わせの内容は主に練習について。
徐倫も、例外なく残り一週間という追いこみの時期なのだ。
ダンスも歌も。好調ではあった。
それ故、完成度を高めるためにこうやって打ち合わせで練習ペースを調整してるのだった。
P「じゃあとりあえず明日は朝からボイスレッスンして、その後昼からダンスレッスンだな」
徐倫「うん。分かった。じゃあ明日も7時に事務所でいいの?」
P「まあ、アレならレッスン場に直接行ってもいいぞ?それなら俺も直でレッスン場に向かう」
徐倫「じゃあそうする」
肉を焼きながら、プロデューサーは手帳に話す事柄を記していく。
徐倫「あの……さ。プロデューサー?」
P「ん?」
そして、ひとしきり打ち合わせが終わった後。
徐倫は徐に口を開き。ゆっくりと喋り始めた。
徐倫「私は。本当に765プロの仲間って言える?」
278 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/12/01(日) 15:57:30.24 ID:bYtioK0t0
P「!?……ゲホゲホッ!……ど…どうしたんだ?いきなり」
徐倫「言葉のままの意味よ。私は、765プロのアイドルなのかしら」
P「何かあったのか?」
プロデューサーは神妙な顔をして、改めて徐倫に問いかけた。
徐倫「いえ、何もないわ。何もないからこそ。そう思うの。
何もないの。何も」
P「ちょっと言っている意味が難しいぞ?」
徐倫「単刀直入に言うとね?例えばライブで皆でやるREADY!!とか、私だけ参加してない」
P「いや、でもそれは……」
徐倫「分かってる。そう言う時間とかそのもの全てを『ウェザーリポート』に充てているんでしょ?
何曲も中途半端な私じゃなく。一曲を完璧にした私を。アイドルとしての初めてにしたい。そうでしょ?」
P「あ、ああ。そうなんだが……」
徐倫「だから分かっているの。これはただの我儘よ。幼稚園児がお菓子をねだる様な。
それと同じ。ただ駄々をこねているだけ」
P「だからお前は、肩身が狭い思いを今。しているのか?」
徐倫「正直そう。周りは勿論個人の曲もあれど。
一緒に頑張っているっていう形があるじゃない?
それが、私にはないのよ。なんだか除け者みたい」
P「いや、そんな事……」
徐倫「ええ、そんなことないわよ?だから分かってるって」
徐倫は、プロデューサーの正論に口をはさむ。
彼が何を言うかは、徐倫自身理解していた。
本当に、徐倫の言うとおり、ただの我儘。
これで、じゃあ他の曲も今から参加出来るようになっても、徐倫は満足しない。
ただ何をしてほしいわけじゃなく。そう、言うなればかまってほしかった。
羨ましかったのだ。
響と貴音が、同じステージの話をして。
春香と千早が、同じライブの話を真剣に打ち合わせるように。
徐倫も、皆と直接的な意味で一丸となりえたかった。
P「……徐倫……」
徐倫「ごめん。プロデューサー。気にしないで。
アンタ言ったよね。この前公園で。『覚悟を見せろ』って。
安心して。こんな事で練習しなくなったり、ライブで本気が出ない事はないから」
P「あ、いや。そういう心配をしているわけじゃあないんだが」
徐倫「さてと。ごちそうさま。とてもおいしかったわ。ありがとう。
明日も朝からなんだし。そろそろ帰りましょう?」
P「え?いや……大丈夫なのか?」
徐倫「言ったでしょ?ただの我儘。言いたかっただけよ。
一晩寝ればスッキリする。気にしないで」
P「お前がそう言うなら。分かったよ。でもな……徐倫」
徐倫「?」
P「俺たちは、本当に765プロの仲間だ。
俺には、貯め込まず。相談してくれ……出来る限りはフォローするから」
ズキン。と何かが痛む。
徐倫「ええ、ありがとう」
まただ。また機械的に口が動いてしまう。
いつからだろう。徐倫が……。
私がこんな風に平気で嘘をつくようになったのは
279 :
◆EHGCl/.tFA [saga]:2013/12/01(日) 15:58:06.70 ID:bYtioK0t0
私は家に帰った。
プロデューサーは終始私を励まそうと色々な話をしてくれた。
でも、そのすべてが私が理解している事。
一体。私は何が欲しいのだろう。何をしてほしいのだろう。
私には。失っている記憶がある。
刑務所での記憶だ。医者にはショック故だと聞かされているが。
本当は何があったのだろう。
何故か、その時の記憶を思い出そうとすると、今のこの状況が尚更胸を痛める。
皆が、プロデューサーや美希が言う『仲間』。その言葉を、信じられないでいた。
何故か、私は本当の仲間を知っているような気がする。
誰かのために命をかけられる。
そんな友情や愛情も超えた。仲間という絆。
美希達が、嘘の言葉を吐いているとは思っていない。
多分。彼女達も、私が困れば自分のことなんかお構いなしに助けてくれるだろう。
でも、事実今は。そう感じる事が出来ない。
1つの物に目線を同じにして頑張っている実感がない。
練習も同じ時間、同じ場所でしていたとしても。
別の曲。私だけ、違う曲の練習。
そう言えば、私の高校生だったりの時代は。そういう仲間って言える人間はいなかった。
ただ毎日を過ごすためにバカやったりする友達だけ。
だから、今こうやって仲間って言える人間は、正直初めてだけど。
それでも、私は知っている気がした。
比べている気がした。今のアイドル達の仲間と。いつかは知らない。消えた過去にある仲間。
徐倫「意味分かんない。なんでこんな考えてるんだろう。あー……飛びてぇ……。
チッ。あーもうイライラする!」
柄にもなく悩む自分に苛立ちさえ感じる。
いや、答えは出ている。ただ、その答えがあまりにも幼稚すぎて。それを答えにしたくない。
ただ、皆とそういう、同じダンスや同じ歌の話がしたいだけ。
徐倫「コンビニ行こう……」
パジャマに一度着替えた体を起こし、特に買う物はないが。
夜中の1時。私は外へと散歩に行く事に決めた。
To be continued →
283 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:33:32.07 ID:AUaM0ftR0
第12話『あと一週間!【後編】』
「らっしゃいせー」
やる気のない店員が1人、店の中に入る徐倫に向けてかどうかもあやふやな挨拶。
徐倫はとりあえず雑誌コーナーに進んだ。
雑誌を不意に手に取り、ぱらぱらとめくる。
目に留まるページがあった。
『トリッシュウナ。華やかなデビュー!【恋する兵士】を軽やかに歌う』
そこに映るスチルは気持ちよさそうに大勢の前で歌うトリッシュの写真。
その後のインタビューでの受け答え。
徐倫「アンタは強いのね。1人で頑張って来れたの?
それとも、元々1人なら関係ないのかしら?」
自虐的に独り言をつぶやく。
それから更にページをめくると、そこには徐倫たちの……。否、765プロの記事があった。
『765プロライブ間近!!全アイドルを28ページで徹底解説!』
天海春香・如月千早……皆の記事が事細かにまとめられている。
これをファンのみんなは読んで、来週のライブを楽しみにするのだろうか。
徐倫は1人1人の記事を見た後、最後のページを見つける。
そこには自分の記事があった。
『米国からの新アイドルが、765プロの来週のライブで初披露!』
そこには先日撮ったばかりの宣材が掲げられていた。
何人の人たちが、私を見に来てくれるんだろう。
そう徐倫は改めて自分の心に傷を作り。雑誌を閉じた。
「ありやしたー」
そのまま徐倫はコンビニを後にする。
284 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:34:04.86 ID:AUaM0ftR0
徐倫「なんでこんなに悩んでるんだろう。
アレかしら。父親の愛情が無いせいでこういうことに飢えてしまっているってカンジ?」
独り言を空に投げながら、公園のベンチに座り込む。
「居たッ!」
夜の静かな公園で、その一言が徐倫の耳を劈いた。
声の方向を向くと、見知った顔の人間が。1人。
天海春香だった。
徐倫「春……香……?」
春香「探したんだよ!徐倫ッ!」
彼女は血相を変えていた。徐倫はそれが自分に向けられたものじゃないかのように首をかしげる。
春香はそのまま息を切らしながら、徐倫の目の前に歩いた。
春香「横……いいかな…?」
徐倫「え……ええ」
春香「えっとね。私、聞いちゃったんだ」
徐倫「え?……ああ、そう言うことね。大体分かった」
春香「美希達が心配してるって聞いて、プロデューサーさんに聞いてみたらそう言う感じの事言われて……。心配になって千早ちゃんと徐倫の家に様子を見に行ったんだ。
そしたら部屋に居ないし、鍵も開いてるし……」
徐倫「あれ?あー前はママと暮らしてたから鍵を閉めるの忘れてた…」
春香「すっごく心配したんだから!千早ちゃんは今徐倫の家に勝手だけどあがって留守番してる」
徐倫「そう。それはごめんなさい。それじゃあ帰りましょうか」
春香「待って、徐倫」
徐倫「何?心配なら大丈夫よ。大丈夫。勿論グーよ?はっぴーうれぴーって感じ?」
春香「違うよ。徐倫」
徐倫「何が?」
春香「嫌だよ……私……」
285 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:34:32.85 ID:AUaM0ftR0
夜で、光が街灯しか無かった故に見えなかったが。
春香の口調で徐倫は把握した。春香の目には涙が浮かんでいる。
春香「そんなことないよ……違うよ徐倫……」
徐倫「ちょっと春香。どうしたの?」
春香「仲間だもん……徐倫は。私たちの、仲間……。
だれも除け者なんて思ってない……皆一緒に徐倫と頑張ろうって……。
そう……思ってるもん……」
徐倫「ちょっと。春香?」
春香「ぇぐ……徐倫が嫌って言うなら。私からもお願いするよ?
一緒の曲をやろうって!それとも間に合わないって言うなら、私の曲を徐倫とペアにすればいい!
だから……うぇぇえええん」
目の前の女子が、徐倫のために涙を流している。
しかし、徐倫も言いたい事はあった。
徐倫「そんな事……そんな事分かってるつもり。
言ってるじゃない。ただの私の我儘なのよ。今のあたしは、赤ん坊と同じ」
こういえば、春香は更に涙を増やす。それは分かっていた。
でも、徐倫のその心の溝は、それ故に生まれたものだ。
286 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:35:15.34 ID:AUaM0ftR0
それ故?本当に?
春香達の言う『仲間』という言葉が、自分で信じきれないのだ。
いや、正確にはそんな事じゃない。徐倫はふと我に返る。
違う。
仲間という言葉が信じれないということではない。
違う。
仲間。その言葉に徐倫の脳裏が強く痛むのだった。
違っていた。
徐倫(何故、私はこんな事さえも忘れてしまっているの?
忘れた事を思い出した……。私には過去にも仲間がいた)
しかしながら、その仲間の存在を忘れてしまっている自分が居る。
それ故、今新しく、春香達に『仲間』と言われると、心が痛む。
徐倫「そう……そう言う事。
ねえ、春香。ごめん。違った。私……」
春香「じゃあどうすればいいの?ねぇ、徐倫……分かんないよぉ」
徐倫「春香……ごめん。貴方達が悪いんじゃないの」
脳裏が痛む。
まるで小説の一ページを、無理やり接着剤で張り付けられているような。
そんな感覚がある事に気付いた。
無理やりはがそうとも、はがれない。
力を込めれば本からページそのものをちぎってしまいそうな。
でも、少し。読めた。正確には思い出したという言葉が正しいのかもしれないが。
まるで明かりに照らしてページの裏が空けるような感覚。
287 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:35:43.46 ID:AUaM0ftR0
(ヘイ徐倫。お前さー。仲間って知ってっか?仲間だよ仲間。
友達とか恋人じゃねーんだけどさー?なんつーか。例えばピンチになったら駆けつけてくれるとかそういうヤツー?)
徐倫(だれ?)
(はぁー?何言ってんの?バッカじゃない?それだけだとなんかこう、ヒーローって感じじゃない?)
徐倫(私は……誰と話しているの?)
(いや、ちげーんだって!その……お互いがお互いのヒーローみたいな?)
(プッ。言いたい事はわかんのよ。言わせたい事もね。
アンタって結構そういう情に弱いって言うか青臭いの好きなのー?
言ってあげるわよ。アンタと私は仲間)
(ヘイ!なに言ってくれてんだ!なんか恥ずかしくなるじゃねーか!オイ!)
徐倫(私の、昔の……仲間?)
(ねー徐倫。私ってさ、人間じゃあないじゃん?)
(まあ、そうね?)
(でもさー。それでもよ?私は徐倫と絆を感じている。これって正しいのかしら?)
(アンタは何でも難しく考えすぎなのよ、FF。そう思ったなら既にもう決まってる。
FF。アンタは私の。大事な仲間よ?)
徐倫(F……F?)
288 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:36:12.73 ID:AUaM0ftR0
かすれた映画のような断片的な他人の言葉。
でも、それは、確かに徐倫の根底に根付いた記憶の断片。
「ソウ、アナタハ一度自由ヲ勝チ取ッタ……」
徐倫「誰!?」
春香「え?」
「ワタシハ。アナタ。貴方ノ一部……石ノ海カラ自由ニナルタメ。
ソノタメノ私。ソシテ、アナタ」
徐倫「ストーン……フリー……?」
「ソウ、ソレヲ思イ出セバ。ソレデモウ大丈夫」
徐倫「………………」
春香「ねえ?さっきから大丈夫?徐倫……具合が悪いの?
えっと、なんかいきなり泣いちゃってごめん。アレ?徐倫?聞いてる??」
289 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 04:38:21.47 ID:AUaM0ftR0
我に返る。
そうだった。徐倫は、真の意味で我に返る。
何があったか。失われた記憶で何があったかは思い出せていない。
でも、ストーンフリー。その言葉は思い出せた。
それは、徐倫にとって、徐倫の過去の【仲間】との大切な何か。
それを今。思い出せた。
空条徐倫の物語が。今。紡がれる。
徐倫「春香……私」
春香「気がついた?大丈夫?」
徐倫「ええ、平気。ねぇ、春香」
春香「ん?」
徐倫「ごめん。私の我儘。全部忘れて……」
春香「え?どういう事?」
徐倫「言ったわよね。私。記憶を失ってるって……」
春香「うん……」
徐倫「それのせい。それのせいで私ちょっと鬱っぽくなってたってワケ。
でも。アンタのおかげかな?春香が追ってきてくれたおかげ」
春香「え?いや、私は何も……」
徐倫「ごめん。そしてありがとう春香。
あ、千早も留守番してるんだっけ?お礼言わなきゃ……帰ろっか」
春香「え?アレ?徐倫?え?え?どゆこと??」
徐倫「だから、もう大丈夫って!私は自由になったの。
だからもう悩む必要なんてなかったってワケ!ぶっ飛んでるぅ!」
春香「うーん……まぁ徐倫が元気になったみたいでよかっ………」
バタリ。
徐倫は振り向く。
目の前の、さっきまで泣いていた。否、泣かせてしまった女の子が。
倒れた。
徐倫「春…香…?」
天海春香の物語が。今。途切れる。
,
To be continued →
292 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:09:57.89 ID:AUaM0ftR0
第13話『ジョジョ』
ガチャリ。
千早「あ、おかえりなさい徐倫……春香ッ!どうしたの!?」
徐倫の部屋で2人の帰りを待っていた千早に目に飛び込んだのは。
倒れた春香を背負って帰る徐倫だった。
徐倫「突然……春香が倒れたの!」
千早「嘘ッ!」
千早は足早に、徐倫の方へと向かい。
徐倫が一人で背負っていた春香に手を伸ばす。
春香「ん……千早……ちゃん?」
千早「春香!喋らないで……凄い熱じゃない!」
春香「えへへ……へーきへーき……」
春香は。いつもそうだった。千早は思う。
ライブの前に、誰よりも努力して、誰よりも積み重ねて、誰よりも高みを目指す。
いつもそう。今回もそうだった。
後一週間だ!と、息を撒いて、毎日遅くまで練習を続けていたのだ。
そして、それなのに。
空条徐倫という新しい仲間が困っている、悩んでいる。それだけで既に自分の事は頭にない。
疲労困憊の自らの体にウソをついて、寒空の夜の街を走り回った。
気付くべきだった。
今日、千早の家に泊めてほしいと言われた時点で。
食事の誘いを断った時点で。それでもなお、徐倫を探そうと言った時点で。
徐倫「とりあえず、そこのベッドに寝かせないと!」
千早「えっ…ええ」
293 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:10:26.09 ID:AUaM0ftR0
千早と徐倫は静かに春香を寝かせて、千早は熱冷ましシートなどを買いにコンビニへといった。
徐倫は、症状がこれ以上悪化しないように、タオルで体を拭いてあげながら喋る。
徐倫「ごめん……春香……」
春香「えへへへへ。謝る事じゃないよ、徐倫。
私は徐倫が心配だっただけ。私、ドジだから……器用にできないんだよね……」
徐倫「本当に、ぶっ飛んでる……飛び過ぎ……。
そこまでして私が大事?」
春香「大事だよ?だって。私の大事な大事な。仲間だもん」
その言葉に、溝は感じない。
ストーンフリーが教えてくれた。それが確かに一番大きい要因。
でも、それと同じくらい。目の前の彼女が言う言葉だからこそ。
改めて。徐倫の心を満たしてくれた。
仲間という言葉。
294 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:10:54.87 ID:AUaM0ftR0
徐倫「ねぇ、春香?」
春香「なーに?」
徐倫「今、こんな事を言い出して意味分かんないって思うかもしれない。でも。聞いて。
私の事を、ジョジョって呼んで?今までママにしか呼ばれた事のない私のあだ名。
空・条徐・倫で、ジョジョ。春香、貴方に、私はそう呼ばれたい……」
春香「徐倫がそう呼んでほしいなら…ジョジョ……」
徐倫「ありがとう、春香」
それは徐倫なりの仲間という言葉への返答。
その名前は、ジョジョという名前は、彼女にとって重要な事。
春香にはその名前で呼んでほしかった。
目の前で、自分を否定してまで、徐倫を肯定した少女。
彼女にジョジョと呼んでほしかった。
徐倫「今日はゆっくり寝て。しっかり休まないと、本当にライブどころじゃないわ」
春香「ありがとー……ジョジョ……」
徐倫「お礼を言うのは私の方よ、春香……」
徐倫の手が、自然に春香の頭を撫でていた。
それと同時に、心に刻まれる石のような決意。
同じ曲は踊る事はないかもしれない。同じ歌を歌うことはないかもしれない。
でも、自分自身は『ウェザーリポート』に集中すべきだと。
何故なら私たちは……。
そもそも。
同じライブという時点で、仲間ではないのか。
その原点だけ、その事実だけあれば。本来十分だったはずだ。
徐倫「ちょっとした遠回りしただけ。
本当に、ただの遠回り。でも、春香。アンタのおかげで。
この遠回りさえも直進になった…………」
295 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:11:22.74 ID:AUaM0ftR0
――翌日――
春香「おはようございます」
千早「お早う御座います」
徐倫「おはよう……ございます……」
3人は、同時に事務所に来た。
徐倫は朝からレッスン場へ向かう予定だったが、事態が事態だったからだ。
P「おはよう3人とも」
昨晩の事を、洗いざらい夜のうちにプロデューサーに話し、とりあえず事務所に来ることになった。
P「さて……と。ひとまず春香。具合は?」
春香「平気です!今日から練習できるくらいです!」
P「…………」
春香「うぅ~……嘘です。熱は下がりましたが今日は一日安静にしますぅ……」
P「よろしい……。それと、千早。お前は大丈夫か?」
千早「あ、はい。私は昨日もしっかりと睡眠を取ったので。大丈夫です」
P「そうかそうか。じゃあ最後に徐倫だが……」
徐倫「ごめんなさい……」
P「何で謝るんだ?」
徐倫「え?いや……だって……春香がこんなことになったの、私のせいだし」
P「それは違う。まあ、徐倫なら言いかねないと思ったからこそ今ここに呼んでるんだが」
徐倫「?」
P「昨日ことは全て春香が悪い!あと、俺!
春香は自分の体調を考えず反射的に動き過ぎだ!
それと俺も徐倫にもう少ししっかり話を聞いてやればよかったし。
そもそも春香にもう少し話をすればよかったと思う」
徐倫「…………」
P「徐倫はただ悩んでいただけだ。
それを春香は助けようとしただけ。別に徐倫が悩んでいた事が悪いわけないじゃないか」
徐倫「でも……」
P「いいか?徐倫。勘違いしちゃいけない。
徐倫が今感じるのは罪悪感じゃないぞ?あるとすれば感謝だッ!
なんか、俺が言うのもおかしいかもしれないけど……春香が自分の練習時間を結果的に減らしてまで。
お前の身を案じた。それに対してすべきことは?分かるな…?」
徐倫「ええ。重々承知……」
P「まあ、一応俺が視診するだけならもう春香も元気そうだけど。
一応病院行くぞ?春香」
春香「えー……練習はー?」
P「さっき自分がした発言を思い出せ」
春香「はぁい……」
296 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:12:07.10 ID:AUaM0ftR0
P「そんなわけで、スマンが徐倫。レッスンについてやれなくなった。
まあ、お前も一カ月レッスンを続けて来たんだ。俺が居なくてもそろそろ平気だろ?」
徐倫「ええ、でも春香。本当にごめんなさい。
私のせいで練習が……」
春香「ジョジョー?次言ったら怒るよー?
プロデューサーさんの言った通り!私も私の我儘でジョジョを助けたの!
だからそんな風に言われるとちょっとショックだよ?」
徐倫「でも……いえ。そうね。
じゃあアンタの我儘なら、早く良くなって私の罪悪感を取っ払って頂戴?」
春香「えへへー。そうでなくっちゃジョジョじゃないよ!」
徐倫と春香は互いに手を振って事務所で別れた。
事務所には千早と徐倫二人。
千早「徐倫?」
徐倫「ん?」
千早「春香の言うとおり。変に気負いする必要なんてないわ。
春香はいつもそうだから。私も、春香のおかげで今。ここにいるもの」
徐倫「春香ってさ……。本当にただのアイドルなの?」
千早「ふふふ。そうよ?ただのアイドルって言うより。
彼女こそがアイドルだって、私は思うわ」
徐倫「春香こそが、アイドル……か……」
千早「だって、貴方も春香に貰ったでしょ?」
徐倫「そうね……本当にそう。彼女こそがアイドルね」
297 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:12:39.52 ID:AUaM0ftR0
――レッスン場――
トレーナー「はいここまで!ちょっと休憩しよっか」
徐倫「はい」
レッスン場。トレーナーとマンツーマンで指導を受ける徐倫。
汗を流しながら、必死に体を動かす。
トレーナー「ねえ、空条さん」
徐倫「何かしら?」
トレーナー「何かイイコトあった?」
徐倫「え?」
トレーナー「いや、何故か昨日までより格段にダンスが素晴らしいの。
語弊を恐れず言えば、まるで人が変ったみたい。
今の貴方、正直765プロのアイドル顔負けよ?」
徐倫「それってもしかしてアレ?
本番前に自信をつけさせるためのってヤツ?」
トレーナー「違うわよ。本気で。
まあ、そうね。空条さんがそう言うなら、さて休憩終了!次、いくよ!」
徐倫「え?いや、まだ5分も休んでな………いや、春香ならそんな事言わないわね。
いいわ。お願いします!」
トレーナー「良い目ね。空条さんのその瞳。結構好きよ?」
徐倫「告白するタイミングではないと思うけど?」
トレーナー「大人の余裕よ?」
徐倫「大人って言うかバ……」
トレーナー「それ以上言ったらトラウマになってもう私、レッスンできなくなっちゃうわよ?」
徐倫「大人って一体何がよ?」
298 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 14:13:05.76 ID:AUaM0ftR0
それぞれの時間が過ぎてゆく。
徐倫の動きはさらに輝きとキレと伸びを増した。
刻一刻と迫るデビューの日。
それは同時に765プロの大舞台の日。
徐倫だけではなく。765プロの全員が、緊張と期待感で胸を躍らせていた。
医者「疲労による急性的な失調症です。
一週間は大事を取って体を休めた方がいいでしょう」
P「ええっ!?でも、この子には週末ライブがあるんです」
医者「では少なくとも3日。そして少しでも体調不良を感じたらヤメる。
そうしないと、今度は倒れるだけじゃ済みませんよ?」
P「…………」
春香「……………」
ただ、1人を除いては。
――本番当日――
To be continued→
300 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 14:35:53.43 ID:Q4BDtFwFo
スタンド攻撃とかではなかったのね、よかったよかった
301 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 17:02:36.31 ID:4Hr5Qx4+o
乙
と、トニオさん呼んできてェーッ!
302 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします (SSL) :2013/12/02(月) 17:28:55.89 ID:vtp+BR0K0
乙
高熱って言うとやっぱりアレなんだろうかね
305 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:46:22.00 ID:AUaM0ftR0
最終話『空条徐倫』
春香「うぅ……緊張してきちゃった……」
真「ねぇ、春香。本当に具合は大丈夫なの?
プロデューサーから聞いたけど。結構安静にしなくちゃいけないんじゃ……」
春香「大丈夫だよー!3日前からレッスンしてるけど、全然変なところなかったでしょ?」
真「そうだけどさー。無理そうだったらすぐに言ってよ?」
春香「分かってるって。もう、真は心配性だなー」
楽屋裏。控室で765プロのアイドル達は全員集合していた。
一曲目は徐倫を除く全員での『READY!!』だ。
衣装に着替えてスタンバイしている。
小鳥「お客さん凄いよ!今までで一番かも!」
控室に来た小鳥が井戸端会議の主婦のような手つきで皆に知らせる。
亜美「うあうあー!ピヨちゃんそういうのは言うと逆に緊張しちゃうよー!」
真美「そうだよー!観客の事レンコンって思うようにしなくちゃー……」
雪歩「え?大根じゃなくて?」
伊織「いつもやっぱりこの瞬間はドキドキするわね……」
あずさ「あらあら、伊織ちゃんも緊張?」
伊織「違うわよ!武者震いよ!」
やよい「うっうー!すっごく楽しみですー!」
貴音「やよいは緊張していませんね」
やよい「緊張より、早くお客さん達とパァーッて盛り上がりたいなーって思いますぅ!」
響「自分もだぞ!うがー!一曲目にNext Life歌いたい勢いだぞ!」
千早「一曲目にそれだと、すごくクール過ぎない?」
美希「千早さん。そう言う真面目な事は今言っちゃだめって思うな……」
306 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:46:51.46 ID:AUaM0ftR0
律子「さて!じゃあそろそろ時間よ!円陣するなら始めちゃいなさい!」
春香「うん!じゃあ皆行くよ!」
春香の掛け声で、皆が手を円の中心に向ける。
春香「よし!じゃあジョジョ!お願い!!」
徐倫「え?私…?」
春香「うん。徐倫は一曲目には参加できないから。
私たちを、送り出してよ!」
真「びしっと頼むよ!徐倫!」
雪歩「お願いします!」
やよい「うっうー!」
伊織「シャキっとやっちゃいなさい!」
あずさ「春香ちゃん以外の掛け声って新鮮ねぇ」
貴音「徐倫殿」
響「ちばりよー!」
千早「お願い、徐倫」
亜美真美「んっふっふ~。かっチョイーのズバァーンといくしかないっしょー!!」
美希「眠気なんか覚める一言ほしいって思うな!」
徐倫「じゃあ……いくわよ?」
徐倫は1つ大きく深呼吸する。
徐倫「今日は私のデビューライブ。
私が出る前にコケたり歌詞間違えたりしないでよ?
最高の状態で、私にマイクを回しなさいよね?」
皆が笑顔でうなずく。
徐倫「行くよー!765プロォオオオオオオ!ファイトォオオオオオオ!!!」
一同「オーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
春香「行ってくるね!ジョジョ!」
徐倫「行ってらっしゃい!」
ライブが今……始まったッ!!
307 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:47:19.92 ID:AUaM0ftR0
P「次は竜宮小町だ。準備出来てるか!?」
伊織「勿論!」
あずさ「ええ」
亜美「もちっしょー!」
P「そして、それが終わったら。準備はできてるか?徐倫!!」
徐倫「ええ!」
慌ただしくも笑顔で走りまわる彼女達。
そのライブもコンスタントにタイムテーブルが進み。
竜宮小町の『ハニカミファーストバイト』の後。
彼女達の紹介で。徐倫が舞台に立つ。
徐倫は中心に大きな階段があるその上方ステージから登場する予定だ。
竜宮小町の三人が高らかに踊り歌う。
そして、徐倫が初めて、万を超える人間の前に立つ瞬間……。
それが…今…来るッ!
308 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:47:45.85 ID:AUaM0ftR0
伊織「それじゃあそろそろ、皆お待ちかねなんじゃないかしら?」
亜美「んっふっふ~。あずさお姉ちゃんに負けないくらいのボンキュッボンだよぉ~!」
あずさ「アメリカからのアイドル。私たちの新しい仲間ですぅ」
伊織「それじゃ皆で盛り上がっていくわよー!」
会場の声が一瞬静まる。
一斉に息を吸った証だ。
その直後。まるでアンプでも外れたかというくらいの、観客達の叫び声。
「ジョリーーーーーーン!!!!」
大きな花火と共に、空条徐倫が……。
ステージに……立った瞬間だったッ!
309 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:48:11.21 ID:AUaM0ftR0
徐倫「はじめましてー!噂されてる新アイドル。アメリカ育ちの空条徐倫よ!」
「ワァアアアアアアアアアア!!!!」
「カワイィイイイイイイイイ!」
「スッゲェビジンダァァアアアアアアアアア!!!」
徐倫「ありがと!でもさー。まだ歌も聞いてないのに私の価値を決めないでよー?
確かに私は超イイ女かもしれないけどさ?
初めて人の前で歌うこの歌を、アンタラに捧げるんだから。
もう一度言うわよ?初めてをアンタラに捧げるんだから!しっかり聞けよー!」
「イェエエエエエエエエイイイイ!!」
――――
P「なんというか、徐倫らしいMCというか……。はぁ、どうせこうだろうと思った」
律子「何がですか?」
P「徐倫が俺に見せてくれたMC台本があまりにも丁寧過ぎてさ。
まあ、徐倫の事だから大丈夫だろうとは思ったけど」
律子「成程。でも、今までにはいない感じで、いいんじゃないですか?」
――――
徐倫「全部英語歌詞だからって、歌詞カード凝視とかすんじゃねーぞ!
いくよー!『weather report』!!」
310 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:48:38.61 ID:AUaM0ftR0
暗転する。
スポットライトの身に照らされる徐倫は、ヘッドマイクで歌い始める。
同時に踊り始める。
1つステップの音と、イントロ、そして徐倫の声が同時に会場を駆け巡る。
(『あなたのダンスは、『モナリザ』で得られる感動なの』)
初めて会った時。トレーナーは徐倫にそう言った。
ポージングの集合体という彼女のダンス。
そう答えるなら。それは変わってはいなかった。
しかし。そのダンスは魅せる。
同じように、モナリザに例えるなら。
それが描かれるまでのストーリーを彼女は紡いだのだ。
白紙のキャンバスに、糸のような繊細な一本さえも目の前で分かるように。
モナリザが描かれるまでのストーリーを紡いだ。
柔と剛がそこにあった。
指先からつま先までの繊細な動きであり、1つ1つの動きは力強く。
糸がほどけては、また毬になり、それがまた糸になる。
彼女。空条徐倫が可能な唯一のダンス。
そのステージで、自由になる彼女。
『魅せるダンス』がそこにあった。
アイドルとしてのダンス。夢や希望を与える。
春香のように、どんな闇の奥深くに居ても、一歩たちあがる勇気をくれる。
そんな些細なキッカケ。
それが、アイドルなのだ。
観客全員が、日本人が9割を超えるその会場で。
英語の歌詞も半分も理解できないままなのに。
その歌の少女の喜びやかなしさや愛しさが伝わってくる。
観客の頬には、気付けば涙が流れていた。
311 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:49:06.75 ID:AUaM0ftR0
最後の音が消える。
徐倫は、ダンスを終えたそのポーズを、ゆっくりとほどいた。
雨が去ったような静けさを運んだその曲の終わりから、
徐倫が息を吐くと同時に、嵐のような歓声が舞い上がった。
「ワァアアアアアアアアアアアアア!!!」
「パチパチパチパチ!!!!」
「ヤベェエエエエエエエ!!」
徐倫「どう……?だった?私」
「ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
徐倫「ありがとう!アンタ達!私のファンになったかー!?」
「モチロォォォォォォン!!!!」
「イェエエエエエエエエエ!!」
徐倫「でもー!今日はこの曲だけなの!」
「エェエエエエエエエ!!!!!」
徐倫「だって、私一ヶ月前まで普通の女だったのよ?
この1曲で精いっぱいだったのよ!
でも、次のライブはもっともっと歌うから。
次は【私を見に】ライブに来て頂戴―!」
「行クゥウウウウウ!!!」
徐倫のカリスマ性とも言うべきか。
会場の空気を一つにまとめ上げた。
雑誌の紹介だけで、声も姿も曲も知らなかった観客は。
気付けばこの数分間で彼女に魅了されていた。
765プロのどのアイドルとも違う。
新しいアイドル。空条徐倫が、いまここに認められた瞬間だった。
312 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:49:38.05 ID:AUaM0ftR0
徐倫「さてっと……じゃあそろそろ次の曲に行かないと怒られそうだから。次を紹介する!」
そして、徐倫が次の紹介へ移る。
徐倫「新人アイドルお披露目会の後は、トップアイドルの登場!
春香の番よ!」
「ワァアアアアアアアアアアア!!!」
春香がステージ上方の横から体を出す。
そしてそのまま、徐倫のが居る中央へと足を運ぶ。
春香「はーい!またまた登場!春香さんでーす!!これからラストに向けての1曲ソロで歌っちゃうよー!」
「イェエエエエエエエエ!!!」
春香「曲は勿論!!『乙女よ大志を抱け』―!」
「イェエエエエエエエエエイ!」
歓声が三度巻き起こる。
春香はイントロが流れると同時に。階段を下る。
ライブ用の、長いイントロ。
ズンズンと重低音が響くイントロダクション。
徐倫「春香……大丈夫?」
マイクの電源を消した状態で、春香にささやいた。
近くで見た春香の額。疲れとは違う汗が見えた。
なにか、とてつもなく嫌な予感がした。
春香はマイクに電源が入っているゆえに声に出さず。横を去り際に口の動きだけで『平気』といった。
徐倫は一瞬迷った。
ここで春香を止めれば、その悪い予感は消えてなくなる。でも。大丈夫だったら……?
このライブそのものを壊すことになる。
一瞬の躊躇だった。
313 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:50:06.09 ID:AUaM0ftR0
春香「いっくよー!!!」
そう春香が叫んだ後、右手を大きく上げて、本来のイントロが開始される。
再び会場は暗転し、階段の中心の春香にのみスポットライトが照らされた。
普通なら、その振りあげた右手を下ろす数秒の間。
カチリと、天海春香という時間が止まった。
春香の体が、ぐらりと揺れたのが、後ろの徐倫には分かった。
しゃがむではなく、かがむではない。完全に、倒れこむ姿勢。
階段の中心で、春香は、その叫び声とともに、前へと倒れこむ。
一瞬の躊躇だった。
その一瞬が、徐倫と春香の距離。
階段の最上段の徐倫と、階段の中心の春香の距離。
届かない距離。
徐倫「……ッ!!」
徐倫は手を伸ばす。
目の前の仲間が倒れこむその姿に。ただ、手を伸ばす。
届くはずのない距離。
死。その一文字すらもあり得る高さで倒れこむ仲間へ。差し伸べようと前に。
手を伸ばす。
そう。届かない。ハズの距離。
314 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:50:33.46 ID:AUaM0ftR0
私の手から伸びる。これは何?
糸…?私の体から出ているこれは糸なの…?
ストーンフリー。
確か私はそう名付けたはず。
春香に向かって、それは伸びた。
届かないはずの距離が、ゼロになる。
糸が、春香を支える。それがワイヤーのように、私の所へと春香を連れて来てくれる。
この糸は私?始めてみるのに知っている。
覚えてないのに記憶にある。そう、これが……ストーンフリー。
今、私自身何が起こっているか戸惑ってる。
倒れる春香が。気付いたら私の横で支えられている。
さっきまで階段の中心に居た春香が、私の所に来ている。
私から出た糸……。いえ、ストーンフリーが春香を助けた……。
315 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:51:00.18 ID:AUaM0ftR0
ステージはざわめく。
スポットライトの春香が何か、見えない何かによってステージの上に登って行った。
それ以外の場所は暗闇で、何が起こったのかは。
徐倫以外誰も分からない。
そもそも、春香が倒れかけた事すら分からない。
何が起こっているのか。場内の観客は互いの顔を見合わせた。
――――
P「春…香…?」
――――
千早「春香はどこ……?」
――――
それはステージ端や控室でモニターを見るアイドル達も同じだった。
何が起こっているのか分からなかった。
316 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:51:37.10 ID:AUaM0ftR0
徐倫「…………ごっめーん!」
そのざわめきの中で、マイクが拾った声は。徐倫の声だ。
徐倫「トップアイドルの出番とか言っちゃったけどー?
私この曲だけしか歌わないって言っちゃったけどー?
新アイドル空条徐倫!トップアイドルの持ち歌奪っちゃうわー!キャー!」
その大きな声と共に春香は気を取り戻す。
自分足で改めて立つ。
その瞬間。スポットライトも大急ぎでステージの上方へとスライドする。
皆の目に映ったのは、春香と徐倫が手をつないでそこに立つ姿。
徐倫「乙女よッ!大志をいだっけ!夢~見て素敵~になれッ!」
徐倫は暇があれば皆のレッスンを見ていた。
曲を覚えていることなぞ容易かった。
まるで。いや、そうしたのだ。
初めからそうだったということにしたのだ。
これは演出。
観客の誰もが、春香の持ち歌を綺麗にかっさらう新人アイドル。
そういう『演出』に見えた。
春香が歌おうとした瞬間、姿をくらまし、スポットライトを照らした先で徐倫が歌う。
そういう演出に、でっちあげたのだ。
空条徐倫。彼女は、ジョースター家の血族。
嘘やハッタリは一八番だ。
徐倫「たーちーあがれっ!女諸君!イェイ!」
317 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:52:04.94 ID:AUaM0ftR0
「ワァアアアアアアア!」
「ジョリーンサイテーーー!!」
「オイオイ新人アイドルーーー!!」
悪口のような、歓声だった。
まるで、いいぞもっとやれ!と言わんばかりの歓声!
アトラクションのような演出で、徐倫は繋いだ。結んだのだった。
徐倫「バカ春香……」
Aメロ手前の部分で、マイクに拾わない声で悪態をつく。
春香「ごめ……ううん。ありがとう…ジョジョ……」
徐倫「ホラ、アンタの歌でしょ?一緒に歌うわよ?」
春香「うん!」
春香「目覚ましジリジリ」
徐倫「学校にまたギリギリ」
春香「は~みがっき」
徐倫「メイク」
春香「って遅刻しちゃう!」
徐倫「いってきます!」
徐倫の左手と春香の右手が合わさり、まるで打ち合わせ通りと言わんばかりのパート分け。
乙女よ大志を抱け。その曲を2人で盛大に歌いあげた。
318 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:54:19.13 ID:AUaM0ftR0
春香「いつ~もあり~がと~……」
拍手の嵐が降り注いだ。
春香「ありがとう!皆ー!」
歓声にこたえるように、春香と徐倫は手を振った。
そして、拍手が終わるにつれて、改めて春香がしゃべりだした。
春香「ええっと。まずはみなさんに謝ろうと思います!」
徐倫「え?」
春香「(いいから……まかせて)」
春香「私、実は今日ちょっと体調がよくないんですよね……えへへへへ」
「エェエエエエエ!?」
「ダイジョウブー!?」
春香「だいじょぶだいじょぶ!
それで、私、事前に徐倫に頼んでおいたの!一緒に歌おうって!
他のアイドルの皆にもサプライズだったけど。驚いてくれましたかー!?」
「イェエエエエエエエエ!!」
春香「えっへっへー。それじゃあ作戦成功だねぃ!わっほーい!」
伊織「全く。何がわっほいよ!心配させて!」
真「だから無理はするなって言ったのに!」
ステージの端から、マイクを持って他のアイドル達が下方へ上方へと顔を見せる。
やよい「でも凄かったですねー!春香さん。本当に消えたのかと思いました!」
貴音「とても、面妖ですね」
このままエンディングだ。
最後は全員揃って「READY!!」を歌うタイムテーブルになっている。
皆、春香に一言投げかけながら、自分達の立ち位置へ移動する。
流石は一流のアイドルだった。
それが本当にトラブルだとかハプニングだとしても。
決してそう思わせない実力。それが765プロのアイドル。
春香「ねぇ?ジョジョ、READY!!歌える?」
徐倫「何当たり前の事言ってんの?」
春香「だよねー。じゃあこのまま、手を離さず一緒に歌お!」
徐倫「ええ!」
春香は大きく声を出す。
何故か今、春香の体から疲労という物は無くなっていた。
春香「いっくよー!ラストーーー!!!」
全員「READY!!」
319 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 22:56:35.20 ID:AUaM0ftR0
『エピローグ』
あのライブの後。春香はプロデューサーやアイドル達にこっぴどく叱られた。
別に命に別条はなかったけど、それから一週間。強制的に寝かせられ続けた。
まあ、私が居なかったら本当に春香死んでいたかもしれないのよ?
無茶する春香には、いいお灸とでも言うべきしら?
で、私の方は。っていうと。
あの後やっぱりプロデューサーとかに問い詰められたけど。
オッサン。
あ、高木社長が「私の独断でワイヤーアクションを使わせてもらった」って言ってくれた。
オッサンは分かっていた。
私がやったことだって。こういう能力……『スタンド』の仕業だって。
オッサンからちょっとだけ聞いた。
社長「実は、君の父親に頼まれたんだよ。記憶を失ったわが娘をアイドルにしてくれと。
君のお父さんも、そういう不可思議な事が出来る人だったからね」
なんだか嘘をちりばめたような台詞だったけど。鵜呑みにしておいた。
この腕から、あれ以来糸が出る事はないし。ストーンフリーも見える事はなかった。
でも、必要ないから存在しないのよね。
私にはもうそんな『スタンド』なんて必要ないもの。
傍に立つのは『スタンド』じゃなくて、仲間。
手を繋いで、傍に立って、共に立ち向かう仲間が居る。
320 :
◆EHGCl/.tFA [saga ]:2013/12/02(月) 23:01:07.58 ID:AUaM0ftR0
春香「ジョジョー?どしたの?考え事?」
徐倫「ん?いえ、この前の事をね」
春香「色々あったもんね。ジョジョが来てからの1カ月」
徐倫「ええ、本当に……」
春香「でもさ、やっぱりあの時はああ言ったけど。
ジョジョのせいでもあると思うんだよね?」
徐倫「何?怒られたからって責任を痛み分けみたいに使うのは卑怯じゃない?」
春香「あはは。冗談だって。ちょっとからかいたくなったのー!」
徐倫「アンタって本当馬鹿よねー……」
春香「まあ。これからも……よろしく!ジョジョ……」
徐倫「こっちの台詞よ。春香」
そよ風が気持ちいい。
もう少しで、春になる。
私は日本でアイドルをしている。記憶もないままだけど。
今はとても幸せ。
この仲間に出会えた事。
たくさんのファンに囲まれている事。
それが本当に、幸せ……。
徐倫「私の仲間であり、私自身。
ここがッ!765プロ……」
~Fin~
321 :
◆EHGCl/.tFA [saga sage]:2013/12/02(月) 23:04:10.63 ID:AUaM0ftR0
>>1です。
気付けば2カ月かけちゃっているんですね。
最初から読んでくださっている方には本当にもうしわけなかったです。
これで徐倫と765プロのクロスSSは完結です。
ここまで読んで下さった方は。ありがとうございます!
322 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします (SSL) :2013/12/02(月) 23:05:45.81 ID:vtp+BR0K0
乙!
323 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 23:18:40.14 ID:vthmTkFA0
乙・・・それしか言う言葉が見つからない・・・
325 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします (SSL) :2013/12/02(月) 23:28:49.89 ID:s7Aj3D8x0
乙! 言わずにはいられない!
326 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 23:33:59.58 ID:rFtZ6/1qo
おつ!
ジョジョのクロスだとスタンドが前面に出てくるの多いけど、アイマスよりでいい話だった!
327 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 23:34:41.19 ID:1FJNo4+O0
乙!!
ただ、6部好きとしては、6部メンバーのその後が気になる。匂わす程度がベストということもわかっているけど
328 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 23:44:48.03 ID:domMrGFEo
お前らは次に、『感動したッ…!!』と言う!
329 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/02(月) 23:50:26.20 ID:N3zfWxfvo
乙ッ! 感動したッ…ハッ
とはいえ俺もジョジョ勢がどうなったのかは気になるねー。
特にちゃっかり親バカを発揮している承太郎
330 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/03(火) 01:23:17.32 ID:2A1ccZVfO
徐倫法被を着て帽子の上から鉢巻、サイリウム片手に最前列確保する承太郎
332 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/03(火) 04:14:01.57 ID:cTSRkO/wo
乙!良い終わりかただ!
336 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/03(火) 20:09:36.91 ID:ebTYTvKno
LESSON乙
『作者に敬意を払え』だぜ
338 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/03(火) 20:32:34.29 ID:c9iA3n87o
徐倫意外と面食いだし、敵状視察のつもりで行ったジュピターのライブでキャーキャー言ってるのをみてみたい
339 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/12/03(火) 22:28:26.59 ID:FLs6G7n4o
乙!また機会があれば続きであれ別作品であれ見たいな
転載元
空条徐倫「ここがッ!765プロ……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380664012/ 祐佑
KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
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