1 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:27:19.09 ID:Q7052WfG0
2 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:28:22.72 ID:Q7052WfG0
沖縄を離れて、学校の友達やアクターズスクールのチームメイトとも連絡を取らなくなっていった。
連絡をとっていると、いつしか自分は故郷に依存してしまうと考えたから。
「美希ちゃん。今回のアイドルアルティメイトは、君のみに出場してもらうよ」
「えっ……? ひ、響と貴音はどうなるの」
「今回はフェアリーの美希ちゃんではなく、アイドル星井美希として出場して欲しい。
それが私はベストだと考えたのだ。…………分かるね?」
東京に出てきて、初めて出来た友達。
それは、同じアイドルユニットの美希と貴音だった。
3 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:29:06.70 ID:Q7052WfG0
――社長室を出て、美希はマネージャーに連れて行かれる。
「……また明日なの。響、貴音」
「ええ、また明日」
「頑張ってきなよっ」
プロジェクト・フェアリーは、美希をリーダーとした、自分と貴音との三人ユニットだ。
事務所のおかげか実力か、簡単にトップアイドルへの階段を登っていった。
4 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:29:52.07 ID:Q7052WfG0
駅に着けば、美希の化粧品ブランドの広告が大きく鎮座している。
電車に乗れば、貴音のサイダーの中吊りが揺れているのが見える。
街中を歩けば、自分の歌う曲が街頭ビジョンで大々的に放映されている。
テレビを付ければ美希。ラジオを聴けば貴音。検索サイトを開けば自分。
フェアリーはそこまで順調に、世間に認められたアイドルとして活動していた。
「……帰りましょうか」
「そうだね……外、寒いけど」
5 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:30:25.76 ID:Q7052WfG0
とある事務所の無名アイドルにオーディションで負けたことがある。
のびのびと、笑顔で、とても楽しそうにアイドルをやっている姿を見て、自分は素直に羨ましいと思った。
――外は寒い。
「……ねぇ、貴音」
「はい……?」
「手、つないでいいかな」
「……いいですよ。今日は寒いですから」
6 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:31:09.42 ID:Q7052WfG0
彼女は売れていない。事務所の規模も段違い。それでも、見る度に楽しそうに活動している。
自分たちはどうだ。
美希は睡眠時間を削って、ドラマの台本に毎日目を通している。
貴音は好物をもう何ヶ月も食べずに、サンドイッチを咀嚼しながら車で移動する。
自分はクールキャラでいることを強要され、他事務所のアイドルと友達になることも出来ずにオーディション会場を去る。
――ふと、貴音が呟いた。
「……響」
「うん?」
「どうか、しましたか」
7 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:31:38.72 ID:Q7052WfG0
「なんともないよ」と、笑ってみせる。
「……嘘はよくありません。心配をかけるような嘘であれば、余計にです」
「……ちょっとだけ、ちょっとだけだぞ」
冬を先取りした風が、思い切り吹いた。
コートが揺れる。
「自分たちは、必要とされてないんじゃないかな、って思ったんだ」
「……」
貴音は喋らない。
8 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:32:17.51 ID:Q7052WfG0
ただ、手を握る力が、少しだけ強まった。
「3人で、アイドルアルティメイトに出るために頑張ったよね」
大きな舞台は、ひとつのミスが命取りだから、って。
精密機械のようにダンスを練習した。
自分たちのベストを超える歌声を出した。
それでも。
「結局フェアリーは、出られないんだ」
現実は非情なもんだった。
9 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:33:03.63 ID:Q7052WfG0
「……わたくしには、何故黒井殿が美希一人で出場するように言ったかは分かりません」
「……うん」
――君の夢を、東京で叶えないか。
そう言ってくれた黒井社長は、とても優しい瞳をしていた。
人に認められたことが、嬉しくて。
「それでも、美希が一人で出場することが”べすと”であるのでしょう」
「……自分と貴音は邪魔だったのかな」
10 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:33:40.98 ID:Q7052WfG0
「……どうでしょうか」
貴音が俯いて、そしてすぐに顔を上げた。
「わたくし達の猛特訓を、美希がきっと活かして優勝してくれます」
「……貴音」
「あんなに練習を重ねたのですから、美希が失敗するはずがありません」
「貴音」
「ですから……、二人で精一杯、応援を」
「たかねっ」
11 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:34:20.77 ID:Q7052WfG0
美希を応援することで、フェアリーが出場する夢を諦められるのなら。
貴音はどうして、
「……どうして……涙が、止まらないのでしょう……」
そんなの、わかっちゃうよ。
「……自分、悔しかった」
社長が美希を特に気に入っていることには気づいていた。
それはきっと、目の敵にしている765プロから奪い取ったアイドルの原石だったから。
12 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:35:01.57 ID:Q7052WfG0
でも。
「自分、すっごく出たかった」
その光り輝くステージに、立ちたかった。
「三人で、歌いたかった」
楽しく、笑いながら、真剣に。
自分は、そんなアイドルが理想だったんだ。
「……貴音だって、悔しいんだよね」
悔しくないわけがないんだ。
いくら大人びていても、気持ちをすぐに切り替えて、美希を応援することなんて無理だ。
13 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:36:00.43 ID:Q7052WfG0
風が冷たい。
澄んでいる空は、とても高い位置にあるように見える。
「……わたくしは、美希を恨みたくなどありません」
美希だけが選ばれて、自分と貴音は外された。
そういう考え方だって、出来る。
「ただ、今はとても…………美希が、羨ましい」
美希は、大きなステージに立って歌える。踊れる。
自分と貴音とは違う。
14 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:36:48.35 ID:Q7052WfG0
「……響」
「うん」
貴音はあいている方の腕で涙を拭って、
「来年こそ、三人で頂点に立ちましょう」
「……うんっ」
自分は、再び貴音の手を強く握った。
15 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:37:35.86 ID:Q7052WfG0
「…………寒いね」
「……ええ、寒いですね」
今年の秋はあっという間に終わってしまった。
これから、長い長い冬が始まる。
「ねえ、貴音」
「なんでしょう?」
16 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:38:06.28 ID:Q7052WfG0
「今年の冬はさ、美希と貴音と自分で、鍋パーティーでもやろうよ」
「ふふっ……良いですね」
「それでさ、お正月にも集まって、みんなで神社に行くんだ」
「冷える身体を甘酒で温めて、おみくじを見せ合いましょうか」
「そう! それで絵馬を買って、そこに三人で書こうよ」
一緒にいると安心できる大切な仲間と、
「『アイドルアルティメイトに出場する』、って」
17 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:38:56.38 ID:Q7052WfG0
こう言う風の、ぬるい会話をしながら。
「……ねぇ、貴音」
「はい……?」
「……だいすき」
「…………わたくしも、ですよ。響」
いつまでもいつまでも、こんな感じでいたいよね。
18 :
◆K8xLCj98/Y [saga]:2013/11/01(金) 23:39:27.32 ID:Q7052WfG0
タイトルと雰囲気はPerfumeの「マカロニ」よりいただきました。
お読みいただき、ありがとうございました。お疲れ様でした。
19 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/01(金) 23:50:02.33 ID:zr/DQ1Lao
うーん、乙。
ちょっとせつないね。だから救済される続きを頼みたい!
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします (SSL) :2013/11/02(土) 02:27:42.22 ID:Djpk0+Gs0
マカロニ聴きながら読んだ。続編を期待したくなるSSでした。乙です
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/11/02(土) 11:34:15.82 ID:U5dI8+r9o
乙
秋の空気だな、好き
転載元
響「マカロニ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1383316038/
我那覇響&ちびき(CV:沼倉愛美) 我那覇響 ちびき 沼倉愛美
メディアファクトリー (2013-03-06)
売り上げランキング: 5,938
Perfume
Tokuma Japan Communications =music= (2008-01-16)
売り上げランキング: 17,059
- 関連記事
-
永遠の愛じゃあない、年頃のごっこ遊びでも幸せは幸せというお話
BUMPの一際輝く物語、天体観測に対してサカナクションがアンタレスと針で描いたような、ドラマで無い幸せ
だから、普通ではない少女たちが織り成すアイマスにはそもそもあわないだろ
バッハの旋律と言い、こんな解釈をするやつがドヤ顔じゃあ日本の音楽は終わりだわ
オリコンチャート五位以内の範囲で通ぶった選曲がまず癪だよ