1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 14:30:57.47 ID:gZ0gECL40
星井美希
スタイル抜群、スポーツ万能、歌もダンスもそつなくこなす天賦の才能に溢れたスーパーアイドル
彼女が突然アイドルを辞めてから1ヶ月が過ぎようとしていたある日
1通のメールがきた
from 美希
『あいたい』
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 14:42:07.42 ID:gZ0gECL40
たった4文字の文面に、俺は驚きを隠せなかった
美希からメールが来るとは…
その後何度かメールを交わし、俺は次の日曜に美希の家へ行くことに決めた
………
美希の家は高台の上に建っていた
外からは風化を感じさせない様な綺麗な一戸建ての家
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 14:56:13.41 ID:gZ0gECL40
インターホンを押す
しばらくすると、玄関から一人の女性が出たきた
年は、二十歳くらいだろうか?
顔立ちがどことなく美希と似通っていて、かなりの美人だ
もしかして、この人は美希が前に何度か話していたお姉さんだろうか
会釈をし、軽く挨拶を済ませて、美希の部屋まで案内してもらう
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 15:05:28.66 ID:gZ0gECL40
美希のお姉さんはどこか物憂げな眼差しで俺を一瞥した後、会釈して去っていった
美希の部屋
木製のドアには『MIKI』という丸っこいアルファベットと星のマークがかかれたプレートが下がっている
俺は緊張しながら、ドアを軽くノックした
返事はない
「…入るぞ」
ドアノブに手をかけると、それはあっさりと回った
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 15:18:24.30 ID:gZ0gECL40
部屋の中はカーテンが閉め切られていて、少し薄暗く、空気が澱んでいるように感じた
ふと横を見ると、ベッドの上に美希が座っていた
彼女はイヤホンを耳にさして目を閉じていた
俺の存在に気付くと、彼女は顔をこちらに向けてイヤホンを外し、おもむろに口を開いた
「…………ぁ………ぃ………」
声にならない声
胸が痛くなった
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 15:38:20.27 ID:gZ0gECL40
今から2ヶ月前
ボイストレーニングの最中に、美希は突然声が出なくなった
医者は、精神的なストレスによる一時的な失声症ではないか、と言った
俺は困惑した
美希の声が出なくなったという事実もそうだが、何よりそれに対する原因が全く思い当たらなかったからだ
彼女はいつも元気に、明るく歌って踊って…見る者を魅了していた
そして何より彼女自身が積極的にアイドルとしての活動を楽しんでいた
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 15:47:51.07 ID:gZ0gECL40
当たり前の話だが、アイドル活動をするに当たって、声が出せないというのは致命的だ
俺はなんとかして美希の声を取り戻すために色々模索した
他の仕事をこなしながら、必死に方法を考えた
考えて、考えて、考え抜いた
……けど、駄目だった。
あらゆる方法を試しても、美希の声は戻らなかった
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [>>27ウィ。ごめんなさい]:2012/02/24(金) 16:03:00.75 ID:gZ0gECL40
そうこうしているうちに1ヶ月が過ぎた
ふと携帯を見ると、美希からのメールが来ていた
from 美希
いろいろありがとう、ハニー
でも、もういいの
ミキ、アイドルやめる
俺はそのとき自分の情けなさと絶望感で胸が苦しくなった
携帯の画面の文字が涙で歪んでいた
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 16:15:33.74 ID:gZ0gECL40
そして今
目の前にいる少女は、かつての姿と大きく違っていた
髪の毛は恐らく手入れしていないのだろう…ぼさぼさで
頬は蒼白く、少しやせこけている
そして瞳には生気が感じられない
魂が抜けているような…まるで、人形のような感じだ
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 16:29:00.79 ID:gZ0gECL40
そして美希は携帯を取り出して打ち始めた
ポケットにしまっている俺の携帯が震える
from 美希
ひさしぶりだね、ハニー☆
ミキ、すごくさびしかったの
声を出せなくなってから、美希はメールで俺と会話するようになっていた
正直、メールよりも手で文字を書いたほうが早いと思うが…まぁ彼女なりに思うところがあるのだろう
40 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 16:38:03.63 ID:gZ0gECL40
「そうだな。俺も美希に会えて…うれしいよ」
その言葉は、自分でとても空虚なものに思えた
そして気付いた
美希の左手首に包帯が巻かれていることに
カチカチ
ピロリン
from 美希
どうしたの?
これ、気になる?
「いや…」
俺は包帯から目を逸らして、言った
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 16:50:40.02 ID:gZ0gECL40
美希はしばらく自分の左手首を眺めていたが、やがてゆっくりと包帯を解き始めた
怖かった
できるならずっと目を逸らしたかった
だが、それは何かズルイことのように思えた
しゅるしゅる……
手首にはたくさんの切り傷があった
恐怖と同時に、気持ち悪さがこみ上げてきた
………どうしてこんなことになってしまったんだろう?
81 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 19:46:46.72 ID:gZ0gECL40
カチカチ
ピロリン
from 美希
こんな手してたら、ミキお嫁さんにいけないよね
あははっ☆
俺はなんて答えればいいかわからなかった
美希は包帯をもう一度自分の手首に巻きつけたあと、軽くベッドを叩いた
俺は少し戸惑いを覚えながらも、美希の隣に座る
83 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 19:52:49.16 ID:gZ0gECL40
聞きたいことはたくさんあった
手首の傷のことは勿論
学校のほうはどうだ?とか
どうしてまた俺と会おうと思ったんだ?とか
けれどどれに関しても聞いてはいけないような気がした
どの質問もタブーのように思えた
聞いてしまったら、美希が傷ついてしまうんじゃないか?そう思った
そして自分も傷つきそうで…怖かった
85 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 20:01:46.79 ID:gZ0gECL40
沈黙が部屋を支配する
静かな、静かな時間が流れる
ふと、携帯音楽プレーヤーが視界に入った
「何を聴いてるんだ?」
俺は美希の顔を見ないで尋ねた
カチカチ
美希は文字を打ち込んだ後、自分の携帯の画面を俺に見せてきた
ミキがソロでうたった曲なの
ハニーもいっしょにきく?
86 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 20:08:22.56 ID:gZ0gECL40
イヤホンの片方を耳に当てる
そしてもう片方は美希が自分の耳につけた
二人で一つの音楽を共有する
心地よいメロディと声が流れてきた
教えてハニー 未来は何色?
日に日に胸が キュンキュンっていうの
これってなあに?
胸がズキズキと締め付けられる
泣きそうになった
俺は黙って音楽を聴き続けた
87 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 20:17:35.39 ID:gZ0gECL40
どれくらいの間、そうしていただろうか
気付くと時計はもう夕刻をさしていた
「悪い、そろそろ帰らないと…」
イヤホンを外してそう言うと、美希は悲しそうな表情を浮かべた
「…すまん」
91 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 20:25:39.24 ID:gZ0gECL40
カチカチ
携帯の画面に浮かぶメッセージ
『また、きてほしいな』
「……ああ」
そう答えると、美希はほんの少しだけニコッと微笑んだ
今にも消えてしまいそうな儚げな笑顔だった
96 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 20:37:14.81 ID:gZ0gECL40
美希の部屋から出ると、美希のお姉さんに呼び止められた
「ちょっと、妹のことで……」
リビングのテーブルに案内される
「すみません、こんなものしかないですけど」
湯気の立つブラックコーヒー
コーヒーは好きだが、とても気楽に飲めるような状況じゃない
99 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 20:51:49.11 ID:gZ0gECL40
しばしの沈黙が流れた後、俺は深々と頭を下げた
「このたびは…申し訳ありませんでした」
「顔を上げてください…」
美希のお姉さんは、どこか疲れているような表情で言った
「仕方のないことです…あなた達は何も…悪くありません」
彼女の言葉に、卑怯にもどこかで安堵している自分がいた
101 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:00:02.98 ID:gZ0gECL40
恐る恐る尋ねる
「美希は…学校は?」
「声を失ってから1度だけ行っていました。でもそれっきり…」
恐らく学校で色々あったのだろう…俺は「そうですか」とだけ答えた
「今美希は……ほとんど部屋にひきこもっている状態なんです」
まっすぐ俺の目を見据えて彼女は言った
104 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:10:11.60 ID:gZ0gECL40
「……食事はどうされてるんです?」
「私があの子の部屋まで持っていってあげてます」
「しばらくの間は、家族で一緒に食べていたんですけど…手首の傷を見て父が激怒してしまって」
「父も母も美希にはすごく優しかったんです。でもあの一件以来あの子は部屋にずっと閉じこもるようになって…」
俺は黙って彼女の言葉に耳を傾けていた
106 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:19:48.49 ID:gZ0gECL40
「でも…私たちは悲観はしてません」
「医者の方は、あの子の声が出なくなったのは精神的なものによると言っていました」
「だから、きっと声は戻ってくると思っています。いえ…絶対戻ってきます」
確かに病院で検査を受けた結果、美希の声帯に異常はないと診断された
ふとしたきっかけで、いや、きっかけなんか無くても自然と回復するものなのかもしれない
だが、本当にそんな楽観的に考えて大丈夫なのだろうか
俺は疑問に思った
111 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:30:42.91 ID:gZ0gECL40
………
美希の家を出た
もうほとんど夕日が沈みかけていた
長い長い坂道を、冷たい風に吹かれながら歩いていく
美希の家を振り返って見ると、ほんのわずかに窓のカーテンが動いたような気がした
………
夜、美希とメールを交わした
次の日曜も美希の家に行くことになった
112 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:31:45.06 ID:gZ0gECL40
すまんちょっと仮眠をとらせてくれ
あふぅ
113 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:34:51.04 ID:k6+h1I4C0
睡眠代行はよ
114 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 21:34:53.06 ID:MeIEuyQE0
えっ
121 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/24(金) 22:01:51.55 ID:bKvSnXbU0
★休憩代行始めました★
疲れたけど休む時間が無い、休息を取りたいけど落ち着くことができない、そんなときに!
休憩で鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりに休憩をしてくれます!
モチロンお茶を用意する必要もありません!スタッフがあなたの家の中で無差別に休みまくります!
1時間\1200~ 24時間営業 年中無休!
r‐-、
i/ ̄""
< ̄ ̄ ̄ ヽ /_|_
/: : : : : : : : : : : : : : : \ /| /|ヽ
/: : : : : : : : : : : : : : : : : : :.ヘ | ./ | \
/: : /: i: : : : : : : : : : : : : : : : ヘ / ,
|: : i: :∧: : ::i: : : : ヽ: : : : ::i: : ::i. i 千 |二| .i
.|: : |!/ ヽ: : |: : ヘ: : ヽ: :|: :i: : ::|. | 口 |二| .|
ノ::ノ| ̄゛゛''\ヘ\_i\_iヾ|ノ: : : :| ハ_'_'_ |
"7: :Y"≠=x " .,,__ _,,, ∧: : :ヘ ・ な |
/: : :::i , ゛゛ ̄ /ノ.\_> ・ の ┌‐‐|‐┐ .i
<(ヽ、::ヘ /_: : : : 二≧ ・ ./. |__|_| /
r‐'-ニヽ,ヾ,ヘ、.゛'''''' /ミヾ" '\: : ::__> あ //\. | ./
>ニ',-.,",,..-'i_,,..>-‐‐ ゛゛'''-..,,,ii_ミミ , \::"ヽ、 .ふ \__/
/,,..-i‐"|!井ニi _ /゛'‐-"ミ;;;;; ヽヘヾ .ぅ
r'" _,,||.i-"|!井ニi_,,..-‐'"  ̄ ̄iニi井| ̄||! ̄ .ミ\"
i..-‐'"-‐||'i"_.ヘ井,,.!,,__. .| |井| .||!=====ミ)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
241 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [>>111の続きからです。ウィ]:2012/02/25(土) 08:20:08.80 ID:b/Jv6/RQ0
~~~~~
~~~~~
夢を見た
美希がソロライブを初めて成功させたとき
「美希!よく頑張ったな!」
「ハァ、ハァ…ねえプロデューサー…ミキ…キラキラしてた…?」
「ああ!最高に輝いてた!!」
「よかった…ミキ、しあわせ、なの…」
246 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 08:26:00.54 ID:b/Jv6/RQ0
「アンコールが鳴り止まない…どうする?」
「もちろん行ってくるの!ミキ、もっと、もーっとキラキラしたいっ!!」
あのときの美希はステージの上で本当に輝きを放っていた
俺も含めて、見るもの全ての心を惹きつけていた
歌やダンスのレベルの高さ以外にも、ある種のカリスマ性のようなものを持っていたと思う
夢から覚めると、とても憂鬱な気分になった
昨日会った美希の姿を思い出したくなかった
248 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 08:34:30.81 ID:b/Jv6/RQ0
□■□■□
目を開ける
いつからか、まったく時計を気にしなくなった
朝も昼も、夜も、もうどうでもよくなった
ベッドの上で、ひざを抱えて座りながら音楽をきく
…これはDay of the future
…これはSquall
自分の歌を何度も何度もリピートしてきく
自分の声を忘れてしまうかもしれないから
もし世界中の人間がミキの声を忘れてしまっても…ミキだけは、絶対に覚えていたいの
249 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 08:42:41.89 ID:b/Jv6/RQ0
………
コンコンとノックがした
「美希、ゴハン持ってきたわよ」
ちょっと待って…今トビラあけるね
「じゃあ、ここに置いておくわね」
ありがとう、お姉ちゃん
「……美希」
「絶対、戻るから。何も美希は心配しなくていいの」
ありがとう。でも、ムリして笑わなくていいよ…お姉ちゃん
ミキ、お姉ちゃんのそういう顔見ると、苦しくなる…
251 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 08:47:52.40 ID:b/Jv6/RQ0
………
食べ終わった食器を廊下に置いた
やっぱり全部食べられなかった…ごめんなさい、なの
ノートパソコンを起動して、DVDを入れる
ミキのライブのときの映像がいっぱい詰まってるの
…
……
キラキラしてて、可愛くて、かっこよくて…自分でも惚れ惚れするの!
…
……
253 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 08:54:30.55 ID:b/Jv6/RQ0
声、ほんとうに戻るのかな
初めのころは、すぐに治るって思ってた
でも、1週間たっても、1ヶ月たっても、2ヶ月たっても…まだ出てこないまま
もしこのままずーっとだったらと思うと
不安で頭がおかしくなりそう…
255 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 08:57:04.30 ID:b/Jv6/RQ0
おねがい…おねがいだから…
全部、元に戻して…
こんなにつらいの、たえられないよ…
256 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:03:05.65 ID:b/Jv6/RQ0
~~~~~
次の日曜も、そのまた次の日曜も、俺は美希の家を訪れた
何か買って持っていってあげようかなとも思ったが、何を買っても今の美希は喜ばないような気がした
美希の部屋では、二人で音楽を聴いている時間が多い
机の上で雑誌が開いている
そのページにはアイドルだった頃の美希のグラビア写真が載っていた
258 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:07:36.05 ID:b/Jv6/RQ0
カチカチ
ピロリン
from 美希
その制服姿のミキ、すっごくカワイイでしょ!
ハニーは、どう?
「ああ、よく似合っていて可愛いと思うよ」
そう答えると、彼女は悲しそうな目をして微笑んだ
260 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:14:51.36 ID:b/Jv6/RQ0
………
訪れるたびに、美希の姿は弱弱しいものになっていった
美希を優しく抱きしめてあげればこの問題は解決するのか?
慰めの言葉をかけ続ければ声は出るようになるのか?
頭に色々な考えが浮かんでも、俺は何も実行できない
卑怯だと自分でも思う
けれど、結局どうすればいいのかわからず、答えが出せなかった
262 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:20:37.03 ID:b/Jv6/RQ0
………
事務所の窓から外を見ると、雪がちらついていた
今日は都内はかなり冷え込みそうな感じだ
コーヒーを啜っていると、メールが届いた
美希からだった
from 美希
『かんかんかんかん』
263 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:25:42.08 ID:b/Jv6/RQ0
……何だろうこれは?
首をかしげていると、すぐにまた美希からメールが来た
from 美希
『かんかんかんかんかんかんかんかん』
またしても意味の分からない文面
もしかして、なにかふざけて遊んでいるのだろうか
しばらくして、またメールがきた
264 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:27:05.96 ID:AaZcChYQ0
あかん
266 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:28:28.30 ID:b/Jv6/RQ0
from 美希
『ばいばい、ハニー』
267 :
忍法帖【Lv=28,xxxPT】 :2012/02/25(土) 09:29:09.32 ID:WJxXfEIR0
うわああああああ
271 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:33:34.02 ID:b/Jv6/RQ0
その瞬間、俺は得体の知れない寒気を感じた
「ど、どうしたんですか?いきなり立ち上がって…」
「悪い、急な用事が出来た!」
「え?ちょ、ちょっと!プロデューサー!?」
律子の声を背中にして、俺は事務所を飛び出した
276 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:39:07.00 ID:b/Jv6/RQ0
タクシーを拾う
行き先は、美希の家
頭の中が不安でいっぱいになる
美希は、自分の命を絶とうとしてるんじゃないか、と
どうしてこんなことに…いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない
美希が自殺を考えているなら、なんとしてでも止めないといけない
281 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:44:50.91 ID:b/Jv6/RQ0
美希の携帯に電話をかける
彼女の声がきけないのがわかっているのに、ほとんど無意識でそうしていた
『おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』
くそっ!!
どうすれば…メールを入れようか?いや、電源が切られていたら意味がない
284 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:50:20.77 ID:b/Jv6/RQ0
そうだ!美希の家にかければ…
プルルルルルル
『…はい。星井です』
美希のお姉さんの声だ
「すみません!765プロの者ですが…えっと、み、美希は」
『少し前に外へ出かけましたけど…散歩してくるって言ってました』
「え…」
287 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 09:55:08.92 ID:b/Jv6/RQ0
美希は今、家に居ないのか?
美希は…いったいどこへ行ったんだ!?
『あの、もしもし?もしも─────』
俺は頭を抱えた。
どうやって彼女を探せばいい?
考えろ…何か方法はある…きっとある…
388 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:19:11.67 ID:b/Jv6/RQ0
…ん?
待てよ
ばいばい、の前に来てたメールの文章…
かんかんかん、とだけ書いてあったけど…ひょっとしてこれは…
美希の家を訪ねたときを思い返す
駅から歩いて…長い坂道まで行く途中で…
踏切があった
もしかして…美希は…
391 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:24:23.11 ID:b/Jv6/RQ0
□■□■□
カンカンカンカンカン
カンカンカンカンカン
遮断機が上がっていく
みんなが通っていく
遮断機が下がっていく
電車が通っていく
393 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:26:37.75 ID:b/Jv6/RQ0
見慣れた場所
つい、この前まで毎日通っていた場所
雪がふってる
やっぱり寒い方が痛みを感じにくいのかな
396 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:33:37.96 ID:b/Jv6/RQ0
お姉ちゃん、パパ、ママ…
みんな疲れた顔をしてる
ハニーも、本当はムリしてミキに会いに来てくれてるんだよね
知ってるの
ぜんぶ、ぜーんぶミキのせいなの
ミキのせいで、みんなつらい思いしてる…だから…
もう、いいの
400 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:39:24.71 ID:b/Jv6/RQ0
~~~~~
渋滞が酷い
なかなか車が進まない
「普段は空いてるんですけどねぇ、こんなに混むのは珍しいなぁ」
ドライバーの呑気な声に苛立ちを覚える
ふと、急にあの医者の言葉が脳裏をよぎった
『これは、精神的なストレスによるものだと思われます』
402 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:45:42.74 ID:b/Jv6/RQ0
……精神的な、ストレス
『えへへ、ハニーだいすき!』
『おい、やめろって…みんなの前だぞ』
……脳内に再生されていく
『ハニーって、すっごくカッコイイ男の人ってカンジ!』
『そうか』
……あの頃の会話
404 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:49:47.45 ID:b/Jv6/RQ0
『はいっ!日頃がんばってるハニーにミキからプレゼントなのっ!』
『栄養ドリンクとおにぎりってお前…まぁ、もらっとくよ』
『プ、プロデューサーさん!あの、私…クッキー作ってきたんですけど!よ、よかったら、その』
『おお、ありがとう春香!いやークッキーかーうれしいなぁ~』
『反応が全然違うの…』
……俺は、いつも彼女からの好意を受け流していた
407 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:53:13.06 ID:b/Jv6/RQ0
『ねーハニー?もし、もし将来ミキとハニーが結婚することになったら…』
『ん?何か言ったか』
『……なんでもないの』
……わざと、無視していた
別に嫌いだったわけじゃない
ただ、その方が賢明で、面倒なことにならずに済むと思ったから
410 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 17:57:34.07 ID:b/Jv6/RQ0
考えたくなかった
否定したかった
…………『これ』が原因じゃないのか?
美希がこうなってしまったのは…俺に、責任があるんじゃないか?
誰よりもストレートに表現する美希の好意を…受け止めなかった所為で
411 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:03:23.28 ID:b/Jv6/RQ0
車は全然動かない
携帯のGPSを使って現在地を調べる
…目的地の踏切までは、もうたいした距離じゃない
「釣りはいいです!」
「え?お、お客さん?」
ドライバーに札を手渡し、タクシーを降りる
この渋滞具合なら、自分で走った方が早い!
414 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:07:54.54 ID:b/Jv6/RQ0
………
粉雪が舞い散る中、歩道を全力で走る
ハァハァ…ハァ、ハァ…
息が苦しい
あとはこの道沿いに行けば、あの踏切にたどり着く
頭の中に、美希の明るい笑顔が思い浮かんだ
頼む…間に合ってくれ
頼む!!
424 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:14:54.08 ID:b/Jv6/RQ0
………
脇目も振らず走り続けていると、ようやく踏切が見えてきた
通行人の中に、遠目からでも目立つ長い金髪の少女がいた
「美希!」
彼女はフラフラとおぼつかない足取りで少し歩いたあと、踏切の中で下を向いて立ち止まった
遮断機がゆっくりと下がっていく
周りの人間は、彼女を見ても動こうとしない
428 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:20:25.47 ID:b/Jv6/RQ0
電車の警笛が耳をつんざく
間に合え!
間に合え!!!
無我夢中で走り、遮断機を飛び越える
そこからはもう本能的に身体が動いていた
434 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:27:27.70 ID:b/Jv6/RQ0
……
…………
目を開ける
すぐ目の前に美希の顔があった
振り返ると、下がった遮断機と通過する電車が見えた
……どうやら、間に合ったようだ
ギリギリセーフだったと思う…本当に、よかった…
440 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:32:03.35 ID:b/Jv6/RQ0
そして、何が起こったかわからない、といった顔をしている美希を俺はそっと抱きしめた
小さな、華奢な肩
力を入れると、今にも壊れてしまいそうな
「……ぁ………ぃ……………」
涙が、止まらなかった
444 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:37:34.38 ID:b/Jv6/RQ0
~~~~~
近くの喫茶店
俺と美希は、小さなテーブルに向かい合って座った
美希はどこか憂鬱そうな目でうつむいていたが、やがてポケットから携帯を取り出して操作を始めた
カチカチ
ピロリン
from 美希
実はね
ミキ、ハニーならきてくれるんじゃないかって
ほんのちょっぴり思ってたの
ごめんね
「…そうか」
445 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:41:02.65 ID:b/Jv6/RQ0
from 美希
ハニーは、ミキをたすけてくれた王子様なの!
すごくカッコイイの
俺は…美希の王子様なんかじゃない
もっと弱くて、汚くて、情けない存在だ
だから、俺は言った
448 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:45:01.10 ID:b/Jv6/RQ0
「ごめん!本当にゴメンな…悪かった」
美希は「え?」といった様子で小首をかしげた
「俺、ずっと美希の好意を…気持ちを無視してた」
「無視して、聞こえないフリをして…適当にあしらってた」
「……すまなかった」
美希はしばらく黙って目の前にある紅茶をじっと見つめていた
449 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:49:21.13 ID:b/Jv6/RQ0
カチカチ
ピロリン
from 美希
ハニー
ハニーは、ミキのことスキ?
考えた
この問いに対する…今、俺が出せる答え
嘘をつくつもりは無い
もうこれ以上…美希を悲しませたくない
450 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:50:20.13 ID:62uNbv340
はにぃ
452 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 18:53:22.50 ID:b/Jv6/RQ0
「……わからない」
「俺は、確かに、美希を好きだと思う」
「でもそれが恋愛上における好き、なのかは…わからないんだ」
嫌いではない
けれどはっきりと胸を張って愛してる、って言えるのかと問われたら…答えはノーだ
自分ながら中途半端だと思うが、これが現時点での俺の気持ちだ
458 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:00:02.17 ID:b/Jv6/RQ0
彼女は実に不満そうな表情を浮かべていた
「……そのリアクションは当然だと思う」
「ただ…今日心の中で強く決めたことがあるんだ」
これは、単なる罪滅ぼしの意味合いなのかもしれない
あるいは、ただの偽善なのかもしれない
もしかしたら純粋に望んでいるだけかもしれない
「お願いが、ある」
美希の目をまっすぐ見て、俺は言った
461 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:07:13.33 ID:b/Jv6/RQ0
………
…………
……………
長い冬が過ぎて、ようやく春がやってきた
携帯のアラームに起こされ、ソファから身を起こす
……背中が痛い
連続でソファで寝続けるというのは、結構過酷なのかもしれない
ベッドへ目をやると、そこでは金髪の少女がよだれをたらしながらぐっすりと眠っていた
465 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:13:28.98 ID:b/Jv6/RQ0
そう、俺は今、美希と二人で暮らしている
どうしてこういう状況になったかというと、俺が
『美希が声を取り戻すまで、一緒に居させて欲しい』と願ったから
『声を取り戻したら、またアイドルに復帰して、キラキラ輝いて欲しい』と願ったから
あの雪の日、俺のその2つの願いに対して、美希はこう答えた
『ミキ、アイドルに戻ったら、絶対ハニーをメロメロにして、ハニーのお嫁さんになるの!』
468 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:20:05.86 ID:b/Jv6/RQ0
最初は美希の家族から猛烈な反対を受けた
大人の男と、まだ15歳の少女が同じ屋根の下で暮らす…反対されて当たり前だ
俺と美希は必死に説得した
最終的には、美希のお姉さんも説得に加わってくれたこともあって、ご両親は承諾して下さった
その美希は、この4月から、私立の高校に通っている
まだ声は戻っていない
だが、学校では既に友達が何人かできた、とのことだ
クラスメートも、先生も親切な人ばっかりらしい…良かったと思う
470 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:27:33.82 ID:b/Jv6/RQ0
朝食を作り終えて、美希を起こしに行く
フライパンをカンカンと鳴らすも、起きない…まぁこの辺は予想通りだ
一番楽な起こし方はすでに知っている
この一部だけピンと跳ね上がった髪の毛(どうやらアホ毛というらしい)を引っぱると…
ほら、あっという間に起きた
471 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:30:19.17 ID:62uNbv340
ビクン
474 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:33:11.08 ID:b/Jv6/RQ0
二人で朝食を食べる
「そーいえば今日学校で調理実習あるんだよな、準備はできてるのか?」
俺がそう言うと、美希はどこからともなくカードを取り出して俺に見せる
【大丈夫なの!】
なんというか、最近ではメールを打つのがめんどくさいのか、美希は【会話カード】なるものを作っている
これ以外にも、【おなかすいたの】とか【おやすみなの】とか色々なカードがある
個人的にはカードを作る時間があるくらいなら、手話を覚えた方がいいような気がするけど…
まぁ、でも、美希が元気でいてくれて嬉しいと俺は思う
475 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:34:23.91 ID:62uNbv340
かわいいなの
480 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:49:27.06 ID:b/Jv6/RQ0
高校はここから離れたところにあるため、いつも美希が先に家を出る
玄関に響く、トントンというローファーの爪先を蹴る音
俺のほうへ振り返ると、彼女はニコッと微笑んだ
俺は声をかけた
「いってらっしゃい」
おしまい
481 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:50:17.11 ID:EV8JYVb/0
おわった
482 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:50:26.35 ID:HwXIYgFG0
美希(おにぎり欲しいの!)
律子「こいつ…直接脳内に…!!」
483 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:52:35.76 ID:b/Jv6/RQ0
おわりですウィ
保守してくれた方、読んでくれた方々に感謝!
484 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:52:49.94 ID:CRxVXOwL0
おつかれ
よかった!
489 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:54:44.58 ID:qUVI0rZG0
乙!
結婚まではよ!
492 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 19:56:53.54 ID:oruPnznuO
ミキと結婚したい
もう普通に結婚したいわ
503 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 20:14:30.26 ID:U5d3MkX/0
悪くない……悪くないぞ!
504 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/02/25(土) 20:25:36.19 ID:KO/hb/Y70
乙
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美希可愛いなあ