1 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 22:47:20 ID:97Vr1veM
~ 宮殿前広場 ~
市民A「おお、皇帝陛下がお出でになったぞ!」
市民B「皇后様もご一緒だ!」
ワァァ…… ワァァ……
皇帝「本日は帝国式典に集まってくれて、本当にありがとう」
皇后「こんなに盛大な式典となったのは、皆さまのおかげですわ……」
市民A「うひゃ~! 見ろよ、あの皇帝陛下の凛々しいお姿!」
市民B「皇后様もなんて美しいんだ……!」
市民A「若くして、早くも帝国始まって以来の名君になるともいわれる皇帝陛下と!」
市民B「かなりの大国である友好国から帝国に嫁いでこられた皇后様……」
市民A「まさに全てを兼ね備えたベストカップルだな!」
市民B「まったくだね!」
2 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 22:50:14 ID:97Vr1veM
皇帝の演説が終わり──
皇帝「──と、このように、余はこの帝国をさらに豊かな国にしていく所存である」
皇帝「どうか、見守っていてほしい」
皇后「わたくしはかげながら陛下を支えて参ります……」
ワアァァァァァ……!
「ブラボー、皇帝陛下!」 「皇后様ァ~!」 「帝国に栄光あれ!」
大臣「陛下、ありがとうございました」
大臣「それでは、陛下と皇后様にはご退席いただきましょう」
皇帝「分かった。では行こうか、妃よ」
皇后「はい、名残惜しいですが……」
ワァァ…… ワァァ……
熱狂する市民たちの歓声を背に、皇帝夫妻は退場した。
3 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 22:53:33 ID:97Vr1veM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「ふぅ……疲れた」
皇后「疲れた……じゃねえよ。ちょっとキレイごとをくっちゃべっただけだろーが」
皇帝「あ? テメェなんざ、俺の横でアホ面浮かべて突っ立ってただけだろうが!」
皇后「なんだそりゃ!? だれがアホだ、コラァ!」
皇后「アンタの毒にも薬にもならねークソ話を、間近で聞かされる身にもなれや!」
皇后「ったく、耳が腐るかと思っちまった」ホジホジ…
皇帝「うっせーよ、ボケ! だったら耳に石でも詰めてやがれ!」
皇帝「なんなら俺が詰めてやろうか!? 三半規管までよォ!」
皇后「その前にアンタの鼻の穴に拳ぶち込んでやるよ! もちろん右でな!」
4 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 22:56:52 ID:97Vr1veM
皇后「つか、なんなんだあの一人称、“余”って! なにかっこつけてんだ!」
皇后「余ってツラか!?」
皇帝「一人称はツラでいうもんじゃねーだろ!」
皇帝「それに俺だって、好きで余って自称してるわけじゃねーんだ!」
皇帝「やっぱ皇帝たる者、一人称も皇帝っぽくしなきゃならねーだろが!」
皇帝「仮にも女房ならそんくらい理解しろや! 俺だって苦労してんだよ!」
皇后「なぁ~にが、皇帝っぽくだ。笑かすなボケ」
皇后「余じゃなく『Yo! Yo!』とかやってろや、ラッパーっぽくよ!」
皇后「あぁ、アンタはパッパラパーか! ギャハハハハッ!」
皇帝「笑ってんじゃねえぞ、ぶっ殺すぞ!」
皇帝「このクソブスが!」
皇后「お、勝負すっか!?」
5 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 22:58:38 ID:97Vr1veM
皇帝「死ねやァ! うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「あ~……もういいわ。だりぃ、ケンカ飽きた」
皇后「飽きたのはこっちの方だ、ボケ」
6 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:02:14 ID:97Vr1veM
~ 宮殿内 ~
皇帝「さて、政務を行うぞ。大臣、重臣たちを執務室に集めよ」
大臣「はっ」
皇后「わたくしは兵士の方々にお会いしてきますわ」
大臣「ありがとうございます」
大臣「彼らは辛い訓練をしてるゆえ、皇后様のお声掛けが大変励みになるとか……」
大臣(お二人ともご多忙なのに、なんと生き生きしておられるのだ……)
大臣(疲れやストレスといったものをまるで感じない)
大臣(お二人の寝室は完全な防音ゆえ、中で何をされているのかは分からないが)
大臣(きっと寝室で仲睦まじくされているおかげで)
大臣(お二人はストレスを溜めずに済んでいるのだろうな……)
大臣(おっと、こんなことは私が立ち入ることではない、か)
7 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:06:51 ID:97Vr1veM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「ようやく一日が終わったし、寝るか」
皇后「いちいち宣言すんな。寝るなら黙って寝ろ」
皇帝「あ!? 就寝どころか失神させっぞ、コラ!」
皇后「やってみろや! 逆に永眠させてやっからよ!」
皇帝「俺をマジ切れさせたこと、後悔すんじゃねーぞォ! クソアマがァ!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「もういいや……マジで寝る」
皇后「くっそ……風呂入ったのに汗かいちまった」
8 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:21:14 ID:97Vr1veM
式典後のある日、宮殿では国内の貴族、豪族を集めたパーティーが開かれていた。
~ 宮殿内大広間 ~
ワイワイ…… ガヤガヤ……
大臣「皇帝陛下、皇后様、本日のパーティーは大盛況ですな」
皇帝「うむ、こうやって国を盛り立てていかねばな」
皇后「これも陛下のご人徳あってのこと。わたくしも嬉しいですわ」
大臣「ただし、式典もそうでしたが、弟殿下は来られなかったようで……」
皇帝「うむ……仕方あるまい。余とあやつは最後まで皇位を争っていたからな」
大臣「おっと失礼、パーティーの場に相応しくないことを申しました。お許しを」
大臣「お二人とも、どうかお楽しみ下さい」
皇帝「そうさせてもらおう」
皇后「ありがとうございます、大臣」ニコッ…
9 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:25:23 ID:97Vr1veM
貴族「お久しぶりです、皇帝陛下」スッ…
皇帝「おお、貴族殿。元気そうでなによりだ」
皇后「お久しぶりでございます」
皇帝「パーティーは楽しんでいるかね?」
貴族「はい、料理はどれもこれもとてもおいしく……」
皇帝「シェフたちが腕を振るってくれておるからな。存分に楽しんでもらいたい」
貴族「はい」
貴族「ところで、今日は皇后様も料理を作られたとか……」
皇后「ええ」ニコッ
皇帝(え……)
皇后「あちらにある魚料理やデザートはわたくしが手がけましたの」
貴族「そうだったんですか! とてもおいしゅうございました!」
皇后「ありがとうございます」ニコッ…
皇帝「…………」
10 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:31:22 ID:97Vr1veM
シェフ「皇帝陛下、本日の料理はいかがでしたか?」
皇帝「うむ、美味であった。さすがシェフ、と感心していたところだ」
シェフ「こちらこそ、皇后様の腕前には驚嘆いたしました」
皇帝「!」
シェフ「帝国に嫁がれる前から、料理の腕前が評判だったとはうかがっていましたが」
シェフ「まさか、あれほどとは……」
シェフ「料理を専門としている、私どもと遜色ない腕前ですよ」
シェフ「我々の仕事がなくなってしまうのでは、と心配になってしまうほどです」
皇后「まぁ、お上手だこと……」フフッ
皇帝「…………」
11 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:35:29 ID:97Vr1veM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇后「よっしゃ!」グッ
皇帝「なにがよっしゃだよ、オイ」
皇后「アタシの料理がシェフやみんなに褒められただろ?」
皇后「そりゃガッツポーズの一つも取りたくなるってもんよ」
皇帝「ハァ~? お前の料理って、あのゲロみたいなやつのことか?」
皇后「おい、ゲロってなんだコラ! みんな褒めてただろうが!」
皇帝「あんなもん、リップサービスに決まってんだろうが」ハァ…
皇帝「リップサービスの最上級……リップ、リッパー、リッペストだよ」
皇后「なにがリッペストだ、ぶっ殺すぞ!」
皇后「だいたい、アンタだってうまいうまいって食ってただろうが!」
皇帝「我慢してたに決まってんだろ」
皇帝「なんでシェフの料理と一緒にゲロが置いてあるんだろ、と思ったし」
皇后「ゲロってのやめろ!」
13 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:39:04 ID:97Vr1veM
皇后「ま、アンタみてーな味覚オンチにアタシの料理のよさは分かんねーか」
皇后「クソをカレーだと思って食うくらいだしよ」
皇帝「食わねーよ!」
皇帝「ちょっとシェフや貴族にリッペストされたくれーでいい気になんなよ!」
皇后「うっせーよ! 最下層舌の持ち主が! 地獄よりも地下だ、アンタの舌は!」
皇帝「俺ほどのグルメに向かって上等だよ……よほど死にたいらしいな?」
皇后「地獄の閻魔様にかわって、舌引っこ抜いてやるよォ!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「食いすぎの上に運動したら眠くなってきた……寝る」
皇后「アタシも……今日は疲れた」
14 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:44:04 ID:97Vr1veM
~ 宮殿内 ~
政務を終えた皇帝と大臣、それを迎える皇后。
大臣「本日もお疲れ様でした。ゆっくりお休みください」
皇帝「うむ」
大臣「……ところで、皇后様は政治に口を出されたことはまったくありませんな」
皇后「わたくしは陛下を信じておりますので……」
大臣「なるほど」
大臣(皇后様が政治に介入すると)
大臣(皇后様の故国が我が帝国内で力を持つことになりかねん)
大臣(そうなると、我が国にさまざまな“ひずみ”が生まれる)
大臣(それを危惧してらっしゃるのだろう)
大臣(聡明なお方だ……)
15 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:48:20 ID:97Vr1veM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇后「おう」
皇帝「あ? ……なんだよ」
皇后「アンタ、職人たちの成果に応じて助成金出すなんて制度を作るらしいが……」
皇帝「職人のモチベ増強のためにな! イカしてんだろ!?」
皇后「ああいうのって、下手すりゃ足の引っ張り合いになんぞ?」
皇后「その辺、ちゃんと考えてんのかなぁ~と思ってよ」
皇帝「……も、もちろん考えてるに決まってんだろ!」
皇帝「俺は皇帝だぞ!? バッチリよ!」
皇后「やっぱ考えてなかったのかよ。マジ終わってんな……」ハァ…
皇帝「終わってねーよ、ボケ!」
16 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:52:02 ID:97Vr1veM
皇后「どうせ職人の立場になって考えず、新制度考えた自分に酔ってたんだろ?」
皇后「この酔っ払いが!」
皇帝「うるせぇ! んなこといったって、職人の立場になるとかムズいんだよ!」
皇帝「ある程度上から強引に決めていくのも政治だろうが!」
皇后「強引に決められるほど、経験積んでんのか!? “EXP”をよォ!」
皇后「“皇帝見習い”の分際でよォ!」
皇帝「だれが見習いだ! だったらテメェ八つ裂きにしてレベル上げてやんよォ!」
皇后「来いやぁ!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「くっそ、ここで暴れたってなんの経験にもなりゃしねえ……」
皇后「むしろレベル下がるっつうの……」
17 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:55:54 ID:97Vr1veM
翌日──
~ 執務室 ~
皇帝「昨日決定しかけた、職人への成果助成金の件なのだが──」
大臣「はい、どうかなされましたか?」
皇帝「仕組みを精査せぬと、足の引っ張り合いなどが起こる可能性がある」
皇帝「そうなれば職人ギルド間で、重大な遺恨ができかねん」
皇帝「今一度、再考の機会を設けたいのだが……」
大臣「そうですな……」
大臣「たしかに、職人のモチベーションを上げる良案だと思いましたが」
大臣「職人同士の不和の種となってしまっては、本末転倒ですな」
皇帝「一度、職人たちから意見をくみ上げることも必要かもしれぬ」
大臣「承知しました」
大臣「時間を経たことで、見えなかったものが見えた、といったところですかな?」
皇帝「……うむ、まぁ、そんなところだ」
18 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/11(水) 23:58:33 ID:97Vr1veM
~ 宮殿内 ~
ある昼下がり、皇后はこんな会話を交わしていた。
貴婦人「皇后様はお顔もそうだけど、体型もスマートで羨ましいわ」
皇后「いえ、そんなことはありませんわ」
貴婦人「でも、お体が引き締まっておられるし、なにか運動でもなさってるの?」
皇后(運動……特にやってないけど……)
皇后「特に思い当たりませんわねぇ……」
貴婦人「ということは、天性のものですのね。羨ましいわぁ~」
皇后「…………」
19 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:03:43 ID:gOEsDzto
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇后「…………」ニヤニヤ…
皇帝「なにニタニタ笑ってやがんだ、気持ち悪ィな。投獄されてえのか」
皇后「あ!? 笑うぐらいいいだろうが!」
皇帝「笑ってるテメェは悪魔みたいなツラだからな。存在するだけで罪だ」
皇后「だれが悪魔だ!」
皇帝「ところで、なんで笑ってやがったんだ」
皇后「今日……スマートっていわれちゃってよ」
皇帝「ハァ~!? スマ~トォ!? お前が!?」
皇帝「養豚場で拾われた説もあるテメェがスマートはないわ」
皇后「んな説ねーよ! 死にてーのか、コラ!」
皇后「アンタこそ腹出てきてんじゃねーのか!? ポンポコタヌキさんみてーによ!」
皇帝「で、出てねーよ! 俺はちゃんと軍団長から剣の手ほどきとか受けてるし!」
20 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:06:28 ID:gOEsDzto
皇帝「テメェとは親同士が仲良かったから、ガキの頃からの付き合いだが……」
皇帝「国同士の政略結婚じゃなきゃテメェみたいなブタと結婚してねーし!」
皇帝「このピッグ、ピッガー、ピッゲストが!」
皇后「だからいちいち比較級、最上級みたいにすんじゃねーよ! マイブームか!?」
皇后「こっちこそアンタと結婚するくらいなら」
皇后「ドブネズミと結婚した方がマシだったわ! 本気と書いてマジで!」
皇帝「テメェ……どうやら俺を本気と書いてマジで怒らせたいらしいな!?」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「すっげえ疲れた……本気と書いてマジで」
皇后「1000キロカロリーくらい消費した気がする、本気と書いてマジで」
22 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:12:30 ID:gOEsDzto
~ 街 ~
皇帝夫妻のパレードを心待ちにする市民たち。
ザワザワ…… ガヤガヤ……
市民A「うひぃ~! もうすぐ皇帝陛下ご夫婦の行列がやってくるな! 待ち遠しい!」
市民B「なんとか、一目だけでいいから見てみたいね」
少年「…………」ドキドキ…
ザワッ……!
市民A「おおおっ、来たぞ!」
市民B「お二人のいるところだけ、まるで別世界のような気品が漂ってるよ……」
少年(よ、よし……へいかたちにプレゼントわたすんだ!)
23 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:15:53 ID:gOEsDzto
通りがかった皇帝夫妻の馬車に、少年が駆け寄ってくる。
少年「へいかー!」タタタッ
兵士「コラッ!」バッ
皇帝「む?」
少年「ぼくんち、おかし屋で、これはぼくんちじまんの新作チョコレートです!」
少年「どうぞ!」スッ…
兵士「皇帝陛下に近づくんじゃない! 子供だからとて許さんぞ!」
皇帝「まぁよいではないか。ありがたく頂いていこう」
皇后「フフフ、可愛いプレゼントですこと」
兵士「陛下がそうおっしゃられるなら……だが今度は許さんからな!」
少年「はいっ!」
「可愛いハプニングだな」 「皇帝陛下は優しいなぁ」 「俺もやればよかった……」
ワイワイ……
24 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:19:52 ID:gOEsDzto
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「オイ」
皇后「なんだよ」
皇帝「さっき俺がもらったチョコレート、どこやった?」
皇后「ああ、食った。スゲーうまかった」
皇帝「オイ、なに勝手なことしてんだよ!? 後で食おうと思ってたのによ!」
皇后「うっせえな、いいじゃねえかよ。疲れたから、甘い物食いたかったんだよ」
皇帝「馬車に乗って手ぇ振ってただけだろが! なに仕事したつもりになってんだ!」
皇后「うるっせえな、毒味してもらったとでも思っとけよ」
皇帝「なにが毒味だ、毒みてーなツラしてるくせによ!」
皇后「誰が毒みてーなツラだ、失礼すぎんだろ、コラ!」
皇帝「テメェが俺のおやつのチョコ、食うからいけねーんだろうが!」
皇后「ったく国のトップのくせに、チョコ一個くれーでグチグチうぜえ……」
皇后「だったら名前でも書いとけ、ボケ!」
25 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:23:15 ID:gOEsDzto
皇帝「名前なんか書いたって、どうせテメェは食ってただろうが!」
皇后「たりめーだ、こういうのは早い者勝ちなんだよカス!」
皇后「世の中の厳しさが分かったか? 皇帝陛下」ニヤッ
皇帝「最悪だわぁ~……マジ最悪だわぁ~……」
皇帝「これはもう、あれだ。処刑だわ、処刑するしかねーわ」
皇帝「その食い意地はったド汚ねえ口、二度と開けないようにしてやるよ!」
皇后「こっちこそ、その小さいケツの穴、二度と開かないようにしてやるよ!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「糖分が……欲しい……」
皇后「チョコレート買おうか……二人分」
26 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:29:46 ID:gOEsDzto
~ 執務室 ~
外交問題について話し合う皇帝たち。
皇帝「……隣国との会談か」
大臣「はっ」
大臣「おそらく隣国は今回、貿易についてかなりの無理難題を仕向けてくるものかと」
皇帝「最近、隣国の態度はいやに強硬だな」
大臣「国力は我が帝国の方がもちろん上ですが」
大臣「帝国はだいぶ穏健に傾いてきておりますし──」
大臣「あとこれは、申し上げにくいのですが……」
皇帝「よい。申してみよ」
大臣「陛下がまだお若い、というのも関係しているかと……」
皇帝「なるほどな……」
皇帝「余は隣国の王に比べ、年も若く、経験も圧倒的に劣っている」
皇帝「低く見られるのも、やむをえんかもしれぬな」
27 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:38:12 ID:gOEsDzto
皇帝「父母が早くに亡くなり、未熟ながら帝位につくことになった余ではあるが」
皇帝「余とてこの誇り高き帝国の皇帝としてのプライドは持っている!」
皇帝「隣国王との会談では決して怯まず、尻込みせず」
皇帝「帝国皇帝として、堂々たる態度で臨まねばならん!」
大臣「おおっ!」
大臣(そうだ……皇帝陛下とて名君の素質を持つお方なのだ!)
大臣(しかしながら、隣国王の迫力は凄まじいからな)
大臣(たくましい白ヒゲとその気性の激しさで“白獅子王”と呼ばれ)
大臣(大抵の人間は彼と目を合わせることすらできんという)
大臣(いかに相手の要求を少しでも抑えるか……という会談になるだろうな)
28 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:42:27 ID:gOEsDzto
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「はぁ~……」
皇后「オイオイ、くせー息吐くんじゃねえよ。環境破壊する気かよ」
皇帝「あ!? ──ったくお気楽でいいよなァ、専業主婦はよォ!」
皇帝「俺はあっちの国やらこっちの国やらと気ィきかせんの、大変なんだよ!」
皇后「ああ、隣国との会談があるから、それでビビってやがんのか」
皇后「たしかに隣国は、アタシの母国と同じぐらいの国力を持つ国だし」
皇后「しかもあそこの王はおっかねえからな。ツラもライオンみたいだしよ」
皇后「アタシの父上も王だが、温厚な父上とはだいぶタイプが違う」
皇后「そりゃアンタみたいなひよっ子じゃ話にならんわなァ!」
皇帝「誰がひよっ子だコラァ!」
皇后「ひよっ子の上にチキンだしよ、もうどうしようもねえじゃん!」
皇后「なんなら皇帝辞めて、養鶏場にでも就職したらどうだ?」
皇后「ま、雇ってもらえるわけねーけど! ギャハハハハッ!」
皇帝「このアマ……!」
29 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:46:29 ID:gOEsDzto
皇后「アンタみてーなケツの青い若造如きが、このデカイ国を代表するなんてのが」
皇后「そもそも、ちゃんちゃらおかしいわけで」
皇帝「んだとコラァ! 皇帝の重圧ナメンなよ、テメェ! 国背負ってんだぞ!」
皇后「んで重圧に押し潰されて、カエルみてえにペシャンコってわけか!」
皇后「アンタみたいなチキンカエル皇帝にゃ、お似合いの最期だわな!」
皇帝「好き勝手ほざきやがって……!」
皇后「やるか? ケガで会談欠席させてやろーか?」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「落ち込んでたのに、なんでこんなことしなきゃならねーんだ……」
皇后「アタシが聞きたいっての……」
30 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:52:59 ID:gOEsDzto
数日後、いよいよ隣国王との会談の日となった。
~ 帝国と隣国の国境 ~
大臣「あちらにある会場が、会談場所となります」
皇帝「ふ~む、なかなか洒落た建物ではないか」
大臣(……どういうことだ?)
大臣(もうまもなく会談だというのに、陛下は非常にリラックスしておられる)
大臣(まさか、隣国王をなめてかかっているのでは……)
大臣(いやしかし、いつも慎重な陛下に限って……)
皇帝「では、ゆこうか」ザッ
大臣「はっ!」
31 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 00:56:17 ID:gOEsDzto
~ 会議室 ~
皇帝が中に入ると、すでに隣国王は着席していた。
隣国王「これはこれは……お待ちしておりましたぞ! 皇帝殿!」ギンッ
皇帝「…………」
大臣(ううっ! なんという迫力……! これが“白獅子王”か……!)
大臣(国力も、国としての格も、まだまだ我が帝国が上なのだが──)
大臣(そんなことは関係ないとばかりの態度だ!)
大臣(気負っていかねば、我が国の利権を一気に奪われることになりかねん!)キッ
皇帝「隣国王殿、今日はよろしくお願いします」ニコッ
隣国王「!」
大臣(まるで、友だちに挨拶をするようなほがらかさで……!?)
………………
…………
……
会談はおよそ四時間にも及んだ。
32 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 01:01:18 ID:gOEsDzto
会談終了後──
隣国王「いやはや、有意義な時間を過ごさせていただきましたよ」ニィッ
皇帝「こちらこそ」ニコッ
皇帝「今後ともどうぞよろしく」
ガシッ……!
握手を交わす皇帝と隣国王。
大臣(無事終わった……)ホッ…
大臣(会談でも、陛下の弁舌が隣国王を一枚上回っていたといってよい)
大臣(まさかこんな結果になるとは……)
大臣(私は陛下の力をだいぶ過小評価していたようだ)
大臣(しかし、陛下にはまだ弟殿下という最大の政敵が残っているのだが……)
33 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 01:07:52 ID:gOEsDzto
帰りの馬車で、“白獅子王”こと隣国王は皇帝をこう評した。
隣国王「フフフ、正直驚いたな。あの皇帝が、まさかあそこまでの器とは」
部下「とおっしゃいますと?」
隣国王「普通、大帝国の頂点に立てば、人は“自分が国を背負う”と気張るものだ」
隣国王「しかし、あやつは──」
隣国王「国を背負おうなどとは考えず、あくまで己を一個人と認識していた」
隣国王「ゆえにプレッシャーも少なく、適度な緊張感を保っていた」
隣国王「虚勢も張らず、委縮もせず……なかなかできることではない」
隣国王「ましてあの若さでな……」
部下「…………」ゴクッ…
隣国王「今日は叩き潰してやるつもりでいたのだが、逆にしてやられてしまった」
隣国王「しかし、不思議と気分は悪くない」
隣国王「まったく面白い奴が出てきたものよ」
隣国王「ワァッハッハッハッハッハ……!」
35 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 01:13:21 ID:PrE/RPgg
いいコンビやな
36 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/12(木) 17:31:42 ID:JUZsgoLI
支援せざるをえないな
40 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 01:57:14 ID:64ATbHFg
しかし、隣国との会談を無事終えた皇帝を、さらなる事件が見舞う。
~ 宮殿内 ~
大臣「大変です、陛下!」
皇帝「どうした」
皇后「どうなさったの?」
大臣「東の都市で反乱が起き、都市の一部が占拠されたとのことです!」
皇帝「反乱だと……!?」
皇后「それで……状況はどうなのですか? 都市の方々はご無事なのですか!?」
大臣「詳しいことはまだ不明ですが、死者や大きな怪我人は出ていないということです」
皇帝「分かった。すぐ軍団長も交え、会議を開く!」
皇帝「妃は部屋に戻っていてくれ」
皇后「かしこまりましたわ」スッ…
41 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 01:59:00 ID:64ATbHFg
~ 執務室 ~
皇帝「軍団長、報告を頼む」
軍団長「はっ、反乱軍の規模はおよそ数百名」
軍団長「都市の役場や食糧庫といった要所を占拠しております」
皇帝「反乱軍を構成しているのは?」
軍団長「貧民層や少数民族の混成部隊とのことです」
大臣「東の都市にも常駐兵はいたはずだが……」
軍団長「完全に不意を突かれ、ほとんどが捕縛されてしまったようです」
軍団長「さらに、反乱軍は強力な刀剣で武装しているようで……」
皇帝「強力な刀剣……入手経路は分かっているのか?」
軍団長「事前にどこか武器庫を襲撃したのかもしれませんが、未確認です」
皇帝「ふうむ……」
皇帝(誰かが武器を渡した、のかもしれないな……)
皇帝「大臣、どうすべきだと考える?」
42 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:01:28 ID:64ATbHFg
大臣「隣国との会談が終わったばかりですし、見せしめとして徹底的に叩き潰すべきです」
大臣「小規模とはいえ反乱を長引かせれば、周辺国に示しがつきませんからな」
皇帝「ふむ」
皇帝「分かった。とにかく早急に対処せねばならん」
皇帝「軍団長は軍を編成、大臣らはさらに情報を集めてくれ」
皇帝「余は少し部屋に戻る」ガタッ…
軍団長「はっ!」
大臣「かしこまりました!」
43 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:07:00 ID:64ATbHFg
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇后「ぷっ、ぶぶっ、ぷっ……」
皇帝「なにがおかしいんだ、テメェ!」
皇后「だ、だって……反乱って……」ププッ…
皇后「ようするに、アンタが気にくわないってことだろ?」
皇后「ついに来るべき時が来たっつうか……歴史の必然っつうか……ぶふっ!」
皇后「今まで起きなかったのが不思議なくれーだもんよ! ギャハハハハハッ!」
皇帝「笑ってんじゃねーぞ、コラァ! マジ大事件だぞ!?」
皇后「だって誰も起こさないならアタシが起こそうとしてたくれーだし。この部屋でよ」
皇后「そうすりゃ今回みたく誰かを巻き込むことなく、クーデター完成だ」
皇帝「んだとォ……!?」
皇后「ま、アンタはせいぜい自分の行いを反省してろや!」
皇帝「うっせーよ、ボケ!」
44 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:11:04 ID:64ATbHFg
皇后「とりあえず、アンタをギロチンにかける役はアタシやっから!」
皇后「アンタの生首は、国中に晒してから生ゴミの日に捨てっから!」
皇帝「ざけんなよテメー! 国家反逆罪で反乱軍より先に死刑にすんぞ!」
皇后「やってみろゴラァ!」
皇后「反逆するにはそれなりの理由があんだよ!」
皇后「特にアンタみたいなクソがトップだとよ! 分かんねーか!?」
皇帝「このアマ……もう法に照らす必要なんざねー! テメェはここでブチ殺す!」
皇后「お、来いや!? 返り討ちにしてやんよ!?」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「くそっ……アホやってる場合じゃねえ。すぐ戻らねーと」
皇后「とっとと行け、クソが。みんな待ってんだろが」
45 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:13:13 ID:64ATbHFg
~ 執務室 ~
中座していた皇帝は、驚くべき結論を下した。
大臣「なんですと!?」
皇帝「うむ、一度話し合いの機会を設ける」
大臣「悠長なことを……! これはもう立派な反逆罪です! 内乱なのですぞ!」
皇帝「反逆するには、それなりの理由というものがある」
皇帝「ここで彼らを叩き潰せば、さらなる火種を生むことになりかねん」
皇帝「死者も出ておらず、反乱の規模がこの程度である今がチャンスなのだ!」
大臣「な、なるほど……」
ザワザワ……
皇帝(それに、落ちついて考えてみると──)
皇帝(ここで強硬策に出ると、彼らに武器を提供した者の思う壺になりかねない……)
………………
…………
……
46 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:16:33 ID:64ATbHFg
それからまもなく──
~ 街 ~
「号外、号外!」 「皇帝陛下が反乱軍を無血鎮圧!」 「スピード解決!」
市民A「うひゅ~! すっげぇなぁ!」
市民B「うん……みごとに話し合いだけで解決したもんね」
市民B「さすが陛下、反逆者に理由を問うなんてビックリだよ」
市民B「おまけにだいぶ寛大な処分で済んだみたいだし……」
市民A「それに反乱軍も、誰かにそそのかされてたみたいだしな!」
市民B「結局、黒幕は分からずじまいか……いったいどこの誰だろう?」
市民A「そりゃあれだ、今の体制に不満を持ってる奴が仕組んだんだろ」
市民B「そんな奴いるのかい?」
市民A「そりゃいるだろうさ……。ま、これに懲りてもう諦めて欲しいけどな!」
47 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:22:20 ID:64ATbHFg
~ 宮殿内 ~
弟「兄上め……うまく反乱をさばいたか」チッ
側近「はっ……」
弟「隣国との会談直後という微妙な時期でもあるし」
弟「必ずや反乱軍には強硬策を行使する、と思ったんだがな」
弟「そうすれば現状に不満を抱いている者は怒りと不安を覚え……」
弟「水面下で反皇帝の動きが広がり……」
弟「そこに武器を提供すれば、さらなる大反乱が起こり、ボクが付け入る隙が生まれる」
弟「……はずだったのだが」
側近「こうなった以上、この策を続けるのは難しいでしょう」
弟「ふん……こうなれば仕方ない」
弟「直接対決だ。このボクが自ら動いて、兄上を追い落とす!」
側近「しかし殿下……皇帝が強権を発動したら……」
弟「フフフ、心配はいらない。あの兄にボクをどうこうする度胸はないさ」
48 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:26:13 ID:64ATbHFg
ついに表立って動き出した弟の影響で、帝国上層部のバランスが崩れ始める。
~ 執務室 ~
大臣「陛下……すでにご存じかと思いますが」
大臣「弟殿下が有力貴族や諸侯に、金品をバラ撒いているとの噂が……」
大臣「さらに帝国軍に赴き」
大臣「自分ならば兵士への待遇をよりよくする、などと吹聴しているとか……」
皇帝「……耳には入ってきている」
大臣「古今東西、どのような国の最高権力者にとってもいえることですが」
大臣「親族は最大の政敵にもなりえるのです! ここは厳しい処分を──」
皇帝「いうな、大臣」
皇帝「あれでも……血を分けた唯一の弟なのだ……」グッ…
大臣(陛下……)
49 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:29:14 ID:64ATbHFg
~ 宮殿内 ~
側近「殿下、予想以上の効果です」
側近「皇帝陣営の動揺はかなりのものです」
弟「フフッ、当然だろう」
弟「しかし、兄上はなにも手出しできんさ」
弟「今でこそ名君だとかチヤホヤされているが──」
弟「遠い記憶だが、昔の兄上は烈火の如き燃えるような気性を持っていた」
弟「しかし、父上が死に、皇帝になってからはすっかり大人しくなってしまった……」
弟「あれでは帝国は弱くなるばかりだ!」
弟「成長する周辺諸国や、北方の異民族にもいずれ出し抜かれる!」
弟「皇帝という地位に慢心し、たるんでしまった兄上など、もはやボクの敵ではない」
弟「手を緩めるな! 一気に兄上を皇帝の座から引きずり下ろす!」
側近「はっ!」
50 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:32:00 ID:64ATbHFg
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇后「聞いたぜぇ?」
皇后「反乱軍の次は、弟さんに刃向かわれてるんだってな?」
皇后「まさに敵だらけだなァ! それでも皇帝かよ、ギャハハハハハッ!」
皇帝「うっせえ、黙れ! その薄汚ねえ口を閉じやがれ!」
皇后「しっかし、滑稽だなオイ」
皇后「仮にも国で一番偉い男が、実の弟に手も足も出ねーんだからよ」
皇帝「ンだとォ……!?」
皇后「ま、このままいきゃあこの国はあの弟さんのもんだろ」
皇后「したら、アタシも弟さんに乗り換えなきゃなァ」
皇帝「抜かせ、クソビッチが!」
皇后「ビッチだと!? 甲斐性ナシがほざいてんじゃねーよ!」
51 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:35:36 ID:64ATbHFg
皇后「それとも弟が怖いってか!? ビビってんのか!? お兄ちゃんよォ!」
皇帝「怖くねーよ! ただ疎遠になってたしよ……ちょっと気まずいだけだ!」
皇后「だったらぶつかってみろや……どうせ大した能もねえんだからよ!」
皇后「あれこれ考えたって時間の無駄だっつうの!」
皇帝「外野のくせにギャーギャーうっせんだよ、テメェは!」
皇后「悔しかったら外野を黙らせるぐらいシャキッとしろ、タコが!」
皇后「いや、イカ臭えんだよ、アンタは!」
皇帝「このアマ……そんなに海の幸が好きなら、海に沈めてやる!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「くっそ、弟は逆らうし妻はもっと逆らうし……俺の家族はひどすぎる!」
皇后「そりゃこっちのセリフだ、ボケ!」
52 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:38:24 ID:64ATbHFg
~ 宮殿内 ~
皇帝は弟に接触を試みることにした。
弟「二人きりで話をしたいだって?」
皇帝「ああ……」
弟「場所は?」
皇帝「玉座の間だ」
皇帝「あそこならば、兄弟で腹を割って話せるだろう?」
弟(なにを考えている……? まさかボクを暗殺するつもりでもあるまい……)
弟(反乱軍のようにボクを懐柔するつもりか? ……無駄なことだ)
弟(そうだ……これを機会に徹底的に兄上を言い負かしてやろう)
弟(そうすれば今後の展開がさらに有利になる!)
53 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:42:13 ID:64ATbHFg
~ 玉座の間 ~
皇帝「単刀直入にいわせてもらう」
皇帝「弟よ、お前は近頃余の周辺を荒らし回っているようだな」
弟「これはこれは……荒らし回っているとは失敬な」
皇帝「お前が何がしたい? いったい何が目的なのだ?」
弟「さぁ?」
皇帝「先の反乱……反乱軍に武器を提供したのはお前か?」
弟「どうでしょうかねえ?」
皇帝「…………」
皇帝「お前は余から皇帝の座を簒奪するつもりか?」
弟「……だとしたら?」
皇帝(ここは……威厳を見せなければ!)
54 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:46:02 ID:64ATbHFg
皇帝「ならば余は兄として、皇帝として、忠告する」
皇帝「これ以上放っておけば、今度こそお前の下らぬ策で死者が出てしまうかもしれぬ」
皇帝「今日からは容赦しない」
弟「…………!」
弟(く……怯むな! 兄上がボクに何かをできるわけないんだ!)
弟「へえ……どう容赦しないっていうんだ?」
弟「糾弾するか? 追放するか? 死刑台に送るか!?」
弟「やってみろ!」
皇帝「!」
弟「ボクは皇帝になって変わってしまったあなた──いやキサマなどに負けはしない!」
弟「この国を昔のような人々に畏怖された帝国に戻せるのは、ボクだけなんだ!」
皇帝「むむむ……」グッ…
皇帝(機先を制された……こうまでハッキリいわれてしまうと……)
55 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 02:49:46 ID:64ATbHFg
弟「とはいえ、あなたはボクにとっても唯一の兄、お命を奪うのも忍びない」
弟「とっととボクに皇位を譲り、田舎にでも引きこもっていろ!」
弟「あのお美しい義姉(あね)と一緒に、二人きりで暮らすがいい!」
皇帝(うわ……田舎に隠居ってのはともかく、アイツと二人きりは絶対イヤだ)
弟「そうだ! なんならボクがあの人をもらってやってもいいか!」
皇帝「!」
弟「元は皇后も他国から嫁いできた高貴な身、“元皇帝”などとは釣り合うまい!」
皇帝(弟がアイツと、結婚……!?)
皇帝(マズイ……それだけは止めねばならん!)
皇帝(いくら政敵とはいえ、たった一人の弟なんだから……!)
ガシィッ!
弟の胸倉を掴む皇帝。
弟「う、うげっ……!?」ゲホッ…
皇帝「……いい加減にしろよ、テメェ」グイッ
56 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 03:10:56 ID:64ATbHFg
弟「は、はなせ……!」
皇帝「なんでテメェはそうなんだ!?」
皇帝「母上が病で亡くなり、父上も後を追うように倒れ……俺は寂しかった!」
皇帝「だが、皇帝としてなんとかやってきた!」
皇帝「お前とは決して仲がいいとはいえなかったが、肉親として情を持っていた!」
皇帝「だからなるべく好きにさせといたが……」
皇帝「これ以上やるんならもう容赦しねえ……俺はテメェを止める!」
皇帝「どんな手を使ってもな……!」
弟「…………!」ゾクゾクッ
弟(このボクが、震えている……!?)
弟(鬼のような気迫だ……。か、勝てる気が……しない……)
弟(兄上は……変わっていなかった……。ただ表に出さなくなっただけなんだ……)
弟(それにしても皇后のことを口に出しただけで……)
弟(これほど怒りをあらわにするとは……)
弟(兄上はそれだけ深く……彼女を愛している、ということか……)
57 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 03:12:47 ID:64ATbHFg
皇帝(しまった……! つい皇帝っぽい言葉づかいを忘れちまった!)
弟「フ、フフ……フフ……」
皇帝(まずい! こんな恫喝したことを世間にバラされたら──)
弟「反論、したいところ、だが……なにも言い返せないよ」
弟「震えが……止まらない……」
弟「まさか一対一で、こうも器のちがいを……見せつけられるとは……」
皇帝(なんの話だ? なにいってるんだこいつ?)
弟「兄上……。ボクは兄上ならば、帝国を強くできると分かった」
弟「これからは、弟として兄上を支える……!」ガクッ
皇帝「!?」
皇帝「そ、そうか……分かってくれて余も嬉しいぞ」
皇帝(急に素直になるなんて……絶対罠だろ、これ。怪しすぎる……)
58 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 03:15:57 ID:64ATbHFg
その後、皇帝の心配とは裏腹に、弟の反皇帝運動は沈静化していった。
~ 宮殿内 ~
弟「義姉上」
皇后「あら……弟様、どうかなさって?」
弟「相変わらずお麗しい……」
皇后「まぁ、お上手だこと」クスッ…
弟「どうかこれからも、兄上を愛してあげて下さい」
弟「兄上があなたを愛しているように……」
皇后「……もちろんですわ」
弟「フフ……ではこれで」
弟(ボクは兄上と……あなたに負けたのですから……)
59 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 03:18:53 ID:64ATbHFg
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇后「さっき弟さんから話しかけられたが、なんかあったのか?」
皇帝「弟が? ああ、もしかしたらアレのことかな」
皇后「アレって?」
皇帝「この前、アイツがお前と結婚したいみたいなことを抜かしてたから」
皇帝「あんなゴキブリの下位互換みたいな女はやめとけ、って忠告しといたんだよ」
皇后「オイコラァ!」
皇后「女に向かっていっていいセリフじゃねえぞ、謝って取り消せ!」
皇帝「そういうセリフはな、お前みたいなクソブスがいっていいセリフじゃないから」
皇帝「せめて整形してからいうようにしろよ……いや整形しても無理か。というか無駄か」
皇后「んだとコラァ!」
皇帝「分かった分かった、あとでゴキブリに謝っておくわ」
皇后「アタシに謝れ、カス!」
60 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 03:30:17 ID:64ATbHFg
皇后「マジで弟さんに乗り換えっからな!」
皇帝「テメェみてえな外道に、大切な弟は渡さねーよ!」
皇后「はァ? もしかしてブラコンか、アンタ?」
皇帝「ブラコン?」
皇后「オイオイ、ブラコンも知らねーのかよ……この無知皇帝は」
皇帝「し、知ってるから! え、と……ブラジャーコンプレックスだろ!?」
皇后「全然ちげえ! つか、なんでブラジャーが出てくんだ!」
皇帝「いや、貧乳すぎてブラジャーもつけられないお前を指した言葉だよ」
皇后「貧乳じゃねーし! バッチリ胸あるし! なんならさわってみるか!?」
皇帝「いや……乳首から毒液とか出てきても困るし」
皇后「出ねーよ!」
61 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/13(金) 03:33:08 ID:64ATbHFg
皇帝「もういい! とにかく勝負だ!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
皇帝「弟とは仲直りできたが……テメェとは一生かかっても無理だな」
皇后「一生どころか一回死んで生まれ変わっても無理だ」
どうにか帝国内の平和を取り戻した皇帝と皇后。
しかし、そんな二人に最大の試練が訪れることになる──
67 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:21:14 ID:rWthKoJM
~ 宮殿内 ~
兵士「大臣、大変な知らせが入りましたッ!」ザッ
大臣「どうしたのだ?」
兵士「北方民族が……南下を始めました! それもこれまでにない規模です!」
大臣「な、なんだとォ!?」
北方民族──
この帝国や隣国、皇后の母国などがある地方から、北に居を構える異民族。
気候風土はもちろん、文化や風習も帝国などとは全く異なる。
しばしば南下しては、帝国を始めとした周辺諸国を荒らし回ってきた歴史を持つ。
近年は穏健な人物が首長となり、大人しくなっていたと思われたのだが──
68 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:26:02 ID:rWthKoJM
~ 執務室 ~
皇帝「北方民族……」
皇帝「今の首長となり、気質が穏やかになったと聞いていたが」
皇帝「あれは、こちらに隙を作るための偽情報だったということか」
大臣「はっ、このままでは帝国──いや、周辺諸国まで奴らに食い荒らされます!」
皇帝「…………」
弟「兄上、北方民族は北の厳しい大地で培った強力な騎馬兵団を持ち」
弟「武術や戦術も我々とはちがう」
弟「帝国軍だけでは、到底太刀打ちできない」
弟「隣国や皇后殿の故国はもちろん、周辺諸国に協力を仰がねば……」
皇帝「分かっておる」
皇帝「すぐに各国に檄文を飛ばすのだ!」
皇帝「北方民族には、我が帝国軍を中心とした“連合軍”で対抗する!」
69 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:29:23 ID:rWthKoJM
大臣「陛下……」
大臣「おそらく陛下のご人望ならば、連合軍を組むことは可能です」
大臣「ですが、あの獰猛な北方民族に対抗できるほどに士気を上げるためには」
大臣「陛下自ら出陣し、先頭に立たねばならぬ場面もあるかと……」
皇帝「むろん、そのつもりだ」
皇帝「盟主である余が先頭に立ち、連合軍を鼓舞せねば、勝利はありえぬだろう」
弟「お待ち下さい、兄上!」
弟「もし兄上が倒れられたら、この国はどうなるのです!」
皇帝「もしもの時は……弟よ、余の後を頼んだぞ」
弟「兄上っ……! 兄上がいなくなったらボクはっ……生きていけません!」
皇帝「お前ならば、余がいなくとも大丈夫だ」
皇帝(俺がいなきゃ生きていけないとか、アイツは絶対いわないだろうな……)
大臣(外交もうまくいき、陛下も弟殿下と和解し、これからという時だったのに……)
大臣(今回の北方民族の南下……。まさに陛下にとっては最大の試練となるだろう……)
70 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:32:49 ID:rWthKoJM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「とまぁ、こういうわけだから、ちょっくら出てくらぁ」
皇后「おう、戦死してこいや」
皇帝「第一声がそれかよ!?」
皇后「帝国のトップらしく、最期くらい華々しく散れよ!」
皇后「アンタが死んだらバカ皇帝追悼式やっからよ、ド派手にな!」
皇后「花火打ち上げて、カーニバルして……一ヶ月はどんちゃん騒ぎだ!」
皇帝「ふざけんなよ、テメェ……!」
皇帝「絶対そんなことはさせねえ! させてたまるか!」
皇帝「北方民族を追い返して帰ってきたら──」
皇帝「真っ先にテメェの首を取ってやる! んで城門にさらす! 一生さらす!」
皇后「これから死ぬアンタにできるわけねーだろ!」
71 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:35:09 ID:rWthKoJM
皇帝「俺はぜってー戻る!」
皇帝「テメェより先にくたばるなんて耐えられねえ! 悔しすぎる!」
皇后「ふん……死体になって帰ってきたら」
皇后「骨は砕いて海にバラまいて、鮫のエサにでもしてやっからよ!」
皇帝「俺をナメるなよ、クソアマ!」
皇帝「俺はテメェよりも一分一秒でも長く生きて」
皇帝「テメェが死んだら祝賀パーティーを開いてやるんだからよ! それが夢だ!」
皇后「やってみろ、コラァ! なんなら今ここでケリつけちまうか!?」
皇帝「上等だァ!」
皇帝「うおおおおおっ!」
皇后「きえええええっ!」
ドタン! バタン! ドタン! バタン!
皇帝「ハァ、ハァ……」
皇后「ゼェ、ゼェ……」
72 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:39:14 ID:rWthKoJM
~ 街 ~
皇帝が軍団長とともに、軍を率いて出陣する。
ワァァ…… ワァァ……
市民A「うひぇ~! 皇帝陛下のご出陣だ!」
市民B「中央平原で他国の軍隊と合流して、北方民族と戦うんだったよね」
市民B「勝てるかなぁ……」
市民A「バッキャロウ! 皇帝陛下が負けるわけねえだろ!」
市民B「でも……相手が悪すぎるよ」
市民B「宮殿内じゃ、陛下の命ですでに陛下亡き後の準備もしてあるって聞くし……」
市民A「…………」
民衆に向けて拳を振り上げる皇帝。
皇帝「余は必ず勝って戻る! 安心していてくれ!」
ワァァァァァ……
73 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:43:05 ID:rWthKoJM
皇后たちもまた、皇帝の出陣を眺めていた。
弟「兄上……どうか死なないで! 神よ、兄上に勝利を与えたまえ!」
皇后「…………」
大臣(これから最愛の夫が死地に向かわれるというのに……)
大臣(皇后様は落ちついておられる……なんという気丈な方だろうか)
大臣(本当は誰よりも辛いはずなのに……)
大臣「皇后様、陛下は必ず戻られますよ」
皇后「ええ」
皇后「わたくし、あの方を信じておりますもの」
皇后(さて、準備をしないと……)
74 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:45:32 ID:rWthKoJM
~ 中央平原 ~
蛮勇を誇る北方民族に対抗すべく、各国軍隊が集結する。
皇帝「みんな、余の呼びかけに応じてくれてありがとう!」
皇帝「今回の戦いは、我が帝国や各国だけではない」
皇帝「この地方全ての平和を勝ち取るための戦いだ!」
皇帝「敗北は許されぬ!」
皇帝「恐れるな、皆には余がついておる!」
ウオォォォ…… ワァァァァ……
75 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:48:25 ID:rWthKoJM
各国の王と、挨拶を交わす皇帝。
皇帝「これは隣国王殿!」
隣国王「あの会談以来ですな、ワァッハッハッハッハ……」
隣国王「ワシも“白獅子王”などと呼ばれる身、及ばずながら力になりましょうぞ」
皇帝「あなたが味方というのは、本当に頼もしいですよ」
さらに──
皇后父「ど~も」
皇帝「おお、義父上も来て下されたか!」
皇后父「なにしろ義理の息子からの呼びかけですからなぁ~」
皇帝「義父上こそ、王国ほとんどの兵を出してくれたようで、感謝しております」
皇帝(なんでこんないい人からアイツが生まれるんだか……突然変異か?)
軍団長(帝国はもちろん、周辺国全ての主力が集まっている……)
軍団長(あとは士気さえ上がれば、この戦……勝てるかもしれん!)
76 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:53:48 ID:rWthKoJM
連合軍が北上を開始すると、まもなく北方軍と遭遇した。
~ 戦場 ~
皇帝「あれが……北方民族の軍隊か」
軍団長「どうやら連合軍を待ち受けていたようですな……恐ろしい余裕です」
首長「グハハハッ! キサマら軟弱民族に、策など不要よ!」
首長「ザコが集まってくれて好都合だ……まとめて片付けてくれるわ!」
ウオォォォ……! ウオォォォ……!
軍団長(ぐ……なんてことだ! 北方軍の士気はこちらを一歩も二歩も上回っている!)
軍団長(やはり陛下が先頭に出るのは危険すぎる!)
軍団長「陛下、下がって──」
皇帝「いや……ここで余が出ねば、連合軍の敗北が決定する!」
皇帝「皆の者、余に続けェ! 全軍突撃ィィィッ!!!」
軍団長「はいっ!!!」
77 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 01:58:12 ID:rWthKoJM
他国の軍も、皇帝に呼応する。
隣国王「ふん、まさか本当に皇帝が先頭に立つとはな……やりおるわ」
隣国王「我が軍も帝国に負けておれんぞ、続けぇっ!」バッ
ウオオオォォォォォ……!
~
皇后父「よいか、みんな」
皇后父「可愛いわしの娘を未亡人にしてはならんぞ~い!」
ワアアアァァァァァ……!
~
「我が軍も突撃だ!」 「帝国軍を援護しろっ!」 「この地を守るんだ!」
~
馬にまたがり剣を手に、北方軍に突撃する皇帝。
皇帝「いざ参るッ!」ドドドッ
北方兵「バカじゃねーか、いきなり大将首が突っ込んできやがったぜ! 死ねやァ!」
78 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:01:13 ID:rWthKoJM
皇帝「うおおおおおっ!」ビュアッ
ザンッ……!
北方兵「うぎゃっ!?」ドザァッ
皇帝「うおおおおおっ!」シュバッ
ザシュッ! ドバッ! ズシャッ!
皇帝の剣が、次々に敵兵を斬り飛ばしていく。
軍団長(つ、強い! 普段の穏やかな陛下とはまるで別人……!)
軍団長(これは単に武芸に優れているというだけではない……)
軍団長(皇帝陛下はケタ外れの闘争心を持っておられる!)
軍団長(しかし、あの宮殿生活の中、どうやって闘争心を培ったのだろうか……?)
皇帝「うおおおおおおおおおおおっ!!!」
ズバシュッ……!
79 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:06:40 ID:rWthKoJM
一方、宮殿では──
メイドA「陛下が出陣してから、皇后様はずっと寝室にこもりっきりね」
メイドB「きっと陛下の無事を祈ってらっしゃるのよ」
メイドA「ちなみに弟殿下は祈願に滝浴びをしすぎて、ひどい風邪をひいたそうよ」
メイドB「あんなに仲が悪かったのに、今やすっかりブラコンね」
メイドA&B「オホホホホホ……」
~
皇后「こんなこともあろうかと、異国から仕入れていてよかった……」
皇后「この大量のワラ人形と五寸釘で、アイツをあの世に送ってやる!」
皇后「きええええええっ!」ガンガン!
皇后「きええええええっ!!」ガンガンガン!
皇后「きえええええええええっ!!!」ガンガンガンガンガン!
80 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:12:53 ID:rWthKoJM
~ 戦場 ~
皇帝「ぐっ……!」ズキッ…
皇帝(伝わってくるぞ、あの女の呪いが! 怨念が! 殺意が!)ズキズキ…
皇帝(今この世で誰より俺の死を望んでるのは、北方民族じゃない)
皇帝(あのクソアマだ!)
皇帝(北方民族の強さや獰猛さはやっぱり予想より凄まじいし)
皇帝(ここが俺の死に場所か、と覚悟を決めてた部分もあったが──やっぱゴメンだ!)
皇帝(あの女より先に死ぬのはまっぴらだ! 絶対生き残る!)ギロッ
皇帝「死んで……たまるものかァ!」
皇帝「余には皇后がいるのだからァ!!!」
皇帝「うおおおおおおおおおっ!!!」ビュアッ
北方隊長「わ、わわっ!」
ザシュッ!
皇帝「北方軍の隊長一人、余が討ち取ったりィ!」バッ
ウオオォォォォ……!
81 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:19:09 ID:rWthKoJM
……
…………
………………
連合軍と北方軍の戦力は拮抗し、戦争は十日以上にも及んだ。
そして、ついに──
首長「ぐうう……一気に決めるはずが、こうまで手こずるとは……!」ギリッ…
首長「奴らがここまでの力を持っているとは、誤算だった……! もう兵糧もない……」
首長「……全軍退却だ! 馬はこちらの方が速い!」
ワァァ…… ワァァ……
軍団長「おおっ、退却していく……」
軍団長「やりましたよ、陛下! 連合軍の勝利です!」
皇帝「あ、ああ……」ボロッ…
82 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:23:11 ID:rWthKoJM
皇帝「北方民族は我らの反撃になすすべなく、逃げ帰った!」
皇帝「連合軍の大勝利だ!」
皇帝「各国軍隊のみんな、よくやってくれた!」
皇帝「ありがとう……!」
皇帝「本当にありがとう!」
ワァァ…… ワァァ……
隣国王「ワァッハッハ……この短い間で、すっかり周辺国のリーダーになってしまったな」
皇后父「義父として鼻が高いですわ~い」
こうして連合軍は解散し、それぞれがそれぞれの国に帰った。
83 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:27:12 ID:rWthKoJM
~ 宮殿 ~
大臣「陛下、おめでとうございます! ご無事でなによりでした!」
弟「兄上こそ真の英雄です! ……くしゅんっ!」
皇帝「ありがとう、二人とも」
大臣「ではさっそく、盛大に陛下の凱旋式を──」
皇帝「いや……まずは妃に会いたい。どこにいる?」
大臣「おっと、そうでしたな」
大臣「皇后様はこの二週間、ほとんど寝室から出てこられませんでしたが」
大臣「おそらく寝室で陛下をお待ちしているはずです」
皇帝「すまぬな」ザッ…
弟(真っ先に皇后殿のもとに向かうとは……)
弟(やはり、兄上は皇后殿を深く愛しておられるのだな……)
弟(なんだか嫉妬すら感じてしまうよ……)
弟「ハーックション!」
84 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:31:02 ID:rWthKoJM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「……残念だったな、戻ってきちまったぜ」
皇后「……ちっ」
皇帝「つか、なんだこの部屋!?」
皇帝「ワラ人形だらけじゃねえか! 釘が刺さりまくってるしよ!」
皇后「くっそ、呪いは通じなかったか」
皇帝「しかも、『祝・皇帝戦死』なんてド派手なパネルまで作りやがって!」
皇后「せっかく手作りしたのに台無しになっちまった」
皇后「どっかのバカがのこのこ逃げ帰ってきたせいでよォ!」
皇帝「逃げてねえし! 戦ったし! わりと活躍したし! つーか勝ったし!」
85 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:36:37 ID:rWthKoJM
皇后「あ~あ、ったくつまらねえ結末になっちまった」
皇后「国もみんなも助かって、アンタ一人だけ死ねば最高だったのによ」
皇帝「ほざいてろ!」
皇后「あ~あ……」ポロッ…
皇帝「あ……? なに泣いてんだ、テメェ」
皇后「く、悔し涙だよ! アンタが生きて帰ってきちまったから……」グスッ
皇帝「う……」ポロッ…
皇后「アンタこそ……なに泣いてんだよ?」
皇帝「あ、これは……テメェの悔しがる姿を見れた、嬉し涙だよ!」グシュッ…
皇后「…………」ポロポロ…
皇帝「…………」グシュッ…
二人の目から大粒の涙がこぼれる。
86 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:41:33 ID:rWthKoJM
皇帝「うっ……」グスッ
皇后「う、くっ……」グシュッ…
皇帝「うおおおぉぉぉぉ~~~~~~んっ!!!」
皇后「うわあぁぁぁ~~~~~~んっ!!!」
皇帝「うおおおおぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~んっ!!!」
皇后「うわわぁぁぁ~~~~~~~~~~~~んっ!!!」
皇帝「うおおおぉぉぉ~~~~ん! うおおぉぉぉぉぉ~~~~~ん!!!」ガシッ…
皇后「うええぇえ~~~ん! うわあぁぁ~~~~~~~~ん!!!」ギュッ…
うおぉぉぉ~ん…… うええぇぇ~ん……
二人は抱き合ったまま、完全防音の部屋でいつまでも泣き続けた……。
………………
…………
……
87 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:45:23 ID:rWthKoJM
時は流れ、十年後──
~ 宮殿前広場 ~
ワァァ…… ワァァ……
皇帝「本日は帝国式典を存分に楽しんでくれたまえ」
皇后「皆さまの元気なお姿を見られて、大変嬉しいですわ」
市民A「うひょ~! 皇帝陛下はすっかり貫禄がついたな!」
市民B「皇后様だって、さらに美しさと気品に磨きがかかってきた感じだ」
市民A「それに、ついに弟殿下が帝国軍単独で北方民族を追い払ったしな!」
市民A「弟殿下があそこまで策略に長けていたとは驚きだぜ!」
市民B「帝国はもしかして、これからが最盛期といえるのかもしれないね……!」
ワァァ…… ワァァ……
88 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:49:11 ID:rWthKoJM
~ 皇帝夫妻の寝室 ~
皇帝「テメェ、コラァ!」
皇帝「さっき退場する時、わざと俺の足踏んだだろ! いてぇだろうが!」
皇后「あ!? アンタこそ、手ェ振る時、どさくさ紛れにアタシの頭叩いたろうが!」
皇帝「脳みそが故障してるみたいだから、直そうとしてやったんだよ!」
皇后「ほざくな! アンタは全身が故障してんだろが! ポンコツ皇帝がよ!」
皇帝「やんのかコラァ!」
皇后「来いよ! 今日こそ三途の川渡らせてやんよ!」
娘「ちょっと、ちょっと」
娘「二人とも、いい加減にしてよね! いい年してみっともない!」
皇帝&皇后「!」
89 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:53:49 ID:rWthKoJM
皇帝「う、ぐ……」
皇后「むむ……」
娘「ほら、仲直りの握手」
皇帝&皇后「はい……」ギュッ…
皇帝(この憎きクソアマの股から出てきた娘……なのに)
皇后(この憎きクソヤロウのオタマジャクシだった娘……なのに)
皇帝「可愛いよぉ~! さっすが俺の娘!」ナデナデ…
皇后「可愛すぎる~! さすがアタシの娘!」ナデナデ…
娘「はぁ……」
娘「あたしがしっかりしないと……この国は滅ぶわ」
90 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 02:56:21 ID:rWthKoJM
皇帝「じゃあパパと、お風呂入ろうか?」
娘「イヤよ!」
皇后「じゃあママと、お絵かきする?」
娘「いい! あたし勉強する! ジャマしないでね!」プイッ
皇帝&皇后「そ、そんなぁ……」
皇帝「くっ、娘が俺になびかないのはテメェのせいだ!」
皇后「だからほざくな! アンタのせいに決まってんだろうが!」
娘「あ~また始まった……!」
──────
────
──
91 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 03:02:31 ID:rWthKoJM
皇帝夫妻の一人娘は、後に次代皇帝“女帝”として帝国に君臨することとなる。
そして、北方民族との和睦や、他国同士の戦争の仲裁など数々の偉業を達成し、
“仲裁女王”の異名を残すまでになる。
しかし、彼女はこれらの偉業を成すたび、こう笑ったという──
「あの二人を仲裁するのに比べれば、なんてことないわ」
“あの二人”とは誰を指すのか?
彼女自身の口から語られることは一切なかったため、
今もなお歴史家の間ではさまざまな説が流れている。
なお、その中の一説に『女帝の両親が、“あの二人”なのでは』というものがあるが
女帝の父母は帝国史屈指のおしどり夫婦だったとして有名であり、
この説は俗説の域を出ていない。
── 完 ──
92 :
◆M7i4SVP2Fw :2014/06/14(土) 03:04:37 ID:rWthKoJM
以上でこの物語は完結となります
読んで下さった方
レス下さった方
ありがとうございました!
93 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 03:12:24 ID:0o8O31MI
面白かった!乙乙!
94 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 03:14:49 ID:4ZyUoY6s
乙!
95 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 03:15:46 ID:kj8bfRvs
乙です
面白かったよー
96 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 03:16:58 ID:/zBoA8w2
ブラボー!乙
97 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 07:42:29 ID:HwZ6tN2U
乙
このテンポ大好き
100 :
以下、名無しが深夜にお送りします :2014/06/14(土) 08:26:54 ID:hy1rVKsU
超良かったよ
乙
転載元
皇帝「このクソブスが!」皇后「お、勝負すっか!?」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1402494440/ 山野辺りり
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