1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:18:33.67 ID:4uW9Ft3k0
目が覚めるとまだ暗かった。
まぶたを閉じても蒸し暑く寝苦しいだけで、ちっとも眠くない。
往生際悪く寝返りを数度打ち、寝汗の不快感に負けてムクっと起きた。
P「休みだからって寝すぎたな……。今何時だよ?」
時計を見ると午前3時だった。
枕元に転がったペットボトルを開封して飲むとほどよく温まっていた。
P「まずっ」
何も考えずにPCの電源を入れると、日替わりアイドルのシステムボイスが響いた。
慌てて音量を調整。隣人は気が短いのだ。
特に反応のないことにホッとすると専ブラを起動した。
3 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:23:24.81 ID:4uW9Ft3k0
聞かれたことがないので誰も知らないが俺の趣味は2chだ。
趣味の専門板から虚実織り交ざった情報を得るために始めた。
当初はそれこそ初心者なら誰でもやるような失敗―――本名を書いたり、ブラクラを踏んだり、
「通報しました」に本気でビビったり―――をしていたが、数ヶ月でおおよそのローカルルールは理解できた。
あちこちの板を巡回して、最後にvipを開く。
P「うーん……、この時間だとやっぱり少ないなぁ」
少ないと言ったら語弊があるかもしれない。
他の板とは比較にならないほどの勢いでスレッドが推移しているからだ。
俺が探しているのはいわゆる「SS」スレである。
語源はショートストーリーだったり、サイドストーリーだったり、ショートショートだったり。
まぁなんでもいいけど、要は文章による二次創作である。
特に俺が好んで読むのはウチのアイドルがモチーフとなった「アイドルマスター」という作品のSSだ。
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:26:54.94 ID:4uW9Ft3k0
ゲームから始まり、CD、ライブ、アニメとけっこうなコンテンツになったが、
実際の彼女達を知る身としては噴飯物の設定もちらほらある。
例えば春香は料理が苦手だ。
お菓子作りが趣味なのは本当だが、まともに食べられるものが出てきた試しがない。
千早は18を過ぎたころから急激に胸が大きくなって72という数字に何の反応も示さなくなった。
やよいはと言えば、しっかり物なのはゲームと同じなのだが、稼いだ金を堅実に運用して新居を構えている。
そんな感じだ。
……別にゲームの設定を批判しているわけではない。
強調されたイメージは分かりやすい共通認識となって、プレイヤーに親しみやすさや新規への理解を手助けするだろう。
それに―――こう言ってはなんだが―――俺は現実のアイドルよりも、
SSのように魅力をデフォルメされた彼女達のほうが好きだったりする。
本人達の前では口が裂けても言えないけど。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:30:35.28 ID:4uW9Ft3k0
ともあれ俺はこうして、より良質のSSを探していたのだが、大半がニートのvipでもこの時間帯はSS自体が少なかった。
P「ニートの癖に生意気に寝やがって」
めちゃくちゃ言いながら何度も板を更新したが一向に増える気配はなかった。
P「どうすっかなぁ……」
まとめサイトで読んでもいいのだが、やはり臨場感というかライブ感というか。
リアルタイムで読みたいという自分でもよく分からない欲求が強くあった。
P「自分で書くか?」
呟いて苦笑する。
文章と言えば杓子定規な書類か、やたらと誇張された企画書程度しか書いたことのない俺に作文が出来るとは思えなかったからだ。
最後に書いたのは中学の読書感想文で、それも先生に「あらすじ以外もちゃんと書きなさい」と言われるレベルだ。
7 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:35:28.32 ID:TCakdv9Q0
その辺にしとけよ音無
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:35:57.64 ID:4uW9Ft3k0
だけど一度生まれた衝動は燠火のようにくすぶって
P「……」
子供のころ、海に出かけるときみたいに胸がドキドキした。
どうせ暇つぶしなのだから即興だ。
評判が悪ければすぐにやめればいい。
日が変われば全部なかったことになるよ。
そうやって自分に言い訳をしながら俺は初めてのSSを書き始めた。
考えてみれば、スレを立てるのすら初めてだった。
メインキャラ、ジャンル、テーマを書いてください
※書かれた順番に当てはめていきます
※人いないんで複数回答アリでお願いします
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:36:46.63 ID:hP2u2T800
ピヨ
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:37:31.18 ID:6iyFZws80
まっちょまっちょりーん
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:38:11.42 ID:hP2u2T800
微エロでお願いします
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:39:43.01 ID:4uW9Ft3k0
P「じゃあ小鳥さんにするか」
小鳥さん―――今の苗字はなんだったっけ―――は数年前に寿退社していた。
密かに狙っていたのだが、結局飲み友達の領域を超えることはなかった。
P「綺麗だったなぁ……」
純白のウエディングドレスを来て泣きながらバージンロードを歩く小鳥さんは今も目に焼きついていた。
女々しく彼女との思い出を反芻しながら、こうなったら良かったな、と思った。
14 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:41:37.13 ID:4uW9Ft3k0
P「ジャンルは微エロ……」
ちょっと恥ずかしくなった。
人妻を使って妄想をするだなんて。
まぁvipに来てる時点で何を言わんかやだ。
開き直って1レス目を埋めていく。
大まかな流れを考えて、キーボードを不器用に叩いた。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:44:47.18 ID:3QOpxXSh0
テーマ:嫉妬
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:45:29.10 ID:4uW9Ft3k0
P「テーマはどうしようか?」
微エロというジャンルは扱いが難しく、なにか小道具が必要に思えた。
例えば、以前読んだSSでは俺ではないプロデューサーが―――俺はバイクの免許は持ってないので、ハッキリと別人だ―――
春香とツーリングに行っていた。
この場合、ジャンルは恋愛、テーマはツーリング、乃至はバイクとなる。
微エロに相応しいテーマ……。
すぐには思いつかなかった。
立ち上がって紙コップに氷を入れると、ぬるいスポーツドリンクで溶かした。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:50:06.79 ID:4uW9Ft3k0
俺は小鳥さんの姿を思い浮かべた。
彼女だけはSSのイメージと本人が完全に一致している。
妄想癖があり、男性に疎い。どこで知ったのやら同人が大好きでお酒に弱いのもそのままだ。
P「小鳥さんかぁ……」
充実した太ももに映える黒いストッキング。
取り立てて何もしてないのに整ったプロポーション。
口元のホクロがセクシーだ。
P「違う違う」
後頭部を平手でたたいた。
P「そうだな……、『嫉妬』でいくか」
子供っぽいところのある小鳥さんは、俺に好意を抱いているが自己評価の低さから言い出せず
他のアイドルに囲まれた俺に振り向いてもらおうと可愛らしく嫉妬するのだ。
あまりに都合の良い妄想に鼻息が漏れた。
だけどこれでいい。こういう「if」がSSの醍醐味なのだ。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:52:55.70 ID:hP2u2T800
ふむ
21 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:53:34.96 ID:4uW9Ft3k0
P「さて、と」
一レス目を埋めてハタと気がついた。
P「しまった。スレタイはどうしようか……」
スレ立て未経験の俺は忍法帖レベルこそ40だが、タイトルの事をすっかり失念していた。
タイトルは大事だ。
どんなに面白いSSでもスレタイで回避されることは良くある。
俺もまとめサイトで初めて存在を知って悔しい思いをしたことがあるのだ。
P「わかりやすく……、それでいて気を引くような……」
うむむむ、と唸った。
存外難しい。
溶けた氷が冷たく音を立てた。
もうすぐ4時になろうとしていた。
※スレタイ候補オナシャス
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:55:15.65 ID:TCakdv9Q0
小鳥「プロデューサーさんがモテすぎて生きるのが辛い」
23 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 03:57:02.43 ID:6iyFZws80
小鳥「私のプロデューサーがこんなにハーレムなわけがない」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:02:56.34 ID:nRL8VAUl0
小鳥(やだ、パンツ履き忘れて来ちゃった…)
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:03:02.82 ID:4uW9Ft3k0
P「『小鳥「プロデューサーさんがモテすぎて生きるのが辛い」』でいっか」
スレを立てる前に何度も文章を読み直す。
どうせ即興だから誤字脱字やおかしな部分は出て当然なのに、変なところにこだわった。
鼓動が止まらない。
自分のSSを晒すのがこんなに緊張するだなんて思わなかった。
普段書きまくってる人たちは毎回こんな思いをしているのだろうか?
「SS」とは何の関係もないことを考えながら、目を閉じて俺はクリックした。
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:06:44.46 ID:4uW9Ft3k0
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:16:38.08 ID:4uW9Ft3k0
2レス目を四苦八苦しながら書き込むとレスがついていた。
P「うぐ……」
「つまんね」とだけ書かれたレスが俺の豆腐を砕こうとする。
しかし数々のSSを読んできた俺は意外と平気だった。
見なかったことにして3レス目に取り掛かる。
P「うーん……」
小鳥さんは自分の年齢を気にしているのだが、2レス連続で書いたので少々くどかったかもしれない。
ここは何か事件を起こすべきだな。
俺は適当に考えた。
P「そうだなぁ……。俺がぽろっと女性のタイプを漏らして、小鳥さんがそれに合わせてくる、というのはどうだろうか?」
無理のない展開を構築しようとして、何度も指をつっかえさせた。
難しい。
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:31:29.29 ID:4uW9Ft3k0
「あれ?ぴよちゃん眼鏡もってなかったっけ?」
俺はそのレスを見て顔をしかめた。
あまりかけてる姿を見なかったので失念していたが、そう言えばたまに着用していたような気がする。
P「うぬぬぬ……」
唸りながら頭をかいた。
尻もかいた。
屁をこいた。
P「スルースルー」
いまさら路線変更など出来るはずもなく、俺は正面から強行突破を図ることにした。
指は早くも疲れて細かく痙攣していた。
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:40:51.18 ID:4uW9Ft3k0
P「うーん……」
大きく腕を伸ばして背伸びの運動。
肺の空気をすべて吐き出して俺は一息ついた。
レスを見ると、「お前は何を言っているんだ」とAAつきでおっさんが呆れていた。
俺も呆れていた。
P「即興って難しいなぁ……」
小鳥さんの思考をトレースすることもさりながら、『プロデューサー』の性癖もよく分からない。
ブッカケ用のメガネを職場にかけてくる女性なんて……なんて……。
P「あり、かも」
自分のバカさ加減を再確認してトイレにたった。
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:46:26.78 ID:4uW9Ft3k0
手を洗いながら戻ると、SSの行き先を黙考した。
『プロデューサー』は小鳥さんのずれたアピールにやられて食事だか飲みにだか誘っている。
しかしジャンルは微エロ。
飲食店で微エロはちょっと無理があるような。
随分前に借りたAVでは酔った勢いで座敷でSEXしてたけど、どう贔屓目に見てもガチエロだ。
P「うーん……うーん……」
この時間帯は余裕で3,40分はdat落ちしないはずだ。
俺は最終書き込み時間を確認して、どうやって微エロにふさわしいシチュエーションにするか考えた。
37 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 04:52:09.24 ID:4uW9Ft3k0
そもそも微エロとはなんぞや。
俺は変な方向に思考を飛ばしていた。
連想される言葉は、着エロ、水着、着替え中のアクシデント、混浴……。
直接的行為に及ばないエロはすべて微エロと言って差し支えないのではないだろうか?
と、なると……。
酔っ払った小鳥さん→暑いから脱いじゃうわ~→ぐへへへ。
これでいいのではないだろうか?
気分よくタイピングしようとして失態に気がつき舌打ちをした。
小鳥さんの一人称でどうやって小鳥さんのエロさをアピールするんだよ!
安易に書き始めてはいけないと強く思った。
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 05:13:03.42 ID:4uW9Ft3k0
少々反則だが、一人称を『プロデューサー』に変えてみた。
小鳥さんがお酒に弱いのは本当だから問題ないよね?
誰にしたのかそんな言い訳をしておれは続きを書き込んだ。
外は明るく、いつの間にか時計は5時を回っていた。
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 05:25:34.78 ID:4uW9Ft3k0
P「あ、いけね」
持ち上げたタバコは空っぽだった。
書き始めて気がついたのだがSSを書いていると普段より消費が激しい。
夢中になって書いていると、いつの間にか根元まで燃え尽きたタバコがコロコロと灰皿に生まれていた。
P「んー……」
思ったよりも好意的に受け入れられているようで、当座はdat落ちの危険性は無さそうだ。
簡単に身なりを整えて、財布だけをポケットに。
席を外しまs、とまで書いてやっぱり消した。
落ちたと言うことは需要がないってことなのだ。
誰にも何も言わずに俺はコンビニへ向かった。
ちなみに往復10分である。
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 05:47:56.82 ID:4uW9Ft3k0
予想よりもコミカルな展開に鼻息が漏れた。
「これが即興の醍醐味なんだな」、と初心者の癖に悟ったようなことを呟く。
勢いで書いていると当初の―――稚拙すぎてそう呼ぶのは面映いが―――プロットとは随分とかけ離れていく。
新品のタバコを開封して一本咥えると開いた窓に向かって大きく吹きかけた。
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 06:06:46.73 ID:4uW9Ft3k0
ラストにおしまいと書いて推敲もそこそこに書き込みをする。
深い満足感と疲労に包まれて俺はぐったりと脱力した。
途中のエピソードはほぼノンフィクションだったりする。
P「あの時……、もうちょっと勇気を出せば何か違ったのかな?」
答えは出ないまま紫煙は朝日に溶けた。
おしまい
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 06:08:08.78 ID:4uW9Ft3k0
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 06:10:58.52 ID:OU767Yz40
おもしろい試みですな
乙でした
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 06:11:06.67 ID:aKici6CJ0
向こうの続きを書くと許されるかも知れないなぁ(チラッチラッ
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 06:11:57.84 ID:7j/ij25zP
乙
56 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/07/25(水) 06:18:52.51 ID:S+cpEkoH0
乙
転載元
P「眠れないしSSでも書こうかな」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1343153913/
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