1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:12:16.51 ID:4+7jWFIl0
・男子高校生の日常のSS
・ヤナギン、羽原、唐沢のお話
・でも唐沢は空気
・基本はヤナギンの一人称視点
こんな内容でよければお付き合い頼む。
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:12:46.07 ID:pcB1boaH0
うっさいぼけ
4 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:14:11.73 ID:4+7jWFIl0
私には、幼いころから2人の親友がいる。
一人はとしゆき。
背は小さくて、少し頼りないように見えるけど、困っている人を見れば手を差し伸べずにはいられない、誰よりも優しい男の子。
一人は羽原。
我儘で、乱暴で、喧嘩では男子が束になっても敵わないけど、でも笑顔がとてもかわいい女の子。
私達は家が近いこともあって、いつも一緒に遊んでいた。
何をするにも一緒だった。
ずっと、それが続くんだと思っていた。
5 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:16:01.44 ID:4+7jWFIl0
やがて、私たちも小学校に入学した。
としゆきには、私達以外にも友達がたくさんできた。
彼は優しいし、気配りもできるし、さらには頭もいい、いわゆる「スゴイやつ」ということで、男女問わず人気者だった。
私にも友達はたくさんできた。
私は元々の性格もあってか、男子とも気が合うことが多く、専ら男子たちと遊んでいた。
でも、羽原は…
羽原には、私達以外の友達は、できなかった。
私やとしゆきが遊びに誘えば笑顔を見せたが、そうでない時はいつも教室の隅で、一人で佇んでいた。
8 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:18:50.42 ID:4+7jWFIl0
勿論、羽原も最初からそうだったわけではなかった。
はじめのうちは、クラスメイトにもよく話しかけられたり、遊びに誘われたりしていた。
でも、同じ子には、二度は誘われることは無かった。
それが続き、いつしか彼女は、私たち以外の子と遊ぶことは無くなった。
何度か「どうして?」。と尋ねたことはあった。
だが、帰ってくる答えはみんな似たようなものだった。
「羽原のわがままには付き合いきれない。」
「あんな乱暴者とは、遊びたくない。」
親友をこうして悪く言われるというのは、とても辛いことだったし、腹立たしかった。
羽原が我儘で、乱暴なのは、否定できない事実だ。
でも、それだけじゃない。彼女にだっていいところはある。
そんな一つの側面だけを見て彼女を判断しないでほしい。
9 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:21:33.61 ID:4+7jWFIl0
私は、私たちの友達グループに、羽原も混ぜてほしいと頼んだ。
はじめは皆乗り気ではなかったが、私が説得したおかげで、なんとか了承してくれた。
やった。これならいける。
羽原がなにかしでかしても、私が仲裁に入れば、摩擦も減らせるだろう。
羽原も、私がいれば少しは態度も軟化するだろう。
そうして遊んでいるうちに、いずれ皆も羽原のいいところを理解してくれる。
大丈夫、きっとうまくいく。きっと皆仲良くなれる。
そんな私の期待は、最悪の形で裏切られることになった。
10 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:24:22.63 ID:XulHFCBp0
アークデーモン
11 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:25:10.15 ID:4+7jWFIl0
きっかけは、とても些細なことだった。
羽原と、グループの男子が、遊び道具の使用を巡って口論になったことだった。
これはまずい。
私が止めようとするより早く、羽原が彼の顔を思い切り殴りつけた。
更に倒れた彼にのしかかり、彼をたこ殴りにした。
「止めろ!!!」
「何してんだお前!!!!!」
すぐさま数人の男子が止めに入る。しかし羽原は、すぐさま身を翻し、今度は彼らに殴りかかった。
そこから先は、羽原と男子たちによる乱闘が始まった。
いや、あれは乱闘ですらなかった。
羽原による、一方的な蹂躙であった。
狂気の笑みを浮かべ、拳を振るう羽原。
逃げ惑い、泣き叫び、いたぶられる男子たち。
「止めろ羽原!止めてくれ!!!」
私は必死になって羽原に掴みかかり叫ぶ。しかし羽原は私の声が聞こえていないのか、私を抱えたまま暴れ続けた。
13 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:26:47.75 ID:4+7jWFIl0
しばらくして、立っていたのは、私と、羽原だけだった。
「は、羽原…」
「ねぇヤナギン、私疲れちゃった。帰ろ。」
「あんた、何言って…」
「私、こいつら嫌い。いじわる言うもん。こんなやつらいらない。私はヤナギンと、としゆき君がいてくれればいいもん。」
「………」
「だから、ね。こんなやつらほっといて、行こ。」
そう言って羽原は笑顔を浮かべた。先ほど見せた狂気の笑みではなく、見る者を魅了する、愛らしい笑顔であった。
15 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:29:50.66 ID:4+7jWFIl0
あの暴行事件の後、私は羽原の代わりに方々に謝罪をして回った。
羽原に巻き込まれた友人たちに、彼らの親に、私はとにかく必死で謝った。
結果、私自身と、羽原の暴行のみについては許されたが、周囲の羽原への態度は、一層厳しいものになった。
羽原は、あの事件の後も相変わらずの態度であった。おそらく、自分が悪いことをしたなどとは、かけらも思っていないのであろう。
そんな羽原の態度は、多くの人の反感を買った。喧嘩を売られることも増えた。
羽原は売られた喧嘩は全て買った。そしてその全てを叩きのめしていった。
いつの間にか、羽原に喧嘩を売る者は、誰もいなくなった。
いつの間にか、羽原に話しかける者すら、私達以外誰もいなくなった。
そして、今度は羽原が、周囲に暴力を振りまき始めた。
目を合わせれば睨まれる、少しでも逆らえば殴られる。
皆羽原の姿を見れば怯え、名を聞けば震え上がる。
いつしか羽原は、周囲からこう呼ばれるようになった。
「谷田東小のアークデーモン」と。
16 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:33:24.22 ID:4+7jWFIl0
「ねぇヤナギン、今日の放課後、また三人で遊ぼう。」
羽原がいつものように、私を誘ってきた。私の周りにいた友達は、我関せずとばかりに去っていった。
羽原はそんなことは気にもとめていないのか、ニコニコしている。
彼女は、自分が周りにどう思われているか、分かっているのだろうか。
私ととしゆきとしか話さない、遊ばない。それがどれほど異常なことなのか、分かっているのだろうか。
17 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:35:59.67 ID:jKBGVm6KO
支援
18 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:36:49.37 ID:4+7jWFIl0
このままでは、羽原のためにならない。
このままでは、羽原はこれから先、本当に誰にも相手にされなくなる。
もし私達まで離れてしまえば、本当に独りぼっちだ。
誰かが羽原を叱ってやらなくてはならない。誰かが羽原を正してやらなくてはならない。
では誰が。
親はあてにならない。子供同士の争いに親が介入しても根本的な解決にはならない。
教師もあてにならない。羽原を恐れて見て見ぬふりを決め込む奴らに何を期待できるのか。
私と、としゆきしかいないじゃないか。
私達が、羽原を正してやらなければ。
羽原は、ひょっとしたら怒るかもしれない。私達を嫌いになるかもしれない。
それでも、誰かが言わなければいけないことだ。
それができるのが私達しかいないのであれば、私はそれをためらわない。
「……羽原。少し話がある。放課後、いつもの空き地に来い。としゆきは私が誘っておく。」
「……?うん、分かった。でもお話が終わったら遊ぼう。」
「分かった。じゃあ、また後でな。」
私は、羽原と別れてすぐ、としゆきに声をかけた。
としゆきも、私と同じ気持ちだったようで、快く応じてくれた。
19 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:39:56.65 ID:4+7jWFIl0
放課後、私達はいつも遊んでいる空き地に集まっていた。
「ヤナギン、お話って何?早く終わらせて遊ぼう。」
「羽原。あんた自分が周りに何て呼ばれているか知っているか。」
「あーくでーもん…だっけ?なんかかわいくないあだ名だよね。」
「何でそう呼ばれているか、知っているか。」
「分かんない。」
私の質問にキョトンとして答える羽原。やはり分かっていないようだ。
「簡単なことだ。お前が我儘な乱暴者だからだ。」
「ふーん。」
羽原はどうでもいいといった風に、生返事を返してくる。
20 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:41:46.09 ID:4+7jWFIl0
次に口を開いたのはとしゆきだった。
「羽原。最近、俺達以外の奴と遊んでないだろ。いや、それどころか俺たち以外の奴とろくに会話もしていないだろ。」
「うん。」
「以前、柳の友達グループと遊んで、喧嘩になったのは覚えているか?」
「うん。だってあいつらいじわる言うんだもん。」
「あいつら皆言ってたぞ。羽原は怖いって。もう一緒に遊びたくないって。あいつらだけじゃない。皆同じことを言ってるぞ。」
「そう。別にいいよ。私もあいつら嫌いだし。私はヤナギンと、としゆき君がいればいいから。」
「言い訳がないだろう!!!」
22 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:45:31.72 ID:4+7jWFIl0
「……ヤナギン?」
「柳……」
私は思わず叫んでいた。2人とも驚いた様子で私を見る。
「いじわるを言われた!?それはあんたの我儘に反論したんだ!嫌いだから殴った!?自分が気に入らなければすぐ暴力か!?いい加減にしろ!!!!!!」
「私ととしゆきさえいればいい!?これから先もずっとそうしていくつもりか!?もし私もとしゆきも一緒に居られなくなったらどうするんだ!?甘えてんじゃねぇ!それじゃあ、あんたはいつか…」
「おい柳、落ち着け…」
もう駄目だ。感情が溢れだす。次の言葉が止められない。
「いつか、本当に独りぼっちになっちまうぞ!!!!!」
24 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:49:18.29 ID:4+7jWFIl0
言ってしまった。言ってはならないことを。こんなつもりじゃなかったのに。
「ヤナギン…」
「どうして、そんないじわる言うの?ヤナギンも、私のこと嫌いになったの???ヤナギンも、私と遊ぶの、もう、嫌なの……!!!!!!??????」
「ハッ…!ち、違う!!!そういうことじゃ…!!!」
「うるさい!!!!!」
「うっ!!!」
ドンッ!!!
叫ぶより早く、羽原は私を突き飛ばした。私はバランスを崩し、尻もちをつく。
「待て、羽原!落ちつ…「うるさいうるさいうるさい!!!!!!ヤナギンのいじわる!!!いじわる言うヤナギンなんか嫌い!!!!!!ヤナギンなんか…」
25 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:51:05.89 ID:4+7jWFIl0
「ヤナギンなんか、大っ嫌い!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
羽原は側に落ちていた角材を拾い上げ、私に振りおろしてきた。
「っ……!!!」
避ける暇もない。ガードも間に合わない。私は固く目を瞑った。
ガスッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
26 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:54:34.74 ID:4+7jWFIl0
…?どうなっている。いつまでたっても衝撃は訪れない。
私はおそるおそる目を開いた。そこに映ったのは…
「………としゆき君?」
血濡れの角材を握りしめたまま呆然としている羽原と、
「う、うあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
絶叫を上げながら額を押さえているとしゆきの姿であった。
27 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 01:58:26.90 ID:4+7jWFIl0
「と、としゆきぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うわあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
どうやらあの瞬間、としゆきは私を庇って間に割り込み、そのまま羽原の一撃をまともに受けたのだろう。
かなり傷は深いのか、としゆきの額からはものすごい量の血があふれている。
「………………くっ!!!!!!!!!!」カラン
「ま、待て、羽原!!!!!!!」
羽原は角材を捨て、背を向けて走り出した。
「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
駄目だ。今は羽原のことより、としゆきを病院に連れて行かなくては。
あの後、私はとしゆきの両親に連絡し、すぐに病院に運んでもらった。
としゆきの治療を行った医者が、としゆきの怪我について私達に説明していた。
何針縫ったとか、傷がどのくらい深いとか、淡々と説明していたが、私の耳には入らなかった。
かろうじて理解できたことは2つ。
1つは、としゆきの傷はかなり深く、完治しても傷痕は一生残るだろうということ。
もう1つは、としゆきの心に、羽原への恐怖が深く刻み込まれてしまったということ。
それはつまり、もう羽原ととしゆきは、以前の様な関係には、戻れないかも知れないということだった。
そしてそれは、私も同じであった。
28 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:01:38.81 ID:4+7jWFIl0
としゆきの傷は、しばらくして完治した。しかし彼の額には、大きな傷跡が痛々しく残ったままだった。
最早としゆきは、羽原の名前が出るだけで取り乱し、傷について触れるだけで吐き出してしまうほどであった。
いつからか、彼は常に帽子を深くかぶるようになった。まるで、羽原に刻みつけられた恐怖から目を逸らすかのように。
羽原は、としゆきの一件以来、更に荒れた。
としゆきにも避けられ、私のことも避けるようになった羽原は、その苛立ちを周りに一層振りまき、より一層周囲から恐れられるようになってしまった。
もっとも恐れていたことが、あってはいけないことが、とうとう起こってしまった。あろうことか、私がその引き金を引いてしまった。
その結果、としゆきは心と体に消えない傷を負い、羽原は、本当に独りぼっちになってしまった。
もう羽原を正すことはできないのか。もう私達は、昔のようには戻れないのか。
「ごめんなさい、としゆき……ごめんなさい、羽原…………」
後悔の思いが、消えることなく押し寄せてくる。後悔など、いくらしたところで無駄なのに。
29 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:04:00.28 ID:0IrJ4SW60
ヤナギン・・・
30 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:04:59.52 ID:4+7jWFIl0
ある日のこと。
羽原はいつものように周囲に暴力を振りまいていた。標的にされた子は泣きながら視線で助けを求めるが、皆自分に矛先が向くのが嫌なのだろう、見て見ぬふりをしている。教師すら例外ではない。ふと、私と羽原の目が合ったが、羽原はすぐに目を逸らし、再び続きを始めた。
「またやってるよ、アークデーモン。」
「もうあいつに怯えながら生活するのは嫌だよ…」
クラスメイト達の陰口が聞こえる。悲しいことに、もう聞き慣れてしまった。
「そういえばさ、最近アークデーモン討伐隊が結成されたらしいな。」
「あー聞いた。なんでも近隣の小学校の最強メンバーが集まっているらしいじゃん。」
「そいつらなら、もしかしてアークデーモンを倒せるかな…」
「そう願いたいよな、でも相手はあのアークデーモンだしな……」
討伐隊か、羽原もとうとうそこまで敵視されて…
…待て、今あいつらは何て言った。討伐隊?羽原を倒すための?
これは…いや、迷っている場合じゃない。
「あ、あんた達!!!」
「うおっ!ど、どうした、柳!?」
「今の話、詳しく聞かせてくれないか?」
31 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:09:42.92 ID:4+7jWFIl0
「ハァ、ハァ……」
放課後。
私は討伐隊の話を聞き、彼らが集会場としているという神社にやってきた。
階段を上り、境内の前に行くと、少年たちが話し込んでいた。
「!!!誰だ!?」
仮面を被った少年に話しかけられる。彼は確か、ラバーシューター。噂によると、かなりの凄腕だったはずだ。
彼の他に集まったメンバーを見る。皆この近隣では音に聞こえたほどの猛者ばかりであった。どうやら彼らが討伐隊と見て間違いなさそうだ。
33 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:11:18.82 ID:4+7jWFIl0
「おい、あいつ…谷田東小の柳じゃ……?」
「柳!?アークデーモンの親友の!?」
「ああ、確か空手をやっているって…」
どうやら討伐隊の中に、私のことを知っている奴がいるようだ。
「…柳、でいいのか?」
ラバーシューターの男が、警戒しながら問いかけてくる。
「ああ。あんた達がアークデーモン討伐隊か?」
「…その通りだが、ここに何の用だ?」
私は一呼吸置き、彼らに頼み込んだ。
「私を…討伐隊のメンバーに加えてほしい。」
34 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:12:32.74 ID:iEDrZzdEO
俺の探し求めた世界がここにあった……
35 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:16:25.67 ID:4+7jWFIl0
討伐隊は、私の加入を認めてくれた。
それから、私達は日夜、羽原を倒すための会議を開いた。私は羽原の情報を知っている限り彼らに提供した。
そうして、作戦を立てていった。
そして、ついにその日が近づいてきた。
「羽原。ちょっと話がある。」
「ヤナギン…」
教室で羽原を呼び止める。思えば話しかけるのも久しぶりかもしれない。
羽原は、気まずそうな顔をしていた。
36 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:20:57.56 ID:4+7jWFIl0
「これを読め。」
そう言って私は、一通の手紙を渡した。討伐隊から彼女に宛てた、果し状である。
「………(ペラッ)」
羽原は、私から果し状を受け取ると、その場で読み始めた。
果し状には、羽原の悪行への糾弾、討伐隊結成の経緯、宣戦布告の意思表示、決闘の申し込みと場所,日時の指定、そして討伐隊全員の署名が綴られている。
「………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
始めは愉快そうに笑みを浮かべながら読んでいた羽原が、突然顔色を変え、驚いた様子で私の方を向いた。おそらく署名の中に私の名前を見つけたのだろう。
討伐隊の署名は全て直筆だ。羽原は『私の名前が私の字で書かれている』ことに気付いたのだろう。
「ヤナギン…」
「私は確かに渡したぞ。くれぐれも遅れるなよ、『アークデーモン』。」
私は敢えてアークデーモンという呼び名を使った。お互いの立場を分からせるために。
「ッ!!!」
羽原は一瞬、驚いたような、悲しそうな顔をしたが、
「…分かった。」
すぐにそれは消え、狂気の笑みを浮かべ、そう言った。
もう後戻りは出来ない。待っていろ羽原。
38 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:25:08.85 ID:4+7jWFIl0
決闘当日。私達は指定の場所に既に集まっていた。羽原はまだ来ていないようだ。
「皆。分かっているとは思うが、奴に逃亡、降参、戦意喪失はありえない。あいつに勝つ方法は一つ。戦闘不能にすることだけだ。」
「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」
「そろそろ約束の時刻だな……」
ラバーシューター…修一が時計を見ながら呟く。
「来たぞ!アークデーモンだ!!!」
39 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:29:00.61 ID:4+7jWFIl0
討伐隊の一人が叫ぶ。
程なくして、羽原が私達の前に現れた。
羽原がこちらを見つめる。討伐隊の全員に緊張が走る。
「………(ニヤッ)」
羽原が狂気の笑みを浮かべ、手にしていた角材をへし折り、
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
討伐隊が一斉に鬨の声を上げ、
戦いが、始まった。
41 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:29:54.86 ID:jKBGVm6KO
結局ラバーシューターさんの正体はヨシタケじゃないのか
42 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:30:19.00 ID:8LQySYG0O
天銀かと思った
43 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:33:11.70 ID:4+7jWFIl0
あとの事は、よく覚えていない。
「…柳、しっかりしろ柳。」
気が付けば私は、地面に倒れていた。修一が、心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。
彼も全身ボロボロだった。いつも被っている仮面は壊れ、覗いた口元からは地が滲んでいた。
ひょっとすると、彼もついさっきまで気絶していたのかもしれない。
「……!修一、や、奴は…?」
私の問いかけに、修一は無言で後ろを指さした。
「!?」
そこには、討伐隊のメンバー全員が倒れていた。
「ぜ、全滅…!!!」
なんてことだ。また私は、羽原を止められなかったのか。
だが修一は、ニコリと口元に笑みを浮かべ、
「よく見ろ」
「相打ちだ」
地面に大の字に倒れ込んだ、羽原を指した。
44 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:38:07.03 ID:4+7jWFIl0
やった、ついにやった!!!
私達は倒れている討伐隊を次々に起こしていった。
皆、次々に起き、勝鬨の声を上げていった。
だが、まだこれで終わりじゃない。むしろここからが本番だ。
しばらくして、羽原も気が付き、身を起こそうとする。
「う、うーん…」
「起きたな、アークデーモン。」
「私は……?くっ!!!!!」
目を覚ました羽原は、身を起こし、素早く立ち上がろうとした。
しかし、すでに体力は尽きていたのか、そのまま尻もちをついた。。
「いたっ!!!」
「そこまでだ、アークデーモン。」
45 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:41:25.89 ID:4+7jWFIl0
それでもなお立ち上がり、戦おうとする羽原を、討伐隊が取り囲み、威圧するように言い放った。
「アークデーモン、この戦い、俺達の勝ちだ。」
「!!!!!!」
修一が勝利宣言をする。羽原はその言葉に己の敗北を悟ったのか、抵抗を止め、座り込んだまま俯いた。
「私の…負け……」
「そうだ。だが、これで終わりじゃない。お前がまた悪行を重ねるのなら、俺達はそのたびに集まり、お前の前に立ちはだかってやる。よく覚えておけ。」
「……もう……どうでもいい……としゆき君も…離れて行っちゃった……ヤナギンも…敵になっちゃった……みんな、敵……私、ほんとに独りぼっち……」
羽原はもはや修一の声が聞こえていないのか、うわ言の様に何かを呟いていた。
47 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:44:59.68 ID:4+7jWFIl0
「さて、ここからはお前の役目だ、柳。」
修一が、私のほうを向いて言った。
「ああ、ありがとう、修一。」
「羽原、立てるか?」討伐隊の輪の中に入り、私は羽原に手を差し出した。
「う、うん…」羽原は最初戸惑っていたようだが、私の手を掴んで立ち上がった。
「羽原、もう今日は遅い。一緒に帰ろう。」
気が付けばもう日は沈み、辺りは暗くなり始めていた。
「明日は一緒に登校しよう。給食も、一緒に食べよう。そして、としゆきに謝って、またいつかのように、3人で遊ぼう。」
私は羽原に語りかける。できる限り優しく、静かに。
「ねぇヤナギン…」
「何だ?」
「どうして、そんな優しい言葉をかけてくれるの?ヤナギンは、私の敵になったんでしょう?ヤナギンは、私のこと、嫌いになったんでしょう?」
羽原が分からないといったふうに、私に問いかけてくる。
「何を言っているんだ。私は、あんたを敵だとか、嫌いだとか、そんな風に思ったことは一度もないよ。」
48 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:47:06.49 ID:4+7jWFIl0
「だって、あんたは私の、親友じゃないか。」
49 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:49:46.48 ID:4+7jWFIl0
「…なら、どうして私を倒すなんて!!!」
「だって、あんたはこれまで、まともに会話もできなかったし、しようともしなかったじゃないか。こうでもしないと、落ち着いて話せなかったんだよ。」
「うっ…でも…」
「アークデーモン、いや、羽原。口を挟むようで悪いが、いいか。」
修一が羽原に問いかける。
「何?」
「お前は、柳が何で俺達討伐隊に加えて欲しいと言ってきたと思う?」
「……?」
「あの時柳はこう言ったんだ。」
50 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:52:32.27 ID:4+7jWFIl0
=====================================================================
「私を…討伐隊のメンバーに加えてほしい。」
ざわ…ざわ…
「どういうことだ、アークデーモンの親友が討伐隊に入りたい?」
「仲違いか…?」
「いや、油断させて俺達を後ろからやるつもりじゃ……」
討伐隊がにわかにざわめきだす。
そんな中、私に話しかけてきたのは、ラバーシューターの男だった。
「柳、いくつか聞きたいんだが。」
「何だ。できる限りは答えるぞ。」
「では1つ目。お前はアークデーモンの親友だそうだが、それは本当か?」
「ああ、幼いころからの、一番の親友だ。」
「そうか。では2つ目、今日お前がここに来た事を、アークデーモンは知っているのか?」
「知らないはずだ。少なくとも今日ここへ来たのは私個人の意思だ。」
「分かった、では最後の質問だ。なぜアークデーモンの親友であるお前が討伐隊へ入りたい?」
私は答えた。
「私の大事な親友のために」
51 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:55:11.77 ID:4+7jWFIl0
「どういうことだ?」
ラバーシューターは少々戸惑ったように問いかけてきた。
私は彼らに話した。
私達のもう一人の親友のこと。
彼が羽原に負わされた傷のこと。
壊れてしまった私達の関係のこと。
討伐隊は、しばし私の話に聞き入っていたが、やがて一人が口を開いた。
「……つまりお前は、アークデーモンに傷を負わされた親友への贖罪のために、あいつと戦うつもりなのか?」
「勿論それもある。でも、それだけじゃない。」
「……………」
52 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:57:01.12 ID:jKBGVm6KO
こんないい子がいずれ友人に木の棒を突っ込もうとするようになるなんて……
53 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 02:58:04.13 ID:4+7jWFIl0
「今の羽原は本当の独りぼっちだ。
理性を無くして、独りぼっちで暴れまわっている。私がそうさせてしまった。
このままでは、あいつはもっと罪を重ねてしまう。
あいつは2度と、私達と仲直りできなくなってしまう。
あいつは…ずっと独りぼっちのままになってしまう!!!」
「柳…」
「私は今度こそ羽原を止めなければいけない!
そして、あいつに謝らせなければいけない!としゆきだけじゃない、あんた達にも、他の沢山の人達にも!
もう2度と、あいつを独りぼっちにしないために!
また、3人一緒に笑いあえるようになるために!
だが私だけではそれができない!でも、あんた達となら、それができるかもしれない!だから…」
「だから頼む!私を討伐隊に入れて欲しい!共に戦わせて欲しい!!そして、共にあいつを…羽原を救って欲しい!!!」
私は彼らに深々と頭を下げた。大好きな親友のために。
55 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:01:14.46 ID:4+7jWFIl0
「……皆、どうだ?俺は柳を加えるのに賛成だが、皆はどう思う?」
ラバーシューターが討伐隊のメンバーに問いかけた。
……反対する者は、誰もいなかった。
「だ、そうだ。じゃあ、よろしくな。柳。」
「ああ、ありがとう。こちらこそよろしく。」
私達は、固く握手を交わした。
「しかし、驚いたな……まさかアークデーモンを救いたいなんて奴が来るとは思わなかったよ。
俺達はアークデーモンを許せない、倒さなくちゃならないって集まった連中なのに。」
「やはり、迷惑だったか?」
「いや、そんな考えもあったんだなって思って。何だか毒気を抜かれたようでな。」
ラバーシューターは、そう言って頭を掻いた。仮面の下の表情はうかがいしれないが、きっと笑顔を浮かべているのだろう。
「よし、じゃあ遅くなったが、今日の作戦会議だ。柳、お前も参加しろ。」
「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」
========================================
58 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:07:44.18 ID:4+7jWFIl0
「………そんな………」
「柳がお前と戦ったのは、他の誰のためでもない。
としゆきのために、そしてお前のために。
自分の『親友』のために、お前と戦ったんだ。」
「!!!…ヤナギン……!!!」
羽原が私の方を振り向く。もう今にも泣きそうだ。
「羽原、ごめんな。独りぼっちにさせてしまって。」
私は羽原を優しく抱きしめた。羽原はとうとう堪えきれなくなったのか、幼子の様に泣き出した。
「ヤナギン……ごめんなさい……」
「羽原。あんたは沢山の人に迷惑をかけた。
これから皆に沢山謝らないといけない。
もしかしたらそれでも許してもらえないかもしれない。
でも、大丈夫。私も一緒にいるから。
私も一緒に謝るから。
私はいつでもあんたの味方だから。」
「ううっ…ありがとう…ヤナギン……」
60 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:09:29.53 ID:4+7jWFIl0
この日を境に、アークデーモン羽原は、その凶暴性を徐々に失っていった。
そして私は、討伐隊から、彼女の監視を任されることになった。
もちろん、命じられずともそのつもりだったが。
もう二度と、アークデーモンが目覚めることの無いように。
もう二度と、羽原を独りにしないために。
61 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:12:33.04 ID:4+7jWFIl0
生島「で、その後としゆきにも謝ったんでしょ?どうだったの?」
たかひろ「まああの様子を見れば許されなかったのは分かるけど。」
唐沢「ペッ」
羽原「うっ…うっ…」
ヤナギン「いやーそれが次の日2人で謝罪に行ったまではよかったんだけど、
としゆきのやつ羽原の顔を見るなりその場で吐き出してねー。
もうゲロくせーし周りは騒ぐしでもう謝罪どころじゃなかったわ。」
生島「ギャハハ、なんかもう色々台無しじゃねーか。」ゲラゲラ
羽原「笑い事じゃないわよ、もう……」グスン
ヤナギン「しかしここまでとしゆきの怒りが根深いとはな…
なら羽原!こうなればお前のフラッチェボディでとしゆきに謝罪と言う名のご奉仕プr」
唐沢「お前はキモイな」
ヤナギン「( ゚д゚)」
生島「プッ」
おわり
62 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:15:41.98 ID:/7FdUW9F0
乙!
63 :
忍法帖【Lv=23,xxxPT】 :2012/03/19(月) 03:16:33.17 ID:kLl3IVxi0
乙( ^ω^)
64 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:23:49.76 ID:4+7jWFIl0
よっしゃー書ききったぜ!!!
男子高校生の日常のアニメがやってるのにSS少なくね?
⇒もっと誰か書いてくれればいいのに
⇒ならいっそ自分で書くか
ってな訳で経験も無いくせにSS書いた(今回は書きためてたけど)が、予想以上に楽しかったわ
それに支援って言葉がこんなに嬉しいとは思わんかったわ
こんな時間に俺のスレに付き合ってくれた奴ら、本当にありがとう、そしてお疲れ
あーもっとSS増えないかなー
薄い本も増えないかなー
65 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:26:15.61 ID:/KetVb4E0
乙
薄いのは冬にあったな
66 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/03/19(月) 03:34:27.55 ID:4fvnjyBk0
乙!読みやすかったぜ
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討伐隊のお面はラバーシューターじゃないんだよきっと
浅くキャラ設定だけ使って違和感出しまくるよりその方が面白くて良いよ
サイコパスなのに高い女子高校生力で普通に暮らしてるところだよ
その辺にあるバトル漫画のキチガイキャラとは質が違うよ
ラバーシューターは原作で沢山いたはず
んでヨシタケもその一人だった