1 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/31(土) 14:41:42.73 ID:2joTKOve0
今日も、いつものティータイムのはずだった。
しかし、今、唯の眼前には、机に直接山盛りにされた小麦粉が鎮座している。
唯だけではない。律、澪、梓の目の前にも白い塊がその存在感を誇示していた。
一瞬、この純白の粉末がアブない薬だったら末端価格でいくらぐらいかと妄想するが
幸か不幸か、これは一般家庭でもお目にかかるごく普通の麦の粉。
紅茶はおろか水すらない状況では、到底かき込むことも飲み下すこともできない。
第三者からみればシュールで笑いすら誘うであろう光景だが、
互いの顔すら視認できないほどに眼前にうず高く盛られた粉に立ちはだかられ、
紬以外の当事者たちの心は、たちまち不安と焦燥に蝕まれていく。
「………………………何だこりゃ?」
そして、ようやく口を開いた律に対し、紬は、冷ややかに言い放ったのである。
「“貧乏人はムギを食え”」
2 :
以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/31(土) 14:42:44.57 ID:2joTKOve0
豹変した紬の真意を誰も確かめられぬまま、いたずらに時は過ぎた。
西に傾く陽光の差し込む部室に、窓枠の影が長く伸びていく。
沈黙が支配する張りつめた空気の中、紬が一人飲むダージリンの香りだけが漂う。
朝靄のごとく部屋に充満する小麦粉の粉塵に、
窓からの日差しがあたかもチンダル現象のように美しい光の筋を作る。
梓は朦朧とし始めた意識の中、ふと思った。
これが本当に朝靄であればどれほど幻想的な景色だったろう。
まあ、この光景もある意味サイケデリックな幻覚を催すものではあるが。
さらに時は過ぎた。
梓の顎から滴った汗が、白富士の一角をうがち、崩れ落ちる。
ああ、大沢崩れもこうして形作られていったのか、と、内心独りごちる。
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